生活環境税制のあり方 に関する報告書 平成15年10月 神奈川県地方税制等研究会 生活環境税制のあり方に関する報告について 「神奈川県地方税制等研究会」では、平成12年5月に「地方税財政のあり方に関す る中間報告書」を取りまとめた。その中で、県民の意志を基盤として構築する「生活 環境税制」について、「環境保全税」、「水源環境税」、「都市生活環境税」、 「都市防災税」の4つの税制の理念を提示した。 平成13年6月には、研究会の下に「生活環境税制専門部会」を設置して、「水」と 「大気」の現状と課題、今後の施策のあり方等について、幅広く論議を行い、平成14 年6月に、専門部会の検討結果に基づき、これらの課題についての方向性をまとめた 「生活環境税制のあり方に関する報告書」を知事に提出した。 さらに、平成14年7月からの第二期の専門部会では、自然科学系の専門家を加えて、 水源環境保全施策と税制措置の具体策について、より詰めた検討を行ったほか、平成 14年11月の「かながわ発『水源環境』シンポジウム」に積極的に加わり、様々な課題 について、県民各層と論議を行った。その結果、本年7月には、別添のとおり、専門 部会の検討結果がまとまり、8月には、当研究会に報告がされた。 今般、専門部会での2年間の検討結果や県民・市町村の意見を踏まえ、理論的な面 からの検討を加えて、研究会としての考え方を整理したので、ここに報告する。 1 水源環境を保全・再生するための施策 ○ 昨年6月の報告書において、神奈川の水源環境に関する様々な課題を指摘した。 将来の神奈川の姿を考える場合、水源環境が持つ多様な恵みと、それらを生み 出す基盤となっている健全な水循環を保全することは、極めて重要である。 ○ 今回、第二期の専門部会の検討では、水源環境の総合的な保全・再生の視点に 立って、緊急的又は中長期的に実施する必要がある具体的な保全施策が整理され た。 ○ いずれの施策も、将来の世代に豊かな水資源を引き継ぐために重要なものであ り、広域的な視点に立って環境施策を進めるべき県としては、これらの施策の事 業化を検討し、できる限り速やかに具体化するよう努力すべきである。 2 水源環境保全施策を実施するための税制措置等 ○ 水源環境を保全・再生するための税制措置は、生活環境税制の理念に基づき、 自らの生活環境や身の回りの自然環境について、県民がどのようなものを望むの かという県民の意志に基づいて構築されるべきである。 ○ この考え方に立って、森林保全や生活排水対策など、様々な保全施策を実施す るための新たな財源措置として、5種類の税制措置が検討されており、負担の公 平性や平等性を考慮し、薄く広く県民全体で負担する課税方式が整理されたもの として評価できる。 ○ 地方自治体の行財政運営は、特定の歳入と歳出とが結びつかないことを原則と している。納税者である県民は、地方自治体のサービスの受益者であるが、本来、 税は、特定の行政サービスに対する反対給付の性質を持たず、公共サービスを提 供するための一般財源を調達する目的で、法令の定めに基づいて課すものである。 また、目的税や特定財源は、財政運営の自由度を制約し、財政硬直化の原因にな るものである。 ○ したがって、県民の意志が基盤となっているにしても、新たな行政需要への対 応には、原則的には、一般財源を増加させるべきであり、税制措置の場合でいえ ば、一般財源として活用できる超過課税等、普通税での税制措置を検討すべきで ある。この場合に、基金や特別会計方式を採用し、支出の段階で使途を特定する 手法も考えられる。 ○ しかし、今回整理された水源環境保全施策のように、一般的な行政水準を超え て実施される施策で、これを実施するための財源を応益的に共同で負担するとい う仕組みが地域住民に理解される場合には、受益と負担の関係に立って特定財源 として求める法定外目的税を創設することも検討すべきである。 ○ 専門部会では、様々な税制措置の意義や課題を詳細に検討しているが、当研究 会としては、特に次の点を指摘しておきたい。 ・個人県民税の均等割への超過課税は、一般財源の考え方に立った課税方式で あり、水源環境の保全・再生の利益は全ての県民に及ぶことから、その財源を 県民が平等に負担する、分かりやすい方式として理解されやすい。 ・その反面、税負担が低所得者にとって相対的に重くなるという逆進性が生じ るため、その緩和のため、所得割の超過課税を組み合わせた方式を検討すべき である。 ・なお、国の最近の税制改正論議において、個人住民税均等割の引上げを検討 すべきとの意見が出されており、今後の論議の動向を注視する必要があるが、 仮に、引上げが実施される場合には、超過課税と併せて実施することによる県 民負担の変化に留意する必要がある。 ・また、法人県民税の均等割に対する超過課税については、法人の規模に応じ た負担を求め、公平な課税方法を採用することも検討すべきである。 ・法定外目的税としての仮称・水源環境税は、様々な水源環境保全施策から受 ける利益の程度を計る外形的な基準として水の使用量に着目し、課税するもの であり、水道施設を使用することの対価としての水道料金とは、区別されるも のである。この仮称・水源環境税は、水源環境保全施策から受ける利益と負担 の関係をより重視した課税方式であり、その面での理解を得やすく、水に関す る環境意識の向上も期待できると言う考え方は理解できる。 ・しかし、各世帯の水の使用量に、所得の多寡ほどの差異がない中で、水の使 用量に応じた課税を行うことは、結果として、個人県民税の均等割への超過課 税と同様、負担が逆進的になるという課題がある。 ○ 税制措置以外の方策については、その財源規模などから、主たる費用負担の方 法とはなり得ない。しかし、専門部会でも検討されたように、税制措置との組合 せは十分に考えるべきである。 3 県民参加の重要性 ○ 専門部会では、これまで、学識者のほか、経済・労働・環境・消費者の各団体 の関係者など、幅広い分野の委員の参加を得て検討が進められ、県民各層や市町 村から意見を募集するほか、詳細な議事録の一般公開を行うなど、幅広い県民の 参加を重視した取組を行ってきた。 ○ また、今回の専門部会からの報告には、水源環境保全の施策と税制のあり方の みならず、それらが実施された後の評価や見直しについても、県民参加の必要性 が言及されており、住民自治の観点からも多くの意義が認められる。 ○ 今後、県として、水源環境を保全するためにどのような施策を行い、どのよう な形で負担を求めるかについては、この報告を基に、多くの県民の参加を得た議 論を通じて、県の考え方を整理し、具体的な施策を早急に実施していくことが望 まれる。 平成15年10月 神奈川県地方税制等研究会 座長 神野直彦 神奈川県地方税制等研究会委員名簿 役 職 氏  名 所 属      職   座 長 神野直彦 東京大学大学院  経済学研究科長 委 員 堀場勇夫 青山学院大学   経済学部長  〃  金澤史男 横浜国立大学   経済学部学部長  〃  中里 実 東京大学法学部  教授  〃  沼尾波子 日本大学経済学部 助教授