第158号 要旨

掲載日:2018年5月14日

光触媒を用いた環境保全型養液栽培システムの構築

本研究では、養液栽培において、環境保全および生産コスト低減のため、培地をロックウールからもみ殻に切り替え、培養液をかけ流し式から循環式に変えたときに生育収量を落とさず安定生産を行うための光触媒浄化装置の利用を検討した。 養液栽培とは、培地として土を用いることなく、作物の生育に必要な養分や水分を水に肥料を溶かした培養液として与えて、作物を栽培する方法である。この栽培方法を用いることによって、連作障害にわずらわされることなく長期にわたり安定した栽培ができる。我が国の養液栽培面積は1989年に374ha、1999年に916ha、2009年に1686haと著しく増加している。栽培作物で最も多いのは野菜類ではトマトで2009年に502haであり、次にイチゴである。また、花き類ではバラが最も多い。神奈川県は養液栽培の導入は古く、2009年の施設面積に対する養液栽培面積の割合は5.5%と全国平均値の3.4%より高い。養液栽培には様々な方式があるが、最も多い方式は「培地にロックウールを用いた培養液かけ流し方式」である。 近年、農業生産においても環境に配慮するための様々な取り組みが行われており、養液栽培においても、環境にやさしい方式に切り替えることが望まれている。また、培地や肥料等の資材費低減は経営上望ましい。 もみ殻等の培地を用いて培養液を循環式すると、環境保全の面からはA:使用済みロックウールが産業廃棄物となる問題、B:培養液に含まれる硝酸、りん酸等の富栄養化物質が栽培システムの外に流出し水質汚染につながる可能性がある問題 が解決できる。また、養液栽培の経営面からは、A:我が国において入手が容易なため安価なもみ殻を用いることによるロックウール培地の費用の削減、B:廃棄されていた培養液に含まれる肥料代が節約できるという利点がある。しかしながら、もみ殻等の培地を用いて培養液を循環式する場合には循環する培養液の浄化処理が必要となるため、この浄化処理に光触媒の適用を試みた。 光触媒反応とは、半導体である酸化チタンにそのバンドギャップ以上のエネルギーをもつ波長の光、つまり400nm以下の紫外光を照射すると、伝導体に電子が、価電体に正孔が生じ、この電子、正孔が物質と反応し、酸化還元反応が進行する反応のことである。酸化チタン光触媒反応の特徴は励起電子の持つ還元力よりも正孔の持つ強い酸化力にある。酸化チタンの強い酸化力を利用し、有機物の酸化分解を行う。酸化チタン光触媒反応に用いる光源には紫外線ランプを用いることもできるが、太陽光に含まれる紫外光も光源となる。 本研究では、まず、ロックウールの代わりに用いるもみ殻から培養液中に溶出される生育阻害物質(モミラクトン等)を含む有機物は光触媒処理により分解されることを、培養液の全有機体炭素量の低下とレタス・トマト種子発芽率の上昇及びバラ幼苗の新梢重の増加から明らかにした。 次に、光触媒処理装置を作製し、培地にもみ殻を用いた養液栽培システムにこれを付設して栽培試験を行った。本装置は光触媒である酸化チタンをコーティングした多孔質のアルミナ板を入れた浅底の水槽の中を培養液が通過するものである。光触媒反応に用いる光源は太陽光のみとし、装置は養液栽培システムがある温室の外に設置した。この処理装置の設置面積は栽培面積の5.7%程度に相当する。本循環式養液栽培システムを用いてトマトを栽培した結果、生育・収量は、光触媒処理装置を有さないシステムより有意に上回った。この実験ではトマトを3年間合計6回連続栽培したが、すべて同様の結果が得られた。光触媒である酸化チタンをコーティングした多孔質のアルミナ板の有機物分解効果は3年間持続した。また、もみ殻を培地とした循環式バラ養液栽培においても、生育・収量は、光触媒処理装置を有さないシステムより有意に上回り、慣行のロックウールかけ流し式と同等の収量が得られることを明らかにした。トマトおよびバラの試験結果から本光触媒処理装置は、もみ殻培地を用いた循環式養液栽培システムを実用化するのに有効であることを示した。 続いて、アスパラガス根から培養液中に滲出される生育阻害物質である3,4-ジヒドロキシフェニル酢酸(3,4-DPAA)に対する光触媒の分解性能を試験した。これにより、酸化チタン光触媒により3,4-DPAAは分解され、生育阻害活性を失うことを明らかにした。その後、無機培地を用いた培養液循環式養液栽培システムに光触媒処理装置を付設し、アスパラガスを栽培した結果、本装置を有するシステムで栽培した生育・収量は、装置を有さないシステムを有意に上回った。光触媒処理によりもみ殻培地から溶出される生育阻害物質だけではなく植物根から滲出される生育阻害物質も分解され、同処理が作物への生育阻害を抑制することを見出した。 さらに、培地にもみ殻を用いた循環式養液栽培システムにおける病害対策のため、光触媒処理を行った培養液中の銀の殺菌・病害抑制効果を調査した。供試病原菌としてトマト青枯病菌を用いた。その結果、培養液の有機物濃度が低いほど銀の殺菌効果が高くなり、光触媒により培養液中の有機物を分解させた後、銀による殺菌を行うことが病害発生抑制に効果的であることを明らかにした。 これらの結果から、本研究で検討した光触媒浄化処理装置はもみ殻等の培地を用いて培養液を循環式したときに有効であると考えられた。現在、農業用排液処理に適した低コストな光触媒材料の開発も行われており、本装置は実際の生産者のほ場での適用も試みられている。
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