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一般社団法人あそびの庭

2025年 03月 24日

子どもも大人ものびのびと遊ぶ“誰でもどうぞ”の居場所

2025年 03月 24日
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大人も子どもも思い思いに過ごす「はらっぱベース」でのひととき


 二宮町の中心にはかつて東京大学が学びの場として活用していた3万7千㎡ほどの広大な果樹園跡地があります。閉園後、2010年に町が買い上げて整備し、現在は町民主体の協議会が中心となって「子どもとともに大人も楽しみ学べる場」というコンセプトに沿った多様な活動を展開しながら運営しています。
 のびのびと走り回れるはらっぱに、小さな畑、小型のキャンピングトレーラーが2台―。「みらいはらっぱ」と名付けられたその一角で2021年12月から始まったのが、子どもを真ん中にしたみんなの居場所「はらっぱベース」です。学校へ行っている子もそうでない子も、未就学の親子も、地域の人も「誰でもどうぞ」と週3日、月、水、金曜の朝10時から夕方4時までオープンしています。利用者は現在1日平均25人ほどでその半数が小中学生。二宮駅から徒歩圏内、広い駐車場も備えているため、周辺の大磯町や秦野市、小田原市などから訪れる人もいます。


閉塞感の中で気が付いた“あそび心”の大切さ

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子育て真っ最中のあそびの庭のメンバー


 運営するのは一般社団法人あそびの庭。「“あそび心”が広がる豊かな体験の場を創り出し、子どもも大人も自分らしく心豊かに生きられる、“遊び”に寛容な社会をつくること」を目指して2020年10月から活動しています。代表の渡辺優子さんは、誰もが不安を抱えながら家に閉じこもったコロナ禍を経験して、幸せのために大事なことは家族と笑い合えたり、心を許せる仲間がいたりすることだと感じたと言います。仲間と語らう中で、そのためのキーワードとして挙がったのが「遊び」です。子どもが五感を思い切り使って遊べる場や時間が減り、大人もまた、世間の目を気にしたり、誰かと比べられたりと息苦しさを感じることが多い昨今。未来を担う子どもたちが幸せに過ごすためには、まず大人が遊び心を持って穏やかに過ごすことが必要ではないか―。そんな思いから団体を発足しました。

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代表理事の渡辺優子さん


 キャンプやマルシェなどの単発イベントを開催していく中で次第に生まれたのは、「もっと日常に寄り添いたい」という思い。それまでの活動を通して「学校に行かない子や行きづらい子たちが日中足を運べる場所がない」という声を聞いていたこともあり、フリースクールとは違った居場所をつくろうと考えました。ちょうどそのころ整備がすすんでいたのが「みらいはらっぱ」です。町の中心でどの学区からも来やすいため、その場の管理者になった地元企業とも「こういう場所に子どもの居場所があったらいいよね」と思いが一致、居場所の開設と運営を担うことが決まりました。不登校の子たちの居場所を想定していましたが、「学校に行きづらい子のための場所と言われたら行きたくない」という子どもの声を受け、みんなの「はらっぱベース」が誕生しました。


そのままを受け入れてあたたかな眼差しで見守る


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豊かな自然に恵まれながらも、すぐ隣には住宅地。子ども一人でも行きやすい

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拠点のコンテナハウスには児童書や漫画、遊び道具などが置かれ、自由に使用可能

 「はらっぱベース」では木登りをしたり、ボール遊びをしたり、宿題をしたり、隣の敷地にでかけたり。広い場所なので大きな声を出すこともOKです。子育ての悩みを打ち明け合う大人の姿もあります。全力で自分を出し切るみんなの様子を、常時2人のスタッフが細かく手や口を出さずに見守ります。カリキュラムはなく唯一決まっているのは、お昼に持ち寄り野菜で作った汁物が提供されること。主食は各自持参して、みんなでお腹を満たす幸せな時間です。

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具がたっぷりの温かい汁物を提供。調理に参加する子も

活動を続ける中で「学校に行けない子がただいるだけの場所でいいのか」という思いが浮かんだこともあったそうですが、不登校の理由は十人十色。不安を抱えながら様々な情報を一生懸命集めて疲れ切っている保護者も多いことから、検討を重ねて今は「親も子も来やすく、安心できて心が元気になる場所でいよう」という結論になりました。毎月「親たちの会」も開かれます。「ここで悩みを話して心を軽くしたことで、親子の関係が回復したとか、大丈夫と思えるようになったとか、次の道筋が生まれてくるといいですね」と渡辺さんは話します。


遊びは学び、学びは遊び

 子どもの好奇心から始まった活動もあります。勉強したいという1人の子のために元塾講師のスタッフが開いたのは「寺子屋」です。今では小学生数人が集まり週1回、算数や英語などを学んでいます。ほかにも地域の人を講師に迎えて多彩な課外授業を行う「空飛ぶ教室」も人気。昨年初めて挑戦した「遠足」では、はらっぱベースの様子とは違う子どもの一面が見えたこともありました。「ここでは乱暴な行動をとるような子が、遠足では真っ先に仲間を気遣って思いやりがあったんです」と渡辺さん。遠足での経験はスタッフにとっても大きな気づきになったと言います。


「そんな時もあるよね」と子どもの気持ちに寄り添える町に

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電車に乗って初めて遠足へ

 活動3年目、一番の成果は、「学校との関係性ができてきたこと」と渡辺さんは話します。最初はチラシの配布さえ拒まれたこともあったそうですが、今では教育委員会と意見交換をしたり、ここに来ている生徒の担任の先生が様子を尋ねてきたりするほどに変化しました。一方で課題もあります。受益者負担0円の「はらっぱベース」。運営を資金面で支えているのがいくつかの助成金と、年会費3千円で現在120人ほどいる「あそび人」と呼ばれる活動サポーターの存在です。不要になった子ども服や本、新鮮な野菜などを自由に持ち帰れる「ぐるぐるコーナー」を設けて、その気持ちなどとして“ぱらりん”と呼ぶ寄付も募っていますが、捻出できるスタッフの時給は300円程度。ニーズとやりがいは感じるものの、安定的にスタッフを確保して居場所を開き続けるためには、労力に見合った報酬も必要不可欠で、そのための検討を重ねています。
 活動の最終目標は、登校状況に関わらず子どもたちがどこでも安心安全に過ごせる町にすることです。「『学校に行かないでこんなところで何してるの』と眉をひそめるのではなく、『そんな時もあるよね』と横に並ぶ地域の人でありたいということを、地域に伝えていきたいです。大人が変われば社会は変わる。そこは諦めたくないですね」。渡辺さんは力強く語ってくれました。

プロフィール

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団体名

一般社団法人あそびの庭

活動内容

ありのままの自分でいられる時間が、豊かな体験を通した「遊び」であるという考えのもと、2020年秋に任意団体として活動をスタート。みんなの居場所「はらっぱベース」の運営や、「空飛ぶ教室」などの好奇心を刺激する企画、「地元でキャンプ!」をはじめとした二宮町を楽しむ事業を展開。2021年2月に法人化し、遊びを通して寛容な社会、生きていることが幸せだと思える社会を創ることを目的に活動している。