答申第19号

掲載日:2017年12月1日

答申第19号

 

                           平成2年3月3日

 

   神奈川県知事 長洲 一二 殿

 

                     神奈川県公文書公開審査会 会長 原 寿雄

 

  公文書の閲覧等の請求拒否処分に関する異議申立てについて(答申)

 

 平成元年8月17日付けで諮問された労働者派遣事業指導監督分析結果非公
開の件(諮問第21号)について、次のとおり答申します。

1 審査会の結論
  労働者派遣事業指導監督分析結果を非公開としたことは、妥当である。

2 異議申立人の主張要旨
(1)異議申立ての趣旨
   異議申立ての趣旨は、労働者派遣事業指導監督分析結果(以下「本件文
  書」という。)を、神奈川県知事が平成元年8月8日付けで非公開とした
  処分の取消しを求める、というものである。
(2)異議申立ての理由
   異議申立人の主張を総合すると、神奈川県知事が「国と県が協力して行
  っている労働者派遺事業の指導監督事務に関する協力関係を著しく害する
  おそれがある。国及び県の行う今後の労働者派遺事業の指導監督事務の円
  滑な実施を著しく困難にするおそれがある。国からの通達により閲覧及び
  写しの交付が禁止されている機関委任事務に係る情報であるため」神奈川
  県の機関の公文書の公開に関する条例(以下「条例」という。)第5条第
  1項第3号、第5号及び第7号に該当するとした非公開の決定は、次に掲
  げる理由から、条例の解釈及び運用を誤っている、というものである。
  ア 実施機関は、国との協力関係を非公開理由の一つに掲げているが、こ
   の場合の国とは、リクルート事件等でその実態が明らかになった労働省
   のことである。この労働省との協力関係を尊重しようとしている実施機
   関は、リクルート事件労働省ルート収賄側被告と同類であることを、自
   ら証明している。
    したがって、このような協力関係を尊重するという非公開理由は、社
   会正義の上から認められるものではない。
  イ 国及び県は、職業安定法第44条及び労働基準法第6条に違反する労
   働者供給事業の取締りを怠り、これら違法事業の活動を放置し、容認す
   るという非人道的かつ差別的な不法行政を行っている。昭和20年代及
   び30年代初期には、労働者供給事業の取締事務が円滑に行われていた
   が、国と県は、産業界及び労働者供給事業者の意向に従って、途中から
   取締りをやめてしまったのである。
    そもそも、取り締るべき犯罪を黙認するという現在の不法行政の事務
   の円滑な実施を著しく害するという非公開理由は不当なものであり、そ
   のような主張は通らない。
  ウ 労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備
   等に関する法律(以下「労働者派遣法」という。)は、利益を得ないで
   労働者を派遣する場合には合法であると定義されているので、現実に存
   在しない事業者を対象としたものであるから無効である。労働者派遣事
   業と称されているものは、労働者派遺法に基づく許可又は届出の有無に
   かかわらず、そのすべてが中間介在として労働者の賃金をピンハネして
   いる以上、職業安定法第44条によって禁止された労働者供給事業にほ
   かならず、中間搾取の排除を規定した労働基準法第6条にも違反する非
   合法活動かつ犯罪事業である。
    したがって、これらの事業者に対する法律上の保護は無用であり、公
   務員の守秘義務を禁じ、告発義務を課した刑事訴訟法第239条第2項
   により、本件文書を隠匿することは許されない。
  エ 実施機関は、本件文書が、国によって「部外秘」に指定された文書で
   あると主張している。しかし、労働行政の主権は、神奈川県や労働省に
   ではなく、国民及び労働者にあることを、実施機関は忘れている。
    そもそも、行政機関の保有する文書は、個人の情報が記載されている
   部分を除いて、全部を主権者たる国民に公開すべきである。
  オ 本件文書の存在とそのあらましが、新聞等で報道されている。報道機
   関等に既に提供された情報を、異議申立人に公開しないのは不公平であ
   る。

3 実施機関の職員(労働部職業対策課長)の説明要旨
  実施機関の職員の説明を総合すると、本件文書を非公開とした理由は、次
 のとおりである。
(1)条例第5条第1項第3号該当性について
  ア 本件文書は、労働省からの依頼に基づき、県内公共職業安定所の指導
   監督結果をもとに職業対策課で作成し、労働省に報告した文書である。
   労働省は、この報告をもとに次年度の指導監督年度計画を定め、県にお
   いても、この労働省の計画に基づく指導監督実行計画を定めている。さ
   らに、本件文書は、国と県の相互の労働者派遣事業の指導監督を実施す
   る上での基礎文書である。
  イ 労働省は、昭和62年9月2日付け及び昭和63年5月23日付けの
   労働者派遺事業に係る指導監督の実施についてという通知(以下「指導
   監督実施通知」という。)の中で、本件文書の様式を定めるとともに、
   本件文書の「部外秘」を指示している。また、労働省では、本件文書に
   関する全体的な結果を公表していない。
  ウ したがって、労働省の「部外秘」の要請を無視して本件文書の全部又
   は一部を公開すると、労働者派遺事業の指導監督事務のみならず、他の
   関係業務の遂行における国と県との協力関係を著しく害するおそれがあ
   る。
(2)条例第5条第1項第5号該当性について
  ア 本件文書は、労働者派遺事業の指導監督計画に基づいて公共職業安定
   所が指導監督を行った実施結果を分析したものである。また、本件文書
   には、労働者派遣事業の指導監督事務の計画やその方針、内容等の実施
   細目が記載されており、これをクリアーすれば違法性はないという情報
   が明らかになる文書である。
  イ したがって、本件文書を公開すると、労働者派遣事業の指導監督事務
   の計画やその方針、内容等の実施細目が明らかになり、国及び県が行う
   今後の指導監督に関する事務の円滑な実施を著しく困難にするおそれが
   ある。
(3)条例第5条第1項第7号該当性について
  ア 本件文書の中には、実際に検査を行った特定の事業者の名称等の記載
   があり、この部分は、職業安定法第51条に該当し、職業安定局長の許
   可のない限り公開することができない情報である。当該情報を公開する
   ことは、国家公務員法第100条に違反する。
  イ 労働省は、指導監督実施通知の中で、本件文書の様式を定めるととも
   に、「部外秘」を指示している。
  ウ したがって、本件文書は、閲覧又は写しの交付が禁止されている機関
   委任事務に係る情報であり、明らかに公開することができない情報であ
   る。

4 審査会の判断理由
(1)本件文書の性格について
  ア 本件文書は、労働省職業安定局民間需給調整事業室長から、昭和62
   年度及び昭和63年度にそれぞれ通知があった指導監督実施通知により、
   それぞれの年度に神奈川県内の公共職業安定所が行った労働者派遣事業
   に係る指導監督の内容及びその分析結果を労働省に報告した文書である。
  イ 本件文書には、労働者派遣事業に係る指導監督の実施状況、その効果、
   把握した問題点等が記載されていると認められる。
(2)条例第5条第1項第3号該当性について
  ア 条例第5条第1項第3号は、国等の機関からの協議又は依頼に基づい
   て作成し、又は取得した情報であって、公開することにより、国等との
   協力関係を著しく害するおそれのあるものを非公開とすることができる
   としている。
  イ 同号は、国又は他の地方公共団体との協力関係を確保することを目的
    としており、機関委任事務の執行に際して作成し、又は取得した情報
    について公開を禁止する旨の通達がある場合には、同号の適用になじ
    まないと考える。(4)で述べるとおり、機関委任事務に関して、主
    務大臣から、公開を禁止する趣旨の通達があった場合には、国と実施
    機関との協力関係を考慮するまでもなく、その通達に従わざるを得な
    いからである。
(3)条例第5条第1項第5号該当性について
  ア 条例第5条第1項第5号は、県の機関又は国等の機関の行う検査、監
   査、取締等の計画及び実施細目、争訟及び交渉の方針、入札の予定価格、
   試験の問題その他の事務又は事業に関する情報であって、当該事務又は
   事業の性質上、公開することにより、当該事務又は事業の実施の目的を
   失わせ、又は当該事務又は事業の円滑な実施を著しく困難にするおそれ
   のあるものは、非公開にすることができるとしている。
  イ 本件文書には、国及び県が現在行っている労働者派遺事業に係る指導
   監督事務の実施細目を推測させ得る情報が記載されている。当該情報が
   明らかになると、後を断たない労働者派遺法違反行為の手口を複雑巧妙
   化させるとともに、違反行為の隠ぺい工作を容易にするなど、指導監督
   事務に著しい支障を与え、労働者の福祉の向上に重大な影響を及ぼすお
   それがあると認められる。したがって、当該情報は、条例第5条第1項
   第5号に該当すると判断する。
  ウ しかしながら、本件文書には、前記イの情報を除くと、指導監督に係
   る事実に関する情報に過ぎず、実際の指導監督の「手の内」を推測させ
   るような情報でないものも存在する。したがって、本件文書に記載され
   た情報のうち、前記イの情報を除いた部分の情報は、条例第5条第1項
   第5号に該当しないものと判断する。
(4)条例第5条第1項第7号該当性について
  ア 条例第5条第1項第7号は、法令の定めるところにより明らかに公開
   することができないとされている情報は非公開にすることができる、と
   している。
    まず、本件文書に記載された情報に、法令の定めるところにより明ら
   かに公開することができない情報があるかどうかについて検討する。
  (ア)本件文書の中には、実際に指導監督を受けた事業所の名称及び事業
    所名を推測させ得る親会社の名称等が記載されている。これらは、秘
    密の厳守を定めた職業安定法第51条の「労働者又は雇用主の個人的
    な情報」に該当し、職業安定局長の指示のない限り公表することが禁
    じられている情報であると認められる。
  (イ)したがって、前記(ア)の部分の情報は、法律の定めるところによ
    り明らかに公開することのできないとされている情報であると判断す
    る。
  イ 次に、実施機関は、同号の規定する「法令」の範囲に、機関委任事務
   に係る通達が含まれると主張しているので、この点について検討する。
  (ア)機関委任事務については、地方自治法第150条に基づき、都道府
    県知事は主務大臣の指揮監督を受ける。このことから、機関委任事務
    に係る公文書の閲覧又は写しの交付について、主務大臣の指揮監督に
    より非公開の指示があった場合、知事は結果的に当該文書を公開する
    ことができないと考えられる。
  (イ)主務大臣の指揮監督は、いわゆる通達という形の文書で行われるの
    が通常である。したがって、それに従わざるを得ないという意味で、
    適法に発せられた通達は、同号の「法令」に含めて解釈することも可
    能である。
  (ウ)通達が同号の「法令」としての効力を持つのは、機関委任事務に関
    し、主務大臣又は主務大臣からその権限の委譲を受けた者から発せら
    れたものであり、そのことが明らかであることに加えて、地方自治の
    本旨にかんがみ、次の要件が必要であると判断する。
    a 文書によって行われたものであること。
    b 公文書の閲覧又は写しの交付を禁止する趣旨が明確であること。
    c 閲覧又は写しの交付を禁止する公文書の範囲が明確であること。
    d 当該指揮監督が法規に抵触することが明白でないこと。
  ウ 以下、本件文書が、機関委任事務に係る国からの通達によって、公文
   書の閲覧又は写しの交付が禁止されたものか否かを検討する。
  (ア)地方自治法別表第3第1号(58)は、「職業安定法(昭和22年
    法律第141号)及びこれに基く政令の定めるところにより、公共職
    業安定所の業務の連絡統一を図り、所部の職員及び公共職業安定所長
    を指揮監督し、並びに職業安定機関以外の者が行う労働者の募集を許
    可する等職業安定に関する事務を行うこと。」を都道府県知事の機関
    委任事務として定めている。労働者派遣法は、職業安定法第47条の
    2に基づき同法の特別法であるので、地方自治法別表第3第1号(5
    8)の解釈として、労働者派遣法の施行に関する事務についても、都
    道府県知事の機関委任事務であると解することができる。
  (イ)本件文書は、公共職業安定所の行った労働者派遣事業に係る指導監
    督の内容及びその分析結果を労働省に報告した文書であり、「公共職
    業安定所の業務の連絡統一」に関する文書であると認められる。
  (ウ)指導監督実施通知は、労働省組織規程第2条の9の2第3項に基づ
    き「労働者派遣事業その他職業安定機関以外の者の行う労働力の需給
    調整に関する事務」について、労働大臣の権限を補助執行する機関で
    ある労働省職業安定局民間需給調整事業室長からの通知であり、本件
    文書の作成につき、指揮監督権を持つ国の機関からの通知であると認
    められる。
  (エ)指導監督実施通知に示された報告の様式には、外部への秘匿を指示
    する文言が記載されており、この趣旨は、本件文書の記載内容及び添
    付資料について外部への秘匿を指示するものであり、本件文書の秘匿
    を指示することは、法令に違反するものとは認められない。
     また、労働省では、本件文書に関しては一切公表していないと認め
    られる。
  (オ)したがって、本件文書は、諾否の決定時点で、適法かつ効力を有す
    る国の通達により、閲覧及び写しの交付の禁止されている機関委任事
    務に関する情報であると認められ、本件文書は、条例第5条第1項第
    7号に該当すると判断する。
(5)その他
   当審査会としては、この際、次の点を付言しておきたい。
  ア 本件文書について、労働省が、指導監督実施通知によって、事前に包
   括的な非公開の指示を行っていたのは、先に認定したとおりである。し
   かし、本件文書の一部に、条例第5条第1項第5号及び第7号(職業安
   定法第51条に基づく適用)に該当する情報が存在することが認められ
   るが、なぜ、本件文書全体を包括的に非公開とする必要があるのか、は
   なはだ疑問である。
  イ 都道府県の行政事務の約三分の二が、国の機関委任事務である現状を
   考慮すると、本件文書に関して見られるような国の姿勢を、当審査会は
   深く憂慮せざるを得ない。
    機関委任事務に係る文書といえども、その管理は地方公共団体の固有
   事務であるとされている。また、条例第1条に定めるとおり、条例は、
   地方自治の本旨に即した公正で開かれた県政の実現を図り、県政に対す
   る県民の理解を深め、県民と県との信頼関係を増進することを目的に制
   定されたものである。
  ウ 地方公共団体における文書管理の実態と、条例が憲法に保障された
   「知る権利」を実定法化したものである点を踏まえ、国は、機関委任事
   務に関する文書について、通達により非公開の指示を行う場合は、非公
   開とする実質的な理由を厳密に検討し、理由を通達上に明示するととも
   に、非公開の範囲を必要最小限に限定するよう強く要望したい。

5 審査会の処理経過
  当審査会の処理経過は、別紙のとおりである。

 

別紙

                            審査会の処理経過

年月日

処理内容

 平成元.8.17

○諮問

   元.8.18

○実施機関の職員(労働部職業対策課長)に非公開理由説明書の提出要求

   元.9.8

○非公開理由説明書の受理

   元.9.12

○異議申立人に非公開理由説明書を送付

   元.9.26

○異議申立人から非公開理由説明書に対する意見書の受理

   元.9.28

○実施機関に非公開理由説明書に対する意見書を送付

   元.10.7
 (第66回審査会)

○異議申立人から意見の聴取
○実施機関の職員から非公開理由説明の聴取
○審議

   元.12.16
  (第67回審査会)

○審議

   元.12.25
  (第68回審査会)

○審議

   2.2.17
  (第70回審査会)

○審議

   2.3.3
  (第71回審査会)

○審議

 

 

 

                神奈川県公文書公開審査会委員名簿

                                           (平成元年4月1日委嘱)

氏名

現職

備考

黒羽 亮一

筑波大学教授

 

原 寿雄

(株)共同通信社代表取締役社長

会長

堀部 政男

一橋大学教授

会長職務代理者

若杉 明

横浜国立大学教授

 

渡辺 保男

国際基督教大学学長

 

                                     (平成2年3月3日現在) (五十音順)

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本文ここまで
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