答申第20号

掲載日:2017年12月1日

答申第20号

 

                           平成2年3月3日

 

   神奈川県知事 長洲 一二 殿

 

                    神奈川県公文書公開審査会 会長 原 寿雄

 

  公文書の閲覧等の請求拒否処分に関する異議申立てについて(答申)

 

 平成元年8月17日付けで諮問された職業安定法第44条及び労働基準法第
6条等違反に関する申入れ又は申告の取扱いについて(労働省通達)非公開の
件(諮問第22号)について、次のとおり答申します。

 

1 審査会の結論
  職業安定法第44条及び労働基準法第6条等違反に関する申入れ又は申告
 の取扱いについて(労働省通達)を非公開としたことは、妥当である。

2 異議申立人の主張要旨
(1)異議申立ての趣旨
   異議申立ての趣旨は、昭和52年2月25日付けの職業安定法第44条
  及び労働基準法第6条等違反に関する申入れ又は申告の取扱いについて
  (労働省通達)(以下「本件文書」という。)を、神奈川県知事が平成元
  年8月8日付けで非公開とした処分の取消しを求める、というものである。
(2)異議申立ての理由
   異議申立人の主張を総合すると、神奈川県知事が「国と県が協力して行
  っている労働行政における協力関係を著しく害するおそれがある。国及び
  県の行う今後の労働行政における指導監督事務の実施を著しく困難にする。
  国からの通達により閲覧及び写しの交付が禁止されている機関委任事務に
  係る情報であるため」神奈川県の機関の公文書の公開に関する条例(以下
  「条例」という。)第5条第1項第3号、第5号及び第7号に該当すると
  した非公開の決定は、次に掲げる理由から、条例の解釈及び運用を誤って
  いる、というものである。
  ア 法令違反かどうかの判断基準は、すべて公開される必要がある。
  イ 本件文書は、労働省から神奈川県に通知された文書であり、神奈川県
   の中の文書である。行政の通達というものは、地方自治体に対して通知
   されたものであれば公開されて当然である。
  ウ そもそも、行政機関の保有する文書は、個人の情報の記載されている
   部分を除いて、全部が主権者たる国民に公開されなければならない。
  エ 職業安定法第44条違反かどうかの判断基準は職業安定法施行規則第
   4条であり、労働基準法第6条違反かどうかは労働省基発第381号通
   達であり、当該法令違反の判断基準は、公表されたそれぞれの規則又は
   通達だけのはずである。ところが、この公表された判断基準を否定して
   作成された闇の判断基準が、本件文書にほかならない。
  オ 主権者は労働省であり、国民にあらずとの前提で作成された本件文書
   は、主権者たる国民に公開した上で、判断基準としては無効であること
   を明らかにする必要がある。
  カ 本件文書の存在とそのあらましが新聞等で報道されている。また、大
   阪の弁護士が労働法律旬報の中で、本件文書について、これは反社会的
   な通達であり、これがあるために労働者供給事業が取り締られなくなっ
   てしまい、許し難いと書いている。このように、異議申立人が入手でき
   ない情報が、報道機関、弁護士等に提供されているのは不公平である。
  キ また、本件文書について以前に請求したときは、神奈川県との利害関
   係を明らかにしていないとして、請求書の受理を拒否され、異議申立て
   を棄却された。しかし、今度は、利害関係については問題とはされずに、
   請求書は受理され、非公開の決定が行われた。同一の文書に対する請求
   書の取扱いが異なるのは理解できない。
    前回の請求書の受理を拒否されたことを不服として行った異議申立て
   は、審査会に諮問されることなく棄却されたものであり、手続的に不当
   なものである。

3 実施機関の職員(労働部職業対策課長)の説明要旨
  実施機関の職員の説明を総合すると、本件文書を非公開とした理由は、次
 のとおりである。
(1)条例第5条第1項第3号該当性について
  ア 本件文書は、労働省労働基準局監督課長及び同省職業安定局雇用援護
   室長から各都道府県労働基準局長及び各都道府県職業安定主管部(局)
   長にあてた職業安定法第44条及び労働基準法第6条等違反に関する職
   業安定機関と労働基準監督機関の連携方法及び指導監督の内容を示した
   文書であり、文書中に「部内扱い」と指示されている。
    したがって、国においても公表されていない本件文書を、本県が独自
   の判断で公開すると、労働行政における国と県との間の協力関係を著し
   く害するおそれがある。
  イ 本件文書は、国の労働基準監督機関と職業安定機関との連名の通知で
   ある。したがって、本件文書を、労働省の「部内扱い」の指示を無視し
   て公開すると、国の労働基準監督機関及び県の指揮監督のもとにある国
   の職業安定機関である公共職業安定所との関係が、著しく損なわれるお
   それがある。
(2)条例第5条第1項第5号該当性について
  ア 本件文書は、職業安定法第44条及び労働基準法第6条等違反に関し
   て関係労働組合等から職業安定機関あるいは労働基準監督機関に申入れ
   又は申告のあった場合における職業安定機関と労働基準監督機関との連
   携方法並びに関係法令違反かどうかの認定方法で特に重点としている部
   分及び法令違反の成否の判断の留意点等の判断基準を示した文書である。
  イ したがって、本件文書を公開すると、労働者供給事業及び中間搾取を
   禁止する法令を運用するに当たって大きな支障が生ずるおそれがあり、
   今後反復継統される国及び県が行う労働行政における指導監督事務の公
   正かつ円滑な実施を著しく困難にするおそれがある。
(3)条例第5条第1項第7号該当性について
   本件文書は、職業安定法第7条に基づき、知事に機関委任された事務に
  係る情報であり、当該事務を指導監督する主務官庁によって「本通達は部
  内扱いとされたい。」との指示が行われている情報である。
   したがって、本件文書に記載された情報は、機関委任事務に係る国から
  の通達によって、閲覧及び写しの交付が禁止されている情報である。
   また、本件文書は、実際に外部には公表されていないものと理解してい
  る。
(4)その他
   本件文書に対する異議申立人の前回の請求については、利害関係が明ら
  かでなかったので請求書の受理を拒否し、異議申立ても棄却した。
   しかし、今回の請求については、利害関係が明らかにされたので請求書
  を受理した。
   したがって、前回と今回の請求についての対応が異なるのは、合理的な
  理由があってのことであり、不当なものではない。

4 審査会の判断理由
(1)本件文書の性格について
  ア 本件文書は、労働省労働基準局監督課長及び同省職業安定局雇用援護
   室長から、各都道府県労働基準局長及び各都道府県職業安定主管部(局)
   長にあてて通知された文書である。
  イ 本件文書には、職業安定法第44条及び労働基準法第6条等違反に関
   して、関係労働組合等から申入れ又は申告のあった場合における職業安
   定機関と労働基準監督機関の連携方法が記載されているとともに、関係
   法令違反かどうかの認定方法及び判断基準が示されていると認められる。
(2)条例第5条第1項第3号該当性について
  ア 条例第5条第1項第3号は、国等の機関からの協議又は依頼に基づい
   て作成し、又は取得した情報であって、公開することにより、国等との
   協力関係を著しく害するおそれのあるものを非公開とすることができる
   としている。
  イ 同号は、国又は他の地方公共団体との協力関係を確保することを目的
   としており、機関委任事務の執行に際して作成し、又は取得した情報に
   ついて公開を禁止する旨の通達がある場合には、同号の適用になじまな
   いと考える。(4)で述べるとおり、機関委任事務に関して、主務大臣
   から、公開を禁止する趣旨の通達があった場合には、国と実施機関との
   協力関係を考慮するまでもなく、その通達に従わざるを得ないからであ
   る。

(3)条例第5条第1項第5号該当性について
  ア 条例第5条第1項第5号は、県の機関又は国等の機関の行う検査、監
   査、取締等の計画及び実施細目、争訟及び交渉の方針、入札の予定価格、
   試験の問題その他の事務又は事業に関する情報であって、当該事務又は
   事業の性質上、公開することにより、当該事務又は事業の実施の目的を
   失わせ、又は当該事務又は事業の円滑な実施を著しく困難にするおそれ
   のあるものは、非公開にすることができるとしている。
  イ 法令の解釈運用は、一般に公表されるのが通常である。特に、指導監
   督に関する法令の解釈運用については、法令違反の範囲を明確にし、法
   的安定性を確保する観点から、行政の責務として、公表が強く要請され
   るものである。
    ただし、本件文書に記載された情報が、法令の解釈運用に係る情報で
   あると同時に、指導監督事務の「手の内」としての性格を有し、その公
   開が指導監督事務の円滑な実施を著しく困難にする場合には、当該情報
   は同号に該当する可能性がある。
  ウ 本件文書には、国及び県が、現在行っている職業安定法及び労働基準
   法に係る指導監督事務の方針が記載されている。当該情報が明らかにな
   ると後を断たない法令違反行為の手口を複雑巧妙化させるとともに、違
   反行為の隠ぺい工作を容易にするなど、指導監督事務に著しい支障を与
   え、労働者の福祉の向上に重大な影響を及ぼすおそれがあると認められ
   る。したがって、当該情報は、条例第5条第1項第5号に該当すると判
   断する。
  エ しかしながら、本件文書には、前記ウの情報を除くと、法令違反の認
   定に際しての、職業安定機関と労働基準監督機関の手続的な調整方法が
   示されているに過ぎず、指導監督事務の「手の内」を推測させるような
   情報ではないものも存在する。したがって、本件文書のうち、前記ウの
   情報を除いた部分の情報は、条例第5条第1項第5号に該当しないもの
   と判断する。
(4)条例第5条第1項第7号該当性について
  ア 条例第5条第1項第7号は、法令の定めるところにより明らかに公開
   することができないとされている情報は非公開にすることができる、と
   している。
    まず、実施機関は、同号の規定する「法令」の範囲に機関委任事務に
   係る通達が含まれると主張しているので、この点について検討する。
  (ア)機関委任事務については、地方自治法第150条に基づき、都道府
    県知事は主務大臣の指揮監督を受ける。このことから、機関委任事務
    に係る公文書の閲覧又は写しの交付について、主務大臣の指揮監督に
    より非公開の指示のあった場合、知事は結果的に当該文書を公開する
    ことはできないと考えられる。
  (イ)主務大臣の指揮監督は、いわゆる通達という形の文書で行われるの
    が通常である。したがって、それに従わざるを得ないという意味で、
    適法に発せられた通達は、同号の「法令」に含めて解釈することも可
    能である。
  (ウ)通達が同号の「法令」としての効力を持つのは、機関委任事務に関
    し、主務大臣又は主務大臣からその権限の委譲を受けた者から発せら
    れたものであり、そのことが明らかであることに加えて、地方自治の
    本旨にかんがみ、次の要件が必要であると判断する。
    a 文書によって行われたものであること。
    b 公文書の閲覧又は写しの交付を禁止する趣旨が明確であること。
    c 閲覧又は写しの交付を禁止する公文書の範囲が明確であること。
    d 当該指揮監督が法規に抵触することが明白でないこと。
  イ 以下、本件文書が、機関委任事務に係る国からの通達によって、公文
   書の閲覧又は写しの交付が禁止されたものか否かを検討する。
  (ア)地方自治法別表第3第1号(58)は、「職業安定法(昭和22年
    法律第141号)及びこれに基く政令の定めるところにより、公共職
    業安定所の業務の連絡統一を図り、所部の職員及び公共職業安定所長
    を指揮監督し、並びに職業安定機関以外の者が行う労働者の募集を許
    可する等職業安定に関する事務を行うこと。」を都道府県知事の機関
    委任事務として定めている。
  (イ)本件文書は、実際に労働者供給事業を取り締る公共職業安定所の業
    務の処理方針を示した文書であり、「公共職業安定所の業務の連絡統
    一」に関する文書であると認められる。
  (ウ)本件文書は、労働者供給事業に関する労働大臣の権限を補助執行す
    る機関であった労働省職業安定局雇用援護室長からの通知であり、職
    業安定法の施行に係る指揮監督権を持つ国の機関からの通知であると
    確認できる。
  (エ)本件文書には、外部への秘匿の指示が記載されており、本件文書の
    秘匿を指示することは、法令に違反するものとは認められない。
     また、労働省では、本件文書を公表していないと認められる。
  (オ)したがって、本件文書は、諾否の決定時点で、適法かつ効力を有す
    る国の通達により、閲覧又は写しの交付の禁止されている機関委任事
    務に関する情報であると認められ、本件文書は、条例第5条第1項第
    7号に該当すると判断する。
(5)利害関係の認定について
  ア 異議申立人は、同一文書に対する請求であるのに、前回は、利害関係
   が認定されないとして請求書の受理を拒否し、受理拒否を不服とする異
   議申立てを審査会の議を経ることなく棄却したことは、手続的に不当で
   あると批判する。
    このことについて、当審査会は、次のように判断する。
  イ 条例第4条に基づく県の行政との利害関係の有無の認定については、
   請求書の記載文言に従い判断せざるを得ない。したがって、記載文言に
   差がある場合には判断が異なるときがあることはやむを得ない。
  ウ 条例第11条は、「第7条の規定による決定について」不服申立てが
   あった場合には、審査会の議を経て決定しなければならないと定めてい
   る。したがって、請求書の受理の拒否に係る不服申立てについては、審
   査会の議を経る必要はないと判断する。
(6)その他
   当審査会としては、この際、次の点を付言しておきたい。
  ア 本件文書について、労働省が、事前に包括的な非公開の指示を行って
   いたのは、先に認定したとおりである。しかし、本件文書の一部に、条
   例第5条第1項第5号に該当する情報が存在することが認められるが、
   労働省においても職業安定法及び労働基準法に係る法令の解釈運用の多
   くを公表している事実にかんがみれば、なぜ、本件文書全体を包括的に
   非公開とする必要があるのか、はなはだ疑問である。
  イ 都道府県の行政事務の約三分の二が、国の機関委任事務である現状を
   考慮すると、本件文書に関して見られるような国の姿勢を、当審査会は
   深く憂慮せざるを得ない。
    機関委任事務に係る文書といえども、その管理は地方公共団体の固有
   事務であるとされている。また、条例第1条に定めるとおり、条例は、
   地方自治の本旨に即した公正で開かれた県政の実現を図り、県政に対す
   る県民の理解を深め、県民と県との信頼関係を増進することを目的に制
   定されたものである。
  ウ 地方公共団体における文書管理の実態と、条例が憲法に保障された
   「知る権利」を実定法化したものである点を踏まえ、国は、機関委任
   事務に関する文書について、通達により非公開の指示を行う場合は、
   非公開とする実質的な理由を厳密に検討し、理由を通達上に明示する
   とともに、非公開の範囲を必要最小限に限定するよう強く要望したい。

5 審査会の処理経過
  当審査会の処理経過は、別紙のとおりである。

 

 

別紙

                          審査会の処理経過

年月日

処理内容

 平成元.8.17

○諮問

   元.8.18

○実施機関の職員(労働部職業対策課長)に非公開理由説明書の提出要求

   元.9.8

○非公開理由説明書の受理

   元.9.12

○異議申立人に非公開理由説明書を送付

   元.9.26

○異議申立人から非公開理由説明書に対する意見書の受理

   元.9.28

○実施機関に非公開理由説明書に対する意見書を送付

   元.10.7
  (第66回審査会)

○異議申立人から意見の聴取
○実施機関の職員から非公開理由説明の聴取
○審議

   元.12.16
  (第67回審査会)

○審議

   元.12.25
  (第68回審査会)

○審議

   2.2.17
  (第70回審査会)

○審議

   2.3.3
  (第71回審査会)

○審議

 

 

 

                   神奈川県公文書公開審査会委員名簿

                                            (平成元年4月1日委嘱)

氏名

現職

備考

黒羽 亮一

筑波大学教授

 

原 寿雄

(株)共同通信社代表取締役社長

会長

堀部 政男

一橋大学教授

会長職務代理者

若杉 明

横浜国立大学教授

 

渡辺 保男

国際基督教大学学長

 

                                     (平成2年3月3日現在) (五十音順)

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本文ここまで
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