神奈川県畜産技術センター 研究情報 2005.02

掲載日:2016年4月1日

神奈川県畜産研究所 研究情報 2005年2月

「新しい繁殖技術による後継牛生産」 
  
  これまで県内各所では、地域内や経営内の優良牛から受精卵を採取し、受精卵移植により後継牛を生産する試みが進められてきました。また、輸入受精卵や体外受精卵などの流通受精卵の利用が始まり様々な形態で受精卵移植を利用した改良増殖が取り組まれています。しかし、期待した性別の子牛が得られなければ、改良増殖や経営改善に対する効果を上げることはできません。当所では、受精卵移植を応用した新しい繁殖技術として雌雄産み分け技術と経膣採卵技術の実用化を検討しています。今回はこれらの技術を用いた後継牛生産の事例と現状の技術水準について紹介します。

1 雌雄産み分け技術による後継牛生産
 当所で飼養するホルスタイン種経産牛から14個の受精卵を採取し、DNA診断により性別判定を実施しました。性別判定した受精卵のうち7個が雌と判定されたため、ガラス化法により凍結保存し、所内の受卵牛の発情周期に合わせて5頭に移植を行いました。その結果、5頭全ての受卵牛が受胎し、平成15年12月15日から平成16年2月14日の間に、流産した一頭を除いた4頭の受卵牛から雌子牛4頭を生産しました(図1)。加えて、受精卵を採取後の供卵牛は人工授精により妊娠し、平成16年1月21日に雌子牛を分娩したため、短期間に1頭の母牛から5頭の雌子牛(後継牛)を生産することができました(図2)。

雌雄産み分け技術により生まれた4頭の後継牛と母牛の画像
図1 雌雄産み分け技術により
4頭の後継牛を生産
受精卵移植技術による後継牛の生産状況の図
図2 受精卵移植技術による後継牛の生産

2 DNA診断で性別判定
 性別は受精段階で決定されるので、X精子とY精子を分別授精することができれば効率の良い雌雄産み分けが可能になります。しかし、現状では、分別された精子を一般に利用する体制はまだ整っていないため、分離した受精卵の細胞から性別を判定し、希望する性別の受精卵を移植に用いる方法が最も確実な雌雄産み分け法です。
受精卵の性別判定は、DNA診断により雄特異的DNAの有無を確認することにより行います。当所の成績では受精卵の性別判定率は93%であり、生産子牛との性別の一致率は92%でした(表)。一部に判定不能や誤判定が認められましたが、DNA診断用の細胞の状態や他の牛DNAの混入などが原因と考えられ慎重な作業が必要です。また、高い受胎率を確保するためにはできるだけ高品質な受精卵を用いることが有効です。
3 ガラス化法で凍結保存
 性別判定した受精卵は、発情周期を同調した受卵牛に対して新鮮卵移植するのが最も受胎率の高い方法です。しかし、受卵牛の頭数確保が限られた状況では性別判定後の受精卵を凍結保存することも必要になります。
性別判定受精卵は、判定のために細胞を切除され、透明帯や細胞の一部に損傷を受けています。そのため、グリセリンやエチレングリコールなどの耐凍剤を10%程度含む通常の凍結溶液でプログラムフリーザーを用いて緩慢凍結した場合には、移植後の受胎率が著しく低下してしまいます。一方、通常の5倍程度の高濃度の耐凍剤を含む凍結溶液を用いて液体窒素中で超急速凍結〔ガラス化法〕した場合には、通常の受精卵と同程度の受胎率を得ることが可能です(表)。ガラス化法は、凍結溶液に氷の結晶を形成させずに受精卵を保存できることから、従来の方法と比べて細胞に対する物理的傷害を抑えることができると考えられます。一方で、高濃度の耐凍剤を用いるため、処理時間や温度を厳密に管理し、化学的毒性を軽減することが必要となります。

経膣採卵による卵巣内卵子の採取の画像
図3 経膣採卵による卵巣内卵子の採取
雌雄産み分け技術の技術水準のグラフ
表 雌雄産み分け技術の技術水準

4 経膣採卵技術による後継牛生産
 経膣採卵技術は、牛の膣壁から吸引針を卵巣に刺し、超音波画像を見ながら卵巣内に存在する未熟な卵子を吸引採取する技術です(図3)。採取した卵子は、体外受精後八日程度培養して移植可能な受精卵を生産します。この技術の利用により、乳房炎、肢蹄障害、高齢などの理由で過剰排卵処理による受精卵採取が期待できない供卵牛や過去に採卵成績が不良であった供卵牛から受精卵を生産できる可能性があります。しかし、現状では、採取卵子数や移植可能卵数が少ないことなどが課題です。
先程の雌雄産み分けを実施した供卵牛の廃用前(5産、9歳)に経膣採卵を行い12個の卵子を採取し、体外受精により1個の移植可能卵を生産しました。この移植可能卵を所内の受卵牛に移植したところ妊娠が成立し、平成17年4月に経膣採卵技術に由来する第1号の産子が得られる予定です(図2)。

5 まとめ
 今回は、受精卵移植の応用技術である雌雄産み分け技術と経膣採卵技術を用いた後継牛生産について紹介しました。雌雄産み分け技術については、採取受精卵の数や品質の向上、庭先融解に対応できる凍結方法など解決すべき課題が残されていますが、現状の技術でも後継牛の効率的な生産に対応できると考えており、家畜保健衛生所において技術実証の事業を進めています。一方、経膣採卵技術はまだ発展途中の技術ですが、過剰排卵処理を行わないことなど供卵牛に対する負担が少ないこともあり、従来の受精卵移植を補完する技術として期待して試験を進めています。なお、当所では様々な症例の牛への応用事例を調査していますので、本技術の利用に適する牛がいる方、興味のある方は、当所または最寄りの家畜保健衛生所にご相談ください。
(畜産工学部 秋山 清)

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