更新日:2019年2月19日

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女性の活躍の拡大に必要なこと

 「活躍」に必要なことは「能力開発」と「モチベーションの提供」である。この実施に男女差があれば当然活躍の度合に差が生じることになる。現在の職場環境でこれらの提供に男女差はあるのだろうか。

 能力開発における男女差については、中央大学多様性&ワーク・ライフ・バランス(以下、WLBと記す)推進・研究プロジェクト(以下、中大調査と記す)(2014)i(ローマ数字の1)が勤続3年目以上45歳以下の総合職社員を対象とした調査で、初職の業務経験が男女で異なること、特に先輩や上司からの期待や仕事を通じて自分の技術や能力を伸ばしていく機会、チャレンジ性のある仕事機会の提供が男性社員に多いことを明らかにしている。これは昨今話題に上る「アンコンシャス・バイアス(Unconscious Bias)」が深く関係しており、上司も先輩もわざと差をつけているわけではない。

 コミュニケーションは、基本的に「話しやすい」人と積極的に行われるものである。詳細を説明しなくても察してくれる人はコミュニケーション・コストが小さくて済む。一方、そうでない場合は理解してもらうまでに多くの時間を要する。つまりコミュニケーション・コストが大きくなる。そのうえ軋轢が生じるリスクもある。その結果、コミュニケーション量も少なくなり、内容も表層的になることが多いのである。しかし、それはビジネス、マネジメント上では「ご法度」である。

 先の中大調査で興味深いのは、「上司や先輩の指導や与えられる仕事に男女差はない」と回答する割合が女性は約6割あるのに対し、男性は3割程度にとどまる点である。つまり、男性側は与えられている仕事や情報の質に男女差があると思っているのである。これは男性側でインフォーマルに情報提供されていることを示唆しており、この差が能力開発やモチベーションに影響を来している可能性が指摘できる。

 これと類する調査結果にKato,Kawaguchi&Owan(2013)ii(ローマ数字の2)がある。同結果は、上司から期待の声かけをされている女性は育児休業を早々に切り上げるうえに、昇進が早いというものである。これは上位職等からの期待が下位職の成績等にプラスの効果をもたらす「ピグマリオン効果」であると言え、女性の「活躍」には職場マネジメント者が「意識的」に能力開発機会を公平に提供することが重要だといえる。

 さらに、中期キャリアにおいても能力開発とモチベーション提供に男女差が起きぬよう留意する必要がある。同期は女性社員がWLBに直面するタイミングでもあることから、子育て中の女性社員の意向を重視し同じ業務、同じ職場に何年も従事させることが少なくない。労働経済学者の小池和男は「能力は従来より少し難易度の高い仕事を経験することで開発される」と指摘するが、上司が意識的に能力をストレッチさせるような業務機会を継続的に提供しなければ部下の能力は開発されない。異動を含む業務のストレッチ経験に男女差があれば「活躍」に男女差が生じるのは当然である。では、なぜ、このような男女差が起きるのだろうか。

 この背景にはやはり恒常的な長時間労働がある。昨今、働き方改革を推進した職場ほど女性社員が両立支援制度の利用に依存しない傾向がみられることがニュースで取り上げられることが増えてきたが、適正な労働時間であれば、上司も対象の部下も異動や能力のストレッチを要するチャレンジングな仕事を前向きに捉えられるのは想像に易い。そして、そのチャレンジングな仕事の分担は自身への期待と考え担当者のモチベーション向上に寄与することも理解できる。「働き方改革」がインフラとして整備されて「活躍」の2要素が的確に機能するといえる。

 女性活躍推進法に基づき大企業が作成した一般事業主行動計画を見ると、女性社員の採用拡大や女性社員を対象とした研修の実施などがいまだ多くを占める。しかし、女性だけを対象にした取組みには限界がある。次のステージとして「働き方改革の徹底」と女性を含む多様な人材の活躍を可能にする「職場マネジメント支援」を実施していく必要がある。


i(ローマ数字の1)中央大学多様性&ワーク・ライフ・バランス推進・研究プロジェクト(2014)『社員のキャリア形成調査』。

ii(ローマ数字の2)KATO Takao,KAWAGUCHI Daiji,and OWAN Hideo(2013)"Dynamics of the Gender Gap in the Workplace: An econometric case study of a large Japanese firm",RIETI Discussion Paper Series 13-E-038

 

(執筆:学習院大学経済経営研究所 客員所員

(PwCコンサルティング合同会社主任研究員/マネジャー)

松原 光代 氏)

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