プレイベントの実施結果 第2集
水源環境を考える ナイト・トーク

 桂川の自然環境とくらし
   
            中川 雄三(動物写真家)
   平成14年9月18日(水) かながわ県民センターにて開催
   参加者:41名

この講演記録に掲載した写真は、中川雄三さんから当日上映されたスライドの中の一部をご提供いただいたものです。
無断転載はしないようにお願いします。

 もくじ

1 上流の現実を知ってほしい
2 桂川に注ぐ富士五湖
3 死にたいほど?美しい樹海の自然
4 富士山頂からのびる白い筋
5 湖に累積していく釣り糸
6 川を守るコウモリ
7 上流にもタマちゃんが来たら?
8 次に迷惑を被るのは人間だ
9 「水に流す」上流の習慣
10 太平洋の海鳥の突然死が意味するもの
11 良かれと思ってやっていることが…
12 川や動物の写真で伝えていきたいこと
13 下流からの声が上流をきれいにする
14 汚しているのは私たち自身?

 参加者アンケートの結果

(全国シンポジウム実施結果のメニューへ)


○司会(原田県税務課副主幹)
 みなさんこんばんは。ようこそ今日も神奈川県主催の水源環境を考えるナイト・トークにお越しくださいましてどうもありがとうございます。今日は動物写真家の中川雄三さんをお招きしまして、「桂川の自然環境と暮らし」というお話を伺いたいと思います。だいたい100枚ぐらいのスライドを使いまして1時間ぐらいお話を伺う予定ですが、スライドをやっている最中に質問のある方はどんどん手を挙げて質問をしてください。その方がお話をしやすい、いろいろと深いお話ができますよということでしたので、どんどん手を挙げて質問していただきながら進めていきたいと思っております。
 今日のナイト・トークで第2集に入りましたが、先週3回やらせていただきました。今日が第4夜目、4回目になりますけれども、簡単に私どもがどういった趣旨でこういった催しをやらせていただいているのかご説明させていただきたいと思います。県では今私たちが飲んだり、使ったりしている水がどのような環境の中で生み出されているのか、その現実とかあるいは課題とかを皆さんに是非知っていただき、その課題を解決していくための対策とか、その対策に要する費用をどうしたらいいのかということについて県民の皆さんと一緒に考える取組を今年行っています。でもこうした取組というのは自然に対する関心とか思い、それから愛着といったものがないととても空虚なものになってしまうのではないか、といったことも私ども感じておりまして、是非、身近な自然というものに目を向けていただく機会を通してこれから私たちが取り組もうとしている問題に少しずつ、一歩ずつ踏み込んでいただきたい、そんな思いを込めてこんな企画を組ませていただいたという次第です。
 今夜は動物写真家の中川雄三さん。自然に対する関心だとか、思いとかを伺いながら、ひととき私たちの回りを取り巻く自然について考えてみる、そんな時間を持ちたいと思っております。
 それでは中川さんを早速ご紹介したいと思います。簡単に略歴だけご紹介させていただきます。中川さんは1956年に山口県の美祢(みね)市というところでお生まれになりました。炭坑の町だそうですけれども、そこで生まれ育ったということです。1970年に炭坑の閉山で大阪の堺市に移られました。1976年に日本大学農獣医学部に入学されまして、1979年から80年の間、在学中、神奈川県の淡水魚増殖試験場というところで相模川の魚類調査を手伝いながら、箱根の芦ノ湖でワカサギの研究をなさっていたということです。1980年に大学を卒業されてそのまま富士山の山麓に移り住まわれました。その間いろいろとサラリーマンの仕事もされたということです。その話もまたこれからお聞かせいただけると思いますが、1987年に国内で写された動物写真の年間グランプリにあたる第4回アニマ賞を受賞されました。この動物写真というのは海外で写した写真が受賞することが多いそうですが、中川さんは本当に地元の自然、富士山の樹海の中のヒメネズミという小さなネズミの写真をとって受賞されたということだそうです。1991年から動物写真家として独立されまして、富士山周辺の身近な自然をテーマにした写真を撮り続けるとともに、自然保護運動にも力を注いでいらっしゃいます。現在は環境省自然公園指導員をなさっていますし、NPO法人富士山クラブの理事もなさっています。著書には「富士山麓の仲間たち」、「カワセミの四季」、「富士のすそ野のメダカの学校」といった著作などたくさんの写真集をお出しになっています。それでは今日お招きしました中川さんからお話を伺いたいと思います。中川さんどうぞよろしくお願いします。

1 上流の現実を知ってほしい

○中川講師
 みなさんこんばんは。山梨県の富士吉田市から参りました動物カメラマンの中川と申します。今日は、先週から続いているナイト・トークの続きということですけれども、今日こちらにいらっしゃる方で山梨のご出身の方はいらっしゃいますか? いらっしゃらないですか。その方が気が楽なんですが。僕も大学を卒業してまだ23年目ですから、そんなに山梨県に長くいるとはいえないですけれども、相模川上流の桂川が良くも悪くもずいぶんさま変わりをした時期からずっといました。下流の相模川と上流の桂川のことについて、ようやく神奈川県と山梨県との間でいろいろな住民や行政の関わりが深くなってきました。相模川の上流は、大元は観光地としては知られている山中湖から始まります。その上は日本一の山である富士山になりますが、今この時点でたぶん5千人ぐらいの方が山頂を目指して8合目から山頂にいらしているのではないかと思います。帰れば僕の自宅からもたくさんの懐中電灯の灯りが見えると思います。実は、その富士山の山頂でさえ、昨年、バイオトイレがついて、2万人分ほどの屎尿(しにょう)が分解できましたけれども、その他の残られた約30万人の方々の屎尿はすべてそのまま垂れ流しの状態になっていて、それが廻り廻って駿河湾か相模湾に流れ込んでいるわけです。
 今日は本当は上流の美しい自然をたくさん紹介しようと思ってきたんですが、良いところもとりまぜながら、最近の自然の様々な状況をお見せしたいと思います。
 確かに、人間の利便性のために、川の水自体は使えるようになっています。地下水もたくさん汲み上げられて利用されてます。だけどもその反面近い将来水不足で困るようになるだろうなと思います。僕ら日本人は日常は水道の水を飲んでいて、あまり水に困るということはないと思いますが、コンビニエンスストアで売っているミネラルウォーターは、冷静に考えるとガソリンよりも高いのですね。僕らも500ccのボトルで100円、150円出してもいいかなと思っていますが、高い高いといわれるガソリンでさえ、100円しないわけですからね。そんな世の中に今なってしまっていますし、水も簡易の飲料からペットボトルになって非常にどこでも持ち運びができるようになりましたけれども、その分、川を見ればペットボトルが流れているという状況です。
 上流の人は下流の人によかれと思ってやっていることもたくさんあります。それから昔ながらに水を使っていればきっと下流に迷惑をかけていないだろうなと思いつつ、なんでもなく窓から流しているものが、昔は水や土に帰るものだったのが、今では水に帰らないばかりか、いろいろな環境ホルモンとか水質汚染をしていたりということもあったりします。上流の人は迷惑をかけようと思って住んでいる人はいないと思います。ですから、下流の大勢の人たちの声がリアルタイムで上流の人に届いて、水資源を守ることに繋がって欲しいと思います。たくさんの方が休みの日には景色を見たり、きれいな空気を吸ったりということで上流部に来られます。これから紅葉狩りのシーズンでますますさかんになります。でもそのときに都会から来た方が自然を求めているのに、駐車場が全部アスファルトになっていたり、ペンキでけばけばしい色に塗られたり、それからせっかくいいカエデの木や松の木があるのに、それを切ってシラカバやトウカエデを植えてみたりというかたちで、観光地の方はお客さんへのサービスだと思っているのですけれども、逆効果というのがたくさんありますよね。僕はたまたま田舎で育って都会で学校に行き、再び第二のふるさとということで、山梨の中でも一番田舎の、20年来新しい人が入ったことがない場所に今住んでいます。そこでさえ今まで土の道があったところが、アスファルトになっています。年配の方たちがこれで水たまりもなくなったし、土手の赤土が露出していたところが、コンクリートで塗られてすごいハイカラになって良かったね、といいながら腰をかけるのも大変だったり、車がビュンビュン飛ばして走ったりということで、都会の真似をしてみて便利なように見えても、昔のままの川の自然がいいなということに気がついたりもしています。
 それから相模川の上流の桂川に関しても、いまだに護岸工事がたくさん進められていて、短絡的に三面コンクリート張りになったものがたくさんあります。今のでは三面コンクリートにしなくても、かなり強度があって、親水性もあるいろいろな近自然工法といったものもあります。是非、都会の方々が一度失った自然を復活させている努力や成果を上流部に届かせていただきたいなと思っています。
 今日は、ここから約100キロ先の相模川の上流部がどんなふうになっているのか、山梨県側の現状を是非下流の皆さんに知っていただきたいということで100枚ほどスライドを持ってきています。ものによっては話が長くなってしまったりすると思いますけれども、映写中でもわからないことがありましたら、手を挙げて声を掛けていただきたいと思います。写真でしか見ていただけませんが、どういう形で皆さんが印象をもたれるかわかりませんけれども、スライドが終わったときに、皆さんが想像している上流とは異なる現実を何割かは理解していただけると思います。是非、皆さんからの感想とか上流への希望みたいなことがあればお聞かせ願えればありがたいと思います。
 早速、スライドを写しながら話をさせていただきます。

2 桂川に注ぐ富士五湖

 まずは山梨県の一番西側(の航空写真)です。ちょうど身延町の上空ぐらいからですけれども、朝霧高原の牧草地が見えます。例のオウム真理教のサティアンがあったところです。それから富士五湖の西側になりますが、本栖湖という湖です。本当は桂川の話をするのであれば、一番上の富士山や山中湖から始めるのが筋なのですが、実は、山中湖以外の4つの湖からも桂川に水は注いでいるのです。ここに見える平らな緑の絨毯の部分が青木ヶ原の樹海ですが、その青木ヶ原樹海の長尾山の溶岩が流れた1200年前までは、本栖湖と精進湖と西湖というのは一つの大きな湖だったのですね。この西湖からは発電用に取水されて河口湖につながる放水路があります。ですから富士山に降った雨の本栖湖の部分から山中湖の部分、富士山の360度のうちの3分の1、120度の水はそのまま桂川を通してそのまま相模川に繋がっているということをご承知ください。そして順番に山中湖の方まで見ていきたいと思います。
 全国で今、それからその隣に豊茂(とよしげ)の牧草地と本栖湖をもっている上九一色村がありますが、これらが早ければ来年の8月、遅くても再来年の秋には、4つの湖をもつ大きな町に生まれ変わるそうです。市町村合併の話が進んでいます。実は、河口湖町と勝山村、西湖のある足和田村、ただ富士山側には鳴沢村というのもありますが、鳴沢村というのは合併には同意していないそうです。(合併で)良いのは一つのイシューでいろいろな管理が統一してできるということです。しかし、青木ヶ原樹海だとか豊茂の牧草地というのは今まであまり活用されていなかったのですけれども、ご存知のとおり、河口湖にはたくさんの施設があって非常に自然活用が上手なところですが、進み方を一歩間違えれば、一大リゾート地がまた誕生してしまって水資源の枯渇を招くことにもなります。時代が時代ですからそんなことはないと思いますけれども、今、桂川の上流の町はそういう方向に向かっていることをご承知ください。
 それから隣が精進湖ですね。正面が青木ヶ原の樹海。真ん中に小さな山が見えるのが大室山というところです。非常に広大なところで、国道が一本、県道が一本入っているだけですから、無垢の自然がそのまま残っているところです。静岡側の駿河湾からの海風が富士山に当たってここに霧や雲を発生させて、非常に湿度の高い涼しい環境を作り出しています。地面はすべて溶岩で、土はまだ青木ヶ原樹海にはありませんので、降った雨がそのまま浸透して溶岩の中のいろいろなミネラル分を含みながら、地下水として富士五湖に流れて、桂川に向かうというかたちになっています。

3 死にたいほど美しい?樹海の自然

 樹海はすごく悪い印象を受ける場所ですけれども、富士山の中では僕の一番好きな場所です。これは上空から撮した写真です。木が濃く見えるところがツガだとかヒノキ、モミで、淡いもえぎ色のところがカエデだとか、ナラとかミズナラです。とにかく非常に美しい雑木林、本当に木の海、樹海という名前がそのままぴったりの印象だと思います。
苔生す美しい梅雨の樹海 自殺の名所といわれますけれども、死にたいほどいい場所なんですよ。雨上がりに行くとコケの絨毯が敷き詰められて、木が溶岩のデコボコのところに根を生やしているので、印象ですけれども、まっすぐ立つ木がないんですね。斜めから出発して光に向かっていきますので、うねってますから、地面全体が生き物のようになってます。自殺したい人が来て、土に帰りたい人が来て安らげる場所はこういう場所なのかなとも思ったりもします。そういうことで樹海を案内することが増えてきましたけれども、決して恐いところではなくて、本当に大自然の強い印象が残っている場所だということで紹介しています。余談ですけれども、うちの小学校4年の10歳の娘が漢字で「樹海」と名前を書きます。「きみ」と呼びますけれども、樹も海も生き物を育む場所だということで、樹海の名前をもらったりしたところです。
 これから紅葉のシーズンで本当に美しい場所となります。東海自然歩道をはじめとしてたくさんの遊歩道があって、国道から一歩足を踏み込めば、騒音を吸収して、静かで緑があってこれからずっと紅葉の絨毯になるところですから、富士山に登るよりは是非、すそ野の樹海に足を踏み入れていただいて、安全に快適に皆さんの上流部の自然を知ってもらえたらと思います。機会があれば是非、樹海を覗いてみてください。秋から冬にかけて浅い雪が積もって、けものの足跡がたくさん昼間に見えますけれども、これからがベストシーズンです。
 それから、樹海ではこれから木の実の時期に夜になってヒメネズミが出て、木の実をたくさん運んで、土がない場所ですからそのまま木の実が落ちても、根は出ませんけれども、ネズミとかカケスという鳥がコケの隙間にたくさん貯えることで、木々が発芽するわけです。ヒメネズミは夜な夜なドングリを一所懸命運んでいます。実際は皆さんの親指くらいの小さなネズミですが、一晩中自分の頭よりも大きいミズナラなどのドングリとかを冬のために貯えています。それからカラスの仲間のカケスですね。たぶん日本で一番広葉樹を植えているのがこのカラス、カケスだと思います。とても頭のいいカラス科の鳥ですから、たくさんドングリをのどにつめて、ドングリの森から自分の住んでいる森に運んで、一粒ずつ地面に吐き戻して隠していって、冬の間にその何分の1かを食べ、大半は残されて芽吹くという形です。僕らの知らないところでおいしい水とおいしい空気を作っているのが、このネズミの仲間だとか、カラスの仲間、カケスだったりもします。
 そんな樹海ですが、最近は恐怖ビデオがブームになって、こんな形で呪いの海という樹海に変えられたりしてしまったりします。昔から木ぎれだとか、残飯とか、土に帰るものは穴に捨てていたりしたのですが、今はもう産業廃棄物から家庭のゴミまでいろいろなものが樹海に捨てられています。中には、スライドに見えるようなバッテリーや、いろいろな劇薬を長く放置しながら、少しずつ少しずつ地下水に入っているということもあります。
 それから、これは東京の業者のチラシです。東京に配布するものが余ったらしくて樹海に来て捨てるだけでなくてわざわざ燃しているのです。湿ったところですから、煙を出して燻っているだけなので、全部残っていてます。それを回収しない限りは長く地下水を汚染し続けていきます。

4 富士山頂から見える白い筋

 西湖、本栖湖、精進湖の三つの湖のところを見てきましたが、今度は河口湖です。富士五湖の中で唯一、鵜(う)の島という島があります。また河口湖大橋があるところです。こうして見ると、里に人間が住み、あとの緑は残っているではないかという感じに見えますが、実は、もうすでに富士山の周辺には静岡、山梨を合わせて20カ所ぐらいのたくさんのゴルフ場ができています。
 ようやくここ10年でゴルフ場の新しい造成はストップしましたが、普通のスポーツ広場やグラウンドがこれぐらいの大きさですから、ゴルフをやらない方でもその広さはわかりますよね。非常に広範囲の森林を伐採して、芝が植えられます。それから1100bを越す寒冷地です。ちなみにうちではもうこたつを出していますけれども、それだけ寒いところですから、芝生を育成するのにたくさんの農薬だとか肥料が必要だといわれています。
 ここは河口湖のくぬぎ平というところにサッカー場がありますが、今年の春にカメルーンが合宿をしました。そんなワールドカップサッカーの練習場を誘致したグラウンドの横で、その脇にもう住民のゴミが累々とあって、その直前までには撤去されましたけれども、また少しずつここではゴミが累積しています。ちょうどこの春からリサイクル法の施行で、またまたテレビだとか冷蔵庫が増えています。
 それから上を見ると、約40年前の東京オリンピックの年の昭和39年に作られた河口湖のスバルラインです。山頂を目指していたのですけれども、山頂まで当時の技術では行けなくて、五合目まで行くという形になっています。反対側には静岡県の富士スカイラインというところがありまして、そこはもう償還期限を過ぎて無料通行ができますし、中間のすべての駐車場は未舗装で自然のままに残していますが、山梨側の駐車場はアスファルトですべて覆われています。駐車場はトイレに行くだけで、そこから自然歩道で周辺を遊ぶというところはありません。四合目半まで来ればそういうところがありますが、それ以下のところでは道路以外には出られないようになっています。この周辺にはツキノワグマやカモシカが棲んでいますけれども、夏休みは1日に約1万台の車が来ますので、動物たちにとっては非常に大きな障害になっています。そこで排出される排気ガスの量というのは半端なものではないですね。富士山は日本一人がたくさん来る国立公園で、すそ野に1年間で3千万人の人が訪れるといわれています。雲の上の2千数百bの五合目でさえ、4ヶ月間ぐらいで3百万人の方がいらっしゃいます。そのうちのまた何割かが7月、8月の山開きの2ヶ月間で30万人以上の方が山頂を目指すといわれています。
 7月の後半に空撮したものですが、今はもう撤去されました富士山のレーダードームがありますけれども、これは富士吉田に降ろされて新しい公園の目玉になっています。こちら側は静岡側の山小屋です。それから真正面に見えるのが山梨側の山頂の山小屋です。富士山の噴火口にはたくさん残雪がありますが、この山頂のトイレから出ているものは残雪ではありません。この白いものは人間の屎尿とトイレットペーパーです。ミレニアムの年にはここに50万人の方が登ったといわれています。1日に2万人ぐらいの方が登って、100%トイレに行かれますよね。すべて汲み取り式で後ろからオーバーフローする形です。ようやく昨年と今年、NPO法人富士山クラブがバイオトイレを山頂に上げて約2万人の方の屎尿が処理できました。来年からは環境省と静岡県、山梨県の方で、完全分解式ではなく屎尿をある程度分解して固形にし蓄積するという方式でのバイオトイレができます。しかし、それができても10万人ぐらいの屎尿の処理に終わるだけで、あとの20万人の方の屎尿はそのまま地下水になっていくという形です。山腹には屎尿は残りません。全部雨にうたれて地下に浸透しますので、高さがある上で、分解されたり養分になったりするのかもしれませんけれども、それが未然に防ぐことを今までまるで無視していたわけですから、早く手当をする必要があります。
 とにかく山頂に2ヶ月で30万人というのはどう考えても過剰ですね。ですから近い将来、入山規制というのは必ずやられるべきです。今のところトイレは、NPO法人の場合は200円の寄付金をいただいていましたけれども、国や県の場合は無料を想定しています。維持費や管理費がたいへんですから、きっとその辺は入山料を徴収するのが一番いいと思います。
 その富士山の一滴から相模川が始まるわけですが、山頂でもたくさんの自動販売機が稼働していて、ブルドーザーで荷揚げをして、それからブルドーザーで空き缶、空き瓶を回収しています。途中で買って飲みながら行った人は、たぶん途中で放置されてそれがまた山の汚染につながるわけです。
 ここから20メートルほど上がると五合目のスバルラインの駐車場があります。そこの駐車場の雨水を60センチのパイプで山腹に放出させたら、なんと30年間一度もチェックされずに、長さ200メートルのゴミの滝ができているということでした。実はこの写真を撮ったときには、車を減らす対策として、五号目に4階建ての駐車場を作って車両規制をして、そこに車が900台入ったら車は上れませんよというふうにしようと、立体駐車場を五合目に作る計画がありました。しかし、周辺を調査したら、大きな崩壊があってとても駐車場どころではないということで中止になった経過があります。もう約10年たちましたが、2千メートルから上で、このようなゴミの汚染が始まっていたことが明らかになりました。
 最近困っていることに、見えないところに隠されるゴミの投げ捨てがあります。これが何か、後ろの方わかりますか。ここに「○○○○(注:紙おむつの商品名)」と書いてあるのですが、ニューファミリーというのか、親子連れで山頂まで赤ちゃんをおぶっていく危険な人がいます。紙おむつも通気性が良いせいか、車の中に貯まってくると臭うらしくて、隠れて見えないところに捨てるのです。クリーン作戦をしても、道路沿いや登山道沿いにはほとんどゴミは落ちていません。恥ずかしくて、奥の見えないところ、それから人の入らないところに汚物の入った紙おむつが置かれたりします。月曜日の朝になると、マナーの悪い人によって車の窓から登山道沿いに捨てられた紙おむつが散乱しているのが目立ちます。
 富士山周辺の浅い井戸は全部大腸菌が検出されて、今は全部水道に切り替わっています。つい10年前までは飲用に浅井戸や横井戸を使っていたのですが、今はこういうこともありまして、深井戸でなければ、富士山の直下でも水を飲めないという状況になっています。

5 湖に累積していく釣り糸

 これは一番西側の山中湖です。本栖湖、河口湖があって、ここに周辺の町では一番人口が多い、約7万5千人住んでいる富士吉田市があります。桂川は山中湖の放水路から始まって隣の忍野村を通りますが、忍野村では内野というところから新名庄(しんなしょう)川が入り、そして忍野八海の下で合流して、富士吉田にある鐘山(かなやま)の滝というところで富士吉田の市街を流れます。そして富士吉田市の市内で河口湖から放出された嘯(うそぶき)放水路で樹海の湧き水も合わさって桂川の本流となり、西桂町、都留市、大月市、それから上野原町を通って相模湖に注いでいるという状況です。この水源というか、相模川の始まりでもある山中湖も自然の残っている場所でありましたけれども、軽井沢に次ぐリゾート地としてかなり別荘も多くなって雑木林が虫食い状になっている状況がわかると思います。
 それから隣の忍野村では20年来、内野の地区にゴルフ場を絶景の場所に作ろうということが進んでいました。しかし、上流部としてはめずらしくトラスト運動が起こりまして、地主の方がゴルフ場の真ん中を売らずに、また、いろいろな方の応援でそこを分散して買い取ってもらって、ゴルフ場ができなくなったという経過もあります。ほんの5年ほど前に30年来計画されていたゴルフ場建設がストップしたということです。
 こちらに見える草原地は北富士の演習場です。富士山では2カ所、東富士と北富士の演習場があります。その一部です。
 相模川の水源である山中湖では、毎日、観光業者や釣りの関係者が掃除しています。しかし、交通網が整備されて、たくさんの方たちが車で素通りしますので、食事はコンビニエンスストアで買い、ゴミは湖畔に放置するという形です。花火がどこのコンビニエンスストアでも売られていますから、夏は花火やカップ麺などの放置がひどかったですね。
山中湖畔のゴミ 山中湖はたくさんの釣り人がいます。神奈川県の芦ノ湖から始まったブラックバス釣りというのも山梨県では河口湖と山中湖で優良魚種として漁業権を取って有料で釣りができます。非常に新しいバス釣りの場所だということで、河口湖、山中湖は人が多くて、多い日には湖の1メートルおきに一人ずつ釣り人が立つという状況が続いています。
 山名湖の在来の魚はウナギだとかウグイ、アブラハヤといったものしかいませんでしたけれども、琵琶湖からゲンゴロウブナを持ってきたり、芦ノ湖からブラックバスを持ってきたり、アメリカからブルーギルが入ってきたりということで、もうほとんど昔からいた魚は見るかげはないです。ヘラブナ釣りとブラックバス釣りでなんとか収益を得ている形です。それから温暖化の影響もあるでしょうか、もう氷上のワカサギ釣りも20年来ありませんよね。1980年ぐらいまでは自衛隊の氷上演習があって、戦車や装甲車が2メートルぐらいになった氷の上をどんどん走ったり、その横をみんなが穴釣りを楽しんでいましたけれども、今では結氷することもまれですし、まして人間が氷の上に上がれるということも少なくなってきたのが水源である山中湖の状況です。
 早朝からたくさんの釣り人がボートを出しています。僕ら40過ぎの釣り人は、釣り糸が太くてもすぐ切れたり、なかなか遠くに投げれなかったり、ルアー釣りにしてもルアーが高価で、引っ掛かったりすると泳いでいってもう一回外したりなんてことをしていました。けれども今はもう釣りの道具の進歩は世界一ですよね。安くて細くて強い糸で釣っていますから、人間の手では絶対切れないです。30センチの魚を釣る糸に人間がぶら下がっても切れないような糸で釣っています。海釣りの場合は、ワイヤーで車もぶら下げられるようなものでイシダイなどを釣ったりもしているわけです。いくつかのメーカーでは、生分解といって、水に溶ける釣り糸なども出ているのですけれども、それは割高で強度がないということで、若者は強くて安い糸に頼っています。それもルアーは安いですから使い捨てです。それが湖の中に累々と蓄積されていて、湖畔掃除をいくらしても足りないです。それからプラスチックルアーという、合成ゴムのルアーですが、それからは有害な環境ホルモンも出ているのではないかと言われています。
 ここの放水路から相模川が始まります。山中湖のゴミが流れないように放水路に柵をしているわけですが、ゴミの中にもいろいろなものがあります。釣った魚をキャッチ・アンド・リリースという、いじめるだけいじめて食べなくなった状況で死んだ魚とプラスチックなどのゴミが混じって、その水を濾して今から神奈川県に出発というところです。
 隣の河口湖の状況ですけれども、河口湖の方も全く同じです。釣りについては河口湖の方が老舗(しにせ)というか、すごく集客力をもっていますので、多いときには1万人の人が来る釣り大会があってハワイ旅行ぐらいの景品がついたりするのが当たり前になっています。現状では、釣り大会に参加される人は釣り糸の投げ捨てはしませんが、参加料金の代わりにゴミを拾ってくれば、参加料が無料になるというイベントもしたり、漁協の方も収益があがる分、ちゃんと撤去はしています。ただし、その予備軍である地元の若い子どもたちが来て、まだ未熟なのですぐ糸を絡めたり、ルアーを引っ掛けたりしてしまいます。ほぐすより新しいものを使った方が、時間もお金もかからないので、結局、予備軍の若い子どもたちのマナーが徹底していないという状況です。
 山中湖村の鳥はハクチョウです。これは実は今から20年ぐらい前、1981年に撮ったスイス製の白鳥のボートを前に優雅に泳ぐハクチョウの一家です。ここにいる黒いのはみにくいアヒルの子状態の若い1年前に生まれた子どもたちです。遠くシベリアから3つがいぐらいが毎年山中湖へ越冬に来ていましたが、ここ10年ぐらいはこういう光景は見れません。今は山口県のトキワ公園から買ってきたコブハクチョウというヨーロッパのハクチョウが10羽ぐらいいるだけです。この5つがいのコブハクチョウたちは毎年10個ずつぐらい卵を産みます。春先には50羽の雛が悠々と泳いでいます。
 コブハクチョウは1羽50万円ぐらいするそうですから、すごい稼ぎになるのですが、でも今山中湖に行っても、今年産まれた50羽の雛のうちに、もうすでに5羽ぐらいしかいないのですね。年を越すのは1羽か2羽です。このあとでも説明しますが、水も汚れていますけれども、物理的な釣り針とか釣り糸に引っ掛かって死んでしまうということが多いからです。僕も鳥たちと同じような状況になったという体験談を話させてもらいますけれども、これは野生のオオハクチョウです。ゴミ袋なのか農業用のビニルのカバーなのかわかりませんが、海にはコンブとかワカメとかがありますから、湖に来てそういうものと間違えて食べてしまったりします。また、原因不明で死んだオオハクチョウのレントゲン写真の頸のところを見ると、水草と思って飲み込んだ釣り針が引っ掛かって、水も飲めず、声も出せずに衰弱して死んでしまう。胃袋の入り口には小石ではなくて、釣りとか散弾銃の鉛を入れてしまって鉛中毒を起こしているものもたくさんあります。
 富士五湖の周辺は国立公園ですが、一部の地区では狩猟もできます。湖に向かって鉛弾、散弾銃が撃たれていました。ようやく北海道で鉛弾の使用が禁止になって、鉄になったりしましたけれども、まだ本州ではいまだに鉛弾が使われていて、河川の周辺で猟が行われていて、微細なそういう鉛の成分が水に混じることで、一番先に被害を受けているのがこういう水鳥たちや魚たちだと思います。
 細い釣り糸でも体重の重いガンの仲間では、自分の体重をかけて足が切れてお腹が裂けてという形で死にます。人間の子どもだってそうですね。はさみやライターでなければ糸は切れませんから、単に小さなワカサギを釣るような糸でも足首を切断するぐらいになっていると思います。(写真では)ちょっとわかりにくいかもしれませんが、毎日毎日ゴミ袋何杯もの釣り糸が出ていて、これを繋げれば何百キロにもなるそうです。山中湖から東京に行って帰ってこれるぐらいの長さが毎日毎日累積していることになります。
 冬にたくさんの水鳥たちが日本に越冬に来ます。遠浅で水草がたくさん生えているので河口湖と山中湖は一番水鳥が多いのですね。たぶんアフリカのブッシュマンの生活の絵本だと思うのですが、カモのハリボテをかぶって水の中から近づいてカモの足を掴むという絵を子どもの頃に見たことがあります。僕もカモの帽子をかぶって水の中を歩けば、この水の中からを見せてくれるのではないかと思って、実は今から10年ぐらい前になりますけれども、カモそこにこういう格好をして河口湖に潜っていきました。といっても水の温度は5℃ぐらいですごく冷たいのですね。ドライスーツを着て水に浸かって行こうとしたのです。でも、せめて20〜30メートルぐらい透明度があると思ったら、1990年ぐらいですけれども、この当時で透明度が4メートルぐらいしかなかったのです。話を聞くと20年前までは、湖畔の水をすくって飲めたということだそうです。それがたかだか20年ぐらいで透明度が4メートルにまで汚くなってしまった。20メートルぐらいならばカモに寄れるのですが、足元も見えないぐらい状態はひどかったです。この写真ではわかりにくいかもしれませんが、水の上から写した僕の足元です。絡んでいるのは全部ヘドロです。水深10センチぐらいのところから、底に厚さ30センチぐらいのヘドロが積み重なっていて、出てくるのがメタンガスです。メタンガスがボコボコ湧いてきて目が痛くなるというのが、河口湖、山中湖の10年前の状況なんですね。なんとか苦労して撮った写真ですけれども、これでも実は2メートルしか離れていないのです。今の格好でカメラを置いてきて、陸から遠隔操作をして2メートルの距離で撮ってもこんなに水が濁っています。
 これはヒドリガモがさっきの状況でお尻を出して頸をのばして水草を食べています。ここに釣り糸がかかっていれば、針も糸も引っ掛かってしまうというかたちです。それからオオハクチョウもこういう形で水草を食べています。ここに魚も隠れることができるし、卵も産めますけれども、釣り針、釣り糸が水草にかかってくださいという状況なのですね。最終的にこれは50センチぐらいの距離です。カメラの真上を泳いでもらってようやく姿が見えましたけれども、それでも見てもわかるように決して水はきれいではありません。それだけ上流部にはたくさんの家庭からのいろいろな汚れが蓄積しているという形です。

6 川を守るコウモリ

 それからこれはちょっと自慢ができますけれども、ここは忍野村というところです。山中湖から少し下ってきたところです。田んぼがあって、山から新名庄(しんなしょう)川という川が流れてきて、富士山に向かって桂川と合流するようになっています。連休のときにはここは30秒ごとぐらいに順番待ちをしないと写真が撮れないほど車が渋滞しているという、桜と川と富士山の写真の場所のメッカになっています。桜の満開となる時期が5月の連休に当たりますので、桜さえ散ってしまえば、楽に行けるところです。忍野八海から歩いて5分ぐらいの上流部ですけれども、今は良い景色を撮るのにも順番待ちをしなければいかないという悲しい場所になってしまいました。ここより上流の車道のないところに歩いて行けば、桜の並木があって、順番待ちしないでこういう美しい景色がたくさん見れるのですが。夏には清流のトンボが出たりする場所です。昨年、忍野村に水族館(県立富士湧水の里水族館)ができました。今年が2年目になりますけれども、入場者数は1ヶ月で3万人を超すぐらいたくさんの人が来ます。そこも本当に緩やかな湧き水の量があって、すくって飲めるぐらいのきれいさなのですが、どんどん護岸工事が進んでいってますし、水がきれいな分だけ投げ捨てられた空き缶や空き瓶が透けて見えるわけです。
 その周辺はずっとクレソン畑が続いています。クレソン畑ではカモが入って食べられては困ります。主要な産業ですから、防鳥網をかけられて、マゴモやヤマセミ、カワセミというのは、定期的に被害に遭っています。ただ、これは鳥を捕るための網ではなくて、鳥の予防のための網ですから、掛かってしまっても結局故意ではないということで、そのままにされています。水鳥たちにとってはこういう浅いクレソンの生えるような湿地は一番良い場所なんですが、そこに来て能力のあるものが網をくぐって、ないものが網に掛かってしまうということで命を落としたりもしています。
忍野村の夜の主役モモジロコウモリ 今の忍野村の水辺公園では夜にコウモリが飛んでいます。上流の洞窟に棲んでいるモモジロコウモリという、みなさんの親指ぐらいの小さなコウモリです。翼を開いてやっと手の平ぐらいになります。5月から11月ぐらいまでは、毎日、水面から30センチ以内のところを一晩中飛び回り、ユスリカとかヤブカとかいったたくさんの虫を食べてくれます。一昔前は、夜行性動物の観察というのは、ムササビについては高尾山とか都留市とかが有名ですけれども、今ようやくコウモリの観察会も普及し始めて、桂川本流の忍野村のサカナ公園の前では、毎年たくさんのグループや学生たちが参加しています。距離的には3メートルから5メートルぐらいですね。この建物の幅ぐらいの川がその桂川の幅ですから、そこの中央を飛び回るコウモリの姿が見える。コウモリの姿を見て何を想像するかというと、昼間飛び回るツバメがたくさんの虫を食べてくれる益鳥であるとすれば、コウモリはそれ以上に長い時間空を飛んで、昼間のツバメ以上にたくさんの虫を捕ってくれます。コウモリという名前の由来も、水辺の上を行き来するので、川守(カワモリ)、カワホリが訛ってコウモリになったとも云われています。
 これは河口湖です。花火大会の時でもたくさんのコウモリが飛んでます。今でも窓を開けたら、横浜でもブラインドの向こうにたくさんコウモリが飛んでいますよね。アブラコウモリという、町中の建物の隙間に入っているコウモリです。人家の瓦や板塀の隙間に棲んでいて、家の周辺の不快昆虫を食べてくれる非常に役に立つ生き物です。
 これは新宿の駅の西口で、5月の連休に撮った写真です。アブラコウモリは新宿中央公園にたくさん棲んでいます。都庁の裏をビュンビュン飛んだりしています。
 それからこれは8月に撮ってきたのですけれども、(大阪)道頓堀(川)の戎橋の上です。ここも頭の上をコウモリが飛んでいて、僕らのためにああいう聞こえない音で一所懸命虫を探して食べてくれます。僕らはただ気持ち悪い生き物としてしか思っていませんが、川に関係する生き物として紹介したわけですが、町から山までたくさんのコウモリが棲んでいます。

7 上流にもタマちゃんが来たら

 山中湖村、忍野村を過ぎまして、これは富士山の山頂から見た富士吉田市です。今度は都留市、大月市、上野原町の方に桂川がくだっていきます。片方から樹海の水が流れ、もう片方から山中湖の水が流れていきます。下側は北富士の演習場です。
 そして富士吉田市内に入ると、昔はどこでも川で洗い物をしたり、洗濯をしたり、水を汲んだりしていたのですが、悲しいかな全部護岸されています。三面護岸に近いですよね。
富士吉田市小明見大沢川のゴミ 二面は石垣やコンクリートで、下は雛壇式に堰堤になっています。その中には野生のヤマメがいます。西では朱点のあるマスということでアマゴといわれていますが、それが相模川に入って初めてヤマメという魚に変わってくるのです。その一番最初の川ですが、カジカといった魚も棲んでいますが、釣り人はみんな川に降りれずに、歩道の上から釣りをしているという状況です。富士山があって川幅があって、こんなに上流ですからあふれることがないのですね。それなのにどうして川に降りれないのという形です。たくさん山から水を引いたり、自分のうちに井戸があったりして、川の水を使わなくなってしまった。水道ができたことが決定的なことだと思います。上流部でも川に降りられなくなっています。ですから町の中の自然観察会というと、上流と下流のわずかに残された河原に行くしかないわけです。富士吉田の場合は、○○園というホテルの庭だけに川に降りられる道がありまして、わざわざホテルに車を止めて、ホテルの裏庭で観察会なんかをやったりしています。
 今から5年前までは、今いった忍野村、富士吉田市の二つの町に自宅の前にみなドラム缶の簡易焼却炉があったのです。それはどこに建てているかというと、全部、側溝の上に建てているのですね。行政、市町村から焼却炉を買うと補助金がついていました。でもドラム缶ですと安いですから、すぐ手に入ります。
 これは少し分かりにくいかもしれませんが、自分の家の玄関のところからずっと山水が流れている溝が続いていて、ここにドラム缶が3つあって、みな玄関で物を燃して燃え残しは全部、溝に捨ているという状況がつい最近までありました。忍野村、富士吉田市だけで桂川に2千のドラム缶がありました。これを何とか撤去できないかということで、みんなでシンポジウムを開いたり、警察や消防署に行ったりしましたが、なんとか消防法に引っかかるということで、消防団にやっていただいて5年間で約10分の1に減りました。それでも年配の方はゴミを減らそうとして、良かれという気持ちで燃して少なくして、川に灰を捨てるという形です。今でも少ないとはいえ、500以上のドラム缶焼却灰が残っています。雨が降ったあとにはその燃え残りが側溝を埋めてしまうことが、いまだに続いているわけです。そのまま捨てるのもいけませんが、中途半端に燃して有害物質を増やして、それがもろに下流の人々の飲み水に入るのは、多分非常に迷惑なことだと思います。
 富士吉田の市内から500メートルぐらい上のところに北富士の有名な浅間神社という、武田信玄もお参りした富士宮の浅間神社と合わせて、二大浅間神社と呼ばれるところがありますが、ここに宮川という川があります。ここも完璧な三面護岸で、ホタルもカジカも何一つ棲めません。それから上で捨てたゴミはもう直通で下に集まってきます。ゴミが引っかからないから、住んでいる人は気持ちよく住んでいますけれども、逆に、贅沢な話ですけれども鳥もうるさくなくなったといわれたりもします。桂川でヤマメを捕らえたニホンイタチ
 そこにたくさん棲んでいたイタチです。今は、カワウソが滅びかけてもう何年にもなりますが、イタチもカワウソに後追いして、日本中から姿を消しています。水辺がなくなって、このような道路の側溝に暮らしていて、繁殖期にちょっと追っかけをすれば、車に轢かれて終わりという形で消えています。
 先ほどの下流が富士吉田のど真ん中です。ここの上がVの字になっていて、河口湖や山中湖からの水がつながっているところです。水質は非常に良いと思います。水量も多いです。ヤマメもニジマスもイワナもカジカもたくさんいます。昨年、河川改修が入りました。これでもゴミが引っかかりやすい東京電力の取水口に運ぼうということで、こんな形で堰堤ができたのですね。堰堤ができて下がなだらかな川になって、ゴミだらけは相変わらずです。そこに神奈川県から釣り人が来て、フライフィッシャーマンがここで毛針釣りを毎週やっています。上流の人からみれば申し訳ないような、何でこんなところで釣りをするんだっていうぐらいのところです。
 とにかく下流よりずっと上流はひどいことになっています。このゴミは一体どこに行くのかというと、その下の何キロずつかに東京電力の取水口がありまして、そこで自動的にベルトコンベアで回収され焼却されるという算段で、それがあるために地元の人はほとんど気がつきません。自分たちが流したゴミはどこかで、東京電力が無料で回収されている。東京電力の人も20年前よりも10年前、10年前よりも5年間になるとゴミが半減したといっているのですね。半減していても、下流の人からすれば信じられないぐらいのゴミの量です。上流にタマちゃんに代わって何かが来て欲しいぐらいです。何か出ればこの汚さがわかるなと思います。下流のきれいさがうらやましいぐらいです。僕も上流では撮影できないのです。カワセミがいてもヤマセミがいてもイタチがいても、ゴミの中ですから。ゴミ掃除をして動物の写真を撮っていますが、動物がいてもその時にゴミが流れていたら写真は撮れません。仕方なく先週のナイト・トークにいらしていた中本賢さんのいる川崎まで下ってきて、川崎で川のタヌキを撮ったり、きれいなドブネズミを撮ったりというへんてこな話です。上流では写真が撮れなくなって、海のそばの下流に行って写真を撮っているという状況が今も続いています。
桂川渓谷のゴミ(富士吉田市小明見)
 これも自分の恥をさらすようですが、僕の住んでいる富士吉田の小明見(こあすみ)というところは、山を越して明日富士山を見ようという場所で、富士吉田市では唯一サワガニ漁がされていて、子どもたちがとって唐揚げにして食べる、そんなサワガニがたくさん捕れる沢です。しかし、もうこういう状態です。この上には人家が50軒ぐらいしかありませんが、累積したゴミが詰まっています。そこから下の富士吉田から西桂町の境までのところは、猿橋溶岩流という富士山の溶岩が流れたままのすごくきれいな渓谷になっているのですが、そこは護岸工事で人が降りれませんから、たくさんのゴミが累積している状態が続いています。
 たくさんの滝があって、そこで粉砕されたりしますから、水のよどみが、きれいな(…テープ交換…)があるのですね。ここも湧き水でできている湖ですけれども、実は750メートルぐらいの日本で一番標高の高い所でメダカが生息している場所なんです。もともとは甲府からもってきたメダカですが、江戸時代の末期ぐらいからずっとこの湧き水でメダカが生息するといった珍しい場所で、これも直接湧き出した水が桂川に合流する小さな湖です。ここも回りの自然が一杯で、カワセミがいて、今から15年ぐらい前に撮った写真がそのままラムサール条約記念切手の20種類の鳥の絵柄の一つになっているぐらいの場所でありました。それから、そこにはヤマコウモリという大きなコウモリが水を飲みに来ます。そのコウモリは本州に棲んでいる中では一番大きなコウモリで、羽根を広げると45センチぐらいになります。確か横浜でも大きな木の穴に棲んでいたのを確認されていたと思います。ひらけた平らな水面が必要で、大きな池や大きな川の淵でしか水が飲めないというコウモリです。それが見える場所でもあります。ですけれども、周辺が区画整理されたり、産業廃棄物の処理ということで、雨の日に汚染物質が入ってそのまま桂川に流れ込むという状況です。しばらくこんな状態が続きましたけれども、ようやく20年かかって来年あたりにここが自然公園として生まれ変わろうとしています。
 僕たちの仲間は休耕田を借りて、池で死に絶えてしまいそうなメダカや、いろいろな水生植物などを移して池がきれいになるまでストックしようということで、10年以上メダカの学校運動を続けています。田んぼに小学校、中学校でみんなで田植えをして、その水を引いた田んぼでメダカを増やして、田んぼがいかに生き物にとって棲みやすいか、ゆりかごになっているかということを知ってもらおうとう形です。メダカの糞だけでつくったお米をまた秋に稲刈りをして、餅米と交換してもらって餅つきをするということをずっと続けています。ようやくそういうことが実って、来年はさきほどの池が少しはきれいになりそうです。けれども、地元の人は、せっかくきれいになるんだったら、そこに富士山を見るための展望台を作ろうといっています。富士山が見えないから小明見という地名なんですけれども、都会から来た人たちは今日見えるように展望台を作ったり、人間が使いやすい施設を作ったりという、都会的な発想が今どんどん出ていて、どういうふうに収拾しようかと困っています。そのまま昔の自然のままにするのが一番だと思っていますが、木道を作っても、その木が朽ちたら誰が修理をするのかということになって、じゃあ鉄筋でやるしかないのではないかということになって、どんどん都会の話になっていきそうです。そんな場所も未だにどんどん護岸工事が進んでいるのです。あふれない川にするために、なぜか二面コンクリートになったり、河床を平らにされたりということです。

8 次に迷惑を被るのは人間だ

 それから富士吉田を過ぎて、中央高速道路を走っている西桂町まで下ってきます。西桂町も護岸工事がされています。ここも溶岩流がすごくきれいに川の景観となっているところで、非常に水がばっ気されたくさんの溶存酸素を含み、水がきれいな場所だったのですが、もう3分の2ほどダイナマイトで爆破されて、三面コンクリートではありませんが、川底を平らに広く、横は完全にコンクリートで塞ぐということをされています。後ろは富士山がそびえているのですが、全然景観は配慮されずに、いまだにこういう護岸工事が富士山へと迫っています。
 大月のあたりでは、いまちょうどリニアモーターカーがここを通っていますが、これはそれ以前の1991年の上空からの写真です。僕がカメラマンとして独立した日に、山梨県にある日本航空学園というところのモーターグライダーに乗らしていただき、いろいろな開発の状況とか山の状況を見ようということで、1991年5月1日の日の写真です。ここでもたくさんのゴルフ場の造成があったり、もうすでに営業しているゴルフ場があったりという形で、桂川の両側はかなり厳しい、水がどんどん枯渇している状況が分かると思います。以前はたくさんのゲンジボタルの名所だったのですが、今は湧き口にかろうじてゲンジボタルが残るだけという状況になってしまっています。今の開発は本当に速くて、1月ぐらい経つとあっという間に、昔あった山が全部切り取られて、ほとんどナラやクヌギの山だったのが、それが切られて住んでいたサルが全部散り散りになって、それが里山に被害を与えるようになっています。
 ここに都留文科大学。それから有名な鹿留川(ししどめ)川という、奥に行けば二十曲(にじゅうまがり)峠に繋がって、非常にきれいな、イワナやヤマメのいる沢があります。こちら側から桂川に流れて、西桂町の方は柄杓流(しゃくながし)川があって、都留市で桂川の本流になります。アユ釣りでも有名な所です。ゴルフ場が造成されるところの上空から見た状況ですけれども、芝が生えるとただの緑になりますが、保水力がないので、それまでいたホタルやカジカがいた沢が全部堰堤や沈殿槽によって堰き止められ、ホタルやカジカ、イワナ、ヤマメなどは全滅です。ゴルフ場のエリアの数倍の範囲の沢がゴルフ場によってただの水路になってしまう。本来はここから非常に良質の水が採れるはずなのに、それが泥水になって桂川に注いでいるというわけです。
 住めなくなったサルたちは富士急行線を渡ってきます。何をしに来るかというと、最初のうちは謙虚で冬に刈り取りの終わった田んぼに入って、コンバインの落としていった落ち穂を拾って、米を食って生きのびていました。でも、だんだん贅沢になってきて、カボチャを盗んだり、干し柿を盗むようになってきました。富士山にもサルがいないはずだったのですが、周辺に住めなくなってきて、水の少ない富士山にもサルが入り始めたりしています。長い間、サルが奥山で、人間が里で仲良く暮らしてきたのですけれども、あまりにも桂川周辺の山沿いがゴルフ場の開発でサルが行き場を失っているという状況です。
 ムササビも実は非常に困っています。ネコぐらいの大きさでしっぽが非常に長い動物です。北海道以外で非常にたくさん住んでいる里山の動物です。空を飛べますから、桂川の深い谷が絶好の場所なんです。上から落ちたクルミだとかドングリが流れ着いて、河原の肥沃な泥の上に大木を残して、大きなうろを作り、そこにムササビが住んで、危険物のない川の上を飛び交って餌場とねぐらを行ったり来たりという状況だったのです。しかし、川沿いにある大木のケヤキがせっかく根を張って護岸を支えているにもかかわらず、周辺に枝を落としたり、台風のときに危ないということで護岸工事のために全部切られてしまいました。ムササビはしようがなく、川沿いの電線を渡って、雨の日は感電してしまったり、若いムササビが夏の終わりにせっかく自分で飛べるようになったら、電線に頸を引っかけて、頸の骨を折って死んだりしています。このように身近な生き物のイタチやムササビがすごく迷惑しているというのが、今の桂川を取り巻く水辺や森の現状です。次に迷惑を被るのは人間だと思います。

9 「水に流す」上流の習慣

 都留市の中央です。今年もここをコンクリートで溶岩のように直しましたけれども、それでも上から来た水は夏のときにはほとんど無いです。すべて、この場合は100%取水されて発電用に放水路の方を通ってしまって、本流の方には水は流れていないという状況です。それ以前に水の絶対量が、山の緑が減ってしまったり、植林地が手入れ不足で、そのまま鉄砲水として雨が素通りしてしまっている結果が、夏の本流に水がないという状況を生み出したりもしています。
 ここには水はありませんが、実はここに少ししか見えていませんけれども、滝があるのですね。十日市場というところで、富士山の湧き水がたくさん湧いています。ここの水は手ですくって飲めます。飲めるのですが、滝壺を見てもらうと、上に100軒しか集落がないのですね。100軒から流れるのはほとんど生ゴミですけれども、それが累々とたまっている状況です。本当は、コンビニエンスストアで買うと1リットル100円以上する貴重な水なんですが、地元ではこういう状況で使われています。生ゴミでも相当富栄養化を招くと思いますし、たくさん混じっているビニルや缶や瓶なども当然あるわけです。
 これは城山温泉というところのすぐ隣ですが、よく見ると、昭和30年代、40年代ぐらいの古い空き缶がうず高く、もう何メートル積もっているんだというぐらい積もっているんですね。まだプルトップではなくて、缶切りで穴を開けているような缶も累積しているぐらい桂川の上流からの空き缶が化石というか、地層のように積み重なっています。
 都留市の大月よりも少し手前の田之倉というところにはたくさん溶岩があって、昔は渡し舟が出て、屋形舟で楽しんでいたというところがあります。それも今から10年ほど前からの護岸工事で、固まった溶岩の岩も全部撤去されて、全部コンクリートでやりかえして、非常に都会の川よりももっとひどい、ただの大きな水路になってしまいました。この周辺はたくさんカワセミとかヤマセミがいましたが、今は全く姿が見えないですね。下流に下ってきて、カワセミは今では山で見られなくなって町で見られるために、別名マチセミとも呼ばれています。多摩川でも丸子橋のあたりまで下ってきたりして繁殖しています。甲府でも笛吹川の上流部にヤマセミがいなくなって、市川大門(町)とか下流に下って繁殖しています。中洲にちょうど砂が累積して巣をつくるような土手の場所が、上流部も下流部でもなくなりましたから、中流の中洲で繁殖するような形にずれてしまっています。
 それから大月です。猿橋という日本三奇橋の一つの、文化財として非常にいい橋があります。行ってびっくりするぐらい小さくて短い橋ながらも美しい橋が桂川にかかっています。しかし、その下ももうたくさんの産廃が流れていたり、対岸を見るとお土産屋さんからたくさんのゴミが土手下の河原まで落ちていてガッカリすることもあります。昔からの習慣で、「水に流す」という習慣があって、なぜか上流の人は生ゴミは水に流すのですが、おしっこは直接川にはしないのですね。水が汚れるからということで、おしっこは土にします。しかし、生ゴミは水に流すものだという風習があって、いまだにそれは年配の方々に残ったりしています。
 それで今度は大月から上野原の方を見ます。これも上空のモーターグライダーから見た状況ですが、桂川は谷を一気に蛇行して川幅が広くなります。大月から上野原まで南斜面の日当たりのいい一番森林の豊かなところにもずっとゴルフ場群があります。日当たりの悪い不便なところに人間が住んでいる形になっています。
 これは大月にある一番先に開かれたニュータウンです。駅まで行くのに15分ぐらいかかるので、ここに日本一長いエスカレータができましたが、今は止まっていますかね。半年毎ぐらいに壊れて閉じこめられて、結局、確かその後は中止になったかなと聞いています。山を切り取って平らにして、そこにニュータウンができて水が足りないということで、上には有名な小金沢の釣り場がある葛野(かずの)川という非常にきれいな川にダムを二つ作ろうということになりました。上のダムから流した水を夜間電力で下のダムから汲み上げて、二重発電しようということです。もちろん取水した水はニュータウンの人たちの飲み水になるはずだったのですけれども、循環式ダムの構想は、ニュータウンにも入居の当てがなくなったり、それから、葛野川沿いに建設用の道路ができたのですが、今ダムが必要かどうかということで、結局、ダムは一つになったと思います。それでも過剰なダムの作りで、その美しい川の水量が減ってしまったり、道路建設のためにそのまま小菅村とか丹波山村に続いて、奥多摩湖にも続くかなりの大森林が伐採されてしまいました。
 ニュータウンは町の人が住みますが、地元の人はどこに住んでいるかというと、河原の傾斜地を切り開いて住んでいます。台風とか大雨のときには上が護岸工事をして鉄砲水が流れてきて非常にびくびくしながら暮らしています。北斜面の日が当たらない水がかぶりそうなところが住居で、南の一番日当たりが良いなだらかなところがゴルフ場という不思議な図式が上流部での関係になってしまいました。
雨の後の相模湖のゴミ(その1)雨の後の相模湖のゴミ(その2)

 これはどこかというと、台風の後に撮った神奈川県の相模湖の写真です。湖面の半分は山梨県のゴミで埋まっています。ここでもせっせとゴミを撤去してもらって、何日かすると全てのゴミがなくなるという状況が続いていて、本当はもっと山梨側に苦情がどんどん来てもいいはずなんですけれども、本当に雨の後に桂川を下っていくとびっくりしますよね。これだけたくさんのゴミが累積していたのかと思うほどです。

10 太平洋の海鳥の突然死が意味するもの

 100枚の写真のうち、これだけ僕の写真ではありません。これは実は10年ぐらい前に野鳥の会の会報に載った写真で、北太平洋の真ん中にあるミッドウェー諸島で写真家の浅井慎平さんが撮った写真です。何の写真かというと、突然死しているコアホウドリという10キロぐらいある大きな鳥の子どもの写真です。ここにくちばしがあります。実物の4倍ぐらいの大きさになっていますけれども、北太平洋の真ん中でお父さん鳥やお母さん鳥が採ってくる魚やイカしか食べていないはずのコアホウドリの赤ちゃんのお腹の胃袋には、ファストフードのプラスチックのフォークから、使い捨てのライターから、もうありとあらゆる人間の使い捨てしたものが入ってくるわけです。もっと恐ろしいことに、ミッドウェー諸島に流れ着くこういうゴミの45%が日本のものだそうです。あんなに遠くても黒潮に乗って流れていきます。どうして子どものお腹に入ったかというと、親鳥がプラスチックのライターをイカだと思うでしょうし、捕まえた魚がフォークを小魚と思って食べたりしたということで、とにかく人間の文明とは全然無関係の、太平洋の離れ小島の海鳥がこんな形で死んでいるわけですよね。
 もっと恐ろしいのは、死んで鳥は土に返りますが、捨てられたゴミはまたそのまま海に帰ってしまいます。このライターを捨てた人は多分、捨てた時点から100年は生きられませんよね。人間ですから。このライターを捨てた人が100年生きたとしても、ライターは何百年も生き物を殺し続けていくわけです。魚を殺したり、鳥を殺したり。それで海の中に環境ホルモンをまき散らしながらということです。ですから、富士山の山頂でも町でも捨てられたゴミは、リサイクルされない限りは必ず海に行きます。それでこの海鳥が強い個体で山の上を飛んでいるときに死ねば、山の振り出しに戻って、また山から汚染が始まるという形です。僕らの身体もレントゲンでは写らないでしょうが、こんな状態にきっとあるわけですよね。目に見えないダイオキシンから始まった環境ホルモンでたくさんの異物が入ってきて、それがガンになったり、いろんなことで命を縮めているわけですけれども。

11 良かれと思ってやっていることが…

 下流はきれいなので、下水も下水道が通っています。でも、本当に下水で化学的に中和して滅菌した水を海に出していいものかということもあります。人間が排泄するものの中からは、土に返る養分になるものもたくさんあったりすると思います。川をある程度生かして、広い河原の中を川が自由に動き回って、上流の土砂を堆積物にして、平地の土が肥えて海が豊かになるみたいな形の構図がないといけないのに、今は養分ではなくて逆にゴミが流れてきているという形です。
 上流の人たちは森を豊かにすると人は来てくれると思っています。これは今、富士吉田、河口湖でやっている話です。溶岩の養分のないところにアカマツの原生林がまず最初に生えます。そのアカマツの原生林を切り払ってカラマツを今度は植えたりするのですけれども、それだけでは芸がないので、その下にマメザクラ、別名富士桜という桜が生えると、普通のサクラが咲く時期よりも半月遅れて咲きますから、ちょうど連休のときに花霞のようになって、お客さんが呼べるということで、ここ数年、富士桜祭りというのを河口湖、富士吉田でやっています。でもこれは大半が鳥が運んで植えた木なのですが、その他にももちろんカエデやナラもクリも生えるんです。すべて下草刈のときに富士桜以外は切られて富士桜しか残していないのです。足りないところは他の林から抜いてきてここに植えている。それから植林地で富士桜を植える。それから国道沿いでは鳴沢村という別荘地で有名な村も、今はつつじ祭りということで樹海の上のミツバツツジだけを残してあとの木を全部切ってしまいました。それでも数が足りないから普通の観葉種のツツジを植えたりしてます。植林地に1種類でも増やせば悪いことではないのですが、人間のためになるものだけを残して、あとの雑木は全部切り取ってしまうということが緑化と称してどんどん行われています。
 それからこれは今から5年ぐらい前に僕の息子が小学校のときに、理科の先生たちが作ってくれた環境の副読本です。ここに美しい町として、富士吉田の唯一のパインズパークという芝生公園とそこに植えたケヤキの写真が載っています。その向こうには天然記念物の諏訪の森のアカマツの原生林があったりするのに、何故か芝生公園の写真があって、表紙を開くと婦人会の方たちが、花を買ってきて道路にポット苗を富士山の形に並べている写真がある。とにかく昔の人手を入れた里の自然を残そうという配慮というか、それの文化を伝えるという配慮がなんにもないのです。緑イコール自然、花イコール自然という形で大人が子どもに教えてしまっているのです。だから、花のなる木を植えたり、実のなる木を植えたりするのだけれども、落ち葉が落ちたり、人間には役に立たないように見えるけれども、土や水のためにはすごくいい雑木というのがたくさんあるのですが、そういうのは下草刈で刈り取られてしまっているという形が続いています。
 これもその一例です。河口湖ですが、あまりにも観光客がタバコをポイ捨てする。どうしたらよいかということで、河口湖の湖畔には勝山村という日本一小さな村がありますけれども、そこで幼稚園の子どもからお年寄りまで全部集まって会議をしたのです。湖畔を全てきれいな白砂で埋めれば誰もゴミを捨てないよ、ということで環境庁も文部省も通って、中国の方解石を輸入して湖畔に全部撒いたのです。そうすると晴れた日には目も開けられないぐらい眩しいですし、玉砂利ですから岸に打ち寄せる波がなくなるのです。今まで湖畔にあったのは溶岩のスコリアという軽石みたいなもので、たくさんの泡が出て、たくさんの生き物の繁殖場所になっていたのですが、もう玉砂利では波も起きないのですね。目も開けていられないということで、環境庁の人が来たらもう一発で、国立公園内ではとても許されないということになり、1週間で撤去されました。
 人為的にコンクリートで埋めたり、白で隠してしまえば、ゴミの投げ捨ても少なくなるだろうし、見た目もきれいだろうという短絡的な発想ですが、こうした都会の人から見れば、十年前、二十年前の知恵というか情報がタイムラグを置いて上流に入ってくるわけです。これはたまたま撤去されましたけれども、上流の人は見た目をきれいにしてたくさんの人にくつろいでもらおうということで、良かれと思ってこういうことをするということをやはり知ってもらいたいと思います。こういうことを上流部でされると、下流の水は歴然として汚れるし、水量も減るということを下流の方は知っておいて欲しいと思います。都会の人が上流に行ってどういうことを望まれていますかといたようなアンケートがあると思うんです。自然のままに残すこともそうですけれども、下流にまで流れる水や空気のことも、将来のことも考えてやって欲しいなということも是非伝えてください。
 これでちょうど100枚のスライドが終わりました。

12 川や動物の写真で伝えていきたいこと

○司会(原田)
 今スライドを見せていただいて、私個人の感想として思ったのですが、私たちの営みというのはこれほど自然に影響を与えているのかなというのが、私の持った第一印象でした。それと、たぶん皆さんは初めてご覧になる相模川の上流の景色かもしれません。私も一度中川さんにご案内いただいて、山中湖から桂川をほんの一部だけですけれども、一緒に回って見せていただいたことがございます。私だけだったのかもしれませんけれども、私たちの抱いている水源といいますか、私たちがふだん使っている相模川の水の源流というのは緑の深い森林をイメージしていたわけです。ところが、実はこうやってご覧いただいたように、相模川の上流というのは大勢の人たちが住むこのような川だったのだということを、今日はご覧いただけたのかなと思います。
 いろいろとご質問があるかと思いますが、私から最初に1つだけお尋ねします。さきほど控室で中川さんに少し伺っていたのですが、こういった自然保護というか、環境に目を向けるようになったのは、サラリーマンをされていたときに何か感じたところがあったと伺ったのですが、その辺りをみなさんにご披露いただけませんか。

○中川講師
 まず自然の大事さに気がついたのは、中学校まで育っていた山口の美祢(みね)という炭坑が閉山して、急に都会に出ざるを得なくなって、それまでは都会にあこがれていたりもしていたのですが、いかに空気のおいしさ、水のおいしさ、それから緑のやすらぎというものの良さを中学校の子ども心にも思っていたのですね。たまたま東京の大学に出て、2年目からは三軒茶屋の校舎に移ったのですが、1年目は藤沢の六会(むつあい)でした。そこは川も山もあり、のどかなところでしたので、できるだけその自然の中で勉強したいなということで、芦ノ湖で卒論を書くことを決めました。そして、箱根で卒論を書いているうちに、箱根と同様の自然の残った川や山があるところに暮らそうということで、また、就職試験も受けたくないなとも思っていましたので、芦ノ湖にニジマスとかブラウントラウトを卸している山梨県の富士吉田の養鱒場に推薦していただき、そこでそのままもっと田舎にということで、富士山の麓の桂川の川の真横にある養魚場に1980年に就職しました。
 僕は大学で養殖、増殖を専攻し、魚を増やすのを良かれと思って勉強していました。芦ノ湖でもワカサギが増えなくなったのは水が汚れているわけで、汚れている水でも何とか増やせないかという方法を研究していたのです。富士山の桂川のきれいな水でおいしいニジマス、ヒメマスをたくさんつくれればいいなと思って就職したのですが、そこは実はみなさんが飲んでいる水道の最上流部です。山中湖からすぐのところですが、その僕の勤めている養魚場だけでも、今もそうですけれども、1日4トンぐらい餌をニジマスにやっています。もともとはそれが海のイワシだったり、オキアミだったりするのですが、1日4トンのニジマスの餌をやるということは、3トン200キロの糞尿をみなさんの水源である川に毎日毎日流しているのです。海の養殖でもそうです。タイを1キロ育てるためには、イワシを5倍やらなければいけないわけで、その4倍はどこに消えるかといったら、海底に糞尿として流れるわけです。養殖は、魚を増やしているのではなくて、安い魚を高い魚に変えているだけなのですね。場所によっては糞尿が養分になって戻るかもしれませんから良いかもしれないけれども、最上流部でそういうたくさんの飼料があって、糞尿を流すのは、極論を言うと、何か犯罪というか、毒を流しているような感じにも見えました。ニジマスの卵は1粒1円ですから、こぼしてもプチプチ踏んでいけるのですけれども、ヒメマスの卵は1粒5円なので、よけて拾い歩かなければならないのですが、生き物を生き物と思えなくなるのです。何か生き物の組立工場のようになっています。
 とてもこのような職業は長続きできないなと思ったし、まず、川を良くしていると思ったことが却って川を汚していることに気がついたわけです。ただ、今は沈殿槽とかがついて、糞尿は除去できるようになっていると思いますが、その当時は垂れ流しでしたね。雨が降ると、みんなで一所懸命底に溜まったニジマスの糞尿をデッキブラシで流していました。そのような中で、養魚場では害鳥であるカワセミが魚を採りに来ます。きれいな鳥です。山では夕方になるとムササビが啼いています、ということで、昔の育っていた頃を思い出して、鳥を見たり、動物を見たり、富士山の写真を撮る以上に、そういった動物たちの写真を撮っていました。それも昔は捕って食べていたわけですよね。鳥だってパチンコで打ったり、霞網に掛けたりして、おやつ代わりに食べていたものを、今度はカメラで撮るという方法に代わっただけで、意外と近くに寄れるすべは知っていて、思ったよりもいい写真が撮れる。そんなことで喜んでいるうちに、バブルの絶頂期に向かって大開発が進んでいきます。富士山の写真を撮っている人はたくさんいます。でも川の写真を撮っている人もいないし、動物を撮っている人もいませんので、せっかく動物に近づく方法を知っている僕としては、何かアピールする方法としてこういった写真が使えないかということを考えました。それからせっかく戻ってきた第二のふるさとの田舎が、川はコンクリートで固められる、山は削られるで、何のために田舎に引っ越したのかわからなくて、これでは町にどんどんなってしまうというので、地元の人に地元の良さをアピールする方法はないかということで、水がこんなに豊かで、山がこんなに豊かで、こんなに生き物がたくさん棲んでいて、都会の人たちからあこがれていますよという写真を撮るようになったのです。
 それにもかかわらず、開発が進んでしょうがなしに、こういう開発の写真も撮らざるを得ない。自分たちの恥をさらしているみたいな形なので非常に心苦しいです。でも一番写真が早く、みなさんのところにダイレクトに伝わる形かなということで今やっています。そんなことで写真を撮るようになりました。

○司会(原田)
 ありがとうございます。中川さんは実はこうした活動を通して、俳優の根津甚八さんという方をみなさんご存じでしょうか。その根津甚八さんとか、先週、このトークに登場していただきました中本賢さん、アパッチ賢さん。そういった方とも交流があるそうです。そんな話も質問の中に入れていただいても結構です。これからみなさんから質問をお受けしたいと思います。もし差し支えなければ、どの辺にお住まいかということとか、お名前も差し支えなければ、名のっていただいてご質問いただければと思います。

○中川講師
 どんな質問でもいいですよ。僕も山梨県に四半世紀ぐらいしかいませんけれども、その間でも本当に変わりましたからね。当時は水はまだたくさん飲めていたのですけれども…。

○司会(原田)
 はい、どうぞ。

13 下流からの声が上流をきれいにする

○会場参加者Aさん
 横浜に住んでいます○○といいます。確かに横浜に住んでいると、いろいろな物がすぐ手に入って、便利でということで、田舎の人たちが町の暮らしにあこがれるというのもわからないわけではないのです。でも、逆に都会に住んでいるが故に、やはり、今おっしゃったように、田舎の良さというのか、そういうものを残していって欲しいなと思います。そう思いつつも、いざ都会に住んでみると、自分が都会に住んでいる便利さに流されているところがあったりして、そういうところで(田舎の良さを残すということは)難しいのかなと感じつついるわけです。その辺やはり難しいのでしょうかね。

○中川講師
 まさにそうなんですけれども。でも、交流がありますね。例えば、上流と下流で親戚があって、お盆に帰ったとき、「まだここはホタルが見れるの?」とか、「スイカを川で冷やしているの?」とか言われたりすることがありますが、たった年に何回しか来ない都会の人にそんな言葉で誉められるだけでも、それを張り合いにそれを残していこうという元気が出たりすることもあるんですね。
 年に何度かしかありませんけれども、上下間の交流で、都会の人たちに上流を案内したりします。そういう時に、都会の人たちが「なんて空気がおいしいんだろう」とか、「富士山がこんなに近くに見える」といった一言だけでも、上流の人がもう一回、本来の価値観に気がつき直すということがあると思います。
 山梨は富士山の麓ですが、悲しいかな裏富士とも呼ばれています。富士山の北側、陰側で非常に標高も高い。富士山の溶岩流の上ですから、土地もやせています。唯一のとりえの水がきれい過ぎて、それも非常にミネラル分の高い硬水です。だから加工水としてはいいですけれども、そのまま飲むにはどうかと思います。ズシッとお腹に響くような感じです。静岡県に降りて柿田川の水を飲めば、なんてまろやかなんだろうと思うのですけれども。だから、水はきれい過ぎる、冷たすぎる、おいしいお米もできない、ということで、意外と桂川の上流部、山梨側の人は富士山に対する思いというのは全然違うのです。あの山がなかったら、いかに日当たりが良くて、土が肥えていたろう。さっき出ていた忍野村なども全部御殿場から牛と馬で土を運んで、田んぼを作ったりしているようなところです。今まで富士山に虐げられてきたので、征服しようというということがあるのですね。山梨県自体が建設業がすごく強いということも、今までずっと自然の力に押さえつけられていたのが、やっと人間の力が勝ってきたという形でやっていたのです。でも、それが虐げられていたのではなくて、一番必要な水とか空気とか、それから谷が迫っていて、狭いところで作物が採れないところにしか人間は住んでいないけれども、山の恵みでキノコを採ったり、山菜を採ったりして暮らしていた。今、都会の人からみるとすごく贅沢なことじゃないですか。だから、今の都会の人の率直な目で意見を言って欲しい。確かに、ずっとそこに住んでいると、カラオケやなにやら恋しくなるけれども、今ではカラオケは田舎でもあるし、ファストフードもあるし、今でこそ都会の良さが田舎に全部凝縮されていますよね。ですから、そういう近代的な生活もできるのに、とりまきの自然環境は、上流部はすごくすばらしいから羨ましいんだよという形でダイレクトに話すことができれば、そうすれば田舎に住んでいる人は、優越感ではないですけれども、地元に愛着を持つと思うのです。
 いまのところ、富士山の北斜面の山梨側はたまたま自然環境が厳しかったから、水や山に対する愛着が逆になかったかも知れないのです。だけど、今はそういう時代ではなくて、本当に便利な世の中になっていますから、昔はすごく虐げられてきたかもしれないけれども、今は富士山が見れて、おいしい水が飲めるというのはすごく良いですよ、という本当の思いを、上流のできるだけ多くの人に直接伝えてもらえればと思います。それは(上流への)観光旅行ではなく、川なら川、山なら山というようなことのきずなで、同士とか兄弟という上下間の関係で交流がもっともっと盛んになって、下流の人を思うというのではなくて、下流の人から羨ましがられているということだけで、上流の人はもっと自分たちの回りの自然を残そう、少しでも昔の状態に近づけようということに気がつくのではないかなという気がします。
 だから、都会の人たちが誉めてくれることが一番です。何も都会を羨ましがらなくたって、これもあるし、あれもあるし、最悪、中央高速で一時間、電車やバスで一時間半でこれる話で来れるでしょ、という話をしてもらえればいいのではないかなと思うのです。下って行くのは一時間で来れますけど、みなさんが休みの日などに大変な思いをして上流に登って来られてくるといったことも上流では気がつきません。近いといっても一時間もかかるじゃないかといいますけど、田舎の人は一時間で帰れますよね。でも、下から行った人は3時間かかって、ひょっとしたら半日かかってこっちに戻らなくてはならないということもあるわけです。上流にいると、例えば、高速道路を一つ使う使い方でも気がつきませんので、直接、上下の人たちが日常の話をしてもらって価値観を高めていけばいいかなという気がします。これでは、まだまだ交流事業は少なすぎると思います。

14 汚しているのは私たち自身?

○会場参加者Bさん
 今見て、びっくりしましたよ。中川さんが一人でこんなところまで…。それに対して行政の立場の方が見てどう思うんですかね。一人じゃどうにも出来ないですよね。やはり行政が動かなければね。

○中川講師
 そうですね。今回も県の担当の方が現地を見られて、僕にこっちにきてくれという形がありましたからね。

○会場参加者Bさん
 それで行政は水源環境を考えるといったことをやっていらっしゃる。でもこれじゃ現実的に間に合わないと思いますよ。私は戦争中の学童疎開の年代で、母の実家の小さな島に行ったんです。横浜の私の家は井戸だったのですが、透き通ってました。小さな島の水は??色をしていて、最初は飲めなかったんですよ。それでも、飲まなきゃ生きていけないのでだんだん慣れて、それで終戦になって帰ってきました。その後、いとこの話では、島の水はこれではダメだということになって、今度は本土あら水船で運ぶということになりました。それで経費がかかるんで、水道料金が日本一高いといっていましたよ。それで落ち着いているらしいのですが、(水をきれいにするためには)もう少し行政がやってもらわないと。

○中川講師
 僕もそう考えますよ。例えば僕が横浜市長なら、源泉から直にパイプラインを引いて、一番おいしいところのお水を市民に飲めるようにしますよ。わざわざ汚れた水を持ってくる必要はないですから。本当はそれぐらいの意気込みでね。実際、発電用水は、極論をいうと、途中で生き物に水をやらずに、パイプラインを引いて(川の流れを)はしょったりしているわけです。
 水が余っていると、当たり前に感じてしまって、水道からミネラルウォータが出ていても何もありがたみがないわけですよね。でも上流の人がここに来て、ここから直接水道から飲めといったら、消毒の臭いがするだけで、飲む人がいないと思うんですよ。お金をかけてもミネラルウォーターを買いに行くと思うです。今言われたのもそのとおりで、なければないで高くてもそれを使わざるを得ないし、それから価値観の問題ですよね。ないとなればどんどん貴重なものになるのだけれど、あふれているとそれは当たり前のものになる。まさに上流は緑の自然にあふれているので、全く自然の尊さに気がついてないですよね。それでもこの20年を見ていると、ようやく桂川・相模川流域協議会が始まってもう十年近くなりますけど、それまでは山梨県と神奈川県との間で、県境を越えた上下間の水問題は考えてこなかった。水の管理と権利は東京電力といった方にあるわけです。ようやく、上流と下流同士で考えようということになって、まだ5年、10年ですね。

○会場参加者Bさん
 やはり行政には権力というものがあるんじゃないですか。権力で下々は何も考えさせられなかったというようなことがあるのでないですか。

○司会(原田)
 私がお答えした方がよろしいでしょうか。こちらの方も質問がありますが。

○会場参加者Cさん
 横浜市に住んでいます、○○と申します。いろんな貴重なお話ありがとうございます。はじめて聞くことが多かったのでびっくりしています。いろんな意見があっていいと思うですね。今、行政の話が出たのですが、私はまったく行政の弁護をするわけではないし、まったく反対の立場があってもいいとも思います。何か問題があるとよく行政が悪いということを言う。しかし、僕はこれは一番簡単だけど、一番責任がない方法だと思います。行政の人だって限られた予算の中で一生懸命やっている部分が多い。それは人間いろいろあると思います。お世辞でもなんでもないです。
 結局、今の中川さんの写真は強烈なまで醜悪的に見せていただいた部分があるから、割引しても、結局、上流が汚れる、自然が多い山が汚れるということは、汚しているのは、そこに住んでいる人と、それとそこに一時的に行ったいわゆる観光客が無責任に物を置いてくるということがあると思います。つまり、私たち自身ですよね。横浜市に住んでいる、神奈川県の都市に住んでいる、いろんなところに住んでいる人たちですよね。山梨県を汚しているのは。逆もあるかと思いますよ。ですから、中川さんが言われたように、私は長い目で見て長期的に取り組まなければならないのは、そういうことをしてはいけないというモラルを上げるための教育だと思います。それから教育のためのPR活動です。中川さんがおっしゃったように、上流と下流の交流を地道に増やしていくしかないと思います。山を大切にして森を保全していくようにすれば、水の量というのは確保されます。しかし、水質を確保するというのは私たち自身が自分たちでもってそれを考えなければできないことだと私は思います。僭越な言い方かもしれませんが、自分の自戒をこめてそのように思います。
 それから、大変突飛な話になってしまうのですが、世界で一番人口密度が高いのは、オランダだと私たちは教わったのです。今でも大きな意味で変わりはないと思います。一方で日本の土地というのは80%ぐらいがいわゆる人の住みにくい山地だと思います。そこに森林があって大きな自然があって、これが日本の資産になっている。ところが、平地の部分に1億3千万人もの人が住んでいる。つまり、日本の面積の20%ぐらいの平地の部分を居住可能地域として計算しますと、オランダの人口密度の5倍ぐらいになるです。計算していただくとすぐにわかります。それを誰も言わない。僕が言ってみても誰も取り上げてくれない。この人口の多さが大切な自然をけがす。それから、経済上でも世界に例を見ないような過当競争をするという大きな原因になっていると思う。私は、大変別のことを申しますけれども、日本の人口を半分に減らせば世界からも愛されるし、日本人も住みやすい国になる、自然もきれいになると思っております。

○中川講師
 上流は過疎のところがたくさんありますが、住宅地を用意するところもたくさんあります。都会の方は来るたびに高層ビルが高くなっていくわけですけどね。やはり、狭い所にたくさん住めるような知恵を日本人は出していますけれども、限度というものもあると思います。人間が作った空間に長くいると、自然との関わりがどんどん薄れて、水イコール水道だとか、ペットボトルという形になっていますよね。上流では、年配の方以外は子供たちでさえ川から、あるいは山の湧き水から水を飲む子もいませんからね。山の湧き水を汲みに来ているのは下流の人たちです。時間をかけて汲みに来て、地元の人たちはそこで飲むよりも水道を飲む方がおいしいといったりしています。だけど、源泉というか、泉が湧き出しているところで水が飲めないようなことをやっていたら、もうどうしようもないですし、都会に住んでいる人も、川の水が日本中どこでも飲めたということがちょっと前まであったわけですが、そういう経験が実体験できるようなことをしないと、川がきれいになっても川から水を汲んで飲める人がいなくなったりするのかもしれないなという気がします。別に白神山地に行かなくても、桂川、相模川の水だってどこだって、それこそ横浜の谷戸からだってきれいな水が出て、そこで飲める機会もあったりするわけですし。とにかく、土や水との関わりが減っているのは大きいかなと気がします。若い30代ぐらいの方は、人口芝も緑だと思ってしまうし、緑っぽかったり、アースカラーであれば安心するという感じをされると思います。一般の人はそういう機会として、大人が子どもに自然と接する機会を増やさないといけないと思います。
 それから、企業がもっと自分たちの将来の収益のために、持続的で循環型の社会をもっと作っていってもらいたいと思います。ゴミは資源ですよね。石油資源が枯渇したら、昔の生活に戻るわけにはいかないです。高くても何度も使える付加価値のある資源ですからこれをリサイクルしてければと思います。話が関係ない方にいきますけど、リサイクル法だって、最初にお金を取らないから今の現状になってしまうわけです。市民と行政と企業とでパートナーシップ、グランドワークで三位一体でやるのが一番いいかなと思います。ようやく日本でもそういう機運が高まってきて、企業はこういう不景気でも一般の人たちの力だとか知恵を使ってもらって、行政の方はその仲介役として手を差しのべていくようにしないと、特に水とか空気の場合は本当に先は短いような気がします。
 水が一番言えますよね。とりあえず今以上に水道代が上がるだろうし、世界的に見ても淡水がどんどん減っていくのではないかと言われています。ですから、こういう機会はもっともっとあるべきで、ありすぎて困ることはないと思います。有識者の人がサポートして、一般の方が本当に日常の会話で現状を認識することがすごく大事で、両方とも良かれと思ってやっていることが、実はすごく集約されて悪いことになっていることがあります。昔はちょっとのことだったら、例えば、生ゴミだったら捨てた方が土地が肥えて良かったりすることがあるかもしれないですけども、今は生ゴミだと思って捨てたりするものでも水に返すと悪いものもたくさんあったりします。一番効率良くするのは、下流の人たちの声だと思います。人数が多いですしね。総数でいくと何百何千対1ぐらいの割合ですし、直接自分たちの身に降りかかってきているというデメリットを味わっているのは下流の人たちだと思います。やはり、もっと上流に向けて声を上げてほしいという気がします。
 下流はもうずいぶん落ち着いて、水もきれいになったり、植栽で緑化の部分も田舎よりも増えたりしている部分があります。でも人為的なところは否めなくて、大自然というか、自然の造型にはかなわないところもたくさんあると思います。上流にわざわざ通って来てもらっている割には、のんびり楽しむだけで終わってしまっていることもあるのではと思います。リラックスしに行ってそこで小言を言いたくはないと思いますが、何か機会があれば上流の人たちに率直な意見を聞かしてもらえれば、確実に上流の人はもっといい方向に考えてもらえると思います。下(下流)の都会からのお客さんが来てもらいたいわけですから。そういったことで今までの逆になっていた部分までも良くなれば、より早く正常な状態に近づくのではないかという気がします。

○司会(原田)
 約束していたお時間が過ぎてしまったのですが、特になければよろしいですか。今日出ましたスライドの中にも相模湖のゴミがたまっている様子の写真がありましたけれども、部屋を出た廊下にも相模原の相原広さんという写真家の方が撮られた写真が展示してございます。もう一度帰りがけに、目を向けていただけたらありがたいなと思います。それでは、お話いただいた中川さんに盛大な拍手をお願いします。

(拍手)

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■テーマ ■ゲスト
環境と税について考えよう 青木宗明(神奈川大学教授)&三遊亭金時(落語家)
私が愛する森林・自然・共生 葛城奈海(俳優)&三遊亭金時(落語家)
水遊びガサガサ隊が行く 中本賢(俳優)
桂川の自然環境とくらし 中川雄三(動物写真家)
どっこい林業やってます! 杉山精一(林業家)&三遊亭金時(落語家)
生活環境税制を考える 金澤史男(横浜国立大学教授)
流域から都市の水と暮らしを考え直す 岸由二(慶應義塾大学教授)
水源地域と持続可能な地域づくり 糸長浩司(日本大学助教授)&ホイセス・ロッドニー(横須賀三浦県民懇話会委員)
神奈川の自然環境の夢を語ろう 沼尾波子(日本大学助教授)&中川重年(県自然環境保全センター)
21世紀は水の世紀 田中充(法政大学教授)