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特集 Work vol.11

藤沢産ブドウでのワイン造りが
障がい者の活躍の場を広げる

社会福祉法人 光友会

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藤沢産ブドウでのワイン造りが
障がい者の活躍の場を広げる

社会福祉法人 光友会は3年前から地元・藤沢産の新品種ブドウ「メイヴ」の栽培を開始。現在、ワインの試作がスタートしています。ワイン造りがどのような形で障がい者の就労支援につながっているのか、話を聞くことにしました。

ワイン造りのきっかけは散歩中の偶然の出会い

「お昼休みにね、理事長と一緒に近くを散歩していたんですよ。この辺りは緑も多くて気持ちいいですからね。そうしましたら何かやっている人がいて、何をしているんですかと話しかけたのが始まりです」

そう話してくれたのは光友会の業務執行理事、一杉好一さん。一杉さんたちが話しかけた相手こそ、藤沢産のブドウ、「メイヴ」を育て、普及活動をしている㈱ショーナンの田中利忠代表。メイヴを育てている農場での出会いでした。

「もともと当法人では10数年前から農業を始めていました」と教えてくれたのは、理事長の五十嵐紀子さん。かわうそ農園と名付けた3反の敷地で、野菜や米を作ってきたそうです。3年前、田中さんから譲り受けた10本の苗木からブドウ栽培を開始。3反のうち1反をワイン用ブドウ専用にして、2022年3月には第1圃場に200本の苗木を植樹しました。

昨年、新品種だと判明した藤沢産の「メイヴ」。寒暖や害虫に強く、育てやすい品種
昨年、新品種だと判明した藤沢産の「メイヴ」。寒暖や害虫に強く、育てやすい品種
200本を植えるため、200カ所に穴をあける。「結構な重労働でした」(一杉さん)
200本を植えるため、200カ所に穴をあける。「結構な重労働でした」(一杉さん)
国産ワインの名産地、山梨県から生産者を招き、誘引作業の指導を受けた
国産ワインの名産地、山梨県から生産者を招き、誘引作業の指導を受けた

ワイン造りを軸にして、障がい者の活躍の場が広がっていく

光友会では身体、知的、精神障がいのすべての障がい者を対象としたサービスを提供しています。利用者が働く場所として始めた農業、そしてワイン造りですが、今年は法人内に農福推進室を設置。ワイン造りの盛んな山梨県から指導者を迎えたり、無農薬・減農薬に詳しいNPO法人ふるさとイベント協議会の人たちに手伝ってもらったりと、活動の輪がどんどん広がってきました。

8月下旬に収穫したメイヴは現在県内のワイナリーに運ばれ、醸造の真っ最中。11月には飲める状態になる見込みで、「今年のブドウは糖度が高く、出来が非常にいい」と一杉さんは胸を張ります。

利用者の仕事も下草刈り、雨除けの傘かけ、収穫など、多岐にわたりますが、「この新規事業は施設の課題を解決する軸になると思っています」と五十嵐理事長。

施設の抱える課題とは、利用者の工賃アップに向けた事業力の強化。コロナ禍もあって悪化した業績を回復させる必要がありました。

ですが、ワイン造りが本格化すれば、既に手掛けているパン製造や野菜、米といった農産物と連携させて、ワインとともに楽しめるパンを開発したり、カフェレストランをオープンさせたりといった新規展開が望めます。

「実はメイヴの若葉を天ぷらにすると美味しいんです。ワインだけでなく、カフェレストランで季節限定のメニューとして楽しんでいただいたり、農産物を即売したり、いろんな展開ができると思うんですよ」と五十嵐理事長。

畑の一角にカフェレストランをオープンさせる計画は既に進行中で、今後数年の間にオープンを予定しているそうです。

もちろん、ワインを造るということは、ラベルやしおりを作るといった軽作業も発生するため、利用者の方々の仕事になります。

6~7月の実の様子。雨除けに紙の傘をかける作業も利用者の仕事の一つ
6~7月の実の様子。雨除けに紙の傘をかける作業も利用者の仕事の一つ
収穫したばかりのメイヴを手にした五十嵐理事長と一杉さん
収穫したばかりのメイヴを手にした五十嵐理事長と一杉さん
4~5月ごろにみられるメイヴの若葉。理事長自ら天ぷらにしたとのこと
4~5月ごろにみられるメイヴの若葉。理事長自ら天ぷらにしたとのこと
ブドウの枝は丈夫なため、リースの材料にピッタリ
ブドウの枝は丈夫なため、リースの材料にピッタリ

農作業を通して障がいがある利用者の表情に変化が

「ラベルには点字翻訳の技術が生かせますし、リースなどの新商品を作ることもできます」とブドウの枝で作ったリースを見せてくれたのは一杉さん。

「視覚障がいがあっても、こうした作業はできますし、当法人では他の障がいサービスのご利用者でどんな障がいがあっても、何らかの作業に参加してもらうようにしているんです」

例えば車いすの利用者にも、田んぼの際まで行ってバケツに入れた苗を植えたり、稲刈りもしてもらったりと、可能なやり方を工夫しているそうです。光友会では障がいがあっても農業に取り組める環境、体制が整っているため、「今年は新たに3名が農業をやりたいと施設にやってきました」と一杉さんは目を細めます。

「何よりも利用者さんたちの表情の変化が見て取れるんです。田植えや稲刈りなどの農作業をしている時、それまで見たことのないような笑顔を見せてくれたり、満足げな顔になったり。そんな表情の変化を見ると、こちらまで嬉しくなります」

ワイン造りを含めた10年の事業計画を立てている一杉さん
ワイン造りを含めた10年の事業計画を立てている一杉さん

耕作放棄地を有効活用し、地域活性化へ

また、かわうそ農園の周辺には近年、耕作放棄地が増えていることが問題となっていますが、「以前から農福連携でお世話になっている農業委員会に協力していただき、こうした荒廃農地を借りて、畑を広げていくことも考えています」

五十嵐理事長は言います。

「ワイン造りは施設利用者の活躍の場になり、また、地域活性化の一役を担うこともできます」

今年のブドウで作ったワインは、ワイン造りに携わってくれた関係者にミニボトルで進呈する予定だそうで、一般消費者のもとにワインがわたるのは来秋以降になりそう。その日を楽しみにしたいと思います。

「これからの展開が楽しみ」と話す五十嵐理事長
「これからの展開が楽しみ」と話す五十嵐理事長
取材先:
社会福祉法人 光友会
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