当事者目線の障がい福祉に係る将来展望検討委員会第4回(令和3年9月22日)資料2−2 「当事者目線の障がい福祉に係る将来展望検討委員会」中間報告 (たたき台) 令和3年10月 日 当事者目線の障がい福祉に係る将来展望検討委員会 目次 はじめに1 1会議の進め方について1 220年後の神奈川県の障がい福祉1 3これまでの県立障害者支援施設が果たしてきた役割と現状1 4委員会での主な意見2 (1)2040年頃の神奈川県の障がい福祉の将来展望について2 @地域共生社会の実現2 A当事者目線の障がい福祉3 B困難性の高い支援課題への県の取組み7 C地域でその人らしく当たり前に暮らすことのできる社会8 D障がい者故の価値の創造とSDG´sの理念11 (2)県立障害者支援施設のあり方について13 @地域生活支援と緊急時対応の役割13 A相談支援と人材育成の機能の充実13 B地域生活移行の推進と通過型の施設としての位置付け14 C終の棲家としない施設運営17 D民間との役割分担20 (3)その他23 5神奈川県の障がい福祉の将来展望24 6県立障害者支援施設のあり方と当面の対応26 (1)県立障害者支援施設の将来展望26 (2)県立障害者支援施設の役割と機能27 @市町村との連携のあり方28 A相談支援体制の構築28 B人材確保と人材育成29 (3)県立施設の当面の対応30 @意思決定支援の継続30 A当事者目線を基礎とした日中活動の充実31 B昼間実施サービスの見直しと新規入所の取扱い31 C地域生活移行、地域生活支援の推進32 D環境整備33 Eその他、個別論点33 むすびに代えて〜当事者目線の障がい福祉の今後の議論に向けて35 (1)県立障害者支援施設の改革35 (2)意思決定支援の全県展開への期待35 (3)地域資源の充実に向けて36 (4)福祉教育など関係領域との連携、協働36 (5)さらなる議論へ37 (1ページ) はじめに (検討委員会の開催趣旨などを記述) 1会議の進め方について (事務局から提示した「議論の視点」について記述) 220年後の神奈川県の障がい福祉 (先行研究などを引用しつつ、さらなる検討を行っていく旨記述) 3これまでの県立障害者支援施設が果たしてきた役割と現状 (やまゆり計画などを引用して、県立施設の整備の経緯、期待された役割などを記述) (2ページ〜12ページ) 4検討委員会での主な意見 (この章の趣旨についての説明) (1)2040年頃の神奈川県の障がい福祉の将来展望について @地域共生社会の実現 津久井やまゆり園事件を契機に、地域共生社会の実現を図っていくべきではないか (差別のない社会) ・やまゆり園事件を思う時、共生社会という視点が弱いため、普通の生活ではなく、施設に隔離し、隔離から差別という社会につながっていたのではないかと実感を持っている。 ・いろんな障がいの人と街の中で会って、お手伝いしたいと思っても、なかなか声を掛けにくい。知識があるつもりでもそうだ。もっと自然にそういうことができるようになるには、やはり、隔離をするべきではない。やまゆり園事件もそういった関係があるのではないか。障がいにかかわらず、差別やいじめ、虐待、さらには生活困窮といった様々な社会的な課題があるが、それらも、そういう考え方と無関係ではないと思う。 ・千葉県袖ケ浦福祉センターの事例だが、当該入所施設の検証を行ったところ、非常に閉鎖的で、他の法人や地域と全く連絡がなく、地域生活移行もない、保護者も含めて外部の人が来ない、保護者が来ても中に入れない、という状態であった。死亡した利用者の寮は、周りから全部見えないようにしてあり、窓をみんな目隠しして、入口を全部鉄の扉で隠してあった。利用者と職員が全くの閉鎖空間にいて、精神が正常でなくなり、異様なことになったと推察している。 ・上野千鶴子さんが『現代思想』で相模原事件について書いた「障害と高齢の狭間から」(現代思想、2016年10月号)を紹介したい。 「相模原の事件は集団生活を強いる施設の中で起こった。介助の効率化のために導入された集団処遇は、言うもおぞましい殺傷の効率化のために有効だった。もし障がい者が施設に入所していなかったら、障がい者介護を生業とする渡邉琢さんが『シノドス』で書いている、『なぜ彼らが殺されたのか』、以前に、『彼らはなぜ施設にいなければならなかったか』という疑問がある。自分はそれに同意する。渡邉さんはさらに、施設入所者は施設で暮らざるをえなかったのか、言葉は悪いが地域社会から見捨てられたのではないか。地域社会が受けとめてくれるなら何も住み慣れた地域を離れて、不自由な集団生活が待っている施設に入ることはなかったのでないか」  私たちはもう一度、地域共生社会市民として障がいのある方が地域で生活できるということを考えたいと思う。そのために、県立施設、あるいは国の施設は何をできるかということを考えたいと思う。 (地域でともに暮らす) ・地域で暮らすには、やれる人はやはり朝あいさつをした方がいいと思う。「おはようございます」とか、お店の人に毎朝あいさつして出かけている。例えば「昨日魚おいしかったですよ」と言うと、「ありがとうございます」とか「また来てくださいね」とお礼を言われる。そういったことが地域とのつながりではないか。 ・生まれた時から、小さい時から地域社会で一緒に暮らすことが大事。障がい者を持ったからといって悩んで、どうしようかということがないような、安心して育てることができる地域であるべき。地域の中で、みんな同じなのだから一緒に育っていこう、一緒に生活していこうということが、一番根本なところで必要なことだと思っている。そのための施策を進めていってほしい。 ・子どもが幼稚園から小学校、中学校と、今で言うインクルーシブ教育を受けることができた。支援教室もあるが、通級ということで、他の生徒と一緒に9年間過ごすことができた。地域の中で生活できたと感じている。上に娘が2人いて、通う保育園では重度の障がいの人3〜4人と一緒だった。1歳のときから保育園が終わる6歳まで。その経験というのは、本当にもう姉たちに身についていて、本当にそれがうちの子どもたちの原点だなと思っている。地域でいろんな人と生活したということが今につながっている。その経験が今も身について、その経験があっての彼、彼女らの今の生活だなと思っている。やはり子どもの時の生活が一番大事なのではないか。それは、家族支援にもなる。そういう視点も是非もっていただきたいと思う。 ・地域でもよく話をしている。2週間前に地域のお店で刺身を買った。そのときに、ちょっと優しい店員さんがいて、同僚の方に「この方、親切ですね」と言ったら、その同僚の方も「最高です」と言ってくれたのが、僕はすごく嬉しかった。なので、地域で暮らすには、会話をすごく大事にしている。常に会話を大事にして、そうすると、だんだんといのち輝くようになるのではないか。 (理念の普及・啓発と新しいルール作り) ・かながわ憲章はそのまま読むと、言葉の意味が難しい。8月2日に、知事と当事者のシンポジウムを行った。シンポジウムでかながわ憲章は難しいと意見が出た。そのとき、知事は、「いのち輝く」という言葉を使って、分かりやすく答えてくれた。知事が言う「いのち輝く」はイメージができた。知事の言葉で、もっと発信してほしい。 ・僕のやりたいことを押してくれる、気持ちを分かってくれる人がいれば、僕はいのちが輝く。施設で暮らす仲間たちのいのちも輝いてほしい。津久井やまゆり園事件が起きて、かながわ憲章ができた。でも、今も虐待はなくならない。新しい憲章やルールが必要だ。そのときは、僕たちの気持ちを聞いてほしい。よろしくお願いします。 A当事者目線の障がい福祉 障がい福祉において、家族目線・支援者目線ではなく、当事者目線の考えを徹底すべきではないか (当事者目線の支援に向けて) ・県立施設については、平成15年度からそのあり方について検討が行われてきたが、当事者の視点からの検討は行われていなかった。 ・昨年度まとめられた「障害者支援施設における利用者目線の支援推進検討部会報告書」の内容については、真摯に受けとめている。特に、身体拘束ゼロに向けた取組みについては、鋭意取り組んでいる。 ・先の検討部会では、やむを得ず身体拘束する前に、職員同士でしっかり話し合うことが一番大事だという意見があった。私たちはその言葉をしっかりと受けとめて、今まで以上に慎重に進めるようになったし、そのことが、やむを得ず行う身体拘束の件数の減少という形で表れてきている。 ・先の検討部会では、身体拘束をしなかったらそれでいいのではなくて、これからは支援の質も上げていかなければいけないという意見があった。日中活動や余暇活動、そういうところの充実にも取り組んでいる。 ・障がい福祉に関わる職員の意識と意欲を高めることが大事ではないか。検討部会報告書は私たちにとって非常に厳しいものになったが、当事者目線に立てば、当然のことと受けとめなければならない。 ・ここに至るまでの「津久井やまゆり園利用者支援検証委員会」及び「障害者支援施設における利用者目線の支援推進検討部会」において、入所施設にとっては厳しい指摘をいただいているが、改めて、当事者と伴走の仕方を変容させるチャンスというふうに捉えて、当事者目線に立って、もう一度、我々の独りよがりではなくて、当事者と一緒に、施設を進める。その先に、施設が不要になるような実践を展開していきたい。 ・ジョブコーチっていうのはあんまり役目を果たしていない。以前、授産施設にいたとき、1回就職したのだが、その時、僕にはすごく厳しく言って、会社の味方ばかりしていた。それでちょっと僕が困って、会社を辞めることになったら、その職員は反省していた。 (不適切な支援の背景) ・不適切な支援をのんべんだらりと繰り返していると、職員も管理職も、もう一歩先に進んでしまい、自分たちが担当している利用者が、人間ではないと思ってしまう。私はこれを「視野狭窄型」と呼んでいる。 ・障がい者あるいは認知症の人に対する人間理解については大きな変化がここ30年ぐらいのところで生じている一方で、「視野狭窄型」の支援が行われている。それは、認知症の人や重い知的障がいの人というのは、自分のことが判断できないんだ、もちろん社会のことも判断できないんだ、だから他の人が代わって判断しなきゃいけない、こういう考えで支援を行っているからだ。私はこれを「能力不存在推定」と言っている。 ・支援の中で、叩かれたから思わず叩き返したというような、思わずやってしまったというような支援、これを100%なくすのは非常に難しいだろう。こういうことが起きたときに、その支援というものが一体どういう状態だったのか、なぜそういう事態になったのか、施設ぐるみで再検証し改善していく取組みが必要だ。 (当事者目線の意味) ・職員が勝手に自分たちのことを決めないでもらいたい。親や職員が勝手に決めないでもらいたい。親の意見を聞くのでなく、職員の意見を聞く前に、自分たちの意見を聞いてもらいたい。職員と話したい。施設のルールも自分たちで決めたい。 ・障がいの人に対して当事者目線で話すと、結構分かってくれる。いくら障がいが重くたって、「この人、無理だ」と言わない方がいいと思う。 ・当事者目線というのは、常に相手に合わせて話をするということだと思う。私が通う施設に自閉症スペクトラムの方がいるが、その人たちの目線で話すと楽しそうで、ちょっとしたことなのだが、すごく喜んでくれる。私が休むと、一緒に働いている仲間から、こういうことがあったよ、と報告してくれる。私にとって、すごく励みになって嬉しいことだ。 ・当事者目線の障がい者福祉の将来の展望が何なのか。いつまでも、僕たちは若くはありません。みんないつか死にます。それで、施設のあり方も変化してほしい。施設のことばかりの話で、僕たちの意見はどこにいくのだろうって思う。 (意思決定支援の推進) ・これまでは、地域生活の体験の機会が少なく、選択肢は限られていたが、今後、意思決定支援の中で、当事者が生活の場や暮らしの場など、もっと選択できるようになればいいと思う。 ・オール神奈川での意思決定支援の推進、これの取組みを推し進めることが必要だ。県立施設全体で行うことをまず提案したい。実際に津久井のモデルで、この意思決定支援に関わったチームから、当事者がこういった場に加わることによって、話し合いの形式も大きく変わり、サービスを使う主人公であるというようなことがより意識されるようになる。こういった取組みを是非、県立施設全体、中期的には神奈川県全部の民間施設でも、この神奈川モデルというものを構築できるようにできたらいい。併せて、意思決定支援コーディネーター等の配置の検討してほしい。 (意思決定支援の本質) ・意思決定支援の「意思」は、「思う」という漢字はなくて「志す」。なにがなんでもやり遂げるのだというような思いが生じるようなやり取り、環境というのが、当事者の尊厳回復につながっていくと思っている。 ・30年ほど前から、パラダイム転換が生じている。どんなに重い認知症の人や障がいのある人であっても、その人なりの考え、思いというのがあり、それを引き出す支援をすることが重要だ、となった。適切な支援さえすればその人の思いというのが理解できて、その人が思っている状態で支援ができるようになる。その人がパニックを起こしたり怒ったりするということが少なくなってくる、という理解に変わってきている。私はこれを「能力存在推定」と呼んでいる。 ・神奈川県の意思決定支援のチームの活動は、「能力存在推定」の立場に立たないと意思決定支援というのはあり得ない。意思がない人に意思決定支援をすることはあり得ないことから、意思決定支援という会議においては重い障がいの人も重い認知症の人も、思いがあるのだということを前提にしないといけない。 ・約束と合意を経ないで入所する中で起きるのが行動障がいである。行動障がいは、当事者の方の問題ではなくて、環境の中で起きてしまう。非常に激しい行動障がいも当然あるが、その中で、職員、利用者ともに、双方向にトラウマが生じて、より閉鎖的な、路頭に迷うような状況・環境が生まれて、その人の可能性が見えなくなっていく。この悪循環を食い止めるためにも、やはり何のために入所してるのかということを、本人とそこで暮らす職員、そこで支援する職員が認識していくということが非常に重要であり、これが「意思決定支援」なんだというふう捉えている。 (事業所の運営を優先しがちな支援) ・多くの支援員たちは一生懸命頑張っているが、1分でも早く食堂に連れて行きたいなあとか、早く靴を履いてもらって散歩に連れて行きたいなあとか、早くこの時間帯にここに行ってほしいなあと思った瞬間に、もう駄目。 ・忙しい現場では、本人の心が動いてるのか、何か情報を取ろうとして顔を向けたのか、あるいは、今、どんな気持ちでいるのかといったことを察することはせずに、「○○さん、散歩行きましょう」とボディータッチしてしまう。 ・現場の1分1秒の関わりの中で、何とか風景にはまってもらいたい、馴染んでもらいたい、ここに参画してもらいたいと思って誘う瞬間に、もう実は心の二次障がいが始まっている。そういう小さな積み重ねの延長線上に、いろいろなことが起きてくる。どうしても「支援のための利用者」になってもらわなければ困る、「事業主のための利用者」になってもらわなければ困ると思ったところで、もう職員の方が負けてしまう。 ・放課後等デイサービスはいわば「場所貸し」サービスで、20人登録していたら、20人来てくれると本音は嬉しい。20人登録の時に5人しか来てないと寂しく思うもの。その時に、この5人の方たちは、何も税金給付の対象にならずに、ここに来なくても、ひょっとしたら児童館や放課後児童クラブでやれてる子かもしれない。今日はこちらで5人の支援で止められて、子どもたちが、本人本意の暮らしをしているのだったらいいじゃないかと思えるかどうかだ。 ・ハコを用意した以上は、いっぱい来てもらいたい。来てもらった以上はこっちの意図に沿ってもらいたい。だんだん、だんだん、やっぱり「事業者のための利用者」という思いが強くなっていく。あるいは支援者の意図に沿ってくれる利用者になってほしいと思うのは人情だ。 (家族支援) ・長野県西駒郷から地域生活移行を進める際に、一番この取組みに不安を持たれていたのは、家族の皆さんだという気はする。もともと老朽化した入所施設を建て替えてくれればもうそれで十分だといことだったが、いつの間にか地域生活移行の取組みに変わっていたという意味では、保護者の皆さんたちは、すごく不安だったのではないか。何回も意見交換を行った記憶がある。 ・現在、長野県西駒郷はまだ100人前後の人たちが暮らしている。今後、地域生活支援拠点の役割、全県の専門的機能、今入所している人たちのさらなる地域生活移行に頑張る方向だが、いろんないきさつのあるご家族とご本人の了解の中で進めていく中で、さらなる地域生活移行を進めるというのは、苦しいところにある。 (利用者と職員の関係性) ・私の事業所では、職員と約束をするために、毎年4月に誓約書に職員に名前を書いてもらっている。それが約束であり、当事者と職員が約束することが大切だ。 (参考)「虐待に関する誓約書」 1尊厳を持つ一人の人間として接します。 2 暴力を振るいません。 3上から目線の言葉などの差別的な言動は行いません。 4利用者の方たちの知らないお金の管理はしません。 5利用者の方たちの物を勝手に触りません。 6無視、ご飯、飲み物を摂らせないなど、孤立させるようなことはしません。 7予定や情報など、利用者の方たちに関わることを丁寧に説明します。 8利用者の方たちの話をきちんと聞きます。 B困難性の高い支援課題への県の取組み 強度行動障がい、高齢障がい者、医療的ケア児など困難性の高い支援課題に対し、県として果敢に取り組むべきではないか (強度行動障がいの人に対する支援) ・強度行動障がいの人ばかりを集めた大規模施設を作ると地域生活移行は困難である。千葉県の事例であるが、施設としては、地域移行を進めると言っていても、現実には地域移行できていない実態がある。県も監査を行っていたが、非常に形式的で、支援の内容について、中まで見ないという監査が当時行われていた。 ・障がいが重いので外に出せないという理由で、一日中施設の中にいる。そういう生活して、人生を終える。基本構造としては集団生活が難しい、とりわけ強度行動障がいの人は、集団生活をさせる入所施設は構造的に無理だ。無理なのを承知で支援しているから、支援が困難だということで場合によっては支援しない、放置する、ということにつながっていく。裸で歩いていても、ほったらかしにしておくというようなことにしてしまう。 ・行動障がいというのは、その環境で起きている、自分たちが引き起こしているという理解がなければ、すべて当事者の責任に押し付けて、ずっと施設に暮らさせることになる。 ・入所施設に入る際に、まず本人がなぜこの入所施設に来ているのか、説明がなされないケースが大半だ。親御さんや支援者は、当事者の方を「迷惑な人なんだ」と、「自分たちを困らせてしまう人たちなんだ」というような思いをどうしても抱いて入所施設に来る。本人と、なぜここに来たのかという約束をする、これからの目的も共有をしていく、ということが大事だ。 ・日中活動をしっかりと、多様な活動を用意するということと、そこに挑戦していくということが、一人ひとりの可能性を導いていくことになると思う。システム論というよりはやはり、行動障がいがなぜできているのかというところ、また、施設の中に、診療所等があるが、その結果、何が改善されたのか。結局拘束の数、居室施錠の数、そういった意味で、本当に適切な医療が実施されているのか、冷静にもう一度検証した方がよいのではないかと思う。 ・強度行動障がいに関して、本当にシステム論だけで解決するのかといったところは、一度考えた方がよいと思っている。強度行動障がいがなぜ生まれたのか。生まれつき強度行動障がいの人というのはいない。やはり育てにくさがあったり、本人の生き難さや、いろいろなものがうまくできない、いろいろな活動が上手にできないという中で、行動障がいというのが生まれてくる。 ・今、入所施設で行われている、構造化により刺激を排除していくという形での暮らしが、その結果、今の問題に行き着いていると思う。この発達という部分に関して、どうやって保障していくのか。それは、様々な活動をするしかない。そういった意味で、日中活動ができていないことが、皆の生き難さを作っていっている。そこを改善していかないと、行動障がいは、より根深くまた強く出てきてしまう。 (高齢の障がい者への支援) ・終の棲家論については、利用者の経験、体験も含めて、意思決定支援に基づいて、どこで住みたいかという検証の後に、施設を含めた終の棲家論というようなところは検討していくべきではないか。具体的には、高齢化への対応として、特養があるとおり、障がいのある人の高齢化に対応する障がい分野の特養的な24時間365日型の居住支援の場が必要ではないか。 ・入所施設からの地域生活移行の受け皿として、当時ゼロか所だったグループホームが、35、6か所に増えたが、むしろ今は、20年前の当時からグループホームに移った人たちについて、今後どう支えていくかということも大きなテーマになっている。 (医療モデルの支援) ・神奈川県立ひばりが丘学園の初代園長の菅修先生が主唱した治療教育学は、国立のぞみの園でも実践されてきた。しかし、やはりこれは医学モデルであり、有効ではなかった。障がいのある人が、市民として地域で生活していくときに、この治療教育学が本当に活きるのかどうか。専門性という観点からも非常に問題があると思っている。 (地域生活移行を進めていく県の決意) ・重度といわれる、医療的ケア、行動障がいの人については、今でもグループホームというのは、なかなか基盤が整備されていない。重度の人が地域で生活するには、報酬も含めてまだ十分ではない。国立、県立では財源を上乗せしてやるべきだと強く思っている。 ・先般の、長野県西駒郷の今後のあり方の検討会結果では、強度行動障がいの人が残っていて、なかなか今後、そういう方たちの地域生活が進まないということだったが、不満がある。是非そういう人についても地域生活移行に取り組むべきである。 ・県立施設の今後としては、地域共生社会の実現に向けて、どんなに障がいの重い人も地域生活が可能であるということを証明してほしい。これを県立施設の職員に頑張ってもらって自分のたちの仕事はここにあるのだと、ここにチャレンジしていくのだということで、もう一度力を発揮してほしい。是非、地域移行及び地域生活支援に全力を尽くしていただきたい。 C地域でその人らしく当たり前に暮らすことのできる社会 障がい者は地域社会を構成する一員であり、本人が希望する場所で、尊厳を持って、その人らしく暮らすことが当たり前であるべきではないか (地域の理解の促進) ・地域の人に、障がい者のことをもう少し理解してもらわないといけない。地域の皆さんは、障がいの重い人に結構冷たいし、すごく感じ悪い。障がいの重い人への理解が進まないと、やっぱり当事者目線と言ってもなかなか変わらない。 ・外出した際、店舗で障がいがありますと言ったら、すごく皆さん手厚くしてくれて、優しくしてくれた。やっぱり、事業者の人がそういうふうに意識しないといけないと思う。私は障がいがあると自分から言ってる。言った方が安心する。なるべく障がいがある人は言ったほうがいい。 ・「いのち輝く」というのは、例えば、当事者目線で言うと、本人のやれないことに対して、仲間同士でも協力してあげるといいと思う。実際、今、僕はそれをやっています。火曜日と金曜日の作業の仕事で、洗濯の仕事があって、帽子の数を数える。それが数えられる人と数えられない人がいらっしゃる。数えられない人には、まず電卓を使ってみなさいと教えてあげている。帽子を5束ずつたたんで、数を数えることが難しい人には、電卓の足し算を使うよう教えている。そうすると、ちゃんと電卓を使えるようになってくる。そういう中で、仲間も、やっぱりいのち輝くと思う。 ・自閉症の方が毎日同じことを言っても、毎日話を聞いている。どんな時でもまず、今日どうするの、やらなくていいの、とたずねる。自分が早く帰ったりすると、彼(同僚)が不安がってしまうが、「あと、お願いね」と言って頼んでいく。言葉で言える方には、言えることは自分から言っていきましょう、と伝えている。障がいが重くても、言葉で言えない方にも伝えている。そういうことが大切だと思う。 ・いのち輝くためには、どうしたらいいかということを実行した方がいいと思う。僕は結構実行している。よく僕のことをくすぐる人がいるので、今度は僕がくすぐってやると言ったら、「やだ」と言った。僕は、結構そういうことを実行している。いろいろな話を聞くと、皆さんとコミュニケーションが取れる。自分はそういうふうにしている。 ・職員が忙しいときなんか、彼(同僚)はすぐ僕の名前を呼ぶ。僕が行って話を聞くと安心する。それは、すごく大事だと思う。だから僕は、常に仲間の話を聞くことにしている。 (誰もが尊重される社会) ・神奈川県の20年後の障がい福祉を考えるときに、当事者はもちろん、障がい福祉の支援者も、しっかり尊重され、誰もが意欲を高めて生き生きと活動でき、活躍できるような20年後のあり方があればと思っている。 ・ハンディキャップがあっても、当たり前の同じ人間なんだということを、言葉の上ではなく、私たちが実感を持てるような社会を作っていくための、これからの取組み、方向というものを希望する。 (地域生活の経験の重要性) ・今一人暮らししていて、ヘルパーが週1回家に来てくれているが、それ以外の日は自分で調理をしたりしている。何でも経験することが大事だ。 ・最初はグループホームに入居することを進められたが、一人で暮らせるだろう、一人暮らしをやってみませんか、と進めてくれる職員がいた。その職員だけがグループホームじゃなくて家で住めますよと教えてくれた。その人がいろいろ勧めてくれたので今に至っていて、母も分かってくれた。 ・地域で暮らすには自分から言うというのが一番大切。職員とも仲間ともよくコミュニケーションを取っている。自分から決して意見を言わない。彼らが言うことに対して答えている。その方が上手くいく。それが当事者目線だと思っている。 ・地域移行を目指すという考えはすごくいいと思うが、現実、地域で暮らすというのは不安だと思う。入所施設の仲間が本当に地域で不安なことがいっぱいあるのに、地域移行って言っていいのかなっていうのが一つ不思議だ。もしこの先、サービスの利用をいっぱいやるのであれば、入所施設に知的障がいのガイドヘルパーをつけてほしい。当事者同士のガイドヘルパーができると、みんなが外に出てガイドヘルパーを使って、もっとみんなが、「地域ってこんなだよね」ってお互い分かってもらえるのかなあと思う。 ・地域で安心安全な生活というのは、障がいのあるなしにかかわらず難しいもの。みんなトラブルに合うし、何か困った事態になるということは、皆がある。その困った事態になるということを前提にして、それを何とか支えていくという地域社会ができるということが本来の姿なのかなというふうに思っている。 ・地域に移行して、安心安全だというふうに言うのはいいが、そんなことは、障がいのあるなしにかかわらずないので、皆不安を抱えて生きていくというのが、それが自然な姿だと思う。 (地域でともに暮らす) ・こういった検討会では、公的な障がい者の支援サービスのことが先ず論じられるが、これに加えて、生活の中では、野球を観に行くとかいろんな側面があって、暮らし全体をどう皆で支えていくのか、そういうように広く見ていくことが大事。 ・障がいがあってもなくても同じ子どもなのだから、幼稚園や学校の普通学級で、一緒に学んで一緒に遊ぶということが、すごく遅れていると思う。それが一番の原点ではないか。 ・自主活動の中で小さい時からいろんな子ども同士、触れ合うとか、親子で他のいろいろな方に触れ合うといった意味では、この問題は福祉の問題に留まらずに、教育や、少し幅広いところに、大きく関係していて、そこで小さい時からいろいろと一緒にやっていれば、それぞれの認識も変わってくる、また、20年後にますますいろいろな形につながっていくと思う。 ・今日の国立コロニーのぞみの園、あるいは神奈川県の県立施設の公、あるいは公立の役割というものについて考えてみると、まず地域性の課題がある。国立コロニーは全国から利用者が集まっており、これは地域を持たないということだ。神奈川県は、各圏域での設置ということで、状況は異なるかもしれないが、神奈川県内の各地から施設に集まったということから、地域から切り離されたことには変わりないだろう。 ・地域から切り離されて、県立施設に入所した人たちを、地域にまた戻すというのは非常に大変なことで、そもそも切り離すことが本当によかったかどうかということを考えなければならない。 ・困難性が高くなるが、やはり高齢になっても“くに”に、もう親御さんというよりは兄弟姉妹、そういう方の元に帰りたいというご希望にも沿う必要がある。亡くなる前に“くに”に帰って、そこで生活するというのは一つの選択肢だと思っている。 (サービス基盤の充実) ・神奈川県の障がい福祉の将来展望については、当事者の人たちが地域でその人らしい生活を送るための、サービス基盤の整備がなにより必要である。つまり、当事者の皆さんが利用できる、必要なサービスを増やす、ということだ。 ・地域の中で、入所施設をグループホームと同様に選択肢として位置付け、多様なニーズを持つ当事者たちが、地域資源を活用し、当事者主体の地域生活が実現するよう、質、仕組みづくりが必要である。 ・法人や事業所が、自分たちだけで何とかしようとすると、どうしても、そこで自分たちの中だけでやった瞬間からもうご本人たちの目線から外れてしまうことになる。そうでなく、自分たちだけでできないところを、他の法人に応援してもらう視点は大事だ。 ・なぜ入所施設が必要かというと、夜困るからだ。でもそれはずっとということではなく、困ったときには必ず夜受けとめます、だけど、ずっとではなく、受けとめたらすぐに支援会議を開いて、できるだけ早く、元の暮らしに戻ってもらう。入所施設を地域生活の支援拠点として位置付けてきた。 ・入所施設イコール終の棲家にしないという課題は、入所施設だけで解決できることではなく、例えば、どんな困り感を持っている人も受け入れるグループホームがあるなど、地域の基盤整備との相対的関係にある。また入所者の高齢化は、入所施設やグループホーム共通の課題であり、その人たちの受け皿としての入所施設の役割は今後高まっていくのではないか。 ・グループホーム入居者が、日中活動と移動の保障を必ず受けられるような相談支援体制の取組みが必要だ。県全体でピアカウンセリング、ピアサポートが実施できる研修体制と、企業等への啓発等を実施すること、一人暮らしの人の支援を行う場として現行の自立支援生活援助事業に加えて、居住支援協議会を設置する必要がある。 ・障がいのある人が長期間働けるように、企業等と障がいのある人をつなぐ役割として、「ジョブヘルパー」の創設を提案したい。「ジョブヘルパー」は、社会福祉法人、NPOによる人的支援ということで、現行の移動支援、身体介護、コミュニケーション等を含めて、企業にヘルパーとして入って支援を行って、企業側とご本人との間をつなぐ仕組み。これにより、働く場の継続ができると考える。 D障がい者故の価値の創造とSDG´sの理念 障がい者故の価値の創造や、SDG´sの「誰一人取り残さない」持続可能な多様性と包摂性のある社会の実現を目指すという理念を生かすべきではないか (対象像の転換) ・自分が弱いところ、苦手なところ、あるいは強みというのもあって、それをお互いに支援したり、子どもを育てる中でもいろいろな共感をし、自分たちの生活の豊かさとか、幸せにもつながっている。そういう当たり前の視点というのをまずスタートにしていかないと、今の障がい者の支援ということが、障がい者の入所施設に限った話になってしまう。 ・「重度の人」という表現、「区分6」という表現が非常に多いが、そんな表現ではなく、「困っている人たち」という表現がなければ、永遠にこの問題(重度の人は地域生活が困難という考え)は解決されない。そういった意味で、県立施設だけではなく他の入所施設も今問われている。この議論というのは、「本当に当事者が困っているんだ」ということが、どこまで共感できるような仕組みを作れるかだと思っている。 (新しい障がい福祉) ・千葉県の県立施設に関する取組みでは、新しい福祉とかそんな大胆なことは言っていない。神奈川はその先を行って、新しい地域生活、新しい障がい福祉を考えるんだと、もっと言うと、新しい社会を考えるんだということを謳っているのだから、千葉県の取組みを超えるような、新しい施策というものを打ち出してもらいたい。 ・この日本に生まれ育って、生活をしていく一人の人間としては、全部当事者だと思う。自分の活動の中で、障がいやいろいろとハンディキャップを持った人と巡り合って、お話したりすることを経験して、実感としては、人間としては、本当に皆同じということだ。 ・これからの神奈川の「地域社会」を描くときに、障がい者と家族だけでは展望がない。子どもや高齢者なども含めて、もっとまぜこぜというか、もっといろんな人が一緒に生きているという、そういう社会像を描くのが展望としていいのではないか。 (福祉教育) ・長期的な目標としては、地域づくりという視点というのは非常に大事で、そこに向けてこの議論を進めていくというロジックも大事。障がいの理解というところを、福祉教育的なものを県下で進めていくということは、地域を作っていく一つの方法だと思っている。 (13ページから23ページ) (2)県立障害者支援施設のあり方について @地域生活支援と緊急時対応の役割 地域生活支援拠点の役割を持たせ、緊急時に対応できる短期入所の整備を必須としてはどうか (地域資源としての入所施設のあり方) ・入所施設は単独で存在してはならない。地域とともに入所施設が存在しないと、なかなか地域移行はできない。 ・入所施設をつくるというのは、地域をつくること。これを同時に実践していかないと通過型という機能を持たせることは難しい。県立施設の立地、あり方で、それが可能なのかどうか。本当にこれは議論していきたいこと。 ・県立施設は、民間で実施できない専門的な機能を有する貴重な社会資源であるというふうに、我々民間施設の事業所は感じている。今後の県立施設は、地域生活支援拠点事業の神奈川版として、多機能地域生活支援拠点の機能を持つことが重要ではないか。 ・入所施設に入って来られる人は、地域とのつながりが少ない。そこをどう広げていくかが、課題ではないか。エコマップを作成すると、もちろん本人が中心にいるのだが、関係する機関は、入所施設と医療だけというような例も少なからず存在する。地域に出てつながりを持つことも大事だし、見方を変えて地域の人たちにどう施設に来てもらうかという視点も大事。石川県の佛子園のように、施設に地域の人が集まり、地域コミュニティーを作っている例もある。魅力的な施設づくりも大切だ。 (緊急時の対応) ・県立施設を地域生活支援拠点として位置付けていくよう、緊急時の受け入れサービスを強化するため、短期入所の定員枠を広げ、さらなる緊急の受け入れの場を作ってもらいたい。 ・先の検討部会の報告書の中に、「障害者支援施設は地域で生活している障がい者の暮らしを支える機能が求められる」とされており、その地域での生活の支援拠点として、セーフティネットの役割もあると考える。当事者の皆さんが困ったときに、必ず助けてくれる施設が必要だと考える。緊急短期の入所や、行き詰まった支援の再構築のニーズは高く、虐待ニーズも存在する。また、家族が新型コロナに感染し、家に残された当事者など緊急の受け入れのニーズも増している。地域で困っている人を支える役割を担うべき。 A相談支援と人材育成の機能の充実 相談支援の機能と人材育成の機能を充実させることとしてはどうか (相談支援専門員の役割) ・いろんな事情の中で、今日入所施設に来られて入所となった人がいたときに、相談支援専門員や親御さん、前の事業所の支援員が一緒に来ると思うが、どうやったらまた本人が良いなと思う暮らしに戻れるか。入所施設のできること、地元の方でやれることを、またちょっと突き合わせていきましょう、ということを繰り返し、繰り返し、繰り返し行っていくという取組みが大切。 (「強み」を生かす人材育成) ・神奈川県は、サービス管理責任者や相談支援従事者の研修、ファシリテーター養成であるとか、47都道府県で見ても、研修に関わる人材が豊富にいる。その人材を生かしていく中で、改めて、虐待ゼロ、権利擁護という視点を、しっかり検証をしていくというところが、神奈川のストレングス(強み)だと思っている。 ・先の検討部会報告書の内容に、現場の職員は、今まで取り組んでいたことが全部否定されたような印象を受けたのも事実。そのような中で、今回、現場の職員のやってきたことを全部否定するのではなくて、ストレングスの視点に立って、希望の持てるような評価をする面も大事だという意見があり、その言葉に大変勇気を得た。 ・神奈川の県立施設のそれぞれの職員は頑張っていると思うので、その人たちが何かもう少しやる気を出してきて、チャレンジし、ちゃんと自分たちの仕事が、批判されないで評価されるような、そういうことが大切。 (大学や研究機関等との連携、協働) ・民間施設事業者等との連携によって、人材の養成に努めるということが必要だ。 ・国立のぞみの園は調査研究部があり、研究も少しずつ進んできた。これからの県の役割は人材の養成だと思っている。そういう意味では神奈川県においても、県立施設といろいろな大学、研究所と協働しながら人材を育成するということが非常に重要だと思っている。 B地域生活移行の推進と通過型の施設としての位置付け 長期の入所者の地域移行を加速させるとともに、通過施設(有期限の入所期間)として位置付けることとしてはどうか (適切なアセスメントとモニタリング) ・千葉県の事例であるが、廃止することが決まった入所施設において、利用者の地域生活への移行を進めるため、一人ひとりの暮らしの場の支援会議を作り、どこに住むか、専門家も含めてアセスメントをして検討する取組みを進めてきた。 ・アセスメントをきちっとやってその人がうまく生活できるようにすればいいのだが、そういうアセスメントをしない。何もできないなら、やっても無駄というような感じで支援をしてしまう。 ・「本当は本人が一番困っているんだ」、「もっともっと自由に生きたいんだ」ということを、共感できるようなアセスメントをしっかりと行うことが入所施設の入口であり役割だ。これができない入所施設は存在意義が正直ない。これをやらないので、50年を超える入所であったり、平均で20年という在所年数になってしまう。 ・単にグループホームであれば良いということではなく、やはりその支援の内容、それが非常に重要だと思っている。グループホームやその地元で働く場所なども併せた地域生活の支援は、大規模入所施設ではできない、インクルーシブな生活を行う上ですごく良い。しかし、グループホームは、運営が非常に厳しく、地域移行を進めて、地域での生活をみんなに知ってもらうためには、制度的な支援が絶対必要だと感じている。 ・すべての人にサービス等利用計画が作られることになったが、作るだけの計画ではなく、必ずしっかりと振り返るための意味のあるモニタリングができていて、いつも計画を作っている人は、どうですか、どうですか、どうですか、とやり取りをしながら、どこで心動いた?あの時どうだった?現場の支援員から聞いてきた?どの辺が本人心動いた?みたいなことを、いつも集めながら、じゃあ3か月後また集まろうね、といったことを、繰り返すしかない。その延長線上に、本人はこういう暮らしの方が喜んでるようだ、こういう支援の日中の過ごし方の方が役に立ってる表情で頑張ってるよ、といったことで積み上げていくしかない。 (その人らしい暮らし) ・他県の廃止が決まった入所施設の事例であるが、地域生活を知らない人を地域に移行させるというのは、もともと無理があることから、社会経験を積んでもらうということを、この2年の間にやっていくということを計画している。 ・入所施設は「能力存在推定」を示さなければならない。一人ひとりの可能性を示す。そのことが、地域に戻っていく一つのきっかけになり、理解者を増やすことになる。そのためには、本当に施設の中で完結する支援では無理だ。 (「入所」が最終目的とならない運営) ・通過型の施設を実践していく上で大切なのは、約束をするところ。本人と合意をすることだ。入所するその時に、本人を連れてくる家族、支援者がいるが、「入所すること」を目的とさせないことが重要。施設に入所することを目的にするという人生があったら寂しい。それは有り得ないことだ。どうやってまた戻っていくのか、また新しい人生をつくっていくのか、最初にここを一緒に描かないといけない。ここをなくして、入所を受け入れると、支援者がサッと引いていく。したがって、入所するその時には、地域のキーパーソンを必ず連れてくる必要がある。それは家族なのか、相談員なのか、日中事業所なのか、何でもいいが、そういった人と一緒に戻る場所を作っていく。 ・当事者は本当に望んで入所してるかというと、そうではなく、むしろ「収容」されていく形で来所する。地域で行き場を失った人が来所されると、「何のために来たのか」、「どこへ向かっていくのか」という、約束と合意を経て入所することが必要だ。そうでないと、入所での生活に、全く目的意識を失って、何のためにそこにいるのか、どこに向かっているのか、職員、利用者ともに見失っていくことになる。 (施設の外に出る日中活動) ・入所施設の中でずっと過ごすというこの形態を短期的には改めてもらいたい。そこで寝て起きて、食べ物を食べて、日中活動もその施設の中でやるという、外へ全然出ないという、これを短期的に改める必要がある。 ・日中はどこか外に出るということが必要だ。外に出るときの制度的な問題はあるかもしれないが、外へ出たときの受入れ先、地域でそれを受け止めるという、地域社会のあり方も改めていかないといけない。 ・利用者が、入所施設の外に出られずに、嫌な思いをする機会すらないという、そういう実態がいま続いている。外へ出ていって、嫌な思いもするし嬉しい思いもするというようなチャンスを、短期的な視点であっても、今、日本全国でそういう状態だと思うので、是非この神奈川からスタートしていただきたい。 ・日中外に通うことで、入所している当事者が、依存先をどんどん増やしていく。関わる人が多ければ多いほど、本当に尊厳ある生活、また行動障がいが回復していく。このことに関して、多くの入所施設は、入所者を囲い込んでしまっているのではないか。 ・入所施設は、勇気を持って、しっかりとした見立てを持って、入所者に日中は外に出てもらい、他者に委ねていく。このことが、通過型施設をつくる最も重要なポイントになってくる。それが本当に県立施設、今の立地、また利用・運営形態でできるかを議論できればと思っている。 ・入所した後、入所施設の中にずっといないようにすることが大事。これはもうコロナ禍の自粛生活で、日本全国みんな苦しんだと思うが、入所施設も同様の苦しみを何十年もしている。私が所属する施設の人は30年間、日中、施設内で過ごしている人はいない。全員地域に出ている。 ・障害者総合支援法に変わってから、障害者支援施設も報酬体系が分かれて、昼間の生活介護について他の事業所を使うという実例がある。法人内外の日中活動を使って事業を展開することに取り組んでいる法人もあり、そういったことが、例えば県立施設の場合に、エリア的な問題や日常的な受入場所の課題も含めて、現状を変えていける状況にあるのかないのかということもチェックすべきではないか。 ・入所していても、外に出かけて活動するということは、利用する人にとって大事なこと。制度的な枠組みの問題もあるかもしれないが、いろいろな支援で外に出かけて行って、買い物とか、野球に行くとか、様々なことがあるだろう。そうした中で地域の側が対応をうまく変えることによって地域がそういうことに温かくなれるように変わっていくといった側面もあるのではないか。それは、地域の人たちの取組みというもう一つ大きなテーマなのではないかと思える。 (地域の事業所との連携) ・入所する人にどういう取組みをずっとやり続けるか。地元も含めて、現在、入所施設にいる人にどうやって地域のいろんな事業所と協力して、もっと本人が頑張れそうなところを研究してもらうかという、そういう神奈川県の事業所の合意というのか、相談支援専門員の振舞いというか、そういうことの中で、入所施設がどうなっていくかということだと思っている。 ・既存の社会福祉事業者の中で、県立施設よりも、はるかに能力のある入所施設はある。そういったところといろいろ相談をしながら、基盤を整備していくことができるのではないか。 (通過型、循環型の施設へ) ・地域移行を加速させるために、県立施設は通過施設として位置付けることとしてはどうかという議論の視点があるが、私は通過施設というより、地域生活が難しくなったら施設に戻ってこられる循環型の施設というような位置付けが良いように感じた。 ・実際、運用上、有期限の入所をお願いしている入所施設がある。理由としては、やはり、地域移行を見据えた入所でなければいけないということ。また、地域での生活が困難になって、入所施設に移るときに、入所したとたんに、関係者がすっといなくなってしまう。相談支援員や行政が、「入所したから大丈夫だね」、で終わってしまう。受ける側の問題もあるが、やはり周りの意識というのもやはり課題としてある。有期限の入所にして、相談支援員も行政も定期的に関わり続けるようにし、入所したら、これは地域移行へのスタートなのだというような意識で進めることが必要である。 ・人手やハードの問題を含めて、民間事業所においては支援が難しい利用者に県立施設へ入所してもらい、3年ぐらい経過して民間施設に戻るという取組みが過去行われてきた。しいたがって、県立施設の機能として、一定期間の専門的なトレーニングを実施して地域に戻る通過型の機能、体験の場というものもが必要ではないか。 ・地域資源の中心となるべき入所施設は、なるべく多くの当事者の皆さんが使えるようにする必要がある。地域の中で通過型の施設として位置付け、地域移行のステップ施設としての役割を担い、さらに、施設の構造はできる限り小規模化して、ユニット化を図り、居室は個室として、地域の暮らしに近づける必要がある。当事者の皆さんが住む場所は、プライバシーが守られるように個室にすべき。 C終の棲家としない施設運営 長期入所の定員は漸減させるとし、終の棲家を念頭に置いた新規の入所については、原則として行わないこととしてはどうか (地域生活移行を進めるための地域の受け皿) ・平成元年に制度化されたグループホームは、公立の施設についても変化する機会だったが、国も、ほとんどの県も、国立施設、県立施設を変えなかったことに、非常に課題があった。いいチャンスだったが、それを逃した。 ・平成元年度にグループホームの制度ができたときに、国の政策転換も含めて、なるだけ早く本人の意思決定とともに“くに”に戻るということも含めて行うべきだった。 ・国立コロニーのぞみの園は一生懸命それぞれの県に返した。しかし、移行先を見てみると、地域移行という言葉をどうとらえるかだが、実態は地域移行ということではなく、施設再入所調整だと思っている。 ・地域の中で、グループホームという場が、まだまだ受け皿として脆弱な部分がある。グループホームも含めた、地域の体制づくりを強化していかないと、地域移行は実際に進まないと思っている。 ・地域移行するに当たって、入所施設だけを語っていると、地域移行は難しいというのが実感。地域を作っていくという視点で入所施設を運営し、ようやく、地域移行が成立しているというのが実情だと思っている。 ・とりあえず、地域にはグループホームがわんさかある。近所の人とも本当に仲良くやっている。理解してくれる町内会もいっぱいある。私が入居するグループホームも、大家さんが福祉とは関係ない世界にいる人なので大変だが、見る人は見ている。 ・地域移行のアウトプットの部分で、一人暮らしも含めて、グループホームなど、どこに住むかという、そこの態勢がどうなっているのかということを視野に入れていかないと、入所施設だけそこの部分だけ切り取っても議論が深まらない。 ・定員減を進めるということは、定員を減らす人たちが地域で暮らす受け皿の問題と並行しなければいけない。どちらかの議論を一方で行うのでなく、並行してやるべき。 (当事者の願いや希望に寄り添った支援) ・県の調査結果では、日中活動が1時間未満の人が多く、施設の外での活動をしている人がいない。平均で20年施設で暮らしている人、長い人は、50年以上暮らしている。また、退所後の移行先が施設というのは辛い。死亡と入院による退所が多いが、施設を出るときは健康で元気で出てもらって、もっと自由な暮らしをしてほしい。 ・みんな当事者は閉じ込められていることに慣れているのだろうか。当事者は縛られることに慣れているのだろうか。職員が諦めたら、自分たちの人生が終わってしまう。住む場所が勝手に変えられて、断れなかった仲間の話がある。住む場所を変えたいと伝えて良いのに、嫌なら嫌と言えばいいのに、場所がない、聞いてくれる人もいない。もっと、生活の要望を伝えたらいいのに、もっと夢や希望を話したい。 ・まだ分からないことがある。施設で暮らしている仲間は幸せなのか、教えてほしい。県立施設で暮らしている仲間の暮らしを見たい。 ・長野県西駒郷の事例は、まずは入所定員を少なくするとか、地域に移行させる、ということではなかった。行政が最初から施設の定員を減らすと決めて、入所する人たちを移行させるんだということでは、本人に対して極めて失礼だと思う。本人の意思や、あるいはいろいろな体験の中で、本人が地域移行ということに目覚めたときに初めて可能になる。意思決定支援も含めていろいろな経験をしてもらって、地域移行を進めていくべきだ。 (定員規模縮小のプロセス) ・いまある県立施設をなくすというのは、行政には無理なのではないか。結局、それを再びどういうふうに使うか、例えば芸術の村にしようとかいう議論に陥ってしまう。あるものをなくすというのは、行政は下手で、困難を抱えている。 ・神奈川県とか他県の話を超えて全国一般に大規模入所施設が持っている問題点として、そこで支配する考え方が、事故が起きないということを大前提にしていることだ。だから事故が起きるような状態、みんなが動いて触り合って、そんな場合の事故を避けるために閉じ込めるとか、拘束するとかいうことを平気でやる。私はこれを「功利的安全第一主義」と呼んでいる。他県の事例だが、県立の入所施設を廃止すると決定したのは、そういう考え方を一掃したということだ。 ・千葉県袖ケ浦福祉センターの場合は、定員規模を縮小し、支援の内容も改善しようと、行政も関与して管理職も職員も一生懸命取り組んだが、構造的な要因があり、一人ひとりの生活に基づいた、丁寧な支援というものが実現できなかった。要するにいくら頑張っても地域移行できず定員の削減ができなかった。目標は未達成であり、従って、達成できないような施設は、少なくとも県立施設として存続させるのかどうなのかということを、次期障がい福祉計画の始期である令和2年度末までに県として判断してほしいという提言につながった。 ・県立施設を縮小・廃止するといっても、どういうふうに入所施設から地域等に移行していくのかが問題になる。そのため、千葉県袖ケ浦福祉センターの場合は、意思決定支援アドバイザーというのを配置したり、民間施設の整備や補助の拡充なども行われた。 ・千葉県では、大規模の集団を相手にしたケアという構造を変えるため、小人数のケアに転換するということを求め、それから定員規模を縮小することを考えようと、当時の定員規模を半分にしようと提言がなされ、県としてもしっかりと受け止めて実現に向けて努力した。 ・確かにできるだけ定員を減らしていきたいとか、なくしていきたいという方向性は背後に持っているとしても、それはプロセスの結果。一人ひとりみんな違う。その結果として、もう50人という定員じゃなくても全然いいな、気がついたら5人になっちゃった、なったぞという、そういうことの中で気がついたら、縮小されたということだなと理解している。 ・今、施設の利用者に、とにかく見たり聞いたり経験したり体験しなければならないなあとか、これに合っているぞとか、なかなか実感として、ここがいいなとならないので、とにかくそういう機会をいっぱい作って、ここの就労継続Bの事業所を、ちょっと体験してもらえませんかとか、ここを実習させてもらえませんかとか。それで、本人がいけるなというふうになったら、ちょっとそれをプランの中で、みんなで協力して応援していきませんか、といったことをやっていく過程の中で、結果として、入所でなくてもやっていけるという中で、気がついたら、定員が減っていったというだけだと理解している。 ・県立施設の定員を減らすプロセスとして、グループホームという選択肢の他に、入所施設がバックアップをして段階的に地域移行できるような、入所施設のサテライト型居住事業を提案したい。県立施設を障がい保健福祉圏域毎に1か所配置し、各圏域内の障がい福祉サービス提供事業所等と連携を図り、居住支援の場、体験トレーニングの場、緊急受入れの場、専門的支援、人材育成といった役割を果たす多機能型拠点の機能を持たせることとしてはどうか。なお、サテライト部分はグループホームに移行することも可能とすべきである。 (新たな入所の取扱い) ・県立施設の役割が未だはっきりしないという状態においては、新規の入所者はとるべきではない。 ・入所施設をゼロにしていくのがどうなのかという議論については、20年ビジョンをまとめるということであれば、慎重に議論していくべき。県立施設のあり方の議論の上では終の棲家論というのが出ているが、それこそ意思決定支援の考え方で、利用者がどこに住みたいのかということを改めて検証していくということが大事なのではないか。 (民間事業者との協働) ・県立施設について、終の棲家としての位置付けるのを止めるのならば、民間の質の高い支援をしている事業者も含めて、神奈川県の全体の障がい者福祉を考えていかなければならない。 ・県立施設の定員減を行い、地域移行を進めるに当たっては、民間施設の協働は不可欠であり、グループホーム、在宅支援等、地域で支える場の整備に向けて、一定の検討期間を設けて、神奈川県が政令指定都市、中核市と連携し、県単独の予算化、地域資源の整備を進めるという方法が、神奈川の一つの特徴になるのではないか。 D民間との役割分担 民間では担えない理由を明確にし、目的を達成するために必要な実施態勢も検討してはどうか (県立障害者支援施設の必要性) ・民間では対応できない人を受け入れているのだというこの発想、これを言っている限りは、県立施設は終の棲家になる。もう民間では受け入れられないという前提であるので、もう行くところがない。でも本当にそうなのか。民間では受け入れられないと言っているが民間で受け入れられる事業者はいっぱいある。民間では受け入れないという考えを本当に見直した方がいい。そうしないと、終の棲家は消えない、そう心配している。 ・他では受け入れられない人を受け入れている、ということが前提になると、施設の管理者も職員も、「この人たちは重いんだ」という、そういう前提で支援をする。すると「能力不存在推定」がすぐに働く。つまり、「この人は何もできない人なんだ」と思ってしまう。他では受け入れられない人を受け入れているので、他には移行できない、ということに当然なる。だから、終の棲家になってしまう。そこに入って、そこで死んでいくという、そういう人生を送っていくということが当然の前提になってくる。 ・県立施設が他では受入れられない人を受入れるという役割を担うのではなくて、他の民間施設でも十分担えるのだという前提で考えるべき。これは他県にも事例があり、「民間でも担えるので、結局、県立施設がやることはない」、ということになって、千葉県の県立施設は廃止することになった。 ・県立施設のあり方の検討を行うときに、行政は非常に微妙な立場である。今まで20年30年40年できなかったのだから、今後もできないだろうという諦めとともに、それでも何かしたいという両方の意識が働く。何十年も続いてきた県立施設に対し、民間にできないことを担うという意味付けを行うことは、もう無理なのではないか。民間ではできないが県立施設だとできる、という嘘はもうやめたほうが良い。 ・津久井やまゆり園再生基本構想の検討は5年前に行われたものだが、先の検討部会から今回の将来展望検討委員会に変わり、呼び方も「当事者目線」ということになった。今回、各委員から意見を聞いて、5年前の考え方もだんだん変わってきているなというふうに感じている。再生基本構想には、「入所施設としての専門性の高い支援」として、民間施設では対応困難な云々と書かれている。これは当時の、あの時の方向としては、そういう結論にならざるを得なかったと感じている。これからの議論では、「民間施設では対応困難」というのは、私自身も、これはちょっと、もう今では違うのではないかと思っている。県立施設と民間施設を比べてみて、県立施設にしかできないというのは、本当にないのではないかと思っている。 (運営形態の検討) ・神奈川県をはじめ各県のコロニーが、直営から指定管理というふうに運営形態を変更してきたことについては、国の制度の変化に伴って、各県も対応してきたということだろう。 ・事業の実施主体として、県立直営だけでなく、指定管理も含めて、今の時代において公が現場を持つというのは無理があると思っている。そういう意味で、分割、再統合、廃止ということも含めて事業団、指定管理、いろいろな実施形態を検討していただきたい。 ・入所施設の運営についても民間活用は大切だ。ただ、民間でも、福祉の場面においては、競争原理が働いて切磋琢磨しながらより良い運営につながるということにはならないので、民間の運営に移行するときには、非常に特別な仕組みが必要だと思う。 ・組織性という観点から考えると、県立の社会福祉事業団という運営形態も含めて、やはり官僚性が強い。官僚制は合理的な判断をする良い仕組みである面もある。上意下達の指揮命令系統の中でうまく回れば良いが、神奈川の県立施設もそうだが、組織が大きくなると、厳然としたヒエラルキーが存在して、ボトムアップでの意見が認められない。官僚性の逆機能と言っている。 ・直営であるより、事業団あるいは指定管理の施設の方が、むしろ、もっと官僚的になる場合もあり、周りの状況がいろいろと変化していることに対応できなくなる。 ・周りのものが見えなくなるとともに、自分たちの組織を守るという力、内へ内へという力が働くことになり、こういう意味からも公立というものには疑問点がある。 ・指定管理者が、地域のアセスメントを行い、地域性等に応じて、日中支援の場やグループホームを新たに実施できるよう、一定の権限、裁量権を持たせることも検討すべきである。また、障がい保健福祉圏域を各県立施設がどうカバーしていくべきか併せて検討すべきである。 (県全体の障がい福祉の中での位置付け) ・県立施設を中心に神奈川全体の福祉をどのようにするか。県立施設と関係を持たせながら、地域全体の神奈川県地域全体の今後の福祉、支援体制をどう構築するか。非常に大切な視点である。 ・長野県西駒郷の事例は、長野県が県全体の障がい福祉の水準をアップさせたという非常に全国にまれな例だと思う。一施設、あるいは県立施設や事業団をどうするでなく、そのことを考えるには全県のことを考えないとやっぱり無理ということだ。これは今後の神奈川県の方向性でも一致している。それぞれの県立施設をどうするかだけでは済まない。全県のことを考えなければ、県立施設のあり方も決まらないというふうに思っている。 ・大規模な県立施設に関する全国的な動向としては、宮城県船形コロニーの事例のように、県立施設を存続させるという動きもあるが、他の先行事例からは、大きな動きとして、県立施設としては縮小し、将来的には廃止をしていく動きになっていることが、だいたい見えてくる。 ・行政、公は、本当のところ何をするのか。それは改革だと思う。小手先だけの機能付加で誤魔化すということやめたほうがいい。本当に根本的なところから見直すという改革に期待している。 ・民間でできないこともあるとすると、公的施設としては、どういう支援の方法をうまく作り上げていって、それをまた民間にフィードバックするとか、そういうノウハウを広げるという視点もあるかもしれない。 (提供サービスの転換と職員処遇) ・国立コロニーのぞみの園では、平成29年にあり方検討会が立ち上げられた。当時、国立コロニーでは年に15名から20名の方が亡くなっているので、あと10年ぐらいすると、ほとんどゼロになる。だから新たな入所を入れないと限りなくゼロになっていくという説明がされたと記憶している。そのときに、職員はどういうモチベーションで仕事をするか、というのは非常に大きな課題だと感じた。新たなモチベーションを持ってもらうよう、入所ではなく、行動障がいあるいは触法の人の地域生活のためにフィールドを持ち、研究事業と一体的に取り組んでいく。公立の入所施設というものは、そういう非常に限定的なものに向かうべきで、全国に発信する調査研究という分野は残るのではないか。 (費用対効果の観点) ・費用対効果は非常に重要な視点。国立コロニーのぞみの園は、平成15年の措置費が16億円だった。国の上乗せがあり29億円の予算規模としていた。措置費収入の倍以上の規模だ。29億円もの予算を付けて、グループホーム、ケアホームを作っても、それはモデルにはならない。現在も、事業費収入として自立支援給付費が16億円で、これに加え、未だに国から運営交付金として15億円が上乗せで交付されている。こういう意味からいうと非常に費用対効果が悪い。こういう中でモデル性と言っても、まったくリアリティがない。神奈川の県立施設はどうなのか。費用対効果について、厚い職員配置も含めてきちんと検証しないと、公というものの機能の再定義ができない。 (市町村との関係) ・県の役割は市町村をバックアップすることであり、再度、県立施設が大きな機能を持って、さらにそこに新たな入所を認めていくということになると、地域から切り離されて、市民になりえない入所者をまた作り出すということになるのではないか。 ・地域から切り離されて県立施設に入所するということは、市民ではなくなるということだ。これからは障がいのあるそれぞれの人が、地域で市民として生きることが必要だ。そのためには、地方分権という観点から言えば、今は市町村がサービスの提供主体となって、地域包括ケアシステムが、高齢者だけでなく、子どもや障がい者、生活困窮者なども含めていくという方向の中で、県立、国も含めてであるが、何か立派な箱モノ(施設)を作って、そこで何か支援するというのはそもそも矛盾するものだと思っている。 ・共生社会を目指していくには、県立施設も積極的に貢献する必要があるが、予算、人材、組織等で優位に立つ公立施設が「一人勝ち」することは、県内の地域生活のシステムの構築、特に市町村の自立を阻み、依存体質を強化することになるのではないかと危惧している。 ・ある県立施設のあり方を考える検討会で、「県立施設の役割って、事業団の役割って何ですか」と尋ねたところ、「事業団に何か新しい役割を付与することはやめてください」と言われた。今、市町村レベルで、医療的ケアの人たち、あるいは、強度行動障がいの人も、どうにか支えられるシステムができてきた。市町村も現場の人も非常に頑張っている。そこに、県立施設に強度行動障がいの人の専門的な施設という役割を持たせると、市町村はまた全部丸投げしてしまうからやめてくれ、という趣旨だった。 ・市町村レベルで、いろいろな支援が整ってきたところについては、まさに社会福祉事業団等の公立施設については、反対に地域の支援システムを構築するということを阻む可能性があるということに注意しなければならない。地域生活支援を考えるとき、県は黒子に徹するか、あるいは自らが引いていくことによって、真の公立の役割、私もまだはっきり見出していないが、そういうものを見出していく必要があると思っている。 ・当事者目線の障がい福祉に向けた取組みについて、オール神奈川の機運を作っていくためには、やはり横浜市、川崎市、相模原市の3政令指定都市と、横須賀市という中核市があって、それぞれで障がい福祉に関する補助金体系があるということと、4市を除く神奈川県域では、地域生活サポート事業があるものの、3政令指定都市との補助金体系に大きな格差があり、そういう壁をどう乗り越えていくかが大きな課題である。 ・入所施設が地域生活移行を進める上で、市町村との連携は欠かせない。当事者の皆さんが住んでいる市区町村の職員に協力してもらうことが重要である。また、地域のニーズを第一線で感じている相談支援事業所との連携も欠かせない。当事者の皆さんの相談に乗ってくれる人に協力してもらう、ということだ。 (3)その他 (取組みの継続を諦めない) ・この将来展望委員会は、一定の期間の中でやらなければいけないというミッションがあるが、議論を展開するのには、やはり、もっと十分な時間が必要なのではないか。 ・千葉県の県立施設廃止の事例では、5年から10年のスパンを設けての議論が必要とされた。神奈川県の県立施設の議論についても、今回の検討委員会での議論の後も、継続的に議論を行っていく必要性があるのではないか。一定の期間を経ていろいろなビジョンを検討する必要がある。 ・これから県立施設というものをどう考えていくのか、1年や2年で、何か結論が出るとか、あるいは地域社会が変わっていくというようなことは、なかなか望めないと思うが、こうして検討のスタートを切ったので、何年もかけて、皆で議論すれば良いと思っている。時間はかかる。しかし、時間がかかるので諦めるということがあってはいけない。 (サブグループへの拡がりの必要性) ・こういう検討会議が、実効性を持つためには、この下に実務担当者のサブグループが絶対必要だ。支援者にしても当事者にしても、この検討会議の下に馳せ参じるサブグループが、どうだ、どうだ、どうだ、と、さらに具体的に詰めていくようなものがないと、お風呂をかき回していて上は熱くなったけど下はなかなかそうじゃないという風景になって、報告書は作ってみたけど、実際にはモノにならない。 ・この検討委員会で大きな方向を出していくのだろうが、実は同時並行的に、思いを一にした人たちの連続的な集まり、まさに各地域で本気でなんとかしなきゃと思っている人たちが、それぞれのテーマで集まるようなものがあると、ここでの会議も熱を帯びてくるような気がしている。 (24ページから25ページ) 5神奈川県の障がい福祉の将来展望 ・本検討委員会においては、前節のとおり、2040年頃の神奈川県の障がい福祉の将来展望について、@共生社会の実現、A当事者目線の障がい福祉、B困難性の高い支援課題への県の取組み、C地域でその人らしく当たり前に暮らすことのできる社会、障がい者故の価値の創造とSDG’sの理念、という5つの視点から、各般の意見が述べられた。 ・前述のとおり、本検討委員会は、県立施設のあり方について先行して検討を行ってきた関係から、この「中間報告」の取りまとめの時点においては、神奈川県の障がい福祉の将来展望についての意見は分量も少なく、今後の議論において、さらに深化を図っていく必要があると考えるが、次節の「県立障害者支援施設のあり方と当面の方向」への結節点として、現時点で開陳された意見を基に、若干の整理を行っておきたい。 ・もとより、前述の5つの視点を設定するにあたり、神奈川県が目指す将来像としては、「『ともに生きるかながわ憲章』が不要になるほどその理念が浸透し、本人の意思決定を踏まえた、その人らしい生活を支える当事者目線のサービス基盤の整備が進んだ地域共生社会」と提案され、併せて具体的なイメージも提示されており、これについての反対意見は特段出されていない。 ・このような目指すべき将来像からバックキャスティングして、神奈川県をはじめ関係者はどのような方向感で取り組んでいくべきなのか、これまで述べられた各意見を基に以下のとおり整理する。 〇地域の人が、障がい者のことをよく理解し、当事者の気持ちを分かってくれる人が増え、ハンディキャップがあっても、当たり前の同じ人間なんだということを、言葉の上ではなく、実感が持てる社会にすべきである。? 〇障がい者を持ったからといって悩んで、どうしようかという心配がなく、安心して育てることができ、障害があっても、地域で一緒に暮らすことができる社会を築いていくべきである。 〇地域で暮らし、地域の人と「おはようございます」と毎朝あいさつして出かける。お店に行って「昨日魚おいしかったですよ」と言うと、「ありがとうございます」とか「また来てくださいね」とお礼を言われる。そういった日常のつながりのある社会にすべきである。 〇公的な障がい者の支援サービスに加えて、野球を観に行くなどの色々な生活、暮らし全体をどう皆で支えていくかをしっかりと考えていくべきである。 〇当事者の人たちが地域でその人らしい生活を送るための、サービス基盤の整備をしっかりと進めていくべきである。 〇法人や事業所が、自分たちだけで何とかしようとするのではなく、自分たちだけでできないところを、他の法人に応援してもらうような協働の関係を築いていくべきである。?? 〇地域の中で、入所施設もグループホームと同様に居住支援の選択肢として位置付けられ、そういった資源を活用して、当事者が、その人らしい地域生活を実現できるようにすべきである。 〇ピアカウンセリングやピアサポートが実施できるよう、研修体制を整備するとともに、?障がい者の地域での一人暮らしをしっかりと支援する体制を整備すべきである。 〇地域生活移行た障がい者が、地域での暮らしの中で、トラブルに合ったり、何か困った事態になった場合には、地域の皆で支えていこうという気持ちに満ちた社会を目指すべきである。 ○障がい者と家族だけではなく、子どもや高齢者なども含めて、まぜこぜで、いろいろな人が一緒に生きている地域像を描くことのできる社会を目指していくべきである。 ・今後、年度内に予定している報告書の取りまとめに向け、2040年頃の人口構造をはじめとする社会経済状況の予測を基礎に、障がい福祉を取り巻く政策の動向、障がい当事者やその家族、支援者など関係する人々が抱える福祉課題の状況の変化、そして障害者基本計画や「かながわ障害者計画」、あるいは、「神奈川県障がい福祉計画」の検討の方向性、さらには自治体行政のあり方に関する議論の推移も注視しながら、さらに議論を深め、目指すべき将来の姿を明らかにしていきたい。 (26ページから29ページ) 6県立障害者支援施設のあり方と当面の対応 ・県立施設は、その役割である、民間では対応が困難な障がい者支援に積極的に取り組んできた。その結果、入所者の障害支援区分は全国平均よりも高く、また、行動障がいのある障がい者の入所割合も高くなっている。 ・一方で、県立施設を退所する理由の約7割は、入院か死亡となっており、いったん県立施設に入所すると、地域に帰れることはなく、入所期間は長期化する。つまり、県立施設は、終の棲家になってしまっている。 ・また、昨年度、設置した「障害者支援施設における利用者目線の支援推進検討部会」(以下「検討部会」という。)では、県立施設における利用者支援の内容が検証された。とりわけ、行動障がいがある障がい者に対する支援では、身体拘束が常態化しているケースも散見され、中には、不適切な支援も確認された。同検討部会では、県立施設のような大規模施設に、行動障がいのある障がい者や障がい程度が重度な障がい者を集めて支援することは、限界であるということが指摘されている。 ・本検討委員会では、地域生活を視野に入れた支援といった観点から、県立施設における日中活動の内容や施設外の事業所の利用状況等を確認した。しかし、県立施設で行われる日中活動は施設内だけを活動場所とし、また、医療機関への通院も施設内に設置された診療所で完結しており、大半の利用者が24時間365日を通して施設内だけの生活になっていた。 ・今日、当事者本人が自らの意思で、住みたい場所、一緒に住みたい仲間や働く場所などを選ぶ権利があって、当事者本人の意向を聞かずに、サービスの内容などを親や職員が決めることがあってはならない。このような生活(サービス)は、本人の願いや希望から乖離したものと言わざるを得ないだろう。 ・本検討委員会においては、前述の考え方に立ち、県立施設が、本人の願いや希望を尊重した当事者目線の支援によって、入所者の地域生活移行にしっかりと取り組んで行くべきである、という方向感で、県立障害者支援施設のあり方と当面の対応について、以下のとおり論点を整理した。 (1)県立障害者支援施設の将来展望 〇これからは誰もが地域で市民として生きることを実現していくという考え方が重要である。今日、市町村が様々な公的サービスの提供主体と位置付けられており、地域包括ケアシステムの考えをさらに進めて、高齢者だけではなく、障がい者も子ども、生活に様々な課題を抱える人も、同じ地域社会で、同じ市民としてその人らしく生活して行くというという方向になっていくときに、国や県が、立派な箱モノ(施設)を作って、そこで支援するというあり方は矛盾するということを念頭に置くべきである。 〇国立コロニーのぞみの園が独立行政法人に移行する際には、様々な議論が行われ、ノーマライゼーションの考え方の下、地域移行を進めるとともに、新たな入所者を受け入れないことで、定員規模を小さくしていくという大きな方向転換を行った。神奈川の県立施設においても、直営から指定管理に移行する際や、新たな指定管理者の公募を行う際には、単に財政効率の観点だけではなく、利用者の願いや希望に寄り添い、可能な限り、地域生活を実現できるよう取り組んでいくべきである。 〇地域生活移行を進めるに当たっては、入所施設が陥りがちな「内向き」の考えでは難しい。入所施設が地域を作っていくという視点で、入所施設を運営していくことが重要である。 〇入所施設は、どんなに障がいが重くても、その人の願いや希望といった意思があるという「能力存在推定」を示すべきである。一人ひとりの可能性を示すことが、地域に戻っていく一つのきっかけになり、地域の理解者を増やすことになる。そのためには、施設の中で完結する支援であってはならない。 〇事例報告で提案された、「県立施設の今後としては、地域共生社会の実現に向けて、どんなに障がいの重い人も地域生活が可能であることを証明してほしいし、是非、地域移行及び地域生活支援に全力を尽くしていただきたい」、「県立施設が他では受入れられない人を受け入れるという役割を担うのではなくて、他の民間施設でも十分担えるのだということを前提に置くべき」という二つの視点は極めて重要であり、県立施設の将来展望を考える際の基本的な考え方に据えるべきである。 〇今後、三つの視点から、県立施設の改革を進めていくが必要である。1番目は地域移行をきちんと推進していくと。どんなに障がいの重い人もこれから地域で生活するということを、全県、全施設共通なこととして行っていくと。2番目に、地域移行を行いながら、新たな入所者を受け入れるということは、なかなか困難であるし、論理的にも矛盾することなので、地域移行がある一定のところまでいくまでは、新規の入所は止めること。3番目は、これからの施設は、まさに、地域に貢献する施設として、地域の支援拠点として、地域に貢献する施設をきちんと目標とするということである。 〇定員規模の縮減を目的化するのではなく、利用者の、その人らしい生活を実現するために、入所施設でなく地域で生活するというチャレンジの過程の中で、結果として、定員が減っていくという取組みであるべきである。 〇入所施設をつくるということは、地域をつくることと同じ意味がある。これを同時に実践していかないと通過型として機能させることは難しい。現在の県立施設の立地やあり方で、それが可能なのかどうかは、さらに議論していかなければならない。 〇長期的な目標としては、県立障害者支援施設が、地域づくり、共生社会づくりという視点から、広域的に、所在する福祉圏域に関わっていくことが重要である。そこに向けてさらなる議論を進めていく必要がある。 〇障がい保健福祉圏域を各県立施設がどうカバーしていくべきかという、これまでの設置の経緯も踏まえ、指定管理者が、それぞれの所在地域のアセスメントを行い、地域性等に応じて、日中支援の場やグループホームを新たに実施できるよう、一定の権限、裁量権を持たせることも検討すべきである。 〇なお、現に7つの県立施設には利用者(入所者)が生活している。個々に県立施設への入所に至った理由、背景を抱えているのであり、家族も本人に寄り添いながら、それぞれの生活基盤を築いている。したがって、県立施設の将来のあるべき姿に向けて、今後、県が施策を講じていく際には、入所している利用者とその家族に不安を与えることのないよう配慮を行うことが重要である。 (2)県立障害者支援施設の役割と機能 〇県立の障害者支援施設としては、より良い支援の方法を作り上げ、それを民間事業者にフィードバックすることや、その他、施設入所支援のノウハウを広げるという視点も考えるべきである。 〇民間の質の高い支援をしている事業者も数多く存在することから、県立施設のみを終の棲家として位置付ける必要はなくなってきている。むしろ、県立施設という公的な資源を、できる限り多くの支援が必要な県民に利用してもらえるかという視点から、あり方を考えるべきであり、神奈川県全体の障がい者福祉の中で検討すべきである。 〇県立直営だけでなく、指定管理も含めて、今日、公が現場を持ち続けるというのは、いわば「制度疲労」を引き起こすことになるのではないか。全体の方向感としては大規模施設からの脱却としての規模縮小が必要である。その手法としては、分割、統合、廃止などがあるだろうが、運営方法についても、指定管理、民間移譲など様々な形態を検討すべきである。民間の力を活用する場合、福祉施設であると、必ずしも競争原理が働くわけではないため、支援の質の向上が図られ、組織ガバナンスが磨かれていく仕組みが必要である。 〇「県立施設の役割というのは、民間では担えない機能というものを担う」という考え方は、よく言われる話だが、千葉県でも同じような議論がずっとなされてきた。結局は、民間施設でも担える、ということが議論の終着点だった。だからこそ、県立施設を廃止するという結論となった。もし神奈川県で、民間では担えない機能を県立で担うというふうに位置付けるのであるならば、その機能とは何だということを、今後さらに議論すべきである。 〇県立施設は、民間で実施できない専門的な機能を有する貴重な社会資源であると、民間施設の事業所の多くが感じている。今後の県立施設は、地域生活支援拠点事業の神奈川版として、多機能地域生活支援拠点の機能を持ち、民間施設と緊密に連携を図っていくことが重要ではないか。 〇今後の県立施設は、地域共生社会の実現に向けて、どんなに障がいの重い人も地域生活が可能であるということを証明していくべきである。県立施設は、ロールモデルとして、地域移行及び地域生活支援に全力を尽くすべきである。 ・こうした中、地域のサービス体制を構築していくに当たって、県が果たすべき役割、機能を考えたときに、今後、市町村支援、相談支援体制の構築、人材確保と人材育成がますます重要となってくるであろう。以下のとおり、具体的な論点を提示したい。加えて、これらの機能は、県立施設という「場」で実施されることが、必ずしも必要条件ではない。県の施策として、県立施設ではない別の実施主体がこれらの機能をもって、県の役割を果たしていくことも検討していく必要がある。 @市町村との連携のあり方 〇県の役割は市町村をバックアップすることであり、再度、県立施設が大きな機能を持って、さらにそこに入所させることは避けるべきである。そうした利用者は、ますます市町村からの切り離されていくこととなり、県立施設の利用者は市民になりえないという恐れがあるということを十分認識した上で、県立施設の機能について、今後さらに検討していく必要がある。 〇当事者目線の障がい福祉は、政令市、中核市も含めたオール神奈川で取り組んでいく必要がある。一方で、地域毎で、予算面も含めて、サービス基盤の整備状況が異なることから、地域の実情に応じて、地域ごとに議論していくことも必要である。 A相談支援体制の構築 〇先の検討部会での議論において、県立施設が利用者の安全確保を最優先した支援を、内向きに続けていくことが、大規模入所施設故の管理的、閉鎖的な運営に陥りやすい構造的な環境と相まって、不適切な支援が長期にわたって行われてきた大きな要因の一つと指摘されていた。県立施設が、地域の社会資源として、障がい者の地域生活支援や家族支援をしっかりと担っていくためには、自らが相談支援の機能を発揮し、各市町村の相談支援事業者との連携体制を構築することが重要である。このことが、県下で意思決定支援の取組みを広げていくためのエンジンになり得る。さらには、各市町村の基幹相談支援センターの支援を行うセンター・オブ・センターの機能も目指すことも今後のあり方の検討項目に加えるべきである。 〇県立施設は、障がい保健福祉圏域全般の基幹的な相談機能として、中井やまゆり園の「かながわA(エース)」のような機能を他の県立施設に導入していく必要がある。 B人材確保と人材育成 〇民間施設事業者等と連携し、人事交流を行うなどにより、県立施設に従事する人材の養成に努めることが重要である。 〇県立施設は、自らの従事者の育成のみならず、広く県下の障がい福祉事業従事者の人材養成に取り組み、県の役割を果たすべきである。既に、国立のぞみの園には調査研究部を設け、全国レベルの人材育成に取り組んでいる。神奈川県においても、県立施設が、いろいろな大学、研究機関等と協働しながら人材を育成することが重要である。 〇なお、先の検討部会報告書においては、運営主体のガバナンスの課題や、無用な身体拘束が行われていることなどの不適切な支援について、厳しい指摘がなされたが、評価されるべき点はきちんと評価される仕組み作っていくことが重要である。また、現場の支援職員がこれまで取り組んできたことを全否定するのではなく、ストレングスの視点に立って、希望の持てるような評価をすべきである。 〇県立施設に配置された専門職、心理職、PT等が、民間施設に対して、一定期間、伴走型でコンサルテーションを行うことができるよう、施設の機能を付加する検討を行うべきである。そのためには、県立施設の職員の育成を図るため、先進的な取組みを行う民間施設での研修や人事交流にも取り組むべきである。 〇神奈川には行政の枠を超えた神奈川らしいストレングスというものがある。オール神奈川、官民協働で取り組む障がい福祉の関係組織、団体が多数存在する。神奈川は、団体間の協力体制というものが、他の県よりもスムーズではないかというのが実感である。これからの将来展望をしっかりと構想していくことを可能とするためにも、官民協働で、オール神奈川で、行政を超えた多くの人材を生かしていく必要がある。 〇人材育成の観点から、身体拘束や虐待防止の事例検討、あるいは研修の機会が頻回に行われるべきであり、県立施設と民間施設の職員交流の機会を積極的に行っていくべきである。 〇県立施設の定員規模の縮減を進めて行くとした場合に、職員のモチベーションの維持に配慮することも必要である。国においては、行動障がい者や触法の障がい者、あるいは高齢障がい者の地域生活のために、調査研究事業と一体的な支援の実践の場を残している。仮に、県立施設を存続させるのであれば、非常に限定的なものに向かうべきである。 (30ページから34ページ) (3)県立施設の当面の対応 (この章の趣旨を記述) ・県立施設は、社会資源を構成する重要な要素であり、本検討委員会における20年後の神奈川県の障がい福祉のあるべき未来の姿の議論から導かれる、当事者目線の障がい福祉に係る将来展望には、当然に県立施設も言及されるべきものである。したがって、次期(令和5年度から9年度までの5年間)指定管理者の公募に際し、県が策定する公募要項(案)は、本検討会におけるこれまでの議論を踏まえたものとなることを期待するものである。 ・しかしながら、時間軸からすると、本検討委員会の提言を、指定管理施設の次期指定管理期間における運営内容に全て投影できるか、今後の県当局の検討の推移を注視していく必要がある。こうしたときに、次期指定管理期間において、将来展望から導かれる県立施設のあるべき姿に、どの程度その実態が近づいたかを評価し、同期間中に、県立施設を今後さらにどう位置付けていくかを再検討する、ということを予め約束しておくことは重要なことである。 @意思決定支援の継続 〇当事者の願いや希望に応えるためには、一人ひとりの暮らしの場の支援会議を作り、どこに住むか、専門家も含めてアセスメントをして検討する取組みが有益である。また、意思決定支援は、重い障がいの方も重い認知症の方も、思いがあるのだということを前提にしないといけない。神奈川県の意思決定支援のチームの活動は、「能力存在推定」の立場に立たないと、本当の意思決定支援にはなり得ず、常に、原点に立ち返った実践を積み上げていく必要がある。 〇県立施設の入所者の平均在所年数は20年超であり、入所期間が50年を超える利用者もいる。入所施設に利用者を受け入れる際には、「本当は本人が一番困っているんだ」、「もっともっと自由に生きたいんだ」ということを共感できるようなアセスメントをしっかりと行わないと、入所期間の長期化につながる。これができない入所施設は存在意義がなく、本人の願いや希望に寄り添った適切なアセスメントが重要である。 〇何のために入所しているのかということを、本人と、そこで暮らす職員、そこで支援する職員が認識していくということが非常に重要であり、これが本当の「意思決定支援」というべきものであり、意思決定支援の手法やあり方については、今後、様々に検討されるべきである。 〇県立施設においては、意思決定支援を行った上で、できるだけ定員減をして、QOLを保障した居住の場として再編成を検討すべきである。意思決定支援の結果、地域生活を目指すこととした人には、必ず相談支援専門員を付け、第三者の目が入る体制を構築することを義務化すべきである。 〇地域生活移行を進めていく上で、長く入所している利用者の人たちには、丁寧に意思決定支援を進めていく必要がある。本人や家族の理解を促し、地域生活の良さを伝える分かりやすい資料、実践例というようなものが全県レベルで必要である。 〇意思決定支援の取組みを、県立施設全体、中期的には神奈川県全部の民間施設でも、この神奈川モデルというものを構築できるようにできたら良いのではないか。民間施設で、意思決定支援の取組みが着実に進むよう、スーパーバイザーの機能を果たす「意思決定支援コーディネーター」等の配置について検討すべきである。 〇今後、オール神奈川で意思決定支援を推進することが重要である。まずは、県立施設全体で行うこととしてはどうか。実際にこの意思決定支援に関わった、津久井やまゆり園等のチームにより、その手法を各県立施設に横展開し、当事者が意思決定支援会議の場に中心となって加わることを実践することにより、サービスを使う当事者が主人公とされるべき、本来のサービス等利用計画や個別支援計画につながっていくものと考える。 A当事者目線を基礎とした日中活動の充実 〇入所施設に入るときには、家族、相談員、日中事業所の職員など、地域生活のキーパーソンを必ず同行させることとし、キーパーソンと一緒に、地域に戻る場所を作っていくように努めることが重要である。 〇入所施設の中でずっと過ごすという支援の形態を改めるべきである。そこで寝て起きて、食べ物を食べて、日中活動もその施設の中でやるという、外へ全然出ないという生活を速やかに改めるべきである。 〇入所施設であっても、日中はどこか外にでるということが重要である。外に出るときの制度的な問題はあるかもしれないが、外へ出たとき、地域でそれを受け止めるという、地域社会のあり方も改めていくべきである。 〇入所施設の外に出られずに、嫌な思いをする機会すらないという実態が続いているのは問題である。外へ出ていって、嫌な思いもするし嬉しい思いもするというようなチャンスを、この県立施設からスタートすべきである。 〇日中活動、あるいは夜間も含めて、質の高い生活とは何か、あるいは外部のいろいろな事業所を使うということも含めて、質の高い生活をきちんと担保していく必要がある。 〇入所施設の利用者が外出をしやすくするために、知的障がいのガイドヘルパーの利用を容易にし、 様々な地域生活の経験ができるように配慮すべきである。 〇親や職員が勝手に当事者たちのことを決めないということが大原則である。親の意見や職員の意見を聞く前に、当事者の意見を聞くこと、当事者が職員と直接話し、施設のルールも当事者たちで決めることができるような施設運営を目指すべきである。 〇毎年4月に、利用者が職員と約束をするために、職員に誓約書を書いてもらっている事例があった。このように、施設運営において、当事者と職員とが対等な関係となるような工夫を行うことが重要である。 〇津久井やまゆり園再生基本構想の中に「日中活動の場の提供」ということが入っているが、施設に日中活動の拠点としての機能を持たせるというのは、施設から外へ出るというのと逆の発想だ。日中活動の拠点となる施設はどういう施設なのだろうかということは、今後、さらに議論をする必要がある。 B昼間実施サービスの見直しと新規入所の取扱い 〇人手やハードの問題を含めて、民間事業所においては支援が難しい利用者に県立施設へ入所してもらい、3年ぐらい経過して民間施設に戻るという取組みが過去行われてきた。しいたがって、県立施設の機能として、一定期間の専門的なトレーニングを実施して地域に戻る通過型の機能、体験の場というものもが必要である。 〇地域生活が難しくなり、入所施設に入所したとたんに、もう大丈夫だと相談支援員や行政など関係者がすっといなくなってしまうことがある。こういった周りの意識は大きな課題であり、入所期間を有期限にし、相談支援員も行政も定期的に関わる仕組みをつくり、入所が地域移行へのスタートとなるような意識で進めることが重要である。県立施設も、地域生活移行を見据えた入所施設であるべきであり、有期限の入所とすべきである。 〇地域生活移行を実現しても、その継続が困難になった場合に、セーフティネットとしてまた入所施設に戻れるような、通過型の施設というより循環型の施設というような位置付けを行うことを検討すべきである。 〇現行制度上、入所施設の日中活動について他の生活介護事業所を利用することができることから、県立施設においても、日中活動の現状を変える観点から、昼間実施サービスを外部の事業者と連携して提供することができないか検討すべきである。 〇現行の報酬では、昼夜分離が利用できる仕組みであることから、できるだけ地域の日中活動の場を生かせるようなことの検討が必要である。 〇現在の県立施設の昼間実施サービスは生活介護のみであり、「終の棲家」となることを前提とした支給決定となっている。民間事業者との役割分担や公有財産を広く県民に提供する観点から、今後は、昼間実施サービスを訓練系のサービスに転換することを検討し、一定期間の在所を前提とした施設機能にすべきである。この役割がはっきりしない状態においては、新規の入所者は受け入れるべきではない。 〇日中活動で入所施設の外に通うことで、入所者が依存先をどんどん増やしていく。関わる人が多ければ多いほど、尊厳ある生活につながり、行動障がいが回復していく。入所施設というのは、囲い込んでしまう傾向にあるため、勇気をもって、しっかりとした見立てをもって、他者に委ねていく必要がある。このことが、通過型の施設をつくる重要なポイントである。県立施設の今の立地や利用・運営形態で実現可能なのか、今後さらに議論すべきである。 C地域生活移行、地域生活支援の推進 〇利用者の願いや希望に寄り添い、地域生活への移行を進めるためには、意思決定支援アドバイザーの導入や、グループホームの整備費補助など民間障害福祉サービス提供事業所に対する受入れ促進のための費用助成の拡充が必要である。 〇グループホームであれば良いということではなく、その支援内容が適切でなければならない。働く場所の創出・提供なども併せた地域生活の支援は、大規模施設ではできない、インクルーシブな生活を行う上で大変重要。しかし、グループホームは運営が非常に厳しく、なお一層の制度的な支援が必要である。 〇県立施設が、他の民間施設では受入れ困難な人を受け入れるという前提は、親や家族の意見・希望により入所施設を作ってきたという数十年前の時代の発想であり、それは、家族の意向であり、本人の意向で施設に入っているわけではないことに留意すべきである。 〇地域移行の鍵は、確実に日中活動である。日中活動がしっかりとあれば、あとはグループホームなど寝る場所が変わるだけなので、本人も、地域での不安というのが先に解消される。そういった意味で、もう一度、強度行動障がいとは何かというところに立ち返って考える必要がある。 〇地域生活を視野に入れた、地域住民との交流を促進する観点から、施設外の事業所を利用できるように、職員体制の見直しを進めるべきである。 D環境整備 〇質の高い生活という観点から言うと、非常に年月が経った施設というのは課題がある。愛名やまゆり園を見学した際も、最初に見ただけで、非常に落胆した記憶がある。地域移行するから、このままでいいということではなく、現在の利用者の質の高い生活を確保するために、老朽化した施設は変える必要がある。矛盾があるが、そこを終の棲家にするという趣旨ではなく、ともかく現在の利用者の質の高い生活というのも確保する必要がある。 〇定員を減らして県立施設も含め入所施設の機能を残すこととする場合は、居住規模を津久井モデル、もしくは横浜市が老朽改築に伴う建て替え予算化した、個室化ユニット化、この部分のところを推奨する必要がある。 〇県立、民間も併せた障害者支援施設は、居住支援の場ということで、定員40名前後というのは一つの目安であるが、できるだけ小規模化し、ハード面では個室化、ユニット化を図り、地域で利用者が選択をできる居住の場としての位置付けを検討すべきである。 Eその他、個別論点 〇三浦しらとり園とさがみ緑風園は、定員100名を超える大規模施設であり、管理性や閉鎖性という構造的な運営上の課題が大きいことから、定員規模を縮小するよう見直すべきである。 〇三浦しらとり園もさがみ緑風園も、当面、地域の支援拠点としての事業を実施しながら、実際に入所している人に対しては、もう地域生活移行するのだから、このままでいいということはなく、地域生活移行も含めて、クオリティ・オブ・ライフ(生活の質)を高めていく必要がある。 〇三浦しらとり園もさがみ緑風園も、医療的ケアが必要な人を受け入れることを前提に作られている施設であるため、医療施設を併設しており、あまり外に出ないという前提で運営をされている。医療的ケアが必要な人も外出のチャンスを作っていくことが重要であり、外部の医療機関を活用して、時々外へ出て行くということは可能ではないか。重度のALSの人も、外で日中活動することは、最近は目に見えてあることから、将来的な方向としては、日中活動は外に出て行き、医療機関も外へ出ていく、そういう方向で今後のあり方をさらに検討すべきである。 〇三浦しらとり園及びさがみ緑風園に併設される診療所については、医療的ケアも含めて障がいのある人に専門特化をした医療提供機関であり、診療所の機能を仮に残すのであれば、一般病院で対応が難しい地域の障がいのある人たちにも使えるようにし、地域の安心につながる仕組みが設けられないか検討すべきである。 〇三浦しらとり園及びさがみ緑風園については、県立施設全体の検討とは別に、それぞれの施設の個別事情があり、先の検討部会における、両園の身体拘束ゼロなどの取組実績をどう評価するのか、また、併設診療所の役割をどう評価するのか、といったことも含め、地域における貢献や、利用者に対する貢献など費用対効果も含めて、時間をかけて、さらなる検証が必要である。 〇さがみ緑風園について、利用者は減少しているが、旧身体障害者療護施設からスタートしている施設であり、神奈川県の中では同施設種別の数は多くない。在宅ではなかなか支援をするのが難しい意識障がいの人などの対応を行ってきたという経緯があることから、現在のサービス水準が低下しないように配慮すべきである。 〇三浦しらとり園の老築化に伴う施設改修及び小規模ユニット化を進めるという部分については、全ての県立施設共通の課題として、QOLの視点から、見直すことが必要である。 〇三浦しらとり園は障がいのある子どもを受け入れており、障がいのある子どもの今後の支援のあり方を含めて整理しておく必要がある。 (35ページから37ページ) むすびに代えて〜当事者目線の障がい福祉の今後の議論に向けて (1)県立障害者支援施設の改革 ・先の検討部会においては、県立施設における過去の支援内容の検証が行われ、身体拘束などの不適切な支援が長きにわたり行われていた例が複数あることが指摘された。その要因分析の詳細については、同検討部会報告書に譲るが、大規模入所施設であることが、運営の閉鎖性や管理性を高め、とりわけ、集団生活になじめない行動に課題のある人にとって、極めて過酷な生活環境となっていたことが明らかにされ、県としても、その改革に取り組む契機となっている。 ・県立施設の支援の質の向上については、県主管部局において「実践プログラム」(P)を策定し、できることは速やかに着手されているが、大規模入所施設としての施設運営の基本構造(インフラを含む)については、事件直後の、今から5年前に「津久井やまゆり園再生基本構想」が策定されてから、新たな検討は行われていなかった。 ・平成18年に障害者自立支援法が施行され、「施設から地域生活へ」という障がい福祉施策の方向性かがより明確になったものの、県立施設においては、職員体制をはじめ、利用者支援の内容はほとんど変わることはなかったのである。 ・本検討委員会は、障がい当事者が自らの意思で、日中活動や住まいの場を選択し、その人らしい暮らしを実現できる地域共生社会、いのち輝く「ともに生きる社会かながわ」を目指して、重要な社会資源である県立施設のあり方について検討を進めた。県立施設のあるべき姿と現実のギャップは大きく、県は、今後、本気で改革に取り組んでいくべきである。 ・今回、5回にわたる議論を通じて、本検討委員会として、20年後の県立施設のあるべき姿を念頭に置きながら、定員規模の縮小、通過型の施設への転換、環境整備(ユニット化、個室化)などの大きな方向性を打ち出した。県には、この「中間的な論点整理」における各般の意見を踏まえ、次期指定管理者選定の公募要項(案)の検討、さらには、中長期的な視点からの県立施設のあり方の検討を進めていただきたい。 (2)意思決定支援の全県展開への期待 ・津久井やまゆり園事件の犯人は、「意思のない重度障がい者は生きる意味がない」と考えていた。これを絶対認めない支援者らは、どんなに重い障がいがあっても必ず意思があるという考えに立ち、意思決定支援というアート(技術)を用いて、この事件と対峙してきた。 ・意思決定支援は、意思の表出が難しい人に対し、その人の願いや希望を周囲に届けることができるようにする支援手法であるが、県は、全国に先んじて平成28年度から、津久井やまゆり園の利用者全員に対し、国のガイドラインを参考にしながら、外部有識者を加え、多職種連携によるきめ細かな意思決定支援を実施してきた。 ・これにより、利用者の生活全般について、本人の願いや希望に寄り添った支援が着実に進められており、これまで、支援者の目線に立った支援しか行われていなかったのではないかという指摘があったが、今、まさに、当事者目線の支援への転換が図られようとしている。 ・現在、この津久井やまゆり園における意思決定支援の実践を、県内全域に広げようとする取組みが進められており、本年度(令和3年度)、次年度(令和4年度)の2か年のモデル事業を経て、令和5年4月から、県下の各障害者支援施設においても、意思決定支援の取組みが始められるよう、準備が進められているところである。 ・本検討委員会としても、この取組みが確実に進展していくことを期待しており、県民に対する進捗状況の情報公開と第三者による効果の検証が適切に行われることを併せて要請したい。 (3)地域資源の充実に向けて ・入所施設からの地域移行ということを考える時には、その施設だけを見ていたのでは駄目で、県域全体、県全体を見なければいけないっていうことが、各委員からの意見を通じて、如実に感じられたところである。 ・住みなれた地域で、誰もが安心していきいきと暮らすことのできる、いのち輝く共生社会を築いていくためには、ともに生きる社会かながわ憲章が不要となるほどに、地域共生社会の理念が普及・定着し、障がい当事者の地域生活を支えるソフト・ハードの地域資源が必要十分に整備されることが重要である。 ・そのため、県、市町村、事業者、県民(当事者を含む)がそれぞれの役割を認識し、相互に連携、協力、連携しながら、2040年頃のあるべき将来像の実現に向け、計画的、段階的に取組みを進めて行くことが必要である。 ・従って、長期的な展望に立った具体的な実施計画について、かながわ障がい者計画及び神奈川県障がい福祉計画等と調和を図りつつ、関係者による十分な議論を経て策定し、進捗状況を広く公表しながら、着実に実施していくことが重要である。 (4)福祉教育など関係領域との連携、協働 ・これまでの議論で、公的な障がい者の支援サービスだけでなく、生活の中では、野球を観に行くなどいろいろな側面があって、暮らし全体をどう皆で支えていくか、そういうように広く見ていくことが重要であることが再確認できた。 ・福祉の分野だけではなくて、医療の分野や教育の分野とも連携し、地域共生社会に向けて努力していくことは大変重要なことなので、そういった施策についても関連して考えていただきたい。 ・地域において、障がいや障がい者の理解を進めていくためには、ノーマライゼーションの理念が世に浸透していかなければならない。現在、県が取り組んでいる「ともに生きる社会かながわ憲章」の普及・啓発に引き続き注力し、20年後には、この憲章が必要でなくなるような社会になっていることを目標に掲げるべきであろう。そのような地域を作っていくためには、福祉教育的なものを県下で進めていくということが、一つの方法であると考えられる。 ・教育分野だけでなく、医療や住宅、運輸、芸術・文化などの関係領域についても当事者目線の障がい福祉の実現には重要な要素であり、これら関連領域とのどのように連携、協働していくべきか、本検討委員会において、今後、議論を進めていきたい。 ・障がいのある人が長期間働けるように、企業等と障がいのある人をつなぐ役割として、「ジョブヘルパー」の創設についての提案もあった。「ジョブヘルパー」は、すなわち、社会福祉法人、NPOによる人的支援として、現行の移動支援、身体介護、コミュニケーション等を含めて、企業にヘルパーとして入って支援を行い、企業側と本人との間をつなぐ仕組み、としている。企業者の合理的配慮等との調整といった課題もあるが、これにより、働く場の継続ができる意義は大きく、今後、議論の機会を設けたい。 (5)さらなる議論へ ・この「中間報告」は、事務局の要請により、全体の報告書の取りまとめに先行して、県立施設のあり方について論点を取りまとめたものである。これは、繰り返しになるが、4つの県立施設の次期指定管理期間の始期が令和5年4月からとされており、その関係から、次期指定管理者の公募が、来年早々に実施される予定であることに鑑み、本検討委員会での県立施設に係る議論を、当該公募要項に反映させることが必要であると考えられたためである。 ・この間、事務局において、神奈川県内の障がい福祉関係団体から、神奈川県の障がい福祉に関するヒアリングを実施してきた。その意見は、障がい者の地域生活を実現するために必要な支援の内容、障害者支援施設が果たすべき役割、県立施設の抱える課題、神奈川県の障がい福祉施策に対する要望など多岐にわたる。県は、こうした意見にも耳を傾け、施策の改善につなげていただきたいし、引き続き、様々な機会を捉えて、当事者や支援者との意見交換を行っていただきたい。 ・また、今般の「中間報告」を取りまとめる議論の過程において、将来展望検討委員会が策定するビジョンの実効性を担保する仕組みが求められたところであり、さらに、「県が本気で取り組まないと実現はできない」、「『ともに生きる社会かながわ憲章』が分かりにくい。自分たちの意見も聞いて新しいルールを作ってほしい」といった意見も出された。今後、さらに議論を深め、当事者目線の障がい福祉を基礎とした、いのち輝く共生社会の姿を明らかにしていきたい。 ・なお、将来展望検討委員会のような会議体が実効性を持つためには、この下に実務担当者のサブグループが必要。検討会議の下に支援者、当事者によるサブグループを作り、報告書の提言を実体化していくことが重要であるとの意見があった。これについても、本検討委員会の議論を、実体化するための有効な手法であると考える。事務局において、何らかの対応を図っていくようお願いしたい。