答申第10号

掲載日:2017年12月1日

答申第10号

                        昭和61年12月13日

   神奈川県知事 長洲 一二 殿

                   神奈川県公文書公開審査会 会長 原 寿雄

  公文書の閲覧等の請求拒否処分に関する異議申立てについて(答申)

 昭和61年6月18日付けで諮問された昭和58年度通常砂防工事に係る丈
量図一部非公開の件(諮問第12号)について、次のとおり答申します。

1 審査会の結論
(1)愛甲郡清川村煤ケ谷地先柿ノ木平川丈量図は、個人の記名及び押印の部
  分を除いて、公開すべきである。
(2)愛甲郡清川村煤ケ谷地先柿ノ木平川面積計算図を非公開としたことは、
  妥当である。

2 異議申立人の主張要旨
(1)異議申立ての趣旨
   異議申立ての趣旨は、昭和58年度通常砂防工事(柿ノ木平川愛甲郡清
  川村煤ケ谷地先)請書添付の工事内訳書に記載の用地測量面積相当の丈量
  図及び計算書(特定された公文書としては、愛甲郡清川村煤ケ谷地先柿ノ
  木平川丈量図及び愛甲郡清川村煤ケ谷地先柿ノ木平川面積計算図)を神奈
  川県知事が昭和61年4月17日付けで一部非公開とした処分の取消しを
  求める、というものである。
(2)異議申立ての理由
   異議申立人の主張を総合すると、神奈川県知事が「特定の個人の意思表
  示に関する情報である。未買収箇所及び将来事業計画箇所を公開すること
  により、今後の用地買収の円滑な実施を著しく困難にするおそれがあるた
  め」神奈川県の機関の公文書の公開に関する条例(以下「条例」という。)
  第5条第1項第1号及び第5号に該当するとした一部非公開の決定は、次
  に掲げる理由から、条例の解釈及び運用を誤っている、というものである。
  ア 丈量図は、個人間の土地の境界を決定することを目的としているので
   はなく、国と個人が、国有地と民有地との境界について確認した結果を
   記載しているものである。このような情報は、個人間の秘密の手紙など
   とは別個の性格を持つもので、個人と国との合意の内容を示しているも
   のであるから、行政上の特段の支障がない限り、国民誰しも知る権利を
   有するものであり、また、知らされるべきものである。
  イ 県が境界確認の記名及び押印の部分を非公開にすると、これを偽造さ
   れた場合に偽造の事実を発見しにくくなる。したがって、犯罪を防止す
   るためにも、これを公開することが公益上必要である。
  ウ 境界確認の記名及び押印のための欄は、記名及び押印をする者に、他
   の者の記名及び押印の状況が分かるようになっている。このことは、特
   定の者に対し境界確認の記名及び押印の部分を公開していることを意味
   する。また、公開されては困ると考えて記名及び押印をしている者はい
   ないと思われる。今回公開されない部分の記名及び押印は以上のような
   状況で行われているものであり、この部分を非公開とする必要はない。
  エ 非公開とされた部分の土地の所有者が誰であるかということは、手数
   はかかるが登記所で不動産登記簿を調査すれば簡単に分かることである。
   本当に非公開にする必要があるのであれば、工事箇所そのものを秘密に
   しなければならなくなるはずである。
  オ 未買収であることを理由に非公開とされた部分は、本件と同一の文書
   を昭和59年に請求したときには、境界確認の記名及び押印の部分を除
   いて公開されている。一度公開した文書を、後になって非公開とするの
   は納得がいかない。

3 実施機関の職員(厚木土木事務所長)の説明要旨
  実施機関の職員の説明を総合すると、本件請求に係る公文書の内容及び当
 該公文書を一部非公開とした理由は、次のとおりである。
(1)本件請求に係る丈量図は、愛甲郡清川村煤ケ谷地先柿ノ木平川丈量図
  (県道との交差地点から下流部分の事業実施段階の図面。以下「本件丈量
  図」という。)及び愛甲郡清川村煤ケ谷地先柿ノ木平川面積計算図(県道
  との交差地点から上流部分の将来事業計画段階の図面。以下「本件面積計
  算図」という。)からなっている。
   なお、請求に係る計算書は、面積を計算した表として、上記の二つの図
  面中にそれぞれ記載されている。
(2)条例第5条第1項第1号該当性について
   本件丈量図に記載された境界確認の記名及び押印の部分は、土木事業の
  用に供する土地の所有者が隣接地との境界を用地買収に係る限りにおいて、
  本件丈量図記載の境界で異議なく承諾する旨の個人の意思表示に関する情
  報であり、条例第5条第1項第1号本文に規定する個人に関する情報であ
  って、特定の個人が識別されるものであることは明らかである。
   また、当該部分が同号ただし書ア、イ及びウのいずれにも該当しないこ
  とも明らかである。
(3)条例第5条第1項第5号該当性について
  ア 本件のような公共事業においては、用地を取得することができるかど
   うかがその成否を分けるといっても過言ではない。そして、用地交渉は、
   その性質上、土地に関して権利を有する者(以下「地権者」という。)
   の任意の意思決定にその成否がかかっており、非常に微妙なものである
   から、買収価格についての交渉はもちろんのこと、税務、相続といった
   買収に関連して発生する種々の問題の相談を受け、助力するなどして交
   渉を重ねることによって地権者と合意が得られるものである。このよう
   に、良好な信頼関係を築くことにより円滑な用地交渉が可能となるもの
   である。したがって、地権者にとって不利益又は不都合と感じられるよ
   うな事態及び第三者の不当な介入を招くような事態は可能な限り回避す
   る必要がある。
  イ 具体的な買収予定箇所及びその面積を、地権者の親類縁者、金融機関、
   不動産業者等に知られることは、通常、地権者が最も嫌うところであり、
   今までにも、県から交渉内容が漏れたのではないかと交渉中に何度も不
   満を述べられ、交渉が長引いたことがある。
  ウ 上記ア及びイの事情から、経験則上、本件丈量図のうち未買収の用地
   に係る部分を公開することにより、当該用地の買収事業の円滑な実施を
   著しく困難にするおそれがあると判断できる。
    なお、用地買収事業は、所有権移転手続及び土地売買代金の支払手続
   が終了し、更に県が占有まで取得して当該土地の管理を完全になし得る
   状態になった時点で完了するものであるから、その時点までは当該土地
   は未買収の状態である。
  エ 本件面積計算図には、各筆毎の買収予定面積は示されていないが、当
   該図面に示されている土地が砂防指定地として指定されれば事業実施が
   予定されることから、本件面積計算図を公開することにより具体的な計
   画が明らかになり、本件丈量図のうち未買収の用地に係る部分を公開す
   るのと同様の支障が生じ、今後の用地買収事業の円滑な実施を著しく困
   難にするおそれがある。
  オ 異議申立人が一度公開されたと指摘している部分については、その後
   当該土地について道路改良事業と競合したため、当該事業との調整が必
   要になり、本件一部非公開の処分時においては、公開すると支障が生ず
   ることとなったものである。

4 審査会の判断理由
(1)本件丈量図及び本件面積計算図の性格について
  ア 本件丈量図は、本件砂防工事の対象となる土地を測量した結果を縮尺
   250分の1で表示したものであり、買収対象地の各筆毎の面積が算出
   されている。また、この中には、買収対象地の各筆について、本件丈量
   図に記載された境界を確認する旨の地権者である個人の記名及び押印が
   なされている。更に、本件丈量図に記載された情報は、本件砂防工事の
   用地買収計画を示しているものであると認められる。
  イ 本件面積計算図は、本件砂防工事箇所に隣接する箇所についての砂防
   事業計画を示すとともに、砂防事業計画地の総面積を算出したものと認
   められる。
(2)本件丈量図について
  ア 条例第5条第1項第1号該当性について
    本件丈量図に記載されている個人の記名及び押印の部分は、本件丈量
   図に記載された境界を確認する旨の地権者である個人の意思表示に関す
   る情報であり、特定の個人が識別されるものである。したがって、本件
   丈量図のうち個人の記名及び押印の部分は、条例第5条第1項第1号本
   文に該当する情報であると判断する。
    同号ただし書は、個人に関する情報で、特定の個人が識別されるもの
   であっても、例外的に公開することができる情報を列挙しているが、当
   審査会は、本件丈量図のうち個人の記名及び押印の部分は同号ただし書
   ア、イ及びウのいずれにも該当しないものであると判断する。
  イ 条例第5条第1項第5号該当性について
  (ア)条例第5条第1項第5号は、県の機関又は国等の機関が行う検査、
    監査、取締等の計画及び実施細目、争訟及び交渉の方針、入札の予定
    価格、試験の問題その他の事務又は事業に関する情報であって、当該
    事務又は事業の性質上、公開することにより、当該事務又は事業の実
    施の目的を失わせ、又は当該事務又は事業の円滑な実施を著しく困難
    にするおそれのあるものは、非公開にすることができるとしている。
  (イ)本件丈量図には、(1)のアで述べたように本件砂防工事の買収対
    象地及びその面積が各筆毎に記載され、本件砂防工事の用地買収計画
    が示されている。また、当該用地を取得するための交渉の資料として
    使用されていることから、本件丈量図に記載された情報は、県が実施
    する用地買収事業に関する情報であると認められる。
     以下、本件丈量図に記載された情報を公開することにより、当該用
    地買収事業の円滑な実施を著しく困難にするおそれがあるかどうか検
    討する。
  (ウ)用地買収事業においては、県が地権者との信頼関係を重視しなけれ
    ばならない事情にあることは、理解できる。また、一般に、地権者が、
    具体的な買収予定箇所及びその面積が公開されると、相続関係等で親
    族間の争いが生ずること、金融機関の預金獲得の攻勢を受けるように
    なること、不動産業者からの買収交渉を受けるようになること等から、
    こうした情報は他人に知られたくないと望むことも理解できる。そし
    て、県がこうした情報を交渉中に他人に公開することは、地権者の立
    場に対する配慮を欠く姿勢と受け取られて、信頼と協力が得られなく
    なるということは容易に予想できる。
     このことを前提にして、本件丈量図を見ると、本件丈量図には買収
    予定箇所やその面積といった交渉内容が記載されており、交渉中であ
    れば、これを公開することによって、経験則上、当該用地の買収事業
    の円滑な実施を著しく困難にするおそれがあるとする実施機関の主張
    は、十分納得できる。
  (エ)しかしながら、本件丈量図のうちの未買収の用地として非公開とさ
    れた部分については、本件一部非公開の処分時において、既に土地売
    買契約が締結され、所有権移転の登記も済み、一部土地売買代金の支
    払手続のみが未了であった、という事実が認められる。
     実施機関は、土地売買代金の支払手続が完了し、県が当該土地の占
    有を取得し、完全に管理し得る状態になった時点で用地買収事業は完
    了するものであり、それまでの間は未買収の状態である、と主張する。
     事業上は、県が土地の管理を完全に行い得る状態になるまでは、一
    連の用地買収は完了していないと言えるかもしれない。しかし、本件
    の場合、所有権移転の登記は完了しており所有権移転の登記が完了す
    れば、何人も不動産登記簿を閲覧することにより買収面積、契約年月
    日等を知り得ることになる。そのため、このような情報を公開したと
    しても地権者との信頼関係を害するようなことにはならないと考えら
    れる。
     したがって、本件丈量図のうち未買収の用地として非公開とされた
    部分は、本件一部非公開の処分時の事情においては、条例第5条第1
    項第5号に該当しないものと判断する。
(3)本件面積計算図について
   本件面積計算図には、将来の砂防事業計画として、当該事業に必要な用
  地の範囲及び面積が記載されているので、公開すると、公図等と照合する
  ことにより、今後計画が具体化して用地買収を行う場合の買収対象地の地
  権者及び各筆毎の買収予定面積がほぼ明らかになると考えられる。このこ
  とから、本件面積計算図を公開すると、(2)のイの(ウ)に述べたのと
  同様の事情で、当該地権者の信頼と協力が得られなくなり、今後に予定さ
  れる用地買収事業の円滑な実施を著しく困難にするおそれがあると認めら
  れる。
   したがって、本件面積計算図に記載された情報は、条例第5条第1項第
  5号に該当するものと判断する。

5 審査会の処理経過
  当審査会の処理経過は、別紙のとおりである。

別紙

                                審査会の処理経過

年月日

処理経過

 昭和61.6.18

○諮問

   61.6.19

○実施機関の職員(土木部厚木土木事務所長)に非公開理由説明書の提出要求

   61.7.1

○非公開理由説明書の受理

   61.7.2

○異議申立人に非公開理由説明書を送付

   61.7.14

○異議申立人から非公開理由説明書に対する意見書の受理

   61.7.15

○実施機関に非公開理由説明書に対する意見書を送付

   61.7.19
  (第36回審査会)

○異議申立人から意見の聴取
○実施機関の職員(土木部厚木土木事務所長ほか)から非公開理由説明の聴取
○審議

   61.9.13
  (第37回審査会)

○審議

   61.10.11
  (第38回審査会)

○実施機関の職員(土木部厚木土木事務所河川砂防部長ほか)から非公開理由説明の聴取
○審議

   61.11.15
  (第39回審査会)

○審議

   61.12.13
  (第40回審査会)

○審議

                    神奈川県公文書公開審査会委員名簿

                                                     (昭和60.4.1委嘱)

氏名

現職

備考

黒羽 亮一

日本経済新聞社論説委員

 

原 寿雄

共同通信社専務理事

会長

堀部 政男

一橋大学教授

会長職務代理者

若杉 明

横浜国立大学教授

 

渡辺 保男

国際基督教大学学長

 

                                            (昭和61.12.13現在)(五十音順)

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本文ここまで
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