資料2−1 地域共生社会の実現にどう取り組みか(論点〜大事項) 地域包括ケアシステムの対象拡大をどのように進めていくか(論点〜中事項) (1)現状・課題 ○厚生労働省が推進する「地域包括ケアシステム」は、「2025年を目途に、高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもとで、可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができる、地域の包括的な支援・サービス提供体制」である。これまで、国は、住まい・医療・介護・予防・生活支援を一体的に提供する支援体制の考え方や市町村における地域包括ケアシステムの構築のプロセスの提示、地域包括ケアシステムの構築モデル例の公表などを通じて、その構築を後押ししてきた。 ○県においても、@地域包括支援センターの人材養成、A医療介護など関係機関との連携強化、B高齢者が安心して暮らせる住まいの確保を図るためのサービス付き高齢者向け住宅の普及や健康団地の取組み、C介護保険施設の整備など、市町村の地域包括ケアシステムの構築に向けた取組みの支援を進めてきた。今後、在宅医療や介護サービスの需要がさらに高まることが見込まれており、高齢者が住み慣れた地域で自分らしい暮らしを続けていくための支援の強化が必要とされている。 ○近年、地域包括ケアシステムと障がい施策との関連付けが議論されるようになり、国の「これからの精神保健医療福祉のあり方に関する検討会」が平成29年2月に取りまとめた報告書において、「精神障害の有無や程度にかかわらず、誰もが地域の一員として安心して自分らしい暮らしをすることができるよう、医療、障害福祉・介護、住まい、社会参加(就労)、地域の助け合い、教育が包括的に確保された「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」を構築する」ことが提言された。 〇これを受け、国は第5期(平成30年度から平成32年度)障害福祉計画の基本指針において、長期入院患者の地域移行を進めるため「精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築」を成果目標と定め、令和2年度末までに、精神障害に対応した地域包括ケアシステム構築に向けた協議の場を市町村単位で設置することとされた。 〇県においても、平成30年3月改定の第5期障がい福祉計画の成果目標の1つに、保健所等11か所に保健、福祉、医療、市町村などの関係者で精神障がい者の地域移行、地域生活を支える課題を協議する場を設置することとした(政令市を除く)。 ○これまで、長期に入院している精神障がい者の地域移行の促進や、地域定着の支援等については、県の障がい施策関係会議で協議されることが少なく、精神科病院、障がい福祉、介護サービス、行政等の関係者が一同に会する機会も少なかった。県の障がい福祉計画へ、精神障がい関係者の協議の場の開設が位置付けられ、事例を通した課題の検討などが始められ、精神障がいの関係者で、「地域包括ケアシステム」の考え方が共有されてきている。 ○地域包括ケアシステムは、地域で暮らすための支援の包括化、地域における連携・ネットワークづくり、と言い表すことができる。また、新しい「まちづくり」、「地域づくり」への取組みでもある。このような発想は、高齢者だけではなく、生活上の困難を抱える障がい者や子どもなどが、住み慣れた地域において、安心していきいきと生活できるようにしていくための普遍的な考え方であるとの意識が定着してきた。 〇平成29(2017)年の「我が事・丸ごと」地域共生社会実現本部決定では、地域住民による支え合いと公的支援が連動し、地域を「丸ごと」支える包括的な支援体制を構築し、切れ目のない支援を実現していく重要性が唱えられ、今日、一部の自治体や地域では、対象を高齢者に限定しない独自の取組みも見られる。 〇障がい分野のあるべき社会として、内閣府などが唱えてきた「共生社会」は、全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会である。一方、「地域共生社会」は、人々の暮らしの変化等を踏まえ、制度の「縦割り」や「支え手」、「受け手」という関係を超えて、地域の様々な人達が主体となって、世代や分野を超えてつながり、一人ひとりの暮らしと生きがい、地域をともに創っていく社会である。これは、地域において、共生社会を具体的に実現していくものであると言える。 〇地域共生社会の実現を進める施策として、介護と障がい分野の連携を一層進める観点から、平成30(2018)年4月、「共生型サービス」(生活介護・短期入所・居宅介護に、障害福祉サービス事業所と介護サービスが相互乗入れする仕組み)や、基幹相談支援センターと地域包括支援センターとの連携の推進、障がい者が介護支援施設に入所する際に、利用者負担を大幅に軽減する仕組みの導入などが始まった。 ○また、地域住民の複合化・複雑化した支援ニーズに対応する市町村における包括的な支援体制の構築を推進するため、対象を限定しない「重層的支援体制整備事業」が創設され、令和3年4月から施行された。 ○これまで、社会保障制度は、高齢者、障がい者、子ども、生活困窮など、対象や生活に必要な機能に分けて、公的な支援が考えられてきたが、今日、家族機能が縮小し、地域の支え合いの力の低下も手伝って、いわゆるダブルケアや老々介護、8050問題といった複雑化・複合化した生活課題については、制度の狭間に追いやられ、必要な支援が届かない事態が増える傾向にある。 〇人口減少社会に突入し、今後、ますますの高齢化が進む我が国において、いわゆる2040年問題が意識されているが、こうした課題を乗り越えるため、長期的な政策目標として、地域共生社会の実現が掲げられている。 (2)検討の方向性 (対象を広げた地域包括ケアシステムの理念の普及啓発) ○地域包括ケアシステムは、いわば、地域の再生につながる取組みであり、高齢者だけではなく、障がい者や子ども、生活困窮者なども含めた地域づくりにつながるものである。これは、決して行政だけの取組みで完結するものではなく、住民一人ひとりが自らの課題として捉えてもらうことが重要である。こうした考え方について、行政は、より一層普及啓発していく必要があるのではないか。 (地域間の格差を生じさせないこと) ○地域包括ケアシステムの対象は、高齢者だけではなく、障がい者や子ども、生活困窮者にも広げていくことが求められている。しかしながら、各地域の人口構成や社会資源の状況等はそれぞれ異なることから、市町村間で取り組みの差が生じないよう、県は、各地の取組みの実態を把握し、好事例の情報共有を行うことや、実施態勢が脆弱な場合は、複数の市町村が協働して取り組むように調整を行うなどの支援に取組むこととしてはどうか。 (行政内部の縦割りの打破) ○いわゆる「縦割り行政」は、責任の所在を明確にする仕組みと裏腹のデメリットとして挙げられる。新たな福祉課題には、行政内部においても、これまでの所掌に囚われず、横断的な対応組織を臨機に設けるなど、柔軟かつ積極的に対応することが大切ではないか。 (地域における医療との連携の促進) ○これまでの地域包括ケアシステムの構築に向けた取組みで、地域の人々による互助の仕組みづくりは、各地で優れた取組みが見られるが、市町村レベルでは、医療関係機関・団体との連携に苦心しているとの指摘がある。こうしたことから、障がい者も対象とした地域包括ケアシステムを考える際には、県が中心となって、医療機関・団体との協力体制づくりに注力することとしてはどうか。 (地域包括支援センターとの連携) 〇地域包括ケアシステムの推進役となっている地域包括支援センターは、市町村が設置主体となって、保健師、主任ケアマネジャー、社会福祉士等を配置しており、地域の保健医療の向上と福祉の増進に取組む役割を担っている。こうした専門職が各地域に配置されていること自体、大きな社会資源であり、先進自治体においては、国の「重層的支援体制整備事業」を活用し、介護に関する相談支援に留まらず、障がい分野の相談支援についても対応できる態勢を整備する取組みも見られる。県は、こうした取組み事例を各市町村に情報提供し、地域包括ケアシステムの対象の拡大を進めることとしてはどうか。 (「新たな地域のつながり」に向けた議論と具体的な行動) 〇地域共生社会の実現には「新たな地域のつながり」を作っていくことが重要である。旧農漁村型のコミュニティへ戻ることは難しいことから、行政は、今の時代に合った地域社会を提示し、地域の関係者で議論を広げていくことが重要ではないか。 〇「新たな地域のつながり」を作っていくためには、「支援する」、「支援される」という関係が固定されるのではなく、日ごろは支援を受ける人も、場面に応じて地域に不可欠な存在として、出番を作っていく視点が大切なのではないか。そのためには、障がい福祉サービス提供事業者においても、支援を受ける利用者が持っている力、可能性を引き出し、地域の様々な課題を解決するための役割を果たすことができないか、そういう観点から事業を創造していくことが重要である。行政も、このような取組みが進むよう、必要な情報提供や助言を行うとともに、関係者が相互に連携しながら、地域共生社会に向けての具体的な行動につながっていくよう、意見交換などを行う場を作ることとしてはどうか。 (障がい者が取り組む地域づくり) ○全国では、障がいのある人を地域の大切な「担い手」と位置付け、障がい者を含めた地域における包括的な支援体制を作っていこうとする先進的な取組みも始まっている。例えば、耕作放棄地を抱える農家で農地再整備を担い出荷品目を増やした事例、地域の畜産業をサポートする「畜産ヘルパー」を展開した事例、高齢でお墓の管理が難しくなった人向けの「お墓参り代行」を展開した事例、近隣のスーパーなどが撤退した地域向けの「移動商店街」を展開した事例、個人経営のクリーニング店やパン屋の後継者不足対策として、福祉事業所化して事業継承した事例、役場からの道路空地用植栽の栽培を請け負い経費縮減につなげた事例、介護保険の「新しい総合事業」を受託して地域支援を展開した事例などである。 〇こうしたことから、県は、市町村と緊密に連携し、地域共生社会の実現に向けた取組みとして、地域包括ケアシステムの対象を障がい者にも広げていくことを念頭に置き、高齢者が地域でいきいきと安心して暮らしていくための福祉インフラとなっている地域包括支援センターと、障害福祉サービス提供事業者などの障がい分野の関係機関・団体がより連携しやすい仕組みづくりに取り組みむこととしてはどうか。 これまでの主なご意見(地域における支援等に関して) 〇これからは誰もが地域で市民として生きることを実現していくという考え方が重要である。今日、市町村が様々な公的サービスの提供主体と位置付けられており、地域包括ケアシステムの考えをさらに進めて、高齢者だけではなく、障がい者も子ども、生活に様々な課題を抱える人も、同じ地域社会で、同じ市民としてその人らしく生活していくというという方向になっていく。 ○福祉の分野だけではなく、医療の分野や教育の分野とも連携し、地域共生社会に向けて努力していくことは大変重要であることから、そういった施策についても関連して考えていくべきである。 ○県立施設のあり方を含めた障がい福祉として、当然のことながら、民間の障害者支援施設ということに限らずに、地域で暮らすためのあり方、サービスについても議論が必要だろうし、さらには障がい福祉サービス以外のところも、必要に応じて今後議論していくべき。公的ではない領域も非常に大事であり、地域づくりを広く考えていく必要がある。 ○市町村レベルで、地域生活支援の仕組みが整ってきつつある。社会福祉事業団等に運営委託するにしても、まさに公立施設は、反対に、地域の支援システムの構築を阻む可能性があることに注意しなければならない。県は、市町村の支援や広域調整に注力すべきである。 関係団体ヒアリングでの主なご意見(地域における支援等に関して) ○在宅の重度障がい者や知的・精神障がい者においては、地域との関わりも薄く孤独になりやすいと思われる。固定化したサービスメニューではなく、当事者が望む支援を把握し、柔軟に対応できるような体制が必要。(神奈川県身体障害者連合会) ○お金の問題、災害、事件に巻き込まれるなどの時に迅速に保護するための包括支援センター(24 時間365日の体制)の設立が急務。(神奈川県知的障害者施設保護者連合会) ○民間施設では対応が難しい利用者の高齢化に伴う医療的ケアへの支援。入浴設備の機械化などが必要。(神奈川県知的障害者施設保護者連合会) ○ 本人が「悔いなき人生をおくるために」、多様なニーズに対応できるよう、多様なサービスを設定し、本人の選択肢を広げることが必要である。24時間365日稼働する暮らしのセーフティーネットである入所施設を一定のエリアごとに小規模分散整備し、地域生活を支える拠点とし、他の法人、施設と連携して、社会、地域住民との交流の場となる事業を展開して「ともに生きる社会」の醸成を図る。そのようなオール神奈川の障がい福祉施策の推進をお願いしたい。(神奈川県知的障害施設団体連合会) ○施設は地域の在宅支援も含めた総合的なサービス提供の場である必要。短期入所や相談、子ども食堂、生活困窮者支援、障がい者雇用、高齢者雇用、地域のお祭りや行事での職員のスキル提供、地域における利用者活躍の場の創造、地域サークル、サロン活動への協力など。障がい、高齢、児童等の複合型事業の展開。(神奈川県知的障害施設団体連合会) ○高齢化や引きこもっている方を受け入れるためには、利用条件(個別給付条件)の緩和等、柔軟な受入体制を整える必要がある。併せて、職員体制も整える必要がある。(神奈川県障害者地域作業所連絡協議会) ○ひとり身になっても生涯安心して暮らせるような継続的な支援体制が必要である。(神奈川県障害者地域作業所連絡協議会) ○障がい者の家族が高齢化していく中で、利用者が置き去りにされ困らないように必ず、1 人ひとりに高齢のケアマネージャーのような方がつくような体制づくりが必要かと思う。(神奈川県障害者地域作業所連絡協議会) (参考資料) 地域共生社会の実現に向けた包括的支援体制 ○既存の制度による解決が困難な課題 ○課題の複合化 ・高齢の親と無職独身の50代の子が同居(8050) ・介護と育児に同時に直面する世帯(ダブルケア)等 →各分野の関係機関の連携が必要 ○制度の狭間 ・いわゆる「ごみ屋敷」 ・障害の疑いがあるが手帳申請を拒否等 高齢者 地域包括ケアシステム(地域医療介護確保法第2条) (高齢者を対象にした相談機関)地域包括支援センター 「必要な支援を包括的に確保する」という概念を普遍化 障害者 地域移行、地域生活支援 (障害者を対象にした相談機関)基幹相談支援センター等 生活困窮者支援 子ども・子育て家庭 (子ども/子育て家庭を対象にした相談機関)地域子育て支援拠点、子育て世代包括支援センター等 土台としての地域力の強化 「他人事」ではなく「我が事」と考える地域づくり ※厚生労働省ホームページ「地域共生社会」の実現に向けた改革の骨格(地域包括ケアシステムなどとの関係)