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相模原市営上九沢団地
子どもの育ち応援団

2023年 03月 01日

子どもの居場所をつくる「くすのき広場」の取り組み

2023年 03月 01日

くすのき広場・くすのき学習塾・くすのき食堂が活動の三本柱

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将棋を楽しむ子どもたち

 相模原市営上九沢団地で子どもの居場所づくりに取組む団体「子どもの育ち応援団」が2014年から続けている活動が「くすのき広場」です。
 団地内の多目的室を子どもの居場所として学校の終わる午後3時半から夕方までオープン。子どもたちはゲームや将棋をしたり、ままごとをしたり、ボール遊びをしたり、過ごし方はさまざま。夏場は毎週、冬は月2回、月曜日に開催し、毎回30名から50名の子どもが集まってくるそうです。

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くすのき学習塾で勉強支援

 常時10人くらいのスタッフがいて、勉強したい子には教職経験のあるスタッフや大学生ボランティアが寄り添って無料の学習塾になります。

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コロナ禍前のくすのき食堂

 夕方になると子ども食堂として無料の食事を提供しています。スタート当初はおにぎりでしたが、市の社会福祉協議会から支援金を受けたり、地元の人や企業から食材の寄附を受けたりするようになり、子どもたちに人気のメニューを提供できるようになりました。
 ちょうど取材に訪れた日は近くのピザーラ下九沢店からピザの差し入れがありましたが、その支援はピザーラの本部からのものだそうです。
  子どもに寄り添う活動が注目を集め、企業や個人の支援の輪も広がっています。令和元年に内閣府特命担当大臣表彰(子供・若者育成支援部門)を受けるなどの評価を受け、活動を卒論のテーマにしたい、という大学生からの問合せも多いとのこと。

荒れた団地をなんとかしたい、が活動のきっかけ

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吉澤肇さん

 上九沢団地は周囲の団地も含めると約1000世帯が居住する巨大な団地です。
 高齢化が進み、ひとり親家庭も多く、外国につながりのある人も増えてきています。
 くすのき広場の活動を進めてきたのが吉澤肇さん(子どもの育ち応援団代表)。
 陶磁器を売る事業を引退し、2010年に奥さんとゆかりのある相模原市緑区の上九沢団地に引っ越してきた吉澤さんは、団地の管理組合の理事長を嘱託されました。余生を静かに過ごしたいと考えていたものの、当時の状況はそれを許しませんでした。
 当時の子どもたちは周囲を困らせるような行動が目立ち、団地外からも夜遊びのためにやんちゃな子が集まってきていました。いたずらや破壊活動など、毎日のようにパトカーが呼ばれる状態だったそうです。

 「住民で組織した自警団がたむろしている子どもに声かけをするんですが、注意する側も70代の男性だから、『おいこら』とやるので、子どもからも『うるせえ、じじい』と返ってくる。これじゃあいけないと、いろんな人に相談しました」
 当時民生委員でもあった吉澤さんは周囲に働きかけ、近隣の民生委員・児童委員、小学校の校長先生、社会福祉協議会などに集まってもらい、この状況がどうすればおさまるのかについて話しあいました。ひとり親など家庭に事情があって、愛情に飢えている子どもが少なくないこと。そこで子どもの話を聞いてあげられる、子どもと大人の交流の場をつくろうということになりました。
 親子掃除会という形で活動をスタートさせ、保護者の理解を得つつ、くすのき広場をオープンすると、やんちゃな子たちも集まってきました。
 そんな子たちを受け入れてコミュニケーションをとっていったことから、徐々に活動は浸透していったといいます。
 自分が解決できないことは他の人の力を借りればいい、と考えて多くの人に協力を仰いできた吉澤さん。その努力が実を結び、団地や近隣の人、社会福祉協議会や市の子ども支援課など、多くの人や組織の応援を得られるようになりました。
 Facebookで情報発信していたことも支援の輪を広げました。子どもと家庭の問題をずっと追ってきたルポライターの杉山春さんや、当時法政大学現代福祉学部の教授を務めていた湯浅誠さんとつながりができ、活動を後押ししてもらったことも、活動当初の大変な時期を乗り切るときに大きな力になったといいます。
 いまでは相模女子大学など他の大学からも学生ボランティアが来ています。
 子どもたちに寄り添うのは若い人のほうが向いているように思えますが、50代の男性ボランティアがお父さんのように慕われたりもするそうです。
 「いまは子どもたちが静かすぎるくらい」と吉澤さんが話すほど、かつての周囲を困らせるような行動はおさまりました。一方でコロナ禍もあり、外でほとんど子どもの声が聞こえなくなっているのが気がかりだともいいます。

地域コミュニティ復活の拠点にしたい

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トゥフォンさん

 小学校3年生の頃からくすのき広場に通っているトゥフォンさんは現在中学3年生。両親ともベトナム人ですが、日本で生まれ育ち、近隣から毎回通ってきています。
 「おしゃべりをしたり、遊びや勉強を教えてもらったり。ここにくると友達がいるし、いろんな人と話ができて楽しいです。食事づくりを手伝ったこともあります」と笑顔で話します。

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近隣中学校でくすのき広場の活動を紹介

 スタートから9年、「子どもの居場所づくりはなんとかできてきた」と吉澤さんはいいます。近隣にこども食堂や無料の塾などの活動も増えており、これからはそうした活動と連携し地域活動としてさらに広げていくことを目指しているそうです。

 吉澤さんは「団地の宿命として、毎年20世帯くらいが出ていって入れ替わります。コロナもあって子ども会がなくなったり、老人会がなくなったり、自治会の組織率が3割なかったり、コミュニティがなくなっている。くすのき広場の活動が地域のコミュニティを復活させるひとつの拠点となるというのがいまの目標です」と前を見つめました。

プロフィール

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団体名

子どもの育ち応援団

活動内容

相模原市営上九沢団地で子どもの居場所づくりに取組む団体「子どもの育ち応援団」では、子どもの居場所を地域でつくり、地域で見守る活動「くすのき広場」を行っています。団地内の多目的室を会場に地域の大人が、子どもたちとゲームや将棋をして交流するほか、子どもたちに勉強を教える「くすのき学習室」や子どもたちに無料で食事を提供する「くすのき食堂」といった取組みも行っています。(写真は学習支援の様子)