(37ページ) 13 様々な人権課題  ここまで、分野別施策の方向として、「子ども、女性、障がい者、高齢者、疾病等にかかる人権課題、同和問題(部落差別)、外国籍県民等、貧困等にかかる人権課題、犯罪被害者等、北朝鮮当局によって拉致された被害者等、性的マイノリティ、インターネットによる人権侵害」の12の分野を取りあげましたが、この他にも、様々な人権課題があります。 アイヌ民族の人権課題  世界には多数の先住民族が存在しますが、多くの先住民族は迫害の対象となったり、社会への同化を強いられた結果、言語や伝統的な慣習を捨てることを余儀なくされたりといった困難にさらされています。  たとえば、アイヌ民族は、先住民族として独自の言語や文化を持っていましたが、日本が近代国家を形成する過程において、様々な差別や迫害が行われてきました。このような状況の中、令和元年(2019年)に「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」が成立しました。  同法では、アイヌ施策の推進は、多様な民族の共生及び多様な文化の発展についての国民の理解を深めることを旨として行われなければならないとされています。アイヌの人たちは、県内にも居住しています。「ともに生きる社会かながわ」をめざすためにも、アイヌ民族の文化や歴史を理解し、民族としての誇りを尊重することが重要です。 災害発生時の人権課題  平成23年(2011年)3月11日に起きた東北地方太平洋沖地震による災害及びそれに伴う原子力発電所の事故は、被災地に大きな爪あとを残し、多くの方々が避難生活を強いられ、長期間自宅に戻れないなど、これまでの生活を一変させてしまいました。そうした中で、人権への配慮に欠ける避難所運営や、放射線被ばくについての風評等に基づく差別的言動など、災害時における人権の問題も改めて認識されることになりました。  また、近年は全国各地で台風や集中豪雨の影響による土砂災害や浸水被害が頻繁に発生しており、被災地域の住民が避難所に滞在するケースが頻発しています。  過去の災害では、避難所の運営において女性のニーズが十分に配慮されないなどの課題が生じ、女性の視点を取り入れる重要性が指摘されました。今後は、様々な意思決定の場面における女性の参画を促すとともに、防災・復興の各段階で、女性、障がい者、外国籍県民等など、多様な視点を反映させた取組みを進めることが重要です。  これらの問題について、より良い避難所運営に向けて市町村の取組みを支援することや、啓発活動の中でこれまでの震災における人権課題を例とすることなどにより、災害時にも人権が配慮される社会づくりを進めます。 ケアラー(ヤングケアラー)の人権課題  ケアラーとは、こころやからだに不調のある人の介護、看護、療育、世話、気づかいなど、ケアの必要な家族や近親者、友人、知人などを無償でケアする人です。こうしたケアラーは、過度な負担がかかることにより、心身の不調や不本意な離職、社会から孤立しやすいといっ (38ページ) た課題があり、社会全体で支援していくことが必要です。  特にヤングケアラーと呼ばれる子どものケアラーは、家族の介護や看護などを行う際に、年齢や成長に見合わない、重い責任や負担を担うことで、学校に行けない、希望する進路に進めないなど、子どもの権利侵害が懸念される重大な問題です。  年齢層や抱える課題も多様なケアラーが社会から孤立することなく、自分の希望する人生や日々の暮らしが送れるよう、様々な分野が連携して支援の取組みを推進します。 孤独・孤立による人権課題の深刻化  学校や職場での人間関係や、就職活動がうまくいかなかったなど様々なきっかけから、趣味や近所での買い物等を除き、ほとんど自宅・自室から外出しない、ひきこもりの状態にある方がいます。その期間も長期化するなど、家族を含めて社会から孤立し、孤独を深めています。  また、近年、家族や地域とのつながりが希薄になっていることを背景とした、高齢者等の「孤立死」といった問題も起きています。  これらの課題について、関係機関と連携した相談活動や、就労支援、地域づくりなどを通じて、社会から孤立させない、排除しない、すべての人を受け入れる、ともに生きる社会の実現に向けた取組みを推進します。 【コラム】ソーシャルインクルージョンとは  「社会的包摂」とも訳される「ソーシャルインクルージョン」。  今日的な「つながり」の再構築を図り、すべての人々を孤独や孤立、排除や摩擦から援護し、健康で文化的な生活の実現につなげるよう、社会の構成員として包み支え合うことを意味する言葉です。  日本では平成12年(2000年)12月に厚生省(当時)がまとめた「社会的な援護を要する人々に対する社会福祉のあり方に関する検討会報告書」にて初めて提唱されました。  社会的に弱い立場にある人々を含むすべての人を地域社会で受け入れ、ともに生きていく取組みが重要となっています。 (コラム終わり)  この他にも、特定の職業に従事する方に対する偏見や差別(職業差別)、刑を終えて出所した方に対する偏見や差別、身体的特徴を理由とする差別、様々な理由から戸籍を取得することができなかった方の問題(無戸籍問題)など、様々な人権にかかわる問題があります。これらの問題においても、指針の趣旨に従って、関係機関、NGO・NPO等と協働・連携してそれぞれの状況に応じた取組みを行います。