丹沢大山の現状と課題(丹沢大山保全計画 詳細)

掲載日:2020年4月1日

 

目次

 


 

1 丹沢大山の自然環境の現状

(1) 概況

ア 本計画の対象区域である丹沢大山は、神奈川県の北西部に横たわる面積が約4万ヘクタールの一大山塊です。北は道志川を隔てて道志山塊と向かい合い、西は富士五湖地域に接し、南西は酒匂川をはさんで足柄山地と向かい合い、南東は秦野盆地に接し、東は愛甲台地から相模平野に連なっています。山地の最高地点は蛭ヶ岳山頂の標高1672.7メートルであり、他に、1,500メートルを超える山は、檜洞丸、丹沢山など9座を数えます。

イ 丹沢大山の自然環境を特徴づける主な存在としては、ブナやモミの原生林、ニホンジカやツキノワグマなどの大型野生動物及び多くの滝を擁する深い渓谷があります。

ウ 生物学的に見ると、フォッサマグナ要素と北方要素の混在する植物相、霧の多い森林に見られる豊富なコケ類などの着生植物、暖温帯と冷温帯にまたがる昆虫相、冷温帯性の水生動物の存在など、その生物相は極めて多様性に富んでいます。

エ 丹沢大山の全域が、丹沢大山国定公園と神奈川県立丹沢大山自然公園に指定されていますが、その指定状況は次のとおりです。

 

 

表:丹沢大山国定公園と神奈川県立丹沢大山自然公園の概要
名称 区域 面積 備考
丹沢大山国定公園 秦野市、厚木市、伊勢原市、松田町、山北町、津久井町及び清川村の各一部 27,572ヘクタール 特別保護地区 1,867ヘクタール
第1種特別地域 2,045ヘクタール
第2種特別地域 4,967ヘクタール
第3種特別地域 18,693ヘクタール
神奈川県立丹沢大山自然公園 秦野市、厚木市、伊勢原市、山北町、津久井町、愛川町及び清川村の各一部 11,355ヘクタール 特別地域 8,157ヘクタール
地種区分なし 6,230ヘクタール
第2種特別地域 512ヘクタール
第3種特別地域 1,415ヘクタール
普通地域 3,198ヘクタール
面積合計   38,927ヘクタール  

 

 

(2) 自然環境の特性

この項目は、1993年度から1996年度にかけて実施された丹沢大山自然環境総合調査の結果を基にとりまとめたものです。

ア 地質

丹沢山地は南部フォッサマグナ地域に位置し、新第三紀の火山岩と火山砕屑岩からなっています。

斜面崩壊は、塔ノ岳から蛭ヶ岳にいたる主稜線の南斜面、檜洞丸の西側と南側などで密度が高く、崩壊の集中しているところは地形的な境界で、断層や断裂が深く関係しています。

イ 植生

丹沢山地の自然林では、暖帯林ではスダジイ林、シラカシ林、モミ林、冷温帯では、ブナ林、ウラジロモミ林などが分布し、局地的にはブナ林の下部にイヌブナ林、ツガ林、地形的な極相としてシオジ林、ケヤキ林などが分布しています。

ウ 植物相

現在丹沢山地に自生する植物は、種子植物1,384種、シダ植物166種、絶滅したと判断された植物は45種認められています。

丹沢山地の植物相を特徴づけるフォッサマグナ要素と呼ばれる一群の植物があり、51種が記録されています。

全体に山地性の種は西丹沢と北丹沢に偏って分布するものが多く、丘陵地性の種は東丹沢、南丹沢に偏っている種が認められます。

蘚苔類では、57科、142種が記録されています。この中で西丹沢ではカサゴケモドキなどの北方系の種が、東丹沢ではオオカサゴケなどの南方系要素を持った種が記録されています。

地衣類では、19科90種が記録されています。

エ 動物相

哺乳類の種類数では、32種の生息が確認されています。

鳥類では、クマタカが山地全体に10個体以上生息している可能性が指摘されています。

両生類では、今まで詳細が不明であった、ナガレタゴガエルとヒダサンショウウオの分布状況が明らかにされ、予想以上に広い範囲に分布していることが明らかになっています。

淡水魚類では、8科22種が記録され、アカザは県内初記録になっています。

昆虫類では、過去の記録を含めると、水生昆虫をあわせて全体で5,727種が記録され、この中には、県内から初めて記録される種が多数含まれています。丹沢山地の昆虫相は、全体的には中央日本の山地に分布する要素が基盤となっており、さらに南部フォッサマグナ地域に固有の種群が分布しています。

クモ類では、37科313種が記録され、過去の記録を含めると39科394種となっています。過去の記録にある北方系の種で、今回記録されなかったものが5種あり、一方、南方系の種は新たに3種追加され、著しい個体数の増加が見られます。

土壌動物では、種類相としてササラダニ106種、多足類62種、クマムシ類36種、貝類41種が記録されています。

水生の無脊椎動物では、サワガニの黒褐色型が広く分布していますが、大山周辺と松田町の一部に青色型が隔離的に分布しているという従来の知見が再確認されています。

水生昆虫では、文献記録を合わせて、カゲロウ目12科80種、カワゲラ目9科68種、トビケラ目21科97種が記録されています。

特殊な環境を必要とする種群としては、沢の源流部の水温の低い沢に生息する、ヒダサンショウウオ、ミネトワダカワゲラ、ムカシトンボなどをあげることができます。また、西丹沢の三国峠付近の山梨県境の草原上の尾根に、草原性及び疎林性の種群であるノビタキ、ホオアカなどの鳥類、ミヤマカラスシジミ、キマダラモドキなどのチョウ類、タカネヒナバッタが生息しています。

 

(3) 現状の問題点

この項目は、1993年度から1996年度にかけて実施された丹沢大山自然環境総合調査の結果を基にとりまとめたものです。

ア 樹木の枯死

ブナの衰退の状況では、高標高地である特別保護地区で衰退が目立ち、特に鞍部や南側の急斜面になるところで衰退が進んでいます。標高では、1,500メートル以上に枯死が集中しています。風衝地では、風上側の衰退が大きくなっています。檜洞丸山頂付近では、風上地である南東斜面でブナの半数が枯死していますが、風下側の北東斜面では枯死木が認められていません。

モミ林については、大山南東部で、1970年代に特に枯死が進みましたが、現在は小康状態にあります。

檜洞丸山頂部における各種の気象要因や土壌等の調査結果をみると、首都圏の広域的な大気汚染がブナ、モミ等の立ち枯れの原因である可能性が示唆されています。

イ 林床植生の退行

東丹沢の標高1,200メートル~1,400メートルの緩傾斜地でスズタケの退行が著しく、また、ミヤマクマザサは矮小化した生育型を示しています。こうした退行は、1980年代半ばから急激に拡大したと考えられます。その原因としては、各種動物による採食、天狗巣病の蔓延などが考えられます。

丹沢山から蛭ヶ岳を中心とした地域の風衝草原やブナ林からは、クガイソウ・オオモミジガサ・レンゲショウマなどが失われています。その衰退には、ニホンジカなどの各種動物による採食、山草として採取、林の乾燥化などが考えられます。

従来、オオモミジガサ-ブナ群集として把握されていた高標高地のブナ林は、ニホンジカの採食により種構成が変化し、クワガタソウ-ブナ群集と整理されました。

ウ 土壌動物の衰退

ブナも林床植生も健全な林と、ブナが枯れている枯損林とで、生息するササラダニの個数を比較すると、枯損林では明らかにササラダニ相が貧弱になっています。また、枯損林では乾燥に強い種や、本来は冷温帯には分布しないはずの暖地性の種が発見されています。

陸産貝類では、枯損林では種類相の貧弱化が認められ、オオコハクガイが優先する単純な群集構造に変化しています。

エ 林の乾燥化

植物層の調査から、丹沢山地から絶滅したと判断された種の中にキソチドリとカモメランがありますが、これらは湿度の高い樹林を好んで生息する種であり、これらが衰退したことは、林の乾燥化が進んでいることを示している可能性があります。

蘚類のキヨスミイトゴケ、地衣類のヨコワサルオガセのような懸垂性の種類も明らかに減少しており、これも森林が乾燥傾向にあることを示唆しています。

オ ニホンジカ個体群の衰退

冬期、各個体の栄養状態が著しく悪くなっています。このことは餓死個体の観察と、救護個体の栄養状態の記録などから裏付けられました。

冬期に積雪が多い年には、多くの個体が死亡していることが観察されています。

これは、ニホンジカの餌植物であるササ類や草本類の退行が原因と考えられます。また、森林伐採による一時的な下草の増加や長期間にわたる捕獲禁止策により、ニホンジカの個体数が急増し、現時点での生態系保全環境収容力を超えた個体数が生息していることも、個体群衰退の一因と考えられます。

カ 大型動物個体群の孤立

一般に生物の種が存続していくためには、一定以上の個体数からなる個体群が維持されることが不可欠ですが、特に大型動物では個体群の孤立と、個体数の絶対数の不足が指摘されています。

ツキノワグマの生息数は30頭前後と推定され、個体群の孤立化が懸念されています。

これらは、大型動物の分布域の分断孤立化や森林の衰退など、生息環境が悪化していることが原因と考えられます。

キ 人為的な生物相の攪乱

人為的な放流のために、ヤマメ、イワナ等の淡水魚に遺伝的な攪乱がみられます。

山草ブームによる乱採取により、アツモリソウ、ウチョウラン等のラン類では多くの種が絶滅、又は危惧されている状況になっています。

いわゆる帰化生物にも、今後在来種との競合を生じる可能性のある種があることが指摘されています。その一つは鳥類のソウシチョウであり、西丹沢を中心に自然林にも相当の個体数が見られます。

林道工事等の法面の緑化のために、シナダレスズメガヤなどの外来の牧草が多く使われています。こうした種はやがては在来種に置き換わっていくので、攪乱の原因にはならないと言われていますが、稜線上にエニシダが繁茂したり、河原にシナダレスズメガヤが広がっている箇所があるなど、必ずしも無害とは言い切れず、慎重な扱いが望まれます。

ク 水質の汚濁

水生昆虫の群集構造の比較調査では、上流部でも一部に汚濁耐性種が出現し、多様性指数も減少している川があります。

自動車による入山者がデイキャンプを行うことが増加傾向にあり、キャンプ場の多い早戸川水系、道志川水系などで、今後は上流部であっても水質汚濁が進んでいく可能性が高くなっています。

ケ 水生生物の衰退

各種工事により土砂や瓦礫が沢に流入し、濁流化すると、カジカガエルなどの卵や幼生は致命的な影響を受けます。このような状況が続いたことにより、丹沢山地全体でカジカガエルの個体数が減少しているのではないかと推測されています。

日向川での水生昆虫の調査によると、河床に中型から大型のレキを接着した構造の人工的な河床では、種類数及び多様性指数が低くなっています。

コ 人の立ち入りの影響

利用動態調査の結果によると、丹沢山地の利用者は年間約100万人と推定され、増加傾向にあります。利用者が集中している地域では、過剰利用の傾向があり、登山道やその周辺の損傷が見られるとともに、ゴミの不法投棄が目立っています。

RV車による、禁止区域でのキャンプや林道などへの進入も起こっています。

 

2 自然環境の保全と再生のための課題

 

丹沢大山については、丹沢大山自然環境総合調査の結果、自然生態系の劣化は予想以上に進行していることが明らかになりました。丹沢大山の豊かな自然環境を保全・再生するために、科学的かつ総合的な自然環境の管理に取り組むことが緊急の課題となっています。

また、広大な丹沢山地で、これらの保全・再生の対策を実行していくためには、ボランティアの参加など県民の理解と協力が不可欠であり、国や市町村等とも連携して取り組む必要があります。

現状の問題点に対しては、具体的に次のような課題があげられます。

 

(1) 高標高地で目立っているブナの立ち枯れの問題に関しては、まず、その原因を明らかにすることが課題となっており、この地域の森林再生については、長期的な視点に立ち、研究成果を基礎とした育成・保全対策の取組みが必要です。

(2) ニホンジカの動態は、森林植生の再生を左右する一つの鍵を握っているといえます。そのため、ブナ等の後継樹や林床植生を保護柵等で保護するとともに、ニホンジカについて、生息地と個体数管理に視点をおいたワイルドライフ・マネージメントの考え方を導入し、これに基づいた科学的な管理手法を実行する必要があります。

(3) 登山者の過剰利用等により林床植生が退行し、裸地や崩壊地の目立つ登山道周辺や風衝地等の自然植生の回復が課題となっています。

(4) 大型動物個体群を健全に維持するためには、その孤立化を防ぎ、生息域の拡大を図ることが必要です。そのため、生息域となる森林の整備を図るとともに、分断されている森林については、回廊を構築するなどして、生息域の連続性を確保することが課題となっています。

(5) 希少な動植物を保全するためには、その生息地を流域単位で管理するなどの手法を研究し、その成果を実行に移す必要があります。また、希少動植物の生態については不明な点が多く、今後、その生息・生育状況に関する一層の調査研究が必要です。

(6) 沢、尾根、山頂等は生物の多様性に富んでいますが、オーバーユースが悪影響を及ぼしており、特にゴミやし尿等の処理対策、特別保護地区の指定の見直しなどが課題となっています。

(7) 自然環境の保全と土地利用等との調整の面では、丹沢大山における各種工事との調整、森林整備のあり方及びキャンプ・登山等公園利用との調整が課題となっています。

(8) 森林の再生やニホンジカの管理、希少動植物の生息・生育状況の把握といった自然環境の保全に取り組んでいくためには、総合的な調整機能を持った科学的自然環境管理の実行機関を設置することが課題となっています。

 

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