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更新日:2020年7月21日

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平成26年度政策研究フォーラム『人口減少社会を考える』結果概要

平成26年政策研究フォーラムの概要です。

神奈川県政策研究・大学連携センター

フォーラムの狙い・問題意識

当フォーラムでは、人口減少問題の解決のためには、「地方創生」や自治体の消滅回避策等の対応策の必要性は認めつつも、それとは力点の異なる政策論議も同様に重要である、という問題意識をもちながら多面的に議論。

すなわち、(1)人口減少問題は、地方だけの問題ではなく「東京圏一極集中」の恩恵を受けている首都圏にとっても大きな課題であること、(2)自治体の消滅回避というミクロの人口減少問題だけではなく、日本全体の人口減少を食い止めるための政策対応を検討することが重要であること、(3)その観点からは、全国的にはゼロサムとなってしまう定住促進策ではなく、出生率の引き上げがより重要であること、等に軸足を置きつつ議論を展開。

図解

 

第一部 『人口減少社会への対応―神奈川県の現状と課題―』

第一部では、少子化の要因とその対策にかかる鳥瞰図を示すべく、政策研究・大学連携センターから調査報告をした。

【調査報告のポイント】(発表資料はここをクリック [PDFファイル/1.54MB]

(1) 首都圏にとっても人口減少は他人事ではない

(2) 少子化は長時間労働、雇用基盤の不安定化等、諸要因の複合的結果

(3) 各自治体が定住促進策だけやっていても日本全体ではゼロサムになる

(4) 出生率向上のために、色々な政策をパッケージとして進める必要がある

(5) 人口の多い首都圏こそ少子化対策が重要

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第二部 パネル・ディスカッション『人口減少社会を考える―自治体はどう対応すべきか―』

第二部は、まず前半では、人口学・労働経済・地域経済・農業経済のバックグラウンドをそれぞれ有するパネリストからの個別発表があった。

【パネリストからの発表骨子】

(1)守泉理恵氏 (国立社会保障・人口問題研究所人口動向研究部 第三室長)

【報告のポイント】(発表資料はここをクリック [PDFファイル/811KB]

(1) 出生率回復とは「コーホート合計出生率」の回復を目指すこと

(2) 出生率は、(a)未婚化・晩婚化と(b)晩産化・少産化の2つにより低下

(3) 未婚化は、雇用環境悪化等様々な経済・社会的な要因により進展

(4) 特効薬はないが、若い年齢での出生のサポートは非常に重要な要素

(5) 出生率・女性労働力率は、両立支援・共同参画推進の成否により上下する

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(2)太田聰一氏 (慶應義塾大学経済学部教授)

【報告のポイント】(発表資料はここをクリック [PDFファイル/203KB]

(1) 結婚・出産行動に大きな影響を与える若年層の雇用環境は改善すべき

(2) 夫の家事育児への参加を阻んでいる長時間労働の是正が必要

(3)両立支援を進め、女性労働と育児等とのトレードオフを緩和すべき

(4)高齢者の高度な活用も重要だが、定年延長や能力開発等諸課題はある

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(3)士野顕一郎氏 (浜銀総合研究所地域戦略研究部長)

【報告のポイント】(発表資料はここをクリック [PDFファイル/1.49MB]

(1) 人口が減少しては経済が沈滞するので、人口減を抑制していくべき

(2) 県内でも地域によって直面する課題や原因が異なり、処方箋も異なる

(3) 自然増:地元意識の醸成、安心できる居住環境、医療サービスの充実

(4) 社会増:魅力向上・国際化をすすめ、経済活性化から地域資源を再評価

(5) 女性労働:介護ニーズ増加による労働力人口の不足にも備えるべき

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(4)槇平龍宏氏 (名古屋経済大学経済学部 准教授)

【報告のポイント】(発表資料はここをクリック [PDFファイル/396KB]

(1) 都市部への継続的人口流出により郡部も疲弊、双方の地域に課題がある

(2)人材の流動性を高めるべき。若者のローカル志向は強まっている

(3) 時代にふさわしいローカル経済を作ることにより郡部も活性化する

(4)「産業の地域化」、「地域の産業化」の両輪で推し進めるべき

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第二部の後半では、4人のパネリストが集まり、多面的な論点に亘って意見交換がなされた。

【パネル・ディスカッションでの主な発言】

(1)少子化の要因(特に首都圏における出生率の低さ)

少子化は、例えば、(1)経済の低成長・収入の伸び鈍化と雇用の不安定化、(2)女性の社会進出、(3)子供の養育費用の高騰、(4)男女の出会いの機会の減少、といった様々な要因の複合によって進展したといえる(守泉氏)。

また、首都圏では、(1)キャリア志向・非婚志向の強い男女も集まっていること、(2)通勤負担が大きいこと、(3)家賃が高いこと、(4)保育サービスが十分でないことといった要因が更に加わり、出生率の相対的に低い地域となっていると思われる(守泉氏)。

(1)大黒柱として期待される男性の雇用環境が悪化していったことのほか、(2)子供を持つことの社会的意味合いが変わってきたこと、そして(3)都市部ではとりわけ子育て以外に魅力的なことが沢山あるといったことも要因として加わったのではないか(太田氏)。

地域コミュニティの観点からは、都市部においては防犯・教育の面で不安要素が多く――例えば居残りして補講をしようとしても集団下校が通常であるとなかなか出来ない――それが育てにくさにも繋がっている(槇平氏)。

医療面でも、出産環境が十分に整っていないという問題もある(士野氏)。

パネルディスカッション1

(2)少子化への処方箋

(1)働き方の柔軟化

雇用面では、かつては「いつでも、どこでも、何でもやる」というジェネラリスト的な労働者が様々な業務をこなすというスタイルが中心であり、高度成長期にはこうした「時間的な制約のある人には不利な雇用システム」の下で、主に男性が働いてきた。低成長期に入ってからは、企業はそうした正社員を抱え込むことに消極的になる一方で非正規雇用を増やしていったために、雇用面で二極化が進展したが、そうしたことから仕事をしながら産み育てることがしやすい環境ではなくなっていった(太田氏)。

雇用慣行の改革については、それが業績に直結するという実感を企業がまだ十分に持っていないことから、なかなか広がっていない(太田氏)。

労働時間をもっと柔軟に選べるようになることが重要。育児休業の年限を延ばすことよりも、短時間就業制度をより長期間使える方が効果的(守泉氏)。

(そうした短時間勤務制度等を)せっかく整備しても、職場の雰囲気などの影響で利用がすすまないといったこともあるのではないか。経営層だけでなく、被用者も工夫していく必要がある(士野氏)。

会社員勤めに縛られないかたちでの多様な働き方、例えばベンチャー企業経営を含む自営業やNPOで働くことも重要になってくる(槇平氏)。

従来の雇用システムは転換期に来ている。ある企業に居続けることでスキルを高めるのではなく、例えば在宅でもスキルを磨くことが出来るという働き方があってもよい。勤務がどこかの時期に中断してでも、前向きに努力すればまた責任ある仕事に勤められるような仕組みにすべき(太田氏)。

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(2)子育て・両立支援

結婚・出産することの社会規範性が薄れている中、結婚し子供を産み育てる人が増えるためには、そうすることが希望に溢れ、楽しいことにしなくてはならない。それは大変むつかしいことであるが一つ一つ対策を講じていくしかない(守泉氏)。

国・自治体よりも、まずは企業の経営トップが意識をもって両立支援等を実現していくことが重要(太田氏)。

スウェーデン等もそうであるが、女性は公的部門に勤務する比率が高い。日本でも育休取得率等は公務員が一番高いが、そうした女性の働きやすい職場作りを公的部門が積極的に進めていって、それを民間にも広げていくべき(守泉氏)。

安心して子供を預けられる場所を増やしてほしい。事業所内保育所なども含め公的部門が保育サービスを積極的に支援することを期待(守泉氏)。

行政も、保育所といったハコものの整備だけではなく、ソフト面で幅広く支援をしていくことも重要(槇平氏)。

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(3)妊娠適齢期に関する知識普及

教育現場で、若者の人生設計のありようや妊娠適齢期に関する知識の普及啓発をすすめていくべき。自分も大学の授業においてキャリア教育等を取り入れているが、例えば卵子の老化問題などについては男子学生の認知度は低い。パートナー双方が同様の知識を持っていないと妊娠・出産のタイミングを逸してしまうこともあるので、できればもっと早い中高生の頃から教育課程の中で啓発していってほしい(太田氏)。

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(4)地域コミュニティの再構築

地域コミュニティについて、PTA活動をきっかけにそれが地域活動への参加に発展していくというルートがあるように思うが、最近はPTAの役員選びも大変になっていると聞く。これは働く母親が増え、仕事とPTA活動の両立が出来ないケースが増えているためだと考えられるが、PTAの活動の時間帯を変更するなど仕事とPTAとの両立が可能となるような工夫もあってよいのではないか(士野氏)。

パネル2

(3)労働力不足への対応

介護ニーズがこれから大いに増えていくが、それを家庭の外から支えるような仕組みを作っていかないと、家族を介護する必要のある男女が労働市場に出にくくなる(士野氏)。

出生率が引き上げられない中での定住促進策を進めていってもどうしても社会全体ではゼロサムとなってしまう。そうした中では、海外からの移民を視野に入れざるを得ないのではないか(士野氏)。

日本では人口減少が大きな課題である一方、世界では人口爆発が起こっていることを考えると、日本だけでこれを吸収してバランスをとる必要はないとしても、外国人の受入を一つの政策オプションとして考えてもよいのではないか(太田氏)。

スペース

(4)人口が減少することの根本的な問題

活力減退、財政破綻等、人口減少に起因するいずれの問題も「誰かが甘受する」ことを許容するのであれば、確かに問題だとは言えなくなる。しかし、現在享受しているいろいろな利便性をある程度維持しようとするのであれば、人口減少は大きな課題となる(士野氏)。

人口減少が問題となるのは、著しく年齢構成が不均衡となるかたちでこれが進むためであり、若い人が多い人口ピラミッドを前提とした現在の社会システムが維持できないという点での不安が大きいのではないか。人口は減ってもいいが、どこかで年齢構成のバランスがとれて人口増減が均衡する必要がある(守泉氏)。

同じ規模の人口であっても高齢者ばかりになると、一人当たりの生産性の点では若者よりも劣ることがあるので、ある程度若い層に人口がいた方が経済的にはよいのではないか(太田氏)。

これまでのように経済成長を至上目的とせず、農村社会や中山間部のもたらす多面的機能や癒しなど、市場価値では必ずしも測れないものを大事にしていく中で結果的に成長すればよい、という価値観の下で経済社会制度を考えていくことはできる。ただ、そうした前提にたっても、人口があまりにも減ってしまうと都市・農村部を支える経済基盤が脆弱となることから、低成長になっても適正人口規模を保つことは重要であろう(槇平氏)。

このページの所管所属は政策局 政策部総合政策課です。