更新日:2018年7月24日

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定年後を見越したワーク・ライフ・バランスを考える

「あるべき男の生き方が変わった」の続きになります。

 ワーク・ライフ・バランスは‘バランス’の語感から、「天秤」を連想される方が多いです。例えば「仕事と私生活は50時50分の状態がバランスとれている」と言われたりします。しかしそれは誤解で、仕事100%の時期があってもいいと私は思います。20代30代のうちに全力で仕事に打ち込むことによって仕事力が磨かれ、今後のキャリアを築く礎になるからです。

 私自身の実感でいえば「父親」のキャリアを経験したときに、最も仕事力を磨くことができました。そのため、子どもが小さいうちは子育てにシフトする生き方をぜひお勧めしたいです。又、親の介護が始まれば、子育て以上に時間制約があります。そのときどきのライフステージの中で、「仕事」の位置付けは変わるものです。

 育児や介護の負荷が大きくなることにより、仕事と育児の両立、あるいは介護の両立という問題を抱えてバランスがとれない状態に陥るケースがあります。そのとき、「どちらをとるか?!」と二者択一で考えがちですが、これは勿体ない話です。仕事も育児も介護も、全て自分の人生。介護離職のように「仕事」を捨てる選択ではなく、できるかぎり共存できる人生を選びたい。

 そう考えると、ワーク・ライフ・バランスは「天秤」ではなく、「寄せ鍋」のようなイメージの方が適当かもしれません。寄せ鍋は色々な具材が入ることで、ダシが出て美味しくなります。同様に、人生の構成要素を具材と捉えれば、色々な具があった方が人生に味わいが生まれ、美味しいものになります。

 昨今、働き方改革が推進され、定時帰宅が推奨されるようになりました。「仕事」以外の具材が寄せ鍋に入っていないサラリーマンが、働き方改革に困惑している姿が見受けられます。終業時刻を過ぎても仕事のほかにやりたいことがなく、家にも居場所がなくて、まっすぐ帰らない「フラリーマン」が夜の街に増殖していると聞きます。

 仕事100%の生き方を否定するつもりはありませんが、そうしたフラリーマンがいずれ定年したとき、寂しい老後が待っていることは想像に難くありません。「仕事」という具を取り上げられたら、ワークライフ寄せ鍋の中が空っぽになってしまうからです。定年後に充実した人生を送るためにも、趣味や友人関係などの具材を取り込むことが必要です。

 そして何より、私たちは定年後も働き続けなければいけない状態にあります。人生100年時代において、悠々自適な老後を暮らすことはもはや望むべくもありません。年金で生計を成り立たせることはおそらく不可能で、わが子から援助を受けるのも難しくなります。資産家もしくは貯蓄が十分にある場合は別として、私たちは定年後も収入を得る仕事を続けなければなりません。定年後も働き続けるために、いまの職場以外でも通用する技術や人脈を培っておかねばなりません。副業や兼業を認める動きは、人生100年時代の生き方と連動しています。

 ところで、シニアの暮らしを楽しむためには「キョウヨウ」と「キョウイク」が必要と言われます。つまり、「今日用がある」「今日行くところがある」です。定年後に毎日が休日となったとき、何も用事がなく、どこにも行くところがない状態では日々の張り合いが生まれません。定年後に行く場所がなくて引きこもり生活をしていると、家族から煙たがられるばかりです。平日の図書館に行くと、シニアの男性の姿を多数見掛けます。好んで図書館に通っている方であれば良いのですが、他に行く場所がなくてエネルギーを持て余す日々を図書館で過ごして費やしているようであれば、とても勿体ないことだと感じるのです。

 定年後のワーク・ライフ・バランスを考えたときに何より重要となるのは、家庭と地域に自分の居場所をしっかり作ることです。家庭というホームを、アウェイにしていませんか?定年後の数十年間を夫婦円満で過ごせるためにも、妻をケアするワーク「ワイフ」バランスは欠かせません。

 地域もホームグラウンドにしましょう。定年後の暮らしは地域との関わりが濃くなります。現役時代、家は寝に帰るだけで地域と疎遠だった人が、いきなり定年デビューしようとしても難しいです。会社組織のタテ社会での動き方と、地域社会の横のコミュニティでは勝手が違うからです。定年後のワーク・ライフ・バランスを考えながら、職場以外の付き合いを増やす時間を意識してつくりましょう。

 仕事オンリーの人生で、職場以外の人脈や友人を作っておかないと、ロンリーな老後を迎える可能性があります。仕事以外にさしたる特技や趣味がないまま引退すると、家庭で「粗大ゴミ」どころか「産業廃棄物」の扱いを受けかねません。

(執筆:NPO法人ファザーリング・ジャパン 理事 東 浩司氏)

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