更新日:2018年7月24日

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育児期の就業継続を支援するためにできること 1

日本では、女性の年齢階級別労働力率が子育て期に減少し、アルファベットのM字の形に似た曲線(M字カーブ)を描くことが広く知られています。全国的に女性の就労率の向上対策が進められていますが、実はM字カーブの形状は都道府県ごとに大きく異なっています。

 厚生労働省「平成28年版働く女性の実情」によれば、神奈川県の子育て世代(25歳〜44歳)の労働力率71.6%は全国で2番目に低く、M字カーブの窪みの深さは15.4ポイントで全国1位です。さらに、育児をしている女性に占める有業者の割合を見ると、総務省「就業構造基本調査」(平成24年)によれば、島根県が74.3%と最も高く、神奈川県が41.9%と最も低い。その差は30%以上にも及んでいます。この差はどこからくるのでしょうか。

 神奈川県でM字の窪みが深い大きな理由は、出産年齢(20歳〜44歳)の女性の人口に対する保育所の定員の割合(潜在的保育所定員率=保育所定員/20歳〜44歳女性人口)が低いことです[i]。仮に全員の女性が20歳〜44歳のうち5年間保育所を利用しようとすれば、潜在的保育所定員率が25%程度は必要ですが[i]、神奈川県は1995年,1996年,1997年で全国最低の0.04ポイント[i]、2005年にも全国最低の5.1%を記録しました[ii]。一方島根県では2012年に最高の25%を記録しています。島根県では、両立を考えた時に保育所の心配は全くない。この環境が就業継続にプラスに働くことは想像に難くありません。

 私は20数年前に出産し、当時はちょうど1歳で復職するのが通例でしたので、年度途中に横浜市内の保育所を探しましたが認可には入れず、認可外に預けることになりました。さらにその数年前、育児休業制度ができる前に出産した会社の同僚も、川崎市内であれこれ手を尽くしても保育所に入れず、保育ママに子どもを預けて復職していました。つまり、少なくとも20年以上横浜市、川崎市では保育所にはそう簡単には入れないという状況が続いてきたことになります。

 保育所の定員を適正数にするには、各市町村で女性の年齢別人口をベースとし、潜在ニーズも含めた目標を目指して作り続けるほかないですし、実際にそうしていると思います。と同時に、企業も、貴重な働き手が出産後に復職しなければ人手不足に陥ってしまいますので、手をこまねいている場合ではありません。自治体の施策に頼るだけでなく、事業所内保育所を作る、在宅勤務制度を柔軟に運用する、配偶者の育児休業を取りやすくするなど、保育所に入れないことが直ちに離職につながらないような工夫をすべきです。

 一方、育児との両立を目指す労働者がすべきことはなんでしょうか。それは、自分の置かれた環境の中で、なるべく多くの預け先を検討する、パートナーと分担して育児休業を取得し保育所に入れるタイミングを調整する、親や家族の手助けを得る、各種サービスの利用を検討する、可能な場合は転居も視野に入れる、といった対策(いわゆる保活)を徹底的に行うことです。本来なら1年中いつでも希望の時期に子どもを預けて復職できることが望ましいのですが、すぐに環境が整うことは望めません。自分のできる範囲で可能性を探ってみましょう。

 とはいえ、初めての出産で育児にも慣れない親が、育児休業中とはいえ、保活に取り組むのは大変なことです。それを動機づけるために有効なのは、ぜひあなたに戻ってきてほしい、また一緒に仕事をしよう、という職場からの強い期待にほかなりません。本人が厳しい保活を最後までやり遂げるためにも、企業側から丁寧なサポートをしましょう。

 具体的には、産前休暇に入る前に面談を行い、出産前から保活を始めるように伝えること。育休中は月に1回程度安否確認や情報提供を目的とした連絡をとること。さらに、仕事と育児の両立の心構えに関するセミナーを会社として実施するか、または自治体や民間で開催されているものを紹介し、受講を勧めること。職場復帰の1ヶ月前から職場復帰直後にかけて、本人の両立環境について職場の上司と共有するための面談を行うことです。

 次回は、職場に復帰してからの活躍支援についてご紹介します。

 


[i]宇南山卓,and山本学."保育所の整備と女性の労働力率・出生率-保育所の整備は女性の就業と出産・育児の両立を実現させるか."財務省財務総合政策研究所ディスカッションペーパーシリーズ15A-2(2015)

[ii]宇南山卓."結婚・出産と就業の両立可能性と保育所の整備."日本経済研究65(2011):1-22

 

(執筆:育休後コンサルタント 山口 理栄氏)

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