資料6 県立中井やまゆり園 当事者目線の支援改革プログラム 令和5年5月12日 県立中井やまゆり園当事者目線の支援改革プロジェクトチーム 県立中井やまゆり園当事者目線の支援改革プログラム 目次 はじめに 3 (支援改革プロジェクトチーム設置の経緯) 3 (外部調査委員会による調査及び県による虐待通報) 3 (改革プログラムの作成) 4 T部 これまでの経緯 7 (障害者や入所施設を取り巻く環境の変化と園の再整備) 7 (再整備前と再整備後の施設) 8 (園における強度行動障害対応) 9 (県立施設の機能特化と現場の実態が乖離) 9 (津久井やまゆり園の利用者支援の検証) 10 (県立施設の検証等) 11 (園の支援改革の着手等) 11 (園における不適切な支援に関する情報の徹底的な調査) 11 (外部調査委員会の調査結果) 12 (園における改善の取組) 12 U部 改革プログラムの作成に向けた振り返り 13 1 不適切な支援が行われてきた背景 13 (施設運営の指針となるべき理念がなく、人材育成に関する ビジョンもなかった) 13 (地域に戻れるようにすることを想定していたが、地域生活移行は進まず、 支援が難しい利用者が特定の寮に滞留した) 13 (問題行動の減少のみを目的とした手順書に沿って、機械的な支援が 行われていた) 13 (利用者の身体機能の低下が職員によって見過ごされ、入所前よりも状態が 重度化してしまった) 14 【詳細な振り返り】 15 2 現在の取組 20 (1)具体的な取組 21 (2)現場に常駐して支援改善アドバイザー等が感じた課題 22 (共感しあう関係性を作る) 22 (いのちと接する意識を持つ) 22 (風土を根本から変える) 23 (主体的な職員意識を育てる) 24 (利用者が社会とのつながりを感じられていない) 24 (利用者が幼少期から分離され、孤立した生活を送らざるを得なかった) 25 3 県立中井やまゆり園における利用者支援外部調査委員会で調査継続  となった事案の調査結果報告書から見えてきた課題 25 (1)情報提供者へのヒアリングができていない等、調査を継続する必要 がある事案 25 (2)過去の死亡事案の検証 26 V部 改革プログラム 28 1 目指す姿〜当事者目線の障害福祉を実現するために〜 28 (1)当事者目線の障害福祉を実現するための理念 28 (2)役割 28 2 当事者目線の支援を実践するために 29 (1)園での取組 〜一人ひとりの人生を支援する〜 29 ア 施設の見直し 29 (ア)定員規模の見直し 29 (イ)寮体制の見直し 30 (ウ)職員体制の見直し 30 イ 当事者目線の支援 30 (ア)園運営の方針 30 (イ)具体的な支援内容 30 (2)地域の取組に対する県の支援 〜地域を立て直す〜 39 ア 地域生活移行の受皿の整備 39 イ 地域生活移行の支援の強化 39 3 改革プログラムの進捗状況の確認 39 おわりに 〜外部有識者の意見〜 40 はじめに (支援改革プロジェクトチーム設置の経緯) 県立中井やまゆり園(以下「園」という。)は、令和2年7月に設置した「障害者支援施設における利用者目線の支援推進検討部会」(以下「検討部会」という。)から、「長時間の居室施錠が行われている」、「身体拘束の3要件の検討が不十分」などの指摘を受け、利用者支援の改善に向けて取り組んできた。具体的には、令和2年12月から、園における身体拘束の状況を県ホームページに掲載し、拘束の廃止や時間短縮に向けた検討を行い、令和3年2月には、1日8時間以上の身体拘束を行っていた22件の状況を、第三者の視点を入れる観点から関係自治体に情報提供し、市町村とともに、支援内容の検証を行った。この改革の取組をより一層加速させるため、県は、同年9月に、外部有識者などによる「県立中井やまゆり園当事者目線の支援改革プロジェクトチーム」(以下「支援改革プロジェクトチーム」という。)を設置した。この支援改革プロジェクトチームでは、身体拘束事案に係る支援内容の確認などを行うとともに、令和元年7月31日に発生した骨折事案について、県が収集した当時の記録などの確認を行い、県が行う再調査に対して、助言をしてきたところである。 (外部調査委員会による調査及び県による虐待通報) 一方、県は、骨折事案を再調査する中で、「事実であれば不適切な支援と思われる情報」を複数把握したことから、この情報の調査を行うため、令和4年3月3日に、支援改革プロジェクトチームのメンバーを構成員とする「県立中井やまゆり園における利用者支援外部調査委員会」(以下「外部調査委員会」という。)を設置した。外部調査委員会は、3月から9月までの間に計8回の委員会を開催して、同年4月26日に調査結果(第一次)を、9月5日には調査結果報告書を公表し、県に対し「支援職員は利用者を人間として見られなくなっている」「人権意識が欠如している」という指摘をしたところである。併せて、外部調査委員会で虐待が疑われると判断した25事案は、県から関係市町村(11自治体)に関係資料を送付するなどし、虐待通報が行われた。 (改革プログラムの作成) 外部調査委員会の調査では、事案が発生した背景までは分析することができなかった。そこで、外部調査委員会は、県に対し、二度と同じことを繰り返さなさいために、なぜこうした事案が起きたのか、できうる限り遡って、不適切な風土が醸成された背景を分析すること、また、今もなお、不適切な対応が続いていないのか支援の現場を直接確認すること、こうした踏み込んだ介入を踏まえて、改革プログラムを作成することを提言した。この改革プログラムは、こうした一連の経過の中で、令和4年11月から支援改革プロジェクトチームを再開し、作成したものである。この改革プログラムは、外部調査委員会からの「支援職員は利用者を人間として見られなくなっている」「人権意識が欠如している」という指摘を「地域社会から断絶された環境の中で、行動障害への対症療法的な対応によって、利用者の人間性や人柄を読み取ることがおろそかになっていた」と理解して、作成している。改革プログラムの内容であるが、T部では、障害者や施設を取り巻く環境の変化といった時代背景を整理した。U部では、時代背景を踏まえ、実際の施設現場で、どのような考えに基づき、支援が行われてきたのか、また、福祉人材が育成されてきたのかなど振り返りつつ、現在、既に行われている園の改革の状況等を確認した。V部では、過去の振り返りや現在の取組の分析結果、県が行った調査結果を踏まえ、新たな改革の方向性となる改革プログラムを示している。今回、虐待認定されたか、されなかったかにかかわらず、不適切な支援への指摘を県として真摯に受け止め、改善してくことが最も大切なことであり、県は、被害にあった利用者だけでなく、不適切な支援へと追い詰められた職員も救わなければならない。居室施錠は利用者だけでなく、職員も施設に閉じ込めてきたということであり、本来、こうした不適切な環境は、マネジメントする側の職員が指摘をして改善すべきところだが、園では、そうした指摘をする職員もいなかった。また、県本庁も、こうした実態を知りながらも放置してきた等、マネジメントの根源的な問題を変えなければならない。利用者と現場職員が一緒になって、当事者の目線で環境を変えていく、という考え方に立つことが重要である。この改革プログラムが、園の真の改革につながり、持続的な取組につながることを期待し、提言する。 <参考>支援改革プロジェクトチームについて 〇 メンバー (五十音順 敬称略) 区分 氏名 所属等 施設関係 大川 貴志 社会福祉法人同愛会 てらん広場 統括所長 意思決定支援 小川 陽 特定非営利活動法人 かながわ障がいケアマネジメント従事者ネットワーク 理事 当事者関係 小西 勉 ピープルファースト横浜 会長 学識関係 佐藤 彰一 國學院大学 法学部 教授 当事者関係 隅田 真弘 足柄上地区委託相談支援事業所相談支援センターりあん ピアサポーターフレンズ 医療関係 野崎 秀次 汐見台病院 小児科、児童精神科、精神保健指定医 医師 学識関係 渡部 匡隆 国立大学法人横浜国立大学大学院教育学研究科 教授 県 福祉子どもみらい局総務室長、福祉部長、障害サービス課長、  県立障害者施設指導担当課長、中井やまゆり園長、支援改善アドバイザーほか 〇 開催状況 〔第1回〕開催日 令和3年10月26日(火) 議 題 ・ 園の現状と課題について ・ 今後の進め方について 〔第2回〕開催日 令和3年11月30日(火) 議 題 ・ 改革プログラムについて ・ 再調査報告について 〔第3回〕開催日 令和3年12月28日(火) 議 題 ・ 改革プログラム中間論点整理について ・ 再調査の状況について  〔第4回〕開催日 令和4年2月15日(火) 議 題 ・ 改革プログラム最終報告の方向性について ・ 再調査の結果について 〔第5回〕開催日 令和4年2月24日(木) 議 題 ・ 改革プログラムの報告について ・ 再調査の結果について <支援改革プロジェクトチームの休止と再開> ※ 支援改革プロジェクトチームメンバーを構成員とする外部調査委員会の設置により、支援改革プロジェクトチームを休止 ※ 令和4年3月から9月にかけて外部調査委員会を8回開催 ※ 同年9月5日に調査結果報告書を公表後、支援改革プロジェクトチームを再開 〔第6回〕開催日 令和4年11月8日(火) 議 題 ・ プロジェクトチームの進め方 ・ 園の支援改善状況 ・ 不適切な事案が発生した背景・仮説 ・ 調査継続事案の調査状況の報告 〔第7回〕開催日 令和5年1月11日(水) 議 題 ・ 調査継続事案の調査状況の報告 ・ 園の支援改善状況 ・ 改革プログラムの作成に向けて 〔第8回〕開催日 令和5年2月15日(水) 議 題 ・ 調査継続事案の調査状況の報告 ・ 支援改善アドバイザーによる取組 ・ 改革プログラムに向けた振返り ・ 改革プログラムの論点整理 〔第9回〕開催日 令和5年3月15日(水) 議 題 ・ 調査結果報告書(たたき台) ・ 改革プログラム(素案) 〔第10回〕開催日 令和5年4月18日(火) 議 題 ・ 調査結果報告書・改革プログラム(素案) 〔第11回〕開催日 令和5年5月9日(火) 議 題 ・ 調査結果報告書・改革プログラム(案)? T部 これまでの経緯 (障害者や入所施設を取り巻く環境の変化と園の再整備) 〇 障害福祉施策は、平成15年4月に、支援費制度が導入され、行政主体の措置制度から利用者と事業者・施設が対等な立場でサービス利用契約を結ぶ契約制度に移行し、更に、新障害者プランの中で、脱施設化が示された。その後、平成18年4月には、身体・知的・精神の3障害が一元化され、障害者自立支援法が施行された。 〇 この法律では、 ・ 「施設から地域生活へ」の移行がより明確になった ・ 障害者の入所施設は、昼間と夜間のサービスに分離されるとともに、平成23年度末までに、新しい法律に基づく障害者支援施設への移行が求められた 〇 なお、平成25年4月には、障害者自立支援法に代わり、障害児者の基本的人権を享有する個人としての尊厳を明記した障害者総合支援法が施行された。 〇 一方、園は、昭和47年4月、障害程度が最重度の障害者の受皿となる、1寮50名といった大舎制で、定員は3寮合計で150名の大規模収容型の精神薄弱者援護施設として、現在地に設置された。 〇 平成9年4月、県は、園の再整備に着手し、措置制度の下で、20名を1ホームとする小規模化や、個室化が図られたものの、定員規模は132名と大規模収容型の施設のままであった。平成14年4月には、8名を1ユニットとする強度行動障害者専用の棟(泉寮)が再整備された。 〇 園を含む県立障害者支援施設(以下「県立施設」という。)は、平成20年に障害者自立支援法に基づく新体系である障害者支援施設へ移行したが、支援の内容や施設のあり方の見直しがされてこなかった。 (再整備前と再整備後の施設) 項目 再整備前 再整備後(平成14年以降) 定員 150名 140名 寮体制 3寮 (50名×3寮) 7寮 (22名×6寮、8名×1寮) 特徴 男性寮 1寮 重度の身体障害と知的障害が重複する方 泉寮 強度行動障害者の方 海寮 自閉症及び自閉的な傾向を有する方 2寮 重度の知的障害の方 山寮 医療的ケアが必要な方、車いす利用・転倒の恐れがある方 空寮 比較的高齢の方で、内科的疾患のある方 星寮 比較的若く、様々な特徴のある方 女性寮 3寮 重度から中度、若い方から高齢の方等、様々な方が一緒に生活 春寮 50歳以上の方、車いすの方 秋寮 比較的若く、自閉的傾向を有する方が多い ※再整備後の記録による。 なお、令和4年6月に、海寮と山寮を再編統合し、6寮体制となっている。 (園における強度行動障害対応) 〇 国の強度行動障害に関する施策は、昭和63年にスタートした強度行動障害に関する研究を受け、平成5年4月に、強度行動障害特別処遇事業が、平成10年7月には、強度行動障害特別処遇加算費が創設された。県はこれを受けて、当時の国の基準で強度行動障害と判定された障害者を3年間で、行動障害を軽減して、地域に戻れるようにするという目標のもと支援がはじまった。 〇 しかし、現実には、園内での強度行動障害対策事業とする3年間を超えても、事業対象として支援が継続された。また、園の過度に刺激を排除した環境の中では、行動障害の指標となる点数は下がっても、地域生活に戻れる障害者はいなかった。 〇 なお、国の強度行動障害特別処遇加算費が終了し、重度障害者加算に移行する中でも、県の強度行動障害対策は、従前の国の基準に則った運用がなされ、見直しがなされてこなかった。 <参考:平成20年度から令和4年度までの強度行動障害対策事業※1対象者の状況> 強度行動障害対策事業対象者(10点以上※2) 対象者 27名 事業対象期間(平均) 9.0年 基準表による点数の減 (事業開始時と終了時の比較) 26名 地域生活移行者数 0名 ※1 平成19年以前の状況について、文書の保存期間を満了しており、確認できなかった。なお、県は、神奈川県当事者目線の障害福祉推進条例〜ともに生きる社会を目指して〜(以下「当事者目線条例」という。)の施行に伴い、令和4年度末をもって県独自の強度行動障害対策事業を終了している。 ※2 当時の国の基準に基づき、作成された強度行動障害判定基準表による点数 (県立施設の機能特化と現場の実態が乖離) 〇 こうした中、県本庁においては、行政改革の流れの下、民間にできることは、民間に委ねるという方針で、県立施設においても運営の見直しが進められた。この見直しにより、平成12年4月には愛名やまゆり園が、平成17年4月には津久井やまゆり園が、県立直営施設から、県立民営の施設へ移行した。 〇 一方で、県立直営として運営を継続することとされた園は、強度行動障害者など、民間では特に対応が困難な障害者支援に特化する施設に位置づけられた。こうした背景において施設現場では、既に入所している強度行動障害者の移行が進まない中においても、新規に強度行動障害のある方を受け入れ続け、その結果、園内には、対応が難しい利用者が多数滞留することになった。 〇 平成14年4月の再整備直後から、泉寮だけでなく、海寮には国・県の強度行動障害対策事業対象者、秋寮には県の強度行動障害対策事業対象者が生活していた。平成15年度の途中から、海寮から山寮に強度行動障害対策事業の対象者ではないが、自閉症・自閉的傾向のある3名の利用者が移寮し、強度行動障害対策事業を行っていた寮以外でも自閉症の方の支援を行うようになった。 (津久井やまゆり園の利用者支援の検証) 〇 平成28年7月26日、県立施設である津久井やまゆり園において、突然の凶行により、19人の尊い生命が奪われ、27人が負傷するという大変痛ましい事件が発生した。 〇 県は、同年10月14日、神奈川県議会とともに「ともに生きる社会かながわ憲章」を策定し、平成29年10月には「津久井やまゆり園再生基本構想」を策定し、これに基づき、利用者の意思決定支援や津久井やまゆり園、芹が谷やまゆり園という二つのやまゆり園の整備に取り組んできた。 〇 ところが、かつての津久井やまゆり園の利用者支援に関し、不適切な支援が行われてきたと指摘する情報が県に寄せられた。そのため、県は障害者支援や権利擁護などの専門家の視点から深く調査する必要があると判断し、令和2年1月に「津久井やまゆり園利用者支援検証委員会」(以下「検証委員会」という。)を設置した。 〇 同年5月に公表した中間報告書では、検証によって明らかになった課題は他の県立施設にもあてはまる横断的な課題であると考えられ、検証の対象を他の県立施設に拡大し、身体拘束への対応も含め、利用者目線の支援等について、更なる検証が必要であるとされた。 (県立施設の検証等) ○ このことを受けて、同年7月、県は、検証委員会を発展的改組した「検討部会」を設置した。 〇 令和3年3月に公表された報告書では、「身体拘束に対する認識が低く、現場では漫然と身体拘束を継続している」、「人権擁護や障害者の尊厳を尊重するといった理念が十分に浸透していない」、「本人の願いや希望を第一に考え、本人の望む暮らしを実現するため、県立施設の役割を見直していく必要がある」など指摘を受けた。 〇 この指摘に対し、県は、県立施設の身体拘束の実施状況について、県ホームページによる見える化を図りつつ、利用者支援の改善を進め、令和3年6月には「当事者目線の障がい福祉に係る将来展望検討委員会」を設置した。この委員会では、大規模施設である県立施設について、「行動障害のある人に集団生活を強いるため不向き」、「閉鎖的管理的な支援に陥り、身体拘束に頼った支援になりやすい」、「利用者の状態像を重篤なものに変容させていく構造的な課題がある」などの課題が指摘され、併せて「施設の小規模化」といった方向性が提言された。 (園の支援改革の着手等) 〇 さらに、県は、令和3年9月、外部有識者などによる支援改革プロジェクトチームを設置し、県直営の園における身体拘束ゼロの実現に向けた取組のより一層の加速化と、通過型施設など県立施設の当面の役割を見据えた施策の検討を開始した。 〇 併せて、令和3年9月に職員による虐待と組織による隠蔽を疑う報道があった、令和元年7月31日に発生した骨折事案について、支援改革プロジェクトチームの助言を得ながら、再調査を開始した。 (園における不適切な支援に関する情報の徹底的な調査) 〇 県は、骨折事案に関する職員ヒアリングを実施する中で、「事実であれば不適切な支援と思われる情報」を複数把握した。 〇 そこで、不適切な支援と思われる情報が他にもないか確認するため、令和3年12月から令和4年1月にかけて園の職員等を対象にアンケートを実施したところ、さらに複数の情報を把握した。 〇 令和4年3月3日、支援改革プロジェクトチームの構成員による外部調査委員会を設置し、把握した情報について徹底的な調査を開始した。 (外部調査委員会の調査結果) 〇 外部調査委員会は、調査を通じて、不適切な支援に関する91件の情報を把握した。 〇 令和4年9月、外部調査委員会は、把握した情報のうち、虐待が疑われると判断した25事案、不適切な支援等で速やかに支援方法等を見直すべき12事案など、調査結果を取りまとめた。 〇 また、調査結果に関する考察として、「支援職員は利用者を人間として見られなくなっている」「人権意識の大きな欠如が生じている」と指摘し、県に対し、二度と同じことを繰り返さないために、なぜこうした事案が起きたのか、できうる限り遡って、不適切な風土が醸成された背景を分析し、今もなお、不適切な対応が続いていないのか支援の現場を直接確認すること、こうした踏み込んだ介入を踏まえて、改革プログラムを作成することを提言した。 (園における改善の取組) ○ 園では、この調査と並行し、令和3年10月から令和4年2月までに行った支援改革プロジェクトチームの議論を踏まえ、令和4年4月から民間の支援改善アドバイザーが配置され、利用者一人ひとりの再アセスメントや、日中活動の充実等の改善が始まった。 〇 支援改善アドバイザーによる改善は、園内外での日中活動の充実を図るため、すべての利用者の活動への参加が進められ、令和2年12月に61件であった身体拘束は、令和5年2月には11件に減少し、併せて、利用者の暮らしは変わり、笑顔が増えるなど変化の兆しが見られ始めている。 U部 改革プログラムの作成に向けた振り返り 1 不適切な支援が行われてきた背景 (施設運営の指針となるべき理念がなく、人材育成に関するビジョンもなかった) 〇 県は、園に、「強度行動障害対策の中核施設」や「民間では特に対応困難な利用者の最終的な受入先」等といった役割を位置付けたが、施設が「利用者の人生を支援する場」等、施設運営の指針となるべき理念は示さなかった。 〇 また、行動障害に苦しむ強い自閉特性のある方や知的障害の方への支援ができる人材の育成に関するビジョンもなかった。施設運営や人材育成の方針は、理念が示されない中、施設任せとなっていた。 ○ 理念が欠如するとともに、大規模な施設を運営する中で、組織内での連携による園のマネジメントが欠落していた。 (地域に戻れるようにすることを想定していたが、地域生活移行は進まず、支援が難しい利用者が特定の寮に滞留した) 〇 こうした状況の中、平成14年4月の施設再整備完了後、園は役割に基づいて、強度行動障害の利用者等の受け入れを行ってきた。当初は国の加算対象期間である3年間で、行動障害を軽減し、入所前に暮らしていた地域に戻れるようにすることを想定していた。 〇 しかし、園では、特殊な環境の中で行動障害の指標となる点数を軽減できたものの、地域での暮らしに即した支援はできていなかった。そのため、地域生活移行は進まず、支援が難しい利用者が特定の寮に滞留した。地域も、利用者を「最終的な居場所」として園に入所させ、地域に帰ってくる準備をしていなかった。 (問題行動の減少のみを目的とした手順書に沿って、機械的な支援が行われていた) 〇 園の特殊な環境のもとでは、音や物、他利用者の行動などに過敏に反応してしまうため、安全安心のためにはやむをえないということで、長時間の居室施錠が行われていた。また、利用者の日々の生活の支援は、生活を豊かにするというよりも、問題行動の減少のみを目的とした手順書に沿って、機械的な支援が行われていた。 〇 この手順書は、利用者が問題行動(行動障害)を起こさないように、利用者と職員との関わりを最小限とすることを狙いとして設定された内容だった。手順書だけを見ても、どの利用者の手順書なのか読み取ることができない等、利用者の「人間性」を読み取ることはできず、読んだ職員が利用者の人生、生き難さに共感することができないものであった。 〇 手順書は、人事異動の度に引き継がれていったが、本人の人生(物語)を中心とした引継ぎではなく、問題行動への対処方法が中心となっていた。また、日々変わりゆく利用者の状態から手順書の見直しが行われることも少なかった。 (利用者の身体機能の低下が職員によって見過ごされ、入所前よりも状態が重度化してしまった) 〇 入所期間が長く、介助度の高い利用者に対しては、食事・入浴・排泄といった日常的な介助が中心となっていたが、とりわけ、食事支援においては、共感しあえるような関わりは乏しく、食事提供が主な業務となっており、本人の身体機能の維持や食事リスク、栄養状態をどこまで理解した上での食事支援であったのかは疑問が残るところである。 〇 更に、支援を担当する福祉職以外の医療関係者等専門職と目標が共有されないまま、摂食嚥下評価※注1〜3が行われており、利用者の望む暮らしに反映されていないことが多い。 ○ 利用者の望む暮らしに、摂食嚥下評価といった身体機能評価の結果が反映されず、また、共感しあえるような関わりが乏しい中で、食事を噛まずに飲み込んでいる状況や部屋に閉じこもっていて足がやせ細っている状況などが職員によって見過ごされ、過齢に伴う機能低下以上に身体機能の消失、低下が起き、入所前よりも状態が重度化してしまった利用者も散見された。 こうした背景が、「人権意識の欠如」「利用者を人間として見られなくなった」と指摘を受けるような状態に陥らせた可能性がある。 【詳細な振り返り】 (施設運営の指針となるべき理念の欠如) ○ 県は、平成15年度に「県立社会福祉施設の将来展望検討会議」を開催し、県立施設の役割は「民間では受け入れることが難しい強度行動障害者等を引き受ける」役割と位置づけた。 ○ また、平成16年4月に、強度行動障害対策事業を創設し、園はその中核施設として、他の県立施設と連携しながら、3年間を目途に強度行動障害の状態を安定させ、地域で受け入れてもらうことを目標として取り組んだが、県は、施設が「利用者の人生を支援する場」等、施設運営の指針となるべき理念は示してこなかった。 ○ 園は、民間では対応が困難な利用者を受け入れることを役割として捉え、「地域に戻れない人」といった認識に陥り、例えば、入所の際も、一人ひとりに対して、自分の人生をどう生きたいか、入所の目的は何なのかといった、本人の目線に立った意識合わせを、本人を含めた関係者で行うこともなく、利用者の地域生活移行は進まない状況にあった。 ○ 県は、園において、強度行動障害を理由に入所した方の地域生活移行が進まない状況にもかかわらず、障害児入所施設における18歳以上の入所者、いわゆる過齢児を解消するため、平成27年4月から令和2年3月までの間に、13名の過齢児の入所を進め、支援現場の負担は増していった。 ○ また、地域生活移行が進まないことに加えて、自傷や他害といった支援が難しい利用者が多いことで、園は事故が起きることを恐れ、支援の目標が、「施設内で事故なく安全・安心に暮らす」ことへ変化し、さらに、県本庁からの支援現場の実態から乖離した事故防止に対する形式的な指導などから、職員は、支援を見直すことで利用者が不安定となり、事故につながることを恐れるようになっていった。 ○ 理念が欠如するとともに、大規模な施設を運営する中で、組織内での連携による園のマネジメントが欠落していた。 (人材育成のビジョンもなかった) ○ 県は、平成22年3月、福祉職の人材育成に関して、多角的な視点を持った福祉のジェネラリストを育成する方針を定め、採用から10年程度をジョブローテーション期間とし、4年を目安に異動を行い、複数の分野(施設、児童相談所、福祉事務所、県本庁など)を経験させるなどとしたが、障害者支援施設で利用者支援にあたる人材の育成方針はなかった。 ○ また、利用者支援の中核となるスーパーバイザー、チーム支援のリーダーシップを担う職員について、責任や役割に応じた人材育成の考え方が無く、一般的な人事評価のもとで組織管理をした結果、現場の雰囲気を醸成できる職員や、「この人のようになりたい」、「この人のもとで仕事をしていきたい」というロールモデルとなる職員といった、現場をリードしていく職員を育成してこれなかった。併せて、支援現場では、ベテランの職員によるOJT※注4が十分に機能していなかった。 ○ また、障害者支援施設の現場においては、対応が難しい利用者への支援は、職員にとって支援を考え、成長する機会であるという基本的な認識が欠落しており、短期間での人事異動が繰り返される中で、利用者の担当職員も頻繁に変わり、職員が利用者と関わり、理解を深めていくことは難しくなっていった。 ○ 更に、職員の配置や人事異動は、職員の適性や意向を中心とした行政組織としての一般的な運用に基づいて行われており、利用者の暮らしや、職員と利用者の関係構築など、利用者の施設での暮らしに合わせた人事の配慮は行われず、職員は、短期間でしか利用者と関わることができないため、入所当初に比べて歩行機能や嚥下機能といった利用者の機能が維持されているのか、低下しているのかといったこともわからなくなってしまった。 ○ 再整備後の園では職員の専門性を高めるため、寮ごとに同様の障害特性をもった利用者を集めた。更に、同性介護を徹底し、生活空間に同性しかいない空間を作ったことで、地域では当たり前に存在している多様性、社会性が寮や施設から失われ、利用者も職員も多様な人間関係の中で生活を築くことができなくなった。 ○ こうした障害特性で寮を分けて運営をしてきたが、それぞれの寮で必要な職員数を検討せず、画一的に配置してきた。例えば、高齢な利用者や医療的配慮が必要な利用者を集めた寮では、食事支援等の場面で職員の手が不足していた。 ○ また、寮ごとに特性を付けたことで、応援体制が構築できない等、縦割り文化が作られていった。 (地域へ戻れるようにすることを想定していたが、地域生活移行は進まず、支援が難しい利用者が特定の寮に滞留した) ○ 入所前に関わっていた関係自治体や相談支援事業所等は、利用者の状態や生活を確認することが少なくなり、入所以降、関係機関との関係も希薄になっていった。 ○ 利用者が再び地域で暮らせるようになるために、県本庁、関係自治体と園は、つながりが薄れてしまった地域との関係を再構築していく働きかけをお互いに行ってこなかった結果、地域の理解や他の県立施設への移行も含めた、地域への具体的な受け入れは進まなかった。 ○ 地域での受け入れが進まず、利用者の暮らしは施設内で完結し、園の意識が、地域で対応困難な障害者の終の棲家的な意識へと陥っていく中で、園の閉鎖性はより高まり、また、職員が入れ替わり、事業所との顔の見える関係が希薄化し、園は地域の中で孤立してしまった。 ○ 関係自治体や相談支援事業所も、民間では特に対応困難な強度行動障害の方を園に入所させることが目的となってしまった結果、利用者が生活する様子を見ることなく、サービス等利用計画のモニタリングも不十分なまま、漫然と長時間の居室施錠などの身体拘束が続けられていた。 ○ 令和3年2月に長時間の身体拘束22件(22人)の状況を11の関係自治体へ情報提供した。しかし、その後、令和2年度から3年度までの間に、県本庁と園と相談支援事業所、関係自治体等が参加し、園においてモニタリングを行ってきたが、サービス等利用計画が書き換えられた利用者は3人だった。 (問題行動の減少のみを目的とした手順書に沿って、機械的な支援が行われていた) ○ 職員の技術や知見が積み上がる前に人事異動が繰り返されていく中で、行動障害のある利用者と職員の安全・安心を確保する業務が引き継がれ、安全安心のためにはやむをえないということで、長時間の居室施錠が行われていた。 ○ また、利用者の日々の生活の支援は、生活を豊かにするというよりも、問題行動の減少のみを目的とした手順書に沿って、機械的な支援が行われていた。 ○ この手順書は、利用者が人との関わりが少なくても日課をこなせるよう設定された内容だった。手順書だけを見ても、どの利用者の手順書なのか読み取ることができない等、利用者の「人間性」を読み取ることはできず、読んだ職員が利用者の人生、生き難さに共感することができないものであった。 ○ 職員は、利用者との関わりが分かるようになる前に人事異動となり、利用者と職員との関係性の中で利用者支援が培われる環境はなくなった。利用者と関わって対人関係や信頼関係を築いていく、利用者と向き合って暮らしを作っていく、という人間同士の関わりという前提が後回しになってしまう組織文化が醸成されていった。 ○ 利用者と職員との関係性が深まらない中で、構造化や刺激の遮断といった方法論だけが表面的に引き継がれ、対人関係や信頼関係を築いていく、暮らしを作っていくという目的は失われた。利用者と人として関わり、向き合って、一人ひとり、その時々の状態や状況に合わせて、環境を作り、本人の苦しさを解消していくという本人の目線に立った支援の前提が変わってしまった。 ○ その結果、手順書や日課に必要以上に固執し、日課を計画どおりに行うことが、施設における利用者支援であるという錯覚に陥った結果、「日課の早回し※注5」といったことが行われる状況も生じた。 ○ 医療との連携も対症療法的に専門家の指示を仰ぐのみとなり、福祉専門職としての主体性が失われ、依存状態に陥ってしまった。また、共に利用者の生活を創り上げていくパートナーであるという理解が不足していた。 ○ そのため、利用者の人となりや健康状態、利用者に処方されている薬と、福祉的な生活介護を組み合わせて、本人の目線に立って支援をするという意識が低くなった。 ○ 看護の目線も表面的になり、例えば、熱が出た時に、額に手を当てて心配するというような家庭看護の視点・当たり前のケアの視点が失われ、本人の体調等の認識ができず、適切なタイミングで医療機関の通院に繋がっていなかった。 ○ こうした施設運営が続けられていく中で、重度の利用者を受け入れ、施設内で完結する支援が長期化し、職員は、他では対応困難な障害者であり、重度の障害があるから「仕方ない」という意識や「あきらめ」といった無力感が生まれ、人としての基本的な関わり、暮らしを作る、という「当たり前」の意識が欠如し、障害者支援施設に求められる職業倫理・人権意識が希薄化した。 (利用者の身体機能の低下が職員によって見過ごされ、入所前よりも状態が重度化してしまった) ○ 障害者支援施設に求められる職業倫理・人権意識が希薄化し、本人への不適切な支援につながる風土が生まれる中、現場職員が関わらない(働きかけない・見守るだけ)ことで、加齢以上に利用者の機能低下がみられるようになった。例えば、食事支援において立って支援をすることで、口元を確認せず、誤嚥のリスクが高くなることや噛まずに飲み込むことで咀嚼機能が低下していることに気づかず、機能低下に伴ってごはんからおかゆへ食形態を落としていた。 ○ 現場職員は短期間しか担当しておらず、支援上においても利用者との関わりが少なかったため、利用者が本来持っている身体機能を把握できず、利用者の機能維持や向上に意識が向かなかった。そのため、食事や移動といったそれぞれの日常生活の場面で、利用者の障害の重度化につながっていた。 2 現在の取組 県は、令和4年2月までの支援改革プロジェクトチームでの議論を踏まえ、同年3月から、県本庁幹部職員を園に常駐させ、同年4月からは民間の支援改善アドバイザー及び地域共生コーディネーターを配置した。 現在、支援改善アドバイザーの指導を受けながら、これまでの支援を根本から見直し、利用者の人となりを知り、関わりながら、利用者と職員が一緒になって暮らしを作る取組を、園と県本庁が一体となって進めている。 【支援改善アドバイザーについて】 配置日:令和4年4月1日? 人 数:3名 勤務日:週2?3日 主な内容 (支援改善) ○ 園内各寮をラウンドし、利用者に話しかけ、関わりを持ちながら、現場職員への助言や現場支援に直接介入 ○ ケースカンファレンス(園長、各課寮長、スーパーバイザー、担当職員・毎週 2回3?4ケース程度) 〇 身体拘束廃止検討会議等の園内会議に参加 (マネジメント改善) ○ 課寮長ミーティング(園長、各課寮長、スーパーバイザーが参加) ○ 朝の連絡会への参加(寮長以上が出席・毎日) ○ 幹部会議への参加(寮長以上が参加・毎週) 【地域共生コーディネーターについて】 配置日:令和4年4月25日〜 人 数:1名 勤務日:週2〜3日 主な内容 ○ 園内の日中活動(受注作業)充実に向け、近隣企業・地域(地元自治会や関係自治体、商工会議所等)との関係構築・日中活動の場の開拓 ○ 秦野駅前の日中活動拠点(らっかせい)で、地域住民等と共同して活動するために必要な助言 (1)具体的な取組 ア 支援改善(暮らしの改善・利用者と共感しあう関係づくり) 支援改善アドバイザーによる当事者目線の支援の実践指導 〇 共感しあう関係性を作る ・ 利用者の人となりの理解(再アセスメント、成育歴の再調査、人となりシート※注6による利用者一人ひとりの人生の振り返り) ・ 利用者の暮らしを一緒に作る実践 ○ 利用者一人ひとりが世界の広がりを実感する暮らし ・ 地域共生コーディネーターによる日中活動の場の開拓 ・ 地域で暮らす支援の仕組みづくり(秦野駅前の日中活動拠点を設置、公園等の環境整備活動等、地域の方との交流を深める) 〇 仲間と協働・協力する暮らし(働く(手帳の解体等、社会の中で自身の役割を実感する活動)、遊ぶ、くつろぐ) ・ 地域での体験(地域での仲間づくり・暮らしの準備) イ 生活環境の改善 〇 トイレの便座や居室の天井(便がついた天井)等の修繕工事 〇 見守りカメラを3寮12台から6寮76台へ増設 〇 録画した映像の保存期間を21日間から1年間へ延長 ウ 障害当事者との意見交換 〇 障害当事者県立施設巡回事業の実施 エ マネジメント改善・風通しのよい職場づくり 〇 園幹部職員のラウンドを強化し、利用者や職員との風通しを改善 〇 利用者への食事支援等、人手が足りない場面へ全園で応援 オ 県本庁の関与の強化 〇 県本庁幹部職員が園に常駐 〇 監査の改善・強化、県本庁・他の県立施設の職員が加わったサポートチームによるモニタリング※注7 カ 地域のネットワークの構築・民間事業所への県単補助金等 〇 当事者目線の障害福祉推進事業コーディネーターによる地域の事業所とのネットワーク構築 〇 利用者が外部事業所を体験利用する場合などに民間事業所へ補助金を交付 ・当事者目線の障害福祉推進事業費補助 <日中活動・体験>外部事業所への日中活動受入費、GHへの体験受入費 <地域生活移行支援>緊急短期受入枠費、在宅支援費 ・県立障害福祉施設利用者移行促進事業費補助 県立施設入所者を受け入れに伴い加配を行った民間事業所への人件費補助・設備費補助 (2)現場に常駐して支援改善アドバイザー等が感じた課題 (共感しあう関係性を作る) 〇 利用者を孤立させず、現場職員や関係自治体等が関わりを持ち続けることができていない。 〇 誰でも意思決定できるという前提に立ち、利用者と話し合って暮らしを作れていない。 〇 現場職員は、利用者一人ひとりの成育歴の重要性を理解しておらず、利用者の人生全体を把握していない。 ○ 人となりシートは、利用者から職員が問われているという意識がなく、ただ作成、管理しているだけになっている。 〇 利用者一人ひとりに応じた問いを立て、利用者に愛着を持ったり、行動に意味を感じたり、捉え方や考え方を深めていく必要がある。 (いのちと接する意識を持つ) ○ 今もなお、誤嚥につながるおそれがある食事支援等が行われており、いのちの危険につながる食事支援について、利用者一人ひとり早急に見直す必要がある。 ○ 支援の効率化の名目で、利用者が食事をしている最中に、支援に入るべき職員を割いて、食事を終えた利用者の食器を洗う等、支援という視点から不合理なことが起きてしまっている。 〇 利用者の体調不良を発見しても、適切な医療アクセスにつなげられず、様子観察に終わり、次の処置につながらない。 〇 死亡事案・重大事故の検証が不十分で、再発防止につながらない。 ○ 利用者との日常的な会話や、顔色を見たり、体調を見たりといった関わりができていない場面がある。 〇 職員個人で考え方が変わりつつある職員もいるが、園全体としては、今も、立って食事支援を行う、慌ただしく食事をとって誤嚥などの危険がある等、支援の考え方は大きく変わっていない。 〇 コロナ禍であっても、作業場の入り口の水栓の蛇口がないなど、利用者が手を洗う場所もなく、一般衛生管理がされていない中での暮らしを利用者に強いている。 〇 行動障害の改善に向けては、薬物療法を含めた医療対応と適切な生活環境の設定が同時に行われなければならない。そのことについての理解が不十分である。 〇 職員全体(医療スタッフも含む)は、行動障害に対し、投与された薬物が日常生活にどのような影響を及ぼすのかといった理解が不十分で、精神科薬による体調の変化に気付くことができていない。例えば、理解がないままに精神科薬の増減が行われることで、どのようなことが起きうるのかということについても認識ができていないことは非常に危険である。 ○ このことに誰も気が付けていないことが大きな問題である。 〇 生活支援(暮らし)の意識が欠如した状態で、利用者の状態像等を医療へ報告しており、適切な状態報告となっていない。 (風土を根本から変える) 〇 便器の横で食事をしたい、居室の鍵を閉めてほしい、といった利用者の表出を言われるままに捉え、居室の外から鍵をかけており、職員が当事者の目線に立って、自分事として当事者の人生に伴走できていない。 〇 利用者の意思を確認するわけでもなく、本人の生活実態を知らない成年後見人が意思決定を行っている場合がある。 ○ 地域の中で、様々な人との関わりや経験・体験を、利用者が職員と一緒になって積み重ね、利用者の暮らしを膨らませていく必要がある。 〇 秦野駅前の日中活動拠点を設置したが、有効に活用されていない。 〇 業務の簡略化、財政の効率化のもと、掃除・洗濯・食事作りなど、暮らしを作る活動を業務委託した結果、利用者から暮らしを奪い、文化、余暇活動の機会も奪われ、利用者が暮らしの主体者ではなくなった。 〇 利用者が一人でいられること(職員にとって手がかからないこと)を自立と考え、現場職員は利用者と関わる場面が減り、また、利用者への共感ができる場面もなくなり、利用者が孤立した。 〇 現場職員は、利用者を中心とした仕事づくりをする必要がある。 〇 生活環境に対する意識が改善されつつあるが、トイレの水が流れない等、人が暮らす環境として普通でない状態に対して、職員の意識が麻痺してしまっている。 〇 現場職員と利用者が分離された生活環境になっていて、利用者がくつろぐデイルームを職員は土足で歩いてしまう等、現場職員と利用者が場や時間を分かち合えていない(監視になってしまっている)。 (主体的な職員意識を育てる) ○ 一部の現場職員は積極的に利用者と関わろうと変わってきているが、まだ、支援改善アドバイザーに言われているからといった意識があり、このままでは、支援改善アドバイザーがいなくなれば、すぐに元に戻る可能性が高い。職員が自ら考え、主体的に取組を進める必要がある。 ○ 自分には関係ないと割り切ってしまう文化や縦割り意識がまだ強く、担当職員とその他の職員、寮と日中活動、園内の多職種がうまく機能していないため、今後は横のつながりを意識した取組をすべきである。 (利用者が社会とのつながりを感じられていない) 〇 利用者同士であっても、寮を越えた横断的な交流がないことで、お互いにふれ合う機会がなく、園内における仲間づくりができていなかった。 〇 身体拘束がされている利用者であっても、市町村や相談支援事業所も実際に園に利用者の様子を見に来る機会が少なく、サービス等利用計画に「身体拘束を廃止する」といった文言が書き加えられることがないなど、利用者が取り残されてしまっている。 (利用者が幼少期から分離され、孤立した生活を送らざるを得なかった) 〇 一人ひとりの成育歴を振り返ると、幼少期から地域において、本人や家族に必要な支援が提供されず、著しく制約された環境の中で、孤立した生活を送らざるを得ない状況にあった。 〇 周囲は、何もできない子どもとして、社会参加の機会を奪ってしまっていた。 〇 こうした経緯の中で、何もできない人として、地域の中に居場所を失った。 3 県立中井やまゆり園における利用者支援外部調査委員会で調査継続となった事案の調査結果報告書から見えてきた課題 外部調査委員会で調査が終了したが、事実が判然としていない事案24件については、引き続き県本庁と園が調査を実施し、「県立中井やまゆり園における利用者支援外部調査委員会で調査継続となった事案の調査結果報告書」を取りまとめ、支援改革プロジェクトチームでは次のとおり指摘した。 (1)情報提供者へのヒアリングができていない等、調査を継続する必要がある事案 〇 制度としての通報義務という問題だけでなく、最大の問題は日常化していて、感覚が麻痺していることが最大の要因である。園内の閉鎖された特殊な環境下で、職員も別の世界、業務と割り切って、心を無くして仕事をしていたのではないか。 〇 県が調査やモニタリングに入った際、利用者と同じトイレを使い、実態を確認する必要がある。 〇 転倒等の事故が発生した時に、十分な調査を行っていれば、原因が明らかとなった可能性があり、当時、職員には障害者だから何が起きてもおかしくない、といった障害者軽視の意識があったのではないか。 〇 障害者支援施設としてサービス提供に必要な物品について、本来園で購入すべきところ、利用者のお小遣いから購入していたことに誰も疑念を抱かず、園内のチェック体制が機能していなかった。また、誰が説明したのか、どこで決定されたかが分からない等、組織的に対応できていなかった。 〇 ヒアリングした職員の記憶が曖昧で、家族への説明内容や支援内容の記録が残されていないことも多く、当該説明や適切な支援を「していない」と判断せざるを得ない。 (2)過去の死亡事案の検証 ○ 肺炎や骨折等がある中で、支援の見直しが行われてこなかったこと、また、検証できる記録になっていなかったことが確認でき、当時、利用者を見て支援してきたとは言いがたい状況であった。 ○ 食事に関して、高いリスクが長期に渡ってみられていたことが確認された。しかし、それを、どのくらい受け止めて、支援の中に取り入れてきたのかということが不十分であった。このことが長期間続くことで、健康状態や、食に対する意欲の低下につながっており、改めて、食に係る支援の見直しを早急に見直す必要がある。 〇 抗てんかん薬や向精神薬を長期に内服している方は、服用期間が長くなればなるほど、骨粗鬆症や骨軟化症のリスクが高くなる。骨塩定量検査は時間がかかるが、カルシウム・リンの定量検査は採血の新項目に入れることができる。複数回以上の骨折を起こしている方に関しては、一般的なレントゲン撮影と骨塩定量検査などそのようなものを意識して検査しないと再度骨折して、車いすになる、動作性が落ちる、食欲が落ちるという悪循環になっていく。 〇 嚥下機能や栄養状態についても、障害により噛む力がもともと弱いのか、服薬による影響なのかといった観点から、専門職の評価や助言を受け、支援を見直していく、さらには、日々の利用者の様子(表情、活動性、顔色や肌艶など)や血液検査等の客観的な数値に基づいて、その方の支援を考えていくことができていなかった。それをどうしていくかが課題である。 ○ 最も大切なことは、人と一緒に食べている時の嬉しそうに、美味しそうにしている雰囲気である。一人で食べている時の孤独感、悲壮感、なんとか口にようやく運んでいるような、そういうものをちゃんと感じ取った支援というものができているのか、この仕事の根幹がまず欠けている。そのことについて現場がまだ受け入れられていない状況だと思っている。 ○ 緊急対応は、どこに連絡することが優先されるのか、現場が迷った時に、現場の判断で救急要請できるということを徹底する必要がある。 ○ 県が県立施設を運営する意味は、フィールドを持って、色々な課題に直面する現場を持っているということであり、利用者が社会の中で、生きていく上で、本当の意味で何が課題になっているのか、しっかり吸い上げる場所でもある。医療、福祉ともに、特に行動障害を併せ持っている利用者にとっては治療や支援が無理であるという意識が根底にあり、その結果、医療へのアクセスが妨げられていると感じることがある。また、利用者が亡くなる時、現場職員は、医療にアクセスできない、治療も受けられないことで、非常に辛い、悔しい思いをしながら、看取ることしかできないことが多々ある。現場職員は、そういったものを、もっと堂々と出してもらいたい。 ? V部 改革プログラム 1 目指す姿〜当事者目線の障害福祉を実現するために〜   現在、園が行っている改革の方向性を踏まえ、今後は、園外での日中活動等、地域で暮らす利用者が増えていくことが想定される。障害当事者が地域生活を送る上で、受皿となる地域がこれまでどおりであっては、障害当事者は地域に根付いた暮らしを送ることはできない。そのため、県は、本プログラムを実践するだけでなく、受皿となる地域の意識変革が必要という前提に立ち、関係自治体や相談支援事業所だけでなく、利用者と出会う地域の一般の人たちへの理解促進に努め、障害当事者が地域の中で当たり前に暮らせるよう、当事者目線の障害福祉を実現してほしい。 (1)当事者目線の障害福祉を実現するための理念 〇 利用者が主体となるよう、一人ひとりの人生を支援する。 〇 障害者が街の中で当たり前に暮らせる社会を目指し、地域を立て直す。 (2)役割   ア 園の役割     今までの園の役割は、「強度行動障害の中核施設」や、かつての収容保護の考え方である「民間では特に対応が難しい人の最終的な受入先」であり、障害特性に応じた特殊な環境で点数を下げる取組を通じて本人を変えようとしてきた。また、一人でいられること(職員にとって手がかからないこと)を自立と考えた。その結果、地域生活移行がされてこなかった。     今後は、「地域生活が困難となった障害者を一時的に受け入れ、園外での日中活動を充実させるなど、地域と本人とが、関わりを深め、お互いに変容していくことで、地域の中で本人の人格の発達と存在が保障される支援を確立し、地域に本人の居場所をつくる」といった役割に転換する。なお、自立とは、「相談ができる、一緒に悩める、頼れる人、友達、仲間をたくさんつくること」と考える。 また、県は、園の役割の一つに、施策の検討を行うためのフィールドとしての役割があることを再定義する。(例えば、知的障害がある方の医療アクセスが、知的障害がない方よりも難しい・地域生活移行ができずに施設の中で高齢化が進み、必要な介助の人手が不足した・入所施設は地域の医療サービス(訪問医療など)を受けられないといった課題を見つけ、当事者の目線から施策を検討する場) <地域生活移行の基本的な考え方> 在宅やグループホームに移行することだけではなく、園に入所していても、地域に出て、居場所や仲間、役割を感じられ、社会の一員として、ごく当たり前の地域のふれあいや関わりを持っていくことで、地域での暮らしを取り戻していくこと。  イ 地域の役割 障害者を社会の中で排除せず、隣人として一緒に生きていく当たり前の社会を目指していくことが大切である。そうした中で、地域には、園とともに、利用者の暮らせる地域をつくる役割がある。  ウ 役割を果たすための計画(アクションプラン)作成・確実な実施 県本庁と園は、この改革プログラムを「いつまでに実施するか」令和5年7月中に計画(アクションプラン)を作成し、確実に実施する。ただし、すぐ実施できるものは速やかに着手する。 2 当事者目線の支援を実践するために (1)園での取組 〜一人ひとりの人生を支援する〜    「利用者が主体となるよう、一人ひとりの人生を支援する」という理念に基づき、当事者目線の支援を実践するための園での取組を次のとおりとすべきである。 なお、施設規模については、検討部会から受けた「県立障害者支援施設は、構造的に管理性や閉鎖性に陥りやすく、安易に身体拘束に頼る危険性を有するなど、利用者の人権に配慮したあるべき支援が提供されにくい」や「強度行動障害のある人たちの支援については、より個別的な支援が必要であり(中略)集団での生活を前提とする障害者支援施設は、居住及び支援の場として適切でなく、強度行動障害を生み出す、あるいは悪化させる」という指摘を踏まえ、見直すべきである。 ア 施設の見直し (ア)定員規模の見直し     ・ 大規模施設を解消し、小規模ユニット化を図る(まずは、定員60名・1ユニット10名程度規模を目指す) ・ 上記の目標を達成した後は、限りなく小規模施設化を目指す ・ こうした見直しが完了するまでは新規入所は停止し、施設の利用は有期限とする ・ なお、入所ニーズには、短期入所で応える ・ 施設規模の見直しに当たっては、県によるグループホーム等を設置する等、利用者の生活の場の確保を前提とする (イ)寮体制の見直し     ・ 強行専用棟の泉寮の見直しや他の一般寮での利用者構成の見直しを進める。 (ウ)職員体制の見直し     ・ 利用者の暮らしを中心とした勤務割り振りへ見直す (人手が足りない食事支援への応援体制構築・休憩時間の取り方・4交代制から2交代制への変更を検討) イ 当事者目線の支援 (ア)園運営の方針 ・ 利用者一人ひとりの人生や想いを、分かち合い共感する。 ・ 利用者が地域の仲間たちとのつながりの中で暮らしていけるよう、一緒に関わり、考え、みんなで支え、準備をする場とする。 ・ 地域で多くの人とのつながりを大切にしながら、利用者一人ひとりの人生を豊かなものにする。 ・ 誰でも意思決定できるという前提に立ち、自らの意思が反映された日常生活及び社会生活を送ることができるよう、自己決定ができる環境(暮らし)をつくり、豊かな人生を送れるよう支援する。 ・ 県本庁も園と一体となって、利用者一人ひとりの理解を深め、利用者の地域での生活を念頭において、必要な環境整備に取り組み、利用者の地域での暮らしを豊かなものにする。 ・ 理念を実践していくために、組織内での連携による園のマネジメントに取り組み、利用者一人ひとりのために園全体で支援する。 (イ)具体的な支援内容 a 当事者目線の支援の実践 (a) 利用者と関わることで人生や想いに共感する 職員は、利用者の問題行動に着目するのではなく、一人ひとりのこれまでの人生を理解し、利用者の人となりを語れるようにする (主な取組) ・ 入所前の生活(家族宅等)を利用者とともに訪問する等、これまでの暮らしや生育歴を聞き取り、これまでの人生を振り返る。 ・ 過去のエピソードを積み重ね、人となりシートの作成を通して、利用者の好きなものの背景や理由、様々な行動の意味等を考え、一人ひとりの人となりを理解する。 ・ 利用者一人ひとりの生活に合わせて、人となりシートの問いを立て直し、人となりシートの作成を通して、利用者や職員の気持ちを言語化する。 ・ 利用者と家族、市町村や相談支援事業所と本人の想いがサービス等利用計画、個別支援計画に反映されているか等、振り返る。 ・ 振り返りの中で、長時間の身体拘束等をしてきた要因だけでなく、利用者一人ひとりの生活の豊かさを実現できなかった要因を振り返る。 職員は、利用者が自分の暮らしを決められるよう、一人ひとりが持っている豊かな世界に気付き、望みや願いを第一に考え、意思決定支援を行う (主な取組) ・ 日々の暮らしの中で、職員が関わり、対話しながら、また、地域での様々な体験を、エピソード記録として積み重ねる。 ・ ICF※注8に基づく支援や発達支援等の視点で、支援の在り方を見直し、障害の捉え方や一人ひとりの望む暮らしを模索できるようになる。 ・ 個別支援計画の作成過程やモニタリング会議等へ本人が参加し、望みや願いを一緒に考える。 ・ 市町村や相談支援事業所だけでなく、地域で関わりを持った方なども加わり、チームで支援する。 暮らしの中で利用者と職員等が責任や利用者の世界の広げ方等を話し合って必要な支援について合意形成を図る (主な取組) ・ 今まで、園においては、刺激になるという前提で関わりを避けてきたが、今後は、将来的に本人の人生を豊かにするためのいい刺激となるよう関わる。 ・ 人が新しく体験を広げる時に、葛藤が生じるが、その段階で職員は、隣人として利用者と関わり合っていく。 ・ 職員は、便器の横で食事をしたい、居室の鍵を閉めてほしいから外から施錠をする、といった利用者の表出を言われるままに行うのではなく、本当にそれでよいのか、一緒に悩む姿勢を持ち、利用者と職員の双方に生じる葛藤を乗り越える。 ・ 園の意思決定支援は、こうした利用者と職員がお互い支え合い、責任を持ち合う。 職員は、見守りや監視ではなく、利用者と一緒に生活し、想いを重ね合わせる (主な取組) ・ 支援する、されるという関係でなく、隣人として利用者と場を分かち合う。 ・ 関わりの中で、小さな声、声なき声や、言葉になる前の心の動きを感じ取る。 ・ 日中活動や食事など、利用者を孤立させず、職員と他の利用者と一緒に取り組む。 ・ 利用者に関わることは、利用者に参画してもらう。(利用者の私物の買い物など) ・ 担当職員一人で支援させるのではなく、チームで一丸となって支援する。 ・ 職員と利用者の生活空間を分けない。(例えば、トイレは同じ場所を使用したり、デイルームで一緒にくつろぐ等、一緒に生活するという意識で生活環境を整える。) (b) 利用者の暮らしを作る 園は、施設が利用者にとって、「人生を支援する場」であることを十分に認識し、生活環境を整える (主な取組) ・ 利用者ができることは利用者が主体となって、生活(例えば、身の回りの家事に参加)できるよう支援する。 ・ 毎日の清掃を徹底する。 ・ 服装と身だしなみを徹底する。 ・ 障害当事者などによるラウンド・チェックを行う。 ・ ユニット出入口や洗面所、トイレの施錠等の開錠する。 ・ 園は、県本庁と一緒に園内の状況を把握して、迅速な修繕を行う。 利用者が地域で自立して暮らすための支援を確立する (主な取組) ・ 園は、利用者が地域社会の一員としての繋がりや充実感を得られ るよう、仲間と共に役割を実感できる園外での日中活動を充実する。 ・ 利用者同士の仲間づくりを推進する。 ・ 園での生活を中心とした振り返りから、地域での活動を中心とした支援の振り返りを実施する。 ・ 活動体制の柔軟な見直し(日中活動と寮との縦割りでない体制)を行う。 ・ 人との関わりを増やすため、秦野駅前の日中活動拠点を中心として、多様な活動や地域資源を開拓(地域の事業所、民間企業、地域住民との連携)する。 園は利用者の声を実現するために、当事者主体の実践を支援する (主な取組) ・ 障害当事者と利用者との意見交換等、ピアサポートを実施する。 ・ 利用者自治会の活性化を図る。 ・ 利用者による職員面接等を実施する。 ・ 他の施設の利用者自治会等、障害当事者間の交流促進を図る。 ・ 職員と利用者が地域の当事者活動に参加する等、障害当事者と 関わり、地域での暮らしに触れる。 ・ 障害当事者主体の社会づくりに取り組む。 (当事者主体の社会福祉連携推進法人※注9の設立) ・ 県本庁と園は生活の主体者が利用者となるよう施設運営を行う。 園全体で、利用者一人ひとりを思い、語り合える風土を作る (主な取組) ・ 園幹部職員による寮内ラウンドを頻回化し、園幹部職員と現場職員・利用者のコミュニケーションの活性化を図る。 ・ 業務アイデアや疑問を言い合える風土・職場づくり・ボトムアップで、現場が考え、実践できる中核チームを設置する。 ・ 家族や地域の方々などとの交流を通じた生活者の視点による支援を実践する。 ・ 職員の思いや考え方を共有・共感しあう場を設ける。 (寮会議等の活用・利用者一人ひとりの現状の振り返り・思いや新たな気付きの共有・園と県本庁一体となった現場振り返り) (c) 当事者目線で運営するマネジメント いのちにこだわり、いのちと接している覚悟を持った支援に取り組む (主な取組) ・ 多職種で利用者一人ひとりの人生を考えられる連携強化を図る。(支援員・医療職・心理職・栄養士等) ・ 利用者を中心とした医療との対等な連携を構築する。 ・ 日頃の体調への違和感を見逃さない等、福祉側の家庭看護の視点を取り入れた支援を実践する。 ・ 職員全体(医療スタッフも含む)は、行動障害に対し、投与された薬物が日常生活にどのような影響を及ぼすのかといった理解を深め、精神科薬の増減等によりどのようなことが起きうるのか、という認識を持って利用者の体調の変化に気付き、利用者の健康管理に全園的に取り組む。 ・ 医療側の行動障害等の福祉的な理解を深め、精神科薬による体調の変化を認識して、利用者の健康管理に福祉側と一体で取り組めるよう専門性を高める。 ・ セカンドオピニオンの積極的な活用を図る。 ・ 未病を改善し、重度化を防ぐ支援に取り組む。 ・ 生活支援(暮らしづくり)を中心とすることを前提とした精神科薬の服薬調整に見直す。 職員は、単なる介助や見守りではなく、利用者一人ひとりの食事のリスクを認識したうえで、利用者と食事を楽しむ (主な取組) ・ 課長・寮長が園内全ての寮の食事支援をチェックする。 ・ 誤嚥リスクのある利用者に対する食事介助への支援改善アドバイザーによる指導を徹底し、利用者一人ひとりの食事リスクの認識等の意識改革を行う。 ・ 安全な食事支援を行うための職員体制や食事支援時に職員が不足している寮への全園での職員応援体制を構築する。 ・ 医師や看護師、理学療法士、作業療法士と連携した支援体制(摂食嚥下評価や指示・助言に留めず、利用者の年齢、状態等から一緒になって議論する体制)の強化を図り、専門職の評価に基づいて支援を見直す。 ・ 支援の目標や内容の引き継ぎ ・ 利用者の状態や支援内容を振り返り、検証できる記録の徹底 ・ 支援の振り返りをもとにした支援の見直し 事故等を未然防止するため、リスクマネジメント体制を見直す (主な取組) ・ ひやりはっと報告の中でも、ハイリスク事案を検証できるよう、リスクマネジメント委員会の実施体制を見直す。 ・ 確実な支援が行えているか評価を行うための支援記録を徹底する。 (支援に対する利用者の反応やそれに対する応対等の記載など) ・ 寮主任や寮長を責任者とし、利用者一人ひとりの支援生活記録を毎日必ず確認し、ひやりはっと報告、事故報告が適切に作成されているかの組織的なチェックを行う。 事故が発生した場合に、徹底的な原因究明と再発防止を図る体制を整備する (主な取組) ・ 事故が発生した場合、24時間以内に園長等の幹部職員への報告を徹底し、原因が特定できない事故については、園長をトップとした緊急会議を開催し、原因究明や再発防止策を検討する。 ・ 事故発生時の現場検証と再現や見守りカメラによる検証、関係への職員ヒアリングの徹底等、徹底した原因分析を行う。 ・ 原因が特定できない負傷事故については、必ず外部医療機関の医師の所見を伺い、それでも原因が分からない場合は、法医学医師の所見を伺うことで、第三者による徹底した原因究明を行う。 ・ 原因究明の過程において、ひとりでも虐待を疑うような職員がいた場合は、速やかに虐待通報等を行うことを徹底する。 ・ 利用者間のトラブル等、利用者の個別課題について、速やかにケースカンファレンスを行い、支援の在り方を見直す。 ・ 園による検証が十分でない事故報告等については、外部調査委員会で培ったノウハウを活用して、県本庁と園により調査を行う。 ・ 利用者が亡くなった際の、生活支援部、医務課、栄養士等、園内の多職種による検証体制を構築する。 b 県本庁と園が一体となって行う取組 (a) 利用者を支える地域のネットワークづくり 市町村や民間事業所との地域ネットワークづくりに取り組む (主な取組) ・ 園は、関係自治体等と協働してモニタリング会議の充実を図る。(利用者の暮らしを見る、地域から孤立した状況であることの共有、再び地域での暮らしを取り戻していくという方向性の共有) ・ 県本庁と園は、利用者の地域生活づくりを推進するため、市町村との協働を図る。 ・ 一人暮らしに必要な行動援護、働く場など日中活動を保障する仕組みや、多様性を活かした共同生活などを想像しながら、地域生活を経験し、体験を重ねながら、利用者一人ひとりの地域での暮らしをチームで考える。 園の取組を発信し、企業、団体等へ園を知ってもらうことにより、利用者の園内外での活動場所の確保や外部の目を入れた振り返りを実践する (主な取組) ・ 園は、利用者と職員が地域にでて、様々な体験を積んでいくことで、地域と顔の見える関係づくりに取り組む。 ・ 園は、近隣企業、団体等への園内ツアーなどの実施による社会資源の拡大、確保を図る。 ・ 園は、受注作業の拡大に向けた開拓活動を継続実施する。 ・ 利用者と職員が地域ボランティア活動へ参加するなど、地域の催事への参加先の深耕する。 ・ 園は、余暇・文化活動の参加先の確保を図る。 ・ 県本庁と園が、園内外に向けた実践報告会を開催する。(園の利用者・家族、地域の関係者、障害当事者も含めた地域住民) (b) 当事者目線の支援を実践できる人材の育成 利用者一人ひとりを大切に思い、主体的に考え、支援できる人材育成に取り組む (主な取組) ・ 暮らしの視点に立った指導・OJTを実践する。 (課寮長・スーパーバイザーの人材育成) ・ 県本庁職員と園職員による施設での入所生活体験研修を実施する。(1週間を通じて、利用者と1日一緒に過ごす・身体拘束・虐待事案等の体験など) ・ 利用者と職員の人間関係を重視した人事ローテーションへ見直す。 (3、4年での定期的・固定化した異動から、利用者の地域生活移行に合わせ、利用者と職員の人間関係を重視した人事) ・ 民間事業所の体験・派遣等の交流促進を図る。 ・ 園で利用者や職員と関わってもらう、利用者が出かける際に関わってもらう等、地域の人材(事業所、地域で暮らしている人、働いている人等)の活用を図る。 (c) 利用者の暮らしをつくり、権利を守る 現場を知り、園と一体になって、利用者の暮らしをつくる (主な取組) ・ 本庁職員による定期的な利用者の生活状況を確認する。(毎日の日誌確認・定期的な現地確認と現場との意見交換) ・ 虐待や事故発生時等の園の改善や振り返りの場へ参画する。 ・ 他の県立施設の職員が加わったサポートチームによるモニタリングの見直しを図る。(数年おきの集中モニタリング(5日間)から、年1回のモニタリング(3日間) ・ 当事者目線の新規事業を通して、県本庁とともに利用者一人ひとりのこれからの地域での暮らし(地域生活移行)を検討する。 ・ 意思決定支援の取組を推進する。 利用者の暮らしを中心とした、生活環境の整備・利用者の暮らしのための予算執行に見直す (主な取組) ・ 県の予算書では、園の維持運営費や処遇費といった科目別の予算書しかなく、余暇の活動経費等、利用者のために使える予算がどの程度あるのか職員にもわからない。そのため、利用者の暮らしがわかる園運営に係る独自の予算書を作成するとともに、利用者と一緒に年間行事計画を作成し、利用者の暮らしに合わせて柔軟に予算を見直しを行う。 ・ 県本庁が園とともに状況を把握し、障害サービス課の予算・総務局(財産経営課)の工事予算を活用する。 ・ 利用者の暮らしに合わせた、余暇等の柔軟な予算執行を図る。 ・ 寮毎に年間行事計画を作成していても、利用者のグループ外出の際の費用が一律に利用者負担と定められており、園の予算が利用者の余暇等に柔軟に使われていないため、余暇等に係る費用負担について検討する。 ・ 受注作業は家族会が工賃を受け取り、利用者に支給しており、県に責任が発生しない体制となっているため、工賃の支給について検討する。? (2)地域の取組に対する県の支援 〜地域を立て直す〜 「障害者が街の中で当たり前に暮らせる社会を目指し、地域を立て直す」という理念に基づき、当事者目線の支援を実践するための地域での取組を県は、次のとおり支援すべきである。 ア 地域生活移行の受皿の整備 ・ 地域生活移行後に重度訪問介護が活用できる体制整備をする。 ・ 利用者一人ひとり、地域での暮らしをチームで考える場を設置する。 イ 地域生活移行の支援の強化 ・ 地域生活移行に向けた地域や資源について情報収集する。 ・ 地域生活移行に取り組む民間事業者や民間人材を育成する。 ・ 施設入所中であっても重度訪問介護が活用できる支援策を検討する。 ・ 園外での日中活動の充実強化を図る。 ・ 自立支援協議会との連携強化を図る。 3 改革プログラムの進捗状況の確認 このプログラムが確実に実施されているか、定期的に第三者が進捗状況を確認し、公表する。? おわりに 〜外部有識者の意見〜 局を超えて県本庁と園は、この改革プログラムを確実に実施し、当事者目線条例の理念を具現化する施設へと変革してほしい。 しかし、支援改革プロジェクトチームは、支援改善アドバイザーがいなくなった後、園の改革が後戻りしないか、懸念している。また、県の3から4年を原則とする短期間での人事異動や、年度を超えた執行ができない、使途が決められた予算の中で硬直化した予算執行等、県直営の運営は限界だと考えている。 今後、園が当事者目線の障害福祉を実践し、持続していくためには、トップマネジメントによる柔軟かつ迅速な意思決定や、当事者目線の支援ができる人材の確保・育成が必要である。 施設は「利用者の人生を支援する場」として、運営するために適切な体制は何か、検討を求める。将来的には県立施設全体のあり方を考える中で、園の直営という運営体制だけでなく、他の施設の運営体制も含めて考えていくことを、県として取り組んでほしい。 また、県は、地域の意識改革にあたっては、具体的な工夫や仕組み、実効性を高めるための取組を検討する必要がある。 さらに、県として、強度行動障害や重度障害者という行政的な加算を取るための言葉を、当事者本人の問題や障害程度でなく、社会が当事者にとって障害となっているという理解のもとで見直してほしい。 そして、幼少期から障害当事者について地域理解を深めるような療育、教育を実現し、当事者本人が、社会参加(社会の中で人と関わり合える居場所を持ち、仲間を作る)する機会をつくっていき、ともに生きる社会を目指してほしい。 ? ※注釈 注1) 摂食…食べること。 注2) 嚥下…口の中の物をかみ砕き、飲み込み、胃に送ることを指す。なお、嚥下機能が低下することで、食事をおかゆ等のより噛まずに飲み込めるものに変更したり、胃ろうや静脈から栄養を摂取する等の医療的ケアが必要になる場合がある。 注3) 摂食嚥下評価…園では、月に1回程度、歯科衛生士が寮から依頼のあった利用者の摂食・嚥下の状態を確認し、寮職員に対して食事支援に係る助言を行っている。 注4) OJT…On the Job Training (オンザジョブトレーニング)の略で、職場の上司や先輩が、部下や後輩に対して、実際の仕事を通じて指導し、知識、技術などを身に付けさせる教育方法のこと。 注5) 日課の早回し…職員が自分の担当する業務を勤務時間内に終わらせるために、利用者の直接支援よりも担当業務を優先して、前倒しで日課をこなすこと。例えば、利用者が食事をしている最中に、食事支援を行わずに、食事を終えた別の利用者の食器を洗うことを優先することが挙げられる。(利用者の日課や職員の動きについては別表参照) 注6) 人となりシート…障害特性ではなく、利用者は寮の中でどのような存在か、何に困っているか等の問いと答えを考える中で、利用者について理解を深め、みんなで支援を議論するための資料のこと。令和5年5月現在、園で利用者の人となりを理解するための取組の一環として、利用者一人ひとりの人となりシートを作成している。 注7) サポートチームによるモニタリング…県立施設に対する定期モニタリングの充実強化として、令和3年度から、障害サービス課職員に他の県立施設の職員が加わった「当事者目線の支援サポートチーム」によりモニタリングを実施し、現場職員の当事者目線の支援への理解や実践につなげ、県立施設全体の底上げを図っている。 注8) ICF…国際生活機能分類のことで、健康状態を心身機能や活動、参加といった生活機能、環境因子、個人因子といった背景因子が相互に作用し、「生きることの全体像」を捉えるために使う分類のこと。 注9) 社会福祉連携推進法人…社会福祉法人等が社員となり、福祉サービス事業者間の連携・協働を図るための取組等を行う新たな法人制度のこと。