I 第1節 神奈川県建築基準条例の解説  この解説は、神奈川県建築基準条例についての運用、解説をとりまとめたものである。  横浜市、川崎市、横須賀市、相模原市、鎌倉市、厚木市、平塚市、小田原市、秦野市、茅ヶ崎市及び大和市については、独自に建築基準条例を制定しているので、この条例の適用はない。  また、藤沢市、大磯町及び海老名市は独自に日影規制に係る条例を制定しているので第4条の2第2項の規定に基づき同条第1項の適用はない。 第1章 総則 (趣旨) 第1条 この条例は建築基準法(昭和25年法律第201号)第39条第1項の規定による災害危険区域の指定、同法第39条第2項、第40条(第88条第1項において準用する場合を含む。)、第43条第3項及び第68条の9の規定による建築物等の制限、同法第56条の2第1項の規定による区域等の指定並びに建築基準法施行令(昭和25年政令第338号)第144条の4第2項の規定による道に関する基準その他建築基準法の施行について必要な事項を定めるものとする。 本条例は、建築基準法の委任を受けた条例であり、その根拠条文は以下のとおりである。 (1) 法第39条第1項、第2項(災害危険区域の指定) ・第2条の2(災害危険区域の指定) ・第2条の3(災害危険区域内の建築物) (2) 法第43条第3項(敷地と道路の関係における特殊建築物に係る制限の付加) ・第4条(大規模な建築物の敷地と道路との関係) ・第5条(敷地と道路との関係) ・第26条(大規模店舗及びマーケットの敷地と道路との関係) ・第31条(敷地と道路との関係) ・第48条第1項、第2項、第3項(自動車用の出口) (3) 法第56条の2第1項(日影による中高層の建築物の高さの制限) ・第4条の2(対象区域及び日影時間の指定) (4) 法第40条(地方公共団体の条例による制限の付加) ・第3条、第9条から第25条、第27条から第30条、第32条から第46条、第48条第4項、第49条から第52条の4 (5) 法第68条の9(都市計画区域及び準都市計画区域外の建築物に係る制限) ・第4条、第5条、第26条、第31条、第48条第1項、第2項、第3項、第52条の5から第52条の17 (用語の意義) 第2条 この条例における用語の意義は、建築基準法(以下「法」という。)及び建築基準法施行令(以下「政令」という。)の例による。  本条例中に用いられる用語は、建築基準法(以下「法」という。)及び建築基準法施行令(以下「政令」という。)において用いられる用語の意義にならうこととする。  また、本解説では、建築基準法施行規則を「規則」、神奈川県建築基準法施行細則を「細則」としている。ただし、法や政令にない用語については、各条文の解説でその意義を示すこととする。 第2章 災害危険区域等における建築物及び大規模な建築物の敷地と道路との関係 (災害危険区域の指定) 第2条の2 法第39条第1項の規定による災害危険区域として、急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律(昭和44年法律第57号)第3条第1項の規定により知事が指定した急傾斜地崩壊危険区域(土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律(平成12年法律第57号)第9条第1項の規定により知事が指定した土砂災害特別警戒区域(第3条において「特別警戒区域」という。)を除く。)を指定する。  本条は、災害危険区域の指定について、法第39条第1項の規定により指定するもので、本県では急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律(昭和44年法律第57号)第3条第1項の規定により知事が指定した急傾斜地崩壊危険区域が災害危険区域となる。  なお、土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律(平成12年法律第57号)第9条第1項の規定により知事が指定した土砂災害特別警戒区域内は除かれる。これは、土砂災害特別警戒区域内の建築物については、建築基準法による構造規制(政令第80条の3)が適用されるため、当該区域内の建築物に法及び法に基づく条例による二重の構造規制がかかることから、平成17年より除くこととした。  また、急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律及び土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律の所管部局は県土整備局河川下水道部砂防海岸課であり、急傾斜地崩壊危険区域及び土砂災害特別警戒区域内の範囲及び許可等については、県土整備局河川下水道部砂防海岸課及び各土木事務所で行っている。 (災害危険区域内の建築物) 第2条の3 災害危険区域内において居室を有する建築物を建築する場合には、次条に規定するもののほか、当該建築物の基礎及び主要構造部は、鉄筋コンクリート造又はこれに類する構造とし、かつ、当該居室は、がけ(こう配が30度をこえる傾斜地をいう。次条において同じ。)に直接面していないものでなければならない。ただし、がけくずれによる被害をうけるおそれのない場合はこの限りでない。  本条は、前条で規定している災害危険区域内において、建築物の規模、用途に関係なく居室を有する建築物の構造等に関して定めた規定である。  本条の「がけ」については、こう配が30度をこえる傾斜地で、がけの高さは関係するものではない。  なお、本条中の「がけに直接面していない」とは、例示のとおりである。  また、本条中の「ただし、がけくずれによる被害をうけるおそれのない場合」とは、急傾斜の防災工事を行ったがけなどその他がけくずれに関して対策を講じ被害をうけるおそれのない場合である。  <例  示> (がけ附近の建築物) 第3条 高さ3メートルを超えるがけの下端(がけの下にあっては、がけの上端)からの水平距離が、がけの高さの2倍以内の位置に建築物を建築し、又は建築物の敷地を造成する場合(特別警戒区域内において居室を有する建築物を建築する場合を除く。)には、がけの形状若しくは土質又は建築物の位置、規模若しくは構造に応じて、安全な擁壁を設けなければならない。ただし、次の各号のいずれかに該当する部分については、この限りでない。  (1) がけの形状又は土質により安全上支障がない部分 (2) がけの上部の盛土の部分で、高さが2.5メートル以下、斜面のこう配が45度以下であり、かつ、その斜面をしば又はこれに類するものでおおったもの 2 前項の規定は、がけの上に建築物を建築する場合において、当該建築物の基礎ががけに影響を及ぼさないとき、又はがけの下に建築物を建築する場合において、当該建築物の主要構造部(がけくずれによる被害をうけるおそれのない部分を除く。)を鉄筋コンクリート造とし、又はがけと当該建築物との間に適当な流土止めを設けたときは、適用しない。 3 高さ3メートルをこえるがけの上にある建築敷地には、がけの上部に沿って排水こうを設ける等がけへの流水又は浸水を防止するため適当な措置を講じなければならない。  1 第1項関係 (1)本条の対象となるがけについて  地上面の勾配(水平面となす角度をいう)が30度を超える土地(なお、「がけ」については第2条の3で定義をしている)で、高さが3メートルを超えるものをいう。 図1.がけ (2)本条の対象範囲について                   図2.がけの範囲 (3)第1号中「がけの形状又は土質により安全上支障がない部分」について  がけの形状又は土質により安全上支障がないと判断する場合には、斜面の安定計算やその他学術的な検討により安全が確かめられたものとする。   参考:宅地造成等規制法施行令第6条により、擁壁の要否により安全上支障がないと判断する場合   (注:土質の形状等により、必ずしも安全上支障がないと判断できないケースがある。) 宅地造成等規制法施行令【抜粋】 第3条 法第二条第二号の政令で定める土地の形質の変更は、次に掲げるものとする。 一 切土であって、当該切土をした土地の部分に高さが2メートルを超える崖を生ずることとなるもの 二 盛土であって、当該盛土をした土地の部分に高さが1メートルを超える崖を生ずることとなるもの 三 切土と盛土とを同時にする場合における盛土であって、当該盛土をした土地の部分に高さが1メートル以下の崖を生じ、かつ、当該切土及び盛土をした土地の部分に高さが2メートルを超える崖を生ずることとなるもの 四 前三号のいずれかにも該当しない切土又は盛土であって、当該切土又は盛土をする土地の面積が500平方メートルを超えるもの 第6条 法第九条第一項 の政令で定める技術的基準のうち擁壁の設置に関するものは、次のとおりとする。 一 切土又は盛土(第三条第四号の切土又は盛土を除く。)をした土地の部分に生ずる崖面で次に掲げる崖面以外のものには擁壁を設置し、これらの崖面を覆うこと。 イ 切土をした土地の部分に生ずる崖又は崖の部分であって、その土質が別表第一上欄に掲げるものに該当し、かつ、次のいずれかに該当するものの崖面   (1) その土質に応じ勾配が別表第一中欄の角度以下のもの (2) その土質に応じ勾配が別表第一中欄の角度を超え、同表下欄の角度以下のもの(その上端から下方に垂直距離5メートル以内の部分に限る。) ロ 土質試験その他の調査又は試験に基づき地盤の安定計算をした結果崖の安定を保つために擁壁の設置が必要でないことが確かめられた崖面 別表第1(宅地造成等規制法施行令6条関係) 土質 擁壁を要しない勾配の上限 擁壁を要する勾配の下限 軟岩(風化の著しいものを除く。) 60度 80度 風化の著しい岩 40度 50度 砂利、真砂土、関東ローム、硬質粘土その他これらに類するもの 35度 45度 図3.がけの形状又は土質により安全上支障がない部分 (4)第2号中「がけの上部の盛土の部分」について 図4.がけ上部の盛土の部分 2 第2項関係 (1)がけの上に建築物を建築する場合において    ・当該建築物の基礎ががけに影響を及ぼさないとき 図5.基礎ががけに影響を及ぼさない場合 (2)がけの下に建築物を建築する場合において ・当該建築物の主要構造部(がけくずれによる被害をうけるおそれのない部分を除く。)を鉄筋コンクリート造としたとき        ・がけと当該建築物との間に適当な流土止めを設けたとき 3 第3項関係  本項は、がけへの流水等の進入によりがけの崩落等を保護するため、排水こうを設けるなどの措置を規定したものである。なお、原則としてがけの上部に排水こうを設ける措置が必要であるが、がけの上部の勾配をがけとは反対側にするなどがけへの流水等を防止するための適当な措置を講じた場合は必ずしも排水こうを設けなくてもよい。 (大規模な建築物の敷地と道路との関係) 第4条 延べ面積(同一敷地内に2以上の建築物がある場合には、その延べ面積の合計をいう。第3章を除き、以下同じ。)が1,000平方メートルを超える建築物の敷地は、道路(自動車のみの交通の用に供するものを除く。第52条の7を除き、以下同じ。)に6メートル以上接しなければならない。ただし、その敷地の周囲に広い空地を有する建築物その他の建築物で知事が安全上支障がないと認めて許可したものについては、この限りでない。  本条は法第43条第3項及び法第68条の9による接道義務の強化に関する規定である。  本規定は建築物の用途に関わらず、1,000平方メートルを超える建築物に適用されるが、ここでいう「道路に6メートル以上接しならなければならない。」とは、例示のとおりである。  <例  示>  上記のような敷地A、敷地Bの場合に、敷地AのW1は接する長さとなるが、敷地BのW2は接する長さとならず、専用通路部分に直角の長さW3が接する長さとなる。  本文中の「建築物の敷地は道路に6メートル以上接しなければならない」とは、建築物の敷地が連続して道路に6メートル以上接する必要がある。  また、道路と敷地に高低差がある場合など敷地から道路に出られない形状については、「道路に接していない」として取扱うものとする。(第5条、第26条、第31条及び第52条の6についても同様)  なお、法第43条第2項及び第52条の6第2項に係る認定や許可を要する場合でも、併せて本条の許可が必要となる。(第5条、第26条及び第31条についても同様) 第2章の2 日影による中高層の建築物の高さの制限に係る対象区域等の指定 (対象区域等の指定) 第4条の2 法第56条の2第1項の規定により指定する区域は次の表の対象区域の欄に掲げる区域とし、同項の規定により法別表第4(ろ)欄の4の項イ又はロのうちから指定するものは次の表(4の項に限る。)の法別表第4(ろ)欄の4の項イ又はロの欄に掲げるものとし、同項の規定により指定する平均地盤面からの高さはそれぞれ同表(2の項及び3の項に限る。)の平均地盤面からの高さの欄に掲げるものとし、同項の規定により指定する号はそれぞれ同表の法別表第4(に)欄の号の欄に掲げる号とする。 対象区域 法別表第4(ろ)欄の4の項イ又はロ 平均地盤面からの高さ 法別表第4(に)欄の号 1 第1種低層住居専用地域、第2種低層住居専用地域又は田園住居地域 − − (1) 2 第1種中高層住居専用地域又は第2種中高層住居専用地域 − 4メートル (2) 3 第1種住居地域、第2種住居地域、準住居地域、近隣商業地域又は準工業地域 − 4メートル (2) 4 用途地域の指定のない区域(都市計画法(昭和43年法律第100号)第7条第1項に規定する市街化調整区域、同法第8条第1項第7号に掲げる風致地区及び第53条第3項各号に掲げる区域を除く。) ロ − (2) 2 前項の規定は、市町が法第56条の2第1項の規定により条例で区域又は号を指定した場合は、当該市町の区域内については、適用しない。 1 第1項関係  法第56条の2では日影規制の区域及び規制値について法別表第4(に)欄に(一)〜(三)が定められ、その中から選択するようになっているが、本条はこの日影規制の規制値を指定したものである。 2 第2項関係  市町が独自にその区域及び規制を定めた場合に、本条の対象から除外される規定であり、現在、本条例の適用区域で本条の対象外となっているのは藤沢市、大磯町及び海老名市である。 なお、本条例の適用除外については、第53条に規定している。(P.I-84) 神奈川県建築基準条例の解説                                          神奈川県県土整備局建築住宅部建築指導課 I-1