かながわ人権施策推進指針(第2次改定版) 令和4年3月 神奈川県・神奈川県教育委員会 人権がすべての人に保障される地域社会の実現をめざして  人権は、すべての人が生まれながらに持っている権利であり、人々が幸福な人生を送るために欠くことのできない大切なものです。  神奈川県では、人権施策を総合的に推進するため、平成15年(2003年)に策定し、平成25年(2013年)に改定した「かながわ人権施策推進指針」に基づき、様々な取組みを進めてきました。  「かながわ人権施策推進指針」の改定から今年で9年が経過しますが、この間、人権を取り巻く社会情勢には大きな変化がありました。  「人権三法(差別解消三法)」の施行など、差別解消をめざす法整備がなされる一方、平成28年(2016年)7月26日、障害者支援施設である県立「津久井やまゆり園」において発生した大変痛ましい事件は、多くの方々に、言いようもない衝撃と不安を与えました。  また、性的マイノリティの人権課題やヘイトスピーチの問題など、新たな人権課題が顕在化するとともに、インターネットによる人権侵害のような、複合的な人権課題も数多く生じており、喫緊の対応が必要な状況となっています。  さらに、令和2年(2020年)から急速に感染拡大した「新型コロナウイルス感染症」は、感染者やその家族、医療従事者等への差別問題のみならず、あらゆる人権課題に深刻な影響を与えるものとなり、平時における取組みの重要性が改めて認識されました。  そこで、こうした人権をめぐる社会情勢の変化を踏まえ、人権課題に対する県の取組みや姿勢を改めて明確にするため、このたび「かながわ人権施策推進指針」を改定しました。今後は、この指針に基づき、関係団体、市町村等と連携しながら、人権施策をより一層推進してまいります。  津久井やまゆり園事件を機に、県は、県議会とともに「ともに生きる社会かながわ憲章」を策定しました。この憲章にある「すべての人のいのちを大切にする」という強い思いは、あらゆる人権施策の根幹に通じるものであり、その理念の実現にあたっては、県民の皆様一人ひとりの取組みが大変重要です。 人権がすべての人に保障される地域社会の実現をめざして、ともに手を携え、ともに考え、ともに行動していきましょう。 令和4年(2022年)3月 神奈川県知事 目次 T 人権施策の取組みの経緯 1 U 指針の基本的な考え方 3 1 指針の目標 3 2 基本理念 3 3 指針の性格 3 V 人権尊重のための基本姿勢 5 1 県(県職員)が取り組むべきこと 5 2 県民の皆様に取り組んでいただきたいこと 5 3 企業等の皆様に取り組んでいただきたいこと 6 W 人権教育・人権啓発の推進 7 1 人権教育の推進 7 2 人権啓発の推進 9 X 相談・支援体制 11 1 県の相談・支援体制の充実 11                     2 救済関係機関・NGO・NPO等相互の協働・連携強化 11  3 人権相談窓口の情報提供 11  4 緊急一時保護機能の充実 11 5 相談員研修の充実 11 Y 分野別施策の方向 13 1 子ども 13 2 女性 15 3 障がい者 18 4 高齢者 21 5 疾病等にかかる人権課題 23 6 同和問題(部落差別) 25 7 外国籍県民等 27 8 貧困等にかかる人権課題 29 9 犯罪被害者等 31 10 北朝鮮当局によって拉致された被害者等 32 11 性的マイノリティ 33 12 インターネットによる人権侵害 35 13 様々な人権課題 37 Z 人権施策の推進体制等 39 1 人権施策の推進体制 39 2 人権研修の実施 40 3 県の人権施策への提案等 40 4 人権課題の取組状況等の報告 40 (1ページ) T 人権施策の取組みの経緯  人権問題は、国を超えた人類共通の重要課題です。  わが国においては、昭和22年(1947年)に、国民主権、基本的人権の尊重及び平和主義を基本原理とする日本国憲法が施行されて以来、人権に関する諸制度の整備など、多くの取組みが進められています。  世界を見ると、昭和23年(1948年)に世界人権宣言が採択されて以来、国連を中心に人権に関する様々な宣言や条約が採択され、すべての国が達成すべき共通の基準として、「自由平等」、「生命、自由、身体の安全」など人権保障の基準が積み重ねられています。  平成6年(1994年)12月、国連総会において、人権教育を通じて人権という普遍的文化を世界中に築くことを目的として、翌平成7年(1995年)から平成16年(2004年)までの10年間を「人権教育のための国連10年」とする決議がなされ、わが国においても、平成9年(1997年)7月に「『人権教育のための国連10年』に関する国内行動計画」を策定し、これに基づく取組みが進められました。  神奈川県では、こうした時代の流れをいち早く捉え、平成6年(1994年)3月に「かながわ人権政策推進懇話会」からの提言を踏まえ、県としても人権問題に体系的に取り組む必要があるとの認識から、人権を尊重した行政を進めていく上での道しるべとして、全国に先駆けて「神奈川県人権施策推進指針」を策定しました。  さらに、平成12年(2000年)12月に「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律」が施行され、地方公共団体にも地域の実情を踏まえ、人権教育及び人権啓発に関する施策を策定し、実施する責務が規定されたほか、男女雇用機会均等法の改正(平成11年(1999年)4月施行)や児童虐待防止法(平成12年(2000年)11月施行)など多くの人権に関する法整備が行われたことを踏まえ、平成15年(2003年)6月、「かながわ人権施策推進指針」を策定しました。  その後、障害者基本法の改正(平成23年(2011年)8月施行)をはじめ、人権に関する法整備が進む一方で、平成23年(2011年)3月に起きた東日本大震災を契機に災害時における人権課題などが改めて認識されるようになったことを踏まえ、平成25年(2013年)3月に同指針を改定しました。  改定から約10年が経過した現在、人権を取り巻く社会情勢はさらに大きく変化しています。 平成28年(2016年)には、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(障害者差別解消法)」、「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律(ヘイトスピーチ解消法)」及び「部落差別の解消の推進に関する法律(部落差別解消法)」が施行されました。差別の解消を目的として制定されたこれらの法律は、「人権三法」、「差別解消三法」とも呼ばれています。  しかし、障害者差別解消法が施行された直後の平成28年(2016年)7月26日に、障害者支援施設である県立「津久井やまゆり園」において、障がい者の命と人権を踏みにじる大変痛ましい事件が発生しました。  このような事件が二度と繰り返されないよう、平成28年(2016年)10月14日、県と県議会が共同して「ともに生きる社会かながわ憲章」を策定し、その理念の実現に向けて、県民総ぐるみで取り組んでいくこととしました。 (2ページ)  今日、人権課題は、多様化・複雑化の一途をたどっています。  性的マイノリティの方々の人権課題や、特定の民族等に関する不当な差別的言動(ヘイトスピーチ)の問題などの新たな人権課題が顕在化するとともに、所得格差の拡大による貧困問題などの社会的要因を背景とした人権課題の深刻化や、インターネットによる人権侵害のような、様々な分野の人権課題と連動して生じる複合的な人権課題も多く生じており、喫緊の対応が必要な状況となっています。  さらに、令和2年(2020年)から急速に感染拡大した「新型コロナウイルス感染症」も、あらゆる人権課題に深刻な影響を与えています。感染者やその家族、医療従事者等への差別問題のほか、児童虐待やDV(ドメスティック・バイオレンス)の増加、非正規雇用労働者等の雇い止めなど、社会的に弱い立場にある人ほど、より大きな打撃を受けているという状況が浮き彫りとなりました。こうしたコロナ禍における人権課題の深刻化により、平時における人権課題への取組みの重要性が改めて認識されました。  このような人権を取り巻く社会情勢の大きな変化を踏まえ、「すべての人に人権が保障される地域社会」の実現をめざすため、かながわ人権施策推進指針を改定します。 ともに生きる社会かながわ憲章 〜この悲しみを力に、ともに生きる社会を実現します〜  平成28年7月26日、障害者支援施設である県立「津久井やまゆり園」において19人が死亡し、27人が負傷するという、大変痛ましい事件が発生しました。  この事件は、障がい者に対する偏見や差別的思考から引き起こされたと伝えられ、障がい者やそのご家族のみならず、多くの方々に、言いようもない衝撃と不安を与えました。 私たちは、これまでも「ともに生きる社会かながわ」の実現をめざしてきました。  そうした中でこのような事件が発生したことは、大きな悲しみであり、強い怒りを感じています。このような事件が二度と繰り返されないよう、私たちはこの悲しみを力に、断固とした決意をもって、ともに生きる社会の実現をめざし、ここに「ともに生きる社会かながわ憲章」を定めます。 一 私たちは、あたたかい心をもって、すべての人のいのちを大切にします 一 私たちは、誰もがその人らしく暮らすことのできる地域社会を実現します 一 私たちは、障がい者の社会への参加を妨げるあらゆる壁、いかなる偏見や差別も排除します 一 私たちは、この憲章の実現に向けて、県民総ぐるみで取り組みます 平成28年10月14日 神奈川県  (3ページ) U 指針の基本的な考え方 人権は、人間の尊厳に基づいて、すべての人が生まれながらに持っている権利であり、個人としての生存と自由を確保し、より幸福な人生を送るために欠くことのできない権利です。  わが国においては、憲法で基本的人権として、侵すことのできない永久の権利として保障し、国民の不断の努力によって保持しなければならないとしています。 そこで、この指針では、行政、県民、企業、NGO(非政府組織)・NPO(非営利組織)等の多様な主体とともに、人権がすべての人に保障される地域社会づくりを着実に進めるための方向性等を示すこととします。 1 指針の目標 人権がすべての人に保障される地域社会の実現をめざします。 2 基本理念 県は、目標の実現に向けて、憲法はもとより国際的な人権の基準に従い、次のことを基本理念として県民とともに取り組みます。 (1)誰もが人権を侵されることなく、個人として尊重される社会をめざします。 (2)誰もが機会の平等を保障され、能力が発揮できる社会をめざします。 (3)誰もが個性を尊重されるとともに、孤立したり、排除されることのない、人と人とのつながりを重視した、ともに生き、支え合う社会をめざします。 (4ページ) 白紙 (5ページ) V 人権尊重のための基本姿勢  「人権がすべての人に保障される地域社会」を実現するためには、行政だけではなく、企業やさまざまな団体、そして県民一人ひとりが地域社会を構成する主体として、この指針の基本理念を共有し、人権尊重の視点を意識して行動することが必要です。  そこで、この指針に掲げる目標達成に向けた基本姿勢として、県職員が取り組むべきこと、県民の皆様や企業等の皆様に取り組んでいただきたいことを以下に示します。 1 県(県職員)が取り組むべきこと (1) 人権尊重の視点に立った職務遂行   次の点に留意し、県のあらゆる施策・事業を推進します。 ア すべての人の人権を尊重します。 イ 人権課題を「自分ごと」として考え、問題意識をもって取り組みます。 ウ 職務や研修を通して人権感覚を磨き、様々な人権課題に対する理解を深めます。 エ 誰もがその人らしく暮らすことができる差別のない地域社会の実現に向けて施策・事業を推進します。 オ 関係機関と協働・連携して人権施策を推進します。 (2) 人権課題への適切な対応  社会情勢の変化に伴い多様化・複雑化する人権課題について、NGO・NPO、当事者等との情報交換などを通して状況を的確に把握し、迅速、かつ適切な対策を講じます。複数の課題が複合して生じている場合は、関係機関と連携して取り組みます。  また、市町村が主体となって実施する人権施策・事業等についても、積極的に情報交換の機会を設けるよう努めるとともに、必要に応じて連携・支援を行います。 2 県民の皆様に取り組んでいただきたいこと  人権がすべての人に保障される地域社会を実現するためには、県民の皆様一人ひとりが、人権尊重の視点から社会の動きをキャッチし、知識から行動へという積極的姿勢に立って人権課題に取り組むことが重要です。  そのためには、まず日常生活の中で、偏見に基づく不当な差別的言動など、人権上問題があると思われる出来事に接した際に、直感的にそれはおかしいと思う感性や、人権への配慮が自らの態度や行動に表れるような人権感覚を身に付けることが大切です。そのためには、次の点に留意する必要があります。 (6ページ) ア 一人ひとりがかけがえのない存在だという気持ちを持ち、自分の人権も、他人の人権も等しく大切にすること イ 一人ひとりに多様な個性があることを知り、それを認め合うこと ウ 「偏見を持たない」、「差別をしない」、「差別を許さない」という気持ちを行動に表すこと  エ 人権課題を「自分ごと」としてとらえ、その解決に向けて行動すること オ 地域とのつながりを大切にするなど、毎日の生活で「支え合い」について心がけること 3 企業等の皆様に取り組んでいただきたいこと  現代社会において、企業等が人権尊重の視点に立って活動を行うことは、企業価値を高めるだけでなく、企業等が果たすべき社会的責任の一つとして求められています。  人権が尊重される明るい職場であることは、企業等の発展に欠かせないだけでなく、働く者の労働意欲の向上や心身の健康状態に影響します。特に、パワー・ハラスメントやセクシュアル・ハラスメントをはじめとした職場におけるハラスメントは、相手の尊厳や人格を傷つける人権侵害であり、防止や解決に向けて取り組むことが重要です。  また、広報活動、とりわけSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を活用した広報においては、「発信する内容に差別的表現や偏見が含まれていないか」という視点を常に持つことが、意図せず他者の人権を侵害してしまうといった問題を未然に防ぐためにも、大変重要です。  人権尊重の視点に立った企業活動や、職場づくり等のためには、次の点に留意する必要があります。 ア 職場全体で人権尊重の意識を高めること イ パワー・ハラスメントなど、あらゆるハラスメントの根絶に向けて取り組むこと ウ 人権啓発を推進するためのしくみをつくること エ 消費者や取引先の方の人権に配慮した企業活動を行うこと オ 個人の能力と適性に基づく公正な採用と公平な処遇を行うこと カ 県等が実施する講演会に参加するなど、人権課題への理解を深めるために積極的に行動すること (7ページ) W 人権教育・人権啓発の推進 1 人権教育の推進  これまでの人権教育における取組みと成果を踏まえて、県民一人ひとりが、学校教育と社会教育を通じて、人権尊重の理念についての正しい理解を深め、これを体得し、互いの多様性を認め合う人権が真に尊重される地域社会が実現するように次の点を基本とする人権教育を総合的に推進します。 ア 責任を自覚しつつ自分らしく生きることができる人の育成をめざす教育  自分の人権とともに他の人の人権を尊重し、その権利の行使に伴う責任の重さを自覚しつつ、自分らしく生きることができる人を育成する教育を推進します。 イ 人権感覚の育成をめざす教育  人権の意義や価値を認識し、人権の尊重が意思・態度に表れ、さらに行動につながるような、県民一人ひとりの人権感覚を育成する教育を推進します。 ウ 人権課題の認識を深める教育  人権尊重の精神を基盤として、人権課題についての正しい理解と認識を深め、その解決に主体的に取り組むことができる人を育成する教育を推進します。 エ 生涯学習の視点に立った教育  幼児から高齢者にいたるそれぞれのライフステージに応じて、学校教育と社会教育との連携を図りつつ、あらゆる機会を捉えて人権教育を推進します。 (1)学校教育  学校教育においては、幼児・児童・生徒がそれぞれの発達の段階に応じて、人権に関する基本的な理解を深め、人権尊重の意識を高めることにより、人権の大切さを共感的に受けとめる人権感覚を育む教育をすべての教育活動を通じて行うとともに、幼児・児童・生徒の人権に十分に配慮し、一人ひとりを大切にする教育を推進します。 ア 人権に配慮した学校運営や教育指導に努め、幼児・児童・生徒が自分の大切さとともに他の人の大切さを認め、豊かな人間関係の中で安心して楽しく学ぶことのできる環境づくりに努めます。 イ 幼児・児童・生徒が、人権課題について正しい理解を深めるとともに、人権尊重の意識を高めることにより自ら人権感覚を磨くことができるよう、人権教育に関する指導方法の向上に努めます。 (8ページ) ウ 豊かな人間性や社会性を育むため、社会教育との連携を図りつつ、ボランティア活動等多様な体験活動や高齢者、障がい者等との交流の機会の充実に努めます。 エ 学校に対して、人権教育に関する多様な啓発資料を配付するとともに、研究指定校の実践例の情報を提供します。また、人権教育移動教室などNGO・NPO等と協働した人権教育の取組みを進めます。 オ 教職員が人権尊重の理念について正しい認識を持ち、いじめやセクシュアル・ハラスメント等を見逃さず適切に対応するとともに、体罰を許さない環境づくりを進め、幼児・児童・生徒の人権に十分に配慮したコミュニケーションが図られるよう、人権教育に関する研修会等の充実に努めます。 カ 幼児・児童・生徒や保護者等が、人権にかかわる問題を安心して相談できる体制の充実を図るとともに、関係機関と連携を図り、いじめ等の人権侵害を受けた幼児・児童・生徒の心のケアに努めます。 (2)社会教育  社会教育においては、生涯学習の視点に立って、社会教育関係団体等との連携を図りつつ、県民一人ひとりの主体性のもとに、人権が真に尊重される社会の実現をめざして、人権教育を推進します。 ア 地域の実情や学習者のニーズに応じて、県民一人ひとりが人権尊重の意識を高めることができるような学習機会等の充実に努めます。 イ 人権課題について正しい理解を深めるためのわかりやすい学習資料を提供します。また、参加意欲を高めるような参加体験型学習のプログラムの開発とその普及に努めます。 ウ 豊かな地域社会を形成するために、学校教育との連携を図りつつ、ボランティア活動等多様な体験活動や高齢者、障がい者、外国籍県民等との交流の機会の充実に努めます。 エ PTAをはじめとする社会教育関係団体等との連携を図りつつ、家庭教育における学習機会の充実のための支援や情報提供に努めます。 オ 地域において、人権教育を積極的に推進していく指導者の養成に努めます。 (9ページ) 2 人権啓発の推進  時代とともに、人権を取り巻く環境は変化します。しかし、常に人権を尊重する視点から物事を捉え、行動することは、すべての人の生きやすさ、暮らしやすさにつながるものです。  すべての県民が、人権尊重の理念についての理解を十分深め、様々な人権課題に対し、自分自身の問題として認識すること、また人権尊重の意識が態度や行動として日常生活の中に表れ、根づくことをめざし、あらゆる機会、あらゆる場を通じて、より効果的な啓発活動を推進します。 (1)多様な啓発活動の展開 ア 関係機関と協働・連携した県民参加型の啓発事業の実施  毎年12月初旬の一週間を「かながわ人権週間」とし、この期間を中心に、「神奈川県人権啓発推進会議」(企業、民間団体、市町村、県等で構成)や「神奈川県人権啓発活動ネットワーク協議会」(横浜地方法務局、神奈川県人権擁護委員連合会、県等で構成)の主催による、県民誰もが参加でき、また人権課題を日常の身近な問題として考えることができる人権啓発イベントなど多彩な啓発活動を、県内全域を対象として実施します。 イ 各種広報媒体を活用した啓発活動  人権尊重の意識を高めるため、テレビや新聞などのマスメディア、県のたよりやインターネットなど多様な媒体を活用した啓発活動を行うとともに、児童虐待の防止や女性に対する暴力の根絶など各人権課題に応じた啓発活動を展開します。 ウ 効果的な啓発活動の推進  啓発活動を効果的に行うため、次の点に留意して推進します。 (ア)人権課題に気付く啓発  無意識の何気ない言動や、よかれと思ってしたことが、時として相手を傷つけたり、人権を侵してしまうことがあります。人権課題に気付き、理解するという視点に立った啓発活動を行います。 (イ)「自分ごと」として考える啓発  人権課題に気付いても、自分の身近に影響が及ばないと他人事として済ませてしまいがちです。自分自身が被害者にも加害者にもなり得るという当事者意識を持って考え、解決に向けた行動につながるような啓発活動を行います。 (ウ)気軽に参加できる啓発  人権は、かけがえのない、それぞれの人生を「自分らしく生きる」ために保障されている権利です。人権というと「堅い」、「わかりにくい」といったイメージがつきまといがちであるため、気軽に参加できるような啓発活動を行います。 (10ページ) (エ)正しい理解を深めるための啓発  人権課題に関して、その存在に気付くだけでなく、正しい理解と認識を深めることも重要です。そのために、正確かつ適切な情報をわかりやすい方法で伝えていきます。 (オ)関心の度合いに応じた啓発  人権課題に対する関心の度合いは、それぞれ異なり、また、テーマによっても差があります。啓発活動の実施にあたっては、このような差異についてあらかじめ十分に分析し、ターゲット層や伝えたい内容を明確にした上で、効果的な手法を検討します。 (2)NGO・NPO等との協働・連携  啓発活動の推進にあたっては、様々な人権課題について、広く県民の皆様に理解を深めていただくことをめざし、各分野で活動するNGO・NPO等の啓発活動を支援するとともに、協働・連携して多彩な取組みを推進します。 (3)県民、企業等が行う啓発活動への支援  県民、企業等が人権に関する啓発活動を行うにあたり、県ホームページによる情報提供や、リーフレットの配布などにより、必要な資料の提供を行います。また、県が実施する啓発活動についても情報提供を行います。 (11ページ) X 相談・支援体制  個別の人権課題に迅速かつ適切に対処できるよう、相談・支援体制の充実、強化を図ります。 1 県の相談・支援体制の充実  「Y 分野別施策の方向」に掲げる各分野で設けている相談・支援窓口において、問題の早期解決を図るため、それぞれの課題に応じた相談・支援体制を充実します。  また、相談体制の充実にあたっては、SNSを活用した相談窓口の設置など、より多くの方が利用しやすいものとなるよう、様々な手法による取組みを推進します。 2 救済関係機関・NGO・NPO等相互の協働・連携強化  複合した人権課題の解決に向けて、県の関係機関をはじめ、法務局など国の関係機関、人権擁護委員連合会、市町村と連携の強化を図るとともに、NGO・NPO等と協働・連携した取組みを推進します。 3 人権相談窓口の情報提供  人権に関する相談等を行っている県内の国、県、市町村、NGO・NPO等の相談窓口一覧を作成し、県の情報提供コーナーや市町村人権担当窓口等に備えます。また、県のホームページに掲載します。 4 緊急一時保護機能の充実  虐待を受けている子どもや配偶者等からの暴力を受けている被害者を、適切に一時保護するとともに、自立等の支援を充実します。 5 相談員研修の充実  相談員が人権課題に適切に対処できるよう、それぞれの分野において研修を充実するとともに、加害者に対しても、適切に相談に応じ、指導ができる人材の養成に努めます。 (12ページ) 【コラム】複合的な人権課題に係る専門相談窓口の設置  「T 人権施策の取組みの経緯」でも触れているとおり、社会情勢の急激な変化に伴い、ヘイトスピーチやインターネット上の誹謗中傷など、複数の分野にわたる複合的な人権侵害が近年急増しています。 こうした複合的な人権侵害に苦しんでいる方を適切な相談・支援窓口につなげるためには、専門家による問題の整理が有効です。  県では「ヘイトスピーチ」及び「インターネット上の誹謗中傷」に特化して弁護士による専門相談窓口を設置し、問題の早期解決に向けた支援を実施しています。 【コラム】SDGsと人権  平成27年(2015年)9月、国連にてSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)が採択されました。これは、世界にある様々な課題を令和12年(2030年)までに解決することをめざして策定された、世界共通の目標です。 SDGsが掲げる17のゴールには、「貧困をなくそう」、「人や国の不平等をなくそう」、「ジェンダー平等を実現しよう」など、人権尊重の理念が基礎にあるものが多く含まれています。  神奈川県では、SDGsの「誰一人取り残さない」という理念の達成に向けて、次ページ以降の「Y 分野別施策の方向」において個別の人権課題に対する取組みの方向を具体的に示し、指針に基づく取組みをより一層推進していきます。 (13ページ) Y 分野別施策の方向  人権課題の解決に向けては、この指針で示す基本理念にのっとり、各分野の個別法令や県の総合計画、個別計画等を踏まえて取組みを進めます。 1 子ども  子どもへの虐待、いじめが深刻な問題となっています。また、性犯罪・性暴力や薬物乱用等の問題もあります。子ども一人ひとりが人間として尊重され、人権が守られる中で成長していく環境づくりを推進します。   (1)主な取組みの方向 【人権尊重の社会づくりに向けた環境整備】 ア 青少年の健全な育成の推進  性犯罪・性暴力や薬物乱用など、青少年にとって有害な社会環境の健全化を進めるため、条例による規制や県民運動を展開し、青少年が心豊かに育つ社会づくりを推進します。 イ 児童虐待の未然防止、早期発見、再発防止等の推進  児童相談所の相談・一時保護体制の充実、市町村における虐待防止ネットワークの強化、地域における子育ての支援策の充実、児童虐待防止の広報・啓発等による児童虐待の未然防止、早期発見、再発防止を推進するとともに、里親制度の充実等による地域での被虐待児のケア体制の整備を図ります。  学校では、スクールソーシャルワーカーの活用により、関係機関との連携を図り、児童虐待の未然防止、早期発見、再発防止を推進します。 ウ いじめ対策の推進  いじめに対応するため、学校に心理や福祉の専門家であるスクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーを配置するとともに、関係機関と連携を図り、いじめ防止等の取組みを効率的に推進します。 【教育・啓発等の推進】 エ 人権に配慮した学校教育の推進  人権尊重の意識を高める教育を一層推進するとともに、幼児・児童・生徒の人権に十分配慮し、体罰を許さない環境づくりを進め、一人ひとりを大切にした教育指導や学校運営に努めます。 (14ページ) 【当事者支援等の推進】 オ 子どもの人権擁護の推進  子どもの人権擁護のための審査、助言等を行う審査会の設置や、子どもからの人権にかかわる悩みへの電話相談等を実施し、「児童の権利に関する条約」の趣旨に基づき、子ども自身の意見表明権を尊重しつつ、子どもの人権擁護を推進します。 カ いじめに関する相談・支援体制の充実  いじめへの早期対応のため、教職員やスクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカー等が連携し、組織的に対応するとともに、家庭・関係機関・地域とも連携を図るなど、支援体制の充実に努めます。 また、子どもたちがいじめに関する相談ができるよう「24時間子どもSOSダイヤル」や「SNSいじめ相談@かながわ」等を設置し、相談体制の充実を図ります。 キ 不登校、ひきこもりなどの対策の推進  不登校・ひきこもりなどへの対応についてNPO等と連携を図りながら、「かながわ子ども・若者総合相談センター」等で、子ども・若者やその保護者が相談しやすい体制により支援します。 (2)主な関係法令 社会福祉法 児童福祉法 児童虐待の防止等に関する法律 児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律 子ども・若者育成支援推進法 いじめ防止対策推進法 青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律 教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律 県青少年保護育成条例 (3)県の主な関係審議会等 県児童福祉審議会 県青少年問題協議会 かながわ子ども支援協議会 (15ページ) 2 女 性  夫、パートナー等からの暴力や性犯罪、ストーカー行為、セクシュアル・ハラスメントなど女性に対する暴力が社会問題となっており、被害は複雑化、多様化しています。また、就業の場における待遇の面での格差等の問題も存在しています。  職場や家庭、地域など、あらゆる場で男女が互いに人権を尊重し、一人ひとりが生き生きと個性や能力を発揮できる男女共同参画社会の実現をめざします。 (1)主な取組みの方向 【人権尊重の社会づくりに向けた環境整備】 ア 配偶者等からの暴力総合対策の推進  配偶者等からの暴力であるDV(ドメスティック・バイオレンス)の未然防止や被害者への支援を充実させるため、関係機関と連携し、啓発活動、相談・一時保護体制の整備及び自立支援の促進などを総合的に推進します。 イ あらゆる分野における男女共同参画の促進  男女共同参画を一層進めるため、市町村、NPO、民間企業等と連携・協働しながら、あらゆる分野における女性の参画を促進するとともに、女性の活躍を推進する社会的気運を醸成します。 また、男女ともに仕事と家庭の責任を分かち合える社会をめざして、家事・育児、地域活動への男性の参画を促進します。 ウ 職業生活における活躍支援  働きたい女性が「仕事か家庭か」といった二者択一を迫られることなく働き続け、個性と能力を十分に発揮することができるよう、育児・介護の基盤整備や、女性が働きやすい就業環境の整備を図ります。 【教育・啓発等の推進】 エ 女性に対するあらゆる暴力の根絶に向けた教育・啓発等の推進  「かながわ男女共同参画センター(かなテラス)」を拠点として、夫・パートナー等からの暴力は犯罪となる行為をも含む重大な人権侵害であることの周知・啓発を行います。外国籍女性の暴力被害についても、同様に取組みを促進します。近年では、いわゆるデートDV(交際相手からの暴力)の問題も顕在化しているため、若い世代への意識啓発・教育を行います。  また、性犯罪・性暴力、ストーカー行為にかかる相談やセクシュアル・ハラスメントの防止に向けた啓発などの取組みを一層推進します。 (16ページ) オ 男女共同参画社会の実現に向けた意識啓発  幅広い年齢層に対し、根強い固定的性別役割分担意識の解消に向けた意識改革を行い、男女共同参画についての理解を深めるため、市町村やNPO等と連携しながら、各種啓発講座の実施、啓発資料の配布等を行います。  また、男女共同参画の推進に資する教職員向けの研修や、学校におけるセクシュアル・ハラスメントの根絶等、学校現場における男女共同参画の基盤整備を促進します。 【当事者支援等の推進】 カ 配偶者等からの暴力(DV)被害者に対する相談・支援体制の充実  夫、パートナー等からの暴力の被害に悩んでいる方の相談を受け、一時保護、自立支援などの総合的な支援を行う「神奈川県配偶者暴力相談支援センター」を中心に、相談・支援体制の充実を図ります。 キ 性犯罪・性暴力の被害者に対する相談・支援体制の充実  警察への届出を躊躇することの多い性犯罪・性暴力の被害者が、いつでも安心して相談し、必要な支援がワンストップで受けられるかながわ性犯罪・性暴力被害者ワンストップ支援センター「かならいん」を運営し、相談・支援体制の充実を図ります。 ク 予期しない妊娠に対する相談・支援体制の充実  予期しない妊娠に悩んでいる方が気軽に相談できる「妊娠SOSかながわ」を運営し、相談・支援体制の充実を図ります。 ケ 女性の就業支援の推進  子どもを産み育てながら働き続けたい女性をはじめ、就職・再就職を希望する女性に対し、仕事と家庭の両立支援やキャリアカウンセリング、職業訓練等を実施するなど、様々なライフステージに応じた女性の就業を支援します。 (2)主な関係法令 売春防止法 配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律 ストーカー行為等の規制等に関する法律 労働基準法 男女共同参画社会基本法 雇用の分野における男女の均等の機会及び待遇の確保等に関する法律 女性の職業生活における活躍の推進に関する法律 育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律 次世代育成支援対策推進法 県男女共同参画推進条例 県犯罪被害者等支援条例 (3)県の主な関係審議会等 県男女共同参画審議会 県DV対策推進会議 (17ページ) 【コラム】コロナ禍における女性の人権課題について  新型コロナウイルス感染症の拡大は、人々の命や暮らしに大きな影響を及ぼしていますが、女性への影響は、特に深刻です。  令和3年(2021年)2月に実施された調査では、全国で100万人以上の女性の非正規雇用労働者が「実質的失業者」となるなど、女性がコロナ禍において大きな経済的影響を受けていることが明らかになりました。(※1)  また、DVの相談件数の増加や女性の自殺者数の増加など、コロナ禍において、経済的影響のみならず、様々な負の影響が女性に生じていることも浮き彫りになっています。  有事の際は、社会的に脆弱な立場にある人に、より大きなしわ寄せが及ぶと言われていますが、コロナ禍では、社会構造として存在していたジェンダー格差が顕在化し、女性により深刻な影響がもたらされることとなりました。(※2)  女性の暮らしや命を守るためには、平時において格差を是正することが重要であり、今後、より一層強力に男女共同参画を推進することが必要です。 ※1 野村総合研究所「パート・アルバイト就業者の実態に関する調査(2021年2月)」による推計。なお、同調査では男性の「実質的失業者」は約43万人とされている。 ※2 世界経済フォーラムの発表によれば、日本の「ジェンダーギャップ指数」は156か国中120位。(令和3年(2021年)3月時点)この指数は、「経済」「政治」「教育」「健康」の4つの分野のデータから作成されるが、日本は、特に「経済」及び「政治」における順位が低くなっている。  経済分野では、管理職の女性の割合が低いこと、パートタイムの職に就いている女性の割合が多く、女性の平均所得は男性より低くなっていること、政治分野では、女性の参加割合が低く、国会議員の女性割合や大臣の女性割合が低いことなどが指摘されている。 (18ページ) 3 障がい者  障がいのある人は、日常生活や社会生活を営むうえで、様々なバリアに直面しています。建物の入り口に段差や階段があるなどの目に見える物理的なバリアのみならず、障がい者への差別や偏見などの目に見えないバリアも、障がい者の活動や社会参画を制限する社会的障壁になっています。  こうした社会的障壁を取り除き、障がいを理由とする差別の解消の一層の推進を図るため、令和3年(2021年)6月には、事業者による合理的な配慮の提供の義務化などを内容として、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」が改正されています。  本県においては、平成28年(2016年)7月、県立の障害者支援施設である津久井やまゆり園で大変痛ましい事件が発生しました。この事件により、改めて、障がい者への差別や偏見の解消に向けた取組みの重要性が認識されることとなりました。  そこで、県では、「ともに生きる社会かながわ憲章」の理念を実現するため、障がい者を取り巻く社会的障壁の排除や障がい者の生活を支えるサービスの充実とともに、障がいに対する理解促進に取り組みます。  また、障がい者本人を中心に、本人の望みや願いを第一に考え、本人の可能性を最大限に引き出す「当事者目線の障がい福祉」の実現をめざします。 (1)主な取組みの方向 【人権尊重の社会づくりに向けた環境整備】 ア ともに生きる社会を支える人づくり  ともに生きる社会の実現に向けて、個々の障がい特性等に配慮し、障がい者に寄り添った支援を提供できる福祉、保健、医療分野の人材の確保と育成などに取り組みます。 イ 社会参加への環境づくり  障がい者の活動を制約する社会的障壁を取り除く「社会モデル」の実現のため、障がい者に配慮したまちづくり、障がい特性に応じた意思疎通支援、防災・防犯対策等の推進、行政機関等における配慮の充実等により、ハード、ソフト両面にわたるバリアフリー化に取り組みます。 ウ 障がい者の地域生活を支える福祉・医療サービスの充実  誰もが住み慣れた地域で安心して暮らすことができるよう、在宅サービスの充実や、重度障がい者も受入れが可能なグループホーム等の整備を図ります。また、医療的ケア児(※)等に対する支援体制や精神障がいにも対応した地域包括ケアシステムの構築に向けた、福祉、医療、教育等の各分野の連携促進に努めます。 ※ 日常生活及び社会生活を営むため、恒常的に人工呼吸器による呼吸管理、喀痰吸引その他の医療行為(医療的ケア)を受けることが不可欠である児童のこと。 (19ページ) エ 意思決定支援の推進と地域生活移行の支援  県は、津久井やまゆり園を再生する中で、どんなに重い障がいがあっても当事者本人には必ず意思があるという前提に立ち、自ら意思を決定することに困難を抱える障がい者の意思決定を支援しています。  障害者の権利に関する条約にも掲げられている、障がい者の自己決定を尊重するため、この意思決定支援の考え方を、県内の障害福祉サービス事業所等に普及させていきます。  また、意思決定を進める中で、地域生活移行の希望が示された場合は、安心して地域生活を過ごすことができるよう、相談体制の構築を図るとともに、専門的支援や社会資源の整備に取り組みます。 【教育・啓発等の推進】 オ 「ともに生きる社会かながわ憲章」の普及啓発の推進  津久井やまゆり園事件のような事件が繰り返されないよう、ともに生きる社会の実現をめざし、憲章の普及啓発に取り組むとともに、障がい及び障がい者に対する県民の理解を促進し、障がいを理由とする差別の解消に取り組みます。 カ インクルーシブ教育の推進  支援教育の理念のもと、共生社会の実現に向けて、すべての子どもができるだけ同じ場でともに学びともに育つための環境づくりをめざして、小・中学校から高校まで、連続性のある取組みとなるよう、インクルーシブ教育を推進します。 【当事者支援等の推進】 キ 障がい者の権利擁護の推進  障がい者等の自己決定が尊重され、障がい者が自らの考えと判断により、地域社会の中で主体的に生き、自己実現を図ることができるよう、障がい者虐待防止の取組みや、障がい者差別に関する相談窓口の設置、成年後見制度の利用促進等により、障がい者の権利擁護を進めます。 ク 発達障がい児者に対する総合的な支援  自閉症等の発達障がいを有する障がい児者に対する総合的な支援を行うため、「発達障害支援センター」等において、総合的な相談・支援を実施します。 ケ 雇用・就業、経済的自立の支援  働くことは自立した生活を支える基本のひとつでもあり、一人ひとりの可能性を伸ばすことや生きがいにもつながる活動であることから、障がい者が抱えている困難にも留意しつつ、障がい者がライフステージに応じて、その人らしい働き方を選択できるよう、福祉的就労とともに、一般就労への支援の充実に取り組みます。 (20ページ) コ 文化芸術・スポーツにおける取組みの推進  障がい者の自立と社会参加の促進のため、文化芸術活動やスポーツ等を通じて、障がい者が地域社会における様々な活動に参加するための環境の整備や必要な支援を行います。 (2)主な関係法令 社会福祉法 障害者基本法 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律 身体障害者福祉法 知的障害者福祉法、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律 障害者の雇用の促進等に関する法律 障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律 障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律 医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律 障害者による文化芸術活動の推進に関する法律 県みんなのバリアフリー街づくり条例  (3)県の主な関係審議会等 県障害者施策審議会 県児童福祉審議会 県社会福祉審議会 県精神保健福祉審議会 県障害者自立支援協議会 県バリアフリー街づくり推進県民会議 (21ページ) 4 高齢者   戦後生まれのいわゆる「団塊の世代(昭和22 〜24年生まれ)」が75歳以上の高齢者となる令和7年(2025年)には、県民のおよそ4人に1人が、また、「団塊ジュニア世代」が65歳以上となる令和22年(2040年)には3人に1人が高齢者となります。高齢者が住み慣れた地域において、できるだけ健康で自立して生活することができるよう、高齢者が安心して、元気に、生き生きと暮らせる社会づくりの実現をめざします。 (1)主な取組みの方向 【人権尊重の社会づくりに向けた環境整備】 ア 地域包括ケアシステムの推進による地域共生の社会づくり  制度や分野の枠を超えた包括的な支援体制を構築できるよう、地域包括ケアシステムの推進や地域づくり等に一体的に取り組むことで、高齢者やその家族・介護者(ケアラー)が抱える複合的な課題への対応力を強化し、地域共生社会の実現を図ります。 イ 認知症とともに生きる社会づくり  認知症への理解を深めるため、認知症は誰もがなりうることの啓発や、認知症の人が自らの経験を発信する取組みの支援などを通じて、認知症とともに生きる社会づくりを進めます。 ウ 災害や感染症に対する対応力の強化  近年の洪水等の災害において高齢者に被害が集中していることなどを踏まえ、研修・訓練の実施や、必要な物資の備蓄などの平時からの事前準備、関係機関との連携による発生時の応援体制の構築などにより、災害・感染症発生時のサービス継続の対応力強化を図ります。 【教育・啓発等の推進】 エ 高齢者への理解を深める教育の推進    高齢者に対する敬意や感謝の心を育てるとともに、超高齢社会に対する基本的理解や介護・福祉などの課題に関する理解を深める教育を推進します。 【当事者支援等の推進】 オ 高齢者の尊厳を支える取組みの推進  高齢者一人ひとりが尊重され、安心して暮らせるよう身体拘束をしない介護や高齢者虐待防止の取組み、成年後見制度の活用など、高齢者の権利擁護のしくみの充実に努めます。 (22ページ) カ 高齢者の社会参画の促進や就業支援の推進  高齢者が生きがいをもって暮らせるよう、また、他の世代との相互理解・連帯を深め、人と人とのつながりを進める取組みを充実させていくことができるよう、ICTも活用しながら地域貢献などの社会参画活動(ボランティア活動等)を促進し、地域社会で活躍できるしくみづくりを進めます。  また、経験や知識をいかして働く意欲を持った高齢者の多様な就業ニーズに対応した就業支援に取り組みます。 キ 生涯学習・生涯スポーツの推進  高齢者が健康で生きがいのある生活を続けられるよう、多様なニーズに対応した学習や文化、スポーツ活動等に、様々な世代とともに参加する機会を提供します。  また、学校をはじめとした地域の資源などをいかし、多様な活動や交流のための場づくりを進めます。 ク ロボット・ICTの導入促進による介護現場の革新  介護事業所へのロボット・ICT導入を促進し、介護職員の負担軽減と介護サービスの質の向上を図ります。 (2)主な関係法令 社会福祉法 老人福祉法 介護保険法 高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律 県みんなのバリアフリー街づくり条例 (3)県の主な関係審議会等 県社会福祉審議会 かながわ高齢者保健福祉計画評価・推進委員会 県認知症施策推進協議会 県バリアフリー街づくり推進県民会議 (23ページ) 5 疾病等にかかる人権課題  病気についての知識の不足や誤解からエイズ患者、HIV感染者、ハンセン病患者や元患者、がん患者、難病患者、肝炎患者等の様々な疾病患者やその関係者に偏見を持つ人がいます。また、新型コロナウイルス感染症の感染拡大とともに、患者やその家族だけでなく、最前線で感染症対策に従事する医療・介護・福祉従事者等に対する不当な扱いや嫌がらせ、誹謗中傷といった様々な問題が顕在化しました。  こうした疾病等に関係する偏見や差別をなくすため、病気についての正しい知識の普及を推進し、患者等の立場に立って考えるなどの啓発に取り組むとともに、支援体制の充実に努めます。 (1)主な取組みの方向 【教育・啓発等の推進】 ア 疾病に関する正しい知識の普及啓発の推進  疾病に関する正しい知識の普及啓発を推進し、患者、元患者やその家族、医療従事者等に対する偏見や差別の解消に努めます。  また、病気になっても働き続けられるよう、職場における疾病に関する正しい知識の普及に努めます。 イ 正しい知識を身に付け、患者等への理解を深める教育の推進  疾病についての正しい知識を身に付け、患者、元患者やその家族、医療従事者等に対する偏見や差別を解消するための教育を推進します。 【当事者支援等の推進】 ウ 支援体制の充実  エイズ患者・HIV感染者への保健・医療・福祉の様々な面からの支援、ハンセン病療養所入所者への支援、難病患者、肝炎患者等の医療費助成などの支援に努めます。 エ 医療機関の選択の推進  誰もが保健医療サービスの選択を適切に行うことができるように、正確かつ適切な情報提供を行います。 オ 患者等の就労支援  「かながわ難病相談・支援センター」や「がん相談支援センター」において就労相談を実施するなど、患者等の就労支援に努めます。  また、がん患者の治療と仕事の両立に資する休暇制度や勤務制度を整備している企業を県が認定するなど、働きやすい職場環境の推進に努めます。 (24ページ) (2)主な関係法令 がん対策基本法 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律 新型インフルエンザ等対策特別措置法 ハンセン病問題の解決の促進に関する法律 難病の患者に対する医療等に関する法律 (3)県の主な関係審議会等 県感染症対策協議会 県難病対策協議会 県肝炎対策協議会 県がん対策推進審議会 (25ページ) 6 同和問題(部落差別)  同和地区・被差別部落出身者等への偏見や差別は、現在もまだ存在しています。また、近年は、インターネットの匿名性を悪用した差別情報の掲載等の問題など、情報化の進展に伴って、同和問題(部落差別)に関する状況は大きく変化しています。  こうした差別を解消するためには、県民一人ひとりが同和問題(部落差別)について正しく理解し、「部落差別は許されないものである」という認識をもつことが重要です。  そこで、差別の解消に向けて、同和問題(部落差別)についての正しい理解と認識を深めることを目的とした啓発活動等を推進します。  また、これまでの同和教育の成果を踏まえ、同和問題(部落差別)に関する正しい理解に立って偏見や差別に立ち向かう力を育てるとともに、児童・生徒の自主性を尊重した学校教育や地域における社会教育の実践に一層努めます。 (1)主な取組みの方向 【教育・啓発等の推進】 ア 同和問題(部落差別)についての教育の推進  同和問題(部落差別)について正しい理解と認識を深め、偏見や差別をなくすため、あらゆる機会を捉えて人権尊重の精神を基盤とした教育を推進するとともに、差別に遭遇したときに、自ら正しい判断に基づき行動ができる児童・生徒を育成します。 イ 同和問題(部落差別)についての正しい理解を深めるための啓発の推進  同和問題(部落差別)についての正しい理解に触れる機会を提供するため、国、市町村、企業、団体等と連携した啓発活動を実施します。    ウ えせ同和行為の排除  えせ同和行為の排除に向けて、関係機関と連携し、正しい知識と対処についての啓発活動を実施します。 【当事者支援等の推進】 エ 同和問題(部落差別)に関する相談体制の充実  同和問題(部落差別)に関する相談に対し、迅速かつ的確に対応するため、国、市町村、団体等と連携して、相談体制を整備します。   オ インターネット上の部落差別の解消に向けた取組み  差別的書き込みに対するモニタリングを実施し、問題のある書き込みについては、法務局を通じて削除依頼を行う等、インターネット上で行われる部落差別の解消に努めます。 (26ページ) (2)主な関係法令 人権教育及び人権啓発の推進に関する法律 部落差別の解消の推進に関する法律 (27ページ) 7 外国籍県民等  言語、宗教、習慣等への理解不足から生じた外国籍県民等への偏見により、様々な人権課題が生じています。多文化共生社会の実現のためには、一人ひとりが多様な文化や民族の違いを理解し、認め合うことが重要です。  しかし、特定の民族や国籍の人々を排斥する差別的言動、いわゆる「ヘイトスピーチ」が、近年大きな社会問題となっています。 ヘイトスピーチは、異なる文化や民族性を持つ他者を社会の一員として認めず、排除しようとする動きのあらわれであり、その被害に遭った方に甚大な精神的苦痛を与える、決して許されないものです。  ヘイトスピーチの解消に向けては、県民一人ひとりが「ヘイトスピーチを許さない」という認識を持つことが重要です。そこで、偏見を払しょくし、差別を解消するための啓発活動等を推進するとともに、文化や歴史に関する正しい理解と認識を深めるための学校教育や社会教育の実践に一層努めます。 (1)主な取組みの方向 【人権尊重の社会づくりに向けた環境整備】 ア 多文化共生・多文化理解の促進  国籍・文化・民族等の違いによる偏見や差別をなくすために、それぞれの文化や歴史を理解し、外国籍県民等の人権課題についての理解を得られる環境づくりを推進します。 イ 外国籍県民にかかわる法律・制度の改善  外国籍県民に対して法律的に地域参加の道が閉ざされている制度の改善に向けた取組みを進めていきます。なお、定住外国人の地方参政権の制度化については、十分に議論を深める必要があります。 【教育・啓発等の推進】 ウ 多文化理解を深める教育の推進  多文化理解を深めるため、幼児・児童・生徒の発達の段階に応じて、国籍・文化・民族等の違いによる偏見や差別をなくす教育を推進します。 エ ヘイトスピーチの解消に向けた啓発活動の推進  外国籍県民等への偏見に基づく不当な差別的言動を許さない社会環境づくりを推進するため、国等と連携して、正しい理解や認識を深めるための啓発活動や、ヘイトスピーチの解消に資する啓発活動を推進します。 (28ページ) 【当事者支援等の推進】 オ 多言語による情報の提供や相談機能の充実  言葉による障壁をなくすため、外国籍県民等向けの多言語による各種情報提供や相談機能を充実します。 カ 外国籍県民等への生活支援の充実  外国籍県民等のくらしやすい環境づくりのため、日本語教育、医療、福祉、住居、就労など外国籍県民等の生活にかかわる支援を推進します。また、女性への暴力や在留資格などから派生する人権課題の解決に向けた取組みを推進します。 キ 外国につながりのある子どもたちの教育の充実  外国籍幼児・児童・生徒に対する教育の充実を図り、民族や母語などに誇りをもち、本名が名乗れる教育環境づくりを支援します。さらに、日本語の理解が十分でない外国につながりのある幼児・児童・生徒に対し、学校生活を円滑に送ることができるよう、NPO等と連携し、日本語学習の支援等を行うなど教育環境の充実を図ります。 ク ヘイトスピーチによる被害の早期解決に向けた相談・支援体制の充実  特定の民族や国籍に対する不当な差別的言動の被害を受けた方に対し、問題の早期解決をめざすため、弁護士による専門相談を実施するなど、切れ目ない支援を行います。  併せて、インターネット上で行われるヘイトスピーチについても、被害の拡大を防ぐため、差別的言動をモニタリングし、法務局を通じて削除依頼を実施します。 (2)主な関係法令 出入国管理及び難民認定法 本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律 日本語教育の推進に関する法律 外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律 (3)県の主な関係審議会等 かながわ国際政策推進懇話会 外国籍県民かながわ会議 (29ページ) 8 貧困等にかかる人権課題  混迷する社会経済情勢を背景に、職に就けない方や、非正規雇用労働者をはじめ、不安定な就労状態にある方が増加しています。 貧困に悩む方の中には、ネットカフェ等の終夜営業の店舗等で寝泊まりするなど住居喪失状態に陥ったり、適切な支援につながらず、健康で文化的な最低限度の生活さえできない状態に追い込まれてしまう方もいます。また、世帯の貧困が子どもの教育に影響し、貧困が次世代に渡って連鎖するといった問題、高齢者の貧困問題、さらに、男性より女性のほうが貧困に陥りやすい環境にあること、母子家庭の多くが低所得層にあることなども指摘されています。  加えて、駅周辺・公園・河川敷等に起居する、ホームレスとなることを余儀なくされた方への偏見から、地域社会から排除されるという人権課題も発生しています。  そこで、貧困を背景として生じる複合的な人権課題の解消に向けて、各種支援制度や相談窓口の周知を図り、適切な支援につなげるとともに、ホームレスの人権擁護のための教育・啓発活動等を推進します。 (1)主な取組みの方向 【人権尊重の社会づくりに向けた環境整備】 ア 子どもの貧困に対する連携体制の構築  子ども食堂などの子どもの居場所づくり活動を支援するため、ホームページの充実強化や、NPO団体との協働によるオンラインセミナー等を開催し、子どもの貧困についての理解を深め、すべての子どもたちを社会全体で支援する機運の醸成を図ります。  また、定期的にかながわ子ども支援協議会や子どもの貧困対策県市町村連絡会議を開催し、学識者や関係団体、NPO、教員、市町村等と連携し、子どもの貧困対策に関する情報共有を行います。 【教育・啓発等の推進】 イ 生活困窮者やホームレスの人権擁護のための教育・啓発活動の推進  生活困窮者やホームレスへの偏見や差別をなくすため、生活困窮者やホームレスについての正しい理解を深める人権教育・人権啓発を推進します。 【当事者支援等の推進】 ウ 貧困に悩む方に対する支援等の推進  生活に困窮している方が抱える様々な課題に対応するため、就労支援、生活福祉資金等の貸付や給付金、生活保護などの制度施策の周知を図り、適切な相談窓口へつなげるなど、一人ひとりの状況に応じた支援を推進します。 (30ページ) エ ひとり親世帯に対する支援等の推進  ひとり親世帯に対し、パソコン基礎講座の開催や自立支援プログラムの策定などの就業支援、母子父子寡婦福祉資金の貸付、母子・父子自立支援員やSNSを活用した相談など自立に向けた支援を推進します。 オ ホームレスの自立支援に関する施策の推進  ホームレスやホームレスとなるおそれのある方に対し、就業の機会の確保、安定した居住の場所の確保、保健及び医療の確保に関する施策、生活に関する相談・指導等について、国、市町村、NGO等と協働・連携を図り、自立の支援を推進します。 (2)主な関係法令 生活保護法 生活困窮者自立支援法 ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法 子どもの貧困対策の推進に関する法律 母子及び父子並びに寡婦福祉法 (31ページ) 9 犯罪被害者等  犯罪等に巻き込まれた被害者やその家族・遺族の方々は、生命を奪われ、家族を失い、傷害を負い、財産を奪われるといった、犯罪等による直接的な被害だけではなく、周囲の無理解による言動等による精神的苦痛など、二次被害にも苦しんでいます。  犯罪被害者等の受けた被害の早期回復・軽減を図るとともに、犯罪被害者等を県民全体で支える地域社会の実現をめざします。 (1)主な取組みの方向 【人権尊重の社会づくりに向けた環境整備】 ア 犯罪被害者等への総合的支援体制の整備  県及び県警察が、民間支援団体と連携協力し、犯罪被害者等への相談・支援を提供していくための総合的支援体制を整備するとともに、市町村や関係機関等との連携を進めます。 【教育・啓発等の推進】 イ 犯罪被害者等への理解を促すための啓発等の推進  犯罪被害者等の置かれている状況や支援の必要性について県民等の理解を促進するため多様な手法の活用による効果的な啓発活動を推進するとともに、中学・高校生に対して命の大切さを学ぶ教室を開催し、他人を思いやる気持ちや規範意識を醸成することにより、被害者も加害者も出さない安全・安心なまちづくりを推進します。 ウ 犯罪被害者等への理解を促進する教育の推進  誰もが犯罪被害者等になる可能性があることに気付かせるとともに、二次被害を起こすことのないよう、犯罪被害者等の気持ちに共感する力を育成する教育を推進します。 【当事者支援等の推進】 エ 犯罪被害者等への途切れることのない支援の実施  県、県警察及び民間支援団体の三者で構成する「かながわ犯罪被害者サポートステーション」において、市町村や関係機関等との緊密なネットワークにより、犯罪被害者等への途切れることのないきめ細かな支援を実施するとともに、支援の充実を図ります。  また、警察への届出を躊躇することの多い性犯罪・性暴力の被害者が、いつでも安心して相談し、必要な支援がワンストップで受けられるかながわ性犯罪・性暴力被害者ワンストップ支援センター「かならいん」を運営し、相談・支援の充実を図ります。 オ 犯罪被害者等を支える人材の育成  犯罪被害者等支援の裾野を広げ、被害者等からの電話相談に応じる相談員や裁判所等に付添支援を担う支援員を養成するための支援員養成講座を実施します。 (2)主な関係法令 犯罪被害者等基本法 県犯罪被害者等支援条例 (32ページ) 10 北朝鮮当局によって拉致された被害者等  北朝鮮当局による日本人拉致は、わが国に対する主権侵害であるとともに重大な人権侵害です。地域でともに暮らす在日朝鮮人の方々の人権にも配慮しながら、拉致問題の一日も早い解決に向けて啓発活動などを推進します。 (1)主な取組みの方向 【教育・啓発等の推進】 ア 拉致問題の啓発の推進  拉致問題への関心、理解を深めてもらうため、国、市町村、関係団体とも連携しながら啓発活動などを推進します。 イ 拉致問題への理解と関心を深める教育の推進    拉致問題が風化することのないよう児童・生徒の発達の段階に応じて、拉致問題に対する正しい理解、関心を深めるための教育を推進します。 (2)主な関係法令 北朝鮮当局によって拉致された被害者等の支援に関する法律 拉致問題その他北朝鮮当局による人権侵害問題への対処に関する法律 (33ページ) 11 性的マイノリティ  性的マイノリティ(性的少数者)とは、性的指向が同性(あるいは両性)に向いている、またはいずれの性別にも性的指向が向かない、からだの性と性自認が異なるなど、様々な性のあり方において少数の立場(マイノリティ)とされる方々のことを言います。  令和2年(2020年)に施行された改正労働施策総合推進法では、性的指向・性自認に関して侮辱的な言動を行うことや、本人の了解を得ずに暴露すること(アウティング)がパワーハラスメントにあたることが示されるなど、近年、性の多様性に関する理解は促進されつつありますが、依然として周囲の無理解や偏見により、性的マイノリティの方々は、様々な悩みや苦しみを抱えることがあります。  様々な性のあり方について理解を深めることで、職場や学校をはじめ、あらゆる場面において性の多様性が尊重され、誰もが自分らしく生きられる社会の実現をめざします。 (1)主な取組みの方向 【人権尊重の社会づくりに向けた環境整備】 ア 性の多様性を尊重する社会づくりに向けた連携体制の構築  性の多様性を尊重する社会づくりに向けて、市町村との連絡会議を開催し、パートナーシップ制度の導入状況など、性的マイノリティ関連施策について情報共有を行うとともに、関係団体等と連携し、施策のさらなる推進に必要な支援を行います。 【教育・啓発等の推進】 イ 性の多様性に関する啓発の推進  性的マイノリティであることを理由とした不当な差別的取扱いや差別的言動、アウティング等を未然に防ぐため、国・市町村・関係団体と連携し、性の多様性について正しい理解を深めるための啓発活動を推進します。 ウ 企業や支援機関等を対象とした研修の推進  職場や学校等において性的マイノリティの方々が適切な配慮を受けられるよう、企業の人事担当者や教職員、子ども・高齢者・障がい者などの支援機関の職員等を対象とした研修を実施します。 エ 性の多様性に関する教育の推進  児童・生徒の発達の段階に応じて、性の多様性について正しい理解を深めるための教育を推進します。 【当事者支援等の推進】 オ 相談・支援体制の充実  性的マイノリティの方が抱える悩みの解消に向けて、本人だけでなく周囲の方や支援者も利用可能な相談窓口を設けるなど、相談・支援体制を充実します。 (34ページ) (2)主な関係法令 性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律 【コラム】セクシュアリティ(性)の多様性について セクシュアリティ(性)は多種多様な要素のグラデーションであるといわれていますが、おもな構成要素として、次の4つが挙げられます。 生物学的な性=「からだの性」  性染色体、内・外性器の形状など、客観的な事実を基に識別した性別(※) 性的指向  恋愛感情や性的欲求が主にどの性別に向いているかということ 性自認=「こころの性」(性同一性、性のアイデンティティ)  「自分は女/男である」、「自分はそのどちらにもあてはまらない」など、自分が自分の性をどのように認識しているかということ 表現する性  言葉遣いやしぐさ、服装など、個人が表現する性のこと  こうした多様な性のあり方のなかで、少数の立場にある方を示す言葉として、「性的指向」に関して少数であるレズビアン(女性同性愛者)、ゲイ(男性同性愛者)、バイセクシュアル(両性愛者)、「性自認」に関して少数であるトランスジェンダー(「からだの性」に違和感を持つ方)の頭文字をとって「LGBT」と表現することがありますが、この類型にあてはまらない方も多くいます。  そのため、性別にかかわらず恋愛・性愛の感情を抱かない方(アセクシュアル)、性自認を男性・女性のいずれかにあてはめない方(エックスジェンダー)や自分自身のセクシュアリティが分からない、決めない方(クエスチョニング)などを含め、「LGBTQ+」といった表現が用いられることもあります。  また、「性的指向(Sexual Orientation)」と「性自認(Gender Identity)」の頭文字をとった「SOGI」(ソジ・ソギ)という言葉も、性的マイノリティの方に限らず、すべての人の性の多様性を示す表現としてよく用いられています。  多彩なセクシュアリティの存在を知り、性のあり方が一人ひとり異なるものであると意識することは、誰もが自分らしく生きられる社会づくりのために、とても重要です。 ※ いわゆる「性分化疾患」(DSDs)は、性に関する体の発達等が典型的なものとは異なる女性・男性の体の状態を指す言葉であり、性的指向や性自認の問題とは異なるものです。 (35ページ) 12 インターネットによる人権侵害  インターネットの普及により、情報の収集・発信やコミュニケーションにおける利便性は、大きく向上しました。さらに、スマートフォンやタブレット機器の普及に伴い、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)や動画共有サイト等のソーシャルメディアの利用者も近年急増しています。  しかし、一方で、個人や特定の団体に対する誹謗中傷や差別を助長する書き込み、個人情報の無断公開など、匿名性や情報発信の容易さといったメディアの特性を悪用する事例も多く発生しています。また、一度公開された情報は完全に削除されることが非常に困難であるというインターネットの特性が、誹謗中傷や情報流出の被害の深刻化につながっています。  さらに、事実と異なる情報(フェイクニュース)をうのみにした安易な拡散や投稿が、誰かを深く傷つける結果となるなど、意図せず自らが加害者になってしまうケースも近年多く生じており、インターネットやソーシャルメディアの利用にあたっては、その特性を正しく理解することが非常に重要です。 また、インターネットによるサービスの提供や情報発信にあたっては、インターネットを利用する環境にない方がいることなどによる、情報格差の発生にも留意する必要があります。  そこで、関係機関と連携して、インターネットの適切な利用等に関する教育や啓発、誹謗中傷に苦しんでいる方への支援等を実施することで、誰もが人権を侵されることなく、個人として尊重される社会をめざします。 (1)主な取組みの方向 【教育・啓発等の推進】 ア インターネットの適切な利用等に関する啓発の推進  インターネットの特性や適切な利用について県民等の理解を促進し、ネット上における人権侵害の被害者も加害者も出さないよう、国、市町村、事業者団体等と連携して、啓発活動を推進します。 イ インターネットの適切な利用等に関する教育の推進  児童・生徒の発達の段階に応じて、インターネットの適切な利用や情報セキュリティ対策、ルールやマナーを守ること等についての教育を推進します。 【当事者支援等の推進】 ウ インターネットによる誹謗中傷等に関する相談・支援体制の充実  インターネット上の誹謗中傷等に苦しんでいる方に対し、個別の事案に応じた適切な支援を行い、問題の早期解決をめざすため、弁護士による専門相談を実施します。 (36ページ) エ インターネットによる人権侵害の早期解決に向けた取組み  インターネット上の差別的書き込みに対するモニタリングを実施し、問題のある書込みについては、法務局に削除依頼を実施します。また、モニタリング結果を共有するなど、国や市町村との連携を通じて、インターネットによる人権侵害の早期解決をめざした取組みを推進します。 (2)主な関係法令 特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律 インターネット異性紹介事業を利用して児童を誘引する行為の規制等に関する法律 青少年が安全にインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律 私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律 個人情報の保護に関する法律 県青少年保護育成条例 【コラム】インターネット上の誹謗中傷への対策について  インターネットによる人権侵害、特にSNS等における誹謗中傷は、誰もが当事者になりうるものであり、インターネットを活用したコミュニケーションを行う際は、利用するプラットフォームサービスの性質を理解した上で、トラブルが生じないよう、留意する必要があります。  誹謗中傷の被害を受けた場合、削除依頼や加害者への賠償請求、違法行為にあたるものについては犯人への処罰など、様々な対策を講じることが可能です。被害にあわれた方は、一人で悩まず、まず専門機関(※)に相談することをお勧めします。  同時に、明確な加害の意図を持たずに投稿した内容が誰かを傷つけるものであった場合、自身が加害者になってしまうということも常に意識しておく必要があります。匿名による投稿であっても、その投稿が誰かを傷つけるものであったり、違法な内容であったりした場合は、情報開示請求などにより個人が特定され、訴えを提起される可能性があります。  SNS等での交流においては、画面の向こうにいるのが「人」だということを忘れず、直接顔を合わせて話をするときと同じように接することを常に心がけてください。 ※ 総務省では、インターネットに係るトラブルを未然に防止するため、「インターネットトラブル事例集」を毎年作成・公表するとともに、被害にあわれた方が、ご自身の希望に添った支援を受けられるよう、チャート形式の案内図(「インターネット上の誹謗中傷に関する相談窓口のご案内」)をホームページで公開しています。 (37ページ) 13 様々な人権課題  ここまで、分野別施策の方向として、「子ども、女性、障がい者、高齢者、疾病等にかかる人権課題、同和問題(部落差別)、外国籍県民等、貧困等にかかる人権課題、犯罪被害者等、北朝鮮当局によって拉致された被害者等、性的マイノリティ、インターネットによる人権侵害」の12の分野を取りあげましたが、この他にも、様々な人権課題があります。 アイヌ民族の人権課題  世界には多数の先住民族が存在しますが、多くの先住民族は迫害の対象となったり、社会への同化を強いられた結果、言語や伝統的な慣習を捨てることを余儀なくされたりといった困難にさらされています。  たとえば、アイヌ民族は、先住民族として独自の言語や文化を持っていましたが、日本が近代国家を形成する過程において、様々な差別や迫害が行われてきました。このような状況の中、令和元年(2019年)に「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」が成立しました。  同法では、アイヌ施策の推進は、多様な民族の共生及び多様な文化の発展についての国民の理解を深めることを旨として行われなければならないとされています。アイヌの人たちは、県内にも居住しています。「ともに生きる社会かながわ」をめざすためにも、アイヌ民族の文化や歴史を理解し、民族としての誇りを尊重することが重要です。 災害発生時の人権課題  平成23年(2011年)3月11日に起きた東北地方太平洋沖地震による災害及びそれに伴う原子力発電所の事故は、被災地に大きな爪あとを残し、多くの方々が避難生活を強いられ、長期間自宅に戻れないなど、これまでの生活を一変させてしまいました。そうした中で、人権への配慮に欠ける避難所運営や、放射線被ばくについての風評等に基づく差別的言動など、災害時における人権の問題も改めて認識されることになりました。  また、近年は全国各地で台風や集中豪雨の影響による土砂災害や浸水被害が頻繁に発生しており、被災地域の住民が避難所に滞在するケースが頻発しています。  過去の災害では、避難所の運営において女性のニーズが十分に配慮されないなどの課題が生じ、女性の視点を取り入れる重要性が指摘されました。今後は、様々な意思決定の場面における女性の参画を促すとともに、防災・復興の各段階で、女性、障がい者、外国籍県民等など、多様な視点を反映させた取組みを進めることが重要です。  これらの問題について、より良い避難所運営に向けて市町村の取組みを支援することや、啓発活動の中でこれまでの震災における人権課題を例とすることなどにより、災害時にも人権が配慮される社会づくりを進めます。 ケアラー(ヤングケアラー)の人権課題  ケアラーとは、こころやからだに不調のある人の介護、看護、療育、世話、気づかいなど、ケアの必要な家族や近親者、友人、知人などを無償でケアする人です。こうしたケアラーは、過度な負担がかかることにより、心身の不調や不本意な離職、社会から孤立しやすいといっ (38ページ) た課題があり、社会全体で支援していくことが必要です。  特にヤングケアラーと呼ばれる子どものケアラーは、家族の介護や看護などを行う際に、年齢や成長に見合わない、重い責任や負担を担うことで、学校に行けない、希望する進路に進めないなど、子どもの権利侵害が懸念される重大な問題です。  年齢層や抱える課題も多様なケアラーが社会から孤立することなく、自分の希望する人生や日々の暮らしが送れるよう、様々な分野が連携して支援の取組みを推進します。 孤独・孤立による人権課題の深刻化  学校や職場での人間関係や、就職活動がうまくいかなかったなど様々なきっかけから、趣味や近所での買い物等を除き、ほとんど自宅・自室から外出しない、ひきこもりの状態にある方がいます。その期間も長期化するなど、家族を含めて社会から孤立し、孤独を深めています。  また、近年、家族や地域とのつながりが希薄になっていることを背景とした、高齢者等の「孤立死」といった問題も起きています。  これらの課題について、関係機関と連携した相談活動や、就労支援、地域づくりなどを通じて、社会から孤立させない、排除しない、すべての人を受け入れる、ともに生きる社会の実現に向けた取組みを推進します。 【コラム】ソーシャルインクルージョンとは  「社会的包摂」とも訳される「ソーシャルインクルージョン」。  今日的な「つながり」の再構築を図り、すべての人々を孤独や孤立、排除や摩擦から援護し、健康で文化的な生活の実現につなげるよう、社会の構成員として包み支え合うことを意味する言葉です。  日本では平成12年(2000年)12月に厚生省(当時)がまとめた「社会的な援護を要する人々に対する社会福祉のあり方に関する検討会報告書」にて初めて提唱されました。  社会的に弱い立場にある人々を含むすべての人を地域社会で受け入れ、ともに生きていく取組みが重要となっています。 (コラム終わり)  この他にも、特定の職業に従事する方に対する偏見や差別(職業差別)、刑を終えて出所した方に対する偏見や差別、身体的特徴を理由とする差別、様々な理由から戸籍を取得することができなかった方の問題(無戸籍問題)など、様々な人権にかかわる問題があります。これらの問題においても、指針の趣旨に従って、関係機関、NGO・NPO等と協働・連携してそれぞれの状況に応じた取組みを行います。 (39ページ) Z 人権施策の推進体制等 1 人権施策の推進体制  人権施策の推進にあたっては、職員一人ひとりがこの指針の基本理念に基づいて行動するとともに、かながわ人権政策推進懇話会委員からの意見等も聞きながら、県庁内で関係局等が連携し、適正かつ積極的に取り組みます。  庁内では、人権施策の円滑、適正な推進を図るため、全庁的な推進体制として、神奈川県共生推進本部(本部長 知事)を設置するとともに、局ごとに人権男女共同参画施策統括責任者(局長等)及び人権男女共同参画施策推進責任者(各局企画調整担当課長等)、所属ごとに人権男女共同参画施策推進主任者兼研修指導者(筆頭グループリーダー等)を設置します。  また、職員一人ひとりが人権尊重の考え方を常に自覚して職務を行うよう、全所属で年度ごとに「人権に配慮した職務遂行計画」を作成し、その評価を行い職務に生かします。  庁外では、企業、民間団体、行政等で構成する「神奈川県人権啓発推進会議」やNGO・NPO等と協働・連携して啓発活動や相談・支援など人権施策の推進に取り組みます。 (人権施策の推進体制に関する図表を掲載) (40ページ) 2 人権研修の実施  職員一人ひとりの人権感覚を磨き、人権尊重意識の定着を図るため、人権男女共同参画施策推進主任者兼研修指導者に対する研修を実施します。また、全所属で職務内容に応じた人権研修を実施します。 3 県の人権施策への提案等  県の人権施策をより幅広く着実に推進するため、県が実施する人権の推進に関する施策または事業についての県民、企業等からの提案、意見、要望、苦情等を受け付ける窓口(共生推進本部室)を設置します。  提案等については、提案等に係る所管課に検討を依頼し、その結果を提案者に回答します。 (県の人権施策への提案に関する図表を掲載) 以上