更新日:2018年7月24日

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短時間勤務のキャリア形成と働き方 1

近年の短時間勤務制度の導入・活用状況

 育児のための短時間勤務制度は、1992年の育児休業法(現在の育児・介護休業法)施行時に制度化されて以来、従業員の仕事と子育ての両立を可能とする多様な働き方として重要な役割を果たしてきました。近年では大企業を中心に従業員の強いニーズにより同制度の適用期間の延長など、制度の拡充が進められているほか、2010年6月には育児・介護休業法が改正され、3歳までの子を養育する労働者について短時間勤務制度(原則として1日6時間)を設けることが事業主に義務付けられるなど、制度充実に向けた企業の動きが加速化しています。
 これに伴い、制度利用者も増加傾向にあります。三菱UFJリサーチ&コンサルティング「育児休業制度等に関する実態把握のための調査研究事業報告書(平成23年度厚生労働省委託調査)」によると、制度を利用した女性正社員のうちの約1月4日が「小学校1年生が終わるまで」よりも長く制度を利用していることが明らかになっています。小学校1年が終わるまで短時間勤務制度を利用した場合、約7年程度フルタイム勤務をしていないことになり、子どもが複数いる場合は、その期間が10年以上に及ぶ場合も考えられます。

短時間勤務制度の拡充に伴う課題の顕在化

 こうした短時間勤務制度の充実化、制度利用者の増加・長期化により女性の継続就業問題は大きく改善されることになりました。その一方で、制度利用者の職場やキャリアに関する課題が指摘されるようになりました。2015年の春にマスコミ報道された「資生堂ショック」が各社へ波紋を広げたことは記憶に新しいところです。資生堂は、これまで女性従業員の継続就業を図るために両立支援制度を拡充し、「働きやすい企業」として評価されてきました。しかし一方で、短時間勤務制度利用者が増加し、化粧品売り場において独身者や子どものいない既婚社員に遅番や土日シフトが偏る問題や、制度利用者側の問題として接客・販売スキルや商品知識等の習得機会の喪失によりキャリア形成が難しくなるなどの課題が生じてきたため、制度利用者にも遅番・土日シフトをこなし、育児期においても会社の戦力となって働いてもらうこととしました。こうした取組みが、各社の女性従業員を短時間勤務制度などでサポートするだけでなく、制度を利用しながらも「活躍」することを期待する方針にシフトしていったといえます。

働き方の見直しと働き方に影響されないマネジメントの必要性

 短時間勤務制度の充実化、制度利用者の増加・長期化による課題の真の問題はどこにあるのでしょうか。
 筆者が参加した電機連合傘下の企業や中央大学ワーク・ライフ・バランス(WLB)推進・研究プロジェクトに参加する企業で働く短時間勤務制度の利用者とその上司へのヒアリング調査結果(2012年から2014年)では、制度利用者が「活躍」していないとされる指摘には、1 職場の働き方と 2 職場のマネジメントに問題があることを明らかにしています。
 1については、制度利用者の中にはフルタイム勤務に戻ることができるにもかかわらず制度を利用し続けている者が少なくないことがわかりました。その背景には、終業時間が来ても帰宅できない職場の状況があり、恒常的に残業が発生している職場で制度利用が長期化する傾向が見られました。恒常的に残業が発生している職場では、30分や1時間程度の勤務時間の短縮でも「特殊な働き方」として特別視する風潮があります。また、2についても、子育てをしていることによる「残業免除」と過度な配慮が制度利用者にチャレンジングな仕事を担当させない「特別な職場マネジメント」をもたらし、「活躍」を難しくしていることも明らかになっています。
 今後高齢化が進む中で、短時間勤務制度は仕事と生活との調和を図る重要な働き方のオプションとしてますます重要になると思われます。同制度が職場で円滑に利用されるためには、短時間勤務が職場で特別視されない労働環境と職場マネジメントがポイントとなります。その実現に向け、まずは恒常的な残業ありきの働き方を見直す必要があります。それにより不要な制度の長期利用が是正されると同時に、短時間勤務という働き方が「特別視」されない職場環境を生み、マネジメント者も他の従業員と同様に「活躍」できる仕事を制度利用者にも与えられるようになると考えます。

※短時間勤務者のキャリアとそのマネジメントに関するさらなる課題については次号で紹介します。

(執筆:学習院大学経済学部特別客員教授 松原 光代氏)

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