答申第44号

掲載日:2017年12月1日

答申第44号

                          平成8年3月27日

 神奈川県知事 岡崎 洋 殿

               神奈川県公文書公開審査会 会長 原 寿雄

  公文書の閲覧等の請求拒否処分に関する異議申立てについて(答申)

 平成7年3月29日付けで諮問された神奈川県立病院に係る病棟当直日誌、
看護管理当直日誌及び勤務時間割振表一部非公開の件(諮問第48号)につい
て、次のとおり答申します。 

1 審査会の結論
  神奈川県立病院に係る病棟当直日誌及び看護管理当直日誌に記載された患
 者の容体等の情報並びに勤務時間割振表を非公開としたことは妥当である。

2 異議申立人の主張要旨
(1)異議申立ての趣旨
   異議申立ての趣旨は、神奈川県立病院(以下「県立病院」という。)に
  係る次に掲げる情報を神奈川県知事が平成7年2月22日付けで非公開と
  した処分の取消しを求める、というものである。
  ア 平成2年5月17日付けの病棟当直日誌(以下「本件病棟当直日誌」
   という。)の記事欄に記載された患者の容体等の情報(以下「本件記事
   欄情報」という。)
  イ 平成2年5月17日付けの看護管理当直日誌(以下「本件看護管理当
   直日誌」という。)の重症患者、要観察者等の欄に記載された患者の容
   体等の情報(以下「本件重症患者欄情報」という。)
  ウ 平成2年5月分の勤務時間割振表(以下「本件勤務時間割振表」とい
    う。)
(2)異議申立ての理由
   異議申立人の主張を総合すると、神奈川県知事が「(1)本件記事欄情報、
  本件重症患者欄情報及び本件勤務時間割振表は、個人に関する情報であっ
  て、特定の個人が識別されること、(2)本件記事欄情報及び本件重症患者欄
  情報は、法令の定めるところにより明らかに公開することができないとさ
  れている情報であることから、神奈川県の機関の公文書の公開に関する条
  例(以下「条例」という。)第5条第1項第1号又は第7号に該当する」
  とした一部非公開の決定は、次に掲げる理由から条例の解釈及び運用を誤
  っている、というものである。
  ア 本件記事欄情報及び本件重症患者欄情報の一部分でも公開することに
   より非公開の理由に当たるような事態が生じるのであろうか。5W1H
   (When,Where,Who,What,Why,How)のうち、
   少なくともWhatとHowは、官民を問わず、学会等の研究発表ある
   いは刊行誌等で発表されているように思える。学会等で患者の氏名、住
   所等を伏せるなどプライバシーの保護を図った上で発表するのと同様に
   本件記事欄情報及び本件重症患者欄情報を公開することができるはずで
   ある。
  イ 本件勤務時間割振表について、看護職員の年次休暇、療養休暇、生理
   休暇、家族看護欠勤等のプライバシーに関する部分の公開を希望したの
   ではなく、あくまでも氏名の部分のみの公開を希望したのである。実施
   機関は、本件看護管理当直日誌については当直した看護婦の氏名を公開
   したが、本件勤務時間割振表に記載された氏名については、公務員の職
   務の内容に直接関係する情報であることから、条例第5条第1項第1号
   ただし書イで規定する公表することを目的として作成し、又は取得した
   情報に該当しないと判断し、非公開としたのは不当である。

3 実施機関の職員の説明要旨
  実施機関の職員の説明を総合すると、本件記事欄情報、本件重症患者欄情
 報及び本件勤務時間割振表を非公開とした理由は、次のとおりである。
(1)本件文書について
  ア 病棟当直日誌及び看護管理当直日誌について
    病院は、医療法第21条第1項第14号及び医療法施行規則第20条
   第11号の規定により、病院日誌、各科診療日誌等の診療に関する諸記
   録を備えて置かなければならないとされている。この各科診療日誌に当
   たる記録として、県立病院では、病棟当直日誌、看護管理当直日誌等を
   作成している。
    病棟当直日誌は、夜間当直を行う医師が、当直後の医師への正確な情
   報伝達として、また、病院管理者への報告書として、その当直時におけ
   る各病棟の入院患者に対して必要に応じて行った診療、処置等の状況を
   記録したものである。具体的な記載事項としては、当直者の氏名欄、診
   療等の状況を記録した記事欄等がある。
    看護管理当直日誌は、当直を行う看護婦長が、その当直時における各
   病棟の準夜帯及び深夜帯の当直職員の状況及び患者の状況を把握するた
   め、記録したものである。具体的な記載としては、各病棟ごとに勤務し
   た看護職員の氏名、当直婦長の氏名、当直医師の氏名及び病棟巡回時間
   並びに入・退院患者、重症患者、要観察者等の状況が記載されている。
  イ 勤務時間割振表について
    勤務時間割振表は、病院という性質上、24時間の勤務体制等を確保
   する必要があるので、通常の勤務時間の割振りによることは困難である
   として、神奈川県職員服務規程第9条の2第3項に基づき、個々の職員
   の勤務時間等を割り振ったものであり、各病棟、外来及び看護部の責任
   者である総看護婦長又は看護婦長が看護職員の勤務等の予定及び実績に
   ついて記載したものである。
(2)条例第5条第1項第1号該当性について
  ア 本件記事欄情報及び本件重症患者欄情報について
    本件記事欄情報及び本件重症患者欄情報は、入院患者の氏名、容体及
   びこれらの者に対して行った診療等の記録であり、明らかに個人に関す
   る情報であって、特定の個人が識別されるので、条例第5条第1項第1
   号本文に該当し、同号ただし書のいずれにも該当しない。
  イ 本件勤務時間割振表について
    本件勤務時間割振表には、個々の職員について、具体的な勤務時間の
   割振り、出張、公休等のほか、年次休暇、療養休暇、生理休暇等の予定
   及び実績が記載され、また、これらの休暇等の1か月の集計値も記載さ
   れている。したがって、本件勤務時間割振表は、人事・服務管理上の記
   録であり、条例第5条第1項第1号本文で規定する個人に関する情報で
   あって、特定の個人が識別されるものに該当する。
    また、行政の責務として県民の要望に応じて提供すべき情報、つまり
   公表することを目的として作成し、又は取得した情報ではないことから、
   条例第5条第1項第1号ただし書イに該当せず、その他ただし書のア又
   はウのいずれにも該当しない。
    なお、看護職員の氏名等を除いて公開することについては、本件勤務
   時間割振表には上位の職にある者から順に記載されており、神奈川県職
   員録と照合すれば特定個人が容易に判別することから、適当でないと判
   断した。
  ウ その他
    本件病棟当直日誌及び本件看護管理当直日誌に記載された当直職員の
   氏名については、医療法第14条の2第1項により診療に従事する医師
   の氏名を病院内に掲示することが義務付けられており、また、公務員の
   職務の内容に直接関係する情報であることから、条例第5条第1項第1
   号ただし書イで規定する公表することを目的として作成し、又は取得し
   た情報に該当すると判断して公開した。
(3)条例第5条第1項第7号該当性について
   本件記事欄情報及び本件重症患者欄情報は、医師又は精神病院の職員に
  対して、刑法第134条第1項又は精神保健法第53条により守秘義務が
  課されている情報であるので、法令の定めるところにより明らかに公開す
  ることができないとされている情報であり、条例第5条第1項第7号に該
  当する。異議申立人は、患者の情報の一部が学会等で発表されていると主
  張しているが、本件記事欄情報又は本件重症患者欄情報を学会等で発表し
  たという事実は存在しない。また、一般に患者等の情報を学会等において
  発表するのは、医学の向上という公益に寄与する目的のため、必要な場合
  に限って、患者の氏名、住所等を伏せるなどプライバシーの保護を図った
  うえで行うものであり、通常、それには発表する相当な理由があり、故な
  く人の秘密を漏らしたものではないので、守秘義務には抵触しない。これ
  に対し、条例に基づき公開することはおよそ県民一般に対して公開するも
  のであり、精神保健法第53条でいう正当な理由に該当しないことは明ら
  かである。
   なお、精神保健法は、法律の題名等が改正され、平成7年7月から精神
  保健及び精神障害者福祉に関する法律が施行された。

4 審査会の判断理由
(1)本件文書について
   本件文書については、次のとおり認められる。
  ア 本件病棟当直日誌は、県立病院の当直医師が、管理者等に報告するた
   めに各病棟の入院患者に対して行った診療等の状況を記録したものであ
   り、平成2年5月17日付けの病棟当直日誌として作成されたものであ
   る。
  イ 本件看護管理当直日誌は、県立病院の当直婦長が、各病棟の入院患者
   等の状況を把握するために記録したものであり、平成2年5月17日付
   けの看護管理当直日誌として作成されたものである。
  ウ 本件勤務時間割振表は、県立病院における勤務体制を確保するための
   職員別の勤務割振りのほかに、年次休暇、療養休暇、生理休暇等の予定
   及び実績を記載したものであり、平成2年5月分の勤務時間割振表とし
   て作成されたものである。
(2)条例第5条第1項第1号本文該当性について
  ア 条例第5条第1項第1号は、個人を尊重する観点から、知る権利の保
   障と個人に関する情報の保護という二つの異なった側面からの要請を調
   整しながら、個人に関する情報を原則的に非公開とすることを規定して
   いる。
    そして、同号本文は、個人に関する情報であって、特定の個人が識別
   され、又は識別され得るもの(以下「個人情報」という。)を非公開と
   することができるとしている。
    したがって、同号本文は、個人情報は明白にプライバシーと思われる
   ものはもとより、プライバシーであるかどうか不明確であるものも含め
   て非公開とすることを明文をもって定めたものと解される。
  イ 本件記事欄情報及び本件重症患者欄情報は、入院患者の氏名、容体及
   びこれらの者に対して行った診療の内容等が記録されたものであり、個
   人に関する情報であって、特定の個人が識別される情報であることから、
   同号本文に該当すると判断する。
  ウ 本件勤務時間割振表は、個々の職員の勤務割振り、年次休暇、療養休
   暇、生理休暇等の予定及び実績が記載されたものであり、個人に関する
   情報であって、特定の個人が識別される情報であることから、同号本文
   に該当すると判断する。
(3)条例第5条第1項第1号ただし書該当性について
  ア 条例第5条第1項第1号ただし書は、個人情報であっても、例外的に
   公開できる情報について規定している。
  イ 条例第5条第1項第1号ただし書ア該当性について
    本件記事欄情報、本件重症患者欄情報及び本件勤務時間割振表は、い
   ずれも「何人でも法令の規定により閲覧することができるとされている
   情報」とは認められず、条例第5条第1項第1号ただし書アには該当し
   ないと判断する。
  ウ 条例第5条第1項第1号ただし書イ該当性について
  (ア)条例第5条第1項第1号ただし書イは、公表することを目的として
    作成し、又は取得した情報については公開することを規定している。
     ここでいう「公表することを目的として作成し、又は取得した情報」
    は、広報紙等を通じ広く県民に積極的に周知する情報だけでなく、条
    例第2条前段が「公文書の閲覧及び公文書の写しの交付を求める権利
    が十分に尊重されるようにこの条例を解釈し、運用するものとする」
    と規定している趣旨から考えると、事務事業の執行上又は行政の責務
    として県民の要望に応じて提供することが予定されているものを含む
    と解される。
     一方、同条は、後段において「個人の秘密、個人の私生活その他の
    他人に知られたくない個人に関する情報がみだりに公にされないよう
    に最大限の配慮をしなければならない」と規定し、原則公開を基本と
    する公文書公開制度にあっても、他人に知られたくない個人情報をみ
    だりに公にしないよう最大限の配慮をして、この条例の解釈及び運用
    をする旨の趣旨を明らかにしている。
  (イ)上記の趣旨に従い判断すると、本件記事欄情報及び本件重症患者欄
    情報は、患者の氏名、容体及びこれらの者に対して行った診療の内容
    等に関する極めて個人的な情報であることから、行政の責務として県
    民の要望に応じて提供することが予定されている情報とは到底認めら
    れない。
     また、本件勤務時間割振表には、個々の職員の勤務割振りのほかに、
    年次休暇、療養休暇、生理休暇等の予定及び実績が記載されている。こ
    のような情報は、当該個人にとっては他人に知られたくない個人情報で
    あると認められることから、公務員の職務に関連する情報と言えるとし
    ても、行政の責務として県民の要望に応じて提供することが予定されて
    いるとまでは解釈することはできない。
  (ウ)したがって、本件記事欄情報、本件重症患者欄情報及び本件勤務時間
    割振表は、条例第5条第1項第1号ただし書イには該当しないと判断す
    る。
  エ 条例第5条第1項第1号ただし書ウ該当性について
    本件記事欄情報、本件重症患者欄情報及び本件勤務時間割振表は、いず
   れも「法令の規定により行われた許可、免許、届出その他これらに相当す
   る行為に際して作成し、又は取得した情報」とは認められず、条例第5条
   第1項第1号ただし書ウには該当しないと判断する。
(4)条例第5条第1項第7号該当性について
  ア 条例第5条第1項第7号は、法令の定めるところにより明らかに公開す
   ることができないとされている情報は、非公開にすることができるとして
   いる。
  イ 医師は、業務上知り得た人の秘密について、刑法第134条第1項によ
   り守秘義務が課せられている。また、精神病院の管理者、職員等は、職務
   上知り得た人の秘密について、精神保健法第53条第1項又は第2項によ
   り守秘義務が課せられている。
  ウ 本件記事欄情報及び本件重症患者欄情報は、患者の氏名、容体及びこれ
   らの者に対して行った診療の内容等に関する情報であることから、刑法第
   134条第1項又は精神保健法第53条第1項若しくは第2項により、守
   秘義務が課せられている。
    したがって、本件記事欄情報及び本件重症患者欄情報は、法令の定める
   ところにより明らかに公開することができないとされている情報であり、
   条例第5条第1項第7号に該当すると判断する。
    なお、精神保健法は、平成7年法律第94号により法律の題名等が改正
   され、平成7年7月1日から精神保健及び精神障害者福祉に関する法律が
   施行されたが、精神病院の管理者、職員等は、同法第53条第1項又は第
   2項により、精神保健法と同様に守秘義務が課せられていることから、現
   時点においても本件記事欄情報及び本件重症患者欄情報が条例第5条第
   1項第7号に該当することに変わりはない。
(5)条例第5条第2項該当性について
  ア 条例第5条第2項は、閲覧等の請求に係る公文書に、部分的に公開する
   ことのできない情報が記録されている場合であっても、それらを容易に、
   かつ、公文書の閲覧又は写しの交付を求める趣旨を失わない程度に合理的
   に分離できる場合には、部分公開をしなければならないと規定している。
  イ 本件記事欄情報及び本件重症患者欄情報について
    異議申立人は、本件記事欄情報及び本件重症患者欄情報のうち患者の氏
   名を非公開とすれば容体等を部分公開することができると主張する。
    しかしながら、非公開とされた本件記事欄情報及び本件重症患者欄情報
   は、それぞれ全体として条例第5条第1項第1号及び第7号に該当すると
   認められることから、条例第5条第2項の「公文書の閲覧又は公文書の写
   しの交付を求める趣旨を失わない程度に合理的に分離できる」公文書に該
   当しないと判断する。
  ウ 本件勤務時間割振表について
    異議申立人は、本件勤務時間割振表のうち公開を希望しているのは、看
   護職員の年次休暇等のプライバシーに関する部分ではなく、あくまで氏名
   の部分のみであり、実施機関が本件看護管理当直日誌に記載された当直職
   員の氏名については公開しているにもかかわらず、本件勤務時間割振表に
   記載された氏名については非公開としたのは不当であると主張する。
    しかしながら、実施機関が本件看護管理当直日誌に記載された当直職員
   の氏名を条例第5条第1項第1号ただし書イに該当するとして公開したの
   と同様に、本件勤務時間割振表のうち、職員の氏名を公開し、その他の部
   分を非公開とするとしても、当該職員の氏名を公開したのみでは、単に、
   神奈川県職員録等で何人でも知り得る県立病院の看護職員全員の氏名が明
   らかになるに過ぎない。
    また、本件勤務時間割振表について、職員の氏名を部分的に非公開とし、
   その他の部分を公開とする方法についても検討すると、この場合、本件勤
   務時間割振表の構成等から、個々の職員の氏名が推測され得ることになる
   と認められる。
    したがって、本件勤務時間割振表は、条例第5条第2項の「公文書の閲
   覧又は公文書の写しの交付を求める趣旨を失わない程度に合理的に分離で
   きる」公文書に該当しないと判断する。
(6)その他
   異議申立人は、異議申立書及び実施機関の非公開理由説明書に対する意見
  書において、異議申立人に対する県立病院の対応その他の事項について質問
  をしているが、当審査会は、公文書の閲覧等の請求に関する諾否の決定に対
  する不服申立てにつき実施機関から意見を求められているのであって、異議
  申立人の質問に答えられる立場にはない。

5 審査会の処理経過
  当審査会の処理経過は、別紙のとおりである。

別紙

                  審査会の処理経過

年月日

処理内容

平成7.3.29

○諮問

   7.4.4

○実施機関に非公開理由説明書の提出要求

   7.4.10
 (第125回審査会)

○審議

   7.4.28

○非公開理由説明書の受理

   7.5.11

○異議申立人に非公開理由説明書の送付

   7.5.25

○異議申立人から非公開理由説明書に対する意見書を受理

   7.5.31

○実施機関に非公開理由説明書に対する意見書を送付

   7.11.2
 (第133回審査会)

○実施機関の職員(神奈川県立病院総務局長ほか)から非公開理由説明の聴取
○審議

   7.12.25
 (第134回審査会)

○審議

   8.3.4
 (第137回審査会)

〇審議

                神奈川県公文書公開審査会委員名簿

                               (平成7年4月1日委嘱)

氏名

現職

備考

川島 志保

弁護士(横浜弁護士会所属)

 

小林 重敬

横浜国立大学教授

 

原 寿雄

ジャーナリスト

会長

堀部 政男

一橋大学教授

会長職務代理者

若杉 明

高千穂商科大学教授

 

                        (平成8年3月27日現在) (五十音順)

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本文ここまで
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