答申第68号

掲載日:2017年12月1日

答申第68号

                        平成12年11月2日

 神奈川県知事 岡崎 洋 殿

               神奈川県情報公開審査会 会長 堀部 政男

   公文書の閲覧等の拒否処分に関する異議申立てについて(答申)

 平成9年3月26日付けで諮問された特定の産業廃棄物処理業者に関する在
日米海軍司令官からの要望書非公開の件(諮問第79号)について、次のとお
り答申します。

1 審査会の結論
  特定の産業廃棄物処理業者に関する在日米海軍司令官からの要望書は、公
 開すべきである。

2 異議申立人の主張の要旨
(1)異議申立ての趣旨
   異議申立ての趣旨は、神奈川県知事(以下「知事」という。)あてに出
  された特定の産業廃棄物処理業者(以下「本件法人」という。)に関する
  在日米海軍司令官(以下「司令官」という。)からの要望書(以下「本件
  公文書」という。)を知事が平成11年1月22日付けで非公開とした処
  分の取消しを求める、というものである。
(2)異議申立ての理由
   異議申立人の主張を総合すると、知事が「本件公文書は、特定の法人の
  事業活動に関するものであり、公開すると本件法人に明らかに信用上の不
  利益を与えるものと認められることから、神奈川県の機関の公文書の公開
  に関する条例(以下、原則として「条例」という。)第5条第1項第2号
  に該当する」とした非公開の処分は、次に掲げる理由から、条例の解釈及
  び運用を誤っている、というものである。
  ア 条例第5条第1項第2号本文該当の点について
  (ア)本件法人の排煙については、本件公文書の公開請求時点で、日本政
    府がダイオキシンの調査結果を発表しており、本件公文書のデータだ
    けが一方的、確定的なものとして公になるわけではない。日本政府の
    調査は、環境庁が神奈川県とともに実施したものである。
     県や日本政府も在日米海軍と同様に社会的な影響が大きいことは言
    うまでもなく、本件法人の排煙についての調査結果が発表されると、
    本件法人に信用上の不利益を与えると考えているのであるならば、県
    自身が日本政府とともに調査したデータを日本政府が公表したことに
    ついてどう考えているのか。
  (イ)本件法人及び同法人代表取締役が法人税法違反で逮捕、起訴されて
    いること、参議院国土・環境委員会では、本件法人による静岡県内で
    の不法投棄が指摘されたこと、さらに、本件法人が静岡県内の水源地
    の近くに最終処分場計画を有しており、地元住民の反対運動及び町も
    法的対応に乗り出していることについて綾瀬市議会で指摘されている
    ことなどから、本件法人の「信用上の不利益」などはそもそも問題に
    ならない。
  イ 条例第5条第1項第2号ただし書該当の点について
  (ア)条例第5条第1項第2号ただし書ア該当の点について
     本件公文書における米海軍が測定したデータは、環境庁による測定
    結果と大きく異なるものであるが、本件法人の排煙に対しては、近隣
    の工業団地で働く人たち等から、悪臭がひどい、目が痛い、吐き気が
    するなどの深刻な被害を訴える声が上がってきた経緯がある。大気汚
    染の実態や健康への影響を心配する地元の人たちや関心を持つ県民が
    大気の状況について、日本政府と米海軍がそれぞれ調査した両者の結
    果を知りたいと考えることは、何ら不当なことではない。
     したがって、本件公文書の内容は、条例第5条第1項第2号ただし
    書アに該当する。
  (イ)ダイオキシン等の有害物質を含む焼却灰の不法投棄等、違法操業か
    ら住民の健康と安全を守る上でも、本件公文書は条例第5条第1項第
    2号ただし書イに該当する。
  (ウ)なお、実施機関は、本件公文書のデータについて、米海軍基地内で
    測定されたものであり、その真偽について県として検証することはで
    きないとしているが、本件公文書の公開請求時点で、県は本件法人の
    排煙被害を知っており、現実に被害が出ている以上、米海軍からデー
    タを受け取った行政は、進んで実態調査を行えばよい。そのような努
    力もせずに米海軍のデータについて検証することができないなどと決
    めつけるのは、自らの怠慢を棚に上げた開き直りではないか。

3 実施機関(環境整備課(現廃棄物対策課))の説明要旨
  実施機関が本件公文書を非公開とした理由は、次のとおりである。
(1)本件公文書について
   本件公文書は、本件法人の主たる事業である廃棄物の処理に関し、知事
  に対して、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」と
  いう。)等に基づく措置を要請したものであり、資料として在日米海軍が
  実施した大気環境や土壌環境等に関する調査データが添付されている。
(2)条例第5条第1項第2号本文該当性について
  ア 本件公文書は、本件法人の主たる事業である廃棄物の処理に伴う大気
   汚染に関する苦情を内容とするものである。本件公文書のような法人等
   に対する苦情を内容とした文書を公開すると、作成者の一方的な主張が
   本件法人の反論の機会なく公になることになり、本件法人に信用上の不
   利益を与えることは明らかである。
    特に、本件公文書の作成者は在日米海軍であり、その社会的な影響が
   大きいことを考慮すると、本件公文書を公開した場合は、その内容が確
   定的なものとして認識される可能性は極めて高い。
  イ 本件法人が、法人税法違反として逮捕、起訴された事実は、非公開決
   定の通知後のことであり、本件公文書で、当該法人税法の違反について
   言及しているものではなく、静岡県内での不法投棄の事実については、
   確認されたものではない。さらに、静岡県内の最終処分場計画は、本県
   の関知するものではなく、仮にそのような計画を有していたとしても、
   そもそも最終処分場を計画すること自体は、異議申立人が主張するよう
   な違法・不当な事業活動に該当するものではない。
    したがって、公開請求時点において、異議申立人が主張するように、
   本件法人の取引上の信用が既に失われているといった状況にはないと判
   断する。
  ウ 以上のことから、本件公文書を公開すると、本件法人に対して明らか
   に信用上の不利益を与えるものであり、条例第5条第1項第2号本文に
   該当する。
(3)条例第5条第1項第2号ただし書該当性について
  ア 条例第5条第1項第2号ただし書ア該当性について
    条例第5条第1項第2号ただし書アに規定する「人の生命、身体、又
   は健康を法人等又は個人の事業活動によって生じる危険から保護するた
   め、公開することが必要と認められる情報」とは、人の生命等に対する
   危害の未然防止、拡大防止又は再発防止のために公開することが必要と
   認められる情報をいう。
    実施機関は、公開請求時点において、大気汚染防止法、神奈川県生活
   環境の保全等に関する条例、廃棄物処理法等所管の環境関連の法令につ
   いて、本件法人の違法性を確認しておらず、したがって、本件法人に対
   して、これら法令に基づく命令等の措置は執っていない。
    なお、本件公文書に記載されたデータについては、基地内で測定され
   たデータであり、その真偽については、県として検証することはできな
   いものである。
    以上のことから、公開請求時点において本件法人の事業活動によって、
   人の生命等に危害があると認めることはできないので条例第5条第1項
   第2号ただし書アに該当しない。
  イ 条例第5条第1項第2号ただし書イ該当性について
    県は、前述のとおり、公開請求時点において法的な違法性は確認して
   おらず、本件法人の事業活動によって消費生活の安定を損なうような著
   しい支障が生じていると認めることはできないので、条例第5条第1項
   第2号ただし書イに該当しない。
  ウ 条例第5条第1項第2号ただし書ウ該当性について
    本件法人は、公開請求時点で生活環境や自然環境を破壊し、環境関連
   の法令に違反した操業を行っているとは認められないし、現にそのよう
   な状況にあると判断することはできないので、条例第5条第1項第2号
   ただし書ウにも該当しない。

4 審査会の判断理由
(1)答申するに当たっての適用条例の考え方
   神奈川県情報公開条例が平成12年3月28日に公布され、同年4月1
  日に施行されたが、当審査会としては、本諮問案件は神奈川県の機関の公
  文書の公開に関する条例(昭和57年神奈川県条例第42号)に基づきな
  された処分であるので、当該条例に基づき本諮問案件を審議することとす
  る。
(2)本件公文書について
   本件公文書は、司令官から知事にあてた要望書で、本件法人の産業廃棄
  物の処理に関し、廃棄物処理法等に基づく措置を要請したものであり、資
  料として米海軍が実施した大気環境や土壌環境等に関する調査データが添
  付されている。
(3)条例第5条第1項第2号本文該当性について
  ア 条例第5条第1項第2号本文は、「法人その他の団体(国及び地方公
   共団体を除く。以下「法人等」という。)に関する情報又は事業を営む
   個人の当該事業に関する情報であって、公開することにより、当該法人
   等又は当該個人に明らかに不利益を与えると認められるもの」は、非公
   開とすることができると規定している。
  イ 閲覧等の請求に係る諾否の決定に関する異議申立てについて、実施機
   関が当審査会に諮問する趣旨は、条例第5条で規定する適用除外事項の
   該当性等を実施機関が改めて判断する際の意見を求めているものと解さ
   れる。したがって、当該諾否の決定後に新たな事実状態等の変動があっ
   たときには、処分時の事実状態等によって判断しなければならない特段
   の事情が存在しない限り、当審査会は新たな事実状態等の変動をも考慮
   して審査・判断できるものと考える。
  ウ 本件公文書のうち、要望書は、本件法人の事業活動に伴う排煙問題に
   ついて、違法行為を指摘し、知事に対し行政権限の行使を求めたもので
   ある。
    実施機関は、要望者の一方的な主張、特に在日米海軍という社会的影
   響力の大きいものによる主張が、本件法人の反論の機会なく公になるこ
   とにより、本件法人に信用上の不利益を与えると説明している。
    しかしながら、米海軍側の本件法人に対する苦情、要望については、
   米海軍側の報道官を通じた発表等により、マスメディアに大きく取り上
   げられているところであり、米国側が、本件法人の施設の操業停止の仮
   処分を申し立て、公開の法廷で争われていることも、既に周知の事実で
   あることから、公開しても本件法人に明らかに信用上の不利益を与える
   ことにはならず、条例第5条第1項第2号本文に該当しないと判断する。
  エ 要望書に添付された調査データは、米海軍側が、ダイオキシンについ
   て独自の調査を実施し、その結果をまとめたものである。
    実施機関は、調査の正確性及び調査結果と本件法人の操業との因果関
   係について検証できないことを理由に非公開としている。
    しかしながら、基地内外のダイオキシンについては、次のとおり、県
   が調査等を実施し、調査結果及び県の対応について記者発表するととも
   に、県のホームページに掲載していることが認められる(平成12年
   10月16日現在)。
  (ア)平成11年7月から約2か月間、日米合同モニタリング調査を実施
    した結果、基地内の1地点において大気環境中のダイオキシン類に
    つき、大気環境指針値を大幅に超える異常な数値を検出したことを
    受け、同年10月、本件法人に対し、施設の改善勧告をした。
  (イ)平成11年10月から1週間、基地周辺の大気、土壌等について、
    ダイオキシン調査を実施した。
  (ウ)環境庁と合同により、平成11年12月から約2か月間、基地周辺
    の大気、土壌等について、ダイオキシン調査を実施した。
  (エ)平成12年4月に本件法人の施設改善後の効果を確認するための調
    査を実施し、産業廃棄物処理施設から出る排出ガス及び基地周辺の
    大気中のダイオキシン類濃度が、施設改善前より低減していること
    を確認した。
  (オ)産業廃棄物処理施設のバグフィルター稼働前95日間及び稼働後
    91日間の基地周辺の3地点における大気環境調査を実施し、ダイ
    オキシン類の平均濃度が、バグフィルター稼働前に比べ低減してい
    ることを確認した。
    以上のことから、実施機関が、米海軍側の調査の正確性及び調査結果
   と本件法人の操業との因果関係について検証できないとしていた当初の
   説明は、現時点では正当な理由であるとは認められない。
    さらに、前述した操業停止の仮処分の申立てについては、公開の法廷
   で口頭弁論が行われ、マスメディアを通じて双方の主張が公にされてい
   るなどのことから、データを公開しても本件法人に明らかに信用上の不
   利益を与えることにはならず、条例第5条第1項第2号本文に該当しな
   いと判断する。

5 審査会の処理経過
  当審査会の処理経過は、別紙のとおりである。

別紙

                 審査会の処理経過

年月日

処理内容

平成11年3月26日

○諮問

  11年4月2日

○実施機関に非公開理由の説明書の提出を要求

  11年4月28日

○実施機関から非公開理由説明書を受理

  11年5月10日

○異議申立人に非公開理由説明書を送付し、非公開理由説明書に対する意見書の提出を要求

  11年6月14日

○異議申立人から非公開理由説明書に対する意見書を受理

平成12年1月17日
  (第189回審査会)

○異議申立人から意見を聴取
○異議申立人から追加資料を受理

  12年2月18日

○異議申立人から追加資料を受理

  12年6月12日
  (第1回部会)

○審議

  12年7月24日
  (第2回部会)

○審議

  12年8月7日
  (第3回部会)

○審議

  12年9月4日
  (第4回部会)

○審議

  12年9月13日
   (第5回部会)

○審議

  12年10月16日
   (第195回審査会)

○審議

神奈川県情報公開審査会委員等名簿

1 神奈川県情報公開審査会委員           

                               (平成11.4.1委嘱)

氏名

現職

備考

川島 志保

弁護士(横浜弁護士会)

部会員

小早川 光郎

東京大学教授

会長職務代理者

小林 重敬

横浜国立大学教授

部会員

千葉 準一

東京都立大学教授

 

堀部 政男

中央大学教授

会長
(部会長を兼ねる)

                                   (五十音順)

2 神奈川県情報公開審査会部会特別委員       

                               (平成12.6.12委嘱)

氏名

現職

備考

玉巻 弘光

東海大学教授

 

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本文ここまで
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