答申第33号

掲載日:2017年12月1日

答申第33号

                          平成7年3月27日

 神奈川県教育委員会委員長 伊従 寿雄 殿

               神奈川県公文書公開審査会 会長 原 寿雄

  公文書の閲覧等の請求拒否処分に関する異議申立てについて(答申)

 平成5年10月19日付けで諮問された県立養護学校教諭の懲戒処分につい
ての伺い一部非公開の件(諮問第37号)について、次のとおり答申します。

1 審査会の結論
  県立養護学校教諭の懲戒処分についての伺いは、次に掲げる部分を除いて
 公開すべきである。
(1)被処分者の氏名、年齢、担任学級名、履歴、心境、刑事処分等に関する
  情報が記載された部分
(2)被害生徒の氏名、年齢、学級名及び心身の状況並びに被害生徒の保護者
  の氏名、勤務先及び動向が記載された部分
(3)見舞金及び新聞報道に関する情報が記載された部分
(4)辞令案及び処分説明書案
(5)懲戒処分の適否、軽重等を判断する際の内部的な審査の基準が推測され
  る情報が記載された部分

2 異議申立人の主張要旨
(1)異議申立ての趣旨
   異議申立ての趣旨は、県立養護学校教諭の懲戒処分についての伺い(以
  下「本件文書」という。)に記録された教諭の懲戒処分に係る情報のうち、
  伺い文に記載された被処分者である教諭の氏名、神奈川県教育委員会(以
  下「教育委員会」という。)に付議する議案、辞令交付の実施案、関係者
  の連絡案及び人事考査委員会の検討結果(以下これらを総称して「本件非
  公開部分」という。)を教育委員会が平成5年8月3日付けで非公開とし
  た処分の取消しを求める、というものである。
(2)異議申立ての理由
   異議申立人の主張を総合すると、教育委員会が「個人に関する情報であ
  って、特定の個人が識別され、又は識別され得る情報である。審議、検討
  に関する情報であって、公開することにより、審議、検討に著しい支障が
  生ずるおそれがある。人事管理に関する情報であって、公開することによ
  り、人事管理事務の円滑な実施を著しく困難にするおそれがある」として、
  神奈川県の機関の公文書の公開に関する条例(以下「条例」という。)第
  5条第1項第1号、第4号及び第5号に該当するとした非公開の決定は、
  次に掲げる理由から、条例の解釈及び運用を誤っている、というものであ
  る。
  ア 条例の解釈について
  (ア)公文書を公開することは、地方自治の発展にとり極めて重要であり、
    その重要性にかんがみれば、公文書は公開することが大原則であって、
    非公開とする公文書は必要最小限に止められ、限定的かつ厳格に解釈
    されなければならない。
  (イ)条例第5条第1項第4号及び第5号の解釈に当たっては、非公開と
    して保護されるべき利益が実質的に保護に値する正当なものであるか、
    おそれが具体的に存在するといえるかを客観的に検討することが必要
    である。非公開理由の該当性については、実施機関に主張、立証責任
    があり、それは具体的になされなければならない。
  (ウ)条例は、適用除外事項の規定が実施機関によって恣意的に運用され
    ないよう行政機関関係情報については、これを細分して非公開とする
    要件を限定的かつ明確に定めている。
     したがって、一つの情報について、同一の非公開理由をもって、条
    例第5条第1項第4号とともに第5号にも該当すると解釈することは
    許されない。
  イ 本件文書の性格及び公開についての考え方について
  (ア)懲戒処分の性格は、単に公務内の規律や秩序維持のためではなく、
    公務の公正さや県民の公務に対する信頼を担保する究極の目的があり、
    その意味で極めて公共性の高いものといわざるを得ない。それゆえ、
    懲戒処分の実施に当たっては、公正であることが法律により求められ
    ている。
     懲戒処分が県民の目に届かない密室で処理され、県民のチェックが
    なされる手段がないのであれば、処分の公正さは保たれない。また、
    他の公務員に注意を促すためにも、懲戒処分に関する一定の情報は公
    開されるべきである。
  (イ)本件懲戒処分は、ゆがめられた事実を前提に、そして誤った判断の
    下になされている。本件非公開部分を公開することにより、県民がこ
    れらのことに意見を述べ、また、議論をする機会を提供すべきである。
  (ウ)刑事事件の処理が公開の法廷で行われ、事件終了後、確定記録は、
    一定期間、一定の要件の下で原則公開とされていることは、公務員の
    懲戒処分に関する取扱いでも大いに参考とすべきである。
  (エ)弁護士会は、その自治的権利に基づき、所属する弁護士に対する懲
    戒処分を実施しているが、懲戒処分の際、被処分者の氏名、処分内容、
    行為の内容等を公表している。
  (オ)町田市教育委員会は、体罰事件についてのてん末書、校長から同市
    教育委員会に提出された事故報告書、東京都教育委員会あてに提出し
    た事故報告書等を公開している。
     本件懲戒処分は、体罰という問題が根底にあると思われるので、同
    市教育委員会における取扱いを参考にすべきである。
  ウ 条例第5条第1項第1号該当の点について
  (ア)伺い文については、被処分者の氏名を除いて公開すべきである。
  (イ)教育委員会に付議する議案、辞令交付の実施案、関係者の連絡案及
    び人事考査委員会の検討結果(以下「本件議案等」という。)のうち、
    被処分者の氏名、生年月日、学歴、職歴、生徒の氏名、年齢、心身の
    状況、健康状態等は、個人に関する情報であって、特定個人が識別さ
    れるものであるので、これらの部分を除いて公開すべきである。
     条例には明確な規定はないが、公文書公開制度の重要性や懲戒処分
    の公開の必要性にかんがみ判断すれば、これ以外の被処分者の行為の
    内容、認識、心境及び処分理由並びに関係者の見解等は、公務に伴う
    非違行為の具体的事例であり、また、任命権者の判断経過でもあるか
    ら、個人に関する情報ではなく、また、特定個人が識別され、又は識
    別され得るものではないと解すべきである。
  (ウ)公文書公開制度は、公務のチェック機能を果たす役割を担っている。
    懲戒処分は、組織が組織構成員を裁くという最も厳正、中立、公正、
    適正さが求められる行政行為であるので、広く一般市民に知ることの
    できる状態に保つことが要請される。したがって、公務員の懲戒処分
    に関する情報はすべて公開すべきである。
  (エ)仮に、すべての懲戒処分について公開することが相当ではないとし
    ても、公務そのものが信頼性により成り立っている教師、福祉関係従
    事者等の懲戒処分の場合は、当該公務員が公務の対象者及びその公務
    に対する一般市民の信頼感をどの程度裏切ったかを把握し、的確な判
    断をしたかどうかを第三者が厳正、冷静にチェックするため、公開す
    べきである。
     本件の場合、被害生徒にとっては、被処分者である教諭に対する信
    頼度は絶対的なものであり、その責務は重大である。行政には、懲戒
    処分が公正かつ適正になされたことを一般市民に公表することが強く
    求められている。
  (オ)公務員の非違行為が何らかの形で既にマスコミに広く流布されてお
    り、その行為に関して懲戒処分がなされた場合は個人のプライバシー
    保護の必要性が弱まったのであるから、非公開とされるべきではない。
  (カ)刑事裁判確定後は、一定の要件の下にその確定記録は公開されるの
    であるから、公務員が犯罪行為をなし、その刑事事件判決確定後は、
    当該行為に関する懲戒処分関係の文書は、被処分者の氏名、生年月日、
    改悛状況はともかく、他は公開し、公正かつ適正な処分をしたことの
    信頼性を獲得すべきである。
  (キ)「特定の個人が識別され得るもの」の特定の個人を識別する主体は、
    当該具体的な事由(本件の場合、公務員の非違行為)にかかわり、そ
    の具体的な事由の内容を知っている者ではなく、およそ県民一般と解
    するのが妥当である。
  エ 条例第5条第1項第4号該当の点について
  (ア)条例第5条第1項第4号の趣旨は、特定の行政課題に対する意思形
    成のための内部的な審議、検討、調査研究等を行う場合に、当該審議、
    検討、調査研究等に関する情報を公開することにより、著しい支障が
    生じないようにすることを目的としているものと考えられる。
     同号の安易な解釈運用は、条例の趣旨、目的に反するので、厳格な
    解釈運用が必要である。
  (イ)「当該審議、検討、調査研究等」の「当該」とは、問題となってい
    る意思形成そのものに限定されるのであって、将来の意思形成や同種
    の意思形成を含むものではない。
     実施機関は、今後の懲戒事案に対する影響を主張するが、本件懲戒
    処分は既に終了している。それにもかかわらず、今後の懲戒事案一般
    に対する影響を主張すれば、同号の適用範囲は著しく拡大され、教職
    員に対する懲戒事案一般にその範囲は及んでしまう。
     仮に、今後の懲戒事案に対する影響を考慮するとしても、本件のご
    とく刑事罰の対象となった事案が今後の懲戒事案として予想される可
    能性は少なく、非公開とすべき理由はない。
  (ウ)「著しい支障」の支障とは、単に行政内部の意思形成がやりにくく
    なる場合を含まない。
     「支障」とは、与えられる圧力が不法又は不当な場合や行政内部の
    中立性が阻害されるような場合等、意思形成が歪曲されることで、県
    民全体の福祉が減殺されるおそれのある場合が該当する。
     「著しい」とは、生じた障害によって、当該審議等が困難になる可
    能性が非常に強い場合を指す。
     実施機関は、抽象的に支障を論ずるのみであり、本件事案に即して
    著しい支障が生ずるおそれがあることを個別、具体的に主張、立証し
    ていない。
  (エ)少なくとも、本件議案等のうち、客観的な事実、経過、一般的に認
    識されている内容等、当該懲戒処分に係る内部的な意思決定に重要な
    かかわりあいを持つものとは認められない情報及び既に公表されてい
    る情報については、公開することにより、今後の懲戒処分の検討に著
    しい支障が生ずるおそれはないものと解される。
  (オ)実施機関は、懲戒処分の審議、検討に必要かつ十分な情報を得られ
    なくなると主張するが、審議、検討に必要な情報に対し、事後的な検
    証にさらされることが予定されているからこそ、正確な情報が収集で
    き、身内のかばいあいが防げるのである。
  オ 条例第5条第1項第5号該当の点について
  (ア)条例第5条第1項第5号は、本号所定の情報につき、公開すること
    により、当該事務又は事業の目的を失わせ、又は当該事務又は事業の
    円滑な実施を著しく困難にするおそれがある場合に非公開とすること
    ができる旨定めている。
  (イ)実施機関は、懲戒処分に関する事務が県の機関が行う検査、監査、
    取締等の事務に類似しているので、その他の事務又は事業に該当する
    としているが、同号が列挙している検査、監査、取締等の計画及び実
    施細目とは、立入検査、指導監督、漁業取締、税務調査等の計画やそ
    の方針、内容等の「手の内」に関する情報をいい、検査、監査、取締
    等の事務は、民間を相手とする対外関係に関するものである。
     懲戒処分に関する事務は、その性質を勘案して判断すると、検査、
    監査、取締等の事務に類似していないことは明らかであるので、同号
    には該当しない。
  (ウ)行政事務の執行情報を公開すれば、公開しない場合よりも円滑では
    ない行政運営が余儀なくされる場合も考えられる。しかし、これらの
    事態の多くは、「開かれた県政」の結果として生じたものであり、県
    の行政が「県民との共同作品」となる過程において必要なことである。
     したがって、公開による事務事業への影響が、事務事業の目的を喪
    失する程度、又は事務事業の円滑な実施に回復不可能な損害を与える
    程度に著しいと判断されなければ同号を適用すべきではない。
     また、事務事業に対する著しい支障の発生が予想されるとしても、
    情報公開と予想される支障との因果関係が明白であって、支障発生可
    能性の予見が容易であり、支障の発生が高度の蓋然性を持つ場合のみ
    同号が適用される。
     しかるに、実施機関は、抽象的に「著しい困難」を論ずるのみであ
    り、本件事案に即して「著しく困難にするおそれがあること」につい
    て、何ら個別、具体的な主張、立証をしていない。

3 実施機関の職員(教育庁管理部教職員課長)の説明要旨
  実施機関の職員の説明要旨を総合すると、本件文書を一部非公開とした理
 由は、次のとおりである。
(1)本件文書について
  ア 懲戒処分は、任命権者としての教育委員会が、公務内の規律と秩序を
   維持するため、職員個人の義務違反行為に対して、その道義的責任を問
   うために行うものであり、地方公務員法第27条第1項に「すべて職員
   の分限及び懲戒については、公正でなければならない」と規定されてい
   ることから、その実施に当たっては、公正かつ慎重さが要求されている。
    したがって、懲戒処分は、直接的には公務の公正さや県民の公務に対
   する信頼等を担保することを究極的な目的としているものではない。
    また、懲戒処分を行うこと自体が任命権者の裁量権の範囲内であり、
   任命権者は被害の程度及び被処分者の行為の内容、職務内容、改悛の状
   況等を考慮して相当な処分を行っている。
  イ 懲戒処分の実施に当たっては、被害の程度及び被処分者の行為の内容、
   職務内容、改悛の状況等について、被処分者、関係者及び関係機関から
   事情聴取を行い、その調査結果等を総合的に検討、判断して処分案を作
   成し、教育委員会等の場で慎重に審議、検討を行っている。
  ウ 本件議案等は、この過程で作成されたものであり、これに記載されて
   いる被処分者の氏名、生年月日、行為の内容、職務内容及び改悛の状況、
   被害の程度並びに関係者の見解等のすべての情報は、個人に関する情報
   である。
  エ 本件議案等に記載されている被処分者の氏名や処分の内容等の懲戒処
   分に関する情報は、職員の履歴事項を記録した人事記録と同様に、公開
   されると、職員自身の公にされたくないという個人的利益が侵害される
   情報であり、条例第2条後段の「個人の秘密、個人の私生活その他の他
   人に知られたくない個人に関する情報」として最大限の配慮をする必要
   がある。
  オ 刑罰を科すことは、国家的法秩序の維持をするために認められた国家
   権力の行使の一形態であり、人の自由に対する強い侵害を伴うものであ
   る。したがって、憲法では、不当な人権侵害を排除するため、刑事被告
   人の権利として公開の裁判を受ける権利を保障している。これに対し、
   懲戒処分は、公務内の規律と秩序を維持するために行うものであり、刑
   罰のそれとは考え方を大きく異にしている。
(2)条例第5条第1項第1号該当性について
  ア 伺い文中の被処分者の氏名は、個人に関する情報であって、特定の個
   人が識別され、又は識別され得るものであるので、条例第5条第1項第
   1号に該当する。
  イ 本件議案等に記載されている被処分者の氏名、生年月日、学歴、職歴、
   行為の内容、認識、心境及び処分理由、被害生徒の氏名、年齢、心身の
   状況、健康状態及び能力並びに関係者の氏名及び見解等のすべての情報
   は、条例第2条の趣旨にかんがみ判断すると、個人に関する情報であっ
   て、特定の個人が識別され、又は識別され得るものであるので、条例第
   5条第1項第1号に該当する。
  ウ 本件文書は、何人でも法令の規定により閲覧することができるとされ
   ている情報ではない。
    また、本件文書は、被処分者に対して懲戒処分を実施するために作成
   したものであり、被処分者の氏名や処分の内容等の懲戒処分に関する情
   報は、職員個人にとっては最も他人に知られたくない情報であり、これ
   らの情報が公開されると、職員自身の公にされたくないという個人的利
   益が侵害されるので、前記(1) エで述べたように条例第2条後段に掲げ
   る情報として最大限の配慮をする必要がある。このことから、本件文書
   は、公表することを目的として作成し、又は取得した情報ではない。
    さらに、本件文書は、法令の規定により行われた許可、免許、届出そ
   の他これらに相当する行為に際して作成し、又は取得した情報ではない。
    したがって、条例第5条第1項第1号のただし書ア、イ及びウのいず
   れにも該当しない。
  エ 異議申立人は、懲戒処分が的確な判断の下に行われているかチェック
   するため公開すべきである、公務そのものが信頼性により成り立ってい
   る場合は公開されるべきである、刑事処分確定後の懲戒処分については
   プライバシー保護の要請は著しく弱まるなどと主張するが、公文書の閲
   覧等の請求に対する諾否の決定は、条例の規定に基づき行われるべきで
   あり、その他の事情により左右されるべきではない。
  オ 本件は、異議申立人が特定の公文書を指定し、閲覧等の請求をしてい
   ることなどから、本件非公開部分の一部を公開することにより、容易に
   被処分者等の個人が識別されるので、氏名等を非公開とするだけではプ
   ライバシーの保護が図られない。
(3)条例第5条第1項第4号該当性について
  ア 本件議案等に記載されている情報は、被処分者に対して懲戒処分を検
   討、審議、実施するために必要な情報であるので、条例第5条第1項第
   4号の県の機関内部における「審議、検討、調査研究等に関する情報」
   に該当する。
  イ 本件議案等には、被処分者の氏名、行為の内容、職務内容及び改悛の
   状況、被害の程度並びに関係者の見解等の個人に関する情報が記載され
   ている。これらは、被処分者や関係者等から、本人にとって有利あるい
   は不利にかかわらず、詳細にわたって包み隠さず事情聴取し、作成した
   ものである。本件議案等を公開すると、被処分者や関係者等から正確な
   情報の提供や協力を得ることが困難となり、その結果、懲戒事案の審議、
   検討に必要かつ十分な情報が得られなくなることから、今後の懲戒事案
   の審議、検討に著しい支障が生ずるおそれがあるので、条例第5条第1
   項第4号に該当する。
(4)条例第5条第1項第5号該当性について
  ア 職員に対する懲戒処分に関する事務は、職員の人事管理の一環として、
   公務内の規律と秩序維持のために行われており、その事務の性質を勘案
   すると、県の機関が行う検査、監査、取締等の事務に類似していると判
   断されるので、条例第5条第1項第5号の「その他の事務又は事業」に
   該当する。
  イ 本件議案等には、被処分者に対して懲戒処分を実施するに当たっての
   検討内容や考慮した事項等が記載されており、懲戒処分に関する事務の
   性質上、これが公開されると、懲戒処分の対象となり得る者や関係者に
   予断を与え、公正な懲戒処分の実施に不可欠な調査の円滑な実施を著し
   く困難にするおそれがある。その結果、懲戒事案を検討するのに必要か
   つ十分な情報が得られなくなることから、今後反復継続される懲戒処分
   の事務の公正かつ円滑な実施を著しく困難にするおそれがあるので、条
   例第5条第1項第5号に該当する。

4 審査会の判断理由
(1)本件文書について
  ア 地方公務員法第29条第1項で定める懲戒処分は、職員に一定の義務
   違反がある場合、その責任を追及し、規律と秩序を維持することを目的
   として任命権者が科す制裁であり、当該職員にとって最も不利益な処分
   であるので、その取扱いには公正さが求められている。
    任命権者は、処分の原因となった事実を基礎として、勤務実績の評価
   を含む被処分者の情状、他の職員に及ぼす影響等を考慮して適切に処分
   の適否及び軽重を判断する必要があり、どのような処分を行うかは、公
   正の原則、平等取扱いの原則に抵触しない限り、基本的には任命権者の
   裁量の範囲に含まれるものである。
  イ 本件文書は、県立養護学校における生徒指導中の死亡事故に関し、前
   記アで述べた懲戒処分を行うかどうかを教育委員会に対し提案する際の
   伺い及び当該提案が議決された後の措置等についての伺いである。
    本件文書は、具体的には、伺い文、議案(提案理由案、辞令案及び処
   分説明書案を含む。)、辞令交付の実施案、関係者への連絡案及び人事
   考査委員会検討結果である。
  ウ 当該議案は、教育委員会において原案のとおり議決、実施されたが、
   現時点においては、被処分者に対する懲戒処分がなされてから既に数年
   を経過していると認められる。
(2)条例第5条第1項第1号本文該当性について
  ア 条例第5条第1項第1号は、個人を尊重する観点から、知る権利の保
   障と個人に関する情報の保護という二つの異なった側面からの要請を調
   整しながら、個人に関する情報を原則的に非公開とすることを規定して
   いる。そして、同号本文は、個人に関する情報であって、特定の個人が
   識別され、又は識別され得るもの(以下「個人情報」という。)を非公
   開とすることができるとしている。したがって、同号本文は、個人情報
   はプライバシーに該当するものはもとより、プライバシーであることが
   不明確なものであっても非公開とすることができることを明文をもって
   定めたものと解すべきであって、職員の個人に関する情報とその他の個
   人に関する情報とを区別して判断を行うようには定めていないと解され
   る。
    また、条例第5条第1項第1号の解釈及び運用は、条例第2条が「公
   文書の閲覧及び公文書の写しの交付を求める権利が十分に尊重されるよ
   うにこの条例を解釈し、運用するものとする。この場合においては、個
   人の秘密、個人の私生活その他の他人に知られたくない個人に関する情
   報がみだりに公にされないように最大限の配慮をしなければならない」
   と規定する趣旨を十分尊重して行う必要がある。
  イ 懲戒処分は、被処分者である教諭にとっては最も不利益な処分である
   ことから、本件文書に記載されたすべての情報は、他人に知られたくな
   い個人に関する情報であると認められる。
    当審査会は、これらの事情を考慮しながら精査したところ、本件非公
   開部分のうち、次に掲げる部分は、特定の個人が識別され、又は識別さ
   れ得る情報であると判断する。
  (ア)伺い文中の被処分者の氏名が記載された部分
  (イ)議案の表紙中の氏名及び職名が記載された部分
  (ウ)提案理由案(被処分者の氏名、年齢、履歴、行為の内容、刑事処分
    及び処分理由に関する情報並びに被害生徒の氏名、年齢、心身の状況
    等)
  (エ)辞令案及び処分説明書案
  (オ)辞令交付の実施案中の職名が記載された部分
  (カ)関係者への連絡案中の氏名及び職名が記載された部分
  (キ)人事考査委員会検討結果(被処分者の氏名、年齢、履歴、担任学級
    名、行為の内容及びその結果、心境、刑事処分、処分の種類及び程度
    等に関する情報並びに被害生徒の氏名、年齢、学級名及び心身の状況
    並びに被害生徒の保護者の氏名、勤務先及び動向並びに当該養護学校
    等の校長等の氏名、職名、見解等)
     したがって、これらの部分は、条例第5条第1項第1号本文に該当
    すると判断する。
(3)条例第5条第1項第1号ただし書該当性について
  ア 条例第5条第1項第1号ただし書は、個人情報であっても、例外的に
   公開できる情報を規定している。
  イ 条例第5条第1項第1号ただし書ア該当性について
    条例第5条第1項第1号ただし書アは、何人でも法令の規定により閲
   覧できるとされている情報については公開することを規定している。
    職員の懲戒処分に関する資料について閲覧できるとされている法令の
   規定は存在しないことが明らかであるので、本件非公開部分に記載され
   た情報は、同号ただし書アには該当しないと判断する。
  ウ 条例第5条第1項第1号ただし書イ該当性について
  (ア)条例第5条第1項第1号ただし書イは、公表することを目的として
    作成し、又は取得した情報については公開することを規定している。
     ここでいう「公表することを目的として作成し、又は取得した情報」
    は、前記(2) アで述べた条例第2条の趣旨から考えると、広報紙等を
    通じて広く県民に積極的に周知する情報だけではなく、事務事業の執
    行上又は行政の責務として県民の要望に応じて提供することが予定さ
    れている情報をも含むが、当該情報には、懲戒処分のような他人に知
    られたくない情報までを含むものではないと解するのが一般的である。
  (イ)しかしながら、教諭の過失による生徒死亡事故に関する懲戒処分で
    あるという性質及びその後の経過等にかんがみ、個別、具体的に判断
    すると、個人情報であっても、(1)提案理由案に記載された情報、(2)人
    事考査委員会検討結果中の事故の発生に至る客観的な経過及び事故の
    概要並びに懲戒処分の種類及び程度については、被処分者、当該養護
    学校の校長等としても、公開することについて職務上容認すべき性質
    のものであることなどから、当該情報は行政の責務として県民の要望
    に応じて提供することが予定されている情報と解すべきである。
     ただし、(1)被処分者の氏名、年齢、担任学級名、履歴及び刑事処分
    に関する情報、(2)被害生徒の氏名、年齢、学級名及び心身の状況並び
    に被害生徒の保護者の氏名及び勤務先、(3)見舞金及び新聞報道に関す
    る情報は、当該個人にとっては最も他人に知られたくない個人情報で
    あると認められるので、本件懲戒処分の性質等を考慮したとしても、
    行政の責務として県民の要望に応じて提供することが予定されている
    情報とまでは解釈することはできないと考える。
  (ウ)また、議案の表紙に記載されている職員の氏名及び職名並びに辞令
    交付の実施案及び関係者への連絡案中に記載されている職員の職名に
    ついても、行政の責務として県民の要望に応じて提供することが予定
    されている情報と認められる。
  (エ)以上のことから、当審査会が前記(イ) 及び(ウ) により行政の責
    務として県民の要望に応じて提供することが予定されている情報と認
    めた部分は、条例第5条第1項第1号ただし書イに該当すると判断す
    る。
  エ 条例第5条第1項第1号ただし書ウ該当性について
    条例第5条第1項第1号ただし書ウは、法令の規定により行われた許
   可、免許、届出その他これらに相当する行為に際して作成し、又は取得
   した情報であって、公開することが公益上必要と認められるものについ
   ては公開することを規定している。
    職員の懲戒処分は「許可、免許、届出その他これらに相当する行為」
   とは認められないので、本件非公開部分に記載された情報は、同号ただ
   し書ウには該当しないと判断する。
(4)条例第5条第1項第4号該当性について
  ア 条例第5条第1項第4号は、県の機関内部若しくは機関相互又は県の
   機関と国又は他の地方公共団体との間における審議、検討、調査研究等
   に関する情報であって、公開することにより、当該審議、検討、調査研
   究等に著しい支障が生ずるおそれのあるものは、非公開とすることがで
   きるとしている。
    この規定は、行政内部の審議、検討、調査研究等が円滑に行われるこ
   とを確保する観点から定められたものであり、一般的には、審議、検討、
   調査研究等に基づき一定の結論が得られているものについては、公開す
   ることにより、行政内部の審議、検討、調査研究等に著しい支障が生ず
   るとは認められないと解される。
  イ 実施機関は、被処分者や関係者等から個人に関する情報を詳細にわた
   って包み隠さず事情聴取して作成した本件議案等を公開することにより、
   被処分者、関係者等からの正確な情報の提供や協力を得ることが困難と
   なり、懲戒処分の審議、検討に必要かつ十分な情報が得られなくなると
   説明している。
  ウ 実施機関の上記説明について、当審査会が精査したところ、実施機関
   は、本件議案等には被処分者にとって他人に知られたくない過去の懲戒
   処分に関する情報及び懲戒処分の適否、軽重等を判断する際の内部的な
   審査の基準が推測される情報が含まれていることから、公開することに
   より、今後の懲戒処分の審議、検討等に著しい支障が生ずるおそれがあ
   ると判断したものと認められる。
    しかし、このような説明は、条例第5条第1項第1号及び第5号該当
   性として判断されるべき性質のものであって、同項第4号該当性の理由
   としては適当ではないと考える。
  エ したがって、本件議案等に記載された情報は、条例第5条第1項第4
   号には該当しないと判断する。
(5)条例第5条第1項第5号該当性について
  ア 条例第5条第1項第5号は、県の機関又は国等の機関が行う検査、監
   査、取締等の計画及び実施細目、争訟及び交渉の方針、入札の予定価格、
   試験の問題その他の事務又は事業に関する情報であって、当該事務又は
   事業の実施の目的を失わせ、又は当該事務又は事業の円滑な実施を著し
   く困難にするおそれのあるものは、非公開とすることができるとしてい
   る。
    この規定は、事務又は事業の性質に着目し、当該事務又は事業の円滑
   な実施を確保する観点から定められたものであり、同号前段は、本来公
   開になじまない性格を有する情報の典型例を示したものである。したが
   って、これらと同様の性格を有する情報も同号の対象になると解される。
  イ 本件議案等のうち、「提案理由」2枚目裏3行目から16行目までの
   内容並びに「人事考査委員会検討結果」1枚目下から12行目から7行
   目までの内容、同4枚目12行目から6枚目まで及び8枚目の項目を除
   く内容は、本件懲戒処分を審査する際に当たって特に考慮された情状で
   あり、実施機関の裁量にゆだねられている懲戒処分の適否、軽重等を判
   断する際の内部的な審査の基準が推測される情報であると認められる。
   これらの情報を公開することは、懲戒処分等を審査する際の調査手法等
   を著しく限定することになり、適正な調査を基にした適正かつ公正な判
   断、人事上の措置等ができなくなるおそれがあると認められる。
    したがって、これらの情報については、公開することにより、懲戒処
   分に関する事務又は事業の円滑な実施を著しく困難にするおそれがある
   ので、条例第5条第1項第5号に該当すると判断する。
  ウ しかしながら、本件議案等のうち、事故の発生に至る客観的な経過及
   び事故の概要に関する情報並びに辞令案、辞令交付の実施案等の懲戒処
   分の適否、軽重等を判断する際の内部的な審査の基準が推測されるとは
   認められない情報は、公開することにより、懲戒処分に関する事務又は
   事業の円滑な実施を著しく困難にするおそれはないと認められるので、
   条例第5条第1項第5号には該当しないと判断する。
(6)条例第5条第2項該当性について
  ア 条例第5条第2項は、閲覧等の請求に係る公文書に、部分的に公開す
   ることのできない情報が記録されている場合であっても、それらを容易
   に、かつ、公文書の閲覧又は写しの交付を求める趣旨を失わない程度に
   合理的に分離できる場合には、部分公開をしなければならないと規定し
   ている。
  イ 当審査会は、本件非公開部分について、個別、具体的に部分公開でき
   るかどうかについて検討したが、当審査会が前記(2) から(5) により非
   公開とすることが妥当と認めた部分以外の部分を公開したとしても、容
   易に、かつ、公文書の閲覧又は写しの交付を求める趣旨を失わない程度
   に合理的に分離できる場合に該当すると判断する。

5 審査会の処理経過
  当審査会の処理経過は、別紙のとおりである。

別紙

                  審査会の処理経過

年月日

処理内容

平成 5.10.19

○諮問

   5.10.21

○実施機関の職員(教育庁管理部教職員課長)に非公開理由説明書の提出要求

   5.12.3

○非公開理由説明書の受理

   5.12.9

○異議申立人に非公開理由説明書の送付

   6.1.20
 (第104回審査会)

○審議

   6.1.25

○異議申立人から非公開理由説明書に対する意見書の受理

   6.2.1

○実施機関に非公開理由説明書に対する意見書を送付

   6.2.17
 (第105回審査会)

〇実施機関の職員(教育庁管理部教職員課長ほか)から非公開理由説明の聴取
〇異議申立人からの意見の聴取
〇審議

   6.4.11

○異議申立人から意見書(そのニ)の受理

   6.4.22

○実施機関に意見書(そのニ)の送付

   6.8.3

○実施機関から意見書(そのニ)に対する意見書の受理

   6.8.4

○異議申立人に意見書(そのニ)に対する意見書の送付

   6.8.8
 (第115回審査会)

〇審議

   6.10.11

○異議申立人から上申書の受理

   7.2.9
 (第121回審査会)

○審議

   7.2.16
 (第122回審査会)

〇審議

   7.3.16
 (第123回審査会)

○審議

   7.3.23
 (第124回審査会)

〇審議

                神奈川県公文書公開審査会委員名簿

                               (平成5年4月1日委嘱)

氏名

現職

備考

川島 志保

弁護士(横浜弁護士会所属)

 

小林 重敬

横浜国立大学教授

 

原 寿雄

(株)共同通信社顧問

会長

堀部 政男

一橋大学教授

会長職務代理者

若杉 明

横浜国立大学教授

 

                         (平成7年3月27日現在) (五十音順)

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本文ここまで
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