X その他 1 日米地位協定 (1)根拠及び内容 「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定」(日米地位協定)は、日米安保条約第6条に基づいて、締結されたもので、日本国内における米軍や米軍人等の権利義務及び米軍の施設・区域の使用や権利関係などについて定めている。主な内容は、施設・区域の提供(第2条)、施設・区域に関する措置(第3条)、法令尊重の義務(第16条)、裁判権(第17条)、日米合同委員会(第25条)等である。 この協定の実施に関しての細かい取り決めについては、日米政府それぞれの代表者からなる、日米合同委員会によって決定される。さらに、補助機関として、施設分科委員会など25の分科委員会(平成18年7月現在)がおかれ、種々の問題について協議を行っている。 (2)個々の問題への対応 日米地位協定は、昭和35年の締結後、一度も改正されておらず、政府は個々の問題に対しては、運用改善により対応してきた。政府は日米地位協定について、「その時々の問題について運用の改善により機敏に対応していくことが合理的であるとの考えの下、運用の改善に努力しているところであり、これが十分効果的でない場合には、我が国のみで決定しうることではないが、日米地位協定の改正も視野に入れていくことになると考えている」としている。 (3)運用改善の具体例 最近の運用改善の例としては、殺人などの凶悪犯罪の場合、被疑者の身柄を起訴前に日本側へ移転することを可能にした、平成7年の刑事裁判手続きに関する日米合同委員会合意、平成9年の事件事故通報体制の整備に関する日米合同委員会合意、すべての犯罪の場合に、日本側への被疑者の起訴前の身柄引き渡しを可能とした平成16年の刑事裁判手続きに関する日米合同委員会合意、施設・区域の外における事故現場の規制に関する日米合同委員会合意などがあげられる。  (4)見直しを求める動き 米軍基地から派生する事件・事故や、環境問題、軍人等による犯罪等が住民の生活に影響を及ぼしているという見地から、日米を取り巻く安全保障体制や我が国の社会経済環境が大きく変化したにもかかわらず、締結以来一度も改定されていない日米地位協定の見直しを求める声が上がっている。 県では、運用改善では抜本的な解決につながらない問題もあることから、渉外関係主要都道県知事連絡協議会や神奈川県基地関係県市連絡協議会を通じて、地元意向を反映させる仕組みづくりや、環境法令等各種国内法の適用、事故防止対策や防犯対策等の安全性の向上などを明記するよう日米地位協定の見直しを求めるとともに、その運用について改善を図るよう要望している。 2 有事法制 (1)有事関連3法の成立 平成14年2月4日、小泉総理大臣が施政方針演説において、有事に強い国づくりを進めるため、有事への対応に関する法制について取りまとめを急ぎ、関連法案を国会に提出するとの方針を示し、これを受けて、武力攻撃事態という国及び国民の安全にとって最も緊急かつ重大な事態が生じた場合における対処を中心に、国全体としての基本的な危機管理態勢の整備を図るため、武力攻撃事態対処関連3法案を同年4月16日、閣議決定の上、同年4月17日、第154回国会に提出した。その提出背景としては、我が国を巡る安全保障環境が依然として不透明・不確実な中で、平成13年に発生した米国同時多発テロや武装不審船事案は、国民に大きな不安を与えるとともに、新たな危険に備えることの重要性が再認識され、国家の緊急事態にすき間なく対処し得る態勢の整備がますます重要になったことがあげられる。 その後、与野党による激しい国会審議を経て、平成15年6月6日に武力攻撃事態対処関連3法が成立した。その際、付帯決議で1年以内に国民保護法制を整備することが定められた。また、日本有事の際、自衛隊と共同対処する米軍の行動を円滑にするための法制も「速やかに」整備することになった。 (2)有事関連7法の成立 有事関連3法の成立後、付帯決議で1年以内の成立を義務づけられた国民保護法など有事関連7法案の検討が政府内で進められ、平成16年3月9日に閣議決定された。有事関連7法は平成15年6月に成立した「武力攻撃事態等における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律」(武力攻撃事態対処法)など有事関連3法を補完する内容となっている。 このうち「武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律」(国民保護法)は住民の避難や救援の手続きなどを明示した。それによると、有事にあたっては国が警報を発令し、各都道府県に住民の避難を指示し、これを受け、知事は市町村長を通じて住民へ避難を促すとともに、住民救援のため収容施設や食糧を確保し、生活必需品の提供や医療活動を実施することとされている。その後、国会審議を経て平成16年5月20日に衆議院を通過し、同年6月14日には参議院で可決され成立し、あわせて関連3条約の締結も承認された。 (3)周辺事態安全確保法とのかかわり 平成11年に制定された「周辺事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律」(周辺事態安全確保法)では、「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態等我が国周辺の地域における我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態」を周辺事態としている(周辺事態安全確保法第1条)。  武力攻撃事態及び武力攻撃予測事態(以下「武力攻撃事態等」という。)と周辺事態とは、それぞれ別個の法律上の判断に基づくものであるが、我が国に対する武力攻撃事態等が発生しているときに、状況によっては両者が併存することはあり得る。周辺事態への対応としての米軍支援は周辺事態安全確保法により、また、武力攻撃事態等への対応としての米軍支援は自衛隊法や米軍行動関連措置法に基づき、それぞれ実施することとなる。 (4)地方公共団体の役割 有事法制における地方公共団体の主な役割は、国民保護法に基づき住民の生命、身体及び財産を守ることにある。県では、国民保護法の成立を受け、武力攻撃事態等が発生した際の県民の避難・救援などに関する「神奈川県の国民の保護に関する計画」を平成18年3月に作成した。 武力攻撃事態等において都道府県は知事を本部長とする対策本部を設置し、被害状況や措置の実施状況を一元的に把握し、各種の対処措置を総合的に推進する。また、住民の避難についても、国の指示を受けて都道府県知事が市町村長を通じて住民に対し指示を行うこととされている。 3 警護出動 平成13年9月11日、米国において発生した同時多発テロ事件を契機とし、いわゆるテロ対策三法の一つとして自衛隊法が改正され、自衛隊の部隊等が米軍基地の警護を行う警護出動の規定(第81条の2)が新設された(成立:平成13年10月29日、公布・施行:同年13年11月2日)。 警護出動は、日米合同委員会の合意を経て内閣総理大臣から発令されるが、その際、あらかじめ、関係都道府県知事の意見を聴くとともに、防衛大臣と国家公安委員会との間で協議をさせた上で、警護を行うべき施設並びに期間等が指定されることとなっている。 従来の自衛隊法の中でのテロ攻撃への対応としては、第78条に基づく「治安出動」が考えられたが、緊急事態が発生する「おそれ」がある場合だけでは治安出動が適用できず、一方でそのような場合には、自衛隊の能力を活用して在日米軍施設等の警護を行う必要性があることから新たに設けられたものである。 4 非核三原則と核持込み疑惑 我が国は、原爆被爆体験の中から、国是として「非核三原則」を生み出した。これは、昭和43年1月30日の衆議院本会議において、佐藤首相が、我が国の核政策として「核兵器を持たず、つくらず、持ち込ませず」を表明したことによる。また、県においては昭和59年に神奈川県議会で「神奈川県非核兵器宣言」を採択している。 一方、日米安保条約上の扱いについて、昭和35年1月19日、いわゆる「岸・ハーター交換公文」で、事前協議の対象となるのは、在日米軍の重要な装備の変更等であるとされ、昭和43年4月25日に国会に提出された「藤山・マッカーサー口頭了解」において、それは、核弾頭の持込み等を意味することが明らかにされた。また、米国は「佐藤・ニクソン共同声明」等において、繰り返し、事前協議について、我が国の意思に反して行動する考えのない旨を表明した。 しかし、米国政府は、従来から核兵器の存在を肯定も否定もしないとの政策(NCND政策)をとっていることに加え、元駐日大使ライシャワー氏など米政府高官からの核持込み疑惑に関する発言等が、次々となされたため、疑惑が増大した。 また、昭和59年、米国議会において、核付き巡航ミサイル「トマホーク」の配備計画書が公表され、ロサンゼルス級原潜31隻に「トマホーク」が積載されることが明らかになった。 このため県は、昭和59年6月14日の原子力潜水艦「タニー」の寄港に際して、外務大臣に対し、「@核兵器配備の確認」「A非核三原則の遵守」を要請し、その後も一連の疑惑や核積載可能艦船が横須賀に寄港するなどの事態が生ずるごとに、同様の要請を繰り返してきた。 しかし、冷戦終結後の平成3年9月27日にブッシュ米大統領は、有事の際を除き、艦船と攻撃型原潜からすべての戦術核を撤去する旨を提案し、平成4年7月2日には、戦術核の撤去完了声明(いわゆるブッシュ声明)が行われたことで、艦船による横須賀への核持込み疑惑が解消されるに至り、要請を中止した。 また、平成6年9月22日に発表された「米国の核戦略見直し計画」等によると、戦術核戦力では、攻撃型原潜には核搭載能力を維持するものの、その他の空母及び水上艦への核兵器搭載能力を取り去るという核兵器削減に向けた内容が明らかにされた。 なお、国は、「日米安保条約及びその関連の取決め上、いかなる核の持込みも事前協議の対象であり、核の持込みについて事前の協議が行われた場合には常にこれを拒否する。」(平成16年3月16日、参議院外交防衛委員会における川口外務大臣答弁)としている。 5 在日米軍駐留経費(いわゆる「思いやり予算」) 日米地位協定では、駐留軍従業員の労務費等は原則として米側負担とされているが、昭和53年6月、11月の2回にわたる金丸防衛庁長官とブラウン米国防長官との会談において、急激な円高ドル安への対応として、金丸長官から在日米軍が負担する経費の軽減について、日本側ができるだけの努力を行うとの意向、いわゆる「米軍への思いやり」発言がなされた。これにより、在日米軍駐留経費等の日本側負担がはじまり、「思いやり予算」と呼ばれるようになった。 (1)提供施設の整備 昭和54年度から、新たに米軍が使用する施設について、老朽隊舎の改築、家族住宅の新築、老朽貯油施設の改築、消音装置の新設等の施設整備が日本側の負担において行われることとなった。 これによって、県内では、昭和54年度から厚木基地の家族住宅の建設の開始をはじめとして、同基地や横須賀海軍施設、キャンプ座間などの各基地において、家族住宅や隊舎の新改築、あるいは、ゴミ処理・汚水処理など環境関連施設等の整備が実施されている。 また、ゲームセンター、売店、将校クラブ等、娯楽性・収益性の高い施設については、国民の税金を使うことに対し批判が高まり、平成13年度からは提供施設整備費の対象としないこととなった。 (2)労務費の負担 駐留軍従業員の雇用に関する経費は、昭和53年度から福利費などを日本側が負担してきたが、昭和54年度から給与のうち国家公務員の給与水準を超える部分を負担することとなった。さらに、昭和62年度からは、日米地位協定第24条について「特別協定」が締結され、調整手当など8手当を段階的に負担することとなった。平成3年度からは特別協定が改定され、基本給、諸手当についても段階的に負担し、平成7年度からの「新特別協定」に基づき全額を負担することとなった。 (3)光熱水料 在日米軍の光熱水料については、平成3年度から段階的に日本側の負担額が増加し、平成7年度から全額負担となったが、平成7年に締結した「新特別協定」により施設区域外の米軍住宅の光熱水費を負担しないこととなった。また、現行の上限調達量から施設・区域外の住宅分を差し引いた上で、さらに10%引き下げた値を新たな上限額として定めることとなった。 (4)訓練移転費 平成7年に締結した「新特別協定」では、平成8年度から新たな基地問題への対応として、日本側が要請した訓練の移転に伴う経費の全部又は一部を日本側が負担することとなった。 (5)新特別協定の改定 平成7年に締結した「新特別協定」は平成13年に改定され、さらに平成18年1月23日、東京において、麻生外務大臣とゼーリック米国務副長官との間で、平成18年度から発効する「新特別協定」が署名された。 その内容は、次のとおりである。 @わが国の負担の対象は、現行の協定と同様の項目(労務費、光熱水料等、訓練移転費)とする。 A新協定の対象期間は、在日米軍再編の進展の結果を見極めることが困難であるとの特殊な事情を踏まえ、2年間とする。 B労務費は、現行協定の枠組みを維持し、現行協定と同じ上限労働者数(23,055人)とする。 C光熱水料等は、現行協定の枠組みを維持し、すべての項目(電気、ガス、水道、下水道、暖房用・調理用・給湯用の燃料)について、現行協定と同じ上限調達量とする。 D訓練移転費は、現行の負担の枠組みを維持する。 E今後より一層の節約努力を行っていくとの米側の姿勢を確認。 6 返還国有財産の三分割有償処分問題 (1)国有財産中央審議会の答申 大蔵省(現財務省)は、関東計画を契機として、昭和48年4月、返還国有財産の有効利用を図るとの見地から、国有財産中央審議会に、その利用方針について諮問を行った。 国有財産中央審議会は、この諮問を受けて、返還財産処理小委員会を設置し、数次にわたり審議を重ねた結果、昭和51年6月21日、大蔵大臣あてに「米軍提供財産の返還後の利用に関する基本方針について」答申を行った。これがいわゆる「三分割答申」といわれるものであり、大規模返還財産に関して、統一的な処理基準を設ける必要性をうたったものである。その内容は、おおむね次のとおりである。 @面積10ha程度以上の返還跡地の利用区分は、おおむねその面積を3等分(国、地元、留保地)して処理すること。 A処分に際しては、原則として有償処分とし、法令上の優遇措置の適用限度についても、すべての返還財産を通じ、統一を図ること。 この答申のねらいは、 ・三分割によって、地方公共団体と各省庁、公団、公社等との利用計画の競合を避ける。 ・米軍基地の整理統合にあたって、必要な経費を捻出する。 ・有償処分とすることによって、返還財産の存在しない他の地方公共団体との間の公平化を図る。 ・優遇措置の適用限度の統一によって、国有地の処分を受ける地方公共団体間の負担の公平化を図る。 としたものであった。 (2)渉外関係主要都道県知事連絡協議会等による再検討要求 この答申に基づいて、大蔵省は、いわゆる新処理基準案を関係地方団体に示してきたが、渉外関係主要都道県知事連絡協議会、防衛施設周辺整備全国協議会など、米軍基地を抱える関係地方公共団体をはじめ、全国知事会、全国都道府県議会議長会、全国市長会など、関係地方団体は、この処理方針が、従来の基地問題の経緯と現状を無視した一方的な考え方であり、種々の問題点があることから、大蔵省に対し再検討を強く求めた。 しかし、大蔵省は、内部事務取扱い上の問題として、この処理案に基づく実施の構えを崩そうとしなかった。 このため渉外関係主要都道県知事連絡協議会は、関係団体と密接な連携をとりながら、大蔵省に対し、三分割、有償処分方針の撤回を求め、強力な反対要望活動を展開した。 (3)三分割問題 この結果、三分割問題は、国会の場においてもとりあげられ、昭和51年10月15日の衆議院建設委員会における建設大臣答弁、昭和52年2月19日の衆議院予算委員会における大蔵大臣答弁、3月12日の衆議院予算委員会第二分科会における大蔵大臣答弁において、三分割案を一方的に押しつけることなく、個々の利用計画の策定にあたっては、地元地方公共団体と十分話し合いを行う、等の発言が得られた。 このように、三分割問題については、地元並びに関係国会議員の努力により、全国画一的にあてはめることなく、地元と十分話し合って、ケース・バイ・ケースで考えていくとの大蔵省の見解が得られるところとなった。 (4)処分条件の合意 しかし、有償処分方針に関しては、渉外関係主要都道県知事連絡協議会が中心となって進められた折衝も、大蔵省の歩み寄りがなく、話し合いは行き詰まった。 この膠着状態を打開するため、昭和52年11月、渉外関係主要都道県知事連絡協議会幹事会において、青森、茨城、埼玉、千葉、東京、神奈川、福岡、長崎の8都県による代表世話人会を設置し、また、埼玉、千葉、東京、神奈川の4都県による世話人幹事を設けて、大蔵省に対し、強力に折衝、協議していくことを決定した。 その後、世話人幹事と大蔵省の間で協議を重ねた結果、昭和53年2月15日、教育施設用地処分条件が、また昭和54年9月14日には、公園緑地、社会福祉施設用地処分条件が合意に至った。 (5)留保地の取扱い 三等分される返還財産のうち、留保地は、現時点では予測できない公用・公共用の需要に備え、長期的にみて土地全体としてのより有効な活用に資するため、当分の間処分を留保するものである。 この利用について、留保地を抱える関係自治体から、利用凍結解除に向けて強い要望が出されたため、国有財産中央審議会は、昭和62年6月12日、「大口返還財産の留保地の取扱いについて」答申を行った。 この内容は、 ・留保地は、大都市圏に残された数少ないまとまった国有地であり、長期的観点からその有効活用を考える必要があるため、できる限り留保しておくことが望ましい。 ・一方、留保地の利用要望がある場合は個別に検討し、必要性及び緊急性があると認められるものについては留保地の利用もやむを得ない。 ・留保地は、公用、公共用の用途に充てるが、これは広域的な都市問題の解決に寄与し、また周辺地域の実情及び都市計画との整合性を図ること。 というものであった。 しかしながら、近年、留保地を巡る事情は大きく変化してきており、今後、その活用について現実的な展望がないまま未利用の状態が継続すれば、国民経済的な観点から非効率であるとともに、望ましい都市形成を阻害すると考えられ、今日的観点から抜本的な見直しを行うことが不可欠となった。 このため、財政制度等審議会国有財産分科会は、同分科会に設置した不動産部会において、留保地の今後の取扱いについて検討を行い、平成15年6月に「大口返還財産の留保地の今後の取扱いについて」の答申が出され、「留保地の原則利用、計画的有効活用」の基本方針に基づいた取扱いが行われることとなった。 なお、関東財務局横浜財務事務所は、返還地の取扱いに関する横浜市、及び相模原市からの問い合わせに対し、昭和51年6月21日付国有財産中央審議会答申「米軍提供財産の返還後の利用に関する基本方針について」(いわゆる三分割答申)は、昭和48年のいわゆる「関東プラン」等により返還された返還財産11施設以外には適用されない旨を、それぞれ平成18年5月と6月に回答している。