資料2-4 当事者目線の徹底と権利擁護に取組むべきではないか(論点案〜大事項) 本人活動についてどう考えるか(論点案〜中事項) (1)現状・課題 ○近年注目されているピアサポートとは、一般に同じ課題や環境を体験する人が、その体験から来る感情を共有することで専門職による支援では得がたい安心感や自己肯定感を得られることを言い、歴史的には、身体障がい者による自立生活運動により始まり、後に、知的障がいや精神障がいの分野にも広がって、今日、広く定着し始めている。 ○近年の動向をみると、国の社会保障審議会障害者部会が平成27年に取りまとめた、「障害者総合支援法施行3年後の見直しについて」において、「地域移行や地域生活の支援に有効なピアサポートについて、その質を確保するため、ピアサポートを担う人材を養成する研修を含め、必要な支援を行うべき」とされ、平成28年成立の改正障害者総合支援法の附帯決議においても、「ピアサポートの活用等の取組を一層推進すること」とされた。 国は、厚生労働科学研究等における検討を踏まえ、令和2年度、ピアサポーターの養成や管理者等がピアサポーターへの配慮や活用方法を習得する「障害者ピアサポート研修事業」を創設し、地域生活支援事業費等補助金の補助対象とした。 ○県では、精神障害者地域移行・地域定着支援事業において、精神障がいの当事者であるピアサポーターを養成し、長期入院患者の地域生活移行を促進するためのピアサポーターによる精神科病院への訪問活動等を支援している。ピアサポーターは平成30年度に47人、令和元年度に49人、令和2年度に51人が登録しており、入院患者や病院職員を対象とした地域生活の体験談や情報提供を行うとともに退院意欲を喚起し、退院したい意向を示した患者の個別支援を行っている。 ○また、神奈川県社会福祉協議会は、地域福祉活動支援事業により県内の当事者団体や広域的なボランティア団体、市町村域の福祉関係者からなるネットワークを組織し、地域の課題解決やいきいきとした地域づくりに取り組む活動に必要な費用の一部を助成している。 ○こうしたピアサポートの活動の推進のための課題としては、平成27年度に国がまとめた「障害者支援状況等調査研究事業報告書」によると、「活用資金の不足」(回答件数72 件のうち9件)や「ピアサポート活動の幅の拡大」(同8件)、「ピアサポート活動従事者の孤立化」(同6件)、「活躍する場の不足」(同6件)が比較的多かった。 ○加えて、本人活動の課題を調査した例として、平成28年度に「発達障害者の当事者同士の活動支援の在り方に関する調査報告書」がとりまとめられており、「運営で苦労している点」の回答では「利用者の対人関係」「スタッフの確保」「運営資金」の割合が大きかった。 (2)検討の方向性 (本人活動の重要性の普及啓発)  ○当事者目線の新しい障がい福祉は、障がい当事者(本人)が生活の困難さにぶつかった時に、必要な支援を得ながら、本人が中心となってその課題を解決していくことを旨とすべきではないか。県は、そうした本人を中心とした活動を地域全体で支える仕組みを構築するために、本人活動の重要性について、広く県民に周知、啓発していくこととしてはどうか。 (当事者団体の活動の活性化) ○地域生活で生じる様々な生活課題を抱えていて、障がい当事者同士の交友関係をもてない人がいるとの指摘があることから、県は、当事者同士が支え合う活動を活性化させる観点から、当事者同士のつながりや居場所を作っている当事者団体等の活動事例を、広く紹介することとしてはどうか。 (当事者の役割の拡充) ○県が実施する障がい福祉施策関係の研修について、受講者が当事者目線の障がい福祉についての理解を深めるため、研修プログラムには、当事者の声を聞いたり、当事者にグループワークに参加してもらうことなどを取り入れることとしてはどうか。また、県が設置する、障がい福祉に関連する各種調査検討委員会には、当事者の参加を必須とし、既に導入している場合には、さらなる拡大を検討することとしてはどうか。 (当事者の企業活動への参画) ○企業者の商業サービスについて、障がい当事者が、障がい者の立場からチェックして意見を出すなどして、当該商業サービスがより多くの販売につながった事例がある。県は、ユニバーサルな社会を目指して、こうした企業活動への障がい当事者の参画事例を広く共有し、啓発することとしてはどうか。 (支援者の確保・養成) ○当事者団体の活動を継続するには、本人の主体性を最優先とした上で、その活動を適切に支援する人の存在も重要である。県は、適格な支援者を確保、養成していく観点から、現に、当事者団体の活動をサポートしている支援者の活動実態を調査、把握することによ り、支援の活動を続ける上での課題を明らかにし、その課題解決に向けての取組みを進めることとしてはどうか。 (意思決定支援への本人以外の当事者の関与) ○県においては、現在、サービス等利用計画や個別支援計画が、真に当事者の目線で策定されるよう、その策定過程について、サービスを利用しようとする当事者及び家族を含めた多職種によるチームを編成し、本人の心の声にしっかり耳を傾ける意思決定支援の仕組みを導入することとしている。今後、県は、この多職種チームに、できる限り、本人以外の当事者の参加を奨励することとしてはどうか。 (ピアサポーターの活躍の機会の創出) ○現在、県は、精神障がい者のピアサポーターを養成しているが、その活動範囲は、精神科病院の長期入院患者の地域生活移行が中心とされている。ピアサポーターの活動は、同じ課題や環境を体験する人が、その体験から来る感情を共有することで専門職による支援では得がたい安心感や自己肯定感を得られるものとされており、知的障がいや身体障がいの分野においても必要な活動であると考えられる。こうしたことから、県は、ピアサポーターの活動範囲についての研究・検討を進め、障がい福祉全体で、国庫補助事業である「障害者ピアサポート研修事業」を活用して、ピアサポーターが活躍できる基盤を作ることとしてはどうか。 ○また、ピアサポーターの活動は、現状では事業所内部での募集などに限られており、多くの当事者がピアサポーターになることを希望しているにも関わらず、事業所側がそれに応じられない状態が続いているとの指摘がある。県はピアサポーターの存在や効果などを事業所等に対して周知するなどし、ピアサポーターの活躍の機会を作り出すよう努めることとしてはどうか。 (ピアサポーターの養成後の活動支援) ○さらに、県は、ピアサポーターを養成した後も、しっかりとフォローアップすることとし、その活動が孤立化しないよう、また、よりピアサポートの技術が向上するよう、ピアサポーター同士の交流の機会やスキルアップ研修の機会を設けることとしてはどうか。 これまでの主なご意見(本人活動について) ○自閉症(スペクトラム)の人が毎日同じことを言っても、毎日話を聞いている。言葉で言える人には、言えることは自分から言っていきましょう、と伝えている。障がいが重くても、言葉で言えない人にも伝えている。そういうことが大切だと思う。 ○仲間の話を聞くとその人は安心する。それは、すごく大事だと思う。だから、常に仲間の話を聞くことにしている。 ○いのち輝くためには、どうしたらいいかということを実行した方がよいと思う。いろいろな話を聞くと、皆さんとコミュニケーションが取れる。自分はそういうふうにしている。 ○入所施設に知的障がいのガイドヘルパーをつけてほしい。同じ仲間同士でガイドヘルパーができると、みんなが外に出てガイドヘルパーを使って、もっとみんなが、「地域ってこんなだよね」ってお互い分かってもらえるのかなあと思う。 ○自分の意思をなかなか言えない人が結構いる。やはり言えない人には仲間同士のサポートが必要だ。 ○ご近所の、障がいのある男の子と毎朝散歩に行っているが、彼が、最近は近所の人の名前を呼ばずに、私が「眼鏡のおばちゃん」と言うと、彼は眼鏡をかけたおばちゃんを指さす。すると、「私のことを指しているのよね?」という反応がある。昔はよく、障がいのない人から「あの子、障がい者」って指を指されていたから、反対に私は障がいのない人を指すことを勧めている。それで彼が最近いろんな人を指しまくっている。私も一緒になって指して、今までにない交流の仕方を面白いなと思っている。 ○今後、ヒアリングを行う場合は、障がい当事者もヒアリングメンバーとなって、当事者目線で、「こんなことを聞きたいよね」とか、「こういう質問なら本人も答えやすいよね」というものを考えてほしい。 ○入所施設は、福祉サービスを入所者に提供して支援するという、一方的な構図が存在する。そういったものを打開するには、やはり居場所を増やしたり、ピアカウンセラーの提案があったとおり、障がい当事者の役割を増やしていくことだ。友達の話、場所の話、居場所の話が出ているが、いずれも福祉サービスの話ではなく、もっともっと幅広い話だ。 ○県全体でピアカウンセリング、ピアサポートが実施できる研修体制と、企業等への啓発等を実施すること、一人暮らしの人の支援を行う場として現行の自立生活援助事業に加えて、居住支援協議会を設置する必要がある。 関係団体ヒアリングでの主なご意見(本人活動について) (順不同) ○同じ仲間たちがピアサポートできるような仕組みを考えてほしい。仕事としてやりたい仲間がいると思う。(にじいろでGO!) ○仲間と話をしていると、自分達のことを自分で決めたり、仕事も頑張らなきゃいけないという気持ちになるが、施設ではそれができない。 (ピープルファースト横浜) ○地域で生活しているピアカウンセラーや先輩当事者を定期的に会議の中に参画してもらう。(神奈川県自立生活支援センター) ○選択肢を作って選ぶなど、誰にとっても分かりやすいものを作ることが大事。当事者同士でサポートし合っているので、知的障がいのサポートに職員が付くのではなく、当事者を付けるなどして、より多くの当事者が分かるようにしてほしい。( 〃 ) ○選択肢を増やさないとダメ。最近、自己決定という言葉を使わなくなってきたが、家族との関係の中でサービスの利用が限られたり、自分が選択しなくても済むようなことは今もある。今日何を食べようか考えなくても済む。選択肢を増やすためには自立生活ってこんなことだよと経験してもらう必要がある。相談支援やピアカウンセリングを行う当事者とのつながりを大切にしてほしい。( 〃 ) ○社会資源を活用して生活している当事者を入れる必要がある。職員が社会資源を知っていてもなかなか活用する時間があるわけではないので、ピアサポートを行っている当事者支援員を設置し、経験から知り得た社会資源マップなどを作り、伝えるような工夫をするとよい。職員がマップを作る時間を省略することもできる。( 〃 ) ○地域移行の生活の場の検討に、相談支援やオンブズマン、ピアカウンセリング等を行っている当事者を支援者として入れると良い。(〃) ○施設から地域への流れの中で、当事者団体や自立生活センター等が介入する。自立生活プログラムや、当事者目線での「介助者」を育てる。( 〃 ) ○当事者同士のサポート、ボランティアとの関係づくりなど、仕組みづくりを手伝ってほしい( 〃 ) ○障がいがあるから選択肢が狭まれるのではなくて、障がいの特性を生かして自分が何ができるのか、もっと開かれた仕事のあり方があると良いと思う。チャレンジ雇用とかではなくて、一般雇用として行政に入って仕事ができたら良い。当事者の職員を雇用すべき( 〃 ) ○県の職員は、当事者の声を聞いてから福祉の研修などを考えるべき。相談支援専門員研修に障がい当事者が参画すること( 〃 ) (参考資料) 我が国の当事者(本人)活動について ○1970年代に欧米で展開された「セルフヘルプ・グループ」の研究は、わが国においても1980年代後半から活発化してきており、「セルフヘルプ・グループ」は、従来型の専門職による援助では果たしきれない役割を担う存在として、基本的に積極的な評価を受けてきている。 ○近年では「ピアサポート」という概念への関心が高まりつつあり、これに関する研究も増えてきている。また、浦河べてるの家(※)の活動を端緒として、当事者の語りや「当事者研究」にも注目が集まっている。 ※1984年に設立された北海道浦河町にある精神障がい等を抱えた当事者の地域活動拠点 ○日本では知的障がい者の当事者活動・当事者組織を「本人活動」と呼んでおり、積極的に展開している組織の一つは、全日本手をつなぐ育成会である。育成会における本人活動は1994年の徳島での育成会全国大会で本格的に始まったとされる。この大会の本人分科会には、企画段階から知的障がい者本人が参画しており、同大会の本人決議にある「私たちに関することは、私たちを交えてきめていくようにしてください」は、本人活動の理念の一つとして、今日、全国に普及している。 ○育成会の活動と並行、関連して、1993年にカナダのトロントで行われたピープル・ファースト世界大会に日本から参加した知的障がい者たちが、1994年から「知的障害者全国交流集会」を開催している。この集会は1998年から「ピープル・ファースト全国集会」と改称され、現在もピープル・ファースト・ジャパンの主催で開催されている。 ○このような育成会の本人活動やピープル・ファースト・ジャパンのメンバーらは、欧米における当事者活動及び当事者組織に喚起されたことをきっかけに、全国の知的障がい者が交流するという形で、当事者活動・当事者組織を広めていった。