答申第59号

掲載日:2017年12月1日

答申第59号

                       平成11年6月15日

 神奈川県代表監査委員 岡本 昭一 殿

             神奈川県公文書公開審査会 会長 堀部 政男

   公文書の閲覧等の請求拒否処分に関する異議申立てについて(答申)

 平成9年11月25日付けで諮問された国民体育大会旅費随時監査に係る
関係人調査の実施に関する文書等一部非公開の件(諮問第67号)について、
次のとおり答申します。

1 審査会の結論
(1)関係人調査一覧のうち、県職員の氏名、現所属名及び調査場所は公開
  すべきである。
(2)その他の部分を非公開としたことは、妥当である。

2 異議申立人の主張要旨
(1)異議申立ての趣旨
   異議申立ての趣旨は、平成4年度から平成8年度において、国民体育
  大会(以下「国体」という。)に本部役員及び競技監督等として派遣さ
  れた者の旅費(以下「国体派遣旅費」という。)に関し、実施機関の職
  員が作成した、
   ア 地方自治法(以下「法」という。)第199条第5項の規定に基
    づく監査(以下「随時監査」という。)の結果についての伺い
   イ 法第199条第8項の規定に基づく関係人調査(以下「関係人調
    査」という。)の実施についての伺い及びその結果
  のうち、イの公文書(以下「本件公文書」という。)の中の関係人調査
  一覧に記載された所属長を除いた関係人の氏名、現所属名、派遣時所属
  名(県職員を除く。)及び調査場所(監査事務局を除く。)(以下「本
  件非公開部分」という。)を神奈川県代表監査委員(以下「代表監査委
  員」という。)が平成9年11月10日付けで非公開とした処分の取消
  しを求める、というものである。
(2)異議申立ての理由
   異議申立人の主張を総合すると、代表監査委員が「本件非公開部分は、
  個人に関する情報であって、特定の個人が識別されること及び神奈川県
  が行う事務に関する情報であって、公開することにより、当該事務の円
  滑な実施を著しく困難にするおそれがあることから、神奈川県の機関の
  公文書の公開に関する条例(以下「条例」という。)第5条第1項第1
  号及び第5号に該当する」とした一部非公開の処分は、次に掲げる理由
  から、条例の解釈及び運用を誤っている、というものである。
  ア 条例第5条第1項第1号該当の点について
  (ア)公務員には、公金に対する認識及び管理が厳しく求められている
    ことから、公金の不正流用に係る関係者である公務員の氏名及び所
    属名の公開は認められるべきである。
  (イ)公務員情報を公開することにより、特定の個人が識別されるとし
    ても、当該情報が職務上行った行為に関する情報である限り、非公
    開とすることができる情報には該当しない。
  イ 条例第5条第1項第5号該当の点について
  (ア)当該監査は既に終了しており、公開することにより、当該事務の
    円滑な実施を著しく困難にするおそれはない。
  (イ)情報を公開することで、実施機関と関係人との信頼関係等が損な
    われるかどうかは、県民から見て合理性があるか否かで判断すべき
    であり、本件については、合理性がない。
  (ウ)実施機関は、信頼関係等が損なわれることを根拠付ける合理的か
    つ具体的な理由を示していない。
  ウ その他
    異議申立人は、実施機関から現地行動費に関する詳細な監査結果等
   の文書の交付は受けているが、スポーツ課運営費に関しては受けてい
   ない。
    実施機関がスポーツ課運営費に関する詳細な監査結果等を作成して
   いないということであれば、法第198条の3の規定に基づく義務及
   び法第199条の規定に基づく職務を果たしていないことになる。

3 実施機関の職員(監査事務局総務課長)の説明要旨
  実施機関の職員の説明を総合すると、本件公文書を一部非公開とした理
 由は、次のとおりである。
(1)本件公文書について
   本件公文書は、国体派遣旅費に関し、実施機関の職員が法の規定に基
  づき実施した監査に伴い作成した関係人調査の実施についての伺い及び
  その結果である。
(2)条例第5条第1項第1号該当性について
   本件非公開部分は、特定の個人が識別されることから、条例第5条第
  1項第1号本文に該当し、同号ただし書のいずれにも該当しない。
   なお、所属長の氏名、現所属名、派遣時所属名及び調査場所について
  は、行政の責務として県民の要望に応じて情報を提供することが予定さ
  れているものと判断し、公開した。
(3)条例第5条第1項第5号該当性について
   随時監査は、公文書により検証を行うものであるが、必要に応じて事
  実確認の正確性の精度を高めるため、関係人調査も併せて実施すること
  が必要となる場合がある。
   関係人に関する情報を公開することになれば、当該関係人は、当該調
  査を受けることによって不祥事の責任者又は悪質な行為を行った者であ
  るという誤った認識を県民が持つことを危ぐし、当該調査に協力するこ
  とを拒絶するようになる。
   以上のことから、本件非公開部分は、公開することにより、今後の監
  査事務の円滑な実施を著しく困難にするおそれがあることから、条例第
  5条第1項第5号に該当する。

4 審査会の判断理由
(1)本件公文書について
   本件公文書は、国体派遣旅費に関し、実施機関の職員が法の規定に基
  づき実施した監査に伴い作成した関係人調査の実施についての伺い及び
  その結果である。
   本件公文書のうち、本件非公開部分が記載されている関係人調査一覧
  には、関係人の氏名、現所属名、派遣時所属名、派遣時担当及び調査場
  所が記載されている。
(2)条例第5条第1項第1号本文該当性について
  ア 条例第5条第1項第1号は、個人を尊重する観点から、「知る権利」
   の保障と個人に関する情報の保護という二つの異なった側面からの要
   請を調整しながら、個人に関する情報を原則的に非公開とすることと
   している。
    そして、同号本文は、個人に関する情報であって、特定の個人が識
   別され、又は識別され得るもの(以下「個人情報」という。)を非公
   開とすることができるとしている。
    したがって、同号本文は、個人情報は明白にプライバシーと思われ
   るものはもとより、プライバシーであるかどうか不明確であるものも
   含めて非公開とすることを明文をもって定めたものと解される。
  イ 本件非公開部分は、個人に関する情報であって、特定の個人が識別
   されることから、条例第5条第1項第1号本文に該当すると判断する。
(3)条例第5条第1項第1号ただし書該当性について
  ア 条例第5条第1項第1号ただし書は、個人情報であっても、例外的
   に公開できる情報について規定している。
  イ 本件非公開部分については、同号ただし書アの「何人でも法令の規
   定により閲覧することができるとされている情報」及びただし書ウの
   「法令の規定により行われた許可、免許、届出その他これらに相当す
   る行為に際して作成し、又は取得した情報」とは認められないので、
   同号ただし書ア及びウに該当しないと判断する。
  ウ 条例第5条第1項第1号ただし書イ該当性について
  (ア)条例第5条第1項第1号ただし書イは、公表することを目的とし
    て作成し、又は取得した情報については公開することを規定してい
    る。
     ここでいう「公表することを目的として作成し、又は取得した情
    報」は、広報紙等を通じ広く県民に積極的に周知する情報だけでな
    く、条例第2条前段が「公文書の閲覧及び公文書の写しの交付を求
    める権利が十分に尊重されるようにこの条例を解釈し、運用するも
    のとする」と規定している趣旨から考えると、事務事業の執行上又
    は行政の責務として県民の要望に応じて提供することが予定されて
    いるものを含むと解される。公務員の職、氏名等の情報であって、
    当該公務員が分掌する事務又は事業の執行に関するものは、原則と
    して「事務事業の執行上又は行政の責務として県民の要望に応じて
    情報を提供することが予定されているもの」と解される。
     一方、同条は、後段において、原則公開を基本とする公文書公開
    制度にあっても、他人に知られたくない個人情報がみだりに公にさ
    れないように最大限の配慮をして、この条例の解釈及び運用をする
    趣旨を明らかにしている。
  (イ)本件公文書のうち、本件非公開部分が記載されている関係人調査
    一覧には、本部役員及び競技監督として派遣された者の中から実施
    機関が選定した調査対象者の氏名、現所属名、派遣時所属名、派遣
    時担当及び調査場所が記載されている。
     また、本部役員及び競技監督の派遣は、(財)神奈川県体育協会
    で決定し、神奈川県教育庁(以下「教育庁」という。)がこれを承
    認しており、その者の派遣に際しての旅費は、教育庁が支給してい
    る。
     ここで、関係人調査を受けることの意味について考えてみると、
    本件非公開部分を明らかにした場合に一般県民は、当該関係人が何
    か不正を働いたのではないか、という認識を持つであろうことは、
    比較的容易に推測することができ、当該関係人の名誉が損なわれる
    おそれがあることも否定できない。
     しかしながら、実施機関は、関係人調査一覧を作成するに当たっ
    て、国体派遣旅費に係る経理事務に直接一定期間にわたって携わっ
    ているなど、事務を熟知していると思われる者を任意に関係人とし
    て選定しており、その際、不正を働いたかどうかということは考慮
    されていないこと、また、関係人は当該調査に積極的に応じている
    ことが認められる。
     そもそも、監査制度は、県民の貴重な税で賄われている公金の執
    行等が、適法又は妥当に行われているか否かを監査し検査すること
    により、県民の行政に対する信頼を確保することを主眼とした制度
    であり、常に監査の透明性を高める要請が強いものであると言える。
     以上に述べた関係人調査の実情及び監査制度の趣旨にかんがみる
    と、関係人調査一覧のうち、県職員は、教育庁が国体という公的な
    催しに際し本部役員及び競技監督を派遣する事務事業において、公
    務員としての身分を有した上で、教育庁から旅費の支給を受け、有
    給の扱いで派遣されていることから、県職員の氏名、現所属名及び
    調査場所は、個人に関する私的な情報とは言えず、このような情報
    は、事務事業の執行上又は行政の責務として県民の要望に応じて情
    報を提供することが予定されている情報であると認められる。
     したがって、当該情報は、条例第5条第1項第1号ただし書イに
    該当すると判断する。
  (ウ)その他の非公開部分については、事務事業の執行上又は行政の責
    務として県民の要望に応じて情報を提供することが予定されている
    情報ではないので、条例第5条第1項第1号ただし書イに該当しな
    いと判断する。
(4)条例第5条第1項第5号該当性について
  ア 条例第5条第1項第5号は、県の機関又は国等の機関が行う検査、
   監査、取締等の計画及び実施細目、争訟及び交渉の方針、入札の予定
   価格、試験の問題その他の事務又は事業に関する情報であって、当該
   事務又は事業の性質上、公開することにより、当該事務又は事業の実
   施の目的を失わせ、又は当該事務又は事業の円滑な実施を著しく困難
   にするおそれのあるものは、非公開とすることができるとしている。
    この規定は、事務又は事業の性質に着目し、当該事務又は事業の円
   滑な実施を確保する観点から定められたものであり、同号前段は、本
   来公開になじまない性格を有する情報の典型例を示したものであるこ
   とから、これらの情報のほか、これらに類似し、又は関連する情報に
   ついても、「その他の事務又は事業」に関する情報として、対象とな
   ると解される。
    また、公開することにより、反復継続される同種の事業の公正かつ
   円滑な実施を著しく困難にする情報についても、同号後段の「当該事
   務又は事業の実施の目的を失わせ、又は当該事務又は事業の円滑な実
   施を著しく困難にするおそれのある」情報に含まれると解される。
  イ 本件公文書には、前記(1)で述べたとおり、関係人の氏名等が記
   載されており、国体派遣旅費の随時監査に際して作成されていること
   から、記載されている情報は、県の機関が行う監査事務に関する情報
   であると認められる。
  ウ 教育庁は、夏季、秋季及び冬季に行われている国体に、選手とは別
   に本部役員及び競技監督を派遣しているが、こうした中で、国体派遣
   旅費に係る不適正な経理処理が明らかになった。
    実施機関は、独自の視点で改めて事実確認を行う必要があると認め、
   随時監査を行うこととしたが、支出関係書類の一部が廃棄又は紛失し
   ていること及び経費の執行から相当の年月が経過していることなどの
   事情から事実の把握が極めて困難であったため、事実確認の正確性を
   担保する必要があることから、法第199条第8項の規定に基づき、
   関係人として本部役員及び競技監督から、面接及び電話による事情聴
   取という形で調査を行ったことが認められる。
  エ この関係人調査では、実施機関が選定した者から、関係した役職、
   期間、職務、現地での活動状況及び今後の改善策等について聴取して
   いる。
    実施機関は、その聴取の段階において、前記ウで述べたとおり、事
   実確認の正確性を担保するために関係人が把握している事実及び意見
   を聞いているのであり、その者の責任を追及するために聴取を行って
   いるとは認められない。
  オ しかしながら、前記(3)ウ(イ)で述べたように、関係人調査の
   実情及び監査制度の趣旨にかんがみると、関係人調査一覧のうち、県
   職員は、教育庁が国体という公的な催しに際し本部役員及び競技監督
   を派遣する事務事業において、公務員としての身分を有した上で、教
   育庁から旅費の支給を受け、有給の扱いで派遣されていることから、
   県職員の氏名、現所属名及び調査場所を明らかにしても、当該調査へ
   の協力が得られなくなる蓋然性は低く、監査事務の円滑な実施を著し
   く困難にするおそれがあるとは認められない。
  カ 以上のことから、本件非公開部分のうち、県職員の氏名、現所属名
   及び調査場所に関する情報は、条例第5条第1項第5号に該当しない
  が、その他の部分は同号に該当すると判断する。
(5)その他
   異議申立人は、実施機関の非公開理由説明書に対する意見書において、
  実施機関からスポーツ課運営費に関する詳細な監査結果等の文書の交付
  を受けていないことから、実施機関が当該文書を作成していないという
  ことであれば、法第198条の3の規定に基づく義務及び法第199条
  の規定に基づく職務を実施機関は果たしていないことになる旨を主張し
  ている。
   しかし、当審査会は、公文書の閲覧等の請求に関する決定の当否につ
  いて実施機関から意見を求められているのであり、公文書の存在の有無
  並びに実施機関の果たすべき義務及び職務について意見を述べる立場に
  はなく、この点に関する異議申立人の主張の当否については判断できな
  い。

5 審査会の処理経過
  当審査会の処理経過は、別紙のとおりである。

別紙

                   審査会の処理経過

年月日

処理内容

平成9.11.25

○諮問

   9.12.12

○実施機関に非公開理由説明書の提出要求

平成10.1. 8

○非公開理由説明書の受理

   10.1.14

○異議申立人に非公開理由説明書の送付

   10.1.28

○異議申立人から非公開理由説明書に対する意見書の受理

   10.10.12
 (第171回審査会)

○異議申立人から意見の聴取
○実施機関の職員(神奈川県監査事務局総務課長ほか)から非公開理由説明の聴取

平成11.1.11
 (第176回審査会)

〇審議

  11.3.24
 (第178回審査会)

〇審議

  11.4.20
 (第179回審査会)

〇審議

  11.5.10
 (第180回審査会)

〇審議

  11.6.8
 (第181回審査会)

○審議

                神奈川県公文書公開審査会委員名簿

                              (平成11年4月1日委嘱)

 

氏名

現職

備考

川島 志保

弁護士(横浜弁護士会所属)

 

小早川 光郎

東京大学教授

会長職務代理者

小林 重敬

横浜国立大学教授

 

千葉 準一

東京都立大学教授

 

堀部 政男

中央大学教授

会長

                       (平成11年6月15日現在) (五十音順)

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本文ここまで
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