初期公開日:2022年12月19日更新日:2023年2月6日

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令和4年度自然環境保全センター事業報告会開催結果(テキスト)

令和4年10月29日(土曜)に開催した令和4年度自然環境保全センター事業報告会開催結果のテキストのページです。

1「丹沢大山自然再生計画」ができるまで 2丹沢ブナ林の再生対策 3県有林における人工林整備 4渓畔林整備の実際とモニタリングの知見 5人工林の再生と水源かん養機能保全 6シカ保護管理事業20年目を迎えて 7自然公園の利用と自然再生 8県民協働による自然再生の取組

 1「丹沢大山自然再生計画」ができるまで

 皆さんこんにちは。自然再生企画課の田村です。前座を務めます。どうぞよろしくお願いします。私の後の7題の発表は、自然環境保全センターが設立された2000年以降の取組について、あるいは自然再生計画ができた2007年以降の取組についての報告です。そこで、私は後の7題のつなぎとなるように、2007年の自然再生計画ができるまでの背景と経緯について発表します。

 丹沢では色々と問題が起きてきましたが、現在でも素晴らしい、後世に残したい自然環境があります。それを紹介します。まずは、ブナ林やモミ林などの天然林です。横浜や川崎といった大都市からもっとも近い天然林が広がっています。続いて、丹沢といえばその言葉の由来は谷です。渓谷です。また、丹沢の渓谷の特徴として滝が多いこともあげられます。さらに生物でいえば、シカはもちろんのこと、クマやカモシカ、サルなど、本州に生息する大型野生動物はすべてそろっています。植物では、丹沢にしかないサガミジョウロウホトトギスという固有種もあります。そして、丹沢は富士山の眺望に恵まれていることも特徴です。

 このように素晴らしい自然環境がいまだに残る丹沢ですが、1980年代から様々な問題が起きてきました。自然環境の問題としては、1923年の関東大震災や、1960年代からの拡大造林がエポック的には重要ですが、本日は1980年代以降の問題に焦点をあてて紹介します。

 まずはブナなど上層木の枯死です。その衰退枯死要因として、高濃度オゾンと水ストレス、ブナハバチがあげられています。次に、シカが関係している問題として3つ。スズダケの退行、シカによる樹木の樹皮剥ぎ、下行きまして、オオモミジガサなど、多年草といった植物の絶滅の恐れです。また、人工林の手入れ遅れによる土壌流出の問題も起きるようになりました。さらに、登山道の裸地化もあります。ただし、この裸地化の問題は1960年代半ば以降に起きてきた問題です。どういうことかというと、1965年に丹沢が国体山岳競技の会場となり、それ以降の登山ブームと相まって、大勢の登山者が来て登山道が広がったり裸地化したりするようになったということです。

 こうしたブナ枯れや林床植生の退行などの生態系の異変に対して、危機感をいだいた専門家と市民が県に働きかけて調査団を結成して、1993年から96年に丹沢大山自然環境総合調査が行われました。その結果、豊かな自然を再認識させましたが、問題点として、森林の衰退が進行していることや、シカ個体群の低質化、ツキノワグマなど大型動物個体群が丹沢周辺の山岳と行き来できないという孤立化、土壌動物の衰退、森林の乾燥化、オーバーユースが科学的データをもって明らかになりました。

 そこで、調査団は丹沢の保全再生に向けて、県に次のことを提言しました。すなわち、生物多様性の原則に基づく管理、保全検討委員会の設置、マスタープランの策定、自然環境総合管理センターの設置などです。県は提言を受けて、マスタープランとなる「丹沢大山保全計画」を1999年に策定しました。

 その目標は、丹沢大山の生物多様性の保全・再生です。基本方針は3つあり、科学的な自然環境の管理、生物多様性の原則による管理、そして、県民と行政との連携です。対象地域は、丹沢大山国定公園と県立丹沢大山自然公園を合わせた約4万haです。主要施策は4つあり、ブナ林や林床植生の保全、大型動物個体群の保全、希少動植物の保全、オーバーユース対策です。

 2つ前のスライドで、総合調査団の県への提言に「自然環境総合管理センターの設置」とあったことを、皆様覚えていらっしゃるでしょうか。その提言を受けて設立されたのが、私たちの組織である「自然環境保全センター」です。2000年に設立されました。自然環境保全センターは、それまでにあった県の5つの機関が統合して設立されました。その目的は、緑関連施策の効果的な展開と丹沢大山保全計画の総合的な推進です。

 こちらは現在の組織図です。所長、副所長の下に3つの部と9つの課、そして2つの出張所があります。大きな特徴は、企画部門としてのこちら自然再生企画課、研究部門としての研究連携課、普及啓発部門の自然保護課、そして、野生生物の保護管理や自然公園管理、森林の管理全体を担うこれらの課、こうした事業部門が同じ組織であるということです。このような組織は全国的にも稀です。

 さて、自然環境保全センターの設立によって、丹沢大山保全計画を総合的に実行していく体制が整い、取組を進めることで一定の成果を果たしてきたのですが、その過程で3つの課題が浮かび上がってきました。第1は計画の枠組です。保全計画は国定と県立の自然公園区域を対象としていたため、非自然公園区域が含まれていないという課題です。第2の課題は実行体制です。県民や団体の意見を反映させる仕組みがないということです。第3の課題は事業の実施についてです。目標数量と現実に乖離があったり、事業間の連携不足があると言われました。

 そこで、県民の要望をまとめるワークショップを2003年に開催して、その結果、新たな総合調査を開始することとなりました。新たな総合調査は「丹沢大山総合調査」という名称です。2004年から2006年に行われました。

 この丹沢大山総合調査の特徴は、大きく分けて3つあります。第1は4つのチーム、こちらの写真にあるように、生きもの再生チーム、水と土再生チーム、地域の再生チーム、そして写真はありませんが情報整備チーム。これら4つのチームを編成して、総計500名を超える専門家や市民が協働したことです。私たち自然環境保全センターは事務局を担いました。第2の特徴は、ブナ林再生など、8つの課題解決のための分野横断型調査を実施したことです。第3の特徴は、調査結果を総合的に解析して県に政策提言したことです。その政策提言したものが、「丹沢大山自然再生基本構想」です。丹沢大山自然再生基本構想は、2006年に策定されました。基本構想は、いわば自然再生の診断書と処方箋であり、自然再生の原則や目標、課題、対策を提示したものです。

 ここでは、基本原則と目標について紹介をします。まず、基本原則ですけれども、6つあります。流域一貫の原則、順応的管理の原則、統合的管理の原則、参加型管理の原則、景観域を中心とした管理の原則、情報公開の原則です。

 続いて、自然再生の目標です。こちらに示すように、4つの景観域ごとに目標が設定されています。景観域とは何かを説明すると、丹沢の自然環境とそれをとりまく景観の特徴が大まかに標高帯で異なることから、おおよそ標高800メートル以上を奥山域、標高300メートルから800メートルの範囲を山地域、標高300メートル以下を里山域の3つに区分し、さらに3つの景観域を上流から下流までつなぐ「渓流域」を加えて4つとしています。

 さて、奥山域の再生目標は、「うっそうとしたブナ林の再生」です。山地域の再生目標は、「生きものも水・土も健全でなりわいも成り立つ森林の再生」です。里山域の再生目標は、「多様な生きものが暮らし、山の恵みを受ける里の再生」です。そして、渓流域の再生目標は、「生きものとおいしい水を育む安心・安全な沢の再生」です。そして、全体を束ねた目標が、「人も自然もいきいきとした丹沢大山」です。

 今説明した「丹沢大山自然再生基本構想」を基にして、県の実行計画としてつくられたのが「丹沢大山自然再生計画」です。2007年に策定されました。この計画の特徴は、たくさんありますけれども、ここでは3つあげます。

 第1の特徴は、自然を保護するだけではなく、失われた自然を取り戻すという「自然再生」を重視していることです。第2の特徴は、景観域に特有の課題と景観域に共通の課題、合わせて8つの特定課題を設定していることです。第3の特徴は、丹沢大山自然再生委員会が、事業とモニタリングの実施状況を点検・評価していることです。丹沢大山自然再生委員会というのは、NPOや学識者、民間企業、団体、県を含む行政など多様な主体から構成された組織です。

 再生計画は現在、第3期計画の6年目が進行中です。5年を一期として計画を改定していることから、本来なら今年度から第4期計画が始まる予定でしたが、昨年はコロナ禍もあった関係で、策定を1年延期したという経緯があります。現在、第4期計画の策定に向けて、素案について意見を募集中です。期間は、もうすでに始まっていますけれども、10月19日から11月18日までです。方法は、フォームメールや郵送、ファクシミリ、ホームページによります。ご意見をいただければ幸いです。

 ここで、再生計画で重要な8つの特定課題を紹介します。景観域に特有の課題としては水色で示した4つがあり、奥山域ではブナ林の再生、山地域では人工林の再生、里山域では地域の再生、渓流域では渓流生態系の再生です。

 景観域に共通の課題には黄色で示した4つがあり、シカ等野生動物の保護管理、希少動植物の保全、外来種の監視と防除、自然公園利用のあり方があります。さらに、これら8つの特定課題の取組を推進するための「協働・普及啓発」も加えられています。これら8つの特定課題プラス1のうち、この赤枠で示したものが、私たち自然環境保全センターで行っている事業を含むものです。

 さて、私の後の発表ですが、今あげた特定課題の順に報告していきます。ブナ林の再生の取組から始まって、自然公園利用のあり方、協働・普及啓発まで、担当する7名のリアルな発表をお楽しみください。なお、希少動植物の保全は時間の関係で本日は割愛しました。ご了承ください。

 これで、私の発表を終わりにします。

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 2丹沢ブナ林の再生対策~植生保護柵の設置後10年以上経過して見えてきた再生の方向性~

 皆さん、こんにちは。私は研究連携課の谷脇と申します。私からは、「丹沢ブナ林の再生対策~植生保護柵の設置後10年以上経過して見えてきた再生の方向性~」についてお話したいと思います。よろしくお願いいたします。

 先程、田村さんの方からお話ありましたように、丹沢のブナ林ではブナの立ち枯れが増えていって、森林の疎林化や草地化が進行して問題となっています。また、そこでは過密化したシカの採食影響によって更新木が減少し、森林の再生が阻害されているような状況です。

 こういった状況から、当センターでは衰退が進むブナ林を、ブナなどの高木が健全で階層構造が発達し、林床にササや灌木が生い茂る森林、いわゆる鬱蒼(うっそう)としたブナ林の再生を目指した調査研究や対策事業に取り組んでいるところです。調査研究としては、外部の研究機関との共同研究による研究プロジェクトというかたちで進めているところです。

 第1期については、丹沢大山総合調査を経て、まず衰退実態の解明に取り組む中で、衰退要因としては大気汚染物質であるオゾン、乾燥などによる水ストレス、それからブナの葉を食べるブナハバチの大発生被害、この3つの要因に絞り込まれたわけです。水源施策や(丹沢大山自然)再生計画の第1期と連動したブナプロジェクトの第2期では、衰退機構、衰退メカニズムの解明に取り組む中で、衰退地の再生技術開発に着手しました。そして第3期では、保全・再生対策技術の開発に取り組む中で、ブナハバチの防除対策や衰退地の再生技術の重点開発に取り組み、それまでの成果を取りまとめて作成した、こちらの「丹沢ブナ林再生指針」を活用しながら、第4期には再生事業の開始ということで、事業連携によるブナ林再生事業を本格的に実施する中で、ブナハバチ防除対策と森林再生対策の効果検証に取り組んでいるところです。

 対策の考え方としては2つあり、1つ目が林冠ギャップを閉鎖するための森林再生対策です。林冠ギャップというのは、木が枯れて高木の枝葉が茂る部分に形成された開けた空間のことで、これを将来閉鎖していくために、森林を再生していくための対策に取り組んでいます。

 もう1つの対策は、将来にわたってこの残されたブナを守っていくためのブナハバチ対策です。今日は時間の関係がありますので、こちらの森林再生対策についてお話します。なお、森林再生の手法の1つとして植栽がありますけれども、植栽については本来の種組成を持った極相林の復元は難しいなど、丹沢大山国定公園の特別保護地区での適用にあたっては課題が多く、今後の議論が必要な段階ですので、当面は天然更新、すなわち自然に発生した更新木を育成することを促進していくことによる再生を実施していく方針で進めているところです。

 対策事業としては2つあり、1つは当センターの自然公園課が取り組んでいます植生保護柵の設置やその維持管理です。もう1つが、当センターの野生生物課が取り組んでいますシカの管理捕獲です。これらの事業効果をモニタリングするために、研究連携課では多地点で天然更新の調査を行っているところです。シカの管理捕獲の効果については、この後、野生生物課からお話がありますので、ここでは植生保護柵の効果についてお話いたします。

 柵内での再生事例を見ますと、こちらの柵では設置23年後の段階で、樹高4、5メートルの低木林を形成しているのが見られました。このように、衰退地に設置された柵内では、時間が経過するにしたがって樹高が成長することが確認されたわけですけれども、それではこういったところが、衰退前のようなブナ等の高木からなる森林として再生するのかどうかはまだよく分からないという現状がありました。

 では、そういった森林として再生するにはどういった条件が必要になるかということですけれども、高木種の天然更新によってこの林冠ギャップを閉鎖していくことが不可欠です。丹沢のブナ林の構成樹種としては、樹高5メートル未満の低木種であったり、樹高10メートル未満の小高木種などがありますけれども、ギャップを閉鎖するためには、ブナやイタヤカエデやシナノキといった、樹高が10メートル以上に達するような高木種の天然更新が不可欠です。

 ところが、森林再生ではシカ以外にも様々な阻害要因があります。特に林冠ギャップが大きくなるほど、高木種の天然更新が困難になる可能性があります。例えば、林冠ギャップが大きくなるほど、周辺の母樹から飛来する種子の数が少なくなることや、もともと丹沢のブナ林の立地環境というのは全般に風衝地であるために、一度破壊された林分の回復は困難であるという指摘がありますように、ギャップが大きくなるほど、更新木への風やオゾンのリスクが増加することが懸念されます。また大ギャップのササが密生したような環境では、更新木がササによって被圧される状況も見られます。

 一方、大ギャップであっても埋土種子、すなわち土壌中で休眠している種子由来の小高木種等が天然更新してくる可能性もあります。こういった様々な要因が絡み合った結果、どうなっていくのかということを明らかにするためには、林冠ギャップの大きさに応じた再生状況の検証が必要な状況でした。

 そこで、「丹沢ブナ林再生指針」の中で、林冠ギャップの大きさに応じた再生ロードマップを作成して、それを活用した再生状況の検証に取り組んでいるところです。再生ロードマップは3つありまして、1つ目が、ギャップはないけれどもブナハバチなどによる衰退リスクの大きなブナ林の再生ロードマップ。2つ目が、単木的な枯死により形成された小ギャップの再生ロードマップ。3つ目が、集団的な枯死によって形成された局所的に草地と言えるような環境となっている大ギャップの再生ロードマップです。大ギャップについては、代表的な植生型である高茎草本型とササ型を分けて考えていきます。こういった再生ロードマップを活用して、柵設置後10年以上経過した時点での再生状況を評価しました。なお、今日は時間の関係がありますので、こちらの小ギャップと大ギャップについて取組を紹介いたします。

 まず、小ギャップの再生ロードマップです。丹沢ブナ林再生指針の記述を見ますと、小ギャップでは周辺の母樹から飛来する種子数が多く、大ギャップより短い時間での森林の再生が期待できます。ここでは、50年後をめどとして林冠の閉鎖や階層構造の発達を目指しているという中で、10年後の時点では、植生の増加とともに更新木が樹高成長していくことを想定しています。

 実際の小ギャップでの再生事例を見ますと、こちらは柵設置12年後です。こういったところでのモニタリング結果を示しています。こちらのグラフは、縦軸が50センチメートル括約の樹高階、横軸が樹高階ごとの更新木の個体数です。ヘクタールあたり何万本というかたちで示しています。

 グラフはこのうろこ模様がブナです。黒塗りがその他高木種、白抜きが小高木種を示しています。こちらを見ますと、大部分の更新木が黒塗りの高木種となっておりまして、50センチメートル階だけ見てもヘクタールあたり5万本近くという比較的多くの更新木がある中で、樹高も3、4メートルまで高木種の樹高成長が進んでいる状況でしたので、小ギャップにおいては高木種によるギャップ閉鎖を期待できるような再生状況となっています。

 続いて大ギャップについてです。大ギャップでは周辺の母樹から飛来する種子数が少なく、更新木がオゾンや水ストレスの影響を受けやすいため、再生に長い時間を要すると考えられます。こちらでは100年後という非常に長い期間をめどとしてギャップの閉鎖を目指すという中で、10年後の段階ではまずは高木種の侵入、それから低木の成長を整備していくことを想定しておりまして、20年後の段階を見てみますと母樹に近い林縁で高木が樹高成長してくると。それから低木が密生してくるということを想定しています。

 実際の大ギャップでの再生事例です。こちらは高茎草本型での近くに母樹がある場合の再生事例です。こちらは柵設置10年後ですね。こういったところでのモニタリング結果を示しています。こちらでは先程の小ギャップよりは更新木は多くはないのですけれども、割合としては高木がブナを含めて多くを占めておりまして、樹高も2メートル程度まで成長しているというかたちでしたので、大ギャップであっても母樹の近くから高木種によるギャップ閉鎖が進むことを期待できる再生状況となっています。

 一方、近くに母樹がない場合です。こちら設置24年後の柵ですね。こういった再生状況ですけれども、モニタリング結果を示しています。ここでは、樹高は3、4メートルまで達しているのですけれども、大部分がニシキウツギなどの風衝低木林を構成するような小高木種からなっていて、高木種についてはこちらにありますように、高木種の侵入はあるのですけれども個体数が少なくて、また樹高成長がほとんど見られていないという状況でしたので、こういったところでは、当面は小高木種を主体とした低木林になると予想される再生状況となっています。また、ササ型の林床であっても、ササの被圧を回避できた場合には同様に、当面は小高木種を主体とした低木林になると予想される結果が得られています。

 一方で、ササの被圧が大きい場合の再生事例です。こちら柵設置10年後ですね。こういったところでのモニタリングの結果です。ここではササの高さが144センチメートルと高くなっていまして、更新木は高木種だけでなく小高木種も含めて極めて少数になっているという状況でしたので、こういったところでは当面はササを主体とした草地になると予想される再生状況となっています。

 以上を踏まえまして、柵内での再生の方向性についてまとめます。まず、ブナと高木の森林の再生に向けてです。小ギャップについては、想定どおりブナ等高木の森林の再生に向けた天然更新が進行していることが確認されました。一方、大ギャップでは、再生に3つの方向性があることが判明しました。1つ目が、高木種によるギャップ閉鎖を期待できる場合。2つ目が、小高木種を主体とした低木林となることが予想される場合。3つ目が、ササを主体とした草地となることが予想される場合です。この2つ目と3つ目に関しては高木種の天然更新が少ないということで、再生にはやはり長い時間が必要となることが考えられるわけです。したがって、森林の早期の再生を目指すにあたっては、ギャップが拡大する前に早期に対策することが重要となることが、浮き彫りとなったと見ることができます。

 それから、低木林やササ草地の中長期的な再生の方向性についてですけれども、当初の想定通り、徐々にでも高木種の更新木が増加して、それらが樹高成長してくるのか。あるいは、一度破壊された林分の回復は困難であると指摘されるように、風衝地の植生として長く維持されるようになるのかといったことについては、現時点ではまだよく分からない不確定な段階です。今後、森林の状態や立地環境に適した植生遷移が進行することが予想されますので、引き続きモニタリングを継続しながら再生の方向性を見極めていくことが課題となっています。

 また、低木林やササ草地として再生することについて、少しお話したいと思います。というのも、低木林やササ草地というのは、もともと奥山域にある植生景観の一要素であるということでして、林縁の植生ですね。いわゆるマント群落・ソデ群落として隣接する森林への側面からの風やオゾンの影響を軽減してくれるということが期待されますし、こういった植生景観を好む動植物の保全に貢献することも期待できるわけです。ですので、当初想定の高木の森林としては再生しなかったとしても、こういった植生景観として再生していくこともまた、奥山域の生態系の保全に寄与することを我々は認識しておく必要があると考えています。

 以上のことを踏まえた、今後の課題です。今回、大ギャップでは再生に3つの方向性があることが明らかになりましたので、そういったことを踏まえて、引き続きブナ等、高木の森林への再生を目指しつつ、そういった中でも多様な植生景観を取り入れた、より包括的な視点での森林再生のあり方について、今後検討していく必要があると考えています。

 以上で私の方からの発表は終わります。どうもありがとうございました。

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 3県有林における人工林整備

 県有林整備課の斎藤結希です。私からは、丹沢大山自然再生計画の特定課題の2つ目、「人工林の再生」に関連する事業についてお話させていただきます。シカの増加や木材価格の低迷に伴う、人工林の手入れ不足による森林荒廃からの再生について、県有林での取組についてご紹介します。よろしくお願いします。本日はまず、人工林が放置されるとどうなるかご説明したのち、県有林のゾーニング、丹沢県有林での人工林の整備についてご説明します。

 まず、スギ・ヒノキの人工林に手を入れないとどうなるか、一般的なお話をします。人工林は、価値の高いまっすぐな材の収穫が最大となるように、自然状態よりも密に植栽をし、何度も間伐を繰り返していくことを前提に作られています。このような人工林で手入れが不足すると、スギ・ヒノキの密度が非常に高いまま成長します。そうなると、隣同士の距離が近いので、林冠同士が接触し、日光が入りにくい暗い森林となります。林床に光が届きにくくなると、林床植生や低木が育ちにくくなります。

 また、これは丹沢に関してになりますけれど、ニホンジカの密度が高かったことから、なんとか育った林床植生や低木もシカに食べられて減少、場所によっては消滅してしまいました。こうして林床植生がなくなると、降雨などで土壌の流出が起こりやすくなります。この状態で放置すると、土壌がどんどん流出してしまい、森林の持つ公益的機能、特に水源かん養機能などが損なわれる可能性が高くなってしまいます。

 これは手入れが不足し、暗いヒノキ林の様子です。斜面の上から下を見た写真で、手前が斜面の上、奥が斜面の下になります。林床まで届いている光はごくわずかで、植生はまったくなく、枝が落ちているだけになっています。このまま放置すると、土壌が流出していってしまうことにつながります。

 ここからは、丹沢地域についてご説明します。本日ご聴講いただいている方の中には、既に十分すぎるほどご存じの方も多いかと思いますが、少しお付き合いをお願いします。報告会の冒頭で田村よりご説明させていただきました、平成18年の丹沢大山自然再生基本構想では、荒廃した森林を再生するために、森林を特徴で区分、いわゆるゾーニングをする必要があること。また、ゾーニングごとに目標を定める必要があり、人工林については、中標高域で道から近いエリアでは木材生産を行う、標高の高いエリアでは針広混交林や広葉樹林へと樹種転換を行うことが望ましいと提言されました。

 そのゾーニングについて、神奈川県では、道から近く材を搬出しやすいことで、林業の採算が取りやすい、いわゆる「条件の良い」森林については、適切に間伐や皆伐を行い、その木を材として利用、伐った跡地には無花粉や低花粉のスギやヒノキを植栽して、また人工林として整備する、という循環利用するゾーンとしています。

 そのほかの森林については、広葉樹と針葉樹が混ざる針広混交林や広葉樹林とし、特に標高おおよそ800メートル以上の奥山域については、自然林とするとされています。当然ですが、県有林の整備も先ほどのゾーニングに則って進めています。この表は、県有林の全体方針について、道からの距離と現在の森林の形態で分類したものになります。現在、針葉樹の森林のうち、道からの距離が近く、林業で採算の取りやすい森林については、資源循環林として手入れや搬出を行います。一方、道からの距離が遠いなど、材の利用に向かない森林、これはその多くが標高の高い場所にありますが、ここについては巨木林や、針広混交林など、手入れの必要性が低い森林へ誘導していきます。既に広葉樹林の場所については、必要に応じて土壌保全対策や、森林の階層構造を発達させるための対策を行っています。

 県が所有して管理している県有林は、この図のピンクで示した箇所、合わせて6,000ヘクタール以上ありますが、今回はそのうち丹沢県有林についての取組事例をお話します。丹沢県有林はこの地図の赤く囲った場所で、1,828ヘクタールあり、丹沢山の東斜面に位置します。昭和6年に御料林を下賜されたことが県の管理の始まりで、全域が宮ケ瀬湖の上流に位置しており、ここに降った雨は中津川を通って宮ケ瀬湖、相模川へと流れ込むことになります。

 これは、丹沢県有林の航空写真です。赤枠の中が丹沢県有林になります。ここが丹沢山の山頂、黒い線が県道70号線です。写真のうち、緑に見える部分が針葉樹、茶色く見える部分が広葉樹になります。傾向としては、標高の高いこの辺りは広葉樹が多く、標高の低い場所に針葉樹がまとまっている様子が分かりますが、一部、例えば長尾尾根沿い、天王寺尾根沿いなどは標高の高い場所ですが、人工林が広がっています。

 丹沢県有林内の林分構成を見てみると、このように半分以上が広葉樹で、針葉樹のうち林業でよく使用されるスギ・ヒノキは、4分の1程度であることが分かります。なお、マツ、モミ、カラマツに分類されているこの林分の中には、モミの考証林など、人工的に植栽していない林も含まれています。

 さて、ここからはゾーニングごとの実際の整備状況についてご説明します。まず、中標高域の人工林のうち、道から近い、資源循環林の整備です。基本的に間伐を行い、その材を搬出して木材生産を行っています。しかし、令和元年の東日本台風により、県道や林道が通行止めになった影響で、現在は中断しています。今年の夏にようやく林道の復旧が完了したところです。

 木材生産が基本方針の森林ではありますが、土壌の流出を防ぐ必要がある場所については、工作物を設置することもあります。この写真は間伐し、材を搬出した後の林内です。林床に光が入り、明るくなっている様子が分かります。ここには丸太筋工という、水の流れを分散させるための工作物も設置されています。

 次に、標高の高い地域の人工林についてです。高標高域の人工林は、その多くが御料林時代に植えられたもので、林齢100年以上の森林が多くなっています。これらの森林は、道から遠いことで現地に行くまでに時間がかかり、手入れに費用と時間がかかります。加えて、伐採した材を市場へ輸送するにも費用がかかることから、材を利用することを前提に整備が行われてきたこれまでは、どうしても後回しにされやすく、手入れが不足しがちでした。

 また、針広混交林を目指すとしてからも、対象となる面積が大きく、手入れが必要な森林すべてに手を入れることが難しい状況が続きました。具体的には、高標高域にある人工林の多くでは、平成10年代ごろに整備が行われて以来、手が入っていない森林が多く、中には一部ではありますが、植えてから一度も間伐をしていない森林もありました。冒頭でもご説明した通り、このまま放置すると土壌の流出が進み、水源かん養機能などが損なわれてしまう可能性が高くなります。

 よって、県民の皆様にご負担いただいている水源環境保全税を活用し、平成29年度より、土壌保全を目的とした森林整備を行っています。下層植生が茂り、明るい針広混交林になることを目標とし、土壌の流出を防止するために丸太柵工や丸太筋工といった簡易な工作物の設置、林床へ光が入りやすくし、下層植生などが育ちやすくなるように、スギ・ヒノキの伐採、これらの対策で生えてきた下層植生などがシカに食べられないように、植生保護柵の設置などを行っています。

 ここからは写真で整備の内容をお示しします。これは土壌を安定しやすくするための工作物のひとつ、丸太柵工です。丸太を水平に並べて固定したもので、斜面の傾斜を緩やかにし、土砂が流出することを防ぐために設置します。これは丸太柵工を設置する前の斜面を上から見た様子です。植生のない場所で土壌が動いている様子が見られます。設置した直後はこのようになりました。斜面の上から見ているので見にくいのですが、丸太柵工の一番上の丸太が白く見えているような状況になります。

 この場所の5年後の様子がこの写真になります。一面を下層植生に覆われており、設置した丸太柵工は見つけにくくなりました。土壌が流出せず安定している様子が分かります。これは、受光伐を行う前の森林を斜面の上から見下ろした写真です。同じ場所の施工後の様子がこの写真になります。林床まで光が入るようになった様子が分かります。受光伐については、標高が高くかつ手入れが不足している森林のため、一度にたくさん伐採すると崩壊などの災害につながってしまいます。そのため、伐採は林床に光が入るが災害が起きにくいであろう程度で行っています。施工5年後では、シカ柵を設置していない場所でも、このように林床一面に下層植生が生えています。

 最後に、生えた下層植生がシカに食べられないようにするための植生保護柵です。ここに見えているものが、植生保護柵になります。これは、植生保護柵を設置する前の森林を、斜面の上から斜め下方向に見た写真になります。全体的に植生の乏しい斜面であることが分かります。設置直後の同じ場所の写真がこれです。斜面の下に向けて、ぐるりと植生保護柵で囲みました。この場所の5年後の様子がこの写真になります。設置前にはなかった下層植生が、繁茂している状況が分かります。柵の中にはカエデなど、大きく育つ樹種も出てきています。

 このような整備を行っている高標高域にある人工林ですが、丹沢県有林内の配置と進捗を表したものがこの図になります。黒枠の中が丹沢県有林で、細い線が道や登山道です。色が塗られている場所が対象の人工林で、全部で120ヘクタール程度の見込みです。平成29年度から順次整備をしており、今年度整備中のものも合わせて、ピンクで示した54ヘクタールが完了する予定です。黄緑で示した残りの66ヘクタールについても、令和8年度までに必要な箇所は一通り整備を行う予定です。

 ここまでご説明してきた、丹沢県有林内の人工林整備の成果についてまとめます。中標高域については木材生産を行い、資源の循環利用をしていましたが、台風災害により取組が中断しています。高標高域については、まず短期的には下層植生が生えてきており、種類も格段に増え、効果がみられています。針広混交林化などの長期的な成果については、事業が始まってからまだ6年目で、広葉樹が成長途中であることから観察中です。整備前から継続してモニタリング調査を行っていますので、今後とも観察を続けていきます。

 ここからは課題になりますが、標高の高い場所の森林は手入れ不足の期間が長かったため、道から近い場所にあるなど、手入れにあたって条件の良い立地の同じ程度の林齢の人工林と比べると、まだ針葉樹の本数が多い森林となっています。すでに少し触れましたが、一度に大量に伐採すると崩壊の原因になりかねないことから、可能な範囲で伐採し、徐々に針広混交林へと誘導している状況です。

 よって、針広混交林やその先、最終的に自然林へたどり着くには、もしかすると50年、100年単位の時間がかかる可能性もあります。先の長い取組ではありますが、着実に一歩一歩近づいていることは確かです。また、人工林すべてを植生保護柵で囲んでいるわけではないことから、シカの個体密度が高いと、せっかく生えてきた下層植生もシカに食べられかねません。よって、人工林の整備と併行して、シカの個体密度を減らしていくことが必要になります。

 これは高標高域にある119年生の人工林で、受光伐と植生保護柵を設置した箇所の4年後の状況です。林床植生や広葉樹の稚樹等が生えてきていて、全体的に緑で覆われているように見れます。しかし、同時に針葉樹の本数もまだ多く、木と木の間は5メートルないような状況となっています。このままでは広葉樹が大きく育つ空間がないため、針広混交林となるまでには、もう何度か伐採する必要があるかもしれません。

 最後になりますが、豊かな丹沢を維持するため、力を尽くしていきたいと思いますので、今後ともご協力のほどよろしくお願いします。ご清聴ありがとうございました。

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 4渓畔林整備の実際とモニタリングの知見

 森林再生部県有林経営課の馬場と申します。渓畔林の整備の実際とモニタリングの知見について、報告いたします。よろしくお願いいたします。

 まずは、今回の報告の流れを説明します。最初に「渓畔林」とは何かということを簡単に説明いたします。次に、「渓畔林を整備する目的」について説明いたします。その目的に沿って実際に行った渓畔林の整備内容について、報告いたします。また、整備の前後に森林の植生や林内の光環境などの調査を行っています。これ以降、「モニタリング」と言います。このモニタリングの結果について報告します。最後に、モニタリングの結果から渓畔林整備を今後どの様にするか報告いたします。

 ではさっそく、渓畔林とは何かということを簡単に説明します。一般的に河川上流の狭い谷底や、隣接する渓岸に成立する森林群集を指します。こちらの写真のような渓流沿いに成林している森林をイメージしてください。一般的な定義とは異なり、渓流の上の尾根まで含めて渓畔林とするとか、こちらの写真のように、渓流沿いでも人工的に造林した森林は対象としないというような、学術分野や研究者の間でも様々な定義があります。自然環境保全センターで整備をした渓畔林は、スギ・ヒノキなどの植林により成立した森林も含めて整備の対象としてきました。

 渓畔林を整備する目的を説明する前に、渓畔林の特徴を説明いたします。渓畔林は枝や葉っぱによって日照を遮ったり、落葉落枝を供給することで、渓流内の生態に影響を及ぼしております。枝葉の影や落葉落枝が、水生昆虫、魚類、藻類など、渓流の動植物の生育環境に関与しております。また、渓流が洪水時に冠水したり、渓岸浸食が発生し渓畔林に影響を与えますが、逆に渓流の形成に渓畔林が影響を与え、相互に作用しあっています。根系の発達している場合や、倒木により土砂が堆積し瀬や淵が形成されるなど、渓流内の微地形の形成に関係しております。

 では、なぜ渓畔林を県が整備するのか、何を期待して整備するのか説明いたします。水源林上流の渓流両岸において渓畔林が発達することによって、渓流の生態系の多様性により、水質浄化や生物の多様性が保全されるということ、また、渓畔林の根系の発達により、渓岸の土砂の流出を防止する。これらの森林の持つ公益的な機能により、高度に発揮することを期待して渓畔林の整備を行っております。また、後ほど説明しますが、整備を実施した流域は丹沢湖または宮ヶ瀬湖の上流にあります渓畔林であり、これらの公益的機能の発揮が期待されております。

 では、渓畔林の整備について説明します。「いつ整備を実施したか」「どこを整備したか」「何をしたか」を順に説明します。まず、渓畔林整備の経緯を説明します。平成19年に、「渓畔林整備指針」を作成し、平成19年4月から10年間、指針に沿って整備を進め、それに併せてモニタリングを実施してきました。モニタリングの結果により、平成29年3月に「神奈川県渓畔林整備の手引き」を取りまとめ、それ以降の整備は手引きによって進められています。この図のとおり、設定された整備計画を平成19年度から28年度に整備を実施し、併せてモニタリングを行ってきました。そして平成28年度に、モニタリングで得られた成果から、「神奈川県渓畔林整備の手引き」を取りまとめ反映させ、計画を見直しております。今後も、整備の内容や効果の検証の手法を見直しながら事業を実行し、順応的な管理を進めていきます。

 次に、渓畔林整備を実施した地区について説明します。整備を行ったのは県有林内の9流域の渓流沿いの森林のうち、280ha実施しております。丹沢湖の上流に位置します三保県有林では、足柄上郡山北町中川の笹子沢、大滝沢、西沢、白石沢、用木沢、東沢、山北町玄倉の仲の沢の7流域で整備を実施しました。また、宮ヶ瀬湖の上流に位置します東丹沢の丹沢県有林では、愛甲郡清川村煤ヶ谷の本谷川、境沢の2流域で実施しました。

 平成19年から整備をするにあたり、整備指針を策定し、それに沿って整備したことについて先ほど説明しましたが、整備方針の選定について少し説明をいたします。この表のとおり、目標林型に応じた整備の基本方針を6区分作成し、基本方針に沿って整備をしてきました。基本方針の選定にあたっては、整備対象の林分の現況により、選定フローに沿って、この表に示したいずれかの区分の整備方針を選定するようにしておりました。

 一例を紹介します。例えば、まず未立木地か森林であるかということで判断します。そして、森林であれば自然林、二次林であるのか、人工林であるかを判定します。仮にこれを人工林にしますと、今度は木材を利用するのか、しないのかといった具合に区分していきます。これで、木材を利用しないという形であれば、こちらに示した林相改良型、針広混交林への誘導をするという整備方針になります。ここでは該当しませんでしたが、未立木地であれば攪乱の大小、自然林、二次林であれば林床植生の多い、少ないという、現況から判断できるものから整備方針を判定していました。

 ではこれから、実施した整備について報告します。主に、次の3つの工種を実施しています。本数調整伐の森林整備、植生保護柵の設置、土壌保全工についてです。これらの工種について、先ほどの発表と重なることがありますが、簡単に説明します。

 まず、本数調整伐ですが、渓流沿いに植栽したスギ・ヒノキの人工林を一定の密度や群状に伐採を行います。この伐採により、林内の地表部の光環境の改善を行い、下層植生の導入を促し、混交林化や広葉樹林化を図っております。植生保護柵の設置については、一定の面積を高さ1.8mの金網のフェンスで囲いました。これはシカの採食の影響が強いと判断し、林床の植生がシカの好まない植物に偏ったり、衰退して土壌が流出したりすることを防ぐために設置しました。土壌保全工は雨水等による侵食により、植物が生育するのに必要な土壌が少しずつ失われている箇所に、丸太を水平に設置した「筋工」、「柵工」という工作物を設置し、地表の土壌の安定を図りました。

 次に、モニタリングの実施状況を説明します。渓畔林整備は全国的にも事例が少ないため、技術的に確立していない部分が多いことから、事業の実施をしながらモニタリングを行い、事業効果を検証し、整備内容の改善を行うために実施しております。モニタリングの実施は整備の直後、整備後の3年後、5年後といった整備効果が表れると想定される時期に行ったり、また、何も整備をしない対照区を設定し、整備箇所と同じタイミングでモニタリングをするなどして、整備による変化を比較するようにしております。

 調査の内容を説明します。主に実施した調査は、次の項目です。大枠調査、小枠調査、流量調査、リター・種子の回収、シカの生息状況調査です。これらの調査とは別に、魚類のモニタリングなども他機関で行っていますが、今回の報告では割愛します。

 各調査について、簡単にその概要と、何を知るために実施するか説明します。大枠調査は20m×20mの区画において、地形、土壌、傾斜、標高、シカの生息状況等と、150cm以上の樹木を対象とした毎木調査により林況を把握しております。写真では、150cm以上の樹木の調査を行っております。小枠調査は2m×2mの区画について、ブラウン-ブランケ法による植生調査で優占している植物の林床の被度を調査したり、樹高5cm以上150cm未満の高木性樹種を対象とした稚樹の調査を行っております。

 また、魚眼レンズを用いた写真の撮影により、開空度を測る光環境の調査、および林床植生とリターの被覆率を算出する被覆度調査を行っております。これらの調査は整備実施前と実施後、また隣接する区域で整備を実施した区画と、対照区として未整備の区画を調査することにより、植生の変化を捉えています。

 落葉や種子の回収は、写真のように林内にトラップを設置し、回収した葉・枝・種子を仕分けし、絶乾重量を測定し、広葉樹の高木層への林層変換に関係する種子の供給状況を把握しました。また、カメラ近くに訪れた動物を検知して自動撮影を行うカメラを設置することで、林床植生の採食をするニホンジカなどの哺乳類の出現状況も把握しました。ツキノワグマのような他の哺乳類も撮影されますし、ニホンリスぐらいの大きさのものでも感知するものです。

 では、モニタリングにより判明した事象を数例説明します。本谷川を例にして、整備手法の違いによる林床植被率の変化、また、渓畔林構成種の稚樹の種数、高さ階級ごとの密度について説明します。こちらのグラフでは、種別の植被率の合計を、整備後と整備後の3年後を比較したものです。保護柵の設置、本数調整伐の実施の有無によって、4パターンの整備を比較しております。いずれの整備の方法でも、整備の3年後に増加しておりますが、一番この右側の赤色の、本数調整伐と植生保護柵を併せて整備した地点の増加が著しいことが読み取れます。こうやって植被率が増えることで、土壌流出防止の機能向上に繋がると期待されます。

 次のグラフでは、林床の稚樹の種数の比較になります。植生保護柵で覆われた調査区でも、伐採をしてない場合は対照区との差が小さいことが判ります。このグラフでは、4色に分けたうちの右から2番目ですけれども、柵を設置しても間伐をしない部分については、あまり何もしないところと変化が変わらないという形で、伐採の有無による光環境が異なると、稚樹数に差が出てくることがわかりました。

 また、稚樹の生育状況を示したグラフです。左側が、整備直後の平成24年。右側が平成27年。整備の3年後です。30cmを超えるものが平成27年度になっても、間伐なしは上から2番目ですね。こちらは、27年になっても増えていないという形です。30cm以下のものは出現しておりますが、それ以上に成長しないという形なので、本数調整伐による光環境の改善したものだけが、このように増えているということで、渓畔林の構成種の多様性を促すには本数調整伐が欠かせないということがわかります。

 また、伐採の違いによる稚樹の本数や構成について説明します。これは白石沢で植生保護柵を設置した箇所で、伐採方法の違いによる稚樹の本数、およびその構成比の伐採方法による比較です。保護柵のみの場合、30%の定性間伐、30%の群状間伐、50%の群状間伐、70%の群状間伐、帯状に100%の間伐を比較しております。

 参考までに、これは上空から撮った30%の群状の間伐。こちらが70%の群状の間伐。帯状の100%の間伐はこれくらいになります。30%の定性間伐や群状間伐のような率が低い間伐ですと、林床の照度が十分に上がらないのか、稚樹が定着しても十分に成長していないということが見て取れます。また、逆に帯状100%の強度で伐採をした場所では、明るい伐開地に生育する先駆樹種が優占してしまったために、渓畔林構成種が優占する森林への移行が遅れているように見れます。

 今紹介した例以外にも、モニタリングのデータから様々なことが読み取れましたが、時間が限られておりますので、整備対象区域の多くを占める人工林整備に関する評価を説明します。まず、植生保護柵の設置に関してですが、植生保護柵の設置は、ニホンジカの採食圧のある地区では必要不可欠ということです。これまで整備を行ったいずれの流域においても、植生保護柵の外では林床植生の被覆率が低く、渓畔林構成種の出現も薄いです。いまだにニホンジカの採食圧が認められ、今後も植生保護柵を維持することが必要であると判明しております。また、1箇所破損するだけで柵内全てが食圧にさらされてしまうことが多くみられ、保護柵の1辺を20m程度と、これまで以上に細かく囲うことを要します。

 次に、伐採に関する評価です。いずれの流域でも、本数調整伐や保護柵を設置しなかった対照区や、保護柵だけを設置した林分では、植生保護柵と伐採を併せて行った調査地点と比較すると、林床植生の植被率は低く、林床植生の出現種数、稚樹の本数、稚樹の種数とも少なかったです。また、伐採の強度が低いと渓畔林構成種の出現も遅いということから、整備の区分によっては強度の伐採が必要であるということがわかりました。

 また、針広混交林を目標とする林分については、一時期に強度の伐採を行うと、風害に遭いやすく、そのために数年ごとに伐採を繰り返し、相対照度を40%を目標にすることが望ましいということがわかりました。また、同一の整備内容であっても、林床植被率や稚樹の本数に差異があるケースも見られました。また、同じ調査区の柵の内外で林床植被率や稚樹の本数に差が無いケースもみられました。地表の傾斜、谷の深さ、斜面の方向など、整備以外の要因によって、林床植生の回復に差が出ることも判明しております。

 これらの例のように、10年間の整備とモニタリングにより読み取ったことを生かして、平成19年に作成した「渓畔林整備指針」を見直し、整備手法を確立し、「渓畔林の整備の手引き」を作成しました。整備区分は竹林型を追加しただけで、整備方針の判定のフローも大きな違いはありませんが、未立木地の攪乱の頻度の判定や、自然林、二次林の林床植被率を明確に判定しやすくしました。

 未立木地は攪乱の頻度により、手をつけないAa型と、積極的に広葉樹を導入するC型に分かれますが、これまで特に判定の目安がありませんでしたが、今回、現状の樹木、石の苔の有無などから判断するようにしました。また、林床植生の判断においても、多い少ないでAa型、Ab型に分かれますが、これについても、林床植被率30%を境にして、区分を判定するようにしました。整備の目標からほど遠い整備地については、これに関係するモニタリングの結果を注視して、整備方針の変更を検討することになります。

 また、「渓畔林整備の手引き」では、整備ごとの内容や配慮事項もまとめられており、シカによる影響、伐採規模の配慮など、配慮事項を写真と併せて列記しております。7つの整備区分全てについて説明する時間がないので、Ba型、Bb型の配慮事項と整備ポイントの例を説明します。シカへの配慮の事項では、配慮を要する状況、それと併せて柵の規模など整備のポイントを示しています。伐採規模の配慮事項と整備ポイントでは、整備範囲を平均樹高の何倍といった、具体的な数値を目安で示しています。また、いっぺんに強度の伐採を行って、風害を起こす整備リスクなど、これまでの整備の実例を使って説明しております。

 このように、手引きが作成され、配慮事項、ポイントなど以前よりも明確に示されましたが、いまだ課題は多いです。技術が確立してない時期から整備を行った関係で、解決すべき問題が発生しています。

 今後の課題ついて説明します。針葉樹林地が連続しているため、さらにそれを周囲に囲まれている調査区も多く、広葉樹の種子の導入が困難であるところが多いです。渓畔林の高木種や草本種の種子を人工播種したり、土壌保全工を促して土壌を安定させることを検討しております。また倒木、攪乱による植生保護柵の破損、大型動物の柵の損壊もあり、計画的な点検・修理、補修を要します。毎年度、委託業務により点検を行い、それの結果により補修業務を行っております。

 写真のとおり、現在の手引きでは整備を行わないとされる攪乱の多い渓岸においても、すでに植生保護柵が設置されており、このような浸食により破損した例があります。また、1箇所の破損で大面積がシカの食害を受けた例がありますので、柵を撤去したり、柵の分割なども行っています。

 また、針広混交林の林相改良をするには、相対照度40%に誘導するとしますが、5年間くらいの間隔をあけて本数調整伐を繰り返す、と手引きに載せてあります。しかし一方で、ニホンジカの採食圧が強く、整備地の多くがいまだ植生保護柵の維持が必要となっています。写真のように、柵内の密度が高い整備地では、保護柵の破損を避けながらも、労力をかけず伐採するということが課題になっております。また、先ほど申したように、整備とは別に、周辺の環境条件や地形、それまでの環境条件の変化など、これなどによって整備の効果が限定的なケースが見られています。今後もモニタリングの結果を積み上げて、周囲の環境条件、その変化の履歴などとの関係性を考慮に入れた整備方針を見直すなど、今後も順応的管理を進めていく必要があります。

 以上で、私の方から渓畔林整備の実際とモニタリングの知見についての報告を終わります。ありがとうございました。

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 5人工林の再生と水源かん養機能保全

 皆さんこんにちは。研究連携課の内山です。私からは「人工林の再生と水源かん養機能保全」ということで、モニタリング担当の立場から、詳しい話はあまりできないのですが
アウトラインをお示しできればと思います。

 人工林の再生は山地域の課題になるのですが、丹沢の山地域はどの辺りかお分かりになるでしょうか。今地図を出しているのですが、丹沢の山地域を分かるように印をしています。山地域以外を黒く塗ってみました。真ん中辺に奥山域があって、里の方が里山域になっているのですが、真ん中の色がついている所が山地域になります。

 見ていただくと分かるように、ダム湖とか渓流を囲むエリアになっていて、水源かん養保全上の重要エリアであると分かると思います。あと、県の計画でシカの主要な生息地としての位置づけもあり、こういった重要なエリアであります。

 この中で人工林はどこかというと、一部に人工林が多い所はあるのですが、全体的には人工林と二次林がモザイク状になっている。これには丹沢の立地と履歴が影響していて、同じ水源地域でも小仏とか箱根とは少し様子が違うことが分かると思います。

 人工林の再生、山地域の課題ですが、そのストーリーはこうなっていて、まず山地域の再生目標が「生きものも水・土も健全でなりわいも成り立つ森林への再生」と掲げています。当初は人工林の間伐が遅れていたので、まず間伐を推進して水源かん養機能の維持・改善を目指していこうと。間伐が遅れると森林生態系の基盤である土壌が流出してしまうので水源かん養機能の発揮以前に森林の成立が危うくなる。やはり下層植生の回復とか土壌保全が重要と言えると思います。

 こういう風になってしまうのは人工林ならではの事情もあり、それがこちらなのですが、森が育つ過程を4段階で示しています。上の自然林と下の人工林ともに、若齢段階ではどうしても密度が高くなり、下層植生が少なくなります。自然林は勝手に成熟段階に移行していくのですが、人工林は間伐をすることによって成熟段階に移行することになり、こっち(成熟段階)に移行すると草が入りやすくなり、本来の機能が発揮できるということがあります。

 間伐と水源かん養機能の関係については教科書ではこうなっていて、左側、こちら間伐遅れの過密な人工林ですが、ここの所(立木)の密度が高いので林の中が暗くなってしまい、草が生えなくなって土壌が流れるということと、ここ(樹冠)が過密なので、雨が樹冠で遮られることがあります。間伐をするとこうなっているのですが、中が明るくなるので草が生えて土壌が保全される。ここ(樹冠)もスカスカになるので雨が通りやすくなる。こういった森林の中の状態の変化が流域全体の水流出に反映する。こういう理屈でやっているわけです。

 では、実際のモニタリングの結果をお話していきます。その前に間伐をしないと話が始まらないので、間伐の進捗を部分的に見ていきます。先程も県有林の間伐の話がありましたが、神奈川県では水源環境保全税を導入したことによって、もともと県が管理していた森林以外の私有林なども全て間伐など手入れができるようになっております。水源の森づくり事業など水源税は平成19年から入っていますので、だいぶ加速して間伐をしており、例えば私有林も15年間で延べ38,000ヘクタールの整備をしております。年間で割ると約2,500ヘクタールの整備が進んでいる。私どものモニタリングの地点でも、15年間の変化は事前のところでは1ヘクタール当たり1,000から1,500本、現在では1ヘクタールあたり500から700本くらい。だいぶ本数が落ちています。

 そのように間伐をした所の状態はどうかというと、明るくなりますのでまず下層植生が増えます。それから低木層とか亜高木層に木本種も成長してきます。これは混交林化の兆しです。さらに木本種が定着してくると、土壌の物理性の改善も見られます。ただし、一方で間伐をしても下層植生がなかなか増えない地点もあり、こういったなかなか生えない地点とか混交林化なども含めて、長期動向を今後も斜面スケールの方で継続して検証していきたいと思っております。

 水源かん養機能ですのでやはり流域スケールでも見る必要があります。こちらの試験流域のモニタリングについてお話していきます。今出しているマップは宮ケ瀬ダム上流の丹沢県有林で大洞沢試験流域です。ここが県道70号ですが、県道70号の上流側の58ヘクタールの場所です。このカラフルに色分けしてあるものが林相ですが、見ていただくと沢沿いの急傾斜地を中心に広葉樹が分布しています。尾根とか緩斜面を中心にスギやヒノキが分布していることが分かると思います。

 事業効果の検証はこの赤点線で示している2つの支流でやっていて、右側のこの実施流域で事業をやりつつ、下でも流量を測る。左側の対照流域では、事業をしないで比較していくことで進めています。事業の方はここはシカの影響もあるので、まず植生保護柵で囲って検証して、その後間伐をして検証するという2段階で進めているところです。

 まず植生保護柵を設置した結果をお話していきます。左が植生保護柵の設置前の状況で、右が設置6年後の下層植生の状況になります。カラフルに色分けしてありますが、凡例が左の下にあり、赤いほど裸地、土が出ていて、緑が濃くなるほど草が茂っている。これを見ていただくと、設置前と設置6年後ですが、柵内がこっちの右側の流域です。柵の内外共に、谷の広葉樹では衰退している所もあるし回復している所もある。谷の沢沿いは傾斜が急なので、この流域では常に崩壊と回復を繰り返しています。そういう影響がまずあります。

 それから両方見ていただくと、柵の内外共に尾根のこの辺りの人工林で、下草が衰退している状況になっています。流域ごとの面積の集計をすると、柵が無い流域は劣化していて、柵のある流域ではなんとか維持をしている状況になっています。ここは柵内でも植生の状態をモニタリングしてきたので、立地環境とか含めてどういう所で草が回復しやすいかしにくいか少し見えてきています。

 気になるのは尾根の人工林の劣化です。こういう場所です。過去の写真も見てみると、やはり2012年は生えていて今は無くなっています。これは現在、立木の成立の本数が1,193本になっていて、まだまだ間伐が必要な状態です。つまり、間伐をすると数年で下草が増えるが、ずっと放置しておくとまた鬱閉して暗くなって草が無くなるので、こういうことを繰り返しながら本数が減って、最終的には安定して草が生える状態になると思います。ここのところはちょうどこのように間伐が必要な状況になったので、来年間伐して効果検証していく予定です。

 間伐の効果ですが、さらに流域スケールで見た時には、一般的には流量の安定化があります。それは、間伐すると木の本数が減り、樹冠で遮られる雨の量も減るので、その分のロスがなくなった分がこっち(流域末端)の川の水に行くだろうという話です。

 そういったことがあるので、大洞沢でも間伐の前から蒸発散量を測定しております。ただ少し時間がかかるので、先にモデルでシナリオ予測を行いました。その結果、間伐に伴って年間の総流量は増えるけれども、渇水年の渇水時に限ってあまり水が増えない。人間の要求にはあまり添えないものとなっている。

 そして、渇水年については特に地質の保水性も影響することが見えてきました。つまり、間伐というのはここ(立木)の本数が減って蒸発散量が減ったり、ここ(地表)の草が生え、この浸透や保水が変わることによって、森林全体の水循環に影響するのですが、最終的にこの流域として下に出てくる水の量は、そもそもの雨の量とかこの山体そのものの保水性とか透水性が影響するという、水源かん養機能の全体の仕組みが見えてきました。

 特に地質と流量ですが、モニタリングでこういったことが見えてきています。県内4か所に試験流域を設けてモニタリングをしているのですが、これはみんな地質が違います。このグラフを見て欲しいのですが、流況と言い1月1日から12月31日までの日々の流量を多い順に並び変えたものです。これは小仏山地の貝沢と言いますが、間伐もしてあり下層植生も豊富な森林です。ここでこういう流況になっているのですが、一方、一番左ヌタノ沢、西丹沢ですが、ここはまだ間伐もしていないし草も生えていないけれども、こちらの方が年間を通して安定していることが分かります。これは事業の効果というより地質の影響なので、流量の安定化はもともとの地質の流出特性と事業効果が加わって出てくるということが分かります。

 ただし、そうすると安定している所は事業をしなくてもいいのかとなるかもしれませんが、このような(下層植生の無い)状況ですと森林の成立自体が危なくなるので、やはり流域スケールでの安定だけではなく、流域の中の斜面スケールで見ても、きちんと草が生えて土壌保全ということが自然再生にとって重要であると言えます。

 それではこれから先の話をしましょう。人工林の再生については、色々と状況が変わってきています。1つは気候変動に伴う豪雨の激化です。実際に令和元年の台風でも(相模原市)緑区で甚大な被害がありました。もう1つは、脱炭素社会の実現に向けた森林資源の循環利用促進です。これは国の方針でそうなっていて、「伐って、使って、植えて、育てる」ということで若い林を造成するという話になっています。神奈川県ではもともと林道から近くを資源循環林としていますので、こういうところが該当するかと思います。

 若い林を造成するということですが、実は山地災害防止機能と水源かん養機能は若齢段階で機能が低くなるので、ここは少し矛盾してきます。ここは斜面スケールの話ですので、豪雨の激化という話になったときは流域スケールで物事が動いていくので、流域スケールで見ていく必要があります。
それでは、実際の試験流域の台風の被害を例に、少し水の動きを見たいと思います。これは先程の大洞沢試験流域の微地形図になりますが、令和元年東日本台風の時には35時間で778ミリの雨が降りました。観測史上最大ですが、こういった雨にもかかわらず、森林内ではゼロ次谷等の小崩壊の発生で済んでおります。この図面の黄色の丸印の所です。これは森林が成長した効果であると考えられ、斜面崩壊に対しては下層植生というより樹木の根系ということで、若齢林があまりなかったのでそういうことが効いていると思います。

 ただ、こう見てみると、青い点の湧水の少し上流というか近い所、この水が集まりやすい所で崩壊が起きていて、斜面の勾配が緩い所でも被害が出ていることが分かります。そうすると、皆伐・再造林という話があるときも、こういった水の流出とか立地環境といったものを前提にもう少し箇所や規模を見極めていく必要があると思います。

 実際の小崩壊地を見るとこのようになり、こちらの左側です。湧水点より少し上流の方でこういった小さいポコッと穴の開いたような崩壊地がありました。これは土壌層内の水の流れによるもので、本来だと過去にあまり崩壊しなかった場所になります。この写真の奥にはこういう場所があり勾配の変化点の所に植生保護柵がありました。これも柵から下側は少し勾配が緩いので、あまり崩れる感じはしないですが、こういう所も水が集まりやすい所で被害が起きやすいということが見えてきたと思います。

 丹沢で大雨が降ってこんなもので済むわけがなく、やはり渓流の土砂が多量に流出しました。谷の源頭から渓流にかけて流木も出て、山の中にたくさん土砂が溜まっていますので、そういうものが一斉に移動してきました。こういったことは人家の裏ですと結構大変なことですが、山の中ということと、もともと谷とか渓流というものは土砂が流れる場所であり、それそのものが悪いことではないので。

 どういった直接的な影響があったかを考えると、やはりこの流域全体をみても作業道とか林内歩道とか登山道の崩落が多数あり、もともと谷を横断するような道っていっぱいあると思うのですが、そういったものが各地で落ちるということがあったので、まだこの辺の作業道も復旧していませんが、実質、自然再生事業への影響としてはそういったものがあると思います。あと、下流に人家はないけれどもダム湖がありますので、これは長期的影響になると思いますが、こういったものも意識していく必要があると思います。

 今回はこういう印の所から流木も発生し、例えばここの所は、これは上からドローンで見たところですけれども、長さ35メートルにわたり流木が積み重なるという状況になっています。特に大きかった渓岸の崩壊地はここの奥の合流点の所なので、ここの写真を見ていただきます。

 左上が被災前です。被災後このように全部流れてしまい、ここの所で岩(がん)が出ているという状況ですが、上から見るとこのようになっていて、長さも30メートルということで、下半分は広葉樹で上はヒノキですけれども、広葉樹の所は普段から浸食されて復旧してということを繰り返していたと思うのですが、上のヒノキ林については70年生なので、70年無事だったけれども今回は崩れたということだと思います。ちょうど作業歩道の下から崩れていますので、弱い所からいってしまったのかなと思います。

 では最後まとめになりますが、これまで人工林の再生にかかる間伐が進捗してきました。一方で、今後は豪雨の激化とか森林資源の利用などの新たな状況への対応があります。1つは今後に向けて流域の視点が鍵となると思います。豪雨の激化によって水とか土砂の流出が一層影響しますので、流域スケールで森林機能を維持する必要があると思います。そのために対策全体を流域スケールで再配置していく視点も必要と思っており、例えば先程お示ししたような大洞沢試験流域をモデル流域として、水・土砂の動きとか立地環境とか下層植生回復の関係とか、そういったものと人工林管理やシカ管理等を結び付けられれば、今後の展開が見えてくると思います。

 また、間伐が進んできたことで拡大造林以降の課題が一応解消してきたことになるので、もともと土砂移動の活発な丹沢ということを前提に、丹沢らしい森づくりを検討していく時期にあると思っています。

 私からは以上です。ありがとうございます。

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 6シカ保護管理事業20年目を迎えて

 自然環境保全センター野生生物課の永田です。私からはシカ保護管理事業の20年の取組について報告したいと思います。

 まずシカ管理のお話をする前にシカという生き物についてお話をしたいと思います。今日は時間も限られていますので、その資料の一つとして、過去から現在に至るシカの分布の図を示しました。現在はシカは相模川以西の県西部の山林に生息していますが、江戸時代までは広く平野部を中心に生活していたという記録があります。

 1997年の田口先生の報告によれば、江戸時代、平野部の開発や害獣として駆除されたことにより、19世紀には平野部からの駆逐が終了したとされ、以降は山地を中心に生活するようになったと考えられています。なお、奥山はそもそも人による記録自体が少ないので、昔は奥山にシカは生息していなかったとは言い切れませんが、シカの生態的な特徴から見ても、平野部に適応して生息してきたと考えられます。

 江戸時代後期には山地を中心に生息するようになったと考えられますが、その後明治期になると、シカの生息地である山地の環境はめまぐるしく変化しました。人と森林の関係でいえば、乱伐による裸地化、戦後の造林、その後の森林化、手入れ不足、手入れ不足への対策などを経て現在に至ります。なお、大正12年に発生した関東大震災も、山地の荒廃には大きく影響していると考えられます。 

 一方で、人とシカの関係については、乱獲による激減、段階的な保護、禁猟措置による個体数回復、そして保護区での過密化と、こちらも変化をしてきました。当然シカと森林の関係も変わってきたと考えられ、造林地増加による餌の増加、造林木被害、自然植生の劣化と、シカと森林の関係も変化をしてきました。そしてこれらが相互に影響しあい、今も変化をし続けています。

 シカが山地を中心に生活するようになってわずか150年程度しか経っておらず、その間、人とシカと森林の関係は変化し続け、現在進行形で変化をしています。これからお話をするシカの問題もこの複雑な変化の中で起きているということをご理解いただいて、そのうえでお聞きいただければと思います。

 前置きが少し長くなりましたが、シカ管理の話をしたいと思います。現在のシカ問題は主に高標高自然林での植生劣化、山麓の農作物被害、中標高人工林域での水源林整備効果の未発現があります。農作物被害は人が農耕を始めて以来続いているものですが、近年深刻化しているのは上の二つの問題になります。特に植生の衰退による土壌の流出が進むと、森林の基盤が喪失してしまうことにもつながるため大きな問題と言えます。

 シカ管理は、鳥獣保護管理法に基づいて作成されたシカ管理計画により実施されています。先ほどの問題に対して、高標高自然林ではシカの密度を低下させ、生物多様性の保全と再生をすることを目標としています。これは、具体的には自然植生の回復を目指すことになります。山麓域は各種被害対策による農林業被害対策などを実施し、農林業被害の軽減を目標としています。

 そして、丹沢でシカを絶滅させるわけにはいかないので、中標高域ではシカと森林管理を一体的に進めることで、シカを安定的に存続させることを目標としています。この「安定的」というのは、生態系に対して大きな影響を及ぼさない状態で、という意味になり、単純にシカの数を安定的に維持するということだけではありません。言葉で書いてしまうと簡単ですけれども実際には非常に難しい作業で、その難しさを目の当たりにしているというのが現在の状況になります。

 シカ管理計画に基づく取組は、山の上から山の下まで、様々な主体により取組が実施されています。県は高標高域のシカの管理捕獲と、植生保護柵の設置を実施しています。中標高域は県をはじめ、様々な主体により森林整備が行われており、森林管理との一体的な管理として取組が進められています。

 山麓域では、市町村等が農作物被害対策として、捕獲や柵の設置などを実施しています。よく、管理捕獲と狩猟が混同されますが、狩猟はあくまでも趣味として行われているもので、狩猟してもよい場所で、狩猟してよい時期のみに実施をされています。ここでは、県の主体の取組について報告をしたいと思います。

 先ほどからも植生保護柵という言葉が何度も出ていますが、この図は植生保護柵の設置状況を示したものです。赤色の部分が植生保護柵になります。山を歩かれる方はご存知だと思いますが、丹沢の稜線部には多数の植生保護柵が設置されています。登山道だけを歩いていると一見、丹沢は柵だらけのように感じるかもしれませんが、俯瞰してみますとこの図のように、全体の中では点あるいは線のように植生が保護されている状態です。

 当然、植生が衰退している場所全てを柵で囲うことはできません。また、植生保護柵は植生回復という点では効果が高いですが、維持管理が必須となり、柵の数が増えれば増えるだけ維持管理コストがかかるという課題もあります。植生保護柵だけでは植生回復はできないので、シカの捕獲も必要になります。

 シカの捕獲によってシカの密度を減らす作業を、2003年以降継続的に実施をしております。これは県内のシカの捕獲数の推移を示したもので、県の管理捕獲だけでなく狩猟含めたすべての捕獲数になります。上の赤と青の部分が県による捕獲になります。全体の捕獲数は年々増加傾向にあり、近年3,000頭程度で推移をしていますが、主な増要素はこの緑色の市町村の管理捕獲になります。県の捕獲はゆっくりと増加している状態です。

 こうした取組の結果の現状ですが、丹沢山地の状況についてご報告します。管理捕獲を実施している場所での密度結果のグラフを示しました。左は2003年から県により管理捕獲を実施している場所、右は2012年から管理捕獲を実施している場所の密度推移になります。

 2003年から実施している場所は概ね密度は低下傾向にありますが、一旦下がったあと下げ止まった状態で、(1平方キロメートルあたり)5頭未満の低密度まで低下した場所はごく一部になります。また、2012年から管理捕獲を始めた場所については、一部を除いて顕著な低下とはなっていません。

 次に全体のシカの密度の状況を見てみます。この細かく色塗りをしている範囲が、密度調査の範囲となります。図は赤が高密度、青が低密度を示し、信号と同じで赤ほど危険、青ほど安全と見ていただいて結構です。

 図でわかる通り、20年ほど前は赤い場所が非常にたくさんありましたけれども、現在は赤い場所が減って、一部の場所で赤い状態となっております。ただ、かつて低密度だったこの水色の場所も減少しておりまして、黄色や緑といったやや密度が高い場所も増えており、全体的に密度が低下したという状況ではありません。

 次に、密度の変化に対して植生がどう変わってきたのかを見ていきます。これは、丹沢の主な尾根を踏査して林床の植被の状態を記録したものです。時点時点でデータの記録方法が若干異なるため単純な比較はできませんが、大まかな傾向は見ることができます。青は植被率が高い場所、赤は植被率が低い場所を示しており、青から赤になるほど危険な状態と思っていただいて構いません。

 一番左が20年ほど前の状態で、現在が一番右になります。20年前、主に東丹沢を中心に高標高域での植生劣化が指摘され始め、シカの管理が始まりましたけれども、当時からこの真ん中あたりの丹沢山周辺などはミヤマクマザサなどがあったこともあって、植被が多い、青い状態でした。また、西丹沢の世附もスズタケが生息していたため、青や緑の場所が多い状態でした。

 シカ管理の取組をした成果もあって、稜線部などは青い状態が続いていたり、一部青くなったり、あるいは丹沢南部では青い場所が増えているところも見られます。こうした場所は、主にシカの好まない植物や採食耐性がある植物が優占していたり、光環境などの環境条件が良いという特徴があります。データ的な分析はまだ十分ではありませんが、シカだけではなく森林の状態や植物群落の特徴によって、植生回復過程が異なることもわかってきました。

 ただ、かつて青かった世附などはその後、シカの影響の増加に加えて、2013年から2015年あたりにササが一斉開花枯死したこともあり、現在はほとんどオレンジ色、赤色になってしまいました。このように、全体でみると部分的に植被率が増加したというのが現状で、全体的に植生が回復しているとは言い難い状態となっています。

 現場の状況を写真で見たいと思います。稜線部の青い場所の状況になります。確かに、林床をこのように植物が覆っていますけれども、中身を見るとシカの好まない植物であったり、採食に強い植物が繁茂している状態です。こうした場所は、もともとシカの不嗜好性植物や採食に強い植物が生息していた場所と考えられ、シカの採食圧が多少でも下がれば植被率が増加しやすい環境と考えられます。

 一方で、特に中標高域の広葉樹林では、林床が裸地のままという場所が多いのが実態です。当然シカ密度が依然高いままということも影響していますが、捕獲により密度が低下しても裸地のままという場所もあり、単純に現在のシカ密度だけが原因ではないとも考えられます。

 スギやヒノキの人工林についても見てみたいと思います。人工林は森林を操作することにより、光環境を変えることができます。この写真はごく近くの人工林、左と右はごく近くの場所で撮影したものなので、シカの生息状況という点では差はないと考えられますが、林床の状態はまったく異なります。一見して光環境が違うと考えられますが、その他にも樹種であるですとか、立地、シカ以外の要因が大きく関係していると考えられます。

 以上の結果を踏まえ、状態の変化を整理してみます。シカの生息状況については、超高密度地は顕著に減少しましたが、依然として高密度地は多い。また、捕獲継続地では密度低下傾向ですが、低密度になった場所は少ないといえます。植生の回復状況については一部地域では植被率の増加が見られますが、全体でみると植被率が増加していない場所が多く、植被率が増加している場所も不嗜好性植物繁茂による場合が多く、稚樹の成長は低調になっております。また、森林整備の状況、光環境、立地条件等により回復状況は異なり、光環境の良い場所では林床植生の成長が見られる傾向にあります。

 これまでの取組とモニタリングの結果からこのような状態と評価していますが、どういう条件で、どの程度の密度を、どのくらい維持すれば、どういう植生に変化するのかについては、十分な把握ができていないというのが現状です。なお、シカによる自然植生への影響軽減に向けた取組は他都道府県でも実施されていますが、どこもまだ試行錯誤という状態です。

 丹沢の植生回復の取組の長期目標は、森林の階層構造の発達になります。ただ、その道筋はまだ見えていないのが実情です。まだ道筋は見えていませんが、これまでの情報を踏まえて当面の目標を考えることはできます。例えば、まず種を問わず地面が植物に覆われている状態。そして、林内では後継樹が育っていなくても、近傍の条件の良い場所では植生回復が進んでいる状態。これによって土壌が保全され、森林が攪乱された状況になっても裸地となることはなく、植生が回復する力を維持することにつながると考えられます。

 この写真は札掛という場所の沢沿いの写真ですが、管理捕獲実施によって樹木も育つような状況にはなっております。かつては樹木は育っていませんでしたが、現在はこのように樹木が育っています。

 一方で、ごく近傍の林内においては、稚樹の成長、樹木の成長は見られておりません。これは植生保護柵ですが、植生保護柵の中は樹木の成長が見られております。このように、稚樹の成長は見られていないまでも、近傍で光環境が良い場所では稚樹が成長しているということから、林内でも条件が良くなれば樹木も成長するポテンシャルはあると考えられます。

 ただ、植生が回復しやすいということは、逆に言うとシカの餌が増えやすく、シカ増加につながりやすいということも言えるため、特に森林を操作するような人工林などにおいては森林管理とシカ管理を一体で取り組むことを前提に考える必要があります。

 丹沢についてここまで見てきましたが、最後に近年問題となっている箱根についても見てみたいと思います。この図は尾根を踏査して糞の塊の数を数えて調査した結果です。赤いところほど糞が多い。すなわちシカが多いことを示しています。ご覧いただいてわかるとおり、過去、箱根山地は赤いところがなかったんですが、近年は赤やオレンジの場所が増えてきて、シカの生息数が増える傾向にあります。

 植生の状態についてですが、丹沢のように全体的に植生衰退が進行しているわけではありませんが、(場所により)衰退が進行していることは確実です。そのため、捕獲等の取組を進めているのが現在の状況です。

 以上、これまで約20年間にわたって取り組んできたシカ保護管理の取組を報告しました。これまでの取組により、一定の成果は確認できていますが、課題も多く目標達成には至っていないため、引き続き取組を進める必要があります。

 まず、これまでにご説明したように、理想とする状態への道のりは長く、その道筋については十分な 情報が得られていません。まずは短期的な目標として植被率の増加を目指しますが、その先の現実的な目標については模索をして、県民の皆様と共有する必要があると考えています。また、目標達成には非常に長い時間がかかるため、財源や担い手など今後継続するための課題や限界を認識し、持続可能な管理体制を検討することが必要です。

 さらに、これまでシカと森林管理はそれぞれの取組の情報共有にとどまっており、連動して取り組まれていませんでした。今後は森林管理の一手法としてシカ管理を位置づけるなど、シカ管理と森林管理の一体的な取組が必要と考えています。

 また、近年、丹沢山地以外へ分布拡大していますが、現状と可能な対策を冷静にとらえ、現実的な目標や体制の検討が必要と考えます。

 以上、簡単な報告となってしまいましたが、今後も県民の皆様と情報共有しながら取組を進めたいと考えておりますので、よろしくお願いします。発表は以上です。ありがとうございました。

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 7自然公園の利用と自然再生

 「自然公園の利用と自然再生」というタイトルでお話いたします。自然公園課の中西です。このイラストは、当センターが丹沢大山の自然公園内で実施する主な事業を描いたものです。森林整備やシカの管理、高標高域ブナ林での調査研究など、これまでにお話をした事業のほか、自然公園課は登山道や山のトイレ、避難小屋など自然公園の利用に関わる施設、これを利用施設と呼んでいますが、これと植生保護柵など、自然公園の保護や生物多様性の確保に関わる施設、これを保護施設と呼んでいますが、大きく分けて2種類の施設の整備と維持管理を所管しています。

 このことと自然再生との関連性を考えたとき、植生保護柵のような保護施設は自然再生との親和性も高く、例えば植生保護柵の整備はそのまま自然再生へとつながっていきます。一方、登山道などの利用施設の整備は、自然公園の利用の増進をはかりつつ自然再生も目指すという、一見相反するような2つの目的を同時に実現しなければならず、担当としましてはその辺のバランスがとても難しく感じております。

 そこで、今日はこの難しく感じているところ、つまり自然公園の利用と自然再生の両立に向けて自然公園課がこれまでどのようなことを行ってきたのか、またその成果、そして新たに見えてきた課題などについて、苦労話も交えながらお話しできればと思います。

 ではさっそく、自然公園の利用の現状について大山の例を見てみましょう。こちらは、コロナもひと段落した今年の春の大型連休の一日です。お昼前でしたが、山頂はすでに利用される方でごった返していました。また、最近の傾向ですが、山頂標識との記念写真を撮るための待ち行列がずらっと長く伸びていました。山頂のトイレでも行列ができていました。それから、山頂直下の休憩スペースは眺めもよく絶好のお弁当場所でもあることから、利用される方の滞在時間も長く、休憩場所を求めてロープ柵の外でもお弁当を広げている方が大勢いらっしゃいました。また、写真はありませんが、登山道は下社から山頂まで利用される方でずらっとつながっている状態した。登山道の狭いところや通行に注意を要するところでは、大渋滞が発生していました。

 このような状況は何も大山だけではありません。丹沢大山は首都圏に接し交通の便も良いため、年間を通じて絶え間なく利用者が訪れる山地です。そのため登山道は利用による悪影響がいたるところで見られます。

 これはそのほんの一例です。裸地化した登山道は雨が降れば水みちになります。雨水とともに土も流れ落ち、登山道は侵食されていきます。これが土壌流出です。雨の後や特に雪どけ時が著しいのですが、裸地化した登山道はぬかるみとなり、利用される方はこれを避けるように脇へ脇へと草があるところを歩くようになるため、登山道の裸地化はさらに広がっていきます。

 このイラストは、登山道の利用により侵食がおきるメカニズムを示したものです。このように、利用により目指すべき自然再生とは逆向きの現象が起きてしまっていることがわかります。

 これを自然再生へと方向転換していくにはどうすれば良いか。ずばりちょっと言いにくいのですが、利用される皆さんの足が直接土に触れないようにすることです。そのため、利用が集中する路線を中心に、登山道の木道化をすすめています。

 木道といえば尾瀬が有名ですが、尾瀬の木道は貴重な植物を守るために設置しています。丹沢大山もかつてはそうでした。しかし、平成19年以降丹沢で設置している木道は裸地化した登山道に植生を復活させるために整備をしています。

 こちらは木道の図面と施工例です。傾斜があるところでは右側のような階段型の木道、これを私たちは構造階段と呼んでいますが、こういったものを整備しています。

 ここで構造階段の作り方を紹介します。木道もほぼ同様です。資材はヘリで運びます。山の中でヘリコプターで降ろせる場所は限られていますので、実際の施工箇所までは職人さんたちが運びます。運んだ材料は現地の地形にあわせて、現地で組み立てていきます。

 施工するときに、利用によって固く踏み固められた登山道を一回掘り起こしますので、この時に空気が含まれて周辺の種子が定着しやすいような状況となります。また、この横木は構造階段の土台となる重要な部品ですが、土に接するように配置をすることで、ここが水みち化した時に流れ落ちる土を受け止めて堆積させる重要な役目も担っています。こちら踏み板は一枚一枚水準器を当てて水平だしを行うなど、丁寧に施工を行っています。こちらが完成形です。ゆくゆくはここ(構造階段)にも土が堆積していくことが理想です。

 施工の効果をいくつか紹介します。雨の日の調査は登山道の状況がよくわかります。大きな水たまりができていたところに、平成28年に木道を整備しました。6年後の現在の状況です。侵食裸地化していた登山道には周辺のミヤマクマザサが復活し、登山道にも植生が戻って安定した状態となっていました。こちらは、ぬかるみがひどいところに木道を整備して、5年後の現在の状況です。木道を囲うように植生が回復しています。

 効果を科学的に評価するためのモニタリングも行っています。木道や構造階段の上と施工を施していない登山道上に1メートル四方の定点区を設定し、毎年、植生調査と定点観測を行っています。ここでは定点観測の結果を1つ紹介します。施工後9年が経過した構造階段とその対照区です。施工後9年以降も植生は増加傾向にあり、植生の定着と土壌の安定化が見られます。

 一方、対照区は利用者の踏圧により裸地状態が続いています。12年目では裸地部に新たな侵食が発生している様子が伺えます。これと同様な調査を全部で22箇所で実施しておりまして、現在のところそのうち18箇所で植生回復の効果ありと判定されました。こういった木道や構造階段での調査はまだ始めたばかりです。今後も手法と調査箇所の検討も含め、モニタリングを継続していく予定です。

 次に、山岳公衆便所についてお話をします。平成11年以前、丹沢大山のトイレは山小屋などに併設されているものが大半で、し尿処理は地下浸透式、いわゆる垂れ流し状態でした。しかし、春や秋など利用が集中することで自然界の浄化能力を超えるし尿が放出され、浄化不十分な汚水が湧水や沢水に流れ込むなどして、大腸菌等による水質汚染が問題となりました。

 また、貧栄養を基本とする山地の植生にし尿が流れ込むことによる富栄養化や、使用済みペーパーの散乱による景観の阻害といった問題も指摘されました。このようなことを受けて、微生物の力を利用し、固形物を分解そして周辺に放流しないという、非放流式の環境配慮型山岳トイレを平成11年以降、順次整備し現在8カ所で稼働しています。

 うち塔ノ岳公衆便所につきましては、利用集中により土壌処理機能が追い付かなくなったことから、平成26年に浄化槽方式に転換。より安定的に稼働させるため、令和2年に太陽光パネルの増設を行っています。

 この塔ノ岳の公衆便所も含めた民間の山小屋に隣接する4カ所の山岳公衆便所は、利用される方も多いため、山小屋の管理人さんと自然公園課の職員で構成する委員会を設置しまして、維持管理とトイレ使用1回につきいただいている100円の協力金の運営を共同で行っています。その他、県のトイレ補助金制度を利用した整備もあります。表尾根や大倉尾根、現在までに全7箇所整備をしております。

 こちらは山岳公衆便所のシステムの一例です。詳しい説明は割愛しますが、要は水も電気もない車も通れない山岳地において、大小便の処理をその場で完結させるために微生物の分解力に頼っているシステムだということです。そのため、利用の過剰集中や誤った使い方、また寒さに弱く、システム全体の機能障害を引き起こす原因となることもあります。

 山岳公衆便所の課題のひとつに利用者のマナー不足というのもあります。大便や小便以外のもの、例えばトイレットペーパーなどの異物が混入してしまうと、菌の働きが停滞し分解がうまく進みません。年次点検の時にマンホールを開けて清掃点検を行うのですが、トイレットペーパーはいつもの習慣でついうっかり、というのはわかるのですが、中には生理用品やお弁当の食べ残しと思われるものやそのゴミ、下着など信じられないものが混入していることもあります。

 また、課題の2つ目として施設の維持管理のこともあります。これは利用集中による機能不全を解消するため、便槽にたまった汚泥をヘリを使って回収をしている作業の例を紹介したものです。今までに利用者が多い丹沢山や塔ノ岳、鍋割山でこの作業を実施してきました。

 こういった作業は基本的には利用者からいただくトイレ使用協力金、いわゆるトイレチップで賄っています。最近はこの回収作業の頻度があがっていることや、不具合などの修繕費がかさみ、トイレ協力金の収支は現在自転車操業状態です。このことも課題のひとつです。

 以上、山岳公衆便所についてお話をしてきました。自然公園課が所管する利用施設の中で山の公衆便所ほど悩ましく問題も多い施設はないといっても過言ではありません。どの利用施設にもいえることですが、特に山の公衆便所についてはみなさんのご理解とご協力が必要です。山の公衆便所のルール厳守とマナーの向上、あとはトイレ使用協力金へのご協力を、この場をお借りしまして改めてどうぞよろしくお願いいたします。

 次は話題を変えて山頂整備について紹介をします。眺めの良い山頂部は利用者の滞在時間も長く、食事や休憩など広がって利用することから、広範囲で裸地化、土壌侵食が発生するところです。この対策については長年の課題でした。

 この写真は平成26年に実施した三ノ塔と烏尾山の山頂整備の写真です。上の写真は丸太の土留をしっかりとしたかご枠に改良したものです。下の写真は野外卓周辺のぬかるみを抑えるために角材で枠を作り、その中に石を敷き詰めて土壌流出対策を行ったものです。いずれの石も三保ダム管理事務所にご協力いただき、丹沢湖の浚渫材を利用しています。このように、山頂整備に丹沢由来の石を使うことでぬかるみ等を解消し、利用促進を図りつつ土壌保全対策も行うという工程が最近はできつつあります。

 以上、登山道整備、山岳公衆便所、山頂整備と3つの取組例について紹介をしてきましたが、新たな課題も見えてきました。その1つは、特に利用者が多い路線への対応と一層のマナー向上です。

 こちらは大倉尾根の現在の状況です。整備した木道の脇で登山道の侵食が再び始まっていることがわかります。大倉尾根は年間9万人近い利用者が訪れる塔ノ岳に至る主要登山道のため、集中時は上り下りの方が同時に登山道を利用しています。すれ違う時にはできれば立ち止まって譲りあっていただきたいのですが、タイムを競っていたりご自分のペースもあるのでしょう。脇を突き抜けてしまう方が多く見られます。

 また、これだけしっかりとした脇道が出来てしまうと木道を避けて直接土の上を歩かれる方も大勢いらっしゃるようです。残念ながら、せっかく復活してきた植生が失われていく過程です。

 利用と自然再生の両立は微妙なバランスの元にあり、それは非常にもろいものです。場所によっては木道の複線化も検討する必要があると思いますが、同時に利用者のマナー向上についても一層はたらきかけていく時期にきていると感じています。

 また、最近は自然公園の利用の多様化とその対応ということもあります。ここでは、新たな課題の2つ目として、自然公園内の山野を駆け抜けるトレランを楽しむ方への対応について紹介いたします。

 自然公園歩道は公園利用の基幹的な施設として徒歩利用を前提とした施設であり、トレラン等による「走る」ことを想定しているものでは本来ありません。そのため、歩道周辺の自然環境への影響や歩行者との接触、静穏の阻害等、自然公園本来の利用を妨げるおそれもあり、施設管理者としては慎重に対応する必要があります。

 一方で、トレランは自然公園を楽しむ新たな形態であり、トレランの大会等、地域振興として重要なイベントとなる側面もあります。そのため、現在は大会主催者の方に計画書や実績報告書をご提出いただき、レース前後の登山道のモニタリングを実施するなど、公園施設を適性に利用してもらうようお願いをしています。そのため、大会等を通してトレラン愛好者の方のマナーも以前よりずいぶん向上していると感じます。そのほか維持管理の問題もありますが、ここでは写真のみの紹介とさせていただきます。

 最後にまとめます。私たち自然公園課は今までお話をしてきたように、自然公園の利用と自然再生の両立を目指し、現場状況にあわせた施設の整備と維持管理を行っています。しかし、私たち管理者だけではどうにもならないもうひとつの重要な要素があります。それは利用されるみなさんの協力があってこその自然再生だということです。

 丹沢大山を利用される皆さんお一人お一人が、同時に自然再生の担い手でもあることをぜひ自覚していただけたらと思います。登山のマナーやルールに反するような事がほとんど見られない、人も自然もすがすがしい丹沢大山にしていきたいです。この場をお借りしてみなさんのご協力をぜひよろしくお願いいたします。

 私からの発表は以上になります。ご清聴ありがとうございました。

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 8県民協働による自然再生の取組新着

 皆さんこんにちは。自然保護課の兒玉と申します。8人目の発表ということで皆さん少しお疲れかと思いますが、今までの発表と少し毛色が違うところもありますので、お気軽に最後までお付き合いいただけたらと思います。

 冒頭の田村の発表や今まで発表した者が触れていたとおり、丹沢大山については登山道のオーバーユースや希少動植物の保護、ごみのポイ捨てといった様々な問題があります。こういった諸課題について、第3期丹沢大山自然再生計画で触れられているとおり、ボランティアを始めとした一般県民と協働してこういった諸課題に当たっていく必要があります。スライドでも現在示しておりますが、読んで字のごとく「県民」の方々と「協力」して「働く」といった取組を現在自然保護課では行っています。

 それではこれから具体的な発表に移りたいと思います。本日の目次は、現在スライドに映しているとおりです。先ほど「自然保護課」の兒玉と自己紹介しましたが、まず最初に自然保護課の業務について説明します。2番では、県民協働に関するキーワードについて簡単に紹介しようと思います。3番では、県民協働の5つの代表的な取組について説明いたします。最後4番では、県民協働をめぐる課題と今後の展開について触れます。

 まずは自然保護課の業務ついて簡単に説明いたします。自然保護課の業務は野外施設や室内展示、傷病鳥獣救護、県民協働、パークレンジャーといった主に4つの仕事をしております。本当はすべて4つの業務に触れたいところですが、時間の都合上、本日は県民協働について触れようと思っております。その他の3つの業務については、本日はスライドのみの紹介とさせていただこうと思います。

 本日のメインテーマである県民協働についてですが、NPOと協働した登山道の補修、丹沢大山クリーンピア21、神奈川自然公園指導員といった業務を行っております。

 次に、県民協働に関するキーワードを3つお伝えいたします。県民協働に関するキーワードは丹沢大山自然再生計画の実施、自然環境保全に係わる普及啓発、県民協働による自然環境保全活動といった3つのキーワードがあります。

 1つ目の丹沢大山自然再生計画の実施についてですが、冒頭の田村の発表でもありましたが、自然環境保全センターが一丸となって丹沢大山自然再生計画の実施をしなければなりません。

 キーワードの2つ目の自然環境保全に係わる普及啓発についてですが、丹沢大山に普段から関わらない者、例えば登山をしない方、トレイルランをしない方についても県民協働を通じて自然環境保全の重要性について実感してもらい、より主体的に関わってもらう必要があります。

 最後3つ目のキーワードについてですが、県民協働による自然環境保全活動、これは県民協働を通して登山道の補修や希少動植物の保護といったことをしています。ここからは県民協働の代表的な5つの取組について紹介いたします。

 まず1つ目が「丹沢大山クリーンピア21」です。クリーンピア21では、行政や民間企業、ボランティア団体が協働して、毎年秋ごろクリーンキャンペーンを実施しています。クリーンキャンペーンというのは、言い換えるとごみ拾いの活動で、各市町村が主体となってクリーンキャンペーンを行っています。

 自然保護課は事務局として各種調整やポスターの作成、ごみ袋等の物品の提供を行っています。行政会員は丹沢を囲む7市町村、厚木市、伊勢原市、秦野市、清川村、松田町、山北町、相模原市の7市町村となっております。また、ボランティア団体の随時の清掃活動に対して助成金も交付しております。

 令和3年度は新型コロナウイルス感染症の影響により2町村の実施にとどまりましたが、約1,100人の方に参加していただき、約1,600キログラムのごみを収集いたしました。今スライドに映している左側がクリーンピア21のポスターです。これは会員の官公庁や事業所等に掲示していただいております。

 右は実際のクリーンキャンペーンの実施の様子です。道路沿いですとか川沿いのごみ拾いをします。私も実際にクリーンキャンペーンに参加したことがあるのですが、ごみ袋や缶といった比較的小さいゴミだけではなく、タイヤといった大きいゴミが見つかることもあります。

 県民協働の具体的な取組の2つ目は、神奈川県自然公園指導員です。自然公園指導員は無給のボランティアで、現在191名を委嘱しております。活動内容は県内の自然公園歩道や長距離自然歩道を巡視して、公園施設や自然の状況を自然保護課に報告してもらっています。具体的には、丹沢大山、陣馬相模湖地域、富士箱根地域、東海自然歩道、関東ふれあいの道といった地域を巡視してもらっています。また、公園指導員ということが分かるように、指導員章、腕章を携帯してもらっています。

 指導員から随時報告を上げてもらっていますが、登山道の情報や自然の情報についてはパークレンジャーの活動に役立てられています。本日は時間の関係でパークレンジャーの話は残念ながら詳しくできないですが、パークレンジャーは自然保護課にいる3名の職員で、登山道の計画的巡視や希少動物の保護等を行っている職員です。パークレンジャーの活動に自然公園指導員の報告が役立てられています。

 今スライドに映している左が自然公園指導員の委嘱式の様子です。新規に委嘱があった年の春ごろ、自然環境保全センターで行っております。

 右が補修隊の写真です。補修隊というのは月に1回、自然公園指導員とパークレンジャーで登山道の補修をしたり、ヤマビル対策のために落ち葉かきを行っています。ただ、こちらも新型コロナウイルス感染症の影響により、ここ2年程残念ながら実施ができていません。

 こちらは丹沢大山国定公園に限った自然公園指導員の巡視回数です。縦軸が巡視回数、横軸は巡視した月となっています。赤色のグラフが平成30年度、黄緑のグラフが令和元年度、オレンジのグラフが令和2年度、青のグラフが令和3年度のものとなっております。まとまった数値がないため、令和4年度は割愛させていただきました。

 グラフを見ると、4月や5月ごろ、あと11月くらいに巡視回数が増えていますが、これは4月や5月が桜などの開花シーズン、11月は紅葉シーズンと重なり登山者数も増えることもあり、指導員の巡視回数が増えております。逆に梅雨時である7月や暑さの厳しい8月、寒さの厳しい2月ごろは巡視回数が少なくなっております。またコロナ禍が始まった令和2年度以降は、コロナ禍前より巡視回数が少なくなっています。

 県民協働の代表的な取組の3つ目が、県民協働型登山道補修です。これは県と協定を結んだボランティア団体が登山道補修を行うものです。活動の実績に応じて県が負担金を支払っています。また、補修の際に用いる丸太やかすがいといった資材の提供も行っています。現在、7つの路線の登山道の補修を4つの協定団体に行ってもらっています。

 具体的に補修している登山道ですが、大倉尾根線、二俣鍋割線、鍋割山稜線、表尾根線、下社大山線、ヤビツ峠大山線、菩提峠ヤビツ峠線となっております。令和3年度は4団体合計で約40回、のべ260名の方に参加していただきました。

 左は鍋割山における登山道補修の活動の様子です。このように、ボランティア団体の方が補修を行っています。右は大山における簡易ステップの設置です。黄色く丸で示したものが簡易ステップになりますが、簡易ステップがあることで登山が格段にしやすくなります。皆さんも今後、丹沢大山に行く機会がありましたら、こういう補修をしているところを「あ、ここ補修しているんだな」という目で見ていただいて登っていただけるとこちらもすごくうれしいです。

 また、県民協働で用いる木材や石等の資材をヘリコプターで荷上げしております。先ほど中西の発表でもありましたが、資材の置き場は山中の登山道の近くにあり、人の力で上げるのはほぼ不可能であるため、このようにヘリコプターの力を借りて荷揚げをしています。これはつい最近のヘリの荷揚げの様子ですが、非常に天気も良くヘリも飛びました。この黄色の丸をしたところに資材があるのですが、資材をモッコいう網のようなもので包んで荷上げするのですが、1つのモッコでだいたい600キログラムほどの重量があります。

 ここまで県民協働の具体的な取組を3つ紹介いたしましたが、最後の発表ということで皆さんお疲れかと思いますので、県民協働から少しだけ話はそれるのですが、登山者カウンターについて紹介しようと思います。

 現在丹沢大山内の登山道付近や山頂付近に、36か所登山者カウンターを設置しています。業者にカウンターのメンテナンスや登山者数の集計を委託しています。登山者カウンターとはカウンターの前を通行した登山者数をカウントする機械です。この機械、実はすごい優れもので、登山道の下りと登りのそれぞれの登山者数を別々にカウントしてくれます。簡単なイメージ図を作ったのですが、実際はこのようなテレビ局にあるようなカメラの形はしていないのですが、イメージだと思っていただけたらと。カウンターの前に登山道があるとして下方向の下りの登山者数も上方向の登りの登山者数もそれぞれ1人としてカウントしてくれます。

 こちらの左の写真が実際の登山者カウンターの写真ですが、上に太陽光パネルがあって電源を供給しております。真ん中にセンサーがあります。ここに登山道があるので、ここを通る登山者数をカウントしてくれます。

 現在スライドに映されているのが登山者カウンターにより集計された登山者等の集計値です。県外の登山者からも人気のある大山が約13万人、比較的アクセスのいい塔ノ岳が約8.8万人、三ノ塔が約5.4万人と登山者が多くなっております。県のホームページで公開しておりますので、皆さんもぜひご覧になってください。ただ1点注意していただきたいのが、スライドで示されている登山者数はあくまで推計値であるため、1つの参考の値としてとらえていただけたらと思います。

 それでは県民協働に話を戻させていただきます。4つ目に紹介する県民協働の取組は「丹沢の緑を育む集い」です。この委員会は丹沢の自然保護を目的として、丹沢大山自然再生委員会や丹沢大山ボランティアネットワークと連携して自然再生事業を実施しています。具体的にはボランティア団体への活動助成、ネット巻き、植樹事業を行っています。ボランティア団体には物品の貸し出し等も行っています。

 スライドの左は植樹活動の様子です。こちらはNPO法人丹沢自然保護協会主催の植樹活動に、丹沢大山自然再生委員会とともに共催として参加して運営協力等を行っています。毎年、春と秋の年2回実施をしております。たくさんの方々に参加していただいている行事になります。

 また右はネット巻きの様子です。これは堂平で行っているのですが、シカによる樹皮はぎの被害にあった樹木にネットをまいています。また、ネットを巻いてもある程度年数が経ってしまうと風などの影響によってネットが外れてしまうことがありますので、外れたネットのまき直しといった作業も同時に行っています。こういったネット巻きを通して、ボランティア団体をはじめとした県民の方々にこういう自然再生の活動をしていますよというのを知っていただいている活動です。

 最後5つ目に紹介する県民協働の取組は高校生と取り組むレンジャー(巡視)体験です。今まで紹介したものとは違いこれはイベントとなっております。令和元年度から神奈川県高等学校体育連盟、自然環境保全センターの協力のもと、丹沢大山自然再生委員会の主催でこのイベントを開催しています。山岳部に所属している県内の高校生を対象に、レンジャー体験を通して丹沢大山自然再生に係る課題や取組について知ってもらう内容となっています。

 レンジャー体験の中では登山道のオーバーユースや自然公園等について重点的にお伝えしています。ここ数年は新型コロナウイルス感染症の影響で中止が続いている状況です。新型コロナウイルス感染症が蔓延する前に開催したイベントの様子について次のスライドで説明します。

 令和2年1月末に県立山岳スポーツセンターにてイベントを開催いたしました。室内研修では丹沢大山自然再生の取組、自然公園と自然歩道の概要について説明いたしました。また先ほどもお話ししました自然公園指導員関連クイズを出し、楽しみながら自然に関する知識を深めていただけるよう工夫しました。

 また雨天により中止となってしまいましたが、レンジャー体験では登山の際の危険箇所の確認、インスタントカメラを使用した動植物の撮影をする予定でした。当日は室内研修のみの開催となりとても残念でしたが、高校生の皆さんに喜んでいただけた様子だったので、こちらも充実した時間を過ごすことができました。イベントの中止が続いていますが、また高校生の皆さんに会える日を心から楽しみにしています。

 ここまで県民協働の具体的な5つの取組を紹介しましたが、ここからは県民協働が抱える課題と今後の展開についてお話しいたします。

 まず現状として何回か話したのですが、新型コロナウイルス感染症の影響によるイベント等の中止があります。これは致し方ない側面もあるのですが、例えば先ほど話したクリーンピア21も昨年一昨年と実施した市町村は少なかったです。また自然公園指導員の巡視回数も緊急事態宣言などの影響により、巡視回数が少なくなった月もありました。

 現状から導かれる課題としては、県民協働を通した普及啓発の機会の減少や、自然再生の取組ができないということがあります。今後の展開としてはコロナの情勢を見つつ、慎重にイベント等の再開を検討したり、従来のやり方に縛られない普及啓発活動の検討をしようと考えております。

 次に、現状として若者の参加率が低いことや、ボランティア団体構成員の高齢化が挙げられます。現状から導かれる課題としては、広く県民に丹沢大山の保全再生活動に参加してもらう、言い換えると裾野を広げる必要がございます。今後は若者にも興味を持ってもらえるように、何らかのアプローチをする必要があります。

 トレイルランの実施があったり、最近では「山ガール」という言葉があるように、若者も何らかの形で丹沢大山に関わりを持つようになっておりますので、彼ら彼女らに対して何らかのアプローチをとる必要があります。

 また、ボランティア団体の枠にとらわれない緩いつながりのネットワークを通じた県民協働の在り方も模索する必要があると現在考えております。今言ったことはすべて検討段階であるのですが、今後、中長期的な視野に立ちながら実行に移せたらと考えています。今までの7人の発表者が述べていたとおり、やはり環境に関する取組は短期的なものではなく、息の長いものでありますので、10年後20年後、さらにその先を見据えた長期的な視野に立って今後も自然保護課の業務にあたっていこうと思います。ご清聴ありがとうございました。

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