更新日:2024年3月7日

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令和元年度政策研究フォーラム

令和元年度政策研究フォーラムの概要です。

令和元年度政策研究フォーラム「自治体におけるICT化進展のための条件」結果概要

フォーラムのねらい

 当フォーラムは、自治体がICT化を進める上での「成功の鍵」を考えることを目的として開催した。国・自治体や有識者からは「ICT化がなぜ思うように進まないのか」「どのような工夫をしたら進展していくか」といった点を中心に、様々な情報を提供いただいた。

1 調査報告-「自治体におけるICT化進展のための条件」-

 はじめに、自治体においてICT化を進めていく上での課題や条件について、政策研究センターより報告した。
【調査報告のポイント】(発表資料(PDF:307KB)

(1)ICT化が進まない要因

 自治体でICT化が思うように進まない主な要因は、
「1.組織文化」(業務改善や業務効率化に対する職員の意欲の弱さ)
「2.資源制約」(ICTリテラシーの不足、業務多忙、財源の不足)
「3.情報力・組織体制」(ICT関連の情報不足や部門間連携の弱さ)
の3分野に概ね整理することができる。

(2)先進的な自治体の対応

 ICT化を進めていく上では、業務改善に積極的な「1.組織文化」を醸成することが最も重要となる。実際、ICT化に積極的な自治体では、地道な業務改革運動の蓄積等によって、これに成功しており、その上で、人事・財政面での手当等(「2.資源制約」の克服)や、ICT推進体制の整備(「3.情報力・組織体制」の強化)をそれぞれの自治体の事情を踏まえながら積極的に行い、全体としてICT化を進めることに成功している。

(3)ICT化の推進に向けた今後の対応

 「1.組織文化」、「2.資源制約」、「3.情報力・組織体制」のいずれも十分に持ち合わせていない平均的な自治体においても、まずは身近なICT化の成功事例を作り、それを庁内に示すことで、業務改善・業務効率化の機運を盛り上げていくことはできる。そうした成功体験により、職員の意欲が強まるといった好循環を生みだしていくことができれば、「積極的にICT化を進める組織」を構築しうる。また、そのためにも、他の自治体から情報収集をしたり、相互に情報交換を進めたりしていくことは有効な方策となりうる。

 

2 国・自治体の取組み

次に、国・自治体の対応事例や、ICT化の課題などについて、実務者から発表があった。

(1)「Society5.0時代の地方」
 総務省情報流通行政局地域通信振興課課長補佐 植村 昌代 氏

総務省写真

【報告・発言のポイント】(発表資料(PDF:8,329KB)
 総務省では、地方においてAIやIoT等を推進し、Society5.0を実現していくために、(1)自治体におけるICT化に向けた総合的な支援、(2)スマート自治体の構築支援、(3)スマートシティ化の支援、(4)5G(第5世代移動通信システム)の整備、さらには、(5)ICT防災の支援など、様々な施策に取り組んでいる。

 例えば、「(1)自治体におけるICT化に向けた総合的な支援」の分野においては、(a)実装計画の策定支援(請負事業者のコンサルタントが、自治体職員によるICT化計画の策定を支援)、(b)実装に向けた財政支援(IoTやAIの実装の成功モデルを横展開するような事業について補助金を交付)、(c)人的支援(先進自治体等でICT化に携わっている実務者等を「地域情報化アドバイザー」として派遣し、助言を行う)、(d)先進事例の表彰、といったように、それぞれの自治体の状況に応じて様々なかたちでの支援を行っている。特に「地域情報化アドバイザー」については、最近派遣依頼が増えている。

 このほか、「(2)スマート自治体の構築支援」では、AIの導入のための補助事業や実証事業などを行っている。また、「(3)スマートシティ化の支援」では、複数分野でデータを利活用してサービスを提供する「データ利活用型スマートシティ」の構築を支援しており、中規模都市も徐々に参加してきているが、もっと多くの自治体が取り組むことを期待している。このほか、「(4)5G(第5世代移動通信システム)の整備」では、実証実験などの支援事業等、また、「(5)ICT防災の支援」でもWi-Fi拠点整備のための補助事業等を用意しているので、ぜひ活用していただきたい。

 このように、総務省では、自治体においてICTを進める体制を作りやすいよう様々な支援事業を行っており、ぜひ協力したいと思っているので、庁内に広く周知していただきたい。省内の事業について担当が不明な場合には、地域通信振興課が窓口となっているので問い合わせていただきたい。

 

(2)「神奈川県におけるICT推進の取組み」
 神奈川県総務局ICT推進部ICT・データ戦略課長 貝瀬 広斗

ICTデータ戦略家写真

【報告・発言のポイント】(発表資料(PDF:1,885KB)

(1)ICT化の基本計画と推進体制
 本県では、「電子化全開宣言」(平成25年)及び「電子化全開宣言行動計画」(平成26年)に沿って、様々なICT施策を実施してきたが、人口減少や少子高齢化といった社会環境の変化を踏まえ、昨年7月に「くらしの情報化」(多様な県民ニーズへの対応)と「行政の情報化」(内部業務の効率化)の2つを柱とした「かながわICT・データ利活用推進計画」を策定した。
 また、この計画を推進するための庁内体制として、CIOに加えて、CDO(データ統括責任者)を新設し、ICTとデータの利活用に取り組む実働部隊としてICT・データ戦略課を設置した。


(2)具体的な取組み
 「行政の情報化」の分野では、「モバイルPCの配備」を積極的に進めるとともに、チャットやビデオ通話等が可能となる「コミュニケーションアプリ」を導入することで、働き方改革を進めるためのICT環境を整備している。
 また、「RPA」については、今年度5業務を対象に本格導入予定だが、働き方改革の切り札と考えていることから、来年度以降も積極的に対象業務を拡大していくため、職員向けの説明会を精力的に実施して、RPAの認知度向上に努めている。
 このほか、「オープンデータ」については、検索性を高めたオープンデータサイトの整備や、民間ニーズに沿ったデータの提供を進めるとともに、県内市町村の取組みも支援している。また、「情報セキュリティ」については、国の方針を踏まえ、庁内ネットワークからインターネットを分離し、県と市町村のインターネット接続口を集約して、高度なセキュリティ対策を図っている。


(3)ICT化を進めるには
 ICT化を本格的に進めていくには、いかに県政の重点施策や総合計画・行革大綱などと繋げられるのか、といった視点が必要で、それによってICT化に関して幹部の賛同を得ていくことが重要である。
 また、職員がICT化に積極的になるよう、研修の実施やICT活用の好事例の周知などにより、意識の醸成に努めている。

 

(3)「埼玉県におけるスマート県庁推進の取組み」
 埼玉県企画財政部改革推進課AI推進担当主幹 上田 真臣 氏

埼玉県写真
【報告・発言のポイント】(発表資料(PDF:4,487KB)

(1)ICT化推進のきっかけと推進体制の整備
 埼玉県におけるICT化の取組みの「ターニング・ポイント」は平成29年度で、当時の知事が積極的であったことの影響が大きかった。

 まず、同年度には、職員向けのセミナー・幹部向けトップセミナーで意識醸成を図るとともに、各事業課に「自分たちの業務の中で、AIを使ってどんなことができるか」、自ら事業アイデアを考えてもらうため、「1課1提案」で事業を募った。こうしたかたちで、職員の意識を変えていきながら、翌年度に向けた秋の予算編成で「スマート社会へのシフト」を柱としていった。ここ数年はその流れを汲んでおり、財政当局が初夏に重点方針を示し、それを踏まえて各課が新規事業を検討してはめ込むというかたちで、ICT化に取り組んでいる。
 ICT化の推進体制としては、AI等最新技術を活用した事業の全庁展開を推進するため、まず、(a)「企画財政部企画幹」を新設し、行政改革とITを担う「AI推進担当」も設置した。また、(b)幹部の会議体として「スマート県庁推進会議」を設置し、AI推進に向けたビジョンを全庁的に共有しながら、(c)実務部隊である「スマート県庁プロジェクト会議」において、その取組内容の具体的な事業化などを進めている。
 また、ICT化に向けた取組方針としては、(1)効果が確認できた技術は全庁展開を図る、(2)検証・試行錯誤が必要なものは、引き続きブラッシュアップする、(3)先進技術についても積極的に導入する、としている。すべての職員が「ICTマインド」を持って業務改革に取り組むことが不可欠であることから、企画部門は、各課の状況に寄り添いながら事業化に向けた支援(意識醸成のためのセミナー開催等を含む)を行っている。
 ICT化は行革・ICT推進部署だけが取り組んでいくのではだめであり、いかに現場を巻き込むか、業務に落とし込んだとき、どのように効果を引き出すかが重要となる。現場の抵抗が出てくる場合もあるが、パートナーをうまくみつけ、あるいはトップの理解も得ながら、全体としてICT化を業務の効率化・高度化に活かしていくことが重要である。

(2)AI推進の取組み

 ICT化については、(1)県民サービスの向上、(2)庁内業務のスマート化(「更なる県庁のスマート化」)、(3)産業振興(「第4次産業革命の促進」)という3つの側面で進めることとしているが、AIについてもそれに沿って実装を進めている。
 例えば、(1)県民サービスの向上の分野では、(a)「県民向け問合せ応答システム(埼玉コンシェルジュ)」(来年度運用開始予定)、(b)「AI救急相談」を事業化している。また、(2)庁内業務のスマート化の事業としては、(a)「庁内向け問合せ応答システム(ヘルプデスクAI)」、(b)「音声認識技術によるテキスト化」を進めている。そして、(3)産業振興を目的とした事業としては、例えば、「ナシの摘果判断アプリ」を開発している。
 また、「埼玉県AIコンソーシアム」を今年8月に設立して、産学官が連携・協力してAI技術の活用・促進に努めている。全国初の取組みである「AI・IoTプラットフォーム」では、県内企業等の導入・活用を促進するためWEBサイトにAIのソフトウエア等コンテンツを掲載し、「AIでこんなことができる」という例の紹介など、コンソーシアムの会員向けに情報提供している。


(3)RPA・AI-OCRに関する取組み
 RPA化も積極的に進めているが、「RPAに適した業務」を選定することが大変重要であることから、選定の視点を明確に定め、委託業者とともにヒアリングを重ねながら導入業務を決定している。RPA化にかかる今後の課題としては、(a)RPAツールの安定的な稼働の確保、(b)シナリオ作成を職員ができない場合のコスト、(c)職員の技術力の維持などが挙げられる。BPRを意識しながら進めていくことが重要である。


(4)今後の新たな取組み等
 新知事の下では、「ペーパーレス化」を鍵に県民サービスの向上やコスト削減に取り組んでいるが、電子決裁ひとつとっても、電子化を自己目的化せず、いかに事務効率化に活かすかという視点が重要となる。
 また、他の自治体と連携して、勉強会や検討会を開催し、AI・RPA・スマート自治体の推進のため研鑽を重ねている。

 

(4)「『港区AI元年』~AI・RPAによる区民サービス向上と働きやすい職場づくり~」
東京都港区総務部情報政策課長 若杉 健次 氏

港区写真
【報告・発言のポイント】(発表資料(PDF:2,871KB)

(1)ICT化推進のための基本方針と組織体制の整備
 港区では、平成29年度には、ICT化を進めるベースとなる「港区情報化計画」を全面的に見直し、市町村官民データ活用推進計画として位置付けた。
 同計画では、「4つの力」(行政、区民、民間、全国各地域との連携)で同区の目指す未来の姿を実現していくことを掲げており、「区民サービスの向上」と「働きやすい職場づくり」の2つの視点から、ICTを活用した取組みを進めることとしている。
 また、組織面では、「区政情報課」を「情報政策課」に改めるとともに、「ICT推進担当」を設置し、ICT化の推進に大きく舵を切っている。


(2)具体的取組みとその効果
 職員(特にマネジメント層)のICTリテラシーの向上を図るため、(a)全部課長級職員及び希望する担当者に対し、ICTに係る研修を実施するとともに、(b)全職員に対し、ICTに係るニュースレターを定期的に配信している。
 このように職員の意識を高めながら、AIやRPAの導入、ペーパーレス会議、フリーアドレスなどといったICT化に取り組んでいる。
 AIの導入については、平成30年度を「港区AI元年」と位置づけ、順次本格導入を進めてきた。具体的には、(1)「多言語AIチャット」(問い合わせ対応)の導入、(2)保育園入園選考のマッチング、(3)AIによる議事録作成といった対応を図っている。また、RPAについても、平成29年11月から実証実験を行い、現在、AI-OCRと組み合わせた「コミュニティバス乗車券発行申請業務」をはじめ11業務に導入しているが、業務時間の削減に大きく貢献している。
 RPA導入にあたっては、費用対効果だけでなく、(a)導入したことにより生み出された時間を政策形成や区民サービスの向上につなげるため、職員にしかできない仕事に充てるということや、(b)職員の健康維持、ワークライフバランスといった働きやすい職場づくり進めていくこと、という観点も重要となる。


(3)ICT化を推進するためには
 ICT化を進める上では、上記のように(1)意識醸成(リテラシー研修等)、(2)推進体制の整備が重要であるが、このほか、特別職など上層部に対して効果的にICT化の必要性や有用性を説明してトップの理解を得ていくことも重要である。例えば、港区では、RPAについてはボトムアップで検討し、特別職の賛同も得て、いち早く導入を加速することができた。
 また、RPA化・ICT化にはしばしば「事前のBPRが必要」と言われるが、スモールスタートをして、少しずつ、現場がその導入効果に気づく中で、結果としてBPRにつながるように進める、という視点も必要である。
 このほか、RPAツールについては、行政サービスを効率化・高度化することがより重要であるので、業務の効率化という目的を達成するために、職員がRPAだけに熟達する必要は必ずしもないと港区では考えている。
 「ICT化は、情報部門主導ではなく、所管事務を持った現場自身に考えさせるべき」という意見もあるが、やはり情報部門の役割は重要であり、そこが核となって、行革・人事部門と歩調を合わせてお互いの分野でできることを進めながら、事業課を「お節介」なほど支援していく(「味方」を増やしていく)形が有効であろう。ICT化を推進していく中では、日々様々な障壁にぶつかるし、成功も失敗もあるが、挫けず積極的にチャレンジをしていって、着実に進めることを港区では進めてきた。

 

3 有識者による講演

 最後に、行政のデジタル化等に関する有識者である(一社)行政情報システム研究所の狩野英司氏より、自治体におけるICT化に関する講演があった。


「自治体におけるICT化の課題と期待される役割」
(一社)行政情報システム研究所 調査普及部長/主席研究員 狩野 英司 氏

狩野様写真
【調査報告のポイント】(発表資料(PDF:3,062KB)

(1)「プロセスのデジタル化」と「デジタル技術の活用」
 デジタル化には、(1)紙媒体を電子化する「プロセスのデジタル化」と、(2)AI、IoT、RPAなどを部分で活用していく「デジタル技術の活用」、という2つの側面がある。
 「(1)プロセスのデジタル化」は、個別の処理を繋ぐ「線」の部分のデジタル化といってもよい。先進的な事例としては、例えば、インドでは、銀行口座を持てない貧困層に直接給付するために生み出された「インディア・スタック」(官民が使える個人認証機能や日本のマイナポータルに似た機能を提供する仕組み)というものがあり、社会、行政を支えるインフラとなっている。これを活用した個人認証等の利用数は累計約30億回に及んでおり、キャッシュレスでの支払や送金を行う仕組みも社会の末端にまで浸透している。
 オンラインシステムが幅広く利用されるためには、既存の手続きをそのまま電子化するのではなく、(a)プロセス全体が「デジタル」を前提としたものになっていること、(b)スマートフォン等のデバイスの特徴を活用していること、(c)誰もが直感的に操作できること、(d)住民の差し迫ったニーズや課題を捉えていることが大切である。我が国の自治体の電子化状況をみると、こうした条件を満たしていないことから、電子決裁などは極めて低調な利用に留まっているが、中には、ラインやアプリなど新たなIT技術を活用しながら行政と住民の新しい接点を作ることに成功している事例もみられる。
 デジタル技術のもたらす価値には、大きくいって、(1)人間の代替を行う「自動化」と、(2)人間が行うことを強化する「高度化」という2つの側面がある。したがって、自治体においても「庁内業務の効率化」だけではなく、「住民サービスの向上や地域課題の解決につながるようデジタル技術の自動化、高度化」を行っていくことが大事である。


(2)データマネジメント
 デジタル技術は、データを介して相互に繋がることで大きな相乗効果を生むものとなっている。AIだけをみても、ICTシステムとしての側面だけでなく、予測や識別などの「データ分析」技術としての側面がある。したがって、データを、情報システムの付属物としてみるのではなく、「データマネジメント」(情報システムとは別個の独立の行政資源として、データ自体の仕様や管理・活用方法全体を検討し実践していくこと)の視点を持ちながら、積極的に活用していくことが重要である。

 

(3)デザイン思考の重要性
 今までのIT技術は、基本的には「電子化・効率化・集約化」といったように業務を削減する方向性で検討され、導入されてきていた。しかし、デジタル技術にはこうした一定の方向性はないので、本当の意味で正しく課題を探索したり発見したりできないと見当違いとなってしまう。これを考えていく有意義なアプローチが「デザイン思考」である。政府は「サービスデザイン思考」とは、「サービスを利用する際の利用者の一連の行動に着目し、サービス全体を設計する考え方」としている。
 例えば、「ある行政サービスに関する申請」についてみてみると、行政の視点からは、「申請書の作成・提出・受理」といった側面しかみえないであろうが、利用者の視点では、自分自身のニーズの把握に始まり、行政窓口を探し、書類を集めるという前段階があり、また受理後にはその結果を受けて実施するという行動までが含まれることから、住民目線での真の課題は、そうしたところまで視野に入れた上で特定する必要がある。
 このように、利用者視点の考えに立つのが行政サービス改革のあるべき姿であり、「デザイン思考」はロジカルに分析するだけでなく住民サイドに立って観察し、柔軟に改善策を探索していく上で役立つものとなる。


(4)まとめ
 インドにおいてインディア・スタックが進んだのは、「イノベーションの喚起」とともに「確固たる設計思想」があったからである。すなわち、現場を巻き込んでアイデアを喚起し、イノベーションが次から次へと起こるエコシステムを構築することと、どういったシステムを構築しなければならないか中長期的な視野で確固たる姿を描く設計思想の双方が重要である。デジタル化を実現していくアプローチを整理すると、短期的には「デジタル技術」を活用し、スモールスタートでイノベーションを喚起していき、中長期的には「確固たる設計思想」をもち、「プロセスのデジタル化」を図っていくことが必要である。
 これからの時代のデジタル化を適切に進めていくためには、デジタル化、データマネジメント、デザイン思考の3つのDが必要であり、これらがうまく交わるプロジェクトが一番理想である。

 自治体において適切にICT化を進めていくためには、現場での課題については各部門が主体的に取り組みつつも、情報部門が適切にサポートしていくことが大事である。ICTを新しい価値を生み出すもの、あらゆる分野で地域課題の解決に資する有効なツールととらえて、積極的に活用してほしい。

 

4 質疑応答(概要)

Q1:海外と比較し、自治体のICT化において不足している部分、改善できる部分はどこか。
A1:日本と海外とでは、行政組織の人事・雇用制度が異なることもあり、一概に比較することは難しい。日本の自治体ではスペシャリストを確保しにくいことから、ICT化にかかる専門的な内容については業者(ベンダー)に頼らざるを得ず、抜本的なシステム刷新も難しいが、一方、自治体内のジェネラリストが実務と一体的にICT化を進めることができるので、地道な業務改善を図りやすいというメリットはある。AIの活用については、日本では実証実験を先行させがちであるが、費用対効果を見極めながら早い段階で実際のサービス化・実装化の見通しを立てていくことが重要となろう。


Q2:「2040年問題」に対応していくにあたり、自治体間の資源(人員・財源)格差をICT化により克服する手立てについて、国の取組みの進捗状況はどうか。
A2:予算制約もあるので満遍なく財政的支援をすることは難しいが、総務省では、例えば、現在住民記録システムの標準仕様書の作成を行うなど、業務システムの標準化や共同利用を進めることで、システム調達コストの削減や業務の効率化を図りたいと考えている。時間はかかるが、こうした手段によって、自治体間での格差を少しずつ埋められるよう支援していきたい。


Q3:自治体におけるICT化の進展にあたっては、各自治体が共同で推進するほうがコスト面などを含めて効果があると考えられるが、県と市町村の間でどのような連携が図られているか。
A3:埼玉県では、県内市町村とともに「スマート自治体推進会議」を昨年7月に立ち上げ、まずはAI・RPA分野の中で取組みやすい4つの技術(RPA、AI-OCR、チャットボット、音声のテキスト化)について、共同化の議論を進めているところである。難しいところもあるが、出来るところから着手していきたい。
 神奈川県では、平成16年度に県内市町村との協議会(県が事務局)を設立し、電子申請、電子入札、施設予約等のシステムを共同運用している。また、県内14町村では、情報システムの事業組合を設立して基幹業務システムを共同で運用しており、その際に、県がネットワークの整備、セキュリティ対策などの技術的な支援をしている。基幹業務システムが共同化されており、AIやRPAの共同化に取り組みやすいことから、関連する情報の提供を行っていきたい。


Q4:自治体のICT化の進展や大幅な事務の効率化には、入力情報を「紙媒体」から「電子データ」に変えていくことが求められている。しかし、住民からの申請や事業者からの請求を電子化するためには、新たな設備投資や手続き方法の変更を強いるものであり、解決が難しいと考えられるが、どのように対応していくべきか。
A4:ICT化を進めていく上では「入口」(入力情報)をデジタル化していくことは確かに重要ではあるが、電子申請化に適した業務なのかどうか、費用対効果も含め見極めながら対応していくべきである。例えば、転入届などをAI-OCR化しようとしても、同じ人からの申請頻度が少なく、そもそも識字率も100%は期待できない上、外字(例.「齋」「齊」)を正確に確認する必要もあるなど、課題はまだある。むしろ、一旦、登録された上で、繰り返し申請がなされるような事務(例.産前産後のホームヘルパーの依頼)であれば、電子申請化を進めるメリットが大きくなる。
 なお、デジタル化に向けて庁内業務を棚卸する中で、大幅な業務改善やBPRにつながることもあり(例.類似した申請書の統一化)、常にICT化を意識していくことは重要である。


Q5:マイナポータル、マイナンバーカード機能を利用した庁内連携の取組みについて教えてほしい。
A5:例えば、港区では、子育てや介護支援関連事業の申請でマイナポータルを活用している。開始当初は利用が少なかったものの、周知方法を色々工夫することにより、利用の拡大が進んでいる。色々な業務システム間で住民情報を連携させることを進めているが、マイナポータルもそのツールの一つとして積極的に活用していきたい。

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