答申第58号

掲載日:2017年12月1日

答申第58号

                      平成11年5月21日

神奈川県知事 岡崎 洋 殿

              神奈川県公文書公開審査会 会長 堀部 政男

   公文書の閲覧等の請求拒否処分に関する異議申立について(答申)

 平成9年10月30日付けで諮問された火災報告非公開の件(諮問第65号)
について、次のとおり答申します。 

1 審査会の結論
  火災報告は、「出火場所」の番地、「出火原因」の経過及び着火物、「火
 元建物のり災前の状況」の建築面積及び延べ面積、「火元建物の損害状況」
 の火元建物の焼損面積、「損害額合計」、表番号01の「建物の損害状況」
 の建築物損害額及び収容物損害額並びに表番号02の「建物の損害状況」の
 損害額の部分を除いて、公開すべきである。

2 異議申立人の主張要旨
(1)異議申立ての趣旨
   異議申立ての趣旨は、平成6年11月の特定の日時に横浜市内の特定の
  地域において発生した火災(以下「本件火災」という。)について、消防
  組織法(以下「法」という。)第22条に基づき、横浜市から神奈川県を
  通じて自治省消防庁あてに報告された火災報告(以下「本件公文書」とい
  う。)を神奈川県知事が平成9年8月13日付けで非公開とした処分の取
  消しを求める、というものである。
(2)異議申立ての理由
   異議申立人の主張を総合すると、神奈川県知事が「本件公文書は個人に
  関する情報であって、特定の個人が識別され、又は識別され得ることから、
  神奈川県の機関の公文書の公開に関する条例(以下「条例」という。)第
  5条第1項第1号に該当する」とした非公開の処分は、次に掲げる理由か
  ら、条例の解釈及び運用を誤っている、というものである。
  ア 条例第5条第1項第1号該当の点について
  (ア)実施機関は、異議申立人が、平成7年7月5日付けで平成6年11
    月に横浜市で発生した火災73件の火災報告の交付を受けており、そ
    のうちの本件公文書の部分を紛失したため、本件公文書について再度
    請求したという個別特殊事情を斟酌して条例の解釈を行っているが、
    請求者の個別特殊事情を斟酌して解釈すべきでない。
  (イ)本件公文書に記載された情報のうち、「出火場所」の町名を公開し
    ても、当該町内に多数存在する住居の中から、本件火災に係る住居を
    特定することは困難であり、特定の個人が識別され、又は識別され得
    るとは言えない。
  イ その他
    本件公文書に記載された次に掲げる情報等について、以前請求した際
   に公開とされた部分を今回非公開とすることは、許されない。
  (ア)「火元建物のり災前の状況」の建築面積及び延べ面積
  (イ)「火元建物の損害状況」の火元建物の焼損面積
  (ウ)「損害額合計」、表番号01の「建物の損害状況」の建築物損害額
    及び収容物損害額並びに表番号02の「建物の損害状況」の損害額
  ウ 他の自治体の中には、消防年報で個人名及び「出火場所」の番地を除
   き、上記「火元建物のり災前の状況」の建築面積及び延べ面積、「火元
   建物の損害状況」の火元建物の焼損面積、「損害額合計」、表番号01
   の「建物の損害状況」の建築物損害額及び収容物損害額並びに表番号02
   の「建物の損害状況」の損害額を公開しているところもある。

3 実施機関の職員(環境部防災消防課課長代理)の説明要旨
  実施機関の職員の説明を総合すると、本件公文書を非公開とした理由は、
 次のとおりである。
(1)本件公文書について
   本件公文書は、法第22条の規定により消防庁長官が求める消防関係報
  告のうち火災に関する統計及び情報の形式を定めた火災報告取扱要領(昭
  和43年11月11日消防総第393号消防庁長官通知。以下「要領」と
  いう。)に基づき、本件火災について作成され、横浜市から神奈川県を通
  じて自治省消防庁あてに報告されたものである。本件公文書には、「出火
  場所」、「火元の用途」、「出火箇所」及び「火元建物の損害状況」等が
  記載されている。
(2)条例第5条第1項第1号該当性について
  ア 本件公文書に記載されている情報のうち、「出火場所」の番地につい
   ては、特定の個人が識別され、又は識別され得ることから、条例第5条
   第1項第1号本文に該当する。
  イ 本件公文書に記載されている情報のうち、「出火場所」の町名、「火
   元の用途」、「出火箇所」、「延焼による焼損むね数」、「り災世帯数」
   及び「り災人員」については、公開しても、特定の個人が識別され、又
   は識別され得るとまでは言えない。
    しかし、異議申立人は、平成6年11月に横浜市で発生した火災73
   件の火災報告の交付を受けており、もし、この事情を考慮することなく
   本件公文書に記載されている情報を公開すれば、既に異議申立人が取得
   している火災報告に記載されている情報と照合することによって、特定
   の個人が識別され、又は識別され得ることになる。したがって、これら
   の情報は、条例第5条第1項第1号本文に該当する。
  ウ 本件公文書に記載された次の(ア)に掲げる情報は、出火に至るまで
   の個人の行動を記録した情報であり、(イ)から(エ)までに掲げる情
   報は、個人の財産に関する情報であって、特定の個人が識別され、又は
   識別され得る情報であることから、条例第5条第1項第1号本文に該当
   する。
  (ア)「出火原因」の経過及び着火物
  (イ)「火元建物のり災前の状況」の建築面積及び延べ面積
  (ウ)「火元建物の損害状況」の火元建物の焼損面積
  (エ)「損害額合計」、表番号01の「建物の損害額」の建築物損害額及
    び収容物損害額並びに表番号02の「建物の損害状況」の損害額
(3) 条例第5条第1項第1号ただし書該当性について
  ア 条例第5条第1項第1号ただし書ア該当性について
    本件公文書は、法令による閲覧規定はないので、条例第5条第1項第
   1号ただし書アに該当しない。
  イ 条例第5条第1項第1号ただし書イ該当性について
    火災報告は、将来の効果的な予防行政を推進するうえで、情報、統計
   の蓄積とその的確な処理分析により得られるデータが重要であることか
   ら報告されるものであり、そのためだけに作成されるものであって、事
   務事業の執行上又は行政の責務として県民の要望に応じて情報を提供す
   ることが予定されている情報とは言えないので、本件公文書は、条例第
   5条第1項第1号ただし書イに該当しない。
  ウ 条例第5条第1項第1号ただし書ウ該当性について
    本件公文書に記載されている情報は、同号前段の法令の規定により行
   われた許可、免許、届出その他これらに相当する行為に際して作成し、
   又は取得した情報ではないので、条例第5条第1項第1号ただし書ウに
   該当しない。
(4) 条例第5条第2項該当性について
    本件公文書は、全体が条例第5条第1項第1号に該当するため、閲覧
   等を求める趣旨を失わない程度に合理的に分離できるときに該当しない。

4 審査会の判断理由
(1)本件公文書について
   本件公文書は、要領に基づき、本件火災について、横浜市から神奈川県
  を通じて自治省消防庁あてに提出した火災報告である。本件公文書には、
  次に掲げる情報が要領の定めるところに従い、文字又は数字により記載さ
  れていることが認められる。
  ア 「出火場所」の市・区・町・番地
  イ 「出火原因」の発火源、経過、着火物
  ウ 「火元建物のり災前の状況」の構造、階数、建築面積、延べ面積
  エ 「火元建物の損害状況」の焼損の程度、火元建物の焼損面積
  オ 「損害額合計」
  カ 表番号01の「建物の損害状況」の建築物損害額及び収容物損害額
  キ 表番号02の「建物の損害状況」の損害額(以下、上記オ、カ、キを
   総称して「損害額」という。)
  ク 「火元の用途」、「出火箇所」、「火災番号」、「火災種別」、「出
   火時刻」、「覚知時刻」、「放水開始時刻」、「火勢鎮圧時刻」、「鎮
   火時刻」、「気象状況」、「出火階数」、「延焼による焼損むね数」、
   「り災世帯数」、「り災人員」、表番号01の「建物の損害状況」の焼
   損面積、表番号02の「建物の損害状況」の焼損面積、その他
(2)条例第5条第1項第1号本文該当性について
  ア 条例第5条第1項第1号は、個人を尊重する観点から、「知る権利」
   の保障と個人に関する情報の保護という二つの異なった側面からの要請
   を調整しながら、個人に関する情報を原則的に非公開とすることとして
   いる。
    そして、同号本文は、個人に関する情報であって、特定の個人が識別
   され、又は識別され得るもの(以下「個人情報」という。)を非公開と
   することができるとしている。
  イ したがって、同号本文は、個人情報は明白にプライバシーと思われる
   ものはもとより、プライバシーであるかどうか不明確であるものも含め
   て非公開とすることを明文をもって定めたものと解される。
    また、個人に関する情報のうち、特定の個人が識別され、又は識別さ
   れ得る第一義的な要素は、氏名及び住所であるが、氏名等が記載されて
   いない場合であっても、プライバシー性の極めて高い情報については、
   条例第2条後段において「個人の秘密、個人の私生活その他の他人に知
   られたくない個人に関する情報がみだりに公にされないように最大限の
   配慮をしなければならない」と規定している趣旨にかんがみ、明らかに
   他人に知られたくないと認められるものについては、非公開とするもの
   としている。
  ウ さらに、氏名等を削除したとしても、それ以外の部分の情報から、又
   はそれ以外の部分の情報と容易に取得し得る他の情報とを照合すること
   により、特定の個人が識別できるものであれば、当該部分については非
   公開とするものとしている。
  エ 本件公文書は、出火原因に関連する個人の住居から出火した状況等の
   詳細を記載したものである。そこで本件公文書に記載されている情報が、
   条例第5条第1項第1号本文に該当するかどうかについて検討する。
  (ア)「出火場所」の番地は、市、区、町、番地という一連の情報の一部
    であって、当該情報と本件火災の出火場所と同じ町名の建物の登記簿、
    住民基本台帳等の情報とを照合することにより、火元建物の所有者又
    は占有者が明らかになる可能性があるため、特定の個人が識別され、
    又は識別され得る情報であると認められる。
  (イ)「出火原因」の経過及び着火物の情報は、消防署が、出火原因に関
    連する個人の発言を記録した質問調書に基づいて、出火に至るまでの
    当該個人の行動を記録した個人に関する情報であり、他人に知られた
    くない情報であることから、条例第2条後段の趣旨にかんがみると、
    当該情報は、特定の個人が識別され、又は識別され得る情報であると
    認められる。
  (ウ)「火元建物のり災前の状況」の建築面積及び延べ面積の情報は、当
    該情報と本件火災の出火場所と同じ町名の建物の登記簿、住民基本台
    帳等の情報とを照合することにより、火元建物の所有者又は占有者が
    明らかになる可能性があるため、特定の個人が識別され、又は識別さ
    れ得る情報であると認められる。
  (エ)「火元建物の損害状況」の火元建物の焼損面積の情報と「火元建物
    のり災前の状況」の建築面積又は延べ面積の情報とは一致する場合が
    あるので、当該焼損面積の欄に記載されている情報は、それによって
    火元建物の所有者又は占有者が明らかになる可能性があるため、特定
    の個人が識別され、又は識別され得る情報であると認められる。
  (オ)「損害額」の情報は、個人の財産に関する情報であり、他人に知ら
    れたくない情報であることから、条例第2条後段の趣旨にかんがみる
    と、当該情報は、特定の個人が識別され、又は識別され得る情報であ
    ると認められる。
  オ 以上のことから、上記(ア)から(オ)までに掲げた情報は、条例第
   5条第1項第1号本文に該当すると判断する。その他の情報は、特定の
   個人が識別され、又は識別され得る情報であるとは認められないので、
   条例第5条第1項第1号本文に該当しないと判断する。
(3)条例第5条第1項第1号ただし書該当性について
  ア 条例第5条第1項第1号ただし書は、個人情報であっても、例外的に
   公開できる情報について規定している。
  イ 本件公文書に記載されている情報は、同号ただし書アの「何人でも法
   令の規定により閲覧することができるとされている情報」及びただし書
   ウの「法令の規定により行われた許可、免許、届出その他これらに相当
   する行為に際して作成し、又は取得した情報」とは認められないので、
   同号ただし書ア及びウに該当しないと判断する。
  ウ 条例第5条第1項第1号ただし書イ該当性について
  (ア)条例第5条第1項第1号ただし書イは、公表することを目的として
    作成し、又は取得した情報については公開することを規定している。
     ここでいう「公表することを目的として作成し、又は取得した情報」
    は、広報紙等を通じて広く県民に積極的に周知する情報だけでなく、
    条例第2条前段が「公文書の閲覧及び公文書の写しの交付を求める権
    利が十分に尊重されるようにこの条例を解釈し運用するものとする」
    と規定している趣旨から考えると、事務事業の執行上又は行政の責務
    として県民の要望に応じて提供することが予定されているものを含む
    と解される。
     一方、同条は、後段において、原則公開を基本とする公文書公開制
    度にあっても、他人に知られたくない個人情報がみだりに公にされな
    いように最大限の配慮をして、この条例の解釈及び運用をする趣旨を
    明らかにしている。
  (イ)異議申立人は、他の自治体には、消防年報で個人名及び「出火場所」
    の番地を除いて、「火元建物のり災前の状況」の建築面積及び延べ面
    積、「火元建物の損害状況」の火元建物の焼損面積並びに「損害額」
    等を公開しているところもあると主張している。
     しかし、当審査会で、異議申立人の主張する自治体の消防年報及び
    その他の自治体の消防年報を調査したところ、一定の規模以上の大規
    模な火災の情報又は統計処理された情報のみが記載されていること、
    及び火災報告に記載されている情報のうちどの情報を消防年報に記載
    するかは各自治体の判断によるものであることが認められる。
  (ウ)以上のことから判断すると、前記(2)エの(ア)から(オ)まで
    に掲げた情報は、出火原因に関連する個人の住居から出火した状況等
    の詳細についての他人に知られたくない個人情報であるので、行政の
    責務として県民の要望に応じて提供することが予定されている情報と
    までは認められない。
  (エ)したがって、本件公文書に記載されている情報のうち、前記(2)
    エの(ア)から(オ)までに掲げた情報は、条例第5条第1項第1号
    ただし書イに該当しないと判断する。
(4)条例第5条第2項該当性について
  ア 条例第5条第2項は、閲覧等の請求に係る公文書に部分的に公開する
   ことができない情報が記録されている場合であっても、それらを容易に、
   かつ、公文書の閲覧又は写しの交付を求める趣旨を失わない程度に合理
   的に分離できる場合には、部分公開をしなければならないと規定してい
   る。
  イ 本件公文書については、当審査会が前記(2)及び(3)により非公
   開とすることが妥当と認めた部分の範囲及び内容にかんがみると、当該
   部分とそれ以外の部分を分離することは、条例第5条第2項の「容易に、
   かつ、公文書の閲覧又は写しの交付を求める趣旨を失わない程度に合理
   的に分離できるとき」に該当すると認められる。
(5)その他
   実施機関は、異議申立人の個別特殊事情を考慮することなく本件公文書
  に記録された情報を公開すれば、既に異議申立人が取得している情報と照
  合することによって特定の個人が識別され、又は識別され得ることになる
  としている。しかし、実施機関には、条例上、公文書の閲覧等の請求に対
  し、その請求者の個別特殊事情のいかんにかかわらず、条例の趣旨に照ら
  して公開するか否かの判断をしなければならないことが義務付けられてい
  ると解される。
    したがって、この点に関する実施機関の説明は、相当でない。

5 審査会の処理経過
  当審査会の処理経過は、別紙のとおりである。

別紙

                  審査会の処理経過

年月日

処理内容

平成9年10月30日

○諮問

     11月11日

○実施機関に非公開理由説明書の提出要求

     12月15日

○非公開理由説明書の受理

     12月19日

○異議申立人に非公開理由説明書の送付し、非公開理由説明書に対する意見書の提出要求

平成10年1月19日

○異議申立人から非公開理由説明書に対する意見書提出

      8月5日
 (第169回審査会)

○異議申立人から意見の聴取
○実施機関から非公開理由説明の聴取

平成11年1月11日
 (第176回審査会)

〇審議

      3月24日
 (第178回審査会)

〇審議

      4月20日
 (第179回審査会)

〇審議

      5月10日
 (第180回審査会)

〇審議

                神奈川県公文書公開審査会委員名簿

                              (平成11年4月1日委嘱)

氏名

現職

備考

川島 志保

弁護士(横浜弁護士会所属)

 

小早川 光郎

東京大学教授

会長職務代理者

小林 重敬

横浜国立大学教授

 

千葉 準一

東京都立大学教授

 

堀部 政男

中央大学教授

会長

                       (平成11年5月21日現在) (五十音順)

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本文ここまで
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