肥効調節型肥料とマルチを利用した施肥の省力化

掲載日:2018年3月7日

はじめに

肥効調節型肥料とマルチを組み合わせて、施肥に関係する作業の省力化を行うことが出来ます。特に、今回はタマネギとスイートコーン2作を1回の施肥で行えるような栽培体系を試みました。

肥効調節型肥料は肥料成分の溶出を様々な方法で調節した化学肥料のことをいいます。種類としては、緩効性窒素肥料、被覆肥料、硝化抑制剤入り肥料の3種類に分けられます。普通の化学肥料と肥効調節型肥料の違いは以下の通りにあげられます。

1.露地栽培では、施肥直後の降雨や長雨などによる肥料成分の溶脱や表面水による流出を防ぐことができる。

2.施設栽培では、急激な硝酸化成やアンモニアの揮散による肥料の流亡を防ぐことができる。

3.肥料の損失を押さえることができるため、効率的な施肥ができる。

4.従来よりも減肥をおこなえ、作物に適当な肥料の溶出型を選ぶことで追肥回数を減らすことができる。

5.作物によっては、肥料の濃度障害を起こしやすいものがあるが、肥効がゆっくりとあらわれるため、基肥に追肥分も入れることができる。

6.作物に必要量以上の施肥を防ぐことができ、環境に配慮した農業を行うことができる。

また、マルチの利用(マルチング)は、敷きわらやフィルム資材により土壌を被覆することで、様々な利点があげられます。

1.地温を上げる。

2.肥料の溶脱を防ぐことができる。

3.土壌水分を(平均的に)高く保つことができる。

4.土壌を柔らかく保つことができる。

5.施設内の湿度を低下させる。

6.雑草を抑制する(透明マルチは不可)。

7.作物が増収し、収穫期が早まる。

このように、肥効調節型肥料とマルチには多くの利点があげられますが、やはり、苦手な部分があります。肥効調節型肥料では、気温が低いときは地温も低くなり、肥料成分がうまく溶出してくれません。マルチングは地面を覆うことで追肥がしづらくなります。こうしたお互いの欠点は肥効調節型肥料とマルチを共に利用することによって、低温期にマルチをすることで肥効調節型肥料からの肥料の溶出を早めるとともに、マルチを用いることで2作分を1回の施肥で入れられるようになり、お互いの欠点を補い、克服することができます。これから、1例をあげてみたいと思います。

タマネギとスイートコーンを続けて栽培することを考えてみましょう。

<例1>

普通の化成肥料を用いた場合、タマネギの栽培はマルチをすることなく、追肥を行っていくことになります。マルチをした場合よりも収穫が遅くなり、次作のスイートコーンのは種もしくは定植は遅くなります。

<例2>

肥効調節型肥料を用いれば、マルチを有効に利用することができます。特に普及している方法としては、1作毎に肥効調節型肥料を入れる場合が考えられます。一般的に、追肥をおこなわずに栽培できる上、収穫時期が早まり、スイートコーンの栽培がしやすくなります。また、施肥量は2割減肥をおこなっても、通常の施肥量と同等以上が見込めます。

<例3>

肥効調節型肥料には様々な肥効期間のものがあり、肥効の短いものと長いものを組み合わせることによって2作分を1回の施肥で行う組み合わせを考えてみました。こうすると、タマネギ時の追肥がなくなるだけではなく、スイートコーン作前のマルチはぎ、施肥、耕耘、マルチはりの労働時間が削減でき、かなりの省力化が可能となります。

 

事例

平成9年11月から平成10年7月にかけて、肥効調節型肥料とマルチを用いて、タマネギとスイートコーン2作分を1回の施肥する試験を行ってみました。タマネギは‘七宝早生7号’を用い、条間×株間=0.15m×0.15m、ベット幅1.0m、通路幅0.3mとし、6条植えをおこないました。また、スイートコーンは‘ハニーバンタムピーター235’を用い、条間×株間=0.45m×0.30m、2条千鳥植えをおこないました。肥効調節型肥料とマルチを用いたマルチ区は次のようにしました。

<マルチ区>

1.タマネギ前に肥効調節型肥料の被覆燐硝安加里の70日型100.0kg/10a、シグモイド溶出のS140日128.6kg/10a、2作分を施用します。同時に、牛糞たい肥を1,000kg/10a施用します。

2.つづいて、6穴の黒マルチをはります。

 

3.タマネギを6条植えします。

4.追肥することなしで、収穫します。

5.そのまま、マルチをはがずに、スイートコーンをは種します(タマネギを収穫しながら、は種できます)。

6.スイートコーンを収穫します。

また、マルチ栽培は無マルチ栽培に比べて施肥量の20%の減肥をしても収量は同等程度とれる傾向があるため、マルチの20%減肥区(マルチ減肥区)を作りました(施肥は被覆燐硝安加里の70日型80.0kg/10a、S140日型102.9kg/10a)。さらに、無マルチでも2作1回施肥が可能か、マルチ区と同じ施肥と栽培を無マルチで行いました(無マルチ区)。

これらに対して、従来の栽培方法を次のように行ってみました。

<慣行区>

1.タマネギ前の基肥に複合燐硝安加里42号を42.9kg/10a、重焼燐を34.3kg/10a、牛糞たい肥を1,000kg/10a施用します。

2.ベットを作ります(無マルチ)。

3.タマネギを6条植えします。

4.1、2、3月中旬頃に、硫安19.0kg/10aと硫加8.0kg/10aを追肥します。

5.収穫します。

6.スイートコーンの施肥を複合燐硝安加里で100.0kg/10aおこないます。

7.スイ-トコ-ンをは種します。

8.スイ-トコ-ンを収穫します。

施肥した成分量は表1を参照してください。また、例えば、10a当たり1kg施用の場合は、1平方メートルあたり、1g施用に換算できます。


表1 供試肥料及び施用量

試験の収量結果を表2、3にまとめてみました。

表2 供試肥料及び施用量

(1)タマネギの収量は、マルチ区≧マルチ減肥区>無マルチ区>慣行区となりました。また、タマネギの規格を比べますと、無マルチ区ではMとS級が中心でしたが、マルチ区ではMとL級が中心とマルチを使うことで大きくなりました。

(2)スイ-トコ-ンの商品果収量はマルチ減肥区≧マルチ>無マルチ区>慣行区となり、肥効調節型肥料を使うことで、慣行区の3.7倍以上とれました(慣行区の収量は今回雨量が多かったため、肥料成分が流れていってしまったため例年より低収量であったと考えられます)。

(3)20%減肥によっても収量低下はほとんど見られませんでした。

以上の結果より、マルチ区は無マルチ区より、タマネギでは収量が増収し、規格が大きくなることがわかりました。また、施肥量を20%減らしても収量は落ちないことから、被覆燐硝安加里の70日型80.0kg/10a、S140日型102.9kg/10aと牛ふん堆肥1,000kg/10aを施用でマルチ栽培を行うことで、2作分を1回の施肥で行えることが明らかになりました。

 

<事例の解析>

では、なぜ、特に肥効調節型肥料とマルチの組み合わせがよいのかを、今回の試験から解明していきます。

なぜ、今回の肥効調節型肥料とマルチの組み合わせがよいのかを調べてみました。図1を見てください。土壌中の無機態窒素は、マルチを用いることで無マルチ区や慣行区より高く維持することができました(6月1日の慣行区はまだ、入れた肥料が残っていることを示しています)。どの区も、タマネギ収穫時にはタイミング良く肥料が切れかけており、葉ぼけを防止しています。また、肥料の吸収性が強いスイートコーンには生長にあわせて肥料が高く安定的に供給されています。


図1 地温の変化

マルチ区の無機態窒素の量が高い原因は、マルチの肥料が流亡しない効果と温度が無マルチより高くなる効果が考えられます。今回用いた緩効性肥料の被覆燐硝安加里は温度が高いと速く無機態窒素が溶出してくる性質があります。このため、マルチと無マルチでの地表から10cm下の地温を測ってみました。図2を見てください。測定期間中、地温はマルチを用いることで、無マルチ区より平均で0.4℃高くなりました。


図2 土壌中の無機態窒素の濃度

このわずか1日平均0.4℃の地温の違いが肥料の溶出に同影響するのか、調べてみました。図3を見てください。肥効調節型肥料をマルチと無マルチでどのように肥料の溶出が違ってくるのかを3種類の肥料で比較してみました。用いました肥料は被覆燐硝安加里の肥料が25℃の条件で70日で80%出てくる70日型、同じく140日型、そして初期に溶出が抑えられS字型(シグモイド型)になるS140日型です。70日型は放物線、140日型はほぼ直線的に溶出が起こり、マルチと無マルチでの窒素の溶出差はあまり見られなかった。S140日型はシグモイド溶出型の溶出となり、150日を過ぎる頃から特にマルチでの溶出が急速に高まりました。


図3 肥効調節型肥料からの窒素の溶出率

では、実際にどの程度窒素成分が溶出してくるかを図3を元に計算してみました。被覆燐硝安加里70日型14kg/10aと140日型18kg/10aの組み合わせ(70+140)と今回施用した70日型14kg/10aとS140日型18kg/10aの組み合わせ(70+S140)をマルチと無マルチで比較したものが図4です。

その結果、70+140ではマルチと無マルチの差は小さく、ほぼ直線的な窒素の溶出が起こきました。一方、70+S140では120日まで穏やかに溶出し、それ以降マルチが無マルチより急激に溶出することがわかりました。


図4 肥効調節型肥料からの窒素の溶出率

まとめ

肥効調節型肥料の被覆燐硝安加里70日型とS140日型の組み合わせは、マルチ条件下で、窒素の吸収量の低いタマネギではゆっくりとした窒素の安定的な供給が行え、窒素の吸収量の高いスイートコーンでは急激に溶出するため、この体系に適していることがわかりました。さらに、マルチ条件では、20%減肥の施用を行っても、無マルチ慣行区より増収が見られました。

また、本体系は、タマネギ定植前に2作分の施肥量を入れるため、スイートコーン前のマルチはぎや施肥、耕耘、マルチはりの行程を省略でき、タマネギを収穫しながらスイートコーンの播種が行えるため、作業時間の短縮やマルチ代の節約、スイートコーンの作付け開始時期を早めることができます。

以上の結果、肥効の異なる2種類の被覆燐硝安加里とマルチの組み合わせにより、施肥量を低減(20%減肥:被覆燐硝安加里の70日型80.0kg/10a、S140日型102.9kg/10a)して高収を維持し、省力化が行えるタマネギとスイートコーンの2作1回施肥体系が可能となりました。

このように、色々な溶出型の肥効調節型肥料を組み合わせてマルチ栽培を行うことで、様々な作目の1回の施肥で2作分の施肥量を入れてしまう、2作1回施肥体系が開発できると考えております。

 

 

 

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