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認定NPO法人フリースペースたまりば
「やってみたい」の心を大切に

2023年 03月 31日

誰もが尊重される居場所づくり

2023年 03月 31日
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1万㎡の広大な敷地

 JR南武線の津田山駅より徒歩5分のところにある「川崎市子ども夢パーク」。「子どもたち一人ひとりが大事にされなければならない」という「川崎市子どもの権利に関する条例」に基づいて、2003年7月に設置された施設です。1万㎡の広大な敷地には、大きな滑り台やどろんこ遊び、水遊びができるスペース、サイクリングロードにハンモックまであり、まさに子どもの秘密基地のような空間が広がっています。

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夢パーク内に設置されたフリースペースえん

 夢パークを管理・運営しているのは、「認定NPO法人フリースペースたまりば」です。同団体は、学校や家庭・地域の中に居場所を見出せない子どもや若者、その保護者とともに一人ひとりが安心して過ごせる居場所をつくることを掲げ、子どもや若者たちが集う学びの場を30年以上前から提供してきました。夢パークの運営では、設置前の準備委員会の段階から携わっており、子どもたちの居場所づくりに向け、川崎市や子ども委員を務めた子どもたち等と、繰り返し協議を交わし、開設後は、夢パーク内に設置された学校外での学び・育ちの場・フリースペース「えん」を運営してきました。2006年に夢パークへ指定管理者制度が導入されて以降は、公益財団法人川崎市生涯学習財団とともに夢パークの管理運営にあたっています。

子どもたちの自主性を尊重
失敗体験が人生の糧になる

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川崎市子ども夢パーク所長を務める友兼大輔さん

 川崎市子ども夢パーク所長を務める友兼大輔さんは「夢パークもえんも、子どもたちの自主性を尊重しています」と話します。それゆえ、夢パークの広大な敷地には子どもたちの発想一つで色々な遊びができる空間が広がっています。フリースペースえんでは、地元高津区や隣接する宮前区、多摩区の小学生を中心に、1日40人程が通っていますが、決められたカリキュラムは無く、子どもたち一人ひとりがその日に行うことを自ら決めなくてはなりません。スタッフは「これをしなさい」などの指示は決してしませんが、子どもたちが決めたことを実現するために全力でバックアップしています。友兼さんは「大人が子どもに『これをしなさい』ですと、子どもが失敗したときに指示をした大人のせいにしてしまい、失敗体験が子どもの成長に生かされません。子どもが自ら決め、成功したり、ときには失敗したりを繰り返すことで、経験が自身の糧となり、自ら考える力や失敗を乗り越える力が養われます」と説明します。

心が揺さぶられる体験
「本物に出会う」環境づくり

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出前講座の一場面



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KUJIROCK

 夢パークやえんの運営において、今力を入れていることの一つが、「本物に出会う」環境づくりです。友兼さんは「子どもが育ち、学び、成長していくためには、何か知識を伝えるということだけではなく、子ども自身が心を揺さぶられる体験や出会いが重要だと考えています。自分に興味があることを見つけ、懸命に学ぶ。様々な分野の本物と出会う機会をつくることが子どもたちの成長に重要だと考えました」と話します。そこで、夢パークでは、様々な分野の一線で活躍する講師の方をゲストに招いた講座を始めました。ダンス、演劇、アートといった表現講座が中心です。こうした講座では、友兼さん自身も忘れられない体験をしました。仮説実験授業のベテラン講師であり、90歳近い高齢になっても精力的に活動を続ける平林浩さんを招いた科学の出前講座での出来事でした。「学力とは何か」という話が上がり、平林さんの答えは「出会いをものにする力が学力」との返答。友兼さんは「自分が何かを面白いと思える感性や、面白いと思ったときに、それを自分のものにする力が学力というお話でしたので、本物と出会えるこの講座は、平林さんが話す『学力』に共通していることが嬉しかったです。そして続けていくことの必要性に確信が持てました」と話します。
 コロナウイルス感染症が世界的に猛威をふるった際には、夢パークを会場に中高生自らが企画・運営などほとんど全てを行っていた音楽フェス「KUJIROCK」が中止に追い込まれました。コロナ禍前の音楽フェスを知る学生は卒業し、あの時のパッションを知る学生が在学していない現状に「子どもたちにとっての1・2年はとても長いこと」だと改めて思い知らされました。今、当時の音楽フェスを知る卒業生の力も借りながら、復活に向けて活動を始めた友兼さん。コロナ禍で止まってしまった事業を再び動かすことにも注力しています。

多様性を認め合い
互いにリスペクト

 子どもたちにとって理想の居場所づくりとは何か。友兼さんは「同じ子は一人としていませんので、それぞれの子どもにあわせた居場所づくりが重要」と話します。しかしそれは決して一人ひとりを個別に見ることではなく、大切なのは「多様な子どもたちが、お互いを認め合い、尊重できる環境をつくること」だと説明します。「夢パークやえんももっと理想に近づけるよう努力しますし、たくさんの同じような場所が生まれなければなりません。子どもたちがお互いを認め合っている姿を見たとき、『成長したな』とたまらなく嬉しいですよ」と微笑みました。

プロフィール

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団体名

認定NPO法人フリースペースたまりば

活動内容

活動内容 「たまりば」は、不登校の子どもや高校を中退した若者と関わる中で1991年に立ち上げ。生きるのがつらくなった子どもたちが何よりもまず安心していられる場を作ろうと、諏訪のアパートに「居場所」として拠点を開設。95年に久地に移転し、2003年の川崎市子ども夢パーク完成時に、敷地内に開設されたフリースペースえんの運営を川崎市から受託。現在は夢パーク全体の管理・運営を担っている。また2020年にはコミュニティスペース「えんくる」を開設し、「フードパントリー」として必要な人への食糧支援を行うなど活動の幅を広げています。