ホーム > 教育・文化・スポーツ > 教育 > 教育制度・教育統計 > インクルーシブ教育推進フォーラム > 【当日の記録】平成30年度 第1回インクルーシブ教育推進フォーラム
更新日:2021年6月1日
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神奈川県教育委員会では、誰もが個性と能力を発揮し、生き生きと暮らしていける共生社会の実現に向け、すべての子どもができるだけ同じ場で共に学び共に育つ、インクルーシブ教育の推進に取り組んでいます。
全県的なインクルーシブ教育の推進に向けては、教職員だけでなく、保護者の方や地域の方と共に取り組んでいく必要があり、県民のみなさまのご理解とご協力が何より重要と考えています。
そこで、地域が一体となって子どもを育てていく「わたしたちの学校」について、県民のみなさまと共に考える「インクルーシブ教育推進フォーラム」を開催しました。
平成30年7月26日 木曜日 14時00分から16時30分まで
海老名市文化会館 大ホール(海老名市めぐみ町6-1)
1)趣旨説明及び実践報告
神奈川の考えるインクルーシブ教育の推進とは、「支援教育の理念のもと、共生社会の実現に向け、すべての子どもができるだけ同じ場で共に学び共に育つことをめざす」ことです。
現在、神奈川県では、すべての子どもが共に学び共に育ちながら、能力や可能性を最大限に伸ばし、自立し社会参加できる力を育むために、できるだけ「地域の学校で学ぶしくみづくり」「通常の学級で学ぶしくみづくり」「高校で学ぶしくみづくり」に取り組んでいます。
また、これまで行われている特別支援学級や通級による指導などとあわせて、連続性のある多様な学びの場を整えることにより、一人ひとりの教育的ニーズに応えることができる教育の充実も進めています。こうした取組をとおして、地域で共に生きるしくみづくりにつなげていきたいと考えています。
学校は、さまざまな子どもたちが共に学び共に育つ場を提供していくことが大切だと考えています。子どもたちがかかわり合う機会を多くもつことが、思いやりの心や、お互いを大切にする心を育むことにつながります。
具体的には、小・中学校での「みんなの教室」、高校での「インクルーシブ教育実践推進校」の取組を進めています。
「みんなの教室」の取組とは、すべての子どもが、できるだけ通常の学級で共に学びながら、必要な時間に適切な指導を受けることができるしくみのことです。すべての子どもは、通常の学級に所属します。特別支援学級など、在籍の学級はそのままですが、子どもたちはみんな一つの学級の仲間であるという考えのもと、共に学ぶ取組を進めています。「みんなの教室」モデル校では、子どもが生き生きと参加できるわかりやすい授業づくりや、多様な子どもたちが共に過ごし育ち合う学級づくりに取り組んでいます。また、学校全体で「すべての教職員がすべての子どもを育てる」という共通の意識をもち、一丸となって取り組んでいます。
「インクルーシブ教育実践推進校」とは、共生社会の実現をめざし、知的障がいのある生徒が高校教育を受ける機会を広げながら、すべての生徒が共に学び相互に理解を深める教育に取り組む高校のことです。すべての生徒が、同じ教室で共に学ぶことを通じて、集団の中でお互いを理解しながら、社会性や思いやりの心を育んでいます。また、生徒一人ひとりの教育的ニーズに対応できるように、教育課程や指導体制の工夫などを行っています。平成28年度から始まった県立高校改革において、インクルーシブ教育実践推進校を段階的に指定し、取組を進めています。
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茅ケ崎高校の取組は、一緒に壁を乗り越える取組ではなく、壁を壊す取組、これから入ってくる生徒がまっすぐ進んでいく、生きづらさを感じない社会をつくるための第一歩であると思っています。
インクルーシブ教育について生徒や保護者に伝えるとき、「すべての生徒にとって居心地の良い学校・学級づくり」と説明しています。高校ではこれまでも、障がいのある生徒にいろいろな対応をしてきました。今までの取組を活かしつつ、すべての生徒が気持ちよく学校生活を送れること、これは当たり前のことですが、当たり前のことが実践できるようにしたいと思っています。また、生徒が困ったときに、困ったと言える環境をつくり、応えていきたい、そのような気持ちで取り組んでいます。
中学校まで特別支援学級の小さな集団で過ごし、高校で初めて40人近い大きな集団に入る生徒もいます。一人ひとりの生活面や学習面の困難に応じた計画を立てて、ティーム・ティーチングなど、複数の教員で一緒に取り組みます。
毎年4月に、生徒にアンケートをとっています。茅ケ崎高校がインクルーシブ教育実践推進校であることについて肯定的な回答をした生徒が、平成28年度は80%でしたが、平成30年度は92%でした。また、平成30年度の1年生は97%が肯定的回答をし、2・3年生の90%より高くなっています。これは、平成29年度に1期生が入り、実践と成果について、一般の生徒も含めて理解が進んだ結果だと思っています。
平成29年12月に、茅ケ崎高校の当時の1年生と2年生が発表する機会がありました。その中で生徒は、高校で共に学び共に育つことについて、「小学校からやっているので特別なことではない」「障がいを個性として受け入れることが大切であり、このことは生徒だけでなく先生にも理解してもらいたい」と話していました。また、「これからの社会のあり方を高校生から発信することもできると思う」「ゆくゆくはインクルーシブの概念を良い意味でなくしていきたい」「理解する、偏見を捨てる、平等に思う、この三つのバリアフリーを心において生きていきたい」という発言がありました。生徒のほうがずっと理解が進んでいます。これからの社会を変えるのは、こうした若い人の感覚だと思います。
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(モデル校:南足柄市立福沢小学校、向田小学校、足柄台中学校)
南足柄市では、平成28年度から、「みんなの教室」モデル事業の実践を行ってきました。何か新しいことを始めるというよりは、今まで行ってきた支援教育を価値づけ、その質を高めるという実践的な取組を積み重ねるようにしてきました。「みんなの教室」という名称で新たな場を設けるのではなく、特別支援学級や通級指導教室、個別支援のスタディールームなど、これまで設置されていたさまざまな支援の場を活用しながら、個のニーズに応じた支援を行ってきました。
特別支援学級に在籍する子どもについては、交流及び共同学習の充実を図り、その質を高めることをめざしています。靴箱やロッカー、名簿などを、通常の学級の名前順にして、通常の学級の一員としての環境を整えています。そして、学習のほか、朝の会や帰りの会、給食、清掃、学校行事などを毎日一緒に行い、子ども同士が自然にかかわり合っています。
交流及び共同学習では、「友だちとこんなふうに接する」「こんなふうに活動に参加する」というめあてを明確にすることが大切です。また、すべての教職員が、在籍する学級にかかわらず、すべての子どもを指導・支援しています。
何よりも大切なことは、まわりの子どもたちの理解促進です。いろいろな勉強をする場所があること、違いを認め合うことが大切であることを全校集会で伝えるなど、お互いの理解を深める機会を設けました。
通常の学級に在籍する支援が必要な子どもについては、教職員全体で共通理解をし、ティーム・ティーチングなどの「集団の中での指導・支援」と、「個別の指導・支援」をあわせて、柔軟に支援にあたることを大切にしています。
また、すべての子どもが参加できる授業をめざして、ユニバーサルデザインの視点を取り入れた授業づくりを行っています。たとえば、学習のめあてや見通しを視覚的に示す、わかりやすい板書を心がける、それぞれの意見を全体で共有するなどの工夫があげられます。
このような取組を続けることで、相手を大切にしたり、認め合ったりする子どもの姿が見られるようになりました。
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海老名市では、インクルーシブ教育推進指定校として、海老名市立杉本小学校及び海老名中学校に研究を委託し、取組を進めています。
【杉本小学校】
杉本小学校では、共生社会の実現に向けて、すべての子どもが、できるだけ同じ場で共に学び、共に育つインクルーシブ教育を推進しています。校内にインクルーシブ教育推進部を設置し、会議や研修会等において教職員間で話し合い、情報共有と共通理解を図っています。
教職員一人ひとりが、学校にあるインクルーシブな姿を再発見し、「見つけた!すぎもとのインクルーシブ」と題したシートに書き、教職員間で共有しています。インクルーシブの視点から見直すことにより、今までの実践がつながり、価値づけられます。また、校内に「インクルーシブのまど」という掲示板を設け、インクルーシブにかかわるさまざまな情報を掲示し、学校全体で意識できるようにしています。
特別支援学級に在籍する子どもも、通常の学級の一員として共に学んでいます。特別支援学級の子どもは、通常の学級の担任と毎朝職員室で話をし、その日の授業について確認します。通常の学級の友だちと一緒に過ごす中で、さまざまなかかわり合いがあり、さりげないサポートが日常的に見られます。自分たちで自然にグループを組み、声をかけ合い、ルールなどを工夫しています。友だちと一緒の方が意欲も高まります。
さまざまな子どもが学びやすいように、教室環境をスッキリさせて刺激を減らしたり、授業の流れや道具の位置などを視覚的に示してわかりやすくしたりしています。また、子ども一人ひとりに応じた支援を工夫しています。たとえば、見通しをもつことが苦手な子どもには、タイマーで残り時間を示します。集中が続かない子どもに対しては、がんばれたことをポイントにして「時間の貯金箱」にため、やる気を高めるようにしています。
「見つける」「つなげる」「ひろげる」「ふかめる」という段階で考えると、杉本小学校の実践は「見つける」の段階です。今後は、「見つけた!すぎもとのインクルーシブ」で見つけた取組などを、教職員同士でつなげたり広めたりしていきたいと考えています。子どもたちも教職員も楽しみながら、安心して取り組める持続可能な実践を心がけたいと思います。
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【海老名中学校】
海老名中学校では、インクルーシブ教育に向けて、すべての生徒が同じ場所で学校生活を送ることをめざしています。すべての教職員で協力して、交流及び共同学習の充実や、校内環境の整備などに取り組んでいます。
校内環境の整備としては、テストやプリントにルビをつける工夫や、地図や表示といった視覚的な面での配慮などを行っています。たとえば、校内表示は、文字と地図で、現在地や階の高さなどがすぐわかるようにしています。また、特別教室の案内表示は、どのような教室なのかが伝わるようなイラストで表しています。トイレの表示も、わかりやすいように色を工夫しています。
通常の学級も特別支援学級も関係なく、学級担任以外にも多くの教職員が生徒にかかわり、協力して指導・支援にあたっています。教職員同士のコミュニケーションを大切にしています。職員室で生徒のことがよく話題になり、どうしたら共に学べるかを一緒に相談しながら考えています。
通常の学級の生徒も特別支援学級の生徒も、授業や行事、課外活動などに一緒に取り組んでいます。通常の学級でさまざまな生徒が一緒に過ごすことで、お互いの得意なことや苦手なことなどがわかり、学級の仲間としての絆を深め、生徒同士で自然な形のサポートができています。「こんなふうにするといいよ」と生徒からアイディアが出ることもあります。かかわり合うことで時にはトラブルもありますが、それはよりよくなるためのチャンスだと思っています。話し合いをとおして、お互いへの理解を深めていきます。
海老名中学校では、自然な形でのインクルーシブ教育が推進されていて、それが理想ではないかと思います。これからも、すべての生徒が楽しく活動に参加できるような工夫を進めていきたいと考えています。
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2)パネルディスカッション
「地域と共につくるインクルーシブな学校ーみんなでつくる『わたしたちの学校』ー」
パネリスト | 庄司 暢道氏(認定こども園東海大学付属本田記念幼稚園園長) |
伊藤 正貴氏(株式会社栄和産業代表取締役) | |
コーディネーター | 滝坂 信一氏(独立行政法人国際協力機構技術顧問) |
(写真左より、滝坂 信一氏、伊藤 正貴氏、庄司 暢道氏)
主な内容
庄司 暢道氏:
伊勢原にある認定こども園東海大学付属本田記念幼稚園の園長をしています。2歳児から5歳児まで、230名ほどの子どもがいます。医療的ケアが必要なお子さんや、情緒的サポートが必要なお子さんもいます。
先ほどの実践報告で、茅ケ崎高校の生徒さんが発表の中で「ゆくゆくはインクルーシブの概念を良い意味でなくしていきたい」と言っていたという話がありました。その話を聞いて、本当にそうだなと思いました。
私たちの幼稚園では、障がいのあるお子さんもそうでないお子さんも、一つの部屋にいて、一緒に生活しています。
小・中学校の実践報告の中で、特別支援学級と通常の学級の話がありました。特別支援学級も通常の学級も、それぞれ果たしている役割があり、必要であることは十分に理解していますが、茅ケ崎高校の生徒の発言を受けて考えると、理想ではあるけれども、特別支援学級と通常の学級とがわかれず一つになっている状態をつくれたら、自然でいいのかなと思いました。
幼稚園でもそうですが、学校でも、日々の生活の中で、子ども同士でいろいろなトラブルがあると思います。それを、学校の先生たちは具体的にどうやって解決しているかをお聞きしたいと思いました。
また、小学校にあがるまでに、就学前機関のインクルーシブな場で、子どもたちの中に何を育んでおいたらよいかを、学校の先生から伺いたいと思います。
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伊藤 正貴氏:
栄和産業の伊藤です。綾瀬市で、自動車の部品やショベルカーの部品などを製作しています。従業員は152名で、そのうち7名が障がい者です。溶接や板金の技術者として一人前に成長し、活躍している社員もいます。
最近は、部品の多くが海外で生産されており、簡単な部品の製作作業がほとんどありません。でも、あきらめるとそこで終わってしまいます。障がいが重くても、その人にできる仕事を見つけようと、知恵をしぼって職域の拡大に取り組んでいます。名刺の作成や野菜の水耕栽培などの事業を新たに始めました。できる仕事が増え、成果があがっています。チャレンジできる場づくりが大切です。
企業でも、一番大事なのは社員教育です。立派な技術者に育てれば、ひとりでに成果をあげてくれます。教育が大事です。
特別支援学校生徒の工場実習受け入れを積極的に行っています。不安な様子でやってくる生徒も、実習の中で、今までできなかったことがどんどんできるようになり、自信をつけて学校へ帰っていきます。教育の手伝いができていると感じています。
特別支援学校の先生と意見交換をしています。学校と民間企業が相互に訪問をして、お互いの経験や知識を活かせるようにしたいと考えています。企業の視点から、「このような教育を受けた人が企業で活躍している」などと、情報や意見を交換することで、いろいろな工夫や知恵が生まれてくると思います。
社会に出て伸びるのは、小学校高学年くらいでよい習慣を身につけた子どもだと思います。障がいの重さにかかわらず、自分から宿題をする、時間を管理するなど、家の中でルールを決めて、決まったことを必ずやるように育っている子どもは伸びているなと感じます。
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滝坂 信一氏:
「インクルーシブな学校」とは、地域に住むすべての子どもたちのための、多様な学習ニーズに応じる学校です。それぞれの学校がこれまで取り組んできたこと、取り組んでいることを、この観点から振り返り意味づけてみる、それをもとに次の工夫をしていくということがとても大切だと思います。
教職員は、子どもたちが安心できる学校づくり、そしてわかりやすい授業づくりのために、さまざまな工夫を行っています。それらの工夫は、果たして本当に功を奏しているのかどうか。自分たちがやっていることを自分たちだけで意味づけるのはとても難しい。
学校のエンドユーザーである子どもたちの直接の声に耳を傾け、一緒に学校を、授業を創っていく、そのような取組は、インクルーシブな学校の開発にとって中核的な考え方の一つです。
教職員、子どもたち、保護者、地域の人たち、そして行政の人たちが一緒に考えて学校を創っていくことに面白さを感じ、このような機会にその具体的なアイディアを共有する機会がもてたら素晴らしいと思います。
神奈川県教育委員会では、すべての子どもができるだけ共に学び共に育つ中で、一人ひとりの人間性や多様な個性を尊重し、お互いを理解していくことが大切だと考えています。すべての学校においてインクルーシブ教育の推進に向けた取組が進み、共生社会の実現につながっていってほしいと思います。
今回のフォーラムは、パネリスト、コーディネーター、実践報告者、そして会場全体で「インクルーシブな学校」について考える機会とさせていただきました。
神奈川県教育委員会教育局 インクルーシブ教育推進課
海老名市教育委員会
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