更新日:2018年7月24日

ここから本文です。

新たな社会的リスク「ダブルケア」2

 母であり娘である女性にかかるダブルケアの精神的・体力的・時間的・家族的負担はどのようなものなのか調査結果から見てみましょう。
 ダブルケアに直面中の方(以下、ダブルケアラー)の負担感についての回答を見ると、「精神的にしんどい・体力的にしんどい」「両親や子どもの世話を十分にできない」との回答が約4割から6割、「兄弟や親戚間での認識のずれ」「経済的負担」「子どもの預け先不足」「遠距離介護」というのが約3割でした。
 親・義理親との関係で見ると、主な介護者である母親を支えながら父親の介護をしているケースで、より高いストレスを感じる傾向にあります。また、要介護度が高くなると施設入所しているケースも多く、それほど負担感は高くないので、要介護度の高さは負担感の強さと必ずしも相関しません。
 ダブルケアラーに与える一番の精神的負担は「夫の無理解」。そして、都市部では、介護サービスよりも子育てサービス(一時預かりなど)の不足が負担感に影響することも分かりました。
 また、「あなたがダブルケアで大変な時、支えてくれたのは誰ですか?」という質問に対する回答を見ると、「夫や友人が支えてくれた」という割合が高く、その次にケアマネジャーが続きます。このデータの中で注目するのは、「誰も助けてくれなかった」という人が、現在直面している人で12.4%、過去に直面した人では16%もいるということです。これは、少なくない割合の人が孤立した状況でダブルケアをしていることになります。

 厚生労働省の統計によれば、日本ではここ10年で主たる介護者の比率で、嫁と娘の割合が逆転し、娘介護が配偶者介護の次に多くなりました。特に一人娘の場合、親の面倒を見るのは自分しかいないという思いから、彼女たちが一手にケア役割を引き受けているケースが多く、また、例えば介護が必要な父親を主に介護している母親から、毎日のように娘に電話がかかってきて愚痴を聞かねばならないなど、娘ゆえの負担があります。
 その中でも注目したいのは、ダブルケアに従事する人は常に子育てと介護どちらを優先させるかの選択をせまられているところです。研究チームの相馬氏・山下氏によれば、子育てと介護の優先順位は規範、資源、制度によって規定されるのではないかと考えられます。規範とは、子育てや介護は誰がすべきかという社会的な通念であり、私たちの行動やあり方に影響を及ぼします。資源とは、友人、親族や地域のネットワーク、あるいは地域におけるサービスの利用可能性などであり、そのような資源の多寡もダブルケアの状況や優先順位に影響します。例えば、地域で保育所が足りず、子どもを希望どおりに預けられない場合は、もっと介護をしたくても子育てに集中せざるをえず、子育てがストレスになったり、子育てを優先したいにもかかわらず、介護は身内がすべきだという親族の期待に応えて介護をしているため負担感が強くなったりすることなどがあります。

 これらの調査はダブルケアを「育児と介護の同時進行」という狭義で概念化していますが、広義では「家族や親族など、親密な関係における複数のケア関係と複合的課題」というように、「ケアの複合化・多重化」と捉えられます。例えば、精神面で問題を抱える夫のケアと子育て、障害のある子どもと障害のない兄弟の複合的ケアなど、多重なケア関係があります。
 このように、家庭の中に複数のケアが生じることによる複雑なニーズに対応するには、「子どもは子ども」「高齢者は高齢者」と対象別に分けて考えることに無理が生じてきます。その家庭の中にあるいろいろな形のケアを考える視点、つまりダブルケア視点が大切です。
 ワーク・ライフ・バランスは、まず最初の段階として「子育てと働くことのバランス」、次に「介護と働くことのバランス」と展開してきました。国が介護離職ゼロを掲げるようになり、多くの企業が「子育てと働くことのバランス」から次のステップとして「介護と働くことのバランス」に進み、社員への支援策を導入・拡充し始めています。そしてダブルケアはさらにもう一歩、「育児・介護、その他、複数ケア(自分のケアも含む)をしながら働くことが当たり前な社会設計・人生設計」をもとにした、更なる次の段階としてのワーク・ライフ・バランスの問題なのだと思います。
 介護休業法の改正に伴い、中小企業の経営者や人事労務の方のための研修や勉強会が行われています。これを契機に、男性も女性も家族のケアなどをしながら働くことが当たり前になるように、社員のマネジメントにダブルケア視点、つまり、育児と介護別々ではなく、包摂的なケアと働き方のバランスだと捉えてワーク・ライフ・バランスのあり方を考えていただきたいです。
 男性の介護休業取得が徐々に増えてきている現在、ダブルケアは、性別を問わない社会全体の問題です。

(執筆:一般社団法人ダブルケアサポート 代表理事 東 恵子氏)

このページに関するお問い合わせ先

産業労働局 労働部雇用労政課

産業労働局労働部雇用労政課へのお問い合わせフォーム

労政グループ

電話:045-210-5746

ファクシミリ:045-210-8873

このページの所管所属は産業労働局 労働部雇用労政課です。