神奈川県県有施設長寿命化指針

掲載日:2018年7月13日

目次

  1. 現状及び目的
    (1) 県有施設の現状と課題
    (2) 県有施設長寿命化指針の目的
     ア 県有施設長寿命化指針の考え方
     イ 県有施設長寿命化指針の目指すもの
    (3) 対象範囲
  2. 長寿命化実現のための取組
    (1) 施設整備の方向
     ア 既存ストックの有効活用の推進
     イ 機能改善(リノベーション)工事の的確な実施
     ウ 適切な維持管理の推進
    (2) 施設の基本的性能
     ア 目標耐用年数
     イ 安全性・耐震性
     ウ 機能性
     エ 省エネルギー性能・環境性能
     オ ユニバーサルデザイン
  3. 推進方策
    (1) 維持管理計画作成ガイドライン
    (2) 維持管理情報システム
    (3) 施設修繕優先度判断基準
    (4) 県有施設長寿命化設計基準
  4. 推進体制

1 現状及び目的

(1)県有施設の現状と課題

 本県では、昭和40年代から昭和50年代にかけて、県立高校100校計画、やまゆり計画をはじめとして、集中的に県有施設の整備を行った。その結果、平成14年3月31日現在所有している建築物の床面積の合計約739万平方メートルのうち、昭和56年以前に建築され、建築後20年を経過したものが約457万平方メートル(約62%)を占めており、昭和46年以前に建築され建築後30年を経過したものが約217万平方メートル(約29%)となっている。
 施設用途別では、教育施設は275万平方メートルで全体の37%、県営住宅は268万平方メートルで全体の36%であり、この二つの用途で全体の74%を占める。また、経過年数別では、建築後30年以上経過したものは、庁舎が48万平方メートルで32%、警察施設が17万平方メートルで37%となっている。
 本県では、これまで地方分権の推進や行政システム改革により、国・市町村・民間との役割分担の見直しや県機関の集約化等を行ってきており、これにあわせて県有施設も、移譲、用途廃止、不要財産処分を進めてきた。今後も、このような見直しに伴って県有施設のストック状況は変化すると考えられるが、本県のさまざまな事業を円滑に実施するためには、依然として一定の施設面積の確保が必要であり、県有施設の整備及び管理を的確に進める必要がある。
 建築物の企画・設計、建設、維持管理から除却にいたる、いわゆるライフサイクルの中では、業務内容や施設整備基準の変更、事業規模の拡大などに対応するため、施設に求められる機能が変化することがある。本県では、施設機能の見直しの時期に、設備機器や仕上材等耐用年数の短い建築部材の老朽化が重なり、建築後30年程度で建て替えを行う例が多く見られた。
 このような傾向と現在のストックの状況(経過年数、老朽化の状態等)を踏まえると、今後も適切な施設整備を進める必要があるが、従来型の建替新築では相当規模の整備費用が見込まれることから、厳しい財政状況に対応した整備手法への転換が迫られている。併せて、環境面からは建て替えに伴う建設廃棄物の発生を抑制することが必要となっている。

(2)県有施設長寿命化指針の目的

ア 県有施設長寿命化指針の考え方

 今後の新たな施設整備需要に対応するため、老朽化した施設の再生や不要となった施設の用途転用など既存施設の有効活用を積極的に図るとともに、既存施設の劣化に対しては予防保全措置等の適切な維持管理を実施するなど、県有施設の長寿命化に向けた、計画的、総合的な取り組みを行うこととする。
 また、これにより、全体的な経費の節減と財政支出の平準化を図るものとする。

イ 県有施設長寿命化指針の目指すもの

(ア)県有施設の財産価値の保全、施設性能の維持

 建築物は適切な維持管理が行われた場合には、その性能を保持し続けることが可能であるが、不十分な場合には性能の低下を招く。性能の低下が進み、例えば外壁の落下や電気設備の漏電などに至れば、施設使用者の安全を直接脅かすことになる。また、地震や台風などの外力から建築物やその内部を守る性能、火災による延焼拡大を防ぐ性能の低下などは、平時には目立たなくとも災害の拡大につながりかねない。さらにこうした建築物の基本的性能の確保に加えて、業務の円滑な実施に資するためには、施設用途に応じた機能性を確保する必要がある。
 これらの諸機能は時間の経過とともに低下するが、その全部若しくは一部が機能しなくなれば施設の財産価値は失われる。建築物の劣化、機能の低下を放置することにより、業務の実施や事業目的の達成に支障を生じることとなれば、初期投資が無駄になる恐れすらある。県民の財産である公共財産の管理者として、建築物を適切に維持管理することにより、経年劣化に対する財産価値の保全を図るとともに、安全性、機能性等の施設性能を常に良好な状態に維持する。

(イ)事業の効率的な執行、ライフサイクルコストの縮減

 建築物は多数の部材から成り立っており、それぞれ耐用年数が異なる。劣化を避けるためには、適時適切な措置を講じる必要があるが、維持管理方法の違いやその適否によって、建築物の寿命とライフサイクルコスト(建物の企画・設計から除却に至るまでに要する費用の総額)にも大きな違いが生じる。適切に維持管理した建築物は、そうでない建築物よりも後年度に要する費用が抑制され、結果としてライフサイクルコストが縮減される。
 劣化は継続的に進行しているため、点検によって不具合を早期に発見し、修繕費用が逓増する前に対応することが有効である。
 一般的に、竣工後十数年程度経過すると、次第に不具合の箇所が増えてくるため、不具合の発生毎に事後対応すると、頻繁に修繕工事を実施することになる。また、改修工事では、外壁改修における外部足場仮設工事、配管工事における仕上げ材の撤去等の「道連れ」工事など、目的物の改修に付随する工事が占める割合も多くなる。従って関連する工事を一度に集中して行うこと、例えば、点検保守等の維持管理業務に修繕工事を組み合わせること、近接部位の工事を同時施工することなど事業を効率的に執行することにより、仮設費低減、道連れ工事抑制等のコスト縮減が可能となり、使用者や利用者に対する騒音・臭気等の影響も低減できる。
 県有施設のストック状況からは、今後も修繕・改修工事需要の増加が予想されるが、施設用途、使用状況、将来計画、劣化状況等を勘案した工事の前倒しや後送り等、計画的な修繕・改修工事を実施することにより、財政支出の平準化を図ることができる。
 さらに、適切な維持管理の実施、定期的な劣化診断による状況把握及び計画的修繕の実施により、劣化の進行を最小限に抑制し、修繕及び維持管理コストを縮減するとともに、改修工事・建替工事の適切な選択により、建築物のライフサイクルコストを縮減する。

(ウ)地球環境保全

 建設廃棄物は、産業廃棄物総量の約2割、産業廃棄物最終処分量の約3割を占めている。また、建設廃棄物の約4割が建築工事に伴い排出される建築系廃棄物で、そのうちの約6割から7割を建築解体廃棄物が占めている。現在、建築・解体除却工事により発生する廃棄物については、発生抑制や再資源化、再生資源の利用など、様々な取り組みがなされているが、再生資材の用途が限られるなど課題も残している。
 県有施設の長寿命化は、建替新築工事に代えて既存施設の改修工事で施設整備需要に対応することにより、建設廃棄物の発生を抑制するとともに、省エネルギー対策や環境負荷低減対策等の機能改善工事の的確な実施とあわせて、建物の建設・管理・除却を通して排出される二酸化炭素の合計量であるLCCO2(ライフサイクルCO2)の発生を抑制し、地球環境保全に貢献することになる。

(3)対象範囲

 長寿命化の考え方は、建築物すべてに共通する事項であることから、本指針は原則として、すべての県有施設(建築物、付帯設備及び擁壁などの工作物)に適用する。ただし、将来行政需要、目標耐用年数までの残存期間、施設規模・構造、劣化状況を勘案し、長期的な利用が見込めない施設は対象外とする。
 なお、リース・PFI事業で整備される施設についても対象とする。

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2 長寿命化実現のための取組

(1)施設整備の方向

ア 既存ストックの有効活用の推進

 県有施設においては、量的充足から質の追求へという大きな時代変化もあり、施設性能水準向上への対応(例えば、福祉施設における居住部分の水準向上、医療施設における最新医療機器の導入など)や老朽化した設備の更新のため、建築後30年程度で建て替えを行ってきた例が多い。その結果、使用者・管理者においては「30年程度が建て替えの時期」との認識が一般的になっている。しかし、鉄筋コンクリート造の構造躯体の寿命は60年~100年程度とされているため、この寿命に至るまでの間は、施設性能水準の維持・向上を図る改修工事を行うことにより、新たな施設整備需要に対応することが可能である。また、従前の用途に対する社会的な需要がなくなったとしても、用途変更による新たな活用も可能である。
 そこで、今後、新たな施設整備を必要とする場合は、県有施設長寿命化の観点から、まず、改修又は用途転用による既存施設の利活用を検討し、既存施設での対応が不可能若しくは著しく非効率な場合について、新築工事による施設整備を行うこととする。

イ 機能改善(リノベーション)工事の的確な実施

 経済社会の発展に伴い、建築物に求められる施設性能水準(要求性能)は竣工時点に対して、通常、時間を経過するほど高くなる。また、使用者・利用者が許容できる性能の限界レベル(許容限界性能)も同様に高くなる。
 機能的劣化により建替新築を余儀なくされるような事態を未然に防止し、建築物の長寿命化を図るためには、施設の性能水準の変化に対応するためのリノベーション工事を的確に実施する必要がある。
 機能改善(リノベーション)工事は大きく、次のように区分される。

  • (a)特定の建築物において事業内容の変更若しくは社会的劣化・機能的劣化に対応するために実施する工事

 事例としては、研究施設において、新たな研究対象が設定されたため、間仕切り等内部仕上げの変更を行う工事や空調設備・給水設備等必要な設備を付加する工事、福祉施設において、入居者の居住環境改善など、新たな施設整備基準に対応するための工事等である。

  • (b)建築物一般において社会環境の変化に対応するために実施する工事

 事例としては、地震災害対策としての耐震補強工事、非常用発電設備設置工事、環境負荷低減対策としての特定フロン使用冷凍機取替工事、福祉のまちづくり対策工事及び省エネ対策工事等、県有施設として一定の基準や計画に基づき実施する工事等である。

 機能改善(リノベーション)工事は一般的に大規模改修工事となるため、仮設経費の低減や道連れ工事の抑制などのコスト縮減効果を上げるよう、いくつかの修繕工事を同時期に行う計画とすることが効果的である。
 機能改善(リノベーション)工事は、社会ニーズの変化に起因するため、建設時点、あるいは、ライフサイクルの途中の時点において、今後どのような工事が必要になるか、長期的に予測することは必ずしも容易ではない。特に、(a)に区分される工事は、施設毎に要求内容が異なるため、将来必要となる性能水準をあらかじめ想定しておくことは困難である。一方、(b)に区分される耐震補強工事や特定フロン仕様冷凍機取替工事などは、対象施設が広範で膨大な事業量となることから、中長期にわたって行われる場合が多く、計画的な実施になじむものといえる。
 いずれにしても、機能改善(リノベーション)工事の発生原因となる法規制の改正、社会情勢の動向に注意を払うとともに顧客満足度調査(CS調査)等により施設利用者のニーズ把握に努めて、中期的な予測を行い、工事が必要と見込まれる場合は、長期修繕計画に工事実施時期を位置付けて、今後予定される修繕工事や他の機能改善(リノベーション)工事との整合を図るとともに、施設の将来利用形態を勘案して、関連工事を同時期に施工するなど、計画的、効率的な工事執行を図ることとする。
 また、建築物を長寿命化するためには、各部材の更新周期が重なる建築後30年前後に大規模な改修工事を実施することが有効であることから、将来的な利用計画が明確な施設については、建築後30年を目安に機能改善(リノベーション)工事の必要性の有無やその内容をあらかじめ検討しておくものとする。

ウ 適切な維持管理の推進

(ア)建築物の維持管理

 本県では、県有財産の維持管理は個々の財産管理者の責務とされている。維持管理業務は、建物の点検、設備機器の運転・点検・保守、警備、清掃、修繕など非常に多岐にわたるため、財産管理者が建物の管理に必要な情報を漏れなく把握するには多大な労力を要する。加えて予算上の制約もあり、適切な維持管理が実現できていない例も見受けられる。
 また、維持管理は、多数の関係者により長期間にわたって取り組む業務であることから、建築物に関する情報を体系的・継続的に引き継ぐ必要があるが、現時点では断片的な情報管理に留まっている例が多いことも課題である。
 建築物の劣化は竣工した日から始まる。建物の機能を適正に保つための維持管理も竣工の日から必要となる。外壁は風雨にさらされ劣化し、機械設備や電気設備は日常運転により、摩耗・消耗する。建築物は雨漏りがしていたり、停電していたり、空調が効かなかったり、床が著しく汚れていては求められるサービスが適切に提供されているとは言えない。建築物が有する機能を充分に発揮して、常時適切な状態に維持するためには適切な維持管理が必要不可欠である。
 適切な維持管理を行うことにより、良好な室内外の環境が維持されるとともに、異常の早期発見・早期対応を通じた不具合の拡大抑制、タイル落下事故のような災害の未然防止、建築部材の耐用年数の向上などが可能になる。そして、これらの結果として、建築物のライフサイクルコストに占める割合の高い維持管理経費の縮減を図ることができる。

(イ)維持管理計画の作成

 建築物を長期間にわたり適切に維持管理していくために、維持管理計画の作成が必須であるが、その作成のためには維持管理の情報の収集及び管理、長期修繕計画の作成が重要となる。
 維持管理の情報には大きく分けて、建物を引継ぐ際の建物引継情報と維持管理をしていく過程で発生する維持管理情報に区分することができる。建物引継情報には建物概要、設計主旨、設計与条件、設計者、工事施工者、官公庁届出書類、竣工図書、使用材料・設置機器一覧表等がある。また、維持管理情報には、維持保全体制、年間保全計画書、事故及び修繕記録、運転監視・保守点検記録、水光熱費記録等がある。
 また、建築物は長期にわたるライフサイクルの中で、修繕工事や改修工事が必要となるので、いつ、どの程度の修繕工事を行うかをあらかじめ予測し、検討しておくことが重要である。目標耐用年数までの修繕工事内容、実施時期、工事費用を検討した長期修繕計画を作成する。

(ウ)計画的修繕の実施

 財産管理者が施設の設置年度、劣化状況を勘案して、長期修繕計画を含む維持管理計画を作成する。長期修繕計画における修繕実施時期は、統計データによる劣化進行予測に基づいて設定することが多いが、実際の劣化が気象条件や稼働時間、稼働環境の違いにより大きく異なることも考えられる。当初立てた長期修繕計画に、機械的に従って修繕工事を実施するのは、結果として無駄が生じる場合のあることにも留意すべきである。
 長期修繕計画に基づく工事を無駄なく実施するためには、技術職員により概ね5年毎に劣化診断を実施し、劣化状況を把握して、維持管理計画を見直すことが重要である。
 目視による外観調査や保守点検の報告書により不具合箇所を発見することは可能であるが、修繕対象箇所、必要範囲の特定には技術的、専門的な判断が求められる。配管の腐食箇所を取り替える場合、全面的に更新するのか、部分取り替えで済むのかでは、工事費に大きな違いがでてくる。より効果的な修繕工事のために、必要に応じて委託による精密診断を行い、修繕工事の対象を絞り込むことが必要である。
 既存ストックが老朽化している現状では、長期修繕計画の作成により、膨大な修繕工事や改修工事の需要が顕在化することになる。個々の施設において優先順位を考慮した効果的な長期修繕計画の策定と実行に努めると同時に、県全体としても、全ての対象施設を短期間で施工することには限界があることから、施設用途、将来計画、劣化度、危険性、業務への影響度等、修繕の有効性を踏まえて、総合的に修繕工事の優先度を判断する「施設修繕優先度判断基準」により、効率的な修繕工事を実施する。

(2)施設の基本的性能

ア 目標耐用年数

 建築物の使用期間を明確にしないままに長寿命化することは、改修工事のタイミングや使用部材、適用工法の選択等を誤ることになり、ライフサイクルコストを増大させる恐れがある。こうしたことから、計画策定時に目標耐用年数の設定が必要となる。
 建築物は多数の部材から成り立っており、それぞれ耐用年数が異なる。各部材の実質的な耐用年数は、塗装部分で3~5年と比較的短く、防水部分は10~15年、設備機器は20~30年程度が多い。また、物理的な耐用年数の他に、社会的な耐用年数も考えられる。
 これらの耐用年数の中で最も長いものは構造躯体である。構造躯体の残存耐用年数を残したまま建て替えることは、現存している財産価値を処分することともいえる。一方、中性化の進行などにより劣化した構造躯体を再生するには、多大な費用を要するから、歴史的建築物の保存の目的以外では、費用対効果を十分検証する必要がある。こうしたことから、構造躯体の寿命を建築物の耐用年数とする。
 建築工事標準仕様書(JASS5鉄筋コンクリート工事・日本建築学会)では、構造体の総合的耐久性として次の3水準を定めている。

  • (a)一般(大規模補修不要予定期間としておよそ30年、供用限界期間として65年)
  • (b)標準(大規模補修不要予定期間としておよそ65年、供用限界期間として100年)
  • (c)長期(大規模補修不要予定期間としておよそ100年)

 本県の既存施設では、長寿命化に対する特別の措置を講じてはいないことから、日本建築学会水準の「標準」レベルで設計されたものとみなすことができる。このため、主要な既存施設の目標耐用年数を原則として建設後60年とする。
 新築施設では、当初の設計において目標耐用年数を10年程度の短期間から100年を越える超長期間まで選択することが可能であるが、長寿命化の観点から、既存施設の目標耐用年数と同等の60年若しくはそれ以上の耐用年数とすることが妥当である。特に、大規模施設、長期的な行政需要が見込める施設、用途転用による有効活用が可能な施設等の主要な新築施設の耐用年数は、日本建築学会水準の「長期」レベルである100年を目標とする。
 鉄骨造、鉄骨鉄筋コンクリート造の場合も同様とする。
 建築物の目標耐用年数は構造躯体の寿命とするが、具体的な施設への適用にあたっては、行政需要・施設用途・ライフサイクルコストを考慮して、長寿命化すべき施設か否かを検討し、施設目的に応じた目標耐用年数を設定する。

イ 安全性・耐震性

 建築物の性能のなかで、地震・台風・火災等の災害に対する安全性・耐震性は最も根幹となるものである。建築物を使用するすべての人の安全性を確保する観点から、建設時の性能水準を維持することはもとより、時代の変化にも対応した安全性能の確保が求められる。
 建築物の劣化に起因する事故は、時には人身被害を生じる恐れがあるため、不具合には早急に対応しなければならない。例えば、外壁落下や漏電による火災、エレベーターの停止などは決して起こしてはならないものである。
 竣工時点では当然のことながら、関係法令、技術基準を満足しているが、安全性等に対する要求性能の変化に伴い、法令や技術基準が改正され、法令上の既存不適格建築物となっている場合がある。改修工事の際、安全性に係る既存不適格事項には特に十分な検討を行う。
 阪神・淡路大震災は、耐震性能確保の重要性を改めて認識させた。そのため、既存施設の耐震診断及び耐震補強工事の、より一層の推進に努めてきたが、耐震補強工事に関しては、補強に要するコスト及び耐震壁の設置による使用上の制約が、推進の大きな障害となっている。このような状況の中で、耐震性能の目標水準は、補強コストに大きな影響を与えることから、適切な設定が必要である。
 地域防災計画では、防災上重要建築物を

  • (a)災害対策本部、現地災害対策本部となる庁舎、
  • (b)医療救護活動の拠点となる保健所、病院、診療所等、
  • (c)応急活動の拠点となる消防庁舎、警察署、土木事務所、浄水場等、
  • (d)避難収容の拠点となる学校、集会所等(市町村の指定する県立高等学校等を含む)、
  • (e)要介護施設となる社会福祉施設、
  • (f)不特定多数の者の利用施設、

としている。
 また、耐震建築物計画指針(神奈川県都市部・平成10年3月)では、地域防災計画の区分に加えて、施設用途に

  • (g)危険物を貯蔵又は使用する施設及びこれらに関する試験研究施設、
  • (h)石油類等危険物を貯蔵又は使用する施設、
  • (i)下水道処理施設に係る建築物、
  • (j)その他の施設、

の区分を加えて、新築建物における構造部材の「耐震安全性」の目標を、次のとおり設定している。

  • 1類:大地震動後、構造体の補修をすることなく建築物を使用できることを目標とし、人命の安全確保に加えて十分な機能確保が図られている。
  • 2類:大地震動後、構造体の大きな補修をすることなく建築物を使用できることを目標とし、人命の安全確保に加えて機能確保が図られている。
  • 3類:大地震動により構造体の部分的な損傷は生じるが、建築物全体の耐力の低下は著しくないことを目標とし、人命の安全確保が図られている。

 上記の目標は、施設の有する機能、施設が被害を受けた場合の社会的影響及び施設が立地する地域的条件を考慮し、施設を分類した上で、それぞれ定められている。
 一方、これまでの耐震補強工事にあたっては、補強後の目標性能を、基本的にはAランクとしながらも、個別案件毎に耐震安全性の目標を定めて、設計と工事を実施してきた。
 今後の耐震補強工事については、新築工事と同様、耐震建築物計画指針の考え方(施設用途・被災した場合の影響等を考慮した構造部材の耐震安全性の分類)に基づき、補強水準を設定することが適切と考えられるので、鉄筋コンクリート造について、次のとおりとする。

  • 1類Aランク(鉄筋コンクリート造建物の構造被害レベル分け基準)
  • 2類・3類Bランクただし、次の(1)~(3)を満足すること。

(1)必要とするIs指標値を0.6以上とする。
(2)Iski/Isoi指標比を0.7以上かつ構造被害レベルは小破程度とする。
(3)Ct・SD値を0.3以上(ほぼ等しいq値1以上)とする。

 なお、新築施設においては、耐震建築物計画指針により、耐震性能を確保する。

ウ 機能性

 建築物は、竣工時には快適な環境の保持、良好なサービスの提供が可能であったとしても、劣化とともに機能が低下することになり、これに対しては、まず、防水性能の維持や建築設備の性能の維持、例えば、停電や空調設備の不良等による室内環境及び作業効率の低下、施設利用者の人体への影響の回避等、施設基本性能の維持保全が必要である。特に、県民利用施設については、快適な環境の保持に努めなければならない。
 建築物としての機能の代表例である防水性能の低下は、構造躯体の寿命を縮めるばかりでなく、内装材の損傷、漏電など広範囲に影響を及ぼすことから、早期に改善策を講ずる。
 また、照明設備、情報通信設備、OA機器等は現代の施設にとって必要不可欠なものであり、電気設備なくして業務を行うことはできない。電気の供給停止につながる事故は確実に予防することが求められる。
 さらに、建築物の室内環境性能の低下は業務効率を引き下げるばかりでなく、施設利用者の健康にも影響する。「建築物における衛生的環境の確保に関する法律」の定める室内環境基準(浮遊粉じんの量、一酸化炭素の含有率、炭酸ガスの含有率、温度、湿度、気流等)の充足に努めるとともに、適用対象以外の施設についても、施設用途に応じ、基準に準じた性能確保が必要である。遮音性や照度の確保、室内空気汚染(シックハウス)への的確な対策も、建築物を使用する人に適切な環境を提供する上で必要な機能である。
 給水、給湯、排水設備などの衛生設備の必要性は言うまでもないが、水道法等の法令の基準遵守に加え、近年、建築後30年程度の施設において、給水管の劣化による赤錆の発生が問題となっているように、利用者の不快感を生じるような機能低下にも配慮する。
 自動火災報知設備、屋内消火栓等の消防設備や非常用発電設備などは、安全性にも直結する機能として常に良好な状態を維持し、災害時に必要な機能が的確に発揮されるように努める。
 以上のような施設基本性能のほか、例えば、外装材の劣化、汚れ等が、構造躯体への影響だけでなく、良好な都市景観の維持の上で、周囲に悪影響を及ぼす場合も対応が必要である。
 また、今後の県有施設にあっては、将来における要求性能の向上対策や、用途転用などの改修工事を容易にする可変性、維持管理のしやすさ(メンテナンスビリティ)も、建築物の重要な機能とする。

エ 省エネルギー性能・環境性能

 建築物が運用段階で消費する光熱水費等のエネルギーコストは、ライフサイクルコストの約30%を占めるとされており、エネルギーコストはライフサイクルコストを考える上で、大きな位置を占める。このため、建築物の省エネルギー性能・環境性能はランニングコスト縮減の観点からも、地球環境保全対策からも重要なものとなっている。
 これまでも「神奈川県環境配慮型公共施設設計指針」により、地球環境に配慮した建築物の設計に努めてきたが、引き続き、「グリーン庁舎計画指針」(建設大臣官房官庁営繕部監修)等を参考に、環境に配慮した建築計画を推進することとする。また、「建築物に係るエネルギーの使用の合理化に関する建築主の判断基準」に定める年間熱負荷計数(PAL)、エネルギー消費計数(CEC)の省エネルギー性能についても、基準の充足に努める。
 環境負荷の少ない部材の積極的な使用、廃棄物の発生を抑制する工法の採用なども積極的に行うこととする。
 神奈川県環境マネジメントプログラムにおける、地球温暖化防止に向けた率先行動プログラムでは電気・ガス・水道の使用量削減を推進している。したがって、既存施設について、維持管理計画により既存データを使用して、施設の省エネルギー性能について自己診断を実施する。その結果、速やかに対応できるものは随時実施するとともに、工事による対応が必要な事項については、費用対効果を検証し、適宜実施するものとする。併せて、環境マネジメントプログラムと整合を図り、自然エネルギーの活用、高効率照明や節水型器具の採用等、省エネルギー対策を積極的に推進する。

オ ユニバーサルデザイン

 県有施設は、健常者はもちろんのこと、児童、高齢者、障害者、外国人など多様な利用者が想定されることから、誰にとっても使いやすいもの、いわゆるユニバーサルデザインでなければならない。そのため、神奈川県福祉の街づくり条例を基本とし、施設用途に応じて、「高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律(ハートビル法)」の誘導的基準を適用することなどにより、誰にでも使いやすい施設(ユニバーサルデザイン)の実現を図る。
 既存施設については、「神奈川県福祉の街づくり条例適合状況調査」において「敷地内通路」、「外部出入口」、「廊下等」、「階段」、「便所」、「駐車場」を重点整備箇所、「誘導ブロックの設置」、「排水溝の構造」、「衝突防止装置」、「手すりの設置」を重点整備項目と位置づけて適合状況を把握するとともに、誘導ブロック、手すり、スロープ、エレベーター、身体障害者用便所の設置等を行ってきた。
 今後も、施設用途に応じて、敷地内のスロープ・手すり・誘導ブロックの設置等の小規模な工事を、改修工事の機会を捉えて実施するなど、積極的な対応を行うこととする。また、エレベーター設置等の大規模な工事については、施設の将来計画を勘案し、費用対効果を検証し、ユニバーサルデザインの実現を図る。

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3 推進方策

 長寿命化実現のための取組を円滑に推進するため、維持管理計画作成ガイドライン等を作成する。
 あわせて、既存施設の中から、建築後30年程度経過した施設をモデル施設として選定し、具体的検討を進める。

(1)維持管理計画作成ガイドライン

 維持管理計画は、維持管理に関する情報をまとめるもので、維持管理の手引きとするものである。財産管理者が作成することとしている維持管理計画は、設計与条件や使用材料等の建物引継情報、年間保全計画、運転監視記録、修繕履歴、長期修繕計画等、専門的かつ膨大な情報量となる。また、長期修繕計画など専門的な知識が必要となる項目もあるため、これらの情報を体系づけて作成及び管理の手引きとなるガイドラインを整備する。

(2)維持管理情報システム

 維持管理に関する情報を長期間にわたり管理し、日々の保守点検業務の結果や事故の記録などを随時更新するとともに、定期的な維持管理計画の見直しも必要である。このような情報を紙面で管理するには限界がある。このため、情報作成は限りなく電子情報化するとともに、竣工図書等の既存資料も可能な限り電子情報化を図ることが求められる。これらの維持管理情報の管理、長期修繕計画の作成を支援する維持管理情報システムを整備する。

(3)施設修繕優先度判断基準

 多くの施設が老朽化している現状では、全ての県有施設が長期修繕計画を作成し、実行すると、改修工事需要は相当膨大なものとなる。厳しい財政状況では、全ての改修工事を同時期に行うことは不可能である。一方、工事種別・工事部位を限定して多数の施設を工事することは非効率である。そこで、将来計画、施設用途、利用状況、劣化状況等を勘案して、どの施設から改修工事に着手するかを判断するための基準を整備する。
 また、個別の工事種別・工事部位についても、危険度、適法性、業務への影響度、計画修繕の有効性により優先度を判断する基準を整備する。

(4)県有施設長寿命化設計基準

 建築後30年程度で建て替えていた施設を60年、100年間使用するとした場合、ライフサイクルコストにおける施設運営段階の維持管理経費は増大する。また、長寿命化された建築物では改修工事、機能改善(リノベーション)工事も当然に増加する。こうしたことから、これまで以上に建設後の維持管理や改修工事を念頭においた設計が必要となるため、県有施設の新築・改修設計における長寿命化のための設計方針及び具体的な設計性能を整理する。
 県有施設長寿命化設計基準は、次のことに配慮して設計を行うことを求める。

  • 可変性:将来の機能上の用途変更に対応できるように、機械室や配管スペース、階高、設計荷重等にゆとりを持たせるなど、可変性のあるプランとする。
  • 更新性:建築物は多数の部材から成り立っており、それぞれ耐用年数が異なる。物理的・機能的劣化の速度が異なる部位について、改修工事の際の道連れ工事を抑制するため、躯体と設備を分離するなど、更新が容易な構造とする。
  • 高耐久性:部材についてはライフサイクルコストが最適であり、耐久性の高いものを選択する。
  • メンテナンスビリティ:清掃や点検、修繕等の維持管理業務を効率的に実施するため、足場やゴンドラの設置を可能とする等、維持管理を考慮した設計とする。
  • 省エネルギー・省資源:自然エネルギーの活用、環境負荷の低減等、省エネルギー対応の設計とする。

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4 推進体制

 財産主管課及び財産管理者等は、本指針に基づき、既存ストックの有効活用、機能改善(リノベーション)工事の的確な実施、適切な維持管理の推進に主体的に取り組むこととする。
 工事主管課は、既存施設の有効活用の検討や機能改善(リノベーション)工事の実施方法など、技術的検討が必要なものについて、技術協力を行う。

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注意

 本ページは、極力機種依存文字を排除しているため、「神奈川県県有施設長寿命化指針」そのものとは若干表記が異なります。
 指針の原本はこちらのPDFファイルをご覧ください。(PDF:242KB)

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