更新日:2018年7月24日

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仕事と介護の両立支援1―介護休業制度の考え方―

少ない介護休業取得者

 安倍首相は新しい成長戦略に「介護離職ゼロ」を入れました。現在年間に10万人が介護を理由に離職していると言われていますが、団塊世代が70代を迎える今後、問題はさらに深刻になると言われています。介護の主な担い手(介護者)は現在も中高年の女性ですが、少子高齢化を背景に近年は男性や若者にも介護は広がりつつあります。これにともなって中高年女性に多いパートタイマーだけでなく、正社員として働きながら家族の介護をする労働者も増えつつあります。そうした背景から、介護離職による中核社員の流出に危機感を募らせる企業は少なくないようです。

 仕事と介護の両立支援として、育児・介護休業法は1人の対象家族が要介護状態に至るたびに1回、通算93日の介護休業を企業に義務づけています。ほかにも介護休業と合わせて93日までの勤務時間短縮処置や1日単位で取得できる介護休暇が年間5日の介護休暇が義務となっています。しかし、現状において、介護休業制度はそれほど利用されていません。「平成24年度就業構造基本調査」(総務省2012年)によれば、家族を介護する雇用者に占める介護休業取得者の割合は3.2%。大多数は介護休業を取らずに仕事と介護の両立を図っているのです。こうした現状を踏まえて、昨年末厚生労働省の労働政策審議会雇用均等分科会に出された育児・介護休業法の改正案は、利用しやすい介護休業制度をつくるために介護休業を複数回に分割して取得することを認めています。

長期1回より短期複数回取得

 介護休業は家族以外の者が介護を代替できない緊急事態に対応するための制度です。介護の終わりまで自身が介護に専念する制度だと理解すると、法定の93日(3か月)では到底足りませんが、そうではなく、介護サービスの利用手続きなど、介護をしながら働くための態勢をつくる目的で制度設計されています。たとえば、高齢者が寝たきりになる原因の代表的な疾患である脳血管疾患において、発症から状態が落ち着くまでに3か月程度を要します。この間、入院中の家族との面会はもとより、医師との面談、転院先や介護施設に関する情報収集、要介護認定の手続き、在宅介護に備えた住宅改修、退院の手続きなど、様々なことに時間を割かなければなりません。そのための休業なのです。

 しかし、実際のところは3か月もの間ずっと出勤できない状態になることは稀です。一つの理由は、介護保険制度による在宅介護サービスの普及です。介護休業制度の枠組みは介護保険制度の施行前に作られましたが、介護保険制度のもとで介護サービスの供給が拡大し、利用手続きも迅速にできるようになりました。現在でもケアマネジャーやかかりつけ医との面談、介護施設の下見など、介護の初期に仕事を休む必要は生じていますが、そのために必要な休暇の日数はそれほど多くありません。実は介護のために仕事を休む労働者の多くが、未消化の年次有給休暇(年休)を介護に当てています。そのために介護休業を取る人が少ないのです。

 もう1つ、介護休業の取り控えという問題もあります。介護はいつまで続くか分かりません。介護が長期化した場合、要介護者の新たな病気やけがにともなう入退院や、在宅介護から施設介護への移行、あるいは終末期のターミナルケアといった事情で、新たな緊急対応や介護態勢再構築の必要が生じます。そうして先々のことを考えると、現行法が認める1回の介護休業をいつどのタイミングで取るか、なかなか判断しにくいのです。

 このような実情を踏まえるなら、介護休業は短い期間の休業を複数回に分けて取得できた方が良いです。私達が行った調査でも介護開始時の勤務先が介護休業の分割取得を認めている場合は離転職率が相対的に低くなることが明らかになっています。一方、現行法の93日(3か月)を超える期間の介護休業を勤務先が認めても離職抑制効果は期待できません。育児休業と同じ発想で介護休業制度の枠組みを考えると、長い期間取れた方が便利なのではないかとつい思ってしまいますが、介護は育児と異なります。そのことに留意して、介護の実情に応じた両立支援制度を設計することが肝要なのです。

(執筆:独立行政法人労働政策研究・研修機構副主任研究員 池田 心豪氏)

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