資料3−2 先駆的な施策を積極的に取り入れるべきではないか(論点〜大事項) 制度・施策の持続可能性についてどう考えるか(論点〜中事項) (1)現状・課題 ○我が国の社会保障費については、近年増加の一途を辿っており、令和3年8月に、国立社会保障・人口問題研究所が公表した2019年(令和元年)度の社会保障費用統計によると、OECD基準の「社会支出」総額は127兆8,966億円であり、対前年度比で2兆3,982億円、1.9%ポイントの増となっており、過去最高を更新している。また、国の障害福祉サービス等予算額で見ると、平成19年度は5,380億円であったところ、令和2年度は1兆6,347億円であり、13年間で予算額は約3倍となっており、その要因は、主に、公的なサービスを利用する人数が増えていることとされている。 〇本県における社会保障関係費用について見てみると、令和3年度当初予算ベースでは、神奈川県の一般会計歳出総額2兆484億円のうち、福祉や子育てのための費用とされる民生費は3,120億円であり、全体の15.2%を占めている。このうち、障害福祉費については、約725億円である。 〇全国の都道府県は財政力により、東京都を除く5区分に分類されており、財政力指数0.500以上1.000未満のBグループ(本県の他、愛知県、大阪府、千葉県、埼玉県、静岡県、茨城県、福岡県、栃木県、群馬県、兵庫県、宮城県、広島県、三重県、京都府、滋賀県、岐阜県、福島県、岡山県、長野県、石川県の計21団体)に分類されているが、令和4年度当初予算編成方針における財政見通しでも850億円の財源不足が見込まれるなど、「県財政は引き続き危機的な状況」(「令和4年度当初予算編成について(依命通知)」)としている。  〇県の財政は、歳入は県税など自主財源の割合が高く、歳出は義務的経費の割合が高い構造にある。バブル崩壊後や世界的な金融危機後に大量発行した県債の償還期が重なっていることや、高齢化などに伴い民生費(介護・児童関係費等)が増えていることで、歳出は一層の増加が予想されている。家計でいう貯金に相当する財政調整基金の2021年度末残高は、300億円と見込まれており、健全財政の目安とされる660億円の半分以下である。このように、本県の予算編成環境は非常に厳しいものがあり、障がい施策分野についても、財源面の自由度は高くない。 〇一方で、県内の近年の障がい者数の動向を見ると、身体、知的、精神全て増加傾向にあり、加えて高齢化も進んでいる。さらには、障害福祉事業従事者の処遇改善も待ったなしの状況であり、着実に実施することが求められており、今後、障がい施策各事業の最適化とより効率的な実施に注力していく必要がある。 〇なお、社会保障に関する意識調査では、社会保障給付水準の維持を求める人の割合が高く、そのための負担増はやむを得ないと答えた人の割合は、全体の27.7%であった。今後の負担と給付のバランスの議論に影響を与えることが予想され、注視していく必要がある。 (2)検討の方向性 (公的サービスの制度見直し)  ○支援費制度の財政問題を乗り越え、平成18年からスタートした障害者自立支援法に基づく制度は、今日、障害者総合支援法に移行し、令和2年11月時点で、全国で約130万人の障がい児・者が公的な障害福祉サービスを利用するに至っている。この公的なサービスは、適時に法制度の見直しが行われており、また、公的価格である障害福祉サービス報酬の改定は3年に一度実施されている。こうした制度見直し等は、利用者の新たなニーズに対応するためや、制度を維持するための財政健全化の要請から実施されている。 〇障がい福祉の分野に限らず、社会保障制度は安心した暮らしに不可欠のものであり、今や、国民の共有財産であるとも言える。担い手である障害福祉サービス提供事業者は、制度の維持、存続に向けた協働の視点が重要であり、県は、市町村や事業者団体と連携を図り、政策動向に関する情報を、分かりやすく、迅速に情報提供するとともに、第一線が抱える制度上の課題を国に対して提言するといった、双方向の情報のやり取りを可能とする体制を整備することとしてはどうか。 (必要なサービスの最適化のためのデータ分析) 〇障害福祉サービスの提供は、一人ひとりに個別化されたものとすべきである。そのためには、適切なアセスメントを行い、本人の願いや望みに寄り添った必要十分な支援を行うことが重要ではないか。こうした適切な支援の内容の検討に資するため、県は、市町村及び国民健康保険団体連合会と連携を図り、障害福祉サービス報酬の請求データ等を分析し、平均値との比較などの手法により、必要なサービスの最適化について、調査研究を行うこととしてはどうか。また、厚生労働省は全ての自治体が参加する障害者福祉のデータベースを2023年度にも稼働させる方針であり、こうしたデータベースの積極的な活用にも取り組んではどうか。 (新規事業所指定と指定更新時の審査の厳格化) 〇障害福祉サービス提供事業者は、常に利用者の立場に立って効率的にサービス提供を行うとともに、提供サービスの質の向上に努めることが求められているが、補助金(給付費)を目当てにした不適切な経営実態について報道される事案も散見される。こうしたことから、県は市町村と緊密に連携を図り、新規指定及び指定更新の際、知見を有する公益的な機関・団体と協働するなどして、当該事業者が、適切な事業実施が可能かどうか、十分な審査を行う体制を整備することとしてはどうか。 (緩やかな連携、協働事業の推進、事務コストの縮減) 〇障害福祉サービス提供事業者の経営規模は小規模なものが多く、節減が難しい固定費のコストが経営を圧迫する場合が多いとの指摘がある。事業規模を拡大するための合併等を直ちに行うことは困難であることから、県は、各事業者が、社会福祉連携推進法人制度の活用等により、共同で各種事業を実施できるよう、制度の情報提供や助言を行うこととしてはどうか。併せて、事業者の業務の効率化につながると期待されるDX(デジタルトランスフォーメーション)の取組みを支援することとしてはどうか。 また、障害福祉サービス報酬の請求に係る届出等の事務が、いわゆるローカルルールによって煩雑となっており、事務コストが増大しているとの指摘があることから、県は、こうした届出事務等について、必要最小限で済むよう、見直しを行うこととしてはどうか。 (インフォーマルサービスとの組み合わせ) 〇障がい当事者が地域で安心していきいきといのち輝かせて暮らしていくための支援は、全てが公的な障害福祉サービスで賄われなければならないかというとそうではないだろう。「ともに生きる社会かながわ憲章」が不要になるほど、地域の人々が障がいを理解し、あたり前に接するようになれば、公的サービスと相まって、地域での豊かな暮らしにつながるはずである。 地域包括ケアシステムにおいて、障がい者を捉えるのは、そうした日常の中でお互い様の支え合いがある社会を招来することであり、包摂する社会を作るということではないか。こうしたことから、県は、引き続き、「ともに生きる社会かながわ憲章」の普及啓発に努めるとともに、市町村とも連携し、地域包括ケアシステムの中に障がい者も含めた取組みを続けていくこととしてはどうか。 (本人活動の支援の重要性) 〇私たちが目指す、誰もがいのち輝かせて暮らす地域共生社会は、当事者の自律を尊重する社会である。いかなる障がいがあっても本人自身が人生の主役であり、その人生において自ら決定することを最大限に尊重されることで、そのいのちは輝く。障がい者は保護の対象ではなく、人生の主体者として、様々なサービスを活用しながら地域との関わりの中で生きていくことができるよう、ピアサポート活動のさらなる充実はもとより、本人活動を活発にしていくことが重要ではないか。 〇このような取組みを進めることで、障がい者は、一方的な支援の対象ではなく、地域の一員として、支援する立場に立つ場面が着実に増えてくるのではないか。県は、市町村と連携を図りながら、本人活動の支援に努めるとともに、支援する側、される側の立場を超えて、障がい福祉関係の制度を、共通の財産として維持していくことに関心が高まるよう、分かりやすい広報を行っていくこととしてはどうか。 (関連領域において障がいを包摂することの重要性) 〇これまで障がい福祉は、いわゆるイノベーターが、先駆的、開拓的に物事に取り組み、障がい福祉の守備範囲を広げ、障がい福祉の制度として定着させていくというサイクルが基本ではなかったか。今後、限られた人的・物的資源を無駄なく効率的に利活用していくには、ユニバーサルデザインの考え方のように、あらかじめ「障がい」をその領域に含めたところから考えていくことが重要である。県は、このような「障がい」を包摂する社会の考え方の重要性を、障がい福祉とは異なる領域(商工、運輸、観光、土木など)に周知していく取組みを進めることとしてはどうか。 (県が担うべき業務の見直し) 〇県財政は今後も厳しい局面が続くことが予想されており、障がい福祉関係施策においても、限りある財源、人的資源をどう活かしていくかが常に問われている。障がい福祉関係施策を担当する県本庁部局は、企画立案業務にシフトし、政策実施業務は、できる限り知見とノウハウのある民間機関・団体に切り出すこととしてはどうか。 また、コミュニティワーカーとして各圏域の保健福祉に関する業務を担当する職員を配置し、市町村の支援、広域的な相談支援、障がい福祉人材の育成といった、県立障害者支援施設に期待されていた業務を中心に担うこととするよう、業務の見直しを進めることとしてはどうか。 これまでの主なご意見(制度・施策の持続可能性に関して)※直接的に財源について言及したものに限らず、関連性のあるご意見も含めて列挙している ○予算的なネックはあるが、まず、あるべき姿を考えて、自由に意見を出し合った方が良い。 〇公的なサービスだけではなく、野球観戦に行くなどいろいろな側面があり、その人の暮らし全体をみんなでどう支えていくか、広く見ていくことが大事である。 ○国や県等が、通常の倍以上の金額を上乗せしてグループホームやケアホームを作っても、それはモデルにならない。そもそも公が福祉サービスを適切に行えるか、現場を持てるかということも非常に大きな疑問である。 ○国立のぞみの園は、非常に費用対効果が悪い。こういう中でモデル性と言っても、まったくリアリティがない。神奈川県においても費用対効果を検証しないと、公というものの機能の再定義ができないと思う。 ○障がい当事者が地域でその人らしい生活を送るためには、サービス基盤の整備が必要である。 ○グループホームや入所施設をサービス提供の選択肢と位置付け、多様なニーズを持つ障がい当事者が限られた資源を有効に活用し、当事者主体の地域生活を実現できるよう、サービスの質の確保及び仕組みづくりが必要である。 ○地域資源を拡充していく方法として、グループホームだけでなく、重度訪問介護の展開拡大も含めて、パーソナルアシスタントのような個人に特化した支援を考えていく必要がある。 ○障がい当事者の活躍の場を、公的福祉サービスの範囲にとどまらず、一般企業にも視野を広げることが可能な社会を実現すべきではないか。 関係団体ヒアリングでの主なご意見(制度・施策の持続可能性に関して)※直接的に財源について言及したものに限らず、関連性のあるご意見も含めて列挙している 〇障がい福祉施策に対する予算が不足しているように感じる。施設等に従事する人材確保も課題かと思う。また、従事者の待遇などに対する取組みも推進されるようお願いしたい。(神奈川県身体障害者連合会) 〇障害者支援施設の夜間支援員が1人しか配置されず、対応が困難。施設の職員配置は平常時に合わせていると思う。緊急時、あるいは行動障がいの急性期など、人手が必要な事態に合わせた余裕ある配置が必要だと思われる。(神奈川県自閉症協会) 〇利用者の高齢化・重度化への対応に伴い、支援員の負担が増加している。支援員の増強及び労働環境の改善が必要。(神奈川県知的障害者施設保護者会連合会) 〇障がい者の自立は、個々に様々な捉え方が必要だが、自立して、基本的人権が保障される生活を営むことが出来るための、生活費の確保が必要と考える。(神奈川県肢体不自由児者父母の会連合会) 〇県行政には、資源の公正な配分を行うための役割、また、公平性を監視する役割もあると思う。( 〃 ) 〇現状では、予算上仕方がないとも考えられるが、職員配置の基準そのものが少なく見積もられている。人手が不足しているため、障がい者一人ひとりが充実した日々を送るため、それぞれの特性に適した支援が十分には行えていない。(神奈川県知的障害施設団体連合会) 〇神奈川県内の障害者支援施設は、昭和から平成初期に多くが建設されており、相当な築年数が経っているところが多く、居室の定員や設備を含めて、現代の一般生活と乖離が生じている。早急な改修が望まれる。規模、設備の検討が必要であり、その上で、完全個室、ユニット形式などの住環境の改善が必要と思われる。 ( 〃 ) 〇かつての県立施設の職員は、福祉専門職として高いスキルを持ち、様々な福祉現場で経験を積んだ人が多く、民間施設支援では受入れ困難な利用者を受入れるという役割を意識し、使命感も強くあったように思われる。財政的な問題で、県立施設は民間委託や指定管理にシフトし、また、相談支援も民間事業者に委ねることとなり、福祉専門職としての活躍の場が減少していった。県立施設で働く福祉専門職のモチベーションはどのような状況なのか想像に難くない。 ( 〃 ) 〇民間施設は持続可能な収益性を考慮しなければ運営はできないので、どうしてもニーズの多い分野に集中する傾向がある。公立の強みは、収益性に関係なく、困難ケース等少数ではあるが政策ニーズの必要性に合わせて予算を確保できれば事業を継続実施できること。指定管理者制度は更新のたびに予算が削減される仕組みなっているようであるが、神奈川県の障がい福祉の公的責任の後退にならないか。予算のスリム化、削減の目的ありきの安上がり福祉の路線である。障がい当事者の目線に立った必要な支援は、きめ細かな多様なサービスが必要となるので、逆行しているように感じている。 (神奈川県知的障害施設団体連合会) 〇強度行動障がいを受け入れたことがある民間施設はある程度多くあるが、神奈川県強度行動障害対策事業対象者を受け入れたことのある民間施設はわずかしかない。どういう形であれば民間は受入れられるか。そこに人をもっと付けるように県が支援したり、部屋を改造するお金を県が補助したり、受け皿の支援を同時並行で考えていかないと、絵に描いた餅になってしまう。 ( 〃 ) 〇障害者支援施設が地域生活支援型の入所施設として機能するには、行政の理解と財政的な支援が必要不可欠である。( 〃 ) 〇福祉先進県として、過齢児問題への積極的な取組みに絡め、成人施設のユニット化の推奨と設備費の補助、地域移行の実績法人に対しての加算の上乗せ等を積極的に行っていただきたい。( 〃 ) 〇民間で支援の困難性の高い利用者で、在宅生活が困難な人を積極的に受入れるためには、公的な人的派遣や人件費補助は不可欠(ただし、そのような対象利用者がいるときだけ補助があったとしても、新たな雇用はできない)。( 〃 ) 〇障がい者と言ってもいろいろな障がいがあり、求められるものが違うが、いずれの障がいでも専門性を持つマンパワーが必要だと思う。しかしながら、一般的には報酬単価も安くこういった人材の確保がままならないところがあり、これに限ったことではないが福祉の世界で働きたいと思うような給料を払えるくらいの報酬単価設定をしてもらいたい。(神奈川県身体障害施設協会) 〇報酬単価について、級地区分をなくしていただきたい。国への働きかけなどをしてほしい。 (〃) 〇就労系の障害福祉サービス事業所は、企業で働くことが難しい人を対象として、働くことを基準に、本人の収入を支えているが、併せて、生活保護に頼らずに暮らしを維持するための所得保障の仕組みが必要。(神奈川セルプセンター) 〇県立施設は、民間施設の後ろ盾として、民間施設で支えることの難しい人達を手厚い職員体制と高度な専門性により支える機能と事例や研究成果の提供など民間施設への指導的な役割を果たすべきで、残す必要がある。民間は報酬が決まっている中でやらざるを得ず、その枠を超えられない。( 〃 ) 〇高齢化や引きこもっている方を受け入れるためには、利用条件(個別給付条件)の緩和等、柔軟な受入体制を整える必要がある。併せて、職員体制も整える必要がある。(神奈川県障害者地域作業所連絡協議会) 〇障がい者が地域生活を継続するために必要な支援として、運営補助金の増額が必要( 〃 )  〇条例は理念だけでなく、実効性も持たせるべき。意思決定支援を実行するには労力を有する。相談支援専門員とサービス事業者と行政が一体となって取組み、事業実施に係る予算(報酬・加算等)を付ける必要がある。(かながわ障がいケアマネジメント従事者ネットワーク) 〇募集しても人が来ない。地域で支えることが危うい。魅力ある仕事として発信していくには、意思決定支援チームの立ち上げにお金が付くなど、体制を強化する必要がある。 (日本グループホーム学会) 〇グループホームもヘルパー事業所も、常勤者率が低く、人を育てることができない環境にある。常勤者率を上げないと継続が困難である。担い手の高齢化が進んで、若い担い手が育っていないため、このままいけば地域福祉が崩壊する可能性がある。( 〃 )