答申第9号

掲載日:2017年12月1日

答申第9号

                         昭和61年2月15日

   神奈川県知事 長洲 一二 殿

                    神奈川県公文書公開審査会 会長 原 寿雄

   公文書の閲覧等の請求拒否処分に関する異議申立てについて(答申)

 昭和60年10月9日付けで諮問された開発行為許可申請書添付の法面検討
書非公開の件(諮問第11号)について、次のとおり答申します。

1 審査会の結論
  法面検討書は、深層混合処理工法による安定設計に係る部分(33ページ
 から40ページまで及び105ページから114ページまで)及び敷網工法
 による安定設計に係る部分(67ページから72ページまで)を除いて、公
 開すべきである。

2 異議申立人の主張要旨
(1)異議申立ての趣旨
   異議申立ての趣旨は、逗子市内の開発行為に係る開発行為許可申請書の
  添付書類のうち、法面検討書を神奈川県知事が昭和60年9月27日付け
  で非公開とした処分の取消しを求める、というものである。
(2)異議申立ての理由
   異議申立人の主張を総合すると、神奈川県知事が「明らかに人格上及び
  財産上の利益を侵害すると認められるため」神奈川県の機関の公文書の公
  開に関する条例(以下「条例」という。)第5条第1項第2号に該当する
  とした非公開の決定は、次に掲げる理由から、条例の解釈及び運用を誤っ
  ている、というものである。
  ア 本件開発行為の工事施行予定者は、地元住民に対し、土質調査書には
   秘密に属するものはなく、当面全文コピーは出せないが、どこにでも持
   参して説明すると述べていることから、土質調査書が重要な部分として
   含まれていると考えられる本件法面検討書を非公開とする根拠は既に失
   われている。
  イ 本件法面検討書は、本件開発行為の事業者及び工事施行予定者(以下
   「本件事業者等」という。)が特定の地域である現地で事業を進めてい
   る限り、他の業者が利用する余地は全くないものであって、「明らかに
   不利益を与える」という理由は、本件事業者等が倒産等によって工事を
   断念した場合のような架空の想定のもとで作られたものである。
  ウ 住民の身体及び財産に対する危険を防止するためには、法面工事の詳
   細な設計内容等を知ることは不可欠である。この場合の公開、非公開の
   判断は、企業の利害と住民個々の利害の単純な衡量によるのではなく、
   県民の身体及び財産の保護という公益的立場から行われるべきものと考
   える。
  エ 条例第5条第1項第2号ただし書アの規定は、人の生命、身体又は健
   康を法人又は個人の事業活動によって生ずる危害から保護するため情報
   の公開を特に保障しており、そのような危害が生ずるおそれがある場合、
   危害の発生を事前に防止するため情報を公開しなければならないと解す
   るのが条例の理念等に整合する。
  オ 公開された本件開発行為許可申請書の添付書類では、土質調査の結果
   等を知ることができない。工事の現地はとりわけ脆弱な土質であり、こ
   れまで知られていなかった地層の不整合が見られるような場所であって、
   急傾斜地崩壊危険区域を含み、地すべり、がけ崩れの蓋然性が極めて高
   いことが懸念される。更に、土質調査のためのボーリング等は、場所の
   選定、方法、評価の仕方等で結論に差が出て来がちであるから、安全性
   を確認するため、その基礎データを検討する必要がある。
  カ 企業が提供する情報は、企業がその利益追及のため提供するものであ
   るから、個人のプライバシーに関する情報とは性格を異にするものと考
   えるべきであり、情報の公開は個人のプライバシーに係るものを除きす
   べてに及ぶというのが、この種の情報公開に関する条例の基本的立場で
   なければならず、条例の原則もそこに置かれていると考える。

3 実施機関の職員(都市部都市整備課長)の説明要旨
  実施機関の職員の説明を総合すると、本件法面検討書を非公開とした理由
  は、次のとおりである。
(1)条例第5条第1項第2号該当性について
  ア 本件法面検討書は、ボーリングデータ、その解析結果等に基づき、本
   件法面検討書の設計者(以下「本件設計者」という。)が土木工学上の
   専門的な知識と技術を駆使し、多額の費用と長い時間をかけて切土及び
   盛土の法面の安全性等を検討して作った成果物であり、本件設計者にと
   って重要な財産である。
    また、本件法面検討書には本件設計者の独自の判断による設計のプロ
   グラム、手順等が示されており、それらは第三者が別の土地について切
   土、盛土及び法面工法を検討する際貴重な資料として利用できるもので
   ある。このような法面検討書をいつ、いかなる方法で公表し、第三者に
   利用させるかは、本件設計者に専属する利益であり、この利益は十分に
   保護されなければならない。
    したがって、本件法面検討書を公開することは、本件設計者に明らか
   に不利益を与えると認められる。
  イ 条例第5条第1項第2号ただし書アの「事業活動によって生ずる危害」
   とは、事業を営む者の事業活動に起因して、現に発生しているか、将来
   発生するであろうことが確実である人の生命等に対する危険及び損害に
   限られ、同号ただし書イの「違法又は不当な事業活動」とは、法の明文
   の規定に反し、又は法の明文の規定に反しないまでもそれが社会通念に
   照らして著しく妥当性を欠く事業活動に限られると考えられる。また、
   同号ただし書ウの「ア又はイに掲げる情報に準ずる情報」とは、同号た
   だし書ア又はイに直接該当しないが、それらと同様の趣旨であり、情報
   の内容も類似しているものに限られると考えられる。
    したがって、本件法面検討書は、同号ただし書ア、イ又はウのいずれ
   にも該当しないものである。
(2)公開した公文書について
   異議申立人が請求した本件開発行為許可申請書及び添付書類のうち、開
  発行為許可申請書、設計説明書、土地利用計画図、造成計画平面図、造成
  計画断面図、がけの断面図、擁壁構造図、防災工事概要書、土量計算書、
  施工計画概要書等の大部分の図面等は公開している。それらの中でも、防
  災工事概要書には工事中の防災対策の概要が、また、施工計画概要書には
  軟弱地盤部の安全性の検討や工事方法、擁壁の工法等が記載されており、
  これらを見れば、法面工事の詳細な内容を知ることができる。

4 審査会の判断理由
(1)本件法面検討書の内容について
   本件法面検討書は、本件開発行為によって生ずる切土法面及び盛土法面
  の安全性を検討し、その対策を設計したものであり、(1)検討結果及び設計
  概要、(2)深層混合処理工法による場合、抑止杭工法による場合及び敷網工
  法による場合における盛土法面の安定設計、(3)もたれ式擁壁の設計条件等
  並びに(4)対策工法を施さない場合及び深層混合処理工法を施した場合の安
  定計算から成っている。
(2)条例第5条第1項第2号本文該当性について
  ア 本件法面検討書の1ページから27ページまでについて
    本件法面検討書の1ページから27ページまで((1)の(1)を記載し
   た部分)には、既に公開された施工計画概要書にほぼ同様の内容が記載
   されており、当該部分を公開することによって、新たに本件設計者に不
   利益を与えるとは考えられない。したがって、当該部分は、条例第5条
   第1項第2号本文に該当する情報ではないと判断する。
  イ 本件法面検討書の28ページ以降について
  (ア)本件法面検討書の28ページ以降(以下「後半部分」という。)に
    は、(1)の(2)、(3)及び(4)が記載されている。これらは、本件設計者
    が固有の知識、経験、技術等により、多くの時間及び経費をかけて作
    り上げた価値のある情報であって、盛土法面の安定設計等の過程とし
    てのプログラム、手順等を示していると認められる。そのため、当該
    部分を公開すると、今後、同種の工事において、他の事業者とりわけ
    競争関係にある設計者に直接、間接に利用され、本件設計者に経営上
    の不利益を与えるおそれがあると考えられる。
  (イ)更に、本件設計者は、このような性格を有する本件法面検討書をい
    つ、いかなる方法で第三者に公開するかということについて、人格的
    にも守られるべき利益を有するというべきである。
  (ウ)(ア)及び(イ)に述べたことを総合すると、後半部分は、公開す
    ることにより本件設計者に明らかに経営上及び人格上の不利益を与え
    ると考えられるから、条例第5条第1項第2号本文に該当する情報で
    あると判断する。
(3)条例第5条第1項第2号ただし書該当性について
   条例第5条第1項第2号本文に該当する情報であっても、同号ただし書
  ア、イ又はウに該当するものは公開することとされている。そこで、当審
  査会は、後半部分が同号ただし書のいずれかに該当するかどうか審議した。
  ア ただし書ア及びイについて
    後半部分は、ただし書ア又はイに規定する情報には該当しないものと
   認められる。
  イ ただし書ウについて
    ただし書ウは、ただし書ア又はイに直接該当しないが、それらと同様
   な趣旨で公開することが公益上必要と認められる情報は公開するものと
   する規定であると解される。この規定を適用するかどうかについては、
   公開することによって得られる公益とそれによって第三者が被る不利益
   とを比較衡量して判断する必要があると考える。
  (ア)本件開発行為の予定地は、現地調査をしてみると、急傾斜地崩壊危
    険区域を含む概して傾斜の急な地域であり、当該予定地の付近住民で
    あれば、本件開発行為により工事中又は工事後に法面の崩壊等の事故
    が生じ、それによって生命及び身体の安全が脅かされるという不安を
    抱くであろうことは、十分理解し得る状況である。
     また、逗子市長及び逗子市議会議長あてに、相当数の関係住民から
    工事中又は工事後の周辺地域に及ぼす危険性及び影響を危ぐし、開発
    行為に対する反対の意思を表明した陳情書等が提出されている事実か
    らも、この不安が現実に存在していることがうかがえる。
  (イ)このような状況のもとにおいて、公開することによって得られる公
    益と、それによって本件設計者が被る不利益とを比較衡量し、具体的
    に検討する。
     (ア)で述べたような生命及び身体の安全性に対する不安を抱いて
    日常生活を送ることが、社会生活上通常容認すべき限度を超えた精神
    的苦痛となり得ることを勘案すると、後半部分を公開することにより、
    付近住民が、直接、設計の詳細を知り、安定計算の内容を確かめ、上
    記の不安を緩和することができるようにすることには、十分な公益上
    の必要性があると認められる。また、後半部分に代わるべき情報は他
    に求め難く、公開されなかった場合にかえって不安が増大することに
    なるであろうことも考慮すべきである。
     一方、本件のような開発行為は危険性を内包していることから、地
    域と調和した円滑な事業推進をはかるために、開発行為者が本件法面
    検討書のような造成の安全性に関する図書を開示する可能性があり、
    設計者としてもこれを予測し得ないでもないと考えられる。現に、本
    件においても、工事施行予定者が付近住民の求めに応じて土質調査資
    料等の造成関連図書を見せて説明すると約束している事情がある。
     これらの諸事情を考慮すると、本件設計者の利益を十分尊重すべき
    ものとの見地に立っても、なお、付近住民の生活者としての安寧を確
    保するために後半部分を公開する公益性が優先されるべきであると判
    断する。
  (ウ)しかしながら、公益上の必要性から公開することがやむを得ないと
    される場合であっても、それによって受ける第三者の不利益が必要な
    限度を超えないよう配慮されなければならない。
     この観点から後半部分の内容を見ると、深層混合処理工法及び敷網
    工法による安定設計に係る部分は、これらの工法が本件開発行為に現
    実に採用されなかったことから、その他の部分と違って、(イ)に述
    べたような公益性との直接のかかわりはないと認められるので、本件
    設計者に不利益を与えてまでも公開する公益上の必要性はないものと
    判断する。
  (エ)以上に述べたことから、当審査会は、後半部分に記載されている情
    報は、深層混合処理工法による安定設計に係る部分(33ページから
    40ページまで及び105ページから114ページまで)及び敷網工
    法による安定設計に係る部分(67ページから72ページまで)を除
    いて、条例第5条第1項第2号ただし書ウに該当すると判断する。

5 審査会の処理経過
  当審査会の処理経過は、別紙のとおりである。

別紙

                             審査会の処理経過

年月日

処理経過

 昭和60.10.9

○諮問

   60.10.14

○実施機関の職員(都市部都市整備課長)に非公開理由説明書の提出要求

   60.10.28

○非公開理由説明書の受理

   60.11.1

○異議申立人に非公開理由説明書を送付

   60.11.12

○異議申立人から非公開理由説明書に対する意見書の受理
○実施機関に非公開理由説明書に対する意見書を送付

   60.11.16
  (第30回審査会)

○異議申立人、補佐人から意見の聴取
○実施機関の職員(都市部都市整備課長ほか)から非公開理由説明の聴取
○審議

   60.12.21
  (第31回審査会)

○審議

   61.1.11
  (第32回審査会)

○現地調査
○審議

   61.2.1
  (第33回審査会)

○審議

   61.2.15
  (第34回審査会)

○審議

                       神奈川県公文書公開審査会委員名簿

                                                     (昭和60.4.1委嘱)

氏   名

現    職

備   考

黒羽 亮一

日本経済新聞社論説委員

 

原 寿雄

共同通信社専務理事

会長

堀部 政男

一橋大学教授

会長職務代理者

若杉 明

横浜国立大学教授

 

渡辺 保男

国際基督教大学学長

 

                       (昭和61.2.15現在)(五十音順)

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本文ここまで
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