「教えて!かにゃお先生」@桜美林大学 実施結果

掲載日:2018年2月25日

平成26年(2014年)12月2日(火曜日) 10時40分から12時10分
桜美林大学 町田キャンパス 明々館にて

参加者

  • 2014年度秋学期「地域社会参加(わたしたちに身近な貧困)」の受講生等38名
  • NPO法人フェアスタートサポート代表理事  永岡鉄平氏
  • 県NPO協働推進課

講座概要

かにゃおの活動について

かにゃおの取組みについて、NPO協働推進課から説明しました。

講演 「児童養護施設の現状と就労支援」
NPO法人フェアスタートサポート代表理事 永岡鉄平氏

 永岡氏

今日は児童養護施設をテーマにお話しします。

NPOは日本ではまだボランティア、かわいそうな人の支援というイメージがあると思います。僕自身、大学では社会福祉を学ぶ学部ではありませんでしたし、就職した会社も典型的な民間企業にいた人間ですが、現在はNPOをやっています。

今日はせっかくの機会なので、僕みたいな人間でもNPOができると思ってもらったり、NPOを身近に感じてください。大学を卒業して、就職せずにすぐNPOを起業するのはハードルが高いのでおすすめしませんが、まずは社会人として活動に関わってもらいながら、将来的に自分もNPOを立ち上げたいなと思ってもらえればと思います。

自己紹介を簡単にします。大学は経済学部で、最初の就職先もリクルートという企業で、求人広告の営業をやっていました。当時のお客さんに誘いを受けて、大学院生だけを対象にした就職支援会社を立ち上げ、そこで3年ほど仕事をしました。辞めて独立準備をして、フェアスタートという団体を立ち上げました。僕は福祉的なバックグラウンドはありません。

では、児童養護施設について、施設にいた子どもたちがなぜ苦しんでいるか、それに対してフェアスタートがどんなことをしているか、なぜ立ち上げたかについてお話しします。

児童養護施設は、元々は孤児院と言われていた場所です。現在では、いわゆる生粋の孤児というのはほとんどいません。最近、顕在化してきたのが虐待で、孤児院という受け皿が性質を変え、子どもを守って養育するという施設に変わってきています。日本全国で585の施設があり、常時約3万人の子どもたちが施設で生活しています。児童養護施設の一番多い都道府県は東京です。東京で1割の60ぐらいの施設があります。2位は大阪で、人口に多少比例しています。そして3万人の子どもたちが生活しています。

そういう子たちの入所経緯を簡単に説明すると、身内に不幸があって天涯孤独となった子も一部いますが、約6割が虐待です。虐待もいくつかパターンがあり、肉体的な暴力、言葉の暴力や子育てをしないネグレクト(養育放棄)などがあります。

次に貧困家庭です。施設の子は片親の場合が多いのですが、片親で生活保護を受けている親御さんが病気になると、子育ての意思と愛情はあるがどうしても育てられなくなります。こうして預けられる子どもが3割です。

では、どのように施設の子どもたちが社会に出て行くのか説明します。まず施設を出る年齢があります。児童福祉法では20歳までは入所していてよいことになっていますが、基本的に子どもたちは18歳、高校卒業時に施設を出ることになります。

その後、進学や就職など、施設を出て自分で生きていくことになりますが、一番大きい問題がお金です。奨学金制度は施設の子も使えます。しかし、結局奨学金は借金であり、金額も高いです。大学への進学率はあまり高くはありません。実質1、2割で、8割くらいは就職します。

日本社会においても貧困の連鎖は根深くあり、なかなか断ち切れない社会構造になっています。貧困と言うと、世間の情報では海外の話が出ますが、実際日本にもあることを改めて知って欲しいと思います。特に施設ですと、18歳で施設を出て、多くの若者が働きます。就労がうまくいき安定した収入の環境で社会人として生きていければ貧困の連鎖は断ち切れますが、現実問題としては、多くの施設出身者がワーキングプアになっています。

ワーキングプアになってしまう理由を説明します。まず高卒で就職し、すぐ最初の就職先を辞めます。辞めた後に正社員の転職活動がうまくいかず、アルバイトになって貴重な20代を過ごしてしまいます。しかしアルバイトで食いつないでいればまだ良くて、中には水商売に行ったり、場合によっては犯罪行為に手を染めたりしてしまいます。収入やいろいろなものが安定しないと精神的なものまで影響してしまいますので、貧困の連鎖は根深いのです。

なぜ施設の子どもたちがワーキングプアになるかについてです。僕がこの仕事をはじめた時に業界のいろいろな関係者の話を聞きましたが、本人のせいにしているところが多くあります。しかし、生い立ちだけでその人の人格が決まってしまうことはありません。多少の影響はあるかもしれませんが、社会に出て人とめぐり合い出会うことで、人間は成長していけると思います。

ただ、18歳という年齢で完全自立を求められること自体が、大きなハードルです。例えば大学生のみなさんが下宿していたとして、その状況で親の仕送りが一切なく、学費を自分のバイト代で稼ぐと想像すると、18歳で完全自立することの難しさがイメージできるかもしれません。かつ施設の子独特な足かせとして、寂しさや孤独、あるいは多少でも社会の偏見もあります。また、施設で守られ過ぎて、社会に出る上で必要とされる経験や知識が不足している面もあります。18歳で自立を宿命付けられている割には、準備が不十分で社会に出ていくと感じています。

僕がこうした課題を20代の時に知り、なんとかしたいと思ったのが、フェアスタートの原点です。フェアスタートの大きなミッションは、今若者の世界で起こっている貧困の連鎖を断ち切ることです。なぜフェアスタートが就労支援をするかというと、彼らがかわいそうだからではなく、客観的にその事実を見て社会損失だと思ったからです。

僕がサラリーマン時代に約5年間民間企業で仕事をしてきた経験が、この問題を社会損失と思わせました。リクルートにいた時は求人広告の営業をしていて、いろいろな中小企業の社長や人事担当の方と話をしてきました。就職難というのは大手企業だけの話であり、中小企業は人手不足で苦しんでいると常々感じていました。そして、若者が欲しいという経営者を何人も見てきました。そして、同時に経営者の方から「今の若者はやる気がない」という嘆きを聞きました。

リクルートにいた時に、当時のお客さんから、大学院生を対象とした就職支援会社を立ち上げるという話に乗って、転職してその会社を立ち上げました。その後学生の就職支援を3年やりました。会社が東京大学と近かったこともあり、東大の大学院生とたくさん会いました。優秀な人がたくさんいて日本の未来は明るいと思う反面、働くことから逃げようとする学生がいることに気づきました。大学4年生で就活がうまくいかなくて、修士2年間が終わった後も働かず博士課程に行き、その後留学と、いつ働くのかという学生もいました。

雇用の受け皿というのは中小企業にたくさんありますが、そこまで若者がたどり着かない。大きい会社を選ぶ傾向が大学生に見受けられるので、中小企業に来る若者が少ないです。こうした中小企業で起きている問題を放っておくのはもったいないというのが、僕の原点です。こうした課題意識で施設の子に出会い、この若者たちは中小企業の諸課題を解決に導いてくれる救世主だと思いました。彼らには非常に可能性があると思い、この事業をしています。

では、施設の子はどういう魅力があるのかについてお話します。まず、彼らは集団生活をしているので、常に誰かとコミュニケーションを取っています。会社に入ったら絶対に起こる上下関係を、下は2歳から上は18歳までいるので疑似体験しています。こういう環境で揉まれてきたのは、企業に入って活きる部分です。また、高校生の間にアルバイトをしている確率が高いです。4人いたら3人くらいバイトしています。高校を出たら自分で生きていかなければならないので、貯金をするためにバイトをがんばっています。会社からすると、働いたことがなくて勉強だけやっていた子よりも、多少でもバイトしていた子の方が雇いたくなります。また、施設の子から大きい会社に行きたいという話をあまり聞いたことがありません。きちんと働いてお金が得られて生活ができるというのが優先順位の上に来ているからです。そして、苦労してきています。苦労をしてこなかった若者よりも、苦労してきた若者の方が、後々人間力が出てきますが、こういった要素を施設の子は持っています。何よりも、働くことが当たり前の子が多いです。この価値観が非常に大事で、これを持てない学生が増えています。ここが会社からすると雇いたい、育てたいと思わせる魅力です。

フェアスタートも人材紹介というビジネスモデルを使って支援をしているので、求人開拓をします。

施設の子に対して色々な偏見があるので、求人を開拓するのは大変ではないかとよく聞かれます。しかし実は求人開拓には全く苦労していません。NHKなどメディアや新聞にも出ているので、勝手にホームページ経由などで企業が問い合わせをしてきてくれます。こういう施設の若者に興味があるから雇いたいと、勝手に求人が増えていきます。そこがユニークなところですが、きちんと前向きな情報を発信すれば、企業は雇って育ててみたいと思うのです。お情けで施設の若者を支援しているのではなくて、本人たちが持っているこういうポテンシャルが非常にもったいないのです。それを解決していくのがスタンスであり理念です。

こうした魅力的なポテンシャルを持った子たちですが、どういった課題があるか、もう少し詳しく説明します。

現在施設者の8割近くが就職しています。東京都が2011年に、施設出身者の雇用環境を調査しました。男性の約4割、女性の約6割が非正規雇用以下との結果でした。厳密に見ると数字にカラクリがあります。アンケートの回収率が4割です。

僕は当時アンケート調査が行われた時に施設出身者たちが集まる場所によく足を運び、東京都からアンケートが来ているけど返したか尋ねたところ、何人かの若者たちは、「返さない」、「ムカつく」といった答えでした。生活環境や収入環境が安定していないと、このようなアンケートに答える精神的余裕が出ません。もしも回収率が10割ならば、たぶん非正規以下が7割になると思います。このように、非正規以下にいる若者が多いのが現実です。

ポテンシャルもあって、自分で稼ぐ環境にあるにも関わらず、なぜ非正規雇用以下になるのかについてお話したいと思います。まず高校の就職活動をして、最初に就職した会社を離職し、その後非正規雇用状態になり抜け出せないという流れです。もう少し説明すると、最初の就職先を辞めた後に、正社員としての転職の仕方が分かりません。大学生のみなさんは高校生がどう就職活動をしているか分からないと思いますが、高校はとても縛られた制約の中で就職活動をしています。

大学生は自分で情報収集をして、自分で選んで会社説明会に行きます。しかし高校生の就職活動は特殊で、自分でやっているようで、自分でやっていません。結果的に就職活動の仕方がよく分からないまま社会に出るので、最初の就職先を辞めたら、転職の仕方がよく分からないということになります。

ただアルバイトはしたことあるので、仕事を辞めた後、目先のお金を得るためとりあえずアルバイトをして、そのままの状態でいくことになります。

他には、最初の就職先でダメージを受けてしまうパターンがあります。施設の子たちが就職先を選ぶ時、寮があって住込みで働ける会社を選ぶ可能性が高いです。なぜかというと、施設を出たら住まいも確保しなければならないので、住込みの寮であれば、一人暮らしよりも家賃が安いからです。

ただ、今この時代で住込み就職ができる会社はブラック企業の確率が高く、就労環境が劣悪な場合が多いです。最初の就職で、一部の子は、正社員はもう嫌だとなってしまいます。また、寂しさから水商売の誘惑に負けやすいということもあります。仕事は辞めやすく、さらに辞めたあとに次への順調な一歩を踏み出せない状況です。最初の就職を辞めてしまう理由ですが、就職活動の中身が軽いからです。これは現在の高校の就職の仕組み自体が問題です。非常に表面的な就職活動をしなければいけない点が課題です。

データで言うと、一般の高校生の新規就職者のうち、従業員が100名以下の会社の3年以内の離職率は、5~6割と高い水準です。このような状況で、施設の子はさらに住込みや家のことを気にしたり、施設を出て孤独を感じたりということもあり、大変だと思います。工業高校や商業高校は就職が従来のやり方でうまくいっていますが、施設の子が多く行く普通高校や通信制、定時制高校は就職の力が弱く、サポートが現実としてできていません。これが高校独特の課題です。

大学生が見る就職サイトでは、大体写真や社員さんからの情報が載っていて、その情報の中から興味のある会社の説明会に行くと思います。しかし、高校生の就活は、分かりにくい求人票を見て、文字だけで判断しなければなりません。高校生は、求人票を見て給料と休みの日の多さで選んでいます。それぐらいでしか選びようがありません。

大学生のみなさんも実際に就活をすると、高校の就職活動がいかに変か分かると思います。高校生の就活を時系列で話すと、まず夏休み頃求人票が提示されて、その中から受けたい会社選びをします。本人たちはこの中で比較して、受けたい会社を先生に伝え、会社見学をします。

大学生であれば、会社見学をしてからどこを受けるか決めます。見学しなければ、どんな会社か分かりません。しかし、高校生は求人票を見て受けると決めてから会社見学をします。会社見学の日にそのまま面接といったことはよくあり、面接で受かったら断れないという企業優位の就職活動が残っています。これでは、ミスマッチが起こります。

たくさんの中小企業があるのに、もったいない状況です。ハローワークのこうした仕組みに疑問を持っている会社もあるので、高卒求人を出さない会社もあります。フェアスタートは、こうした会社をしっかり掘り起こし、マッチングをコツコツやっていきます。本人の問題ではなく、構造的な問題が大きいので、まずは周りの環境を変えることから着手しています。課題解決のためには、施設にいる間に就職に対してもう少し準備が必要です。高校の求人を選ぶなら求人票を見る目を養うことや、そもそも自分がどんな仕事に向いているかを本人がしっかり考える機会を作らなければいけません。

きっかけがあれば抜け出せる若者もいますので、フェアスタートはその機会の提供、就職の斡旋をします。そしていい就職を実現したのであれば、簡単に辞めないように、みんなで定期的にご飯食べに行ったり、フットサルなどの交流を続けます。仲間として関係を持ちながらフォローアップをしていくのが、フェアスタートの支援のスキームです。

現在斡旋の実績は約36人いて、一番多いのはITです。施設の子は建設、飲食店、販売の仕事に就く人が多いですが、本人が望んだからではなく、そうした選択肢しかないのが原因だと思います。IT関係の求人があれば、興味を持って、実際に内定して働きます。機会があれば建設・飲食以外に進む若者がいるという証拠です。こうした実績を今後も増やしたいです。

現在フェアスタートを活用しているのは、神奈川・東京がメインとして約56の施設です。こうした活動をしながら、育った環境や周りの環境は関係なく、せめて社会に出るスタートはフェアに整えようという思いでがんばっています。その先は本人たちの努力ですが、スタートラインでの差は不公平です。

Q&A

2点質問があります。まず、神奈川県でお仕事をされていますが、東京都は自立支援用の専門職を設けていると思いますが、それとの関わり方についてです。
2点目は、児童養護施設出身者が大手に行きたがらないのは、いい面もあると思いますが、一方選択肢が少なく、モチベーションにも影響しそうですが、大学進学や高等教育に進むための支援をどう考えていますか。

東京では自立支援コーディネーターという制度が、2年前から始まっています。その制度はあった方がいいです。東京の施設ではそのコーディネーターさんとも協力して仕事をしています。専門的な窓口があると仕事がしやすいです。神奈川県はその窓口がないので、その仕組みができた方がいいですね。

2点目は、学習支援というカテゴリーでは話ができないので、キャリア教育に連動しますが、高校時代に仕事についてしっかり見つめる機会があって、例えばロボットを作りたいとなると、大学院くらいまでいかないといけないですし、やりたいことが見つかれば逆算できます。その流れが自然です。それを知らず大学にいくと、それに挑むのは大変です。安易に大学に行くのは反対です。施設の子たちの大学中退率は高いのですが、それは動機を見定めないで、とりあえず大学に行くと苦しくて辞めてしまいます。キャリア教育がしっかりしていて、逆算できれば奨学金を借りてでも、本人は大学に行くはずです。

今、生活保護を受けている子の学習支援をしているのですが、高校生たちの自立とか貧困の連鎖を断ち切るまでが見えてこないので、そういった部分はどうお考えですか。

    先日も厚生労働省の課長さんたちと話をしましたが、子どもたちの自立、社会に出るタイミングは、行政でいうと福祉行政と労働行政の狭間です。行政は縦割りなので、高校と社会という世界で見ると、文部科学省は高校、大学まで、その後は厚生労働省になります。文部科学省と厚生労働省のキャリア教育に対する考え方は違っていて、文部科学省の考えるキャリア教育はインターンシップや実習など、あくまで指導という名目です。対して、30歳から60歳すぎまで、どんな人生を作っていきたいか、それを実現するためのキャリアを考えるのが厚生労働省です。企業の世界を知らない人たちが考えるだけでは物事は解決されません。実社会を知っている人たちと連携プレーでつないで落としどころを見つけていかないと、たぶん解決になりません。子どもに先を見せてあげないと、スイッチが入りきらないと思います。

    アンケート結果から

    • NPOはただ単に「かわいそうだから」というだけで活動しているのではなく、日本の社会全体のことを考えて活動していることを知り、イメージが大きく変わった。
    • 児童養護施設の現状を知れたことで、学習支援への参考になった。
    • 以前より、児童分野のNPOの活動に関心があったため、NPOの活動の一例を見ることができて、とても勉強になった。
    • 貧困という問題を、極めて身近に感じることのできる話だった。これから就職活動を控える私にとって、考えさせられることが多くあった。
    • 児童養護施設は私たちはなかなか知る機会がないので、そこで生活している子ども達の生活ぶりや、気になっていた就活など知ることができたので良かった。