平成28年度ひきこもりを考える講演会記録

掲載日:2018年6月27日

 平成28年6月11日土曜日に青少年センターに於いて「ひきこもりを考える講演会 いま改めてひきこもりを考える―体験者が持つ力とは―」を開催しました。
 当日は定員を大幅に超え、100名近い方の参加をいただきました。はじめに、精神科医師で現在筑波大学教授であり、「社会的ひきこもり」の著者でもある齋藤 環氏による講演により、ひきこもりについての基本的な理解を深め、その支援などについて学んだあと、後半のフォーラムでは青少年センターにおけるひきこもり支援において『ひきこもり相談補助員』として支援に関わっている、ひきこもりの体験者である若者達の今の思いを聞きました。その内容の要旨をまとめましたので、掲載します。

 講演会「社会的ひきこもりとは」 講師:齋藤 環氏

○  はじめに

 親よりは当事者目線に立った支援を行っている。当事者目線に立たなければ対話ができず、対話がなければ治療もありえない。「当事者に共感する」ことを第1部のテーマにしたい。

○ 思春期問題と対話

 ひきこもりは説教や誰もが思いつきそうな手段では解決できない。そこでプロフェッショナルの役割が多少出てくるわけだが、プロの力を借りなければ治らないというわけではない。専門家からヒントをもらうことで、専門家でない人でもひきこもりの支援は十分できる。専門家はヒントをあげる役目であり、直接手を差し伸べることがメインの仕事ではない。家族が第一の支援者であり、専門家は家族以上のサポートはできない。

 対話を抜きにした支援手段もある。例えば強引に部屋にあがりこんで施設に連れ出し働かせるという手段を「支援という暴力」と呼んでいる。このような手段で立ち直る人は少数ながらいると思うが、うまくいかなかった場合は傷が大きく残り、支援者も医者も家族も信じられなくなる。

 支援の原則とは、尊厳を尊重すること。ひきこもっている人には、「ひきこもる権利」を尊重することが支援の始まりである。「ひきこもってはだめだ」という正論では彼らは動かない。“何が正しいかを分かっているが動けない”という人に対して、「こうすべきだ」と上から目線で接するとどうなるか。意地でも動きたくなくなる。共感ができないとこのような支援を行ってしまい、失敗して断絶が起こる。断絶が起こると対話がなくなる。対話をしなければ思春期、青年期の問題は解決できない。対話の努力をやめないでほしい。

 対話とは、面と向かって声を出して言葉を交わすこと。電話やメール、メモは対話ではない。経験からくる「長い間閉じこもっているから無理だろう」という判断はやめること。ひきこもり問題に関して、経験は当てにならない。経験を超えた現実を信じなければ先に進めないし、自身の経験から見て無理だと感じても諦めないでもらいたい。

 思春期問題の多くは対話の不足や欠如から始まる。対話がないために、不登校がこじれて何年もひきこもってしまうという例をいくつもみてきた。初期段階での丁寧な対応が大事である。しかし、早期対応に失敗したとしても取り返しがつかないものではない。(親の)一方的な決め付けはひとり言であり聞いてもらえない。聞いてもらえる対応をすることが対話の条件である。ひとり言が蓄積していくと話はこじれていく。こじれたと感じた場合は、自分が今までひとり言を言っていなかったかを振り返る。モノローグをダイアローグに開いていくことが重要である。

 良い対応ができれば、信頼関係ができて子どもが意欲を取り戻すことができる。子どもと対話ができる関係を取り戻せば、その先は些細な問題。

 不登校からひきこもりになるケースは多い。不登校を増やさないためには初期段階の適切な対応が必要であり、それは再登校を目標としないこと。不登校の子どもの多くは再登校した方がいいと思っているが、親が共感せずにサボりや怠け扱いをすることで不信感が高まる。親への反発から行く気が失せるということになる。親は子どもが克服しようとして苦しんでいることを認識する。不登校の場合は再登校のプレッシャーから解除し、家の中で元気に過ごせることを最初の目標とする。家の中で元気でいられなければ再登校は夢のまた夢である。「家の中で遊べるなら学校に行け」というのは、誰もが失敗する対応である。心の病気の場合は、嫌なことをしないことが安静。

 元気になれば自分から学校に行きたいと言い出す場合がある。言い出さない場合は、いじめや友達関係、担任のハラスメントなど学校に問題が残っている。元気にならないと原因を話さない。元気になって原因が分かったら問題の解決をする。原因の解決なくして再登校はありえない。解決の条件は、いじめやハラスメントの場合は「加害者の謝罪」「加害者の処分」「本人の納得」である。学校の対応が不十分な場合は徹底して学校、管理職、教育委員会を糾弾し戦う。子どものために戦ったかどうかは子どもの記憶に残り、ひきこもりになったときに大きな影響をもたらす。

○ 社会的ひきこもりと性別

 ひきこもりは男性に事例が多い。男性がなりやすいというわけではなく、世間が男性のひきこもりを許さないからである。男性がひきこもっても放っておけばよい。放っておけばプレッシャーが減り、また社会に出て行きやすくなる。

○ 社会的引きこもりの特徴

 ひきこもりは長期化しやすい。ひきこもりの最大の問題は当事者と保護者の高齢化である。高齢化すると支援に限界がみえてくる。長期化したケースは、自力だけでの社会参加は難しい。家族でも解決はできないため、家族以外の第三者の支援が必要である。第三者は医者や専門家でなくても良い。早い段階で支援を受け、また受け続けることが大事である。

○ 鑑別診断

 ひきこもりの場合は統合失調症との区別が難しく、誤診例が非常に多い。相談治療を受けるきっかけとなる場合もあるが、薬を飲んで生活機能が落ちる可能性がある。ひきこもりを診た経験のない精神科医は多数いるため、統合失調症と診断されても信じられない場合はセカンドオピニオンを受けるとよい。

 今は「発達障害バブル」である。ちょっとした不適応は全部、発達障害というレッテルを貼られてしまう。それにより傷つく親や本人がいる。発達障害は一度の面接で判断できるものではなく、程度でしか判断できない。生活に支障をきたすのは70パーセント以上の発達障害、という考え方である。発達障害診断は発展途上なので、疑問があれば医者にぶつけるべきである。専門家の判断は誤りがある場合がある。

○ ひきこもり支援の諸段階

 まずは家族支援の段階で親と支援者が出会うことから始まるが、ここが関門である。多くの精神科医は家族相談を受けたがらない。相談やアドバイスが薬そのものなのだが、薬の処方なしでアドバイスだけをできる精神科医は多くない。病院を探す場合は、家族相談を受けているところを選ぶと良い。また、いずれ本人が通院することを考え、1時間以内で通えることを目安にする。病院探しは慎重にすべきである。

 次に個人的支援の段階である。親が通院することを本人に対し最初から伝えて、毎回誘っていればいずれ一緒に通院するようになる。親が通院した結果、自分への接し方が変わったなどと本人が気付けば行く気になるかもしれない。通院する気にさせるのが親の役目である。

 その後は、居場所、デイケアやグループホームなどを紹介し、家族以外の第三者との親密な関係を築く段階である。学校や仕事よりも対人関係が重要である。

 この先は就労支援の段階である。最近は、障害者枠ではあるが就労移行支援の事業所が充実していて、紹介しやすくなっている。支援機関につなげて就労に成功するケースは増えている。

○ 若者は「なぜ働くのか?」

 若い世代は飢えを知らないため、「食べる」ために働くことができない。見捨てられない、尊敬されたい、愛されたいなど「承認」のために働くのである。この違いを理解できないと対応を誤ってしまう。「食べる」ための世代は、ひもじくなれば働ける。「承認」のための世代は、追い詰めると孤独死や餓死につながりかねない。

 マズローの欲求段階の生理的欲求、安全欲求、関係欲求が満たされなければ、承認欲求は芽生えない。食うに困らず、居場所が与えられ、家族の一人として扱われる環境を作るのが家族の仕事である。この対応は甘やかしではなく、効率の良い治療につながる。追い詰め型や叱咤激励型が良くないのは、この欲求の図に逆らうからである。また、承認欲求を家族が与えることはできない。与えられるのは家族以外の第三者のみである。

○ 家族の基本的心構え

 本人が安心してひきこもれる環境を作る。就労が目的ならば、生理的欲求、安全欲求、関係欲求が満たされた環境作りを丁寧に行わなければならない。支援には時間がかかるので、家族のモチベーションを高めるために家族会等に参加すると良い。家族が支え合い、意思統一をして支援することが大事である。

 「愛情」は相手を引き寄せてしまい、距離が近いために問題をこじらせる原因になる場合もある。距離を置いた「親切」、もっと言えば「遠慮」のある対応が良い。“友達の子を預かっている”と思って接することで、ちょうどよい距離感を保てたという例がある。

 ひきこもりという現実を受容する。しかし何でも受け止めるわけではない。時間やお金について受容の枠組みを決めることが必要である。金はあげるようにする。金がなくなると適応して欲がなくなってしまい、それが一番怖い。金のあげ方は月決めにする。都度渡していると浪費や無欲に繋がってしまう。いらないと言われても箱や口座を用意し渡すこと。金があるということがゆとりを生み、動き出すときの交通費にもなる。枠を守って金を渡し続けることが金銭感覚を育み、それが相手を一人前として扱うことである。

○ コミュニケーションの回復

 会話、対話が全てである。メモでのやりとりは最悪であり、声を使ったコミュニケーションをしなければならない。関係が断絶している場合は挨拶や感謝の気持ちを伝えることから始める。これは当事者との間だけでなく、家族全員で挨拶を励行してほしい。その後は誘い、お願い、相談をする。まずお願い事をしてほしい。口もきかないのにお願い事はやってくれるということはよくある。そしてお礼を言うこと、これがコミュニケーションである。散歩や旅行等の誘いかけもしてほしい。挨拶や誘い、お願いは、全て本人の存在を肯定的に捉えているため効果がある。本人は家族に愛想をつかされていると思っており、この不安を解消する。

 病院等のパンフレットは置いておくのではなく、言葉を添えて渡すこと。「それとなく」は強制である。将来や学校の話は本人が傷つくため避け、他愛ない会話をたくさん行う。だんだんと本人が安心してくると弱音を吐く。弱音を吐いたらそれに応えればよい。弱音を吐かない間は信頼されていないのである。

○ 家庭内暴力への対処法

 暴力は受け入れない。しかし、暴力が受け入れらないと見捨てられたと子どもが感じる場合がある。その分、対話が大事である。暴力を受け入れても本人の依存欲求は満たされない。親の自罰欲求で暴力を受け入れるのは間違いである。

 拒否できない場合は避難と通報をパフォーマンスとして適切に行う。一時避難は仕方ないが、別居は良くない。また、激しい器物損壊や身体暴力の場合は通報するしかない。やってほしいことはまず「暴力を受けたくないから次は通報する」という予告である。予告した以上は再度暴力があった場合には必ず実行すること。「親が通報して警察が来た」という事実で高い抑止効果が期待できる。避難をしたら「暴力から逃げたが、あなたから逃げたわけではない」ことを電話連絡する。その後は一時帰宅をする。暴力が収まったか信頼できないから今は一時帰宅だと伝える。この手順を踏めば暴力は沈静できる。暴力は簡単に解決できる問題である。

○ 集団への包摂支援

 意欲を高めるためにも家族会にはぜひ参加してほしい。

○ 就労支援への道のり

 就労支援へは多くの選択肢がある。知人・友人の紹介も効果がある場合がある。例えば、母親のパート先で人の空きができ、週3日勤務でいいから、ということで何年も働いていなかった人が働けた、というケースもあった。親子関係が良好な場合、親が仲介して社会参加できる例は多い。チラシ配りを父が請け負い、それを子どもと分け合って配るという例もある。

○ 高年齢化するひきこもり・両親の精神的健康度(K6)

 平均年齢は、親は65.5歳で本人は34.4歳である。一番心配なのは、親の精神的健康度(K6)のスコアの平均が12.9であり非常に高いことであり、実際の平均はもっと高いだろう。親のメンタルヘルスも大事であり、娯楽やプライベートの付き合いを大事にしてほしい。

○ ひきこもりのライフプラン

 親の資産を子に示して、「あと何年今の生活が送れるか」を共有する。それにより、まだゆとりがあることが分かることで、安心して働くことができる。

 フォーラム「体験者の持つ力」参加者:ひきこもりの体験者・支援者

【参加者】 支援者 NPO法人悠遊楽舎 明石 紀久男氏   
       ひきこもり相談補助員(ひきこもりの体験者)   A氏、B氏、C氏

【フォーラムでの意見等要旨】

(明石氏) 不登校やひきこもりの居場所作りで16年活動している。一緒に生きるということをベースに、応援する、応援されるという関係で不登校やひきこもりの当事者や家族と関わっている。体験者に順番に話をしてもらう。

(A氏)  今はアルバイトをしている。20歳のときから3年ほどひきこもりの経験があり、病院に行く以外はほとんど外に出なかった。 今はひきこもりになって良かったと思っている。悩んで、苦しんで、色々な人に会えたおかげで今ここにいる。当時は自分がひきこもりであることを受け入れられなかった。両親と喧嘩もした。ひきこもりである自分自身を許せなかった。世の中にも家の中にも居場所がないような狭苦しさを感じていた。私も親もお互いに許せなかったのだと思う。その後、親が私を受け入れてくれたときに安心を得ることができた。NPOに世話になったとき、親がすぐに動いてくれたことが嬉しかった。自分のことを見つめられる時間だった。今は自分からひきこもり経験があることを他の人に言うが、そうすると自分以外にも経験者がたくさんいることがわかる。ひきこもりは特別なことではない。
 先のことを不安がっても仕方がない。先のことは分からないから面白いし、面白くしていけばよい。そのために一緒に考えてほしいが、深刻な顔で話をしても当事者はうんざりしているので受け入れてくれない。ひきこもりの仲間がいることを当事者に伝えて、仲間になりにきてほしい。

(B氏)  ひきこもり相談補助員として、講演の場での発表や相談の補助等の活動をしている。私は冬に体調を崩してひきこもってしまい、春になって暖かくなると回復するので外に出られるようになる。ひきこもりでないと判断されることがよくあり残念である。外に出ていないからひきこもりという訳ではない。
 鬱状態になると無気力で何もできない状態になり、ネットサーフィンばかりしていた。何もしないで怠けているのではないかと言われるが、ひきこもりは24時間自分と向き合わなければならない。他の同世代の人はいろいろなことができているのに、自分は何もできていないという状態に常に葛藤する苦しみを経験した。
 ひきこもりの状態から外に出られるようになっても心が晴れない状態は何年も続き、NPOが開いている居場所を利用していた。そこで相談補助員の話を聞き、ひきこもりの経験者同士で繋がれたことに驚いた。
 ひきこもりになって良かった点は、人生観が変わったことである。以前は常識や世間が当たり前と思っていたが、違う目線から見ることができるようになった。また、他人の痛みが分かるようになった。相談補助員として発表する経験や、職員や他の相談補助員との関わりの中で元気になっていった。前に出ている人は語れるね、と言われることがあるが、最初から語れる人はいない。このような場をたまたま経験できたから変わることができた。
 体調が良くなったり、他の人と繋がったりすることで少しずつ元気になっていった。その結果、色々な居場所に自分から行くことや、居場所の運営、居場所の情報発信等いろいろなことができるようになった。今、自分が運営している居場所は大規模なものになった。決して特別な人だけができるのではなく、経験者が集まって一緒に何かをやろうと思った結果いろいろなことができた。大きかったのは自分から動いたのではなく、他の人に誘われたことである。力をつけようと思っていなかったが、結果的に力がついていったことに驚いた。居場所でのつながりや、他人に認められることが自分の力になっていった。

(C氏)  ひきこもり相談補助員として活動しているきっかけは、たまたま声をかけてもらい面白そうだと思えたことである。自分にとっての振り返りができるのではいう思いがあり始めた。
 今も悩んでいることはある。ひきこもっていたときは死ぬしかない、というように息が詰まるような悩み方だったが、息継ぎができるような悩み方に変えたかった。そのためには、相談する他人が必要である。自分は今その他人になれるかな、と思っている。相談は自分の弱さをさらけ出さなければならないようなハードルの高さがあることを知っている。このような場で体験を語ることも体験者の持つ力だが、聴く力も体験者の持つ力だと思っている。ひきこもりの状況は人によって異なる。全部を理解することはできないが、ひきこもっている人の話を聞き、関わりを楽しむことができればと思っている。
 親の会にも参加したことで、親であること、子どもであることの苦労、家族でなければいけないというような求められる家族像や価値観に縛られているのを感じた。自身もその苦しさがあったためにひきこもっていたことが分かってきて、それをほぐしていきたい。気をつけたいのは共感しすぎないことで、自分と他人の苦労は似ているけど違うということをわきまえて活動している。親の会経由で個別の面接相談に同席できたことがすごくうれしかった。大変ではあるが、相談員補助員を活用してもらいたい。

(明石氏)  それぞれにとって相談補助員の活動も含めて、「働く」ということはどのようなことか。また、第三者とつながった過程は。

(A氏)  何故3年間もひきこもっていたのに動く気になったか。その直前に親と大喧嘩になり、その後お互いに少し落ち着いた。このままでは良くないと思いアルバイトを受けてみたが、受からずに落ち込んだ。夜中にテレビで若者自立塾が放映されたことがきっかけで足を運んだ。
 生きたいと思わなければ働きたいと思わない。世話になったNPOでは身の周りのことから始め、生きる力をつけることが目的であった。そこから、自然と元気になって「生きたい、働きたい」と思うようになっていった。

(B氏)  ひきこもっている人はほとんどが働きたいと考えていると思うが、窓口がなかったりハードルが高かったりするのが難しいことである。働きたいという思いと、生活をなんとかしたいという葛藤の中で職を探している。

(C氏)  私は働いて折れてひきこもった。働くことに不安や抵抗がある。食べなければいけない、稼がなければならないという思いで働いて折れていった。今は「どのように生きていきたいか」が先にあり、食べることや人との関わりに困らない程度にお金がもらえる働きができればよいと考えている。

 『青少年センターひきこもり相談補助員』とは  

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