IV 県・国の対策 1 県の基地対策 (1)県の基本的な考え方 神奈川県には、都市化が進み人口の密集している地域に15の米軍基地があり、県民生活の安全やまちづくりに障害を与えていることから、県では、長年にわたって、「基地の整理、縮小及び返還の促進」を基本としている。 他方、基地の整理、縮小及び返還の実現までには、長い時間を要することから、それまでの間も、基地の存在は、周辺地域にさまざまな障害をもたらしている。そのため、県では、基地が返還されるまでの対策として、基地周辺住民の安全、福祉の確立と良好な生活環境の確保のために、基地に起因するさまざまな問題の解決に向け、基地周辺対策にも取り組んでいる。 (2)基地の整理・縮小及び返還の促進 県では基地の整理、縮小及び返還を促進するため、関係市と連携し、国に対し働きかけを行っている。 ア 関係自治体との連携による基地の整理、縮小及び返還 特に遊休化している基地、公共施設用地として緊急に必要な基地、周辺住民に多大な障害を与えている基地を中心に、関係市や渉外関係主要都道県知事連絡協議会とも密接な連携を取りながら、日米両国政府に対し、整理、縮小及び返還の促進を繰り返し要請している。 イ 基地の整理、縮小及び返還に向けた地元市の取組みへの支援 基地の整理、縮小及び返還を要望する際には、具体的な街づくりのビジョンや跡地利用計画を示すことが極めて有効である。そのため、県では、跡地利用計画の検討や策定等の地元市による取組みに対し、協力、支援を行っている。 また、神奈川県基地関係県市連絡協議会では、「基地問題に関する要望書」の中で、概括的な跡地利用の構想・計画を示し、早期の返還を要望している。 (3)基地対策の充実・強化 基地の整理、縮小及び返還の実現までには、長い時間を要することは避けられないが、それまでの間も、基地の存在は、周辺地域にさまざまな障害をもたらしている。 県は、基地周辺住民の安全・安心や良好な生活環境の確保を図る観点から、基地が返還されるまでの対策として、関係市や渉外関係主要都道県知事連絡協議会と密接な連携をとりながら、基地をめぐるさまざまな問題の解決のため、基地周辺対策を進めている。 ア 基地周辺住民の安全・安心と福祉の向上 基地に起因する様々な問題の解消のため、基地周辺対策の充実強化を国に働きかけるなど、周辺住民の良好な生活環境の確保に努めている。 @放射能汚染から県民を守るため、原子力艦の横須賀寄港時に、文部科学省、横須賀海上保安部、横須賀市とともに、横須賀基地内外において放射能調査にあたっている。また、2008年の原子力空母到着に備えた安全対策の充実を国に求めている。 A周辺住民と基地との良好な関係を築くことによって、問題発生の未然防止や解決を図るため、「横須賀基地防犯連絡会議」、「県央地区渉外連絡委員会」などを主催し、「池子住宅地区及び海軍補助施設に係る地域連絡協議会」に参画している。 イ 基地周辺の生活環境の整備等に関する制度改善の促進 関係自治体とともに、国の事業や交付金等の充実に向け要請活動を行っている。 ウ 厚木基地航空機騒音被害等の解消 厚木基地周辺の騒音問題の解決に向け、基地周辺に自動記録騒音計を設置し年間を通じて調査を行っているほか、随時、現地において観測調査を実施し、騒音被害の実態把握に努めている。また、騒音対策の充実や見直し、改善、夜間連続離着陸訓練(NLP)の厚木基地からの全面移転、住民への情報提供などを日米両国政府に対し働きかけている。 エ 基地施設等の地域住民利用の促進 一部の施設では、基地の運用に影響しない範囲において、野球場、ゲートボール場、家庭菜園、公園などとして地元住民による利用がなされている。今後とも基地返還の実現が難しいなかで、住民利用を促進していく。 オ 日米地位協定の見直しの促進  日米地位協定については、日米を取り巻く安全保障体制や我が国の社会経済環境が大きく変化したにもかかわらず、国は、運用改善により機敏に対応することが合理的であるとの方針であり、締結以来45年以上もの間、見直されていない。県としては、日米地位協定の見直しは、基地に起因する様々な問題の解決、ひいては地元負担の軽減につながる重要な課題と受け止めており、渉外関係主要都道県知事連絡協議会などを通じて、国に対して、地元意向を反映させる仕組づくりや、環境法令等各種国内法の適用、事故防止対策や防犯対策等の安全性の向上などを明記するよう求めている。 (4)災害時における在日米軍との相互協力の推進 阪神・淡路大震災を契機として、県と在日米陸・海軍では、人道的見地から災害時の相互応援の必要性について再認識し、災害時における米軍との連絡調整や、応援の要請などの事務を内容とする「災害時の在日米軍との相互応援マニュアル」を平成9年3月に作成した。『神奈川県地域防災計画』には、広域的応援体制として、在日米軍に対しこのマニュアルに基づき応援を要請することと位置づけられている。 さらに、県と在日米陸・海軍では、このマニュアルに基づき毎年、防災通信訓練を行うとともに、訓練の結果等に基づき、通信連絡方法などの見直しに努めている(平成15年3月改訂、平成19年度改訂予定)。 平成9年7月、横浜本牧沖で発生した原油タンカー「ダイヤモンドグレース号」原油流出事故の際は、在日米海軍からこのマニュアルに基づき、県に対して支援の申し出があり、海上保安庁に取り次ぎ、オイルフェンスなどの支援を受けた。 しかし、このマニュアルに基づく相互応援は、あくまでも「人道的見地からの非常措置」という前提のものであるため、県では、災害時の相互応援や、広域避難場所としての基地の一部使用等について、現地の基地司令官と地元自治体との間で協定の締結が円滑に行えるよう支援することを国に対し働きかけている。 なお、基地が所在する8市は、それぞれの基地との間で地域での火災時の消防活動についての相互援助を内容とした、消防相互援助協約・協定を締結している。 2 基地関係の連絡協議会 (1)渉外関係主要都道県知事連絡協議会(渉外知事会) ア 設立経緯 昭和36年、当時の神奈川県知事が、米軍基地に起因する諸問題を抱える主要12都道県の知事に対し、米軍提供施設等が所在する都道県相互間の連絡調整を密接にし、政府等に対して、基地問題の適切かつ迅速な措置について要望等を行い、これらの問題の効果的な解決を図ることを呼びかけ、昭和36年11月、関係都道県及び政府機関等による会議を開催した。同会議において本協議会の設置が決定され、昭和37年1月12日、「渉外関係主要都道県知事連絡協議会」が結成された。 イ 構成自治体 当初は、北海道、青森県、茨城県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、山梨県、静岡県、山口県、福岡県、長崎県の12都道県であったが、その後、昭和47年7月に広島県、沖縄県が加入し、現在は14都道県により構成されている。 ウ 活動状況 本協議会は、基地に起因する諸問題を解決するため、国に対し、定例要望や緊急要請を実施している。 最近の緊急要請では、「在日米軍の再編に係る地方公共団体への情報提供等について」(平成17年7月)、「在日米軍の再編に係る今後の取組み及び日米地位協定の見直しについて」(平成17年11月)などを実施した。 定例要望では、毎年「基地対策に関する要望書」により実施しており、平成18年度の内容は次のとおりである。 @米軍基地の整理、縮小と早期返還の促進及び基地跡地利用に係る要望 A日米地位協定に係る要望 B「防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律」等に係る要望 C基地交付金(国有提供施設等所在市町村助成交付金)及び調整交付金(施設等所在市町村調整交付金)等に係る要望 D駐留軍等労働者対策及び離職者対策に係る要望 E周辺事態安全確保法等に係る要望 F自衛隊法に基づく警護出動に係る要望 なお、平成12年度以降、要望項目の中から選定された項目について、文書回答を国に対して求めていたが、平成18年度からは、重点として取り組んでいく事項を明らかにするため、重点要望を新設し(平成18年度は3つの柱8項目)、国に文書回答を求めている。 (2)神奈川県基地関係県市連絡協議会(県市協) ア 設立経緯 米軍基地に関係する県内12市町(現在9市)と県が、密接な連携を保ち、相互に協力して、基地対策行政の円滑な運営を図ることを目的に、「神奈川県基地関係県市町連絡協議会」として、昭和39年5月21日に結成された。平成5年度末で湯河原町が退会したことにより、平成6年度から名称を「神奈川県基地関係県市連絡協議会」と改称した。 イ 構成自治体 横浜市、横須賀市、相模原市、藤沢市、逗子市、大和市、海老名市、座間市、綾瀬市、神奈川県で構成している。 なお、設立当時は、川崎市、三浦市、湯河原町が参加していたが、その後、基地返還に伴って退会し、現在に至っている。 ウ 活動状況 本協議会は、基地に起因する諸問題を解決するため、国に対し、定例要望や緊急要請を実施している。また、研修や基地調査を実施するなど基地対策推進のための調査、研究を行っている。定例要望には、基地問題要望、基地交付金要望及び国の財政的支援に関する要望がある。 平成18年7月に行った基地問題要望の主な項目は以下のとおりである。 重点要望項目 @米軍基地の整理・縮小・早期返還の推進 A厚木基地における航空機騒音の解消 B米国原子力艦船の事故による原子力災害対策の確立 C日米地位協定の見直し及びその運用の改善 D住宅防音工事等、騒音対策の充実 E基地交付金、調整交付金制度及び各種支援策の充実 基地交付金要望及び国の財政的支援に係る要望では、基地交付金制度については、「固定資産税の代替的性格」を有するが、固定資産税相当額にはるかに及ばない状況であること、新たに建設された建物で米軍に提供された財産が国有財産台帳に速やかに登載されていないこと、補正措置を継続していることなどの問題があるため、毎年制度の充実や予算の増額等、また県内関係市への配分について、関係政府機関に対し要望している。併せて、国の財政的支援に係る要望において、基地周辺自治体が過大な負担を担っていることを踏まえ、十分な財政上の措置を講じるとともに、基地周辺自治体の実情に応じた、柔軟な対応が可能となる施策とすることを要望している。 (3)厚木基地騒音対策協議会(厚協) ア 設立経緯 厚木基地の周辺住民は、昭和57年2月から実施されるようになった夜間連続離着陸訓練(NLP)により耐えがたい苦悩を強いられ、市民生活に深刻な支障を生ずることとなった。 県と周辺7市は、厚木基地におけるNLPの中止、適切な代替訓練施設の早期実現、訓練時間の短縮等を、繰り返し国及び米軍に対し要請したが、状況が改善されることはなかった。 そこで、この問題の解消に向け、より実効ある運動を進めることを目的として、県及び周辺7市の行政と議会が一体となり、国会議員の協力も得て、昭和63年8月16日に「厚木基地騒音対策協議会」を設立した。 イ 構成自治体 厚木基地周辺7市(大和市、綾瀬市、藤沢市、相模原市、海老名市、座間市、横浜市)及び神奈川県で構成している。 なお、平成14年度からは、東京都町田市がオブザーバーとして参加した。 ウ 活動状況 本協議会が、硫黄島における着陸訓練施設の早期完成、同施設でのNLP全面実施等を国に要請した結果、平成5年4月には同施設が完成し、米側に全面提供されるに至った。 これを受けて、引き続き本協議会は、硫黄島におけるNLPの全面実施に向け、いわゆる「直結方式」の実現や、硫黄島での予備日の設定など、全面実施に必要な措置についての多角的検討を行うこと、必要な支援体制、施設の拡充・整備を推進することなど、具体的な提案を日米両国政府に対し粘り強く行い、NLP問題の解消に向け精力的に活動してきた。 また、平成14年度には、NLP同様に激しい騒音を伴う飛行訓練が、NLPの直前の時期に空母艦載機により行われていることを、国及び米国に示した。 平成8年度からは、NLP以外の騒音問題として、基地周辺住民に激しい騒音と墜落の不安をもたらすデモンストレーションフライトの廃止も要請項目に盛り込み、国及び米国に求めた結果、平成14年5月に、在日米海軍司令官が、今後デモンストレーションフライトを実施しないことを表明した。 平成18年度においては、米軍再編協議において厚木基地から岩国基地への空母艦載ジェット機の移駐等が合意され、閣議決定も行われたことを踏まえ、一日も早く騒音問題の抜本的解決を図るため、 @空母艦載ジェット機の移駐等を着実に実施すること  ANLPの硫黄島での全面実施や、NLP直前に行われている集中的訓練の硫黄島での活用や事前情報提供を行うことにより移駐実現までの間も、騒音問題の解決に積極的に取り組むこと  を日米両国政府に要請し、国に対しては文書回答を求めている。 3 米軍との連絡会議 【県が事務局の協議会】 昭和27年の占領終結に伴い日米間の問題はすべて日米合同委員会で討議されることとなったが、基地地元の小さな問題をすべて合同委員会に上げて解決することは実際上難しいため、現地司令官が地元と処理できる問題については地元で会合を設けてはどうか、との勧告が外務省からあった。 これを受けて神奈川県では、県央地区、横浜地区(第1回は昭和28年3月31日。昭和50年11月12日川崎市主催の第76回以降開催なし)、横須賀地区(本節(1)「横須賀基地防犯連絡会議」を参照)で、県、県警本部、関係市町、横浜防衛施設局の代表及び各米軍施設の司令官、幹部将校を構成員とする地区別渉外連絡委員会(CRAC=Community Relations Advisory Council)を発足させた。 (1)横須賀基地防犯連絡会議 ア 設立経緯 横須賀基地周辺における米軍人・軍属等による犯罪に関し、相互の要望を述べ、また情報を交換することによって、その防止に努めることを目的としており、その前身は昭和27年7月22日発足の「横須賀地区渉外連絡委員会」に遡る。この委員会は、昭和32年9月3日の第25回で一旦終了し、昭和41年11月17日に再発足、昭和47年6月16日の第8回まで続いた。 昭和52年11月22日、議題を犯罪防止に限定し、新たに「横須賀基地犯罪防止連絡会議」が発足、平成5年4月1日には名称を「横須賀基地防犯連絡会議」に変更し、平成9年2月21日、規約を制定、施行した。 イ 構成員 日本側は神奈川県警察本部、横須賀警察署、横須賀市、横須賀防衛施設事務所、神奈川県で、米側は、在日米海軍司令部法務部、横須賀基地憲兵隊、横須賀基地法務部等で構成している。 ウ 開催状況 昭和52年度は2回、昭和55年度は4回と、平成4年度までは各年度に複数回開催している。その後はほぼ毎年度1回開催しており、平成18年度で52回を数える。 (2)県央地区渉外連絡委員会 ア 設立経緯 県央地区における地域住民との交流や、米軍人・軍属等による交通事故などの事件事故について、相互の要望を述べ、また情報を交換することによって、日米の良好な関係を形成することを目的として設立された。 イ 構成員 日本側は相模原市、大和市、海老名市、座間市、綾瀬市、神奈川県警察本部、神奈川県で横浜防衛施設局をオブザーバーとし、米側は在日米陸軍司令部、在日米陸軍基地管理本部、在日米海軍厚木航空施設司令部で構成している。 ウ 開催状況 第1回は昭和28年4月30日、キャンプ座間が主催した。以後、日米交代で主催し、当初は各年度に複数回開催していた。この約20年間は毎年度1回開催しており、平成18年度で109回を数える。 【地元市が事務局の協議会】 (3)池子住宅地区及び海軍補助施設に係る地域連絡協議会 ア 設立経緯 本協議会は、平成6年11月の逗子市、防衛施設庁及び神奈川県による合意書において「地域社会における日米の良好な関係の形成と親善交流のため、逗子市、在日米軍、防衛施設庁及び神奈川県による協議機関を設ける。」とされたことを受けて、逗子市民と米軍人等との地域社会の良好な関係形成並びに親善交流の促進を目的とし、平成8年2月14日に第1回会議が開催された。 イ 構成員 逗子市、在日米海軍司令部及び在日米海軍横須賀基地司令部、横浜防衛施設局、神奈川県警察本部及び神奈川県で構成し、「四者協」と呼ばれている。 ウ 開催状況 平成18年度までに11回開催されており、親善交流や交通事故対策などの問題について意見交換を行っている。 4 国の地元対策事業 (1)周辺対策の制度 昭和27年4月、平和条約の発効後、日米安保条約に基づき米軍に提供された施設・区域と周辺社会との間に、さまざまな摩擦が生じ、いわゆる基地問題として社会的に問題を提起するところとなった。 基地周辺の自治体は、国に対し、様々な障害の軽減、生活環境の整備、事業活動の助長等基地周辺の民生安定諸施策を強く求めた。その結果、国は、次のような立法並びに行政措置を講じた。 ア 民事特別法等の制定 昭和27年4月、米軍人、軍属の公務上の違法な行為により損害を受けた場合、国が代わって賠償する「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う民事特別法」が公布、施行された。公務外の違法な行為により損害を受けた際も、「合衆国軍隊等の行為等による被害者等に対する賠償金の支給等に関する総理府令」の定める手続きにより、国から補償金が支払われることとなった。 イ 漁船の操業制限法の制定 昭和27年7月、「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約に基づき日本国にあるアメリカ合衆国の軍隊の水面の使用に伴う漁船の操業制限等に関する法律」が公布、施行され、米軍が海上演習等のため水面を利用する場合、告示をもって、一定の区域、期間を定めて、漁船の操業を制限または禁止することができることになったため、漁業経営上の損失を国が補償することとなった。 ウ 特損法の制定 昭和28年8月、「日本国に駐留するアメリカ合衆国軍隊等の行為による特別損失の補償に関する法律」が公布、施行された。 この法律は、米軍の特定の行為を原因として、農林漁業等特定の事業経営上生じた損失を補償しようとするものであり、その行為が適法、無過失の場合も含まれている。 エ 環境整備法の制定 昭和41年7月、「防衛施設周辺の整備等に関する法律」が公布、施行された。 昭和28年8月に施行された特損法は、損失の補償を規定したものであり、被害や損失を軽減防止する対策ではなかった。その後、防災工事、道路改修工事及び騒音防止対策事業が、行政措置により行われるところとなったが、事業ごとの個別処理の範囲を出ず、基地問題の解決には十分なものでなかったため、基地周辺の自治体や住民等が、国に対し、施設周辺の民生安定対策の抜本的強化を強く要望した。 その結果、自衛隊等(自衛隊及び米軍)の行為または施設の運用による障害の軽減緩和、防止のための必要な措置について、国が助成することを定め、さらに、施設周辺の整備に努めること、特定飛行場隣接地域の建物の移転補償等を、制度として規定したものである。 昭和49年5月、その後の日本経済の高度成長及び都市化、過密化が進むなかで、基地周辺住民の生活環境の大幅な変化、住民意識の高揚等を背景に、従来の「防衛施設周辺整備法」では対応が十分でなかった施策の拡大、住宅防音工事の助成、飛行場周辺対策の強化、特定防衛施設周辺整備調整交付金の新設などを内容とした「防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律」が成立し、6月27日、関連政令等とともに公布、施行された。 オ 基地交付金の制定 昭和32年5月、「国有提供施設等所在市町村助成交付金に関する法律」が公布、施行された。 この法律により、国は、米軍に提供し、あるいは自衛隊が使用している国有固定資産が所在する市町村に対し、国有固定資産財源補てん措置として、その資産の価格に応じて、予算の範囲内で、市町村助成交付金(基地交付金)を交付することとなった。 カ 調整交付金の制定 昭和45年10月、「施設等所在市町村調整交付金交付要綱」により、調整交付金が交付されることとなった。 この要綱は、米軍に提供している施設等の所在する市町村に対し、米軍資産に係る税制上の特別措置や、米軍に係る市町村民税の非課税措置等による税財政上の影響を考慮して、毎年度、予算の範囲内で、調整交付金を交付するとしている。 これは、米軍施設所在市町村においては、「地方税の臨時特例に関する法律」により、米軍の所有する固定資産に課税することができず、市町村の税財政上の負担となっていたため、神奈川県基地関係県市連絡協議会、渉外関係主要都道県知事連絡協議会等が、新たに特別の交付金制度を設けるべきであるとして、強力な要請をした結果によるものである。 県内では、横浜市、横須賀市、逗子市、相模原市、大和市、座間市、綾瀬市が両交付金の、海老名市が基地交付金の対象となっている。 (2)環境整備法の概要 「防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律」は、自衛隊等(自衛隊及び米軍)の行為、または、防衛施設(自衛隊の施設、または米軍の施設及び区域)の設置・運用による障害の防止等のため、周辺地域の生活環境等の整備について、必要な措置を講じるとともに、自衛隊等の特定の行為による損失を補償することによって、住民の生活安定及び福祉の向上に寄与することを目的としている。 その内容は、次のとおりである。 ア 障害防止工事の助成(法3条1項) 基地周辺地域においては、@機甲車両その他重車両の頻繁な使用による道路の損傷、A射爆撃による演習場の荒廃に伴う周辺河川の洪水等の発生、B通信施設からの電波発射や航空機の低空飛行による周辺のテレビ受信への影響、C航空機騒音や射爆音による学校、病院への騒音といった障害の例がある。このような場合に、市など地方公共団体等が、これらの障害を防止または軽減するために行う道路、河川の改修、共同テレビ受信アンテナの設置、学校、病院の防音工事等に対し、国は、予算の範囲内において、費用の全部または一部を補助することとしている。 イ 住宅防音工事の助成(法4条) 昭和48年12月、環境庁(現環境省)は、飛行場周辺の環境基準について、「航空機に係る環境基準」を告示した。この告示は公共用飛行場周辺地域の、環境基準と達成目標を示しており、米軍等の飛行場周辺においても、公共用飛行場に準じて、環境基準の達成に努めるものとしている。 環境整備法では、米軍等の飛行場や対地射爆撃場の、周辺地域の騒音の度合(W値)を測定し、その結果をもとに、防衛施設庁長官が、区域を指定している。指定された区域は、それぞれ@第1種区域(W値75以上)は住宅防音工事の助成、A第2種区域(W値90以上)は、移転の補償・土地の買入れ、B第3種区域(W値95以上)は、緩衝緑地帯等の整備の対象とされている。県内では厚木基地周辺が対象とされている。 (ア) 住宅防音工事の助成対象区域指定の経緯 第1種区域の指定は、次表のとおり計5回行われている。第4回までは区域は段階的に拡大されたが、その後、約20年ぶりに行われた第5回の指定においては、全体としては拡大したものの基地の西側では一部縮小された地域も生じている。 なお、環境省が定めている航空機騒音にかかる環境基準は、住居地域においてはW値70以下であり、神奈川県における航空機騒音に係る環境基準に基づく地域類型指定は、昭和55年に告示された。 (イ) 第5回告示の経緯 国は、最終告示から約20年が経過し厚木基地周辺の騒音状況に変化が見られること、平成13年度までに希望者に対する防音工事がほぼ100%完了したことから、平成18年1月17日に、約20年ぶりに指定区域の見直しを行なった。 その背景には、平成14年7月に防衛施設庁長官の私的諮問機関「飛行場周辺における幅広い周辺対策の在り方に関する懇談会」において、深刻な騒音等の影響を被っている区域を見定めるため、計画的に騒音調査を行い、区域の見直しを図る旨の提言が出されたことがある。 平成17年11月22日に横浜防衛施設局から示された区域指定案は、基地の南北方向を拡大し西側の一部を縮小するものであった。県は、関係7市の意見を踏まえ、@区域拡大と騒音調査体制の整備、A告示後住宅への早期対応、B公平かつ迅速な工事の実施、C国の説明責任、D縮小地域への特段の配慮、などを意見として国に提出した。 横浜防衛施設局は、告示後住宅については特に騒音の激しい区域(告示後のW値85以上)で建築年度の古い住宅(昭和61年9月の第4回告示後5年以内に建築)を対象とすること、工事内容・手続き方法の周知に努めること、縮小地域において経過措置期間を設定すること、などを回答した上で告示を行った。 (ウ) 住宅防音工事制度の概要 a 新規防音工事 住宅防音工事の助成(補助)制度は、昭和54年に設けられ、世帯人員にかかわらず2居室を施工する。工事内容は、W値に応じてW値80以上の地域では壁、天井、サッシ、ふすま及びドアを防音施工する第T工法、W値75以上80未満の地域ではサッシ、ふすま及びドアを防音施工する第U工法とに分けられている。 b 追加防音工事 新規防音工事を実施した住宅を対象とする工事であり、世帯人員プラス1居室(5居室が上限)を限度として行われ、既に工事が実施された居室数を減じた居室数を対象とする。 なお、防音工事を初めて行う住宅について、5居室までを限度として一度に工事を行う「一挙防音工事」も実施されている。 c 特定住宅防音工事 助成対象区域(第1種区域)の指定は段階的に拡大され、各告示の際に現に所在する住宅が助成の対象となっていたため、住宅の建設時期が同一、若しくはそれ以前であっても区域によっては対象とならないという現象(いわゆるドーナツ現象)が生じた。この不都合を解消するため、平成8年度から厚木基地周辺で「特定住宅防音工事制度」が適用され、平成11年度は第2回告示区域まで、平成12年度は第3回告示区域にまで制度が拡大された。 第4回告示区域の住宅については、当面は特に騒音の激しい区域(第5回告示後W値85以上)で建築年度の古い住宅(第4回告示後5年以内に建築)が対象とされた。 d その他の工事 平成11年度からは、過去に防音工事を受けており、既に工事終了後10年以上が経過した住宅の建て替えにあたって新たに防音工事の助成を行う「建替防音工事制度」が適用された。 また、同年度から、第4回告示に基づき工法区分が変更された(昭和63年7月)ため、第T工法区域内において既に第U工法により工事が施工されている住宅を対象として助成を行う「工法是正制度」が実施された。なお、対象住宅は相模原市内のみである。 さらに、今後防音工事を実施する住宅で、バリアフリー対応住宅、フレックス対応住宅あるいは身体障害者及び要介護者等が居住する住宅について、対象居室をひとつの区画としてその外郭で工事を実施する「防音区画改善工事制度」も、同年度から実施された。 平成15年度からは、防音効果を高めるため、W値80以上の区域を対象として、家屋全体をひとつの区画としてその外郭で工事を実施する「外郭防音工事制度」が実施され、施工年度の古い住宅(単身世帯は除く。)から、順次施工されている。 また、住宅防音工事では空調機の設置も助成されるが、夏期に騒音により窓を開けられない世帯ではクーラー等の稼動に必要な電力がかさむことから、その相当額を助成するため、同年度からW値80以上の区域を対象として、「太陽光発電システムへの設置補助」をモニタリング事業として実施されたが、現在では事業は終了している。 なお、県では、渉外関係主要都道県知事連絡協議会や神奈川県基地関係県市連絡協議会を通じ、W値70への指定区域の拡大や告示日以降の新増築住宅への助成等、制度の一層の拡充について要望している。 ウ 移転等の補償(法5条) 第2種区域(W値90以上)に所在する建物等を、第2種区域以外の地域へ移転する場合には、国が補償することとなっている。 また、第2種区域に所在する土地については、土地所有者からの申し出があれば、国が買い入れることができる。なお、この場合若干の制限があり、第3種区域(W値95以上)であれば、土地所有者の申し出により、すべて買い入れることとなっているが、第2種区域については、区域指定された際に宅地である土地、または、宅地以外の土地で、移転または除却によって、従来利用していた目的に使用することが著しく困難となる場合に限って、買い入れ対象となっている。 エ 民生安定施設の助成(法8条) 防衛施設の設置、運用により、周辺住民の生活または事業活動に障害を与えると認められる場合において、地方公共団体が、その緩和のために、生活環境施設や、事業経営の安定に役立つ施設を整備するときは、国は、その費用の一部を補助することとなっている。 この助成措置は、例えば、@道路、A消防施設、B周辺住民の学習、保育、休養、または、集会の用に供するための施設、Cごみ・し尿処理施設、D公園等を設置する場合に補助対象となっている。この補助率は、10分の8を最高として、設置施設の内容により定められている。 オ 特定防衛施設周辺整備調整交付金(法9条) 港湾、ジェット航空機用飛行場及び市町村の面積に占める割合の大きい防衛施設等があるときは、「特定防衛施設関連市町村」として指定される。 これらの市町村は、障害防止工事や民生安定施設の整備等について、国が相当の助成を講じても、より以上に環境整備の努力を余儀なくされるということから、公共用の施設の整備に対して特定防衛施設周辺整備調整交付金が交付されている。 県内の対象市町村は、横須賀、大和、綾瀬、逗子の4市である。 交付金の対象となる公共用施設は、交通施設、通信施設、スポーツ施設、レクリエーション施設、環境衛生施設、教育文化施設、医療施設、社会福祉施設、消防施設、または産業の振興に寄与する施設である。 交付金の額は、当該市町村の人口密度、特定防衛施設の面積、運用の形態、航空機の種類などを基礎として、総理府令により算定される。 カ 損失の補償(法13条) 従来、適法に農業、林業、漁業等を営んでいた者が、自衛隊の行為により、その事業の経営上損失を受けたときは、国がその損失を補償することとなっている。米軍の行為により損失を受けた場合は、特損法により国が損失の補償を行う。また、米軍の水面使用に伴う漁業補償は、漁船の操業制限法により、補償金が支払われることとなっている。 キ その他 (ア) テレビ受信料の助成 昭和35年ごろから、ジェット機の飛行と騒音激化により、テレビ、ラジオの難視聴が問題となり、受信料免除の住民要望が強まったため、昭和36年9月、郵政省、NHK、防衛施設庁等による合同実態調査が行われた。 その結果、昭和39年4月にラジオ受信料については全額免除、テレビ受信料については半額免除の措置が採られたが、その後、昭和45年4月、NHKの受信料免除基準が改正となり、飛行場外辺から東西1q、南北5qに減免対象区域が拡大され、大和市全域と綾瀬、座間、海老名、藤沢各市の一部地域が含まれることになった。 なお、昭和57年4月に受信料免除基準が改正となり、半額免除の措置が削除された。その代替として、この減免区域を対象に、(財)防衛施設周辺整備協会により「放送受信障害対策助成金」として、受信料の半額を助成する制度が新たに設けられた。このことにより、視聴者がNHKに支払う金額は、これまでと同様、受信料の2分の1である。 (イ) テレビ受信障害の防止 厚木基地周辺の綾瀬市側地域では、同飛行場に発着する航空機のため、フラッター障害(飛行機の機体に電波が反射して、テレビ受像にゴースト等が生ずる現象)があることから、「防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律」に基づき、昭和55年度から共同アンテナ方式によるテレビ受信障害防止事業が、国によって実施されている。