研究報告 第156号 摘要一覧

掲載日:2018年5月14日

茶樹における放射性セシウムの動態とその低減化技術に関する研究

 東京電力福島第一原発事故に起因する放射性セシウム(Cs)が,2011年5月の一番茶新芽から検出され,消費者や生産者をはじめとする多くの茶業関係者に負の影響を及ぼした.このため,早期における茶樹体内からの放射性Csの低減化技術の開発が求められたが,その基礎となる茶樹における放射性Csの分布,新芽への移行や茶期ごとの経時的な変化等の動態に関する研究知見についてはほとんどなかった.そこで本研究では,放射性Csによる茶新芽の汚染が国内でいち早く報告された神奈川県を事例に,茶の放射性Csの動態やその低減化に関する研究を行い,以下の知見を得た.
1. 茶樹における放射性Csの動態
神奈川県内における主な茶産地16地点の2011年一番茶葉を対象に,放射性Csによる汚染実態と茶樹体内における分布を調査した.その結果,放射性Csによる汚染は局所的ではなく神奈川県全域に及ぶことが明らかとなった.また,放射性Csによる汚染程度には地域間差が認められたが,福島第一原発からの距離との関連性は低く,局所的な気象要因が影響した可能性が考えられた.一方,茶樹体内の放射性Cs濃度は部位により異なり,樹体上部(古葉や枝)で高く,樹体下部(幹や根)では低いことが明らかとなった.また,萌芽前の茶苗木に,93.8MBqmL−1の放射性Csを含む茶抽出液を散布し,放射性Csの樹体内における転流検証実験を行ったところ,新たに生長した新芽から放射性Csが検出され,その137Cs/134Cs比は散布した茶抽出液とほぼ等しかった.このことから,古葉や茎に付着した放射性Csが実際に新芽へと転流したものと推察された.
次に,神奈川県相模原市内の茶園を対象に,2011年5月から2012年7月までの樹体内137Cs濃度の変化を調査したところ,古葉および枝中の137Cs濃度は経時的に減少する傾向が示された.この減少要因について要因解析を行ったところ,降雨による流亡の影響が大きく,加えて摘採や整枝,落葉等も関与している可能性が示唆された.また,古葉,小枝,並びに太枝中の137Cs濃度は経過日数とともに指数関数的に低下することと,新芽の137Cs濃度は生育に伴う希釈効果により低下することを明らかにした.さらに,汚染当年の冬期古葉の137Cs濃度と翌年一番茶新芽の137Cs濃度との間に有意な正の相関関係が成り立ち,放射性Csの経時的な減少量を推定できることを明らかにした.一方,放射性Csが降下してから約19ヶ月後に枝および幹を採取し,表層と木部組織中の放射性Cs濃度を測定したところ,表層だけでなく木部組織にも放射性Csが存在することが示され,表層から内皮へ移行していることが確かめられた.
2. 茶樹における放射性Csの低減化技術の開発
2011年の一番茶摘採後,放射性Cs濃度が高かった古葉,小枝および太枝を除去するせん枝処理を実施したところ,次茶期の新芽における放射性Cs濃度はせん枝を実施しなかった場合の約半分に低下することが分かった.このことから,せん枝処理は放射性Cs濃度の効果的な低減化技術の一つであることが明らかとなった.また,神奈川県内9地点における茶園での実態調査から,二番茶期以降の新芽中137Cs濃度低減率に対して摘採・せん枝回数による寄与率が大きいことが明らかとなったことからも,せん枝は放射性Csの有効かつ効率的な低減化技術であることが支持された.一方,高圧洗浄機(水量1,200L10a−1,水圧7.5MPa)による古葉および枝の樹体洗浄と,1%酸性,1%アルカリ性,並びに1%中性溶液を用いた枝の浸漬処理(5分間)による放射性Csの低減効果を検討したが,いずれも効果は認められなかった.
以上のことから,2011年一番茶新芽の放射性Csによる汚染は,3月中下旬に大気中へ放出された放射性Csが主に古葉,小枝および太枝表面に付着後に樹体内に吸収され,その後生長した新芽に移行し引き起こされたものと考えられた.汚染後の樹体中の137Cs濃度は,降雨による流亡,摘採や落葉による収奪などにより時間の経過とともに減少するが,一方で表層から木部組織への移行も進むことが明らかとなった.また,せん枝処理が,経営的な負担が軽く,かつすぐに実行できる効果的な放射性Cs濃度の低減化技術であることが明らかとなった.
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