研究情報 2013年9月

掲載日:2016年4月1日

性判別受精卵生産への性選別精液の利用

はじめに

 「今年は雄しか生まれないなあ」、「大事な牛なんだけど、まだ後継牛がとれていないんだよ」など酪農家の方とお話をするとよく聞くことがあります。子牛の性別はY染色体を持つY精子とX染色体を持つX精子のどちらが卵子と受精するかで決定され、通常は雄雌が半々の割合で生まれます。一方、雌子牛(後継牛)を生産したい乳牛ではX精子を90%以上含む雌選別精液、雄子牛(肥育素牛)を生産したい肉牛ではY精子を90%以上含む雄選別精液が市販されており、県内においても年々その利用が増加しています。
 畜産技術所では、受精卵の性別判定による雌雄産み分け技術の研究を長年行ってきましたが、性選別精液が市販されたことを受けて、過剰排卵処理後の採卵への利用方法や体外受精における利用方法の検討に取り組んでいます。まだ、完成されていない技術もありますが、研究の状況について紹介します。

1.過剰排卵処理後の採卵への利用方法

図1性判別精液のための過剰排卵処理図2性選別精液の採卵成績

 性選別精液はストロー内に充填された精子数が少なく、これまでの過剰排卵処理方法や人工授精方法では未受精卵が多く採取されるなど採卵成績が低下してしまいます。性選別精液を過剰排卵処理に利用する場合には発情適期を見極めて人工授精を行う必要があり、家畜改良事業団からの情報では発情開始から20から24時間後に受精卵移植用深部注入カテーテルを用いて左右子宮角の深部に精液を注入する方法が推奨されています。しかし、発情開始が深夜や早朝になるなど正確に時間を把握することが困難なことや深部注入器がまだ十分に普及していないことなどの課題もあります。そこで、当所では排卵時間を集中化させる処理を併用し、計画的な人工授精を行うことにより性判別受精卵を得る方法の開発に取り組んでいます(図1)。
 過剰排卵処理の具体的な方法は図1に示すとおりです。処理方法のポイントは(1)黄体ホルモン製剤(CIDR)で発情周期を調節するとともに卵巣内の一番大きな卵胞(主席卵胞)を除去して小卵胞の発育を揃えること、(2)プロスタグランジン投与、CIDR除去、GnRH投与を正確な時間に行い、発情や排卵の時間を集中化すること、(3)GnRH投与後24時間に通常の精液注入器で左右子宮角の浅い部分に1本ずつ精液を注入することです。この処理方法により排卵はGnRH投与後29から38時間に集中化しますので、授精適期を逃さずに人工授精することができます。当所における採卵成績は図2に示すとおり通常精液と遜色のない成績でした。また現在、共同研究を行っている9県のデータを集計しており、より詳細な検討を行います。なお、主席卵胞の除去に超音波画像診断装置を用いることなどの点は改良が必要と考えています。

2.体外受精における利用方法

 精子数の少ない性選別精液であっても、体外受精であれば精子の濃度を調整して利用することができます。畜産技術所では、卵巣内に存在する排卵前の卵子を超音波画像診断装置で採取し、性選別精液と体外受精することで性判別受精卵を生産する技術の開発に取り組んでいます。これまでのところ、ホルモン処理を行わずに採卵する従来法に比べて、過剰排卵処理を行い排卵直前の卵巣から採取した卵子を利用する方法(成熟卵子採取法、図3)において、より多くの性判別受精卵が生産できることが判っています(図4、図5)。従来法ではホルモン処理を行いませんので、発情周期のステージにかかわらず、いつでも採卵を行うことが可能ですが、卵巣内に存在する受精能力の低い卵子も採取されますので、体外受精成績は低率でした。これに対して、成熟卵子採取法では過剰排卵処理により発育した卵胞から受精能力の高い成熟卵子を採取しますので、体外受精成績は極めて良好でした。なお、生産した性判別受精卵を移植した18頭の受卵牛のうちの9頭が受胎し、一般の受精卵移植と遜色ない成績が得られており、順次子牛が生まれています(図6)。
 体外受精による受精卵の生産は、ホルモン処理や卵子の取り扱い方法など、技術的に改善の必要な点は残されていますが、将来の受精卵生産方法の主流になる可能性のある方法と考えて研究に力を注いでいます。

図3から図6まで

3.まとめ

 今回は、性選別精液の過剰排卵処理後の採卵への利用方法や体外受精における利用方法の研究について紹介しましたが、それぞれの方法には長所や短所がありますので、どのような牛を対象に利用することが効果的であるのか、これからも様々な事例を蓄積して検討する必要があると考えています。
 昨年9月の日本胚移植研究会、今年2月の東日本家畜受精卵移植技術研究会や家畜人工授精優良技術発表全国大会において、性選別精液の利用方法について多数の研究成果の発表がありました。酪農家からの期待の大きい性選別精液を、効果的に利用して計画的な後継牛生産を実現するための、さまざまな工夫や新しい技術の検討が行われています。同時に、基本的なことではありますが、「正しい融解手順を守ること」、「授精適期を守ること」、「繁殖能力の高い雌牛に授精すること」など、受精や受胎のためにより適切な条件を整えることも重要です。

(企画研究課 秋山 清)

神奈川県

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