令和5年度 県立障害者支援施設の方向性ビジョン 令和5年12月 神奈川県 目次 はじめに 1 第1章 これまでの経過 2 1 県立障害者支援施設に関する経過 2 2 神奈川県の障害福祉と地域生活移行の状況 6 第2章 県立障害者支援施設の現状と課題 9 1 中井やまゆり園 9 2 さがみ緑風園 9 3 芹が谷やまゆり園 10 4 津久井やまゆり園 11 5 愛名やまゆり園 11 6 厚木精華園 12 7 三浦しらとり園 13 第3章 外部委員会からの提言 14 1 将来展望検討委員会からの指摘・提言 14 (1) 指摘された課題 14 (2) 提言された内容 14 2 支援改革プロジェクトチームの指摘・提言 15 (1) 指摘された課題 15 (2) 提言された内容 16 第4章 県立障害者支援施設の方向性に関する県の基本的な考え方 18 1 指摘・提言を受けた県の基本的な考え方 18 2 各県立障害者支援施設の方向性 19 (1) 中井やまゆり園 19 (2) 芹が谷やまゆり園 19 (3) 津久井やまゆり園 20 (4) 愛名やまゆり園 20 (5) さがみ緑風園 20 (6) 厚木精華園 20 (7) 三浦しらとり園 21 第5章 今後の県立障害者支援施設の役割を果たす施設の具体的な取組 22 1 基本理念 22 2 具体的な取組 23 3 その他 25 第6章 今後の県立障害者支援施設の役割を果たす施設の組織執行体制 26 1 組織執行体制の整理 26 (1) 各制度の概要 26 (2) 各制度の特徴 26 2 今後の県立障害者支援施設の運営における組織執行体制の比較検討 28 第7章 中井やまゆり園の地方独立行政法人化の進め方 32 1 組織執行体制の移行時期 32 2 効率的・効果的な運営を実現するための工夫 32 (1) 運営の透明性の確保 32 (2) 法人プロパー職員の戦略的な確保・育成 32 (3) 効率的な法人運営 33 参考1 県立障害者支援施設が条例の理念の具現化に向けて踏まえるべき条文 34 参考2 独立行政法人及び地方独立行政法人の先行事例 35 はじめに これまで県立障害者支援施設(以下「県立施設」という。)は、時代の要請に応じて、その役割を果たしてきた。 近年では、平成15年の「県立社会福祉施設の将来展望検討会議」や平成26年の「県立障害福祉施設等あり方検討委員会」の提言を受け、県立施設は、民間では対応が困難な障害者を受け入れるという役割を担い、中でも県直営の施設では、民間では特に対応が困難な障害者を受け入れ支援してきた。 とりわけ、県直営の中井やまゆり園は、強度行動障害対策という機能に特化した中核施設として、福祉人材の育成も含め、施設を運営してきた。 一方で、県立施設における長時間の居室施錠など不適切な支援が明らかとなり、その検証を行った外部有識者等からは、県立施設は、施設規模が100名を超す大規模施設であるため、管理的で閉鎖的な支援に陥りやすいといった課題が指摘された。 実際に、令和4年9月に公表された「県立中井やまゆり園における利用者支援外部調査委員会」の報告書では、25件の虐待が疑われる事案を含め、不適切な支援が明らかになった。 こうした中、現在では、より専門的な支援を行っている民間施設があることも踏まえて、民間では対応が困難な障害者の受入という、これまで県立施設が果たしてきた役割を見直し、県立施設の方向性を考えるべき時期に来ている。 いのち輝く地域共生社会という、20年後の神奈川の障害福祉のあるべき姿の実現に向けて、津久井やまゆり園事件を経験した県だからこそ果たすべき責務がある。 今後の県立施設には、そうした県の責務に基づき、率先して当事者目線の支援を実践していくことが求められている。 この「県立障害者支援施設の方向性ビジョン」では、障害福祉施策が措置制度から支援費制度へと移行し、「施設から地域へ」という潮流の下、社会資源が充実するなど、障害者を取り巻く環境が変化する中で、県立施設の取組を通して、県が支援者目線の支援から当事者目線の支援へと転換した経過を振り返る。 また、令和5年4月に施行した「当事者目線の障害福祉推進条例〜ともに生きる社会を目指して〜」の理念を具現化するため、今後の県立施設が果たすべき役割を明確にした上で、個々の県立施設の現状と課題を踏まえた、今後の方向性を施設ごとに明らかにするものである。 県は、いのち輝く地域共生社会の実現を目指し、このビジョンに定めた県立施設の方向性を通じて、当事者目線の障害福祉に取り組んでいく。 第1章 これまでの経過 1 県立障害者支援施設に関する経過 (措置制度から支援費制度へ) 平成15年4月、ノーマライゼーションの理念に基づいて支援費制度が施行され、それまでの行政主体の措置制度から、障害者が自己決定に基づき、事業者と対等な関係で契約し、サービスを利用する契約制度になり、障害福祉サービスの利用が増加した。 (県立社会福祉施設の将来展望検討会議の提言) このような福祉制度の改革が進められる中、平成15年11月の「県立社会福祉施設の将来展望検討会議」(以下「将来展望検討会議」という。)による報告書では、県立施設は、民間施設で対応が難しい障害者を受け入れ、民間のノウハウが確立していない専門性が求められている分野に特化していくことが提言された。 また、効率的、効果的な運営を目指す観点から民間委託も含めて検討し、県立施設としての役割を終了した施設は民間移譲や廃止に取り組むという考え方のもと、各施設の方向性が整理された。 県では、この提言を受けて、平成17年4月に県立施設として初めて津久井やまゆり園に指定管理者制度(平成15年の地方自治法改正により制度化)を導入し、平成18年4月には愛名やまゆり園、厚木精華園、秦野精華園及び金沢若草園に、平成23年4月には三浦しらとり園に、それぞれ指定管理制度を導入した。 さらに、平成23年には金沢若草園を、平成29年には秦野精華園を、それぞれ社会福祉法人へ移譲した。 (障害者自立支援法・障害者総合支援法の施行) 平成18年4月には、障害種別ごとに縦割りでサービスが提供され、使いづらい仕組みであることや、支給決定のプロセスが不透明であるなどの課題があった支援費制度に代わり、現行の障害者総合支援法(平成25年4月施行)の前身となる障害者自立支援法が施行された。 この法律では、サービス提供主体を市町村に一元化するとともに、身体障害、知的障害、精神障害といった障害の種類に関わらず、障害者の自立支援を目的とした福祉サービスを共通の制度により提供することになった。 また、施設入所者の地域生活への移行という考え方が明確になり、更生保護を目的とした障害者の入所施設は、入所できる要件が設定され、日中と夜間のサービスが分離された障害者支援施設と定義された。 これにより、これまでの旧法による知的障害者更生施設などは、平成23年度末までに、新たな法律に基づく、障害者支援施設に移行することが求められ、県立施設は民間施設に先駆けて、平成20年4月に障害者支援施設へと移行した。 続けて、平成24年10月には、障害者虐待防止法が施行され、障害者に対する虐待の定義が明確になるなど、障害者を取り巻く環境が大きく変化した。 (県立障害福祉施設等あり方検討委員会の提言) こうした県立施設を取り巻く制度改正や県の危機的な財政悪化を受けた平成26年1月の「県立障害福祉施設等あり方検討委員会」による報告書では、県立施設は、平成15年の将来展望検討会議の提言と同様に、民間施設では対応が難しい障害者を受け入れる役割を担うことが提言された。 その上で、民間施設では特に対応が困難な障害者を受け入れる役割を担う施設は県直営施設として継続するとともに、指定管理者制度の導入や民間移譲を含む各施設の方向性が提言された。 県では、この提言を受けて、さがみ緑風園及び中井やまゆり園を県直営施設として存続するとともに、平成29年に秦野精華園を社会福祉法人へ移譲した。 (津久井やまゆり園事件と再生に向けた取組) 平成28年7月26日、津久井やまゆり園において、19名の生命が奪われるという大変痛ましい事件が発生した。この事件は、障害者やその家族のみならず、多くの県民に言いようもない衝撃と不安を与えた。 県は、このような事件が二度と繰り返されないよう、同年10月、県議会の議決を経て「ともに生きる社会かながわ憲章」を策定し、ともに生きる社会の実現を目指す県政の基本的な理念とした。 また、県は、この事件からの再生に向け、「津久井やまゆり園再生基本構想」を策定し、利用者の意思決定支援や、津久井やまゆり園、芹が谷やまゆり園の2つの園の整備に取り組んだ。 (県立障害者支援施設における不適切な支援) しかし、その間、かつての津久井やまゆり園の利用者支援に関し、不適切な支援が行われてきたと指摘する情報が県に寄せられ、県では、同園の利用者支援の内容について外部有識者等による検証委員会を立ち上げ、検証を進めた。 その結果、安全面を優先した長時間の居室施錠など、虐待の疑いが強い身体拘束が行われてきたことが明らかになった。 また、令和3年3月の「障害者支援施設における利用者目線の支援推進検討部会」(以下「検討部会」という。)による報告書では、これらは他の県立施設でも同様の課題であることがわかり、本来、指導すべき県の認識も不足していたことが明らかになった。 (支援者目線から当事者目線の支援へ) 一方で、津久井やまゆり園で車椅子に長時間身体拘束され、暗い表情だった方が、民間の施設での生活により、生き生きとした表情になって活動するようになり、改めて施設の支援のあり方が、一人ひとりの利用者にとってどれほど重要な意味を持つのかを認識した。「安全面を優先した」といった理由があったとしても、閉じ込められたり、縛られたりすることがどれほどの苦痛を伴うことなのか、その利用者本人の目線に立って、支援のあり方を徹底して見直すことが不可欠と考えた。 その結果、これまでの入所施設での支援では、「利用者のために」という、利用者の安全を優先した支援者(管理者)の目線で、長時間の身体拘束等が行われてきたが、これからの障害福祉は、本人の望みや願いを第一に考え、本人の可能性を最大限引き出す、利用者の目線、つまり、「障害当事者の目線」に立った支援を行うべきとの考えに至った。 (当事者目線の障がい福祉に係る将来展望検討委員会の提言) こうした中、検討部会の報告書では、新たな会議体を設置して、県立施設のあり方を含め、当事者目線の支援を実践していくための方策を検討し、未来への工程表を示していくことが提言された。 これを受けて、県は、20年後の神奈川の障害福祉のあるべき姿をバックキャストして検討するため、令和3年6月に障害当事者や学識者などで構成される「当事者目線の障がい福祉に係る将来展望検討委員会」(以下「将来展望検討委員会」という。)を設置した。 令和4年3月の将来展望検討委員会の報告書では、大規模施設は管理的、閉鎖的であることや、専門性の高い支援を行っている民間施設もあることから、県立施設は規模縮小の上、民間移譲も見据えた検討をすべきとの提言があった。 一方で、県立施設は、通過型施設として地域生活移行に率先して取り組むべきであり、また、県は福祉に関する先進的な研究や人材育成といった役割を果たすべきとの提言もあった。 <参考> バックキャスト… 目指す将来像を定め、それを実現するために何が必要かを考える思考法。 将来展望検討委員会では、20年後の神奈川の障害福祉のあるべき姿を、「「ともに生きる社会かながわ憲章」の理念が当たり前になるほど浸透し、本人の意思決定を踏まえた、その人らしい生活を支える当事者目線のサービス基盤の整備が進んだいのち輝く地域共生社会」と定め、行政、事業者、県民等にどのような取組が求められるか議論した。 (中井やまゆり園における不適切な支援と改善に向けた取組) この間、県は、令和3年9月に「県立中井やまゆり園当事者目線の支援改革プロジェクトチーム」(以下「支援改革プロジェクトチーム」という。)を設置し、県直営の中井やまゆり園における利用者支援の改善に向けた取組の検討を進めていたが、その過程で新たに虐待事案を含む複数の不適切な支援が行われていたことが明らかになった。 そこで、支援改革プロジェクトチームを一旦休止し、「県立中井やまゆり園における利用者支援外部調査委員会」(以下「外部調査委員会」という。)を設置した。令和4年9月の外部調査委員会の報告書では、「職員が利用者を人として見られなくなっている」「人権意識が欠如している」といった厳しい指摘を受けており、現在、中井やまゆり園では、民間の支援改善アドバイザーの力を借りながら、当事者目線の支援の実践や生活環境等の改善に取り組んでいる。 (支援改革プロジェクトチームの提言) また、令和5年5月に、再開した支援改革プロジェクトチームがとりまとめた「改革プログラム」では、現場で直接指導にあたっている支援改善アドバイザーがいなくなった後、中井やまゆり園の改革が後戻りしないか懸念していること、また、短期間での人事異動や、硬直化した予算執行等、県直営の運営は限界であることが指摘された。 さらに、将来的には県立施設全体のあり方を考える中で、中井やまゆり園の直営という運営体制だけでなく、他の施設の運営体制も含めて考えていくよう指摘があった。 具体的には、支援改善アドバイザーからは、「自分たちがいなくなれば、すぐに元に戻る可能性が高く、職員が自ら考え、主体的に取組を進める必要がある」「支援を覚え始めた段階で異動してしまい、園に知見が積み上がらない」といった指摘を受けている。 (県立中井やまゆり園当事者目線の支援アクションプラン) 県では、改革プログラムを踏まえて、令和5年7月に「県立中井やまゆり園当事者目線の支援アクションプラン〜一人ひとりの人生を支援する〜」(以下「アクションプラン」という。)を策定した。 アクションプランでは、中井やまゆり園の運営の理念や役割を明確にするとともに、障害者が地域で活躍できる仕組み等の具体的な取組内容を示しており、現在はこのアクションプランに基づき、園と県本庁が一体となって取組を進めている。 <参考>アクションプラン 1 理念 ・ 利用者一人ひとりの当事者目線に立って、利用者が主体となれるよう人生を支援する。 ・ 障害者が街の中で当たり前に暮らせる地域共生社会を目指し、取組を進める。 2 役割 利用者一人ひとりが地域でその人らしく望む暮らしを実現できるよう、地域生活移行を進めるため、次の役割を果たしていく。 ・ 園内外での日中活動を充実させるなど、地域と利用者本人とが関わりを深め、お互いに変わっていくことで地域の中で本人の人格の発達と存在が保障される支援を確立する。 ・ 地域生活が困難となった障害者を一時的に受け入れ、再び地域の中で居場所を作り、仲間たちとのつながりの中で暮らしていけるような通過型施設としての支援を確立する。 ・ 今後の障害福祉施策の検討を行うため、園を障害者支援に関する研究、人材確保や育成といったフィールドとする。その中でも、現在園で課題となっている知的障害者が適切に医療を受けられる体制づくり等の課題についても検討する。 3 アクションプランの4つの柱 @ 人生に共感し、チームで支援する A 暮らしをつくる B いのちを守る施設運営 C 施設運営を支える仕組みの改善 (神奈川県当事者目線の障害福祉推進条例〜ともに生きる社会を目指して〜) 一方、将来展望検討委員会における議論の過程においては、中長期的なビジョンに基づく様々な提言を着実に実現するための普遍的な仕組みの構築が求められ、県は、県議会での議論も踏まえ、県、事業者、県民が当事者目線の障害福祉の推進に向けて取り組むべき責務等を明示する、新たな条例の制定を目指すこととした。 そして、当事者、事業者等の関係団体等や、県内全ての市町村との意見交換を実施しながら検討を進め、令和4年10月、県議会本会議において「神奈川県当事者目線の障害福祉推進条例〜ともに生きる社会を目指して〜」(以下「条例」という。)が全会一致により可決し、令和5年4月に施行した。 この条例は、当事者目線の障害福祉の推進が、「ともに生きる社会かながわ憲章」の実現につながるという考えのもと、その理念や原則を明らかにした、当事者目線の障害福祉を進めていくための基本的な規範である。 この条例の理念を具現化するため、今後の県立施設には、率先して当事者目線の障害福祉の実現に向けて取り組んでいくことが求められている。 2 神奈川県の障害福祉と地域生活移行の状況 (県内の障害福祉の状況) 近年の県内の障害者数を見ると、知的障害児者及び精神障害者は顕著に増加傾向にある中で、障害者の地域での住まいの中心となるグループホームなどの地域資源も増えており、施設入所者を上回る10,000人の障害者がグループホームで暮らしている。 (県内の地域生活移行の状況) こうした、グループホームの増加にあわせて、入所施設では、平成18年4月の障害者自立支援法施行以降、中軽度の障害者の地域生活移行が進められ、県内では、平成19年10月から令和4年3月までの間に、約900名の施設入所者がグループホームなどの地域生活に移行した。 一方で、重度障害者を受け入れるグループホームや通所系の事業所の不足が指摘されている。 現在のグループホームの入居者は、障害支援区分の構成では、中軽度とされる区分1から4の障害者が約7割を占めている反面、施設入所者は、重度とされる区分5及び6の障害者が約9割を占めている。 こうしたことから、中軽度の障害者の地域生活移行は進んでいる反面、重度障害者の地域生活移行が進んでいない状況が読み取れる。 なお、第5期の「神奈川県障がい福祉計画」(対象期間:平成30年度〜令和2年度)では、平成28年度末の施設入所者470人が、令和2年度末までに地域生活に移行するという成果目標を掲げて取組を推進してきたが、実績は175人で、目標を達成できなかった。 (県立障害者支援施設の地域生活移行の状況) 県では、指定管理者制度の導入に当たって、指定管理業務に施設入所者の地域生活移行を位置付け、これを受けた指定管理施設では、指定管理者である法人がグループホームを設置し、入所者の地域生活への移行を進めた。 しかし、近年の県立施設では、指定管理者によるグループホームの設置も低調であり、県直営施設だけでなく、指定管理施設においても地域生活移行が十分に進んでいない状況である。 第2章 県立障害者支援施設の現状と課題 県立施設の現状と課題は次のとおりである(いずれも令和5年6月末現在の内容)。 <県直営施設> 1 中井やまゆり園 (1) 施設の概要 運営      県直営 主たる対象者  知的障害者 定員      140名(短期入所18名を含む) 現員       89名 平均支援区分  5.6 平均年齢    46歳6か月 平均入所期間  18年9か月 施設(居住棟) 平成12年築(築23年)   (管理棟) 平成12年築(築23年)外 部屋      個室69室/2人部屋36室 (2) 現状 ・ 強度行動障害対策の中核施設に位置付け、民間では特に対応が困難といわれている強度行動障害など重度障害者を受け入れ支援してきたが、地域生活への移行が進まず、入所者は施設に滞留している。 ・ 地域生活移行が進まない中、虐待を含む不適切な支援が明らかになり、現在、民間施設等で先進的な取組を行っているスペシャリストを支援改善アドバイザーとして登用し、アクションプランに基づき、関係機関や住民等と連携しながら、園外での日中活動の充実など、当事者目線の支援の実践に取り組んでいる。 ・ 1寮22名(短期2名入所を含む)を生活単位とした大規模施設である。 (3) 課題 ・ アクションプランに基づく取組は、全ての入所施設における当事者目線の支援や重度障害者の地域生活移行のモデルとなるものであり、継続して進めていく必要がある。 ・ 大規模施設であるため、施設の規模縮小と小規模ユニット化を進めていく必要がある。 2 さがみ緑風園 (1) 施設の概要 運営      県直営 主たる対象者  身体障害者 定員      80名(短期入所12名を含む) 現員      49名 平均支援区分  6.0 平均年齢    55歳6か月 平均入所期間  15年6か月 施設(管理棟) 平成14年築(築20年)   (居住棟) 平成14年築(築20年)外 部屋      個室144室/4人部屋4室 (2) 現状 ・ 遷延性意識障害やALSといった福祉と医療のはざまにある障害者の支援を担うため、充実した診療体制をとった施設である。 ・ 65歳以上の利用者の介護保険施設等への移行が進み、現員の減少にあわせて定員を減らしており、現時点で、定員80名、現員49名となっている。 ・ 利用者の減少により、建物1階部分は使用していない。 (3) 課題 ・ 利用者の望む暮らしの実現に取り組んだ結果、介護保険施設等との役割分担が進み、利用者が減少している。 ・ 重度の身体障害がある現利用者の居場所を引き続き確保していく必要がある。 ・ 使用していない建物1階部分の有効な活用方法を検討していく必要がある。 ・ 民間のノウハウを活用しながら当事者目線の支援を実践するため、令和5年4月からの指定管理者制度の導入を目指して、公募手続き等を進めていたが、応募のあった法人が辞退した。 <指定管理施設> 3 芹が谷やまゆり園 (1) 施設の概要 運営        指定管理 指定期間:令和5年4月〜令和10年3月 指定管理者:社会福祉法人同愛会・社会福祉法人白根学園 主たる対象者    知的障害者 定員        66名(短期入所6名を含む) 現員        56名 平均支援区分    5.9 平均年齢      53歳10か月 平均入所期間    1年8か月 施設(センター棟) 令和3年築(築1年)   (居住棟)   令和3年築(築1年)外 部屋        全個室 (2) 現状 ・ 民間のグループホームや日中活動の場などの地域資源が豊富な地域に立地している。 ・ 平成29年10月の「津久井やまゆり園再生基本構想」に基づき、津久井やまゆり園の再整備とあわせて、定員66名、1ユニット11名の小規模ユニット施設として整備した。 ・ 新たな指定管理者による令和5年4月からの指定期間では、通過型施設を目指し、具体的な目標値を定めて地域生活移行を進めることを業務に位置付けており、指定管理者からは年間10名(令和5年度のみ8〜9名)の地域生活移行が提案されている。 (3) 課題 ・ 現指定期間の中で、施設外における日中活動の充実や地域との連携による地域生活移行の取組を通じて、通過型施設としての役割を果たすことができるか検証していく必要がある。 4 津久井やまゆり園 (1) 施設の概要 運営      指定管理 指定期間:令和5年4月〜令和10年3月 指定管理者:社会福祉法人かながわ共同会 主たる対象者  知的障害者 定員      66名(短期入所6名を含む) 現員      60名 平均支援区分  5.9 平均年齢    49歳4か月 平均入所期間  12年3か月 施設(管理棟) 平成8年築(築27年、令和3年改修)   (居住棟) 令和3年築(築1年)外 部屋      全個室 (2) 現状 ・ 平成28年7月の津久井やまゆり園事件を契機に、利用者の意思決定支援を先駆的に実施してきた。 ・ 事件で亡くなられた方々への鎮魂のモニュメントを設置し、毎年7月26日に追悼式を行っている。 ・ 事件後に、現在地で施設の再整備を進め、事件前の定員160名の大規模施設から、定員66名、1ユニット11名の小規模ユニット施設へと転換した。 ・ 利用者の地域生活移行が進んでいない中で、令和5年4月からの新たな指定期間では、通過型施設を目指し、具体的な目標値を定めて地域生活移行を進めることを業務に位置付けており、指定管理者からは年間12名の地域生活移行が提案されている。 (3) 課題 ・ 現指定期間の中で、施設外における日中活動の充実や地域との連携による地域生活移行の取組を通じて、通過型施設としての役割を果たすことができるか検証していく必要がある。 5 愛名やまゆり園 (1) 施設の概要 運営      指定管理 指定期間:平成28年4月〜令和8年3月 指定管理者:社会福祉法人かながわ共同会 主たる対象者  知的障害者 定員      120名(短期入所20名を含む) 現員       98名 平均支援区分  5.9 平均年齢    51歳8か月 平均入所期間  22年2か月 施設(居住棟) 昭和60年築(築37年)   (管理棟) 昭和60年築(築37年)外 部屋      個室35室/2人部屋7室/3人部屋5室/4人部屋16室 (2) 現状 ・ 長期間入所している利用者が多く、地域生活移行が進んでいない。 ・ 施設周辺は住宅街であるため地域との交流がしやすく、民間のグループホームや日中活動の場などの地域資源が豊富な地域に立地している。 ・ 大規模施設であり、居室は多床室が中心である。 ・ 居住棟や管理棟は築37年が経過し、建物の老朽化が進んでいる。 (3) 課題 ・ 豊富な地域資源を活用し、通過型施設としての取組を進めていく必要がある。 ・ 大規模、多床室中心の施設であることに加えて、老朽化が進んでいることから、施設の規模縮小と小規模ユニット化にあわせて、再整備を行う必要がある。 6 厚木精華園 (1) 施設の概要 運営      指定管理 指定期間:平成28年4月〜令和8年3月 指定管理者:社会福祉法人かながわ共同会 主たる対象者  知的障害者 定員      112名(短期入所2名を含む) 現員      90名 平均支援区分  5.5 平均年齢    67歳2か月 平均入所期間  12年8か月 施設(管理棟) 平成6年築(築28年)   (居住棟) 平成6年築(築28年)外 部屋      個室24室/2人部屋48室 (2) 現状 ・ 高齢の知的障害者支援のモデル施設に位置付け、医療的ケアが必要となった障害者の受入や民間施設への支援ノウハウの普及に取り組んでいる。 ・ 65歳以上の利用者が6割になっており、地域生活移行が進んでいない。 ・ 平成26年の「県立障害福祉施設等あり方検討委員会」の報告書では、将来的にモデル施設の役割を終えた段階で民間移譲を検討することが提言されている。 ・ 大規模施設であり、居室は多床室が中心である。 ・ 施設の隣接地が土砂災害特別警戒区域に指定されている。 (3) 課題 ・ 民間施設においても高齢の知的障害者に対する支援が進み、県立施設としての役割は低下している。 ・ 大規模、多床室中心の施設であるため、施設の規模縮小と小規模ユニット化を進めていく必要がある。 ・ 施設の隣接地が土砂災害特別警戒区域に指定されているため、現在地での運営の是非も含めて検討する必要がある。 7 三浦しらとり園 (1) 施設の概要 運営      指定管理 指定期間:令和5年4月〜令和10年3月 指定管理者:社会福祉法人清和会 主たる対象者  知的障害児・知的障害者 定員      障害児  40名(短期入所4名を含む) 障害者 112名(短期入所24名を含む) 現員      障害児  29名 障害者  75名 平均支援区分  障害者 5.9 平均年齢    障害児 14歳8か月 障害者 51歳7か月 平均入所期間  障害児 3年1か月 障害者 25年3か月 施設(本 館) 昭和58年築(築40年)   (居住棟) 昭和58年築(築40年)外 部屋      障害児 個室10室/4人部屋6室 障害者 個室30室/2人部屋2室/3人部屋6室/4人部屋10室 (2) 現状 ・ 知的障害児と知的障害者の複合施設で、入所している障害者の6割を横須賀市が支給決定しており、地域の受け皿として機能している。 ・ 県所管域で虐待を受けた障害児等の受け皿となっている。 ・ 長期間入所している利用者が多く、地域生活移行が進んでいない。 ・ 令和5年4月からの新たな指定期間では、通過型施設を目指し、具体的な目標値を定めて地域生活移行を進めることを業務に位置付けており、指定管理者からは年間4名(障害者)の地域生活移行が提案されている。 ・ 大規模施設であり、居室は多床室が中心である。 ・ 居住棟や管理棟は築40年が経過し、建物の老朽化が進んでいる。 (3) 課題 ・ 広域的な機能が低下しており、県立施設としての存続を検討する必要がある。 ・ 大規模、多床室中心の施設であることに加えて、老朽化が進んでいることから、施設の規模縮小と小規模ユニット化にあわせて、再整備を行う必要がある。? 第3章 外部委員会からの提言 本章では、将来展望検討委員会及び支援改革プロジェクトチームから指摘された課題と提言された内容を整理する。 1 将来展望検討委員会からの指摘・提言 将来展望検討委員会からは、20年後の神奈川の障害福祉のあるべき姿(将来像)と、その実現に向けて、いわゆるバックキャストの考え方により、中長期的な視点から行政、事業者や県民等がどう取り組んでいくべきかという観点で様々な提言がなされた。 県立施設のさがみ緑風園、芹が谷やまゆり園、津久井やまゆり園及び三浦しらとり園は、指定管理者の募集を予定していたため、募集要項に提言が反映されるように中間報告書がまとめられ、当事者目線の支援や地域生活移行の推進等が反映された。 その上で、最終的にまとめられた報告書も含めて、指摘された課題や提言された内容は次のとおり(一部、将来展望検討委員会が前提とした検討部会からの提言を含む)。 (1) 指摘された課題 ア 県立障害者支援施設の支援の質の低下 これまで県立施設は、民間施設での対応が困難な強度行動障害のある人等を受け入れる、といった障害者支援の先頭を走る役割を与えられてきたが、今日では支援の質の低下が指摘されている。 イ 民間における専門性の高い支援 民間の中には、グループホームで強度行動障害のある人に対し適切な支援を行っている先進事例や、入所施設でもユニット化、個室化し、利用者に適した日中活動の場を用意し、施設外で地域と関わりながら働き、根拠に基づく専門性の高い支援を行っている事例がある。 ウ 大規模施設の課題 大規模施設で強度行動障害のある人に集団生活を強いることは、その状態像をより重篤なものにするという構造的な課題がある。 また、管理的、閉鎖的な支援環境に陥りやすく、行動を抑制する方向へ配慮をする傾向が強まり、結果として身体拘束に頼るという非専門的な支援が繰り返されてきた。 (2) 提言された内容 ア 20年後の神奈川の障害福祉が目指す姿 「ともに生きる社会かながわ憲章の理念が当たり前になるほど浸透し、本人の意思決定を踏まえた、その人らしい生活を支える当事者目線のサービス基盤の整備が進んだいのち輝く地域共生社会」を目指すべきである。 イ 入所施設の方向性 次のように役割の縮小と転換を図り、緊急時対応と通過型のサービス提供に重点化することを、20年後の入所施設のあるべき姿として目標とすべきである。 〇 地域への機能の分散化 神奈川全体で相談、住まい、日中活動、居宅支援、移動、集いの場、地域のつながりを充実させ、入所施設の機能の地域への分散化を図っていくべきである。 〇 保護収容型施設の解消 旧来の保護収容型施設は解消を目指す。新規入所は、緊急時対応を除き、原則として有期の自立訓練のみ(通過型)とし、地域生活が困難となった障害者が再び地域生活を送れるようにするための一時的な受入に注力すべきである。 実質的な昼夜分離を進め、施設の機能は居住支援(夜間の支援)に特化させるべきである。 ウ 県立障害者支援施設の方向性 〇 最重度の障害者の受入の見直し これまでの最重度の人を中心に受け入れて、支援内容を組み立てるというやり方を改め、当面の対応として、地域の障害福祉サービス事業者と連携した支援体制づくりに取り組むべきである。 〇 規模縮小及び民間移譲の検討 機能(市町村支援、基幹相談支援、研修機能)の移転を進め、規模を縮小の上、民間移譲も視野に入れた検討を行うべきである。 居住規模は津久井モデル(60名)、個室ユニット化をすべきである。 〇 地域生活移行の推進 率先して、地域生活移行に取り組む専任職員の配置などの体制整備、地域生活体験用のグループホームの設置、街中での居住支援の提供に取り組むべきである。 加えて、日中活動はできる限り施設外に出ていくようにすべきである。 エ 県の役割 県は、市町村や事業者、さらには教育・研究機関等とも連携し、「強度行動障害」のある人に対する支援について、根拠ある専門的な支援への転換を図るような取組を進めるべきである。 福祉に関する研究や人材育成は、県の役割である。 2 支援改革プロジェクトチームの指摘・提言 外部調査委員会からは、中井やまゆり園において二度と不適切な支援を繰り返さないために、なぜこうした事案が起きたのか、不適切な風土が醸成された背景を分析することが提言され、これを受けて支援改革プロジェクトチームから改革プログラムが提言された。 この提言では、具体的な支援に関する取組に加えて、この取組を持続可能なものとするためには、県直営という運営体制は限界であり、中井やまゆり園だけでなく、全ての県立施設について、柔軟な意思決定や人材の確保・育成を図ることができる運営体制を検討すべきという提言があった。 (1) 指摘された課題 ア これまでの役割 これまでの役割は、強度行動障害の中核施設や民間では特に対応が難しい人の最終的な受入先であった。中井やまゆり園は、これらの役割を果たすため、特性に応じた特殊な環境で、強度行動障害を判定するための点数を下げる取組を通じて、問題行動を改善することにより地域へ戻れるよう支援したが、地域生活に即した支援ができていなかったため、施設に滞留した。 イ 理念や人材育成ビジョンの欠如等 県は、中井やまゆり園を「民間では特に対応が困難な利用者の最終的な受入先」という役割に位置付けたが、施設運営の指針となるべき理念は示してこなかった。 また、障害者支援施設で利用者支援にあたる人材の育成方針はなく、職員配置や人事異動において、利用者の暮らしや職員との関係の構築などの配慮も行われなかった。 ウ 施設の閉鎖性による地域からの孤立 地域での受入は進まず、利用者の暮らしは施設内で完結し、中井やまゆり園の意識が、地域での対応が困難な障害者の終の棲家へと陥っていく中で、園の閉鎖性がより高まり、地域の中で孤立した。 エ 安全安心のための長時間の居室施錠 職員の技術や知見が積み上がる前に人事異動が繰り返されていく中で、行動障害のある利用者と職員の安全安心を確保することを優先とした業務が引き継がれ、安全安心のためには、長時間の居室施錠もやむを得ないという考えで行われていた。 オ 県直営の運営の限界 支援改善アドバイザーがいなくなった後、中井やまゆり園の改革が後戻りしないか、懸念している。 3から4年を原則とする短期間での人事異動、年度を超えた執行ができない、使途が定められた予算の中で予算執行が硬直化する等、県直営の運営は限界である。 (2) 提言された内容 ア 今後の役割 今後は、「地域生活が困難となった障害者を一時的に受け入れ、園外での日中活動を充実させるなど、地域と本人とが関わりを深め、お互いに変容していくことで、地域の中で本人の人格の発達と存在が保障される支援を確立し、地域に本人の居場所をつくる」という役割に転換すべきである。 また、中井やまゆり園の役割の一つとして、施策の検討を行うためのフィールドとしての役割があることを再定義すべきである。 イ 理念に基づく当事者目線の支援の実践 「利用者が主体となるよう、一人ひとりの人生を支援する」という理念に基づき、当事者目線の支援を実践するために取り組むべきである。 (主な取組) ・ 大規模施設の解消による小規模ユニット化 ・ 当事者目線の支援の実践の取組 ・ 利用者を支える地域のネットワークづくり ・ 当事者目線の支援を実践できる人材の育成 ウ 柔軟・迅速な意思決定及び専門人材の確保・育成 中井やまゆり園が当事者目線の障害福祉を実践し、持続していくためには、トップマネジメントによる柔軟かつ迅速な意思決定や、当事者目線の支援ができる人材を確保・育成すべきである。 エ 県立障害者支援施設の運営体制 施設は「利用者の人生を支援する場」として、運営するために適切な体制は何か検討すべきであり、県立施設全体のあり方を考える中で、中井やまゆり園の直営という運営体制だけでなく、他の施設の運営体制も含めて考えていくべきである。 第4章 県立障害者支援施設の方向性に関する県の基本的な考え方 将来展望検討委員会及び支援改革プロジェクトチームからの指摘及び提言を受けて、県立施設の方向性に関する県の基本的な考え方を整理し、各県立施設の現状と課題に基づき、それぞれの方向性を定める。 1 指摘・提言を受けた県の基本的な考え方 (現状) これまでの県立施設は、「民間施設では対応が難しい障害者の受入」という役割を担い、中でも県直営の中井やまゆり園は、「民間施設では特に対応が難しい障害者の受入」を役割としてきた。 しかし、こうした役割を位置付けたことで、利用者は、地域では生活できない障害者というレッテルを貼られることになり、地域生活移行は進まず、施設に利用者が滞留した。 結果として、利用者をはじめ、施設、職員は地域から孤立することになった。 さらに、施設運営の指針となる理念や、障害者支援に当たる職員の人材育成ビジョンもなく、短期間での人事異動の中で、技術や知見が積み上がらなかった。 また、管理的、閉鎖的な支援に陥りやすいという構造的な課題がある大規模施設において、極めて重度な障害者を支援したため、利用者の安全安心という理由により長時間の居室施錠等が行われていた。 中井やまゆり園では、こうした問題を改善するため、民間の支援改善アドバイザーの力も借りながら、当事者目線の支援の実践に取り組んでいるところであり、取組を進める中で、これまで居室の片隅に無表情でうずくまっていた利用者が、今では他の利用者の車椅子を押し、日中活動に参加して笑顔を見せるなど、良い変化が起きはじめている。 しかし、こうした変化がなぜ起きているのかを、学術的、体系的に説明するまでに至っていない。 第1章で述べたように、重度障害者の地域生活移行は、県立・民間ともに進んでおらず、入所施設は終の棲家となっているという現状があり、条例の目指す当事者目線の障害福祉を実現するためには、県立施設に限らず、全ての入所施設が当事者目線の支援を実践し、どんな障害があっても、その人が望む暮らしを実現できることを示していく必要がある。 (課題) 全ての入所施設が重度障害者の地域生活移行を進め、当事者目線の障害福祉を実現できるようにするためには、科学的根拠に基づいた当事者目線の支援を確立し、その先駆的な支援を全ての入所施設等に広めるとともに、成果を生かして人材育成を図っていく必要がある。 しかし、福祉に関する科学的な研究や人材育成は、採算性が低いため、民間施設で実施することは困難であり、現在は現場での経験の積み上げによる支援が中心となっている。 (今後の県立障害者支援施設の役割、基本的な方向性) こうした現状と課題を踏まえ、今後の県立施設は当事者目線の支援を確立するための「福祉科学研究」と「人材育成」へと役割を転換し、施設をフィールドとして、民間事業者とも連携しながら、当事者目線の先駆的な支援と重度障害者の地域生活移行というテーマで研究を進め、科学的根拠に基づく支援を確立し、それを実践できる専門人材を育成する拠点となることにより、県の政策実施機関として、率先して当事者目線の支援のモデルを示していく。 この福祉科学研究及び人材育成という役割を果たすため、これまでの取組や実績、さらに地域資源が豊富な立地といった特長を生かすことができる施設を県立施設として継続し、それ以外の施設は当事者目線の支援の実践に引き続き取り組むこととし、柔軟な運営が期待できる民間法人に移譲する。 なお、大規模施設は管理的、閉鎖的な支援に陥りやすいという構造的な課題があることから、本人の望む暮らしを支援するため、一人ひとりに目が行き届くように、施設の小規模化を図るものとし、現利用者の居場所を必ず確保することを前提として、例えば県自らがグループホームを設置するなど、必要な受け皿の確保をあわせて進める。 <まとめ> @ 今後の県立施設の役割は次のとおりとする。 役割1 福祉科学研究 2 人材育成 <テーマ> 当事者目線の先駆的な支援       重度障害者の地域生活移行 A 今後の県立施設の役割を果たすために必要な施設は県立施設として継続し、それ以外の施設は民間移譲とする。 B 本人の望む暮らしを支援するため、一人ひとりに目が行き届くように、施設の小規模化を図る。 2 各県立障害者支援施設の方向性 県立施設の基本的な方向性に基づき、現状と課題を踏まえた各県立施設の方向性は次のとおり。 このうち、民間移譲する施設については、当事者目線の支援を実践できる民間法人への移譲を進める。 また、移譲に当たっては、これまでの県立施設としての実績を生かしながら、県立施設として継続する施設や他の民間施設と連携して、利用者の地域生活のための受け皿づくりや当事者目線の支援を実践できる人材の育成など、県の取組に移譲後も協力してもらえるように調整していく。 (1) 中井やまゆり園 これまで強度行動障害対策の中核施設に位置付けてきた施設で、現在はアクションプランに基づく当事者目線の支援の実践に取り組んでいる。 このアクションプランに基づく取組は、今後の県立施設だけでなく、全ての入所施設のモデルとなるものであり、これを継続していくことにより、当事者目線の支援の研究や人材育成が期待できる。 このため、今後の県立施設の役割を果たす施設に位置付けて、県立施設として継続していく。 (2) 芹が谷やまゆり園 地域資源が豊富であるため、地域連携を通じて、重度障害者の地域生活移行を進めることができる可能性が高いことから、当事者目線の支援の研究や人材育成が期待できる。 一方で、小規模ユニットケア施設として整備し、新たな指定期間(令和5〜9年度)が始まったばかりであるため、当事者目線の支援の実践や通過型施設として地域生活移行の取組等、指定管理の状況を検証するとともに、その成果を研究等に生かしながら方向性を検討していく。 (3) 津久井やまゆり園 津久井やまゆり園事件に対する県の継続的な関与が必要であるとともに、先駆的な意思決定支援の実績を生かした当事者目線の支援の研究や人材育成が期待できる。 一方で、既に小規模ユニットケア施設に再整備し、新たな指定期間(令和5〜9年度)が始まったばかりであるため、当事者目線の支援の実践や通過型施設として地域生活移行の取組等、指定管理の状況を検証するとともに、その成果を研究等に生かしながら方向性を検討していく。 (4) 愛名やまゆり園 県内全域からアクセスがしやすく、地域資源が豊富な地域に立地しているため、地域連携を通じて、重度障害者の地域生活移行を進めることができる可能性が高いことから、当事者目線の支援の研究や人材育成が期待できる。 一方で、建物の老朽化が進んでいるため、小規模施設への再整備を進めるとともに、既に小規模施設において通過型施設としての取組を進めている津久井やまゆり園及び芹が谷やまゆり園の方向性の検討とあわせて、県議会、利用者とその家族、市町村等と意見交換して方向性を検討していく。 なお、再整備のスケジュールを調整した上で、再整備期間中の指定期間延長も視野に入れながら検討していく。 (5) さがみ緑風園 利用者一人ひとりが望む、人生を豊かにする暮らしの実現に向けて、いち早く当事者目線の支援に取り組んできた結果、介護保険施設等との役割分担が進み、医療的ケアが必要な利用者が減少した現状を踏まえると、今後、福祉科学研究等におけるさがみ緑風園が果たしていく役割は低いことから、民間法人への移譲に向けて、移譲の時期、相手先や条件の調整を進める。 なお、利用者が減少し使用していない建物1階部分を活用した、効果的な施設運営が可能な法人への移譲を検討していく。 移譲までの間は、これまでの医療的ケアが必要な身体障害者への支援や一人ひとりにあった生活の場の調整のノウハウを民間施設へ広める取組を行っていく。 (6) 厚木精華園 これまで高齢の知的障害者支援のモデル施設としての役割を果たしてきたが、民間施設においても高齢の知的障害者に対する支援が進んだ現状を踏まえると、福祉科学研究等における厚木精華園が果たしていく役割は低いことから、民間法人への移譲に向けて、移譲の時期、相手先や条件の調整を進める。 なお、利用者の高齢化が進んでいるため、移譲先を調整する中で、地域資源にアクセスしやすい施設へ移転した上での移譲も選択肢の一つとして検討していく。 移譲までの間は、引き続き高齢の知的障害者に対する支援ノウハウの普及に取り組むとともに、一人ひとりにあった生活の場の調整を進めていく。 (7) 三浦しらとり園 横須賀三浦地域における数少ない社会資源として設置運営され、現在では地域の拠点になるとともに、県所管域の障害児の受け皿としても機能しているが、広域的な連携体制の構築に制約がある現状を踏まえると、県立施設としての役割は低下してきていることから、民間法人への移譲に向けて、移譲の時期、相手先や条件の調整を進める。 また、建物の老朽化が進んでいるため、小規模施設への再整備を進めるとともに、その方法について調整していく。 第5章 今後の県立障害者支援施設の役割を果たす施設の具体的な取組 第4章において、今後の県立施設の役割を果たす施設、民間法人へ移譲する施設、引き続き方向性を検討する施設を整理し、アクションプランに基づき当事者目線の支援の実践に取り組んでいる中井やまゆり園を、今後の県立施設の役割を果たす施設に位置付けた。 中井やまゆり園は、令和5年度から7年度までの3年間を計画期間とするアクションプランに基づく取組を進めており、定期的に第三者による進捗確認を行いながら、確実に改革を成し遂げる。 また、同時に、その成果を他の県立施設にも広め、当事者目線の支援に取り組んでいく。 今後の県立障害者支援施設の役割を果たす施設は、このアクションプランの理念、役割や具体的な取組を継承し、当事者目線の先駆的な支援及び重度障害者の地域生活移行というテーマで取組を発展させることにより、新たな福祉科学研究及び人材育成という役割を果たしていくものとする。 本章では、こうした考え方のもと、今後の県立施設の役割を果たす施設の基本理念、役割やテーマに沿った具体的な取組を整理する。 1 基本理念 今後の県立施設の役割を果たす施設は、アクションプランの理念を継承する。 <基本理念> 1 利用者一人ひとりの当事者目線に立って、利用者が主体となれるよう人生を支援する 2 障害者が街の中で当たり前に暮らせる地域共生社会を目指し、取組を進める なお、この基本理念は、県立施設に限らず、全ての入所施設において共有されるべきものである。 2 具体的な取組 第4章で整理した今後の県立施設は、アクションプランに基づく具体的な取組を継承するとともに、発展的に実践していく。 また、今後の県立施設の役割である福祉科学研究及び人材育成の具体的な取組と、そのテーマである当事者目線の先駆的な支援と重度障害者の地域生活移行の具体的な取組は、次のとおりである。 〔役割1〕福祉科学研究 当事者目線の支援による利用者の行動変化などを研究することにより、当事者目線の支援を体系的に整理し、その成果を広く民間施設等に展開する。 <具体的な取組> 大学や民間事業者等と連携して科学的根拠に基づく当事者目線の支援を確立 当事者目線の支援について、入所施設等をフィールドとして、公立大学法人神奈川県立保健福祉大学等の医療、看護、心理や福祉などの分野の大学、医療機関や民間事業者と連携して研究する。 具体的には、海外を含めた支援や人材育成等の先進事例の調査研究を行うとともに、当事者目線の支援に係る国や民間から提起された課題に対して外部資金等を活用して、大学や医療機関等からの研究員・専門人材の招へい、海外も含めた先進的な取組を行う施設等への職員派遣など、研究の対象や手法の充実を図りながら、研究を進めていく。 なお、研究・人材育成を進めるために適切な組織のあり方を検討する。 (研究内容のイメージ) ・ 知的障害者の発達や健康状況などを踏まえた支援のあり方に関する研究 ・ 環境の影響による知的障害者の行動変化に関する研究 ・ 重度障害者の地域生活移行に向けた支援手法や地域連携に関する研究 〔役割2〕人材育成 民間施設職員等が、研究成果により確立した当事者目線の支援を実践的に学ぶ機会を作り、当事者目線の支援を実践できる人材を育成する。 <具体的な取組> 当事者目線の支援を実践できる人材を育成 民間施設等との職員交流や民間施設等への助言指導といった活動を積極的に行うとともに、公立大学法人神奈川県立保健福祉大学等との連携を通じて県立施設等を学生の実習の場として提供することにより、県立施設だけでなく、民間施設等においても当事者目線の支援を実践できる人材を育成する。 〔テーマ〕当事者目線の先駆的な支援 園内外での日中活動を充実させるなど、地域と利用者本人とが関わりを深め、お互いに変わっていくことで地域の中で、人格の発達と存在が保障される支援を確立する。 <具体的な取組> 取組@ 障害者の地域での暮らしを作る 入所施設は利用者の人生を支援する場との認識のもと、生活環境の維持に年度や形式にとらわれない形で修繕などを行うとともに、日中活動を充実する。また、施設外に活動の場を設置し、その場を拠点として、ボランティア活動を行うなど、地域とのつながりを意識した活動を充実する。 さらに、地域の関係機関と連携し、障害者が地域で活躍できる仕組みづくりなどを進める。 こうした地域の事業所や住民との交流を活発に行い、障害者が地域で当たり前に生活できる環境を作っていく。 取組A 当事者目線の支援を実践 入所施設だけでなく、グループホームや日中活動の場など、多様な支援現場において科学的根拠に基づく当事者目線の支援を実践する。 なお、民間施設等との職員交流においても、交流先でこうした支援を実践し、民間施設等へ当事者目線の支援を普及させる。 〔テーマ〕重度障害者の地域生活移行《地域生活支援型施設》 重度障害者の地域生活に必要なサービスを確保しながら移行を進めるとともに、移行後に地域生活が困難となった障害者を一時的に受け入れ、再び地域の中で居場所を作り、仲間たちとのつながりの中で暮らしていけるような地域生活支援型施設としての支援を確立する。 「地域生活支援型施設」 利用者が地域に住まいを移した後も、継続的に支援していくとともに、一時的に地域での生活が難しくなった場合には、施設で受け入れるなど、利用者や家族の不安に寄り添った支援を行う。 <具体的な取組> 取組@ 利用者の地域生活に必要な受け皿やサービスを確保 利用者を支える多様なサービス(住居、就労、食事、医療、交通等)を「社会福祉連携推進法人制度」も活用しながら、地域の事業所や住民との連携を進め確保する。 また、利用者の地域生活移行の進捗状況やニーズにあわせ、重度障害者に対応できるグループホーム等や日中活動の場といった地域の受け皿を官民連携して確保するなど、今後の適切な支援のあり方を検討し、利用者のニーズに合わせた支援を行う。 <参考> 社会福祉連携推進法人制度(令和4年4月施行)… 社会福祉法人やNPO法人等が社員として参画し、その創意工夫による多様な取組を通じて、地域福祉の充実、災害対応力の強化、福祉サービス事業に係る経営の効率化、人材の確保・育成等を推進する制度。 取組A 入所施設から地域生活移行後のグループホーム等まで、利用者の暮らしにあわせて支援 利用者とともに、地域での望む生活に向けた計画を策定し、その実現に向けて相談支援事業所、支給決定市町村や家族等とチームで支援する。 利用者の地域生活に関わる地域の事業所や住民等にチームに参加してもらうことにより、利用者を中心とした地域でのネットワークづくりを進める。 地域生活移行後の一人暮らしやグループホームで生活に困った際に相談に応じ、施設で一時的に支援するほか、地域生活移行後も含めた継続した支援を検討し、一人ひとりにあわせた支援を行う。 3 その他 当事者目線の支援を実践していくため、施設の小規模化を図る。 ・ 地域生活移行の取組を進めるとともに、新規入所の受入を停止することにより、定員60名規模(短期入所の定員を除く。)まで小規模化を図る。 ただし、緊急短期入所の受入については継続する。 ・ 小規模化にあわせて、居室の個室化、ユニット化を図る。 ・ 現利用者の居場所を必ず確保することを前提として、例えば県自らがグループホームを設置するなど、必要な受け皿の確保をあわせて進める。 第6章 今後の県立障害者支援施設の役割を果たす施設の組織執行体制 今後の県立施設の役割を果たす施設が、第5章で整理した基本的な理念に基づいて、その役割とテーマに沿った具体的な取組を効果的かつ持続的に実践していくため、現在の県立施設において導入している県直営及び指定管理者制度による運営を再検討し、地方独立行政法人制度を含めて相応しい組織執行体制を検討する。 なお、後述のとおり、今後の県立施設の役割を果たすためには、県直営や指定管理者制度による運営も可能であるが、総合的に地方独立行政法人制度による運営の方がメリットが大きいと考えられる。 1 組織執行体制の整理 県直営、指定管理者制度及び地方独立行政法人制度の概要と特徴を整理する。 (1) 各制度の概要 各制度の概要は、次表のとおりである。 県直営 指定管理者制度 地方独立行政法人制度 根  拠 地方自治法第244条 (公の施設) 地方自治法第244条の2 (公の施設) 地方独立行政法人法 導入目的 公の施設の管理運営について、施設の意義や設置目的を踏まえ、地方公共団体が直接サービスの提供等を行う 公の施設の管理運営について、地方公共団体が指定した法人その他の団体に行わせ、民間のノウハウを活用しつつ、サービスの向上と経費の節減等を図る 地方公共団体が直接実施する必要はないが、民間では確実に実施されないおそれのある事務・事業について、地方公共団体が設立した法人に効率的・効果的な運営を行わせる 事業範囲 公の施設の管理運営 公の施設の管理運営 (個別法における制約あり) ・試験研究 ・大学の設置及び管理 ・公営企業の経営 ・社会福祉事業の経営 等 事業期間 定めなし 指定期間(5年が基本※) ※施設の特性等に応じて、5年よりも長期又は短期の指定期間を設定することも可能 中期目標期間(3〜5年※) ※大学は6年 事業主体 県 指定管理者(公募が原則) 地方独立行政法人(県が設立) 長の任命 県知事を公選 ― 県知事が理事長を任命 職  員 県職員 (公務員) 指定管理者職員 (非公務員) 地方独立行政法人職員 (非公務員型が原則) 主な財源 県が直接予算措置 県が負担する指定管理料や利用料金 県が交付する運営費交付金や自己収入 県立障害者 支援施設 への導入 中井やまゆり園 さがみ緑風園 愛名やまゆり園 津久井やまゆり園 芹が谷やまゆり園 三浦しらとり園 厚木精華園 なし (2) 各制度の特徴 事業運営、人事制度、財務・会計制度(予算執行・契約)、県や県議会等による統制・評価という観点から各制度の特徴を整理する。 ア 事業運営 (県直営) ・ 県が、自ら定めた運営方針に基づき、直接事業運営を行う。 (指定管理者制度) ・ 指定管理者が、選定時に提案した事業内容や協定書等に従い、創意工夫・ノウハウを活用して事業運営を行う。 (地方独立行政法人制度) ・ 法人が、県の作成した中期目標に従い、理事長のリーダーシップを生かしたトップマネジメントと法人の内部統制に基づき事業運営を行う。 イ 人事制度 (県直営) ・ 県が、地方自治制度に基づき人事管理(組織・定数・採用・育成・給与)を行う。 (指定管理者制度) ・ 指定管理者が、自ら組織体制や職員体制等を決定する。 (地方独立行政法人制度) ・ 地方独立行政法人は、県知事が理事長・監事を任命し、理事長が自ら内部組織の設置や職員体制等を決定する。 ウ 財務・会計制度(予算執行・契約) (県直営) ・ 県が、地方自治制度に基づき予算執行(単年度主義の原則・契約関係)する。 (指定管理者制度) ・ 指定管理者が、協定書や事業計画等に従い、予算執行(単年度主義によらない柔軟な契約関係)する。 (地方独立行政法人制度) ・ 法人が、中期目標や中期計画等に従い、予算執行(単年度主義によらない柔軟な契約関係)する。 エ 県や県議会等による統制・評価 (県直営) ・ 県及び議会は、包括的に指示・統制を図るとともに、第三者が監査を行う。 (指定管理者制度) ・ 県は、協定書等による指示、定期及び随時のモニタリング(現地調査等)により関与する。 ・ 県議会は、指定管理者の選定や予算等を審議する。 ・ 第三者が、指定管理者制度モニタリング会議において管理運営の有効性を確認する。 (地方独立行政法人制度) ・ 県は、理事長・監事の任命、中期目標による指示、中期計画の認可や年度計画等の承認、業務実績評価等により関与する。 ・ 議会は、定款、中期目標や予算を審議するとともに、業務実績評価等に意見を提出する。 ・ 第三者が、地方独立行政法人評価委員会において業務実績評価等に意見を提出する。 2 今後の県立障害者支援施設の運営における組織執行体制の比較検討 県直営、指定管理者制度、地方独立行政法人制度、これらの組織執行体制で、第5章で整理した今後の県立施設の役割とそのテーマの具体的な取組を実践した場合の特徴や、運営の透明性の確保という課題を比較検討する。 なお、ここでの比較検討は、人が生活する場である障害者支援施設の運営という観点から考え方を整理したものである。 〔役割〕福祉科学研究及び人材育成 <具体的な取組> ・ 大学や民間事業者等と連携して科学的根拠に基づく当事者目線の支援を確立 ・ 当事者目線の支援を実践できる人材を育成 <組織執行体制の比較検討> ア 県直営 ・ 県自ら定めた県立施設の基本理念に基づいて、主体的に取り組むとともに、課題等を県の施策に反映することが可能である。 ・ 地方自治制度上、定員管理が必要であるため、迅速な研究専門職の確保に制約がある。 ・ 単年度予算主義であるため、大学等と共同研究を行うための複数年を前提とした予算執行等に制約がある。 イ 指定管理者制度 ・ 障害福祉分野の研究について民間のノウハウは乏しく、指定期間があるため、必要な研究者の確保や研究成果の蓄積に制約がある。 ウ 地方独立行政法人制度 ・ 柔軟な人事制度や財務・会計制度を生かし、複数年度に渡る研究に必要な人材や資金を投入して大学や医療機関等と連携するとともに、海外を含めた支援や人材育成等の先進事例の調査研究や、支援現場に係る国や民間から提起された課題に対して外部資金等を活用することにより、大学や医療機関等からの研究員・専門人材の招へい、海外も含めた先進的な取組を行う施設等への職員派遣など、研究の対象や手法の充実を図りながら、研究を進めていくことが可能である。 ・ 当事者目線の支援を実践できる職員を育成し、民間施設等との職員交流や民間施設等への助言を通じて、広く専門人材を育成することが可能である。 ・ 法人の自主的な事業運営を生かす制度(事前統制を極力排し、事後評価を重視する仕組み)であり、県による年度中のモニタリングが及ばないため、事業進捗等の把握に制約がある。 〔テーマ〕当事者目線の先駆的な支援 <具体的な取組> 取組@ 障害者の地域での暮らしを作る 取組A 当事者目線の支援を実践 <組織執行体制の比較検討> ア 県直営 ・ 県自ら定めた県立施設の基本理念に基づいて、主体的に取り組むとともに、そこでの課題等を県の施策に反映することが可能である。【再掲】 ・ 県立施設だけでなく、本庁、児童相談所や保健福祉事務所等、福祉職の業務が多岐にわたるという本県の特色を生かし、採用後一定期間においては原則3〜5年ごとに異なる分野に異動し、幅広に業務を経験することで福祉全般に関する広い視野を獲得できる。 ・ 他方、職員の人事異動により利用者との関係性が継続しないという課題や、支援や障害者支援施設等の運営の専門性を高めにくいという課題がある。 また、施設業務を希望しない職員が配置される場合は、モチベーションの維持、向上が難しい場合がある。 ・ 地方自治制度に基づく予算執行や公契約としての手続があるため、柔軟・迅速な対応に制約がある。 イ 指定管理者制度 ・ 指定管理者の提案内容や協定に基づく人員配置計画等に従い、指定管理者が必要な職員を柔軟・迅速に確保し、配置することが可能である。 ・ 指定期間があるため、利用者の暮らしにあわせた継続的な支援をしていく上での制約がある。 ・ 施設の修繕等に当たって、県と指定管理者の間の業務分担が明確でない場合には協議する必要があるため、対応に時間を要する可能性がある。 ・ 実施する事業は指定管理者の提案内容や協定に基づく事業計画等に従うため、新規事業の立案・実施に制約がある。 ウ 地方独立行政法人制度 ・ 柔軟な人事制度により、県の定めた県立施設の基本理念に基づいて、法人が必要と判断した職員を迅速・柔軟に確保するとともに、中長期的な職員育成計画により専門職員を育成しながら、利用者の暮らしにあわせて柔軟に配置していくことが可能である。 ・ 理事長のトップマネジメントによる柔軟・迅速な意思決定や柔軟な財務・会計制度を通じて、新規事業の立案・実施、利用者の日々のニーズや生活環境の維持等に柔軟・迅速に対応することが可能である。 ・ 福祉分野は人材不足が指摘されており、法人のプロパー職員の計画的な確保が必要であることや、丁寧な引継ぎを行う必要があるため、法人設立当初は県の福祉職を派遣する必要がある。 〔テーマ〕重度障害者の地域生活移行の推進《地域生活支援型施設》 <具体的な取組> 取組@ 利用者の地域生活に必要な受け皿やサービスを確保 取組A 入所施設から地域生活移行後のグループホーム等まで、利用者の暮らしにあわせて支援 <組織執行体制の比較検討> ア 県直営 ・ 県自ら定めた県立施設の基本理念に基づいて、主体的に取り組むとともに、そこでの課題等を県の障害福祉施策に反映することが可能である。【再掲】 ・ 地方自治制度に基づく予算執行や公契約としての手続があるため、柔軟・迅速な対応に制約がある。【再掲】 ・ 県直営では、地域連携の有効な手段の一つである社会福祉連携推進法人になることができない。 イ 指定管理者制度 ・ 指定管理者の法人が自ら設置・運営するグループホームや日中活動の場も活用することにより、地域生活移行を進めることが可能である。 ・ 公の施設の管理運営という業務範囲があるため、入所施設だけでなく、自主事業であるグループホーム等も含めた一体的な運営や社会福祉連携推進法人による連携に制約がある。 ・ 指定期間があるため、利用者の暮らしにあわせた継続的な支援をしていく上での制約がある。【再掲】 ウ 地方独立行政法人制度 ・ 柔軟な人事制度により、県の定めた県立施設の基本理念に基づいて、法人が必要と判断した職員を迅速・柔軟に確保するとともに、中長期的な職員育成計画により専門職員を育成しながら、利用者の暮らしにあわせて柔軟に配置していくことが可能である。【再掲】 ・ 理事長のトップマネジメントによる柔軟・迅速な意思決定や柔軟な財務・会計制度を通じて、法人独自にグループホーム等を設置し、入所施設と一体的に運営することにより、地域生活移行を推進することが可能である。 ・ 社会福祉連携推進法人に参画して、小規模法人も含めた地域の事業者のネットワーク化を図ることにより、地域全体で利用者の地域生活移行や移行後の定着を支援していくことが可能である。 ・ 法人の自主的な事業運営を生かす制度(事前統制を極力排し、事後評価を重視する仕組み)であり、県による年度中のモニタリングが及ばないため、事業進捗等の把握に制約がある。【再掲】 〔課題〕運営の透明性の確保 <組織執行体制の比較検討> ア 県直営 ・ 県自らの判断により情報を公表し、または第三者によるチェックを受けることが可能である。 イ 指定管理者制度 ・ 指定管理者は、県との協定書等に従い、事故等を県に報告し、また、公表するとともに、県による定期及び随時のモニタリング(現地調査等)や第三者によるチェックを通じて、その実効性を担保することが可能である。 ウ 地方独立行政法人制度 ・ 制度上、法人自ら積極的な情報提供に努め、運営の透明性を確保することが求められているが、県による年度中のモニタリングが及ばないため、特に事故・不祥事等については早期に把握できる体制を構築するなど、県と法人との間における情報共有や公表等の仕組みを整える必要がある。 <結論> 今後の県立施設の役割を果たすためには、県直営や指定管理者制度による運営も可能であるが、組織執行体制の比較検討の結果を踏まえると、地方独立行政法人による運営の方が、その制度の特徴を生かして、より効果的かつ持続的に役割を果たすことができると考えられる。 また、運営の透明性の確保という課題については、県と法人の間における情報共有や公表等の仕組みの構築などで、対応できると考えられる。 こうしたことを踏まえ、今後の県立施設の組織執行体制は、「地方独立行政法人による運営」の方向とする。 以上より、各県立施設の方向性に関する整理は、次表のとおりである。 <県立施設の方向性> 県立施設として継続 地方独立行政法人による運営に移行する 中井やまゆり園 民間法人へ移譲 移譲に向けて、利用者や家族、現指定管理者(指定管理施設のみ)の意向も踏まえながら、移譲の時期、相手先や条件の検討を進め、調整がついた施設から順次、移譲していく。 さがみ緑風園 厚木精華園 三浦しらとり園 引き続き方向性を検討 (指定管理や施設の再整備の状況を踏まえて、引き続き検討していく。) 芹が谷やまゆり園 津久井やまゆり園 愛名やまゆり園 <参考>先行事例における取組(独立行政法人国立重度知的障害者総合施設のぞみの園) 独立行政法人による障害者支援施設の運営事例としては、平成15年に国(厚生労働省)が設立した独立行政法人国立重度知的障害者総合施設のぞみの園がある。その取組の特長は次のとおりである。 ・ 国が定めた中期目標に基づき、法人においても中期計画を策定し、法人自らグループホームや日中活動の場を設置・運営し、利用者の地域生活移行に取り組んでいる。 ・ 全国の入所施設等のニーズを踏まえた研究を行うとともに、施設への助言や講師派遣、研修等による人材育成にも取り組んでいる。 第7章 中井やまゆり園の地方独立行政法人化の進め方 中井やまゆり園を運営する地方独立行政法人の設立に向けて、定款や中期目標等の策定、人事給与・財務会計制度の構築やシステム導入等の準備を進めながら、県議会に進捗状況を報告していく。 1 組織執行体制の移行時期 中井やまゆり園は、令和5年度から7年度までの3年間を計画期間とするアクションプランに基づく取組を進めており、定期的に第三者による進捗確認を行いながら、確実に改革を成し遂げる。 また、本県の先行事例においては、地方独立行政法人の設立準備に2年程度の期間を要しているため、令和8年4月に新たな地方独立行政法人を設立し、同時に中井やまゆり園を同法人による運営に移行することを目指して調整していく。 2 効率的・効果的な運営を実現するための工夫 地方独立行政法人による運営に当たっては、次のような工夫により効率的・効果的な運営を実現していく。 (1) 運営の透明性の確保 本県設立の地方独立行政法人神奈川県立病院機構では、外部調査委員会に医療安全推進体制や医療事故等発生後の対応等の課題や改善策等を諮問し、その調査結果を受けて行動計画の策定や県との情報共有を含めた運営体制の見直しの検討を進めている。 令和8年4月の新法人の設立に向けては、その推移も確認しながら、運営の透明性の確保を検討していく。 また、報告・公表基準の明確化、県の関与、県議会への報告及び第三者のチェックについては、県から法人に対して明確な指示を行うなど、実効性を担保するため、地方独立行政法人法の趣旨を踏まえて、法人の業務運営における自主性を尊重しつつ、地方独立行政法人の認可権者である総務省とも相談・調整しながら検討を進める。 (2) 法人プロパー職員の戦略的な確保・育成 福祉分野は人材不足が指摘されていることを踏まえて、報酬体系だけでなく、就労環境、業務負荷、職場の風通しなどにも十分配慮しながら、戦略的に法人プロパー職員の確保・育成を進める。 (法人設立当初) 支援のコアとなる指導的立場に、民間の支援改善アドバイザークラスの職員を登用するとともに、県職員や当事者目線の支援を実践している先進的な民間施設等からの職員派遣により、当事者目線の支援を実践しながら、プロパー職員の育成を進める。 (中長期) 当事者目線の支援に関する研究の成果も活用し、民間施設やグループホーム等と人材交流を行い、多様な現場での支援経験やノウハウの共有を図りながら、当事者目線の支援を実践できるプロフェッショナル集団を育成していく。 また、県職員との交流を継続して行い、障害者支援の現状や課題について県に提言し、県の政策へ反映するためのフィールドとする。 こうした職員の育成に当たっては、職員の不安、悩み、ストレスを解消するための仕組みづくり、業務負荷の軽減やモチベーションの向上のための支援現場へのICTの導入や研修休暇等の自己研さんの仕組みづくりなどにもあわせて取り組む。 さらに、大学連携を通じた学生の実習の場の提供などにより、当事者目線の支援の必要性を理解し、県立施設の理念に共感する職員の確保につなげていく。 (3) 効率的な法人運営 役員報酬、財務・会計システムの運用や会計監査に要する費用等の地方独立行政法人特有のコストに加えて、指定管理者制度の場合に比べて職員の人件費が高くなる可能性があるため、効率的な法人運営を進める。 特に、地方独立行政法人において重度障害者向けのグループホーム等を運営する場合、当初は手厚い人員配置が想定されるが、将来的に民間による取組が期待される事業であることを踏まえると、法人の運営ノウハウの蓄積にあわせて、民間においても実行可能となるよう段階的に事業の見直しを図っていく必要がある。 参考1 県立障害者支援施設が条例の理念の具現化に向けて踏まえるべき条文 1 県民、事業者、県民との連携(第4条関係) 県は、市町村、事業者等と連携し、障害及び当事者目線の障害福祉に関する理解を深めるための普及啓発を行う。 また、当事者目線の障害福祉に関する施策に、県民、事業者又はこれらの者の組織する民間の団体の意見を反映することができるように必要な措置を講ずる。 2 障害福祉サービス提供事業者の責務(第7条関係) 障害福祉サービス提供事業者は、障害者に対する公的なサービスを提供するという極めて公共性の高い存在であることから、地域住民、関係団体等と連携し、地域の社会資源の活用、創出等を図りながら、当事者目線の障害福祉の推進に努める。 3 意思決定支援の推進(第10条関係) 障害福祉サービス提供事業者は、利用者の自己決定を尊重し、本人の願いや望みを尊重する支援の基礎となる意思決定支援に努める。 4 生涯にわたる障害者への支援体制の整備(第20条関係) 県は、障害者が生涯にわたり必要な支援を切れ目なく受けることができる体制の整備に努める。 5 高齢者施策等との連携(第21条関係) 県は、当事者目線の障害福祉に関する施策の実施に当たっては、高齢者及び子どもの福祉に関する施策との連携を図る。 6 支援手法に関する調査研究(第22条関係) 県は、障害の特性に応じた支援手法の確立を図るため、国内外の先進的な取組に関する情報の収集その他の調査研究に努める。 7 地域間の均衡(第24条関係) 県は、当事者目線の障害福祉に関する施策の実施に当たって、障害者に対する福祉サービスの地域間の均衡が図られるよう努める。 8 人材の確保、育成等(第26条関係) 県は、障害者の福祉に係る事業に従事する人材の確保、育成及び技術の向上を図るため、情報の提供、研修その他の必要な措置を講ずるとともに、従事者の職場への定着を促進するため、就労実態の把握、情報の提供、助言その他の従事者の心身の健康の維持及び増進並びに処遇の改善に資するための措置を講ずる。 また、障害者の福祉に係る活動及び事業並びに当該事業に従事することに対する県民等の関心を深めるため、広報活動の充実、当該事業の活動に接する機会の提供その他の必要な措置を講ずる。 参考2 独立行政法人及び地方独立行政法人の先行事例 1 本県の地方独立行政法人の設立事例 (1) 地方独立行政法人神奈川県立病院機構 設立日 平成22年4月1日 運営施設 (5施設) ・ 足柄上病院 ・ こども医療センター ・ 精神医療センター ・ がんセンター ・ 循環器呼吸器病センター 設立経緯 少子高齢化等による疾病構造の変化に加え医療ニーズの多様化、医療技術の高度・専門化等に伴う国の医療制度改革やドラスティックな診療報酬改定、国等の行政システム改革などの大きな変化に伴い、県立病院を取り巻く経営環境は厳しさを増している。 そのような中、県立病院が担う役割は増々増大していくことが考えられるが、現行の運営形態においては、制度的、実態的な制約があることから、新たな政策課題に適切に対応していくため地方独立行政法人化を行った。 主なメリット ・ 人材確保 手厚い看護基準への対応や、高い医療サービスを実現するための人員配置が可能となる。 ・ 明確な経営責任の実現 設立団体から独立した権限を有する理事長が、定款に定められた業務につき、明確な目標の下に、業務を計画、実行し、その結果について評価されることから、経営責任が明確となる。 ・ 契約事務等の事業執行の迅速化と経費削減 地方自治法の財務規定の適用除外となることで、契約に関する事務手続きが簡素化されることや、必要な業務について長期契約の締結が可能となり、事業執行の迅速化と経費削減を進めることができる。 (2) 地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所 設立日 平成29年4月1日 運営施設 (4施設) ・ 海老名本部 ・ 溝の口支所 ・ 殿町支所 ・ 横浜相談窓口 設立経緯 イノベーション創出に向けた取組を加速するためには、「基礎研究から事業化までの一貫した支援」や「企業支援ネットワークの中心的機関」という役割を担う新たな支援体制をつくることが求められていること、人事、組織、予算など組織運営の全ての面において、可能な限りの自由度を確保できる組織形態であることが求められること等から、神奈川県産業技術センターの機能と公益財団法人神奈川科学技術アカデミー(KAST)の機能を統合した地方独立行政法人を設立した。 主なメリット ・ 総合的な企業支援サービスの提供 基礎研究から事業化までの一貫した支援の実施に向けて、両機関の機能を組み合わせた継ぎ目のない支援に取り組むとともに、両機関の強みを融合して、技術支援を行う分野を拡大する。 また、企業支援ネットワークの中心的機関として、両機関のネットワークを組み合わせ、産学公の連携交流や人材育成などに資する事業の拡充を図る。 ・ 柔軟な人事制度の弾力的運用による人材の確保 職員が、これまで以上に意欲を向上させ、能力を発揮できるよう、試験・研究機関として最適な人事制度を導入する。 ・ 柔軟な予算制度の弾力的運用による機器整備 企業ニーズの変化に柔軟に対応した機器整備計画の変更や、外部資金に迅速に対応した予算の組替え等により、時宜に適った機器整備を行い、利用者サービスの向上を図る。 ・ 競争的資金活用による研究開発の促進 両機関の競争的資金獲得のノウハウとKASTの管理法人としての実績を活用し、幅広い外部資金を獲得することにより、経営資源の乏しい中小企業の研究開発を促進し、競争力の向上を図る。 (3) 公立大学法人神奈川県立保健福祉大学 設立日 平成30年4月1日 運営施設 (3施設) ・ 横須賀キャンパス ・ 川崎キャンパス(大学院ヘルスイノベーション研究科) ・ 横浜キャンパス(実践教育センター) 設立経緯 社会が成熟する中で、大学は、高等教育機関として、また、新たな知識や技術の発信源として、地域社会や産業界から大きな期待が寄せられていた。 また、急速な少子化によって大学進学者も減少していくことが見込まれており、大学同士の競争も激しくなっていくことが予想される中、特色を生かし、その存在価値を高めていく必要がある。 県の一機関であることで、予算や組織運営に関して一定の制約があるため、企業連携や人材交流等を活用した教育・研究の充実や、イノベーションの創出など、より魅力的な大学づくりを進めるために公立大学法人へと移行した。 主なメリット ・ 大学の自主自律度の向上 理事長を中心とした一体的な組織体制でトップマネジメントが強化され、意思決定が迅速かつ柔軟になるため、大学の自主性、自律性が高まる。 ・ 人材確保 大学独自の効果的な教職員の人事制度により、教育・研究・地域貢献・国際貢献機能の充実に向けた人材の確保が可能となる。 ・ 弾力的な財務会計制度 企業会計原則を基礎とする地方独立行政法人会計基準により、予算の効率的且つ弾力的な執行が可能になる。 これにより、長期継続契約を活用した経費の削減や、企業や他大学との柔軟な連携による外部資金の積極的活用により、教育・研究水準の更なる向上が期待できる。 2 独立行政法人国立重度知的障害者総合施設のぞみの園 (1) 概要 設立日 平成15年10月 前身 特殊法人心身障害者福祉協会 主な運営施設 ・ のぞみの園(施設入所支援・生活介護・自立訓練) ・ 就労継続支援B型事業所 ・ グループホーム ・ 地域生活体験ホーム ・ 児童発達支援事業所 ・ 放課後等デイサービス事業所 設立経緯 昭和46年4月に現法人の前身である特殊法人心身障害者福祉協会が「国立コロニーのぞみの園」として開設。 その後、国の行政改革の一環として特殊法人等整理合理化計画に基づき組織形態を独立行政法人とすることが決まり、平成15年10月に移行し重度知的障害者のモデル的な処遇を行う施設と位置付けて運営してきた。 運営目的 ・ 重度知的障害者に対する自立のための先導的かつ総合的な支援を提供する。 ・ 知的障害者の自立と社会経済活動への参加を促進するための効果的な支援の方法に関する調査、研究を行う。 ・ 知的障害者の支援業務に従事する者の養成及び研修を行う。 上記を通じて、知的障害者の福祉の向上を図る。 主な取組 〇 自立支援のための取組 ・ 施設入所利用者の地域移行の推進 ・ 高齢の施設入所利用者に対する支援 ・ 著しい行動障害を有する者等への支援 ・ 矯正施設を退所した知的障害者への支援 〇 調査・研究 〇 養成・研修 〇 援助・助言 (2) 独立行政法人設立後の状況  地域生活移行 国が定めた中期目標に基づき、地域生活移行に積極的に取り組んできた。 (平成16〜25年度実績:156名) 施設運営 法人自らグループホームや日中活動の場を設置・運営(グループホーム5箇所、就労継続支援B型事業所等)を運営している。 研究 強度行動障害やターミナルケアといった全国の入所施設等のニーズを踏まえた研究を行い、全国的なセミナーの開催等により人材育成に取り組んでいる。 運営コスト 中期目標で運営費交付金の削減に係る目標を設定し、入所者の地域生活移行により経費節減が図られた。 なお、同法人を所管する厚生労働省では、高齢化等により地域生活移行が困難になるなど、施設を取り巻く状況が大きく変化してきたことを受けて、平成30年に同法人の中長期的なあり方の検討を行い、その結果を踏まえてターミナルケアの導入や附帯事業の廃止など、実施事業の見直しを進めている。 3 他県の地方独立行政法人の設立事例 (1) 社会福祉事業 地方独立行政法人法に定める「社会福祉事業の経営」を行っている地方独立行政法人には、地方独立行政法人秋田県立療育機構がある。ただし、障害者支援施設ではなく、児童福祉法上の医療型障害児入所施設である。 (2) その他 障害者支援施設を運営している地方独立行政法人としては、地方独立行政法人栃木県立リハビリテーションセンターや地方独立行政法人広島県立病院機構がある。ただし、いずれの法人も地方独立行政法人法に定める「病院事業」が主たる事業である。