キラリと光る☆就職氷河期世代を採用しよう! 第3回

就職氷河期世代を活用するメリットを前回取り上げました。第3回目となる今回は、彼ら彼女らが職場で本来有している才能を発揮し、大活躍をしてもらうために、人事担当者がどのような点に着目し、どのような取り組みを行うべきかについて整理します。

配慮を要する点1「正社員としての自覚、責任感の醸成」

第一に考えなければならないのは、非正規雇用の職務経歴が長かったご本人の仕事に対する自覚・責任感をどのように醸成していくかです。

筆者が就労支援の現場で支援対象者の方と話をしていて、「何のために正社員として就職したいの?」と言う素朴な問いをすることもあるのですが、単純に「待遇がいいから」と答えられる方もいます。もちろん、法制度的にも慣習的にも非正規雇用よりも正規雇用の方が安定しており、待遇も良いと思います。でも、企業の人事担当者の皆様ならおっしゃるはずです。「正社員になると、それなりの責任が伴いますよ」と。そうなんです。正規雇用の社員であれば待遇は良くなりますが、職務内容や求められる責任の範囲も非正規雇用の社員とは異なるはずです。

入社後、企業と求職者双方の考えの違いを生まないために、面接の場があるはずですし、場合によっては1日から数日程度の職場体験(社会人インターンシップ)などを通じて、仕事の内容や重みを本人に感じてもらう機会があっても良いと考えます。前回のコラムでも述べましたように、面接の場では職務経歴書の行間を読むこと以外に、正社員として働くことについて、どのように本人が考えているのかを聞くことも必要になってくるかもしれません。

ただ、非正規雇用での職務経歴が長かったために仕事へのプロ意識や責任感がないと言うことではなく、大抵の方はそれぞれ置かれた環境でプロ意識や責任感を持って仕事に取り組んでこられたことでしょう。すでに社会人として相応の経験をされてきた方でしたら、そこまでの配慮は必要ないのかもしれません。

配慮を要する点2「働きすぎへのマネジメント」

第二に、働きすぎに対するマネジメントです。彼ら彼女らが社会に出た頃は、まだ「24時間戦えますか。」というフレーズに代表されるような働き方が求められる時代感が残っていました。裏を返せば、就職氷河期世代が就職活動を行わざるを得なかった時期は超買い手市場の時代でした。「嫌なら辞めてもらって結構。他に雇われたい人はたくさんいるよ」という風潮があったように感じます。そうした社会状況の中で、必死になって働き、時には健康を害したり、メンタル面にダメージを受けたりして休職・退職し、その後のセカンドチャンスに恵まれずに今に至る方もいます。就職氷河期世代のすべての人がそうではありませんが、今の20歳代と比べて、「働きすぎるのが当たり前」と考える人も多いのではないかと思います。(逆に必死で働くことに疲れてしまったことで正社員を諦め、それなりにゆるりと仕事をしてきた方も多いように感じられます。)

こうした「働きすぎるのが当たり前」という価値観を持った世代であることを踏まえた上で会社組織として採用・活用を考えると、少々考慮が必要かもしれません。就職氷河期世代の人の中には、「自分はこんなに頑張っているのに、バブル世代の人たちや若い連中はほとんど働いていない!」と考える人もいます。

現在、社会では多様性や働き方改革といったキーワードが重要になってきていますが、時代とともに働き方に対する価値観は急速に移り変わってきています。今の時代に合わせた働き方をしてもらえるように、就職氷河期世代の働き方のマネジメントにも注視していきたいところです。

配慮を要する点3「貯金がほとんどない場合がある」

第三に、お金の問題です。この問題が、ご本人たちにとっては一番大きな問題かもしれません。

非正規雇用の経歴が長かった方は、貯金がほとんどない場合があります。例えば、神奈川県の最低賃金である時給1,012円で1日8時間、月20日間で働いたとしても、ひと月の給与は16万円ほど。所得税や社会保険料を控除すると更に減り、そこから住民税、食料品や生活必需品の購入に必要な費用を支払うなどすると、手元に残るお金はあまりありません。親元に住んでいたら別ですが、住居費を別途負担する必要があるようでしたら、貯金に回すことができるお金はほとんど残らないでしょう。冠婚葬祭や医療費など、急な出費もあるでしょう。実際、非正規雇用労働者の増加とともに、無貯蓄世帯が増加しています。

会社として、何に配慮して対策を講じるべきかといえば、転居を伴う転職・就職は引越し代などが出せず躊躇してしまうということです。会社によっては引越し代の一部を負担したり、給与の前払い制度などを設けたりして、サポートしている場合もあります。低所得で働いてきた方や借金がある方などは、転居を伴う転職・就職によって結果的に仕事のパフォーマンスの低下リスクや、届出の有無にかかわらず副業による健康リスクも考えられます。

安心して入社して働ける環境づくりとともに、20代・30代の若い頃のように身体に負荷をかけるような働き方ができなくなってくる壮年期社員に対する健康管理が会社には求められます。健康に関する情報はご本人たちにとってはあまり職場内では知られたくないもの情報であり、取り扱いには十分注意・配慮しなければならないものですが、できれば人事担当者は把握しておきたいところです。

配慮を要する点4「こまめなフィードバック」

第四に、フィードバックの重要性です。正社員が非正規雇用に比べて、能力開発が進むのには大きく2つの理由があります。1つ目は、得られる経験の質の違いです。正社員の場合、より複雑で概念的な仕事や受動的ではなく責任感ある仕事を経験できることが多いはずです。

2つ目は、正社員は教育やフィードバックを得られる機会が多いことです。得られた経験を自分のスキルや知見に転換していくプロセスの中で「内省」が必要となりますが、その「内省」を促進するために、教育やフィードバックの機会が重要となってきます。一般的に正社員はこの教育やフィードバックの機会が多く提供されています。その差が、年齢とともに蓄積され、壮年期には比較的大きなキャリア格差となって顕在化してきます。

就職氷河期世代に限ったことではありませんが、イキイキと働くための、内発的動機付けのうち、大きなウェイトを占めるのが、自身の成長の実感です。このことを踏まえると、就職氷河期世代の方の活躍を引き出すためには、自らが「成長した」と実感できるようにすることが重要です。どのような成長が見られるのか、今後どのようなことが求められるのかを、本人が理解できるように上司や人事担当者が適切にフィードバックすることが、就職氷河期世代が現場で活躍するために大切になってくると考えられます。

さて、「いま就職氷河期世代がアツい!」として書き始めた本コラム。就職氷河期世代の採用・活用に関するコラムの最後に、就職氷河期世代活躍支援のために拡充されているアツい助成金が用意されていますので、ご紹介します。ぜひ、環境に恵まれず、いまもキラリと光る才能を十分に発揮できずにいる社会に埋もれた就職氷河期世代の数多くの人材を、国も地方自治体も全面的に支援しているこの時期に発見して頂き、皆様の会社の発展につなげて頂きたいと切に願っています。

「トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)」
常用雇用への移行のきっかけとなることを目的に、ハローワーク等の紹介により一定期間試行雇用した場合の企業への助成金。
「特定求職者雇用開発助成金(就職氷河期世代安定雇用実現コース)」
就職氷河期世代で、正社員経験のない方や少ない方を正社員で雇い、定着につなげた場合の企業への助成金。
「人材開発支援助成金(特別育成訓練コース)」
非正規雇用労働者を正規雇用労働者に転換することを目的として、雇用型訓練(有期実習型訓練)を実施する場合の企業への助成金。
「キャリアアップ助成金(正社員化コース)」
企業内の非正規雇用労働者を正規雇用労働者等に転換等させた場合の企業への助成金

著者・藤井

藤井 哲也(ふじい・てつや)

株式会社パブリックX代表取締役。1978年生まれ。大学卒業後、規制緩和により市場が急拡大していた人材派遣会社に就職。問題意識を覚えて2年間で辞め、2003年に当時の若年者(現在の就職氷河期世代に相当)の就労支援会社を設立。国・自治体の事業の受託のほか、求人サイト運営、人材紹介、職業訓練校の運営、人事組織コンサルティングなどに従事。2019年度の1年間は、東京永田町で就職氷河期世代支援プランの企画立案に関わる。2020年から現職。しがジョブパーク就職氷河期世代支援担当も兼ねる。日本労務学会所属。