キラリと光る☆就職氷河期世代を採用しよう! 第2回

就職氷河期世代を採用するメリットって何?
国や自治体が後押ししている施策だからとはいっても、企業は慈善団体ではなく営利団体です。雇用にあたっては人件費もかかるので、何かしらのメリットがないと安易に採用はできないと思います。そこで最初に、企業にとって就職氷河期世代を採用することによって、どのようなメリットがあるのかを整理していきます。

採用するメリット1「人手不足解消につながる」

新型コロナウイルス感染症の拡大が広がるまでの数年間、多くの企業が人手不足に悩まされていました。そうした中で生じた新型コロナウイルス感染症の拡大で状況は一変しました。一気に雇用環境は冷え込み、雇用調整助成金などの各種制度が拡充される中で、現在雇用している従業員の雇用維持が最優先課題となりました。

しかし、こうした状況はある意味、一過性のものとも言えます。新型コロナウイルス感染症の猛威が過ぎ去れば、新たな日常がくるわけで、基調的に労働力人口が減る日本社会にあっては、再び人手不足が経営課題に上がってくるはずです。

就職氷河期世代は、団塊世代の子ども世代(第2次ベビーブーム世代)を含んでおり、総人口から見ても、人口ボリュームが大きいのです。さらに、より良い仕事を渇望する人も多く、この世代を対象に人材募集を行えば、多くの応募者が集まることが想定されます。

実際、民間企業に先駆けて就職氷河期世代の採用に積極的に取り組み始めた行政機関では、数人の採用枠に対して数百人が応募するようなケースも多く見受けられます。民間企業においても、当該世代を対象に採用活動を積極的に展開している企業では、例えば警備業A社(従業員150人程度)では、1回の募集で10人前後からの応募があり、その中から3人を採用していたり、物流業B社(従業員1000人超)でも、配送ドライバーの募集に就職氷河期世代から多くの人材が集まってきているとのことです。例に取り上げた2社とも、就職氷河期世代の戦力化のために力を入れて人材育成に取り組む会社です。

就職氷河期世代は、新卒とは異なり、基本的なビジネスマナーやビジネスコミュニケーションの術、仕事で使う基本的なスキル(場合によっては専門スキル)を、社会に出てからの15年から35年の間に職場や職業訓練の場で身につけています。そうした点から育成にかかる職場の労力やコストも少なく済むでしょうし、人手不足を解消するために就職氷河期世代の人口ボリュームは大変魅力的だと考えられます。

採用するメリット2「ベテラン社員と若手社員との架け橋になれる」

現在の30代後半から40代の人たちが歩んできた社会経済環境は、社会に出るタイミングで雇用環境が悪かったということが挙げられますが、それ以外の面に目を向けてみると、2つの大きな変化があったように思われます。

1つ目は、IT環境の劇的な進歩です。筆者(42歳)を事例にとると、小学生の時にファミコンが登場し、高校生の時にウィンドウズ95が、大学2年生の時にウィンドウズ98がリリースされ、そこからADSLの普及によって急速にインターネットが広がりました。また20代半ば頃にスマホが普及し始め(2007年に初代iPhoneが発売開始)、そこからSNSやソーシャルコミュニケーションツールが使われ始めています。いわば、就職氷河期世代はIT環境の激変期に10代後半から20代を過ごしており、ITツールを用いたコミュニケーションや作業に比較的慣れていると言えます。

2つ目は、働くことに対する価値観の点です。1990年代から2000年代の就職氷河期世代が社会に出るタイミングで、日本型雇用慣行が変わり始め、成果主義と言われる価値観や制度、1社で長年勤めることが必ずしも良いと言い切れないこと、女性の社会進出に伴う職場における共同参画の意識などが醸成されてきました。

50代以上のベテランの域に達してきている方も、こうした社会経済環境の変化に適応されてきて現在があるわけですが、30代・40代の社員が職場に少なく、2010年代後半の雇用環境が改善していた時期に採用した20代の若手社員が多い職場になると、職場内における世代間コミュニケーションに課題があるケースを見受けることがあります。

20代から30代前半の若手社員にとって、ごく当たり前に使うITツールや新しいコミュニケーションツール、労働に対する価値観、共通の話題なども、50代を超えるベテランの域にある社員とは断絶を感じることもありますが、30代後半から40代に該当する就職氷河期世代はまさに若手社員とベテラン社員の間に入って、組織の潤滑油、架け橋になることができるのです。

採用するメリット3「多様な経験が会社の成長につながる」

筆者が特に強調したいのはこの3つ目のメリットです。
就職氷河期世代はある種、多様な経験を積んできています。1990年代後半から派遣労働市場が広がり始め、2000年前後には多くの若者が不本意ながら非正規労働に就かざるを得ませんでした。また、核家族化や都市部への人口集中などを背景にして、男女共同参画・共同活躍が進み、子育てや介護をしながら働くことやワークライフバランス、働き方改革が推進されてきたことから、そうした環境変化の中で、好むと好まざるを得ず、様々な経験を積んできた苦労人がたくさんいます。

「目に見える立派な花を見るのではなく、どのように土壌を作り、どのように水をやり、育ててきたか」を見ることが大切だと考えます。これまでの間、たまたま社会経済環境や本人が置かれた環境により、きれいな花を咲かすことができなかったとしても、地道に土を作り、水をやり、努力してきた方も多くいます。本人自身も気付いていることが少ないそうした才能を発見し、開花させることができるのが企業の人事担当者の皆様だと思います。

とあるシステム企業では、ゲームが大好きな就職氷河期世代の求職者を正社員として雇い、システムのバグ探し(デバッグ作業)に従事させたところ、非常に業務のパフォーマンスが高く、事業成長に大きく貢献している事例や、出産・子育てを経て、子どもがある程度大きくなってきたタイミングで就職活動をされている方を積極的に事務職や営業職で採用している企業では、新人や若手社員とは違う視点からアイデアが出されているなど、年の功ではありませんが、気遣い・心遣いによる顧客価値の向上につながっている事例があります。

就職氷河期世代を活かすか否かの分かれ目は、「採用担当者が、求職者の職務経歴書の行間にある(はずの)キラリと光る経験を発見することができるかどうか」だと、就職氷河期世代の採用に積極的な企業の方々が共通して述べておられます。就職氷河期世代の求職者から提出される職務経歴書には、もしかしたら、非正規雇用での職務経歴ばかりがズラリと並んでいるかもしれません。でも、その職務経歴書の行間から、経験してきた多様な経験を会話の中で拾っていくことで、意外に自社にマッチするような職務経験を積んでいた方が見つけられるかもしれません。

著者・藤井

藤井 哲也(ふじい・てつや)

株式会社パブリックX代表取締役。1978年生まれ。大学卒業後、規制緩和により市場が急拡大していた人材派遣会社に就職。問題意識を覚えて2年間で辞め、2003年に当時の若年者(現在の就職氷河期世代に相当)の就労支援会社を設立。国・自治体の事業の受託のほか、求人サイト運営、人材紹介、職業訓練校の運営、人事組織コンサルティングなどに従事。2019年度の1年間は、東京永田町で就職氷河期世代支援プランの企画立案に関わる。2020年から現職。しがジョブパーク就職氷河期世代支援担当も兼ねる。日本労務学会所属。