日米地位協定シンポジウムの概要について 1 タイトル日米地位協定シンポジウム「再編の今こそ地位協定を問う」 2 日時平成17年12月22日(木) 15:30〜17:00 3 場所弘済会館(東京都千代田区麹町) 「萩」(4階) 4 パネリスト松沢成文(会長、神奈川県知事) 稲嶺惠一(副会長、沖縄県知事) 石破茂(衆議院議員、自由民主党) 浅尾慶一郎(参議院議員、民主党) 本間浩(法政大学教授) 5 参加人数103名 シンポジウム記録 【あいさつ】 松沢知事:それでは、これより渉外知事会主催日米地位協定シンポジウムを開催いたしま す。本日は、年末のお忙しい中、私どもが主催するシンポジウムにおこしいただき、誠 にありがとうございます。渉外知事会は、在日米軍の基地が所在する主要な都道県によ り、昭和37年(1962年)に設立され、現在、14の都道県により構成されており、 基地を抱える地元自治体の立場から、基地が存在することによってもたらされる様々な 問題の解決を目指して、国への要望をはじめとする活動を行っている。中でも日米地位 協定は要望事項の大きな柱の一つだ。 かねてより、再編協議が行われている今こそ、日米地位協定を見直すべきであるとい うことを、様々な機会を捉えて申し上げており、渉外知事会としても、11月に関係省 庁に緊急要望した。 日米地位協定は、締結後45年経過しており、様々な問題点が指摘されているにもか かわらず、一度も見直しが行われていない。政府は問題が発生する都度、運用改善で対 応しているが、運用改善では基地問題を抜本的に解決することは困難だ。今般の在日米 軍の再編によって、新たな安保体制が構築されようとしているが、日米の新たな関係が スタートするのであれば、日米地位協定もそれに合わせて見直していくべきではないか。 この機会に、地元の負担軽減にもつながり、そして日本の国益にもつながる日米地位 協定の見直しが実現するよう、求めてまいりたい。 本日の開催にあたりまして、事前にお配りしました「ちらし」の中で、「地方からの 視点に加え、我が国の安全保障や日米両国のパートナーシップのあり方、さらには国民 全体の利益の立場から」議論を深めてまいりたい、ということを御案内した。本日は、 そのような議論にふさわしいパネリストの方々にお越しいただいた。 地位協定のあり方は、国民全体に関わる問題なので、私ども渉外知事会が根ざす地方 の立場だけでなく、外交や安全保障全般を考慮して、さらには国民全体の利益を考えな がら、パネリストの皆様と議論を深めてまいりたいと考えている。 短い時間ではあるが、本日のシンポジウムが実りあるものとなるよう、私としても精 一杯努めてまいりたい。どうぞよろしくお願い申し上げます。 【パネリスト紹介】 (省略) 【討論】 ( 1) 渉外知事会要望の取組みについて 松沢知事それでは、資料に基づき日米地位協定に関する渉外知事会の要望内容につい てご説明する。 これは、平成17年(2005年)7月29日に、政府関係機関に対して行った日 米地位協定に関する渉外知事会定例要望の概要である。地位協定に関する要望は、全 体で70項目に及ぶため、主なものをご紹介したい。 まず、地位協定第2条は、米国への施設・区域の提供や返還の手続き等について定 めているが、基地の提供、運用、返還に関して、住民や地元自治体の意向が反映でき るような仕組みや、基地の使用目的等を定期的に審査する規定を、地位協定に明記す ることが必要だと考えている。 続いて、第3条に関しては、基地に関する環境問題を取り上げている。 基地内の水や大気は、基地の周辺から隔離されている訳ではなく、基地内での汚染 は、周辺住民の健康被害に結びつく恐れがあるため、環境法令等の日本国内法を適用 するよう求めている。 第4条「施設の返還」に関しては、現行の地位協定では、米国は、基地の返還にあ たり原状回復義務を免除されているほか、返還に伴う環境調査や環境の浄化等につい て明確な規定がないため、その是正を要望している。 第9条「米軍構成員等の地位」に関しては、米軍人等の検疫は、日米合同委員会合 意に基づき、米側により実施されているが、海外から入ってくる感染症等に対する不 安が高まっている時期でもあり、日本国内法を適用し、日本側当局が責任をもって検 疫を実施する必要があるとの考えを示している。 第17条、「裁判権」に関しては、被疑者の引き渡しについては、平成7年(199 5年)と16年(2004年)に運用改善が行われているものの、米国が最終決定権 を留保したままの状態なので、日本国が要求するすべての場合において、被疑者の拘 禁移転が速やかに行えるよう、地位協定に明記する必要があると考えている。 第17条の関係では、平成16年(2004年)8月に沖縄県で起きたヘリコプタ ー墜落事故を契機に、「米国の財産に係る検証等の実施」を要望している。事故の際、 米側の同意が得られず、事故機を検証等できなかったことから、日本側が検証を行う 権利を行使できるよう、求めている。 第25条の関係では、日米合同委員会の中に、基地を抱える地方自治体の意向を反 映させる仕組みをつくることが必要であるとの考えから、「日米合同委員会における地 方公共団体の意向の聴取」等を要望している。 最後に、平成17年(2005年)11月11日に行った緊急要望について、説明 する。 在日米軍の再編に係る日米協議が行われ、相互の協力関係が進んでいく中で、締結 後45年も見直しが行われていない地位協定は、様々な問題をかかえていることから、 日米地位協定の見直しに向け、早急に基地の所在する地方公共団体はもとより、基地 の影響を受ける地方公共団体からも意見を聴取するとともに、2、3年以内等できる だけ短い期限を設けて見直しを行うことを、在日米軍の再編に係る最終報告に盛り込 むよう要望している。 ( 2) パネル討論 松沢知事まず稲嶺知事に沖縄県の現状、そして沖縄県の立場から見た地位協定の課題に ついてご説明いただきたい。 稲嶺知事今一番沖縄で問題になっているのは米軍再編に伴う中間報告についての対応だ。 今回の中間報告は、各地方自治体の頭越しに行われたということが一つの特徴 であり非常に強い反発が出ている。沖縄関係では評価できるものと、評価できな いものとがある。評価するものについて私が一定の評価という表現しか使わない のは評価できるものについても大枠が分かっているだけで、中身の詰めが一切行 われていないからだ。 例えば、海兵隊を7千人撤退しようということだが、中身は何も出ていないし、 中南部の基地の統合、あるいは再編、撤収についても具体的な話は何も見えてい ない。そのような中で、嘉手納飛行場での訓練の一部を本土に移すというような 具体的な話もあるが、これについても各地方自治体の動きというのが見えてこな い。あるいは、自衛隊との共用という話も、沖縄が求めている嘉手納飛行場の運 用改善になるかどうか見えない部分がある。 その中で一番の問題は、普天間飛行場の移設であり、沖縄にとってはシンボル 的なものだ。これは前県政の時からも取り組んでおり、日米両方の間でも話が進 んでいた。 私が平成10年(1998年)に知事に当選してから、ボーリング調査にOK した平成16年(2004年)、その間7年間、これを進めるためにはどうしたら いいかということで、沖縄の中から10いくつかの候補地を挙げ、それを7箇所 に絞り、最後は2箇所に絞って、従来案の辺野古の沖に決めた。今回政府から出 されたのは、従来いろいろ検討された中から、消え去った案が出てきた。それで 我々としては、実現性に乏しいということで、この案に対しては容認できないと いう強い姿勢を示している。その意味で沖縄としては、(中間報告について)評価 する面もあるが一番シンボル的なものについては、認められないという厳しい状 況にある。 次に地位協定の問題だが、地位協定の問題が、非常に大きくクローズアップさ れたのは、平成7年(1995年)の凶悪な事件の後、県民が一体となって結集 し、当時の県政としても、このままではいけないということで、県民大会を開い た。約8万5千と言われているが、要するに右から左、(党派を超えて)全部入っ ている。その中で、被害者に対する補償や謝罪とかいろいろあったが、大きな基 地問題のポイントとしては、一つは基地の整理縮小の方向で、この辺でしっかり 進んでほしいということ。もう一つは日米地位協定の見直しだった。当時の県知 事は、外務大臣に地位協定の見直しを強く申し入れたが、(地位協定の見直しは) 議論が走りすぎていると言ったために、一挙に沖縄県中が怒りだして、非常に燃 えた県民大会になったといういきさつがある。 何故問題が起きたかというと、地位協定第17条で被疑者をすぐに引き渡して くれない。起訴になったら引き渡しましょう、早く引き渡せということで時間が ずいぶんかかり、その後運用改善により、ある程度弾力的に早めになったけれど も、やはりすぐには引き渡してくれない。田中眞紀子氏が外務大臣だったときに、 やはり同じような問題があり、電話をされて、パウエル長官に強く言ったのが、 どうも真夜中だった。非常に驚いて、その翌日にはすぐ引き渡していただいとい うこともあった。 運用改善というのは、ある程度相手の好意にゆだねるという面があるので、こ の辺が非常に大きな問題だと思う。 松沢知事稲嶺知事から沖縄の現状、地位協定のトラブルも含めてご説明いただいたが、 私ども渉外知事会では、運用改善では限界があると考えており、日米地位協定を ずっと研究されてきた本間先生にお伺いしたい。地位協定の現状と課題について、 先生の立場からご説明いただきたい。 特に、米軍優位の条文になっている、いわゆる不平等条約だとも言われている が、そのあたりをどう考えるか、あるいは他国の米軍やNATO軍との地位協定 と、この日本の地位協定、比較した場合、どんな問題があるのかなども踏まえて、 解説をいただければありがたい。 本間教授稲嶺知事から、非常に具体的な点についてご紹介いただいたが、私のほうから は、対米交渉を考えた場合に重要なポイントという意味づけをもって、地位協定 の基本的な特色についてお話をしたい。四点お話をしたい。 第一は、日米地位協定というのは、二重構造になっている。一つの側面は、駐 留軍構成員等の法的地位に関する原則、もう一つの側面は基地協定としての側面 である。 昭和35年(1960年)に行政協定から現行協定に改定になったときに、N ATO並みになったと評価する向きがあったが、要するに法的地位の側面につい て、NATOと同等になったという意味だと思う。もう一つの側面、つまり基地 協定の側面に関しては、正に日米間の政治関係、軍事関係が露骨に反映した所産 であると見ることができる。 このことから、日米協定の改定という問題を考える場合に、アメリカのどこに 向けて問題をぶつけていったらいいのかということが、おぼろげながら示唆され る。 二番目の特徴としては、基地の使用について米軍が排他的権限を与えられてい る。 排他的権限というのは、普通、国際法上は、他国の干渉を受けないという意味 だが、ここではむしろ日本国法令の適用が原則的に除外されるという意味で使わ れていると思う。米軍は、自らの思惑に従って基地を自由に使用することができ、 例えば夜間のタッチ・アンド・ゴーもできるし、それから騒音公害が生じても、基 地の軍事的使用ということは許されるというのが、アメリカ側の基本的な捉え方 だと思う。そのことが住民に大変な生活上の負担を生じていることは、ご存知の ところだ。 これに対して外務省の捉え方は、伝統的な考え方だと思うが、この日米協定に よって、基地の中においては、米軍の排他的権限が認められる。その裏返しとし て、基地の外については、日本側の権限が全面的に認められる、あくまでも原則 的ということだが、こういう説明をしてきたと思う。 しかし実際には、基地の外でも米軍側が権限を主張することがこれまでしばし ばあり、沖縄の航空機事故では、日本側の当局の第一義的な関与を否定された。 それから被疑者の逮捕権という問題についても、もしそこに米軍の当局がいた場 合には、米軍側が先行的に逮捕権を行使できるということだ。基地を巡ってのこ ういう権限ということは、これは主権間の衝突というふうに捉える向きがあるが、 本当にそうなのかということを、もう一度考えてみる必要があると思う。 三番目の問題としては、先ほど稲嶺知事からお話があった刑事裁判権の問題だ。 外務省の説明によると、日本の刑事裁判権についてのアメリカとの合意はNA TO協定よりも進んだ形になっているとの説明がしばしばこれまであったが、翻 って考えると、現行の日米協定の刑事裁判権、それからNATO地位協定の刑事 裁判権の問題点を日本が改めて問題提起した、そういう意味を持っていると思う。 この刑事裁判権の原則は、主権間の問題といわれるが、実はアメリカ内部の政 治的妥協の産物で刑事裁判権の原則ができているということがある。 稲嶺知事がおっしゃったように、特に刑事裁判権の問題をめぐって運用の改善 では対応できない、地位協定の改定まで進まなければ駄目だという指摘がされて いると思うが、日本側の対応を通じて、米軍関係者による犯罪をどう防止するか。 再教育を繰り返してきたが、実効的な結果が出ない。そうなるとどうしたらいい か、自ずと方向が決まってくると思う。 それから四番目に申し上げたいことは、沖縄に対して現行の地位協定をそのま まの形で適用するということは、そもそも私は無理だと思っている。 沖縄返還協定が結ばれ、それに伴って安保条約、地位協定が適用され本土並み 適用ということが言われた。しかしこれは形式的な平等が実現されたということ であって実質的な平等を実現するためには、基地の整理縮小ということが伴わな ければならなかった。それを疎かにして、言葉の上だけの平等を実現してきたと 思う。 それと、海外の変化は、事実だけ言うと、特に平成5年(1993年)に、ド イツ駐留NATO軍補足協定、ボン協定と言われている協定が大改正になった。 その背景には、冷戦構造の崩壊とか、東西ドイツの統一とか、大きな政治的条件 の変化があったが、それ以外にドイツの中ではまず緑の党という環境を旗印にす る政党が議席を伸ばしたという国内政治的な背景がある。それから平成9年(1 987年)と翌年にドイツでNATO軍による航空機の墜落事故が2度起こった。 こういうことで、ドイツの住民のボン協定改定への要求が非常に強くなった。こ れに対してアメリカはドイツの中でナショナリスティックな主権論争が強まって いるという捉え方をしたが、私はそういうことではなく、これは住民が自らの安 全の確保を、ボン協定の改定という形で主張したと捉えるべきだと思う。 そのドイツの協定がイタリアに対して影響を及ぼし、平成11年(1995年) に在伊米軍地位協定が改定された。 また韓国が平成13年(2001年)に米韓協定の改定にこぎつけた。韓国で は長い間、日米協定並みに改定すべきだという要求がありましたが、韓国内での 米軍によるいろいろな事故を通じて、反米感情が高まる、そういう中で、米韓協 定の改定ということが、一応実現した。しかし、改定は部分的であり、日米協定 並みにはまだ及ばない。これで私の話は終わります。 松沢知事ただ今沖縄県の稲嶺知事と、地位協定の問題を研究している本間先生からご意 見を伺った。 今日は国会からお二人のゲストに来ていただいている。地位協定を今後見直す としたら、最終的には国会での議論になる。当事者になるが、はじめに自民党の 石破先生にお伺いしたい。自民党の中にもパートナーシップを確立する会が日米 地位協定を見直していくべきということで、案まで作って運動が始まったという 話を聞いている。自由民主党と言うよりも石破先生の地位協定に対する認識やお 考え、あるいは自民党内の動き等々についても教えていただきたい。 石破議員自由民主党の石破です。立場は自由民主党政務調査会の外交調査会。会長は町 村前外務大臣だが、その下で会長代理をしている。 今松沢知事から個人的な感想でいいということなので、党としてではないとい うことを最初にお断りしておきたい。 基本的に我々の地域は、冷戦後安定した地域ではなく、かえって不安定な地域 になっているという認識を持っている。民主党の前原代表が中国は脅威であると おっしゃって、いろいろな議論を起こしているが、間違いなく中国は自衛を超え た軍事力を急速に近代化しつつある。そして、また北朝鮮が弾道ミサイルの発射 や、あるいは核開発や、冷戦期よりも危ない存在になっている。そしてまたアジ アにおけるテロの頻発、テロ集団の存在ということを考えてみても、いわゆる冷 戦期の力のバランスで戦争がない状態が保たれていたときより、かえって不安定 な地域になっているということはまず認めなければいけないことだと思っている。 よく抑止力の維持と負担の軽減というフレーズが使われ、政府もわが党も使っ ている。少し考えると、二律背反的ではないかということはお気づきになるだろ う。私はむしろ抑止力の向上ということを考えなければいけないと思っているが 仮に維持とする。 抑止力を維持しながら負担を軽減する、この二律背反をどうやって実現するか、 いくつか手法があるが、一つは自衛隊の役割を拡大していくということだ。 米軍でなくても出来る部分は自衛隊がやっていくということだ。もちろんわが 国が核抑止力を持つべきだということを言っているのではないし、また敵基地攻 撃能力、策源地攻撃能力と言うが、これは今米軍に委ねている。これをどうする かということは今後議論しなければいけないことだが、いずれにしても自衛隊の 役割を拡大していかないと、米軍の駐留は削減されてこない。米軍再編というの は裏返せば、自衛隊のトランスフォーメーションだという認識を、抑止力を維持 する限りは、我々は持たなければならない。 もう一つはRMA、軍事における革命というものによって、それほど前方に展 開しなくてもよくなることもあるはずだ。その軍事における革命の進捗により、 どれだけ減らしていけるかということも考えていかねばならない。 そして沖縄に専用地域の75%が集中している。この部分を海外あるいは、本 土で受け入れるということは常に追求をしていかねばならないと私は思っている。 地政学的に沖縄でなくてもいいということがあるのならば、それは総理がよく言 われるように、本土も受け入れることができないかということを、これから先も 追及していかなくてはならない。嘉手納の飛行訓練の分散というのはそのことを 含む、そういう認識だ。 その中において地位協定をどうするかということだが、何故今まで運用改善で やってきたのか、それなりの理由があるはずだ。 松沢知事が言われるように、地位協定そのものを見直そうと思うと、日本でも 国会で承認しなければいけない。アメリカでも議会で承認しなければいけない。 日本での承認は、与野党できちんと話をし、それほど困難ではないかもしれない。 しかし米国において、それが議会にかかったときに、本当にそれが簡単にできる ものだろうか。それがどんなに困難なことかということを考えたときに、先ほど の起訴前の身柄の引渡しにしても、そのようなことを決めている地位協定は一つ もないはずだ。韓国でも改定されたが、それは起訴後の話であって、それも重罪 に限った話だ。起訴前に引き渡すということは、どの国の協定でも行っていない。 日本でそれを運用の改善により、今まで確か四件、それに基づいて引渡しの要 求があり、そのうち三件は起訴前に引き渡されているはずだ※。一件は未遂だか ら引き渡す必要はないだろうということだった。四件要求した中で、三件の引渡 しが運用の改善において行われている。これを地位協定の中で書けと言ったとき に、本当に合衆国の議会がそれを「うん」と言うか。私は極めて困難なことだと 思っている。 低空飛行にしてもそうで、それは平成12年(2000年)に合意がなされ、 日本の航空法を守ろうということがうたわれた。では運用改善で本当に駄目なの か、そのことを一つ一つきちんと検証してみる。それが今日の会だと思っている。 私は言いっ放し、聞きっ放しはやりたくない。二年間大臣をしたが、沖縄の先 生方をはじめとして、運用の改善では足りないと言い、政府の側は運用の改善で 足りると言い、議論はそこですれ違ったまま終わってしまった。私は本当に一つ 一つ、運用の改善で基地が所在する地域の皆様が本当にどれだけの困難を感じて いるか、運用の改善で本当に駄目なのはどこの部分かということをきちんとやり たいと思っている。 最後に一つだけ申し上げると、NATOとの比較が言われる。日米安全保障条 約は非対称的双務条約である。米軍は日本を守る義務を負い、日本は基地を提供 する義務を負う。NATO、あるいは米韓のように双方防衛という義務を負って いない。これがどのように異なり、どのように影響するのかという議論もきちん としていかねばならない。 我々は外交調査会で来年、日米関係を主要なテーマに取り上げたいと思ってお り、この地位協定もきちんと党で議論したいと思っている。そこで一つ一つ言い っ放し、聞きっ放しでなく、詰めたいと思っている。それをやらなければ、沖縄 の負担は軽減しない。知事がおっしゃるように、7千人減は、どうしても実現を させなければいけない。米軍を減らすということは、実現させていかなければい けない。そのためにちゃんとした議論をやろうと思っているので、ぜひ今日を機 会にそのような場を今後も与えていただきたいと思っている。 ※ その後1件起訴前の引き渡しがあり、平成18年1月現在、請求5件うち引き 渡し4件となっている。 松沢知事ありがとうございました。 もう一方の野党第一党の民主党は地位協定を改定すべきということで、その案 も出されている。今日は外交担当の浅尾ネクスト大臣にお越しいただいている。 民主党の地位協定に対する考え方と取り組み方について、お話いただければと思 う。 浅尾議員民主党で外交を担当している浅尾慶一郎です。ご紹介いただいたように、民主 党において、平成17年(2005年)8月に日米地位協定の具体的な見直し案 を出している。 大前提として申し上げておくと、日米同盟が大切であるということは、当然、 民主党においても申し上げているが、一方で日本側の立場、あるいは日本側の考 え方ということをはっきりと地位協定という形に、落とし込んで、訴えていく、 あるいは、改善を目指していく活動も必要だという考え方であり、そういう考え 方にのっとって、改定案を作っている。その中で具体的に条文ごとに、このよう に変えるべきということを書いている。 先ほど稲嶺知事が言われた第17条については、凶悪犯罪の場合に、起訴前で あっても、日本が被疑者の拘禁を行えるようにするということも、民主党案の中 には入れている。こういう案を出し、もちろん日本の中で、これで行こうという ことにならないといけないが、最終的にはもちろん米側と協議をしなければなら ず、我々も日本とアメリカの裁判、あるいは被疑者の権利の違いということは認 識している。その中で、ぎりぎり妥協ができるところが、凶悪犯罪の場合という ことだ。凶悪でない犯罪の場合には起訴前の引渡し、拘禁ということにはしてい ない。『「兇悪な犯罪」は、殺人、強盗及び強姦をいう』と定義をしており、加え て『ただし、合衆国は、その他の特定の場合について日本国が合同委員会におい て提示することのある特別の見解を十分に考慮する』というということも加えて いる。 何を申し上げたいかと言うと、運用改善はないよりいいと思うが、それは紳士 協定ということだ。やはり地位協定という形でしっかりと文書で書いてあるもの について、お互いに日米双方共に誤解がないという形でまとめていくことが必要 ではないかと思う。 そのことの背景を、もう少し逆の観点から申し上げさせていただいて、発言を 終えたいと思う。わが国において、今話があった抑止力という観点の必要性は、 当然、私も民主党としても認めているが、一方で特に基地が、基地を抱えている 県、沖縄もそうだし、神奈川県の住民の感情、あるいは感覚というものも、広い 意味で日本とアメリカとの外交関係をよりよいものにしていく上で一番重要な要 素ではないかと考えている。 つまり何か事件や事故が起きて、そのときに普通の日本人が起こした事件や事 故だったら、そのようなことはないが、米軍だから許されるということになると、 たちどころに日本とアメリカの外交関係にある種のダメージを与えることになる。 そうならないよう、しっかりと地位協定を改定し、そしてそれをお互いが納得す ることが必要ではないかと考えている。別の言い方をすると、安心できる日米関 係を作るために、それを運用改善ということではなく、しっかりとした地位協定 の見直しという形でやることが必要ではないかと考えているのが民主党の立場だ。 地位協定の見直しをするということは、繰り返しになるが、文書という形で国 民の前に出すことができるということなので、そのことが安心感につながるので はないか。安心感があるということは結果として日本の国民も、あるいは基地を 抱えている県の県民も、米軍に対する安心感、信頼感の更なる向上につながるの ではないかというのが、私どもの考え方であり、したがって改定していく必要性 があるという立場だ。 松沢知事今、自民、民主両党の国会議員のお二人から、それぞれ見解をいただいた。 自民党の石破衆議院議員からは、そもそも日米安保条約は他の国同士の安全保 障条約、相互防衛義務を持っている条約ではなくて、片務的なものである。立場 の違いもあるという背景のご説明もあり、一方で今後自民党としても日米地位協 定の問題点がどこにあり、本当に改定すべきなのか、運用改善でいって大丈夫な のかというところも、議論をしていくという前向きな発言もあった。 また浅尾参議院議員からは、安定的な安心できる日米関係を築いていくために も、地位協定の改定というのをしっかりやっていくということが必要だというこ ともあったが、お二人の国会議員の意見に対して、本間先生、感想、コメント等 があったらお願いしたい。 本間教授申し上げたいことはたくさんあるが、石破先生と浅尾先生の話にかみ合わせる お話をさせていただきたい。 日米協定が片務的であるであること、そして抑止力を維持しなければならない ということ、そのことは日本社会で認めていかなければならないことだと思う。 それを認めるとしても、なおこの刑事裁判権に関する原則を改定できないのかど うか。つまり片務協定であることや、抑止力を維持しなければならないという要 請と刑事裁判権の問題を、取引のコマに考えているところがあるように、私から は見える。しかし日米交渉において、交渉の対象になりうる、それに適する事項 と、そういう取引の対象にすべきでない事項があると私は思う。その点で刑事裁 判権の問題は、正に取引の対象にすべきでない問題だと思う。従って抑止力の維 持を尊重しながら、その一方において刑事裁判権の規定の改定を要求することは 十分説得力のある問題だと思う。 これが難しいのはむしろアメリカの議会内の問題であり、アメリカの議会内で は、結局アメリカの憲法が定める被疑者の権利擁護という原則と、日米協定に基 づいて一定の措置を取るということが、整合性があるかということに対して非常 な危惧感を持っている。この刑事裁判権の原則について、もともとアメリカは、 アメリカ以外の国の刑事手続きに対して、大変な不信感を持っており、その不信 感を前提にして、この日米協定で言えば17条の原則が出来上がっている。こう いうことからすると、戦後これだけの時代を経て、日本が刑事手続きについて、 きちんと人権擁護という点でも配慮した、そういう刑事手続きの取り扱いをやっ ているということについて、アメリカにも理解いただいているはずだし、理解が 不十分であれば、政府が一生懸命説得しなければいけない。そういうことをした 上で、改めて本来あるべき刑事裁判権、あるいは刑事手続きのあり方ということ について再検討する。これはどうしても必要なことだと思う。 松沢知事稲嶺知事、今刑事裁判権の問題もヒートアップしているけれども、そのあたり も踏まえて、ご意見あるいは反論等があればお願いしたい。 稲嶺知事まず一つは、日米地位協定が結ばれてから45年経っている。沖縄県が復帰し て33年ですから、その前だ。この間に大きく変わったのは、やはり人権に対す る意識、あるいは環境に対する意識が非常に高まってきたということだ。私から は現場にいる関係から、わかりやすい話をいくつかしたい。 例えば地位協定第18条というのは軍人や軍属に対する事故の補償の問題だ。 これが、公務上のものについては補償をしてもらっているが、実際は公務上より、 交通事故など(公務外)が多い。この場合は各人の問題だが、示談交渉が大変に なる。 それから特に支払能力がない場合は大変で、最近はある意味ではいろいろな運 用改善がなされて、支払能力が本人にない場合は、米側がやりましょう、それに 対して日本側がある程度プラスして、見舞金を出しましょうという話だが、こう いうものは全て恩恵的なもので、相手の好意に委ねるという問題がある。 それから環境の問題について、最近こういうことがあった。今アメリカは基地 内のPCBは本国に持って帰るということだが、それ以前に返還された恩納(お んな)通信所、これは大変すばらしいリゾート地にあるが、その返還地から、P CBが沢山出てきた。アメリカは以前のことは知らないと言うから、どうしてい るかと言うと、自衛隊の基地の中に積んで、保管してある。どうしようか、ある 意味で分解処理をして、その水を流そうかという話があったが、流されたほうは かなわないということで地域住民は反対し、なかなか進まない状況がある。 環境の問題というのは、基地の中でしばしば起きるが、立ち入り権もない。だ から何かあったとしても、外から見えない物は何も見られない。 かつて鉛弾を使ってクレー射撃を行っていたが、今はやっていないが、その現 場への(環境調査のため)立ち入りをさせてくれと言っても、やらせてもらえな い。こういうことがあってもいいのかという話だ。 それから、先ほど本間先生からお話があったが、例の宜野湾の沖縄国際大学の ヘリ墜落事故のときには、(米兵が)一帯を囲んで、日本の警察さえも入れなかっ た。このときに、ここは一体どこの国なのだろうという声が出た。これは全くお かしいと思っている。日本は主権国家なので、施設の区域外については日本の主 導の下でしっかり現場統制が行われる必要があると考えている。 やはり45年経った中で私も全国あちこちの知事にお会いしたり、あるいは議 会関係でお会いしたりして、33の都道府県議会が日米地位協定を見直すべきだ ということを決議している。色々な団体の方にも会い、例えば弁護士会とか、連 合とか、JCなど数多くの団体が、日米地位協定を見直すべきだという決議をし ている。 若干政府の答弁も変わってきたと考えるのは、従来、外務省は常に運用の改善 ということを言っていたが、町村前外務大臣はついにはこういうことを言われた。 米軍再編が終わった次の大きな課題として、運用改善でいくのか、改正でいくの か、そのへんを含めて、幅広く検討していかなければならないだろう、と。これ は初めての発言だ。 私は、多くの皆様の声がだんだん広がってきて、従来全く取り上げてくれない ものが、少なくとも取り上げるべきではないかというところに来たのは、一つの 成果だと考えている。今回、松沢会長をはじめとする渉外知事会の皆様、マスコ ミ等に対しても、是非この米軍再編の中で取り上げていただきたい。これはすぐ 簡単にできるものだとは思っていない。しかしそうかと言って、45年そのまま 経っているものの、時代も変わっている。日米のあり方も、次第に共同でいろい ろやろうと言っているときに、そのままでいいのかということを、私は提言した い。 松沢知事ありがとうございます。 それでは切り口を先に進めて、議論をしていきたいと思う。お二人の国会議員 にあえて質問したいが、先ほど石破議員もおっしゃったように、今回の再編の大 きな特徴は、新しい時代の抑止力構築に向けて、米軍の機能、在日米軍の機能を 見直すと同時に、日本の自衛隊がそれと共同することによって、新しい抑止力を 確立していくということで、自衛隊のトランスフォーメーションとも言えるとい うご発言があった。 そうなると、米軍基地の中にかなりの人数の自衛隊が駐屯し、様々な協力関係 を作っていくという体制になる。具体的な例で見ると、私ども神奈川県でも、キ ャンプ座間に第一軍団の改編したUEXと言われるが、新しい司令部が出来、そ れに対応して自衛隊のほうも、中央即応集団司令部という形で入ってくるという 案が出ている。私たちのほうは決して今のままでは認められないという立場だが、 そういう方向が出されている。 隣の相模総合補給廠も、座間の基地を守るための任務ということも含めて、自 衛隊の普通科連隊が、災害対策にも活動できるという理由付けで、米軍と共同の 生活をする状況になってくる。質的にかなり変わる。 今まで環境の問題でも、日本の環境法令が適用されず、有害物質があったり、 様々な事件がおきても、それはアメリカ軍の兵士だけに影響を与えるのであれば、 それはアメリカ軍のやり方なので仕方がない。ただこれは地域社会とつながって いる、それをどう考えるのか。それと同時にわが同胞の自衛隊もその中に入るの で、この環境法令がしっかり適用されていないような状況で被害がおきるとする と、同胞の自衛隊にも影響を与えてしまう。そこをどう考えるのか。 もう一点、私どもの要望の中でもあったが、伝染病等の検疫について日本の法 律が適用されない。アメリカの法律で、アメリカのやり方で検疫を受けてきたと しても、それが日本のルールと違って伝染病を持った方が入ってくる可能性もあ る。そこに自衛隊の隊員も一緒に生活するような形になって、もし伝染病になっ た場合、自衛隊の隊員の人権はどうなるのか。そういうことも含めると検疫も、 日本の法令に合わせるよう、きちっと見直すべきではないか。 私も自衛隊が一緒に活動するということは必要だと思うが、そうであるがゆえ に環境や、検疫について、自衛隊員の人権を守れるような仕組みを作っておかな いと、同胞の皆さんがあまりにもかわいそうではないか。こういう意見も成り立 つと思うが、そのあたりについてはいかがお考えか。 石破議員先ほど稲嶺知事が言われた件、例えば身柄の引渡しは今まで日本側は4回求め、 そのうちの3回はきちっと引き渡された。沖縄の場合では、3回要求し、それが 2回だったが、その1回は未遂であるということで、運用の改善がきちんと行わ れていないとすれば問題だが、行われているのではないかと思っている。それが なお違うということかもしれない。そうならば、きちんと議論したい。 それから、環境でも立ち入れないか。例えば嘉手納の松くい虫のときは、立ち 入っているはずで、今度のコートニーの場合はどうかと言うと、どういう調査方 法でやろうかということを今詰めているのであり、入れる、入れないということ が米軍の専権に関わっているとは私は思ってはいない。私の理解が違うのかもし れない。しかし、そこは本当にどうなのかという話をきちっと詰めたいと思う。 運用の改善では足りないと言い、こちらは運用の改善で十分じゃないかと言う。 言いっぱなし、聞きっぱなしでは何にも前に進まない。ぜひそこはお願いしたい。 松沢知事のお話だが、例えば環境ではどうなのかというと、当然接受国の法令 を尊重する義務を負っている。日本国の環境に関する法令、これを米軍は尊重し なければならない。そういう義務を負っている。 もう一つは米軍と日本との取り決めで、環境のいろいろな基準があるが、重い ほうを適用するということが決まっている。アメリカがいい加減で、日本がきち んとしているかと言えば、必ずしもそうでなく、アメリカの基準のほうが重い例 もいくつもある。例えばPCBの処理基準は、日本よりもアメリカのほうが厳格 なはずだ。その場合、重いアメリカのほうを適用するということが日米間で合意 されている。 そうすると、それがきちんと守られているかどうかということが検証できる仕 組みがあるかという問題だと、私は思っている。松沢知事が言われる同胞である 自衛官、ことに臨んでは危険を顧みずと誓って、日本国の独立と平和のために働 いている自衛官が間違ってもそのような危険にさらされることがないように、そ れは我々の義務であると思っている。 そして自治体がアクセスできる部分はどこなのかということだが、外務省と議 論をするが、ヘリが墜落した去年の8月13日もそうだった。その当時防衛庁長 官だったが、これは地位協定第17条のbだというのは、私でも分かる。そこか ら先どうなるのかというのは、地位協定からは出てこない。ファントムが横浜に 落ちたときも、あるいは九州大学に落ちたときも、それはどうするのかというこ とはきちんと議論されたはずだが、それがちゃんとマニュアル化されていなかっ たという感じを持っている。 地位協定本文はかなり曖昧に書いてある。曖昧に書いてあることが我が方にと って得な部分もある。曖昧だからこそ、運用の改善でいけることが沢山あるから だ。しかし、その運用の改善で、合意書でどうなっているか、協定でどうなって いるか、それをきちんと自治体の方や住民の方に分かるように、国会議員にも分 かるように、これが日米地位協定の全体の姿であるというものを作っていかない と、いつまで経っても理解が進まないと思っている。 日本国の主権も守っていかなければならない。しかし軍隊というものは、日本 は自衛隊があまり外国に出ないので、ピンとこないが、その国の主権そのもので あり、主権そのものを担って、外国に出る。基本的に行った国の主権には全く拘 束されない。それではあまりにひどいということで、地位協定というものがある。 そして同じような価値観を持ち、同じような法規範を持っている国同士であれば、 それは尊重しなければいけない。当たり前のことだ。しかし逆に考えてみて、仮 に我が自衛隊も今イラクのサマワに行って、多国籍軍として地位協定を結んでい るが、そこで何か起きて、イスラム法で裁かれていいか。それはそうはならない。 そして何か起こしたときに、起訴前に自衛官の身柄を引き渡すか。それは議論の あるところではないか。本当に我々が外に出たとき、そしてまたアメリカが日本 に来たとき、これは本来相互性のものだが、日本は外国に出ないので、あまりそ ういう議論がない。そこのところも議論していかねばならないことだと思ってい る。 これは最後になるが、例えば米軍兵が公務外の事故、交通事故を起こしたとす る。そこに使用者責任は及ぶのだろうか。企業であれば使用者責任は負わない。 プライベートでやっているのだから。しかし、そこに日本が見舞金という形、あ るいは無利子貸付ということをやっている。それは何で国民の税金を使って、見 舞金を払い、そしてまた無利子貸付を行うのか。それは日本国の政策の選択の結 果として、米軍が駐留している、そのことによって国民の税金で見舞金を出し、 無利子貸付を行っている。それは普通の使用者責任の原則からすれば、イレギュ ラーなお話であるが、これも本当に被害にあわれた方をどうやって救済するか、 運用改善の問題であると思っている。なお足りないか。そして地位協定の改定と いうのは1年や2年でできる話ではなく、5年や6年でも多分無理だろう。本間 先生が言われるように米国議会をどうやって説得するかという、ものすごく難し い問題がある。そこにチャレンジするか、あるいは運用の改善をクリアな形にす るか。それを今後議論させていただきたいと思っている。 松沢知事浅尾先生、先ほど石破先生に質問させていただいた環境権、あるいは検疫の問 題等もあるが、もう一つ将来大変なことになると思うのは、返還された基地の原 状回復を日本がやるとかつて閣議決定された。大きな基地だと当然広いわけで、 様々な弾薬や薬物を使っていた場合は、土壌汚染が相当ひどい状況になっている。 それを返還されても、次にこの土地を使っていく場合には、原状回復に巨額が必 要で、それを日本が全部負担するとなると、せっかく還ってきた基地を、日本が 使おうと思ったら、その原状回復、土壌汚染の回復などに巨額を投じなければい けない。 ドイツの例で聞いたことがあるが、ドイツにNATO軍から還ってきたけれども、 その土壌汚染を回復させるために、国がやろうとしてもお金がなくてできない。 地方自治体もお金がなくて全然できない。野ざらしになって、そのまま何にも使 われない基地跡地というのがあるらしい。 従って返還を求めて我々は様々な運動をしているが、そんなところも今後大き な問題になるのではないかと思っている。浅尾先生そのあたりも含めて、今の地 位協定の課題について更にお話いただきたい。 浅尾議員先ほど刑事裁判の話を主にさせていただいたが、検疫と環境ということで、ま た別の角度からのお話ということになってくると思う。まず検疫ということにつ いて、基本的な哲学ということをまず確認しなくてはならない。刑事裁判、裁判 権、検疫、環境、全て一緒だと思うが、この基本的な哲学、そしてどこで折り合 いをつけるか。地位協定を改正すべきだというのが私どもの考え方だが、どこで 折り合いをつけるかということだが、基本的な哲学というのは、まず一番大切な のは、先ほども申したが、日本の人たちが、これなら安心できるだろうというと ころに、持ってかないといけないのではないかと考えている。 後ほど検疫、環境の話をさせていただきたいと思うが、一番分かりやすいので、 刑事裁判権の例を使わせていただきたいが、日本であれば当然そういうふうにな るだろうというところを、運用でやっていくという考え方だと思う。 しかし運用という言葉は、これは環境でも検疫でもそうだが、出た瞬間に、残 念ながら多くの一般の市民からすると、言葉に伴う不透明性が連想されるのでは ないか。運用であれば、絶対100%地位協定を改正するのと同じだと思っても らえればいいが、残念ながら日米地位協定だけでなく、この運用という言葉、行 政の運用という言葉に伴う恣意的な側面があり、一般市民からすると安心ができ ないのではないか。最後は不利な扱いになってしまうという思いにつながるので はないかと思っている。 だから運用でできることは、そこから先ハードルがあることは承知をしている が、地位協定という形の文章にし、それを日米両国が合意をするということが望 ましい。やっていくべきだ、少なくとも取り組む価値があると私どもは考えてい る。 そういう観点で、検疫ということについて、(改正案の)第9条だが、検疫につ いて日本法令の適用を明記したいと考えている。特に、これは地位協定そのもの とは直接的に関係するかどうか分からないが、今、外来生物による様々な環境被 害ということが言われている。それに対する防止策が日本国として出てきたのだ から、それもぜひ米軍の方にもご協力をいただきたいという発想だ。そのことを 第9条の中でうたっていこうということであり、それから第3条のAを新設し、 環境保全条項を入れている。当然米国の軍隊があらゆる活動において、日本にお ける環境保全が大事だということを認めてもらい、そのためのことをやってもら うことが必要だと思う。 最後に今松沢知事がおっしゃった過去のものをどうするのか。これは大変重要 な問題で、これからのものについては、米国もしっかりとやっていくということ だと思うが、過去に汚染されてしまったものについて、誰の費用で負担をしてい くか。私の個人的な見解ということで申し上げたいが、米軍再編に伴い、思いや り予算というものの質も変わってくるのではないか。米軍再編で、世界のどこに 置いても展開する能力が高まったということで、全体として日本に駐留する米軍 の人数が減るということになれば、思いやり予算、あるいは駐留軍基地で働かれ る方、その他の費用も多少は比例して減るのではないか。そうすると、そもそも 思いやり予算というのは日本が独自に作った制度だが、結果として米軍から返還 してもらったものを日本の中で有効に基地を活用していくために、日本の制度の 下で必要な環境浄化の費用も思いやり予算の中から出していくことも、考えてい くべきではないか。 その理由は、当然のことであるが、思いやり予算というのは、日本側の意思で 作られたものではあるが、米軍の日本における活動が変わることに伴い、日本側 の使い道も変わるべきではないかと思うし、出し手がいないということであれば、 日本政府として責任を持って出していく費用ではないかなと考えている。 (質疑) 松沢知事ありがとうございました。議論白熱であっという間に時間が経ってしまった。 今日は基地を抱えている関係自治体やメディアの皆様に大勢お集まりいただいて いる。残りの時間で1〜2問、これだけのオピニオンリーダーがお集まりなので、 皆さんから地位協定関係、あるいは米軍再編の絡みで、こういうところを聞いて みたいというご意見がありましたら、挙手をお願いしたい。いかがでしょうか。 質問沖縄県の稲嶺知事にお伺いするが、現状で基地を抱える地元自治体の要望がな かなか国やアメリカに十分届かないという状況があれば、国の安全保障にも問題 があるだろうし、これだけでなく国民保護計画の策定にも様々な影響が出てくる と思うが、どう考えるか。 稲嶺知事沖縄は他の都府県と比べると、かなり、基地に対する考え方、その他も違う。 今回、小泉旋風が吹き荒れたが、吹かなかったのは、北海道と沖縄だと言われ ている。その微妙な違いが、私は非常に大きな問題だと思っている。 沖縄の場合は今まで政治的な例を見てもそうだが、常に保革が交互に伯仲して いる。その中で日米安保体制ということを考えた場合に、何が重要かと言うと、 先ほどから再三話が出ているように、沖縄には全国の米軍専用施設面積の75% の基地があり、安保の中で沖縄の占める地位、割合が非常に高い。 安保体制を守っていくためには、沖縄の社会的、政治的、経済的な立場をしっ かりと捉えていかねばならない。もしこれが安定ではなく、不安定な要素になっ た場合には、どうなるのだろうか。この安全保障体制をしっかりと支えられるの かということに、大変疑問を持っている。今の三つをしっかり安定させることが 非常に大事だと思う。 従って、地位協定の問題についても、やはり皆が納得いくような、特に沖縄の 場合は他以上に、何故この問題に微妙なのかと言うと、27年間というのは完全 な占領下にあったからだ。占領下では、日本ではなく、琉球政府があり、その上 に米国があって、米国の統治下にあった。当然その意味で、いろいろな考え方と いうのは違う。 例えば米軍の行動を見ても、日本の他の基地では、ましてやアメリカの本国で はこんなことはないのではないか、ということが、日常茶飯事だ。例えば細かい ことを言うと、発炎筒の訓練をやるのも、基地が広いにもかかわらず、役場の隣 の金網のフェンスのところでやる。そこで嘉手納町役場が煙だらけになり、みん な大慌てをしたことがあった。あるいは射撃訓練場にしても、高速道路から20 0メートルの、しかも見えるところに、何故そんなところでやるのか。どう考え ても、日本の他の地区だったらありえない。米国だったらありえない。 これはやはり27年間の過去における占領下にあったという、そういう意識が 今でも、そう思う。そういう意味では、デリケートな面を持っている。しかしそ の沖縄の県民というものの気持ちをある程度安定させ、県の状況を安定させない 限りは、日米安保体制というものに対して、非常に多くの問題を抱えているので、 私が常にいろいろなところで政府に対しても厳しい意見を申し上げるのは、基本 的にはそれをしっかり守っていきたいということだ。 会場稲嶺知事に伺いたい。キャンプシュワブ沿岸案について、既に消え去った案と おっしゃったが、最初十数あって、7になり、2になった。どの段階で消えたの か。また、なぜ消え去ったのか伺いたい。 稲嶺知事あまり細かいことを言うと、いろいろ難しいので、この案というのは例えば、 辺野古一つにしても、3工法8案というのがあった。辺野古にしても、細かいこ とを言うとややこしくなるので、一番初めに決まった案の時には、私も県知事と して認め、名護市長も認めた。名護市の北にある東村も、南の宜野座村も認めた。 それから移転先の区長さんも全部OKした。漁協もそうだ。全員があの辺野古の 案を認めましょうと言った。その段階で、細かい摺り合わせを散々やっている。 例えば、最初は住民の方は近くはうるさい、離してほしい、許容限度が最初は3 000mだった。ところが3000m沖に離すと、かなり深い海になってしまい、 工法上不可能ではないが、非常にコストがかかって、とてもやれない。では、ど こがギリギリの線なのかということで、3000mからだんだん、工法上からも、 あるいは住民の環境の線からもギリギリの線、あるいは自然環境の問題などいろ いろやって、2200mという線に落ち着いた。しかし、今回の案については、 地元の皆さんも全部反対している。あの線がギリギリの線だからOKした。それ よりももっとこっち側に近づくということは、住民にとっては大変な問題である。 いろいろと問題点はあるが、少なくとも一つの基地というのを決める場合には、 地域住民というものの合意を得るというのは大変重要なことだと思っている。 松沢知事今日はパネラーの皆様から非常に有意義な発言をいただき、日米地位協定のあ り方や今後の課題について、議論をすることができたと思う。パネラーの皆様に 大きな拍手をいただければありがたい。ありがとうございました。最後に私から 一言。渉外知事会として稲嶺知事と一緒に、地方の立場で米軍基地と本当にコミ ュニティーの中でお付き合いをしている。そういう中で今の地位協定のままだと、 今後米軍との間で様々なトラブルもあるだろう。そうなったときお互いに不満が たまり、いやな思いをする。過去にそういう経験もしてきた。アメリカと一緒に、 日本が東アジアの安全保障にしっかりと責任を担っていく。それには米軍基地は、 現状では必要なわけで、やはり米軍基地の方々と、しっかりとコミュニティーと してお付き合いをしていくためにも不備な部分は見直す。米軍の機能も変わるの だから、地位協定を見直して、今後いいお付き合いをしていきたいと願っている。 米軍基地の物理的問題を言うと、どこかが増えて、どこかが減ったと、渉外知事 会のメンバーで、一緒の見解を持つのは難しいが、地位協定の問題は基地を持つ 自治体は皆悩んでいる。そういう意味で、私たちにとって、地元負担の軽減を保 障するソフトの政策として大変重要な問題である。また、しっかりとした日米地 位協定を持つということは、私は日本の国益につながる問題だと思っている。石 破先生から、現実的に見るとかなり難しい面もあり、運用改善でいける面、どう しても見直さなければいけない面を、しっかり深い議論をしていかないと、簡単 にはいかないというお言葉もいただいた。確かにそうだと思う。この米軍再編の 協議が3月に最終報告ということになっているが、この再編協議の中で、地位協 定も一緒に議論するというのは不可能だと思う。両国政府は、再編をどうやって いくかで頭がいっぱいだ。従って一緒に協議して答えを出せとは言わない。物理 的に無理だろう。しかしこの地位協定の問題があるということを日本政府に認識 していただき、今後期限を切って、例えば今後3年間の中でお互い問題点を持ち 合って、できる部分の集約をしていこう。そして3年以内に、新しい地位協定で 見直せる部分は見直していく。そういう約束をアメリカ側から取り付けるという ようなことは最低限やっていただきたい。そういう思いだ。先ほども言われたが、 大変複雑な条文で、細かな問題がいくつもあり、一般の国民にご理解をいただき、 世論を盛り上げるのは大変難しい。渉外知事会としてはきちっとつきあう。地元 の立場から、それを分かりやすく国民にアピールしながら、今後地位協定の問題 を皆様に伝えていきたい。そしてきちっと議論が進むようにしていきたいと思っ ている、ご参会の皆様におかれましては、今後ともご指導ご鞭撻いただくようよ ろしくお願いしたい。それでは皆様、お忙しい中ご出席いただきましてありがと うございました。