神奈川県水産技術センターコラムno.34

掲載日:2019年12月4日

2019年12月6日号

1 新漁業法による漁獲量規制と沿岸漁業(相模湾試験場 一色竜也)

2 浮漁礁と私(企画指導部 加藤健太)

1 新漁業法による漁獲量規制と沿岸漁業(相模湾試験場 一色竜也)

 2018年度12月に改正された新しい漁業法では、漁獲量規制を資源管理の基本とする資源の出口管理の強化が示されました。漁獲量規制はこれまでもTAC(漁獲可能量)制度によって7魚種で行われてきましたが、その対象魚種を拡大し、将来的にはさらにTACを船毎や漁業者毎に割り当てる個別割当(IQ)方式を導入していくことになっています。国はこうした資源管理強化の理由として、我が国の水産資源はおおむね低迷しており、そのことが漁業の構造的な不況の原因であり、漁獲量規制による出口管理を強化して水産資源を回復させるためとしています。確かに科学的なデータに基づいて資源評価を行い、その結果を基に行われる漁獲量規制は資源の回復に実効性があるのかもしれません。しかし沿岸漁業、定置網漁業にまで漁獲量規制、特にIQを導入する方向性は、それら漁業の実態を知る者として管理の実行性の上で疑問が残ります。
 沿岸漁業の場合、そのほとんどは漁業者が小型漁船を自ら操縦し、一人で操業を行う個人経営体です。こうした漁業者個々人を対象に複数の漁業対象魚種のIQを付与し、それを個別に管理するなど、その運用にはかなりの困難が伴うと思われます。例えば、本県沿岸漁業者の多くは刺網漁業を行います。刺網は多種類の魚が同時に獲れる漁法で、ヒラメを目的に網をかけても、アンコウやホウボウ等、多種類の魚が同時にかかってきます。IQが導入され、その対象魚種にアンコウが含まれた場合、ある漁業者が持っているアンコウのIQが満限に達していたら、その漁業者はアンコウを獲らないようにヒラメの刺網を行う必要があります。もし、意図せずアンコウが網にかかっても、それを逃がす必要があります。しかし、それはかなり煩雑である上、一度網にかかった魚は大概は弱るか死んでしまうので、リリースしても資源保護に繋がるか疑わしいと思われます。特にアンコウとヒラメの漁場が重なる場合、その漁場でヒラメの刺網をやると、さらに非効率性が増すため、漁業者は別の漁場もしくは別の漁法に切り替える必要に迫られます。しかし、沿岸漁業者の漁船は小さく、漁場や漁法の選択肢は少ないのが実情で、その時期にその場所で刺網をやるのは最も安定的かつ稼げるからであって、他の選択肢はほとんどないのです。また、沿岸漁業は少ない水揚物の付加価値向上の取り組みとして、6次産業化(漁業+加工+販売)や消費者との直接取引を行ってきましたが、IQ導入で減った水揚対策として、その動きをより活発化させるかもしれません。しかし、その取り組みが主流となれば漁協や市場を通さず水揚物を流通させることが常態となります。そうなった場合、これら漁業者個人のIQを誰がきめ細かくチェックするのか、またそのコストをどうするのか多くの課題が残ります。この課題に対してICT技術を使ってIQの申告確認が容易にできる仕組みが検討されているようですが、全国津々浦々の漁業者個々人にまで行き渡らせるには、相当の時間とコストがかかります。なお、その仕組みには、効率的な操業のための支援や漁獲物の付加価値向上が実現できるような、漁業者にとってインセンティブの高い仕掛けも組み込むことが不可欠であると思います。
 本県沿岸漁業の主力の定置網漁業も漁獲量規制、IQ導入は難題であるといえます。定置網漁は魚が自然と網に入ってくるのを待って獲る漁法です。魚種の選択性はほとんどありません。その時々に様々な魚が網に入ってきてそれを漁獲するため、魚種を選んでIQを効率良く消化するような計画的な獲り方ができないのです。現在、太平洋クロマグロの資源管理では、定置網漁業にもクロマグロの漁獲量規制が課せられていて、漁業者はこれに多大な苦労をしながら取り組んでいます。さらに規制の対象が複数魚種に及んだ場合、漁獲の大半を占めるような魚種のIQを獲り切った時、その後は網自体を休漁するしか手がないかもしれません。そうなると他魚種のIQが無駄になってしまいますし、経営上も厳しい状況に陥ってしまいます。定置網でこれらの問題を解消するには、網の中で魚が魚種ごとに自然と選別され、それら魚種ごとの水揚げの判断が予め容易にできるような網やシステムの開発が少なくとも必要でしょう。そのためには、網の中の状態が常時モニターできる仕組みや、網の中での魚の行動生態、さらに開発された網が漁具として機能するか等、さまざまな基礎的な試験研究や新たな技術開発が不可欠になってきます。将来にわたって、こうした試験研究や技術開発の取り組みを行う必要はありますが、今のところ、未知かつ未解決の課題が多いと言えます。
 現行のTAC制度では、実はこうした沿岸漁業の実情を勘案し、県の配分量としてその過半が定置網による場合は「若干」、漁獲実績がおおむね100トン未満の場合は「数量を明示しないこと」になっています。つまり事実上数量規制していないケースもあるのです。その説明として「定置網漁業についてはいわゆる「待つ漁業」であり、資源を選択して採捕することが極めて難しいことから、漁獲の限度量を定めたとしてもその管理が困難である。このため基本配分量の過半が定置網によってもたらされている場合には「若干」として配分する」としており、数量を明示しないのは、「資源に対する圧力が無視できるほどに小さいことから、漁獲可能量による管理をする必要がないものとして、数量を明示しない。」としています。国も沿岸漁業に対する漁獲量規制の適用に、限界があることを認識しているのです。
 このように現状で漁獲量規制、特にIQの沿岸漁業への導入は現実的ではないですが、沿岸漁業者が何もしなくて良いわけではありません。資源が減少していることは漁業者自らが体感していることですし、資源の回復、維持、増大に向けての実効性のある資源管理を検討していくことは、漁業の存続に不可欠であると思います。そのために科学的なデータを収集して資源の状態を評価し、従来型の資源管理である投入量規制や技術的規制なとの資源の入口管理、さらに栽培漁業などを巧みに組み合わせていく必要があると考えています。現行の資源管理、栽培漁業の成功事例などを参考にしながら、沿岸漁業にはそれにあった資源管理のやり方を進めていくのがベストと考えております。

2 浮漁礁と私(企画指導部 加藤健太)

 浮魚礁は城ヶ島南西沖8マイルに設置された鋼鉄製の浮体で、海底からの係留索でつながっています。魚群を集めるための機能だけでなく、水温、流向、流速などの海況データを観測する機能があります。この観測データに加え、灯火の状態、緯度経度などの情報が無線で送信され、陸上の端末でモニターされています。
 私は平成11年から15年に当時の海洋情報部に配属され、浮魚礁の保守管理業務の担当になりました。
 浮魚礁の保守管理業務とは、無線通信検査、観測センサーの付着物掃除、太陽光パネルの掃除などを業者に委託するものであり、担当者は年4回の三崎漁港から40分ほどの沖での作業に立ち会います。当然、浮魚礁に乗り移るわけですが、係留索につながっているため、普通の船の揺れとは異なるピッチで揺れます。私は元々船の揺れに強いわけではないため、乗り移って10分でダウンしてしまいます。しかし、立ち会いは必須なので、浮魚礁の上に倒れて3時間ほど過ぎるのを待つことになり、三崎に戻る船に乗り移った時にはホッとしたものです。
 このような経験をしたのちに今年度15年ぶりに再び浮魚礁に携わることになりました。浮魚礁は今年度更新する予定となっており、私は観測データを陸上に送るシステムの開発担当として、現在業務を進めています。
 神奈川県が浮魚礁を初めて設置したのは平成7年3月、それ以来、たくさんの職員が整備や保守管理に関わり、様々な出来事が起こりましたが、新しい4代目の浮魚礁が引き続き本県水産業に貢献できればと思います。

浮漁礁

3代目浮魚礁