資料6 県立障害者支援施設における当事者目線の支援の実践について    県は、県立障害者支援施設(以下「県立施設」という。)における利用者支援に対する県の関与について、その実態を自ら検証し、「障害者支援施設における利用者目線の支援推進検討部会」の意見を踏まえ、県立施設に対して行う運営指導やモニタリングについて改善を図っている。令和4年1月に津久井やまゆり園のモニタリングを実施したところであり、この取組が持続的かつ適切に行われているか、外部評価を受けるため、神奈川県障害者施策審議会に報告する。 1 定期モニタリングの充実強化 (1)概要 ○ 県が県立施設に対して実施する定期モニタリングについて、令和2年度は利用者の居室や支援の場面に入り支援内容を直接確認する等の改善を図った。 ○ 令和3年度は、県立直営施設も含め、各県立施設による自己点検を実施したうえで、集中的なモニタリングを実施する等、更なる充実強化を行う。 〇 また、モニタリングは、障害サービス課職員に他の県立施設の職員が加わった「当事者目線の支援サポートチーム」により実施し、現場職員の当事者目線の支援への理解や実践につなげ、県立施設全体の底上げを図る。 実施スケジュール 実施施設 中井やまゆり園 実施時期 令和3年7月 障害者施策審議会への報告 令和3年9月(報告済み) 実施施設 津久井やまゆり園(かながわ共同会) 実施時期 令和4年1月 障害者施策審議会への報告 令和4年9月(今回報告) 実施施設 芹が谷やまゆり園(かながわ共同会) 実施時期 令和4年8月 障害者施策審議会への報告 モニタリング実施後、直近の同審議会で報告 実施施設 愛名やまゆり園(かながわ共同会) 実施時期 令和4年10月 障害者施策審議会への報告 モニタリング実施後、直近の同審議会で報告 実施施設 三浦しらとり園(清和会) 実施時期 令和4年12月 障害者施策審議会への報告 モニタリング実施後、直近の同審議会で報告 ※ 他の県立施設については令和5年度以降に実施予定 2 津久井やまゆり園のモニタリング結果 (1) 実施日 令和4年1月17日、1月18日、1月19日及び1月28日の4日間 ※ 1月27日も実施日としていたが、同日からの「まん延防止等重点措置」の適用を受け、中止とした。 また、1月28日はオンラインにより、幹部ヒアリングを実施した。 (2) 実施内容 ア 自己点検 介護施設を参考に作成した評価表や国の手引きに定める障害者虐待防止チェックリストにより自己点検を実施した。 (ア) 施設支援自己評価表による自己点検 ※ 介護施設におけるユニットケアの評価を参考に作成 (イ) 施設・地域における障害者虐待防止チェックリストによる自己点検 ※ 障害者虐待防止の手引き(社会福祉法人全国社会福祉協議会「障害 者の虐待防止に関する検討委員会」平成23 年3月版)を使用 イ 集中モニタリング 「障害者支援施設における利用者目線の支援推進検討部会(以下「検討部会」という。)」からの指摘、また、令和元年11 月から令和2年3月までに実施した県の随時モニタリングを受け、令和2年12 月、かながわ共同会から「再発防止策と取組経過」が提出された。さらに、令和3年11 月には、「再発防止策と取組経過報告書(令和3年度上半期の取組状況)」により、取組実績が報告されたことから、今回の集中モニタリングでは、その取組実績の確認を中心に行った。 また、過去に身体拘束を行っていた利用者3名について、拘束が解除となった経過の確認、他の県立施設職員が津久井やまゆり園の意思決定支援の取組を学ぶ機会とした。 (ア) 障害サービス課職員による書類調査及び職員ヒアリング(2日間) ・ 再発防止策と取組経過報告書の詳細確認 ・ 過去に身体拘束を行っていた利用者3名の解除までの経過確認 ※ 当初、施設内ラウンドを予定していたが、新型コロナウイルス感染症の流行を踏まえ中止とした。 (イ) 他の県立施設職員が意思決定支援の取組を学ぶ(1日間) ・ 津久井やまゆり園職員から事例紹介を中心に意思決定支援を学んだ(モニタリングとは異なる主旨であるため、内容の記載は省略する。)。 ※ 当初、入所利用者からのヒアリングを予定していたが、新型コロナウイルス感染症の流行を踏まえ中止とした。 (ウ) 上記結果を踏まえた幹部職員ヒアリング(1日間) ・ 園長、総務部長、支援部長、常務理事(法人事務局)にヒアリングを実施した。 (3) 実施結果 ア 自己点検の結果 ○ 施設支援自己評価表 施設支援自己評価表の「設備面への配慮」、「取組体制」、「個別支援の実践」の各項目を点検した。課(全3課)ごとに自己評価を実施し、平均76.6 点(生活第1課80/108 点、生活第2課73/108 点、生活第3課77/108 点)という結果であった。園全体の傾向として、「入所者の権利・プライバシーを守り、個人の意思を尊重している」という項目の点数が低く、課題として認識していることを確認したが、改善に向けた取組までには結びついていなかった。 ○ 施設・地域における障害者虐待防止チェックリスト ・ 施設・地域における障害者虐待防止チェックリストの「規定等の整備」、「職員への研修」、「外部からのチェック」、「体制の整備」の各項目を点検し、概ね「できている」という結果であった。 ・ 法人として身体拘束等行動制限取扱要領や虐待防止リーフレットを作成し、全職員に周知するとともに、虐待防止に関する研修や毎月の人権擁護指針の作成、人権自己チェックリストを基にした全職員意識調査等を実施し、虐待の防止に関する職員への意識啓発が図れている。 ・ また、身体拘束廃止、意思決定支援の取組及び行動障がい及び自閉症に対する支援については、外部コンサルテーションを積極的に導入するなど、支援改善に取り組んでいる。 ・ 相談支援事業所や支給決定自治体などが参加する意思決定支援会議に利用者が参加している一方、個別支援計画の見直しを検討する園内会議には利用者が参加していない。意思決定支援会議と個別支援計画の作成過程との連動や園内会議への利用者参加についての検討が必要である。 イ 集中モニタリングの結果 (ア) 再発防止策と取組経過報告書の詳細確認 ○ 身体拘束によらない支援の実践 <取組状況> ・ グループ会議、寮会議、課会議、行動制限判定会議へと段階的に検討を重ね、3要件に該当するかを丁寧に検討するなど、組織的に適切な手順で検討が行われていた。令和3年4月時点で3名の利用者に身体拘束を実施していたが、同年8月には全利用者が廃止となった。 ・ また、身体拘束の廃止後も、行動制限判定会議において、他施設の身体拘束の状況やユニット出入口の施錠などについて活発に議論されていることが確認できた。 <課題> ・ 過去に身体拘束を受けたことによる影響や廃止後の利用者へのケア等のことで検討するという視点は不十分であった。 ・ 身体拘束が廃止になった方の記録の一部に利用者本人の心身の状況の記載内容が記載例と同内容が転記されているものを確認した。個々の職員がさらに記録の重要性を意識することを指摘した。 ・ ある利用者の個別支援計画を確認したところ、行動制限の項目に「必要時はセラピューティックホールドを実施する」と記載があるものを確認した。常時、行動制限している訳ではないが、高い頻度でホールディングが想定される事例であり、あらかじめ家族から同意を得ることが適当であることから、改善を求めた。 ○ 意思決定支援の取組 <取組状況> ・ 令和3年12月から、個別支援計画の様式を見直すプロジェクトを立上げ、利用者が望む暮らしが反映できる様式を作成した。  また、当事者目線の支援の実現につながる取組として、計画に基づいた定期評価を毎月行うこととした。 <課題> ・ 新たな個別支援計画の様式は、意思決定支援の実践に向け、利用者の夢や希望について、短期、中期、長期的な目標を記載する項目立てとなっている。  一方で、実際に記載されている内容を確認したところ、「○○ができるようになる」というような抽象的な表現になる傾向が高く、より具体性のある記載内容とするような工夫が必要であることを指摘した。 ・ 障害福祉サービス等に係る報酬について、給付費の加算要件によっては、個別支援計画への記載が必要なものがある。新様式には記載項目がなく、漏れてしまうおそれがあることから留意が必要であることを指摘した。 ○ 人材育成 <取組状況> ・ 法人として、外部講師を招いた虐待防止研修を7回、さらに法人内の幹部職員を講師とする虐待防止基礎研修を8回実施している。法人として虐待防止に向け、虐待防止基礎研修はすべての職員の受講を必須とし、効果測定を行っていることを確認した。 <課題> ・ グループ会議で行ったセルフチェックの結果について、集計や分析の記録が確認できなかった。チェックを行うだけでは、高い効果が得られないため、事後に集計や分析を行い、職員にフィードバックしていく仕組みを構築する必要があることを指摘した。 ○ 権利擁護システムの構築 <取組状況> ・ 行動制限判定会議や虐待防止委員会などが計画どおり行われており、利用者の権利擁護のために取り組んでいることを確認した。 ・ 支給決定自治体のケースワーカーや相談支援専門員などをチームの構成員として、「外部の目」の役割を果たせるよう利用者の意思決定支援を継続している。  また、利用者の権利擁護に向け、外部コンサルテーションを導入した。 <課題> ・ 行動制限判定会議、虐待防止委員会及び課長会議については、同様の出席者による議題の重複がみられた。委員会や会議の役割の整理などにより、効率的、効果的な組織マネジメントを図ることが必要であることを指摘した。 ○ 組織体制の強化 <取組状況> ・ 法人運営会議では理事長から、「過去に漫然と身体拘束を行っていた事実がある。積極的に改善に向けて取り組んでいく。」というメッセージが示されるとともに、毎週の会議で法人内の各施設の身体拘束の状況が共有化され、組織的に対応していることを確認した。 ・ 毎月、課長会議などで議論された園全体の運営方針などが各ユニットのグループリーダー会議を通じて、各グループ会議で現場支援員まで共有されているとともに、グループ会議では、利用者一人ひとりの支援内容について毎月時間をかけて検討が重ねられていることを確認した。 <課題> ・ 現場の支援員から日々の業務に関する提案を募る仕組みがあるが、確認した限り提案は1件のみであった。支援員が利用者支援や施設運営に自身の考えを発信できる、貴重な取組みであるため、活性化させる工夫が必要であることを指摘した。 ウ 幹部職員へのヒアリング結果 ・ 検討部会から指摘を受け、身体拘束が虐待となるという意識の低さを認識し、「再発防止策と取組経過」に反映させ、具体的な身体拘束ゼロの実現に向けた取組を進め、結果として同園での身体拘束はゼロとなったことを確認した。 ・ 新施設運営開始から、ハード面の変化だけでなく、職員の入れ替わりにより、支援技術の差などが課題であったが、当事者目線の支援、特に意思決定支援については、全職員で一から理解を深めるとともに、チームで考えて支援にあたっている。 ・ これまで法人として地域生活移行に率先して取り組んできた実績があり、今後、県立施設が通過型施設としての役割を担っていくことも踏まえ、引き続き積極的に地域生活移行に取り組んでいくとのことであった。 ・ 今後は、業務執行理事(利用者支援担当)を活用し、直接、現場で指導や助言を仰ぐことにより、利用者支援の向上を図っていく予定であることを確認した。 ・ 津久井やまゆり園事件で命を奪われた利用者への鎮魂と事件を風化させず、偏見や差別のない「ともに生きる社会」を目指すため、法人内の研修の場や県内の子どもたちの人権教育の場として、鎮魂のモニュメントを活用した取組を調整していることを確認した。 ・ 新施設開所当初は、ユニット玄関の常時開錠は対応が困難であると県に申し入れがあったが、県からの提案を履行し、意見交換や利用者のアセスメントを通して、施錠によらない対応を実践していることを確認した。 3 総括 ○ 今回の集中モニタリングを通じて「再発防止策と取組経過報告書」に記載している項目が履行されていることを確認したが、さらなる改善に向け、指摘した課題について取り組むよう求めた。 ○ また、幹部ヒアリングで当事者目線の支援の実践に向けた幹部の姿勢を確認したが、引き続き同園での身体拘束ゼロの徹底やユニット出入口の開錠に取り組むとともに、当事者目線の支援、特に意思決定支援については、全職員で一から理解を深めるとともに、チームで考えて支援にあたっていくことを求めた。 4 今後の対応 〇 園は、モニタリング実施結果を踏まえ、支援の改善を図る。 ○ また、県は園による改善状況の進捗を確認し、必要に応じて運営指導を行う。 ○ 今回の津久井やまゆり園のモニタリングは、新型コロナウイルス感染症の影響により、施設内ラウンド等を中止したが、今後、同感染症の動向に注視し、改めて同園のラウンド等を実施する。 ○ 県は、引き続きモニタリング結果を県障害者施策審議会に報告し、評価を踏まえ、実施方法や実施内容について改善を図る。 1